説明

冷間引抜加工用プラグ及び金属管の製造方法

【課題】冷間引抜加工後の金属管の外面の引張残留応力を低減できる冷間引抜加工用プラグを提供する。
【解決手段】プラグ1は、第1円柱部20と、テーパ部30と、第2円柱部40とを備える。第1円柱部20は外径D1を有する。第2円柱部40は、外径D1よりも大きい外径D2を有する。テーパ部30は、第1円柱部20と第2円柱部40との間に形成される。テーパ部30は、第1円柱部20から第2円柱部40に向かって徐々に大きくなる外径を有するテーパ表面31と、軸方向長さLとを有する。プラグ1の外径D1及びD2と、軸方向長さLとはさらに、式(1)〜(4)を満たす。
0.25≦ρ≦2.00 (1)
0.06≦L/D2≦0.8 (2)
L/D2≦0.3×ρ+0.575 (3)
L/D2≧0.1×ρ (4)
ここで、ρ=(D2−D1)/D1×100である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラグ及び金属管の製造方法に関し、さらに詳しくは、冷間引抜加工に用いられるプラグと、そのプラグを用いた金属管の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属管の寸法精度の向上や、内外面の平滑化を目的として、金属管に対して冷間引抜加工を実施する場合がある。冷間引抜加工は、一般的に、ダイスとプラグとを用いる。ダイスは金属管を縮径し、金属管の外径を所望の寸法に調整する。さらに、金属管の外面を平滑化する。一方、プラグは、金属管の内径寸法を調整し、かつ、金属管の内面を平滑化する。
【0003】
近年、冷間引抜加工に用いられるプラグは、その目的に応じて、種々の形状が提案されている。たとえば、特開2006−167763号公報(特許文献1)及び特開平11−300411号公報は、被加工材である金属管(以下、素管という)の内面のしわ疵の除去を目的とした段付きプラグを開示する。これらの特許文献に開示された段付きプラグは、プラグ後部にリング状の突起部が形成され、突起部により段差が設けられる。この段差を利用して、素管内面をしごき加工する。これにより、素管内面のしわ疵が除去され、表面粗さが改善されるとしている。
【0004】
ところで、冷間引抜加工では、引抜後の金属管の外面の周方向に引張残留応力が生じることが多い。金属管の外面に凹み疵があれば、その凹み疵と引張残留応力との相互作用により、冷間加工後に実施される熱処理時に、金属管の外面に割れが発生する場合がある。したがって、冷間引抜後の金属管の外面の引張残留応力は低い方が好ましい。
【0005】
特開平2−197313号公報(特許文献3)は、残留応力を低減し、金属管の内圧疲労特性を向上する金属管の製造方法を開示する。この文献では、プラグの後半部分の外径がプラグの前半部分の外径よりも大きい二段構造のプラグを採用する。このプラグにより、ダイスにより縮径された素管を0.1〜1.5%の拡管率で拡管する。これにより、冷間引抜加工後の金属管の残留応力を変化させ、内圧疲労特性を向上するとしている。
【0006】
しかしながら、特許文献3に開示されるように、単に拡管率を0.1〜1.5%としただけでは、金属管の残留応力は変化するものの、金属管の外面の引張残留応力が低減しない場合がある。
【特許文献1】特開2006−167763号公報
【特許文献2】特開平11−300411号公報
【特許文献3】特開平2−197313号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、冷間引抜加工後の金属管の外面の引張残留応力を低減できる冷間引抜加工用プラグを提供することである。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0008】
本発明者らは、図1に示すように、外径D1を有する第1円柱部20と、外径D1よりも大きい外径D2を有する第2円柱部40と、第1円柱部20及び第2円柱部40の間に形成されるテーパ部30とを備えるプラグを採用し、冷間引抜加工中に、テーパ部30で素管を拡管することにより、冷間引抜加工後の金属管の外面の引張残留応力を低減しようと考えた。
【0009】
そして、本発明者らは、図1に示す形状のプラグにより引張残留応力が低減する原理を以下のとおりに推定した。テーパ部30で素管を拡管した場合、プラグが抜けた後の金属管の弾性回復による周方向の圧縮ひずみは、金属管の外面側よりも内面側の方が大きくなる。そのため、金属管の外面側に圧縮方向の応力が作用する。その結果、金属管の外面周方向の引張残留応力が低減する。
【0010】
このような原理で引張残留応力が低減する場合、本発明者らは、拡管率だけでなく、テーパ部30の軸方向長さLも、引張残留応力の低減に関係すると考えた。拡管率が同じであっても、軸方向長さLが異なれば、テーパ部30による素管の変形の仕方も異なる。そのため、引張残留応力を低減する圧縮方向の応力の大きさも異なると推定されるからである。
【0011】
以上の推定に基づいて、本発明者らは、有限要素法を用いて、式(A)に定義される拡管率ρ(%)と、L/D2とが異なる複数のプラグによる冷間引抜加工をシミュレートした。そして、冷間引抜加工後の金属管外面の引張残留応力を求めた。
ρ=(D2−D1)/D1×100 (A)
【0012】
調査結果を図2に示す。図中の横軸は拡管率ρ(%)を示し、縦軸はL/D2を示す。図中の各プロットの図形は、シミュレートに用いたプラグのテーパ半角θの値を表す。各図形が対応するテーパ半角θの値は、図2中の凡例に示すとおりである。図中の各プロットの横に示す数値は、冷間引抜前の素管の降伏応力YSに対する冷間引抜後の金属管の外面円周方向の引張残留応力σの比(=σ/YS)を示す。
【0013】
図2を参照して、本発明者らは、拡管率ρ及びL/D2が図2中の領域AR内である場合、換言すれば、外径D1、D2及び軸方向長さLが、以下の式(1)〜式(4)を満たす場合、σ/YSが0.5未満に低減し、引張残留応力が有効に低減することを見出した。
【0014】
0.25≦ρ≦2.00 (1)
0.06≦L/D2≦0.8 (2)
L/D2≦0.3×ρ+0.575 (3)
L/D2≧0.1×ρ (4)
以上の知見に基づいて、本発明者らは以下の発明を完成した。
【0015】
本発明によるプラグは、金属管の冷間引抜加工に用いられる。本発明によるプラグは、第1の円柱部と、第2の円柱部と、テーパ部とを備える。第1の円柱部は、外径D1を有する。第2の円柱部は、第1の円柱部と同軸に形成される。第2の円柱部は、外径D1よりも大きい外径D2を有する。テーパ部は、第1の円柱部と第2の円柱部との間に形成される。テーパ部は、第1の円柱部から第2の円柱部に向かって徐々に大きくなる外径を有するテーパ表面と、軸方向長さLとを有する。外径D1及びD2と、軸方向長さLとは、式(1)〜(4)を満たす。
0.25≦ρ≦2.00 (1)
0.06≦L/D2≦0.8 (2)
L/D2≦0.3×ρ+0.575 (3)
L/D2≧0.1×ρ (4)
ここで、ρ=(D2−D1)/D1×100である。
【0016】
好ましくは、テーパ表面のうち、第1の円柱部の端縁との結合部分は、凹状になめらかに湾曲している。
【0017】
この場合、冷間引抜加工中、第1の円柱部とテーパ部との結合部に過剰な荷重が掛かった場合のプラグの破損を抑制できる。
【0018】
本発明による金属管の製造方法は、素管の一端をダイスに挿入する工程と、上述の冷間引抜加工用プラグを、引き抜き方向に向かって、第2の円柱部から素管に挿入する工程と、冷間引抜加工用プラグを所定の位置で保持しながら、素管を冷間で引き抜く工程とを備える。
【0019】
この場合、製造された金属管の外面の周方向の引張残留応力を低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、図面を参照し、本発明の実施の形態を詳しく説明する。図中同一又は相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0021】
[冷間引抜加工用プラグ]
本発明の実施の形態による冷間引抜加工用プラグ(以下、単にプラグという)は、金属管の冷間引抜加工に用いられる。以降、冷間引抜加工前及び冷間引抜加工中の被加工材を「素管」といい、冷間引抜加工後の被加工材を単に「金属管」という。
【0022】
図1を参照して、プラグ1は、第1円柱部20と、テーパ部30と、第2円柱部40と、逃げ部50とを備える。これらは、同軸に連続的に形成される。
【0023】
第1円柱部20は、外径D1(mm)を有する。第1円柱部20の先端は、棹10の端部と周知の方法(例えば螺着)で結合される。棹10は、冷間引抜加工中、プラグ1を支持し、プラグ1を所定の位置に保持する。第1円柱部20は、冷間引抜加工時に、図示しないダイスで縮径された素管の内面と接触し、素管の内径を一定にする。
【0024】
テーパ部30は、第1円柱部20と第2円柱部40との間に形成される。テーパ部30は、テーパ表面31を有する。テーパ表面31は、第1円柱部20の後端縁21と第2円柱部の前端縁41との間に形成される。テーパ表面31は円錐台状であり、第1円柱部20から第2円柱部40に向かって徐々に大きくなる外径を有する。また、テーパ部30は軸方向長さL(mm)を有する。
テーパ部30は、ダイスで縮径された素管を拡管する。これにより、冷間引抜加工後の金属管の外面の引張残留応力が低減される。
【0025】
第2円柱部40は、第1円柱部20と同軸に形成される。第2円柱部40は、外径D1よりも大きい外径D2(mm)を有する。第2円柱部40は、テーパ部30で拡管された素管の内面と接触し、冷間引抜加工後の金属管の内径を一定にする。
【0026】
逃げ部50は、第2円柱部の後端に形成される。逃げ部50は、逆テーパ表面51を有する。逆テーパ表面51は円錐台状であり、その外径は、プラグ1の後端に向かって徐々に小さくなる。逃げ部50は、素管がプラグ1を通過するときに、プラグ1の後端により素管の内面に疵が発生するのを抑制する。なお、プラグ1は逃げ部50を有しなくてもよい。
【0027】
プラグ1はさらに、式(1)〜(4)を満たす。
0.25≦ρ≦2.00 (1)
0.06≦L/D2≦0.8 (2)
L/D2≦0.3×ρ+0.575 (3)
L/D2≦0.1×ρ (4)
ここで、拡管率ρ(%)は式(A)で定められる。
ρ=(D2−D1)/D1×100 (A)
【0028】
プラグ1が式(1)〜(4)を満たすことにより、引張残留応力が有効に低減される。より具体的には、素管の降伏応力YS(MPa)に対する金属管の引張残留応力σの比(=σ/YS)を0.5未満にすることができる。以下、式(1)〜式(4)について詳述する。
【0029】
[式(1)について]
式(1)は拡管率ρの範囲を規定する。拡管率ρは、換言すれば、第1円柱部20と第2円柱部40との段差hの大きさを示す。拡管率ρが小さければ、段差hが小さい。そのため、テーパ部30が素管を拡管するときに素管に与えるひずみが小さい。テーパ部30が与えるひずみが小さければ、金属管の外面側で圧縮方向に作用する応力も小さくなる。そのため、冷間引抜加工後の金属管外面の引張残留応力が低減しにくい。
一方、拡管率ρが大きい場合、段差hが大きくなる。段差hが大きければ、テーパ部30が素管に与えるひずみも大きい。そのため、引張残留応力が低減されやすい。しかしながら、段差hが大きすぎれば、冷間引抜時にプラグ1に掛かる荷重が過剰に大きくなる。
【0030】
拡管率ρが式(1)を満たせば、プラグ1に過剰な荷重が掛かるのを防ぎつつ、金属管の引張残留応力を有効に低減できる。好ましい拡管率の下限値は0.30%であり、好ましい拡管率の上限値は1.00%である。
[式(2)について]
式(2)は、第2円柱部40の外径D2に対するテーパ部30の軸方向長さLの比(=L/D2)の範囲を規定する。L/D2が小さすぎる場合、具体的には、L/D2が0.06よりも小さい場合、引張残留応力は低減しにくい。その理由は定かではないが、以下の理由が推定される。L/D2が小さければ、外径D2に対して軸方向長さLが短い。この場合、テーパ部30は素管の内面表層部分のみを局所的に変形する。このような局所的な変形は、素管外面に影響を与えない。そのため、テーパ部30で拡管されても、冷間引抜加工後の金属管に、引張残留応力を低減する圧縮方向の応力が発生しにくくなると推定される。
【0031】
一方、L/D2が大きすぎる場合、具体的には、L/D2が0.8を超える場合も引張残留応力は低減しにくい。L/D2が大きければ、外径D2に対して軸方向長さLが長い。軸方向長さLが長いほど、テーパ部30は、素管全体を一様に変形する。つまり、素管は内面側も外面側も一様に変形する。素管外面側と内面側とで変形の程度に差が生じなければ、金属管の外面側で圧縮方向に作用する応力が発生しにくくなり、その結果、引張残留応力が低減しにくくなると推定される。
【0032】
L/D2が式(2)を満たせば、引張残留応力を低減できる。L/D2が式(2)を満たす場合、素管内面から外面に向かってある程度の深さまで変形し、かつ、素管外面近傍部分はあまり変形しない。したがって、素管の内面側と外面側で変形の程度に差が生じる。このような変形差が金属管の外面側で圧縮方向の応力を発生させ、引張残留応力が低減すると推定される。好ましいL/D2の下限値は0.1であり、好ましいL/D2の上限値は0.3である。
【0033】
[式(3)及び式(4)について]
式(3)及び式(4)は、拡管率ρとL/D2との関係を規定する。
拡管率ρが小さく、かつ、L/D2が大きいために式(3)を満たさない場合、テーパ部30のテーパ半角θが小さく、かつ、軸方向長さLが長い。この場合、素管の内面側と外面側とが一様に変形し、変形差が生じない。そのため、冷間引抜加工後の金属管の外面に圧縮方向の応力が発生しにくく、引張残留応力が低減しにくい。式(3)を満たせば、素管の内面側と外面側とで変形差が生じ、圧縮方向の応力が発生するため、引張残留応力が有効に低減される。
【0034】
一方、拡管率ρが大きく、かつ、L/D2が小さいために式(4)を満たさない場合、テーパ部30のテーパ半角θが大きく、かつ、軸方向長さLが短い。この場合、素管は、内面表層部分のみが局所的に変形する。そのため、変形による影響が素管外面まで伝わらず、引張残留応力が低減しにくい。さらに、冷間引抜時にテーパ部30に過剰な荷重が掛かる。式(4)を満たせば、素管の内面側と外面側とで変形差が生じる。そのため、冷間引抜加工後の金属管外面の引張残留応力が低減する。さらに、テーパ部30に過剰な荷重が掛かるのを抑制できる。
【0035】
プラグ1は、周知の材質からなる。プラグ1の材質は、たとえば、超硬合金や工具鋼である。さらに、表面に硬質のコーティング膜が形成されてもよい。また、プラグ1は中実であってもよいし、中空であってもよい。
図1では、テーパ表面31は円錐台状としたが、図3に示すように、テーパ表面31の縦断形状が曲線になっていてもよい。要するに、テーパ表面31は、第1円柱部20から第2円柱部40に向かって徐々に大きくなる外径を有していれば、その縦断形状が直線であっても曲線であってもよい。
【0036】
好ましくは、図4に示すように、テーパ表面31のうち、第1円柱部20との結合部分32は、凹状になめらかに湾曲している。結合部分32は、図4に示すように、単一のコーナRを有していてもよいし、複数の曲率を有していてもよい。結合部分32がなめらかに湾曲していれば、第1円柱部20とテーパ部30との結合部に過剰な荷重が掛かった場合にプラグが破損するのを抑制できる。
【0037】
[金属管の製造方法]
上述のプラグ1を用いた金属管の製造方法は以下のとおりである。初めに、素管を準備する。素管は、たとえば、熱間加工により製造される。より具体的には、素管は、穿孔圧延により製造されてもよいし、熱間押出や熱間鍛造により製造されてもよい。
【0038】
準備された素管に対して、冷間引抜加工を実施する。初めに、素管の先端部を口絞り加工する。続いて、図5に示すように、素管60の先端部61を、ドローベンチに固定されたダイス70に挿入する。挿入後、先端部61をドローベンチのチャックで掴み、素管60を固定する。
【0039】
次に、プラグ支持用の棹10の先端にプラグ1を取り付ける。続いて、図6に示すように、プラグ1を素管60内に挿入する。このとき、プラグ1を第2円柱部40側から、引抜方向に向かって素管60内に挿入する。
【0040】
続いて、チャックで固定された素管60を、引抜方向に引く。このとき、プラグ1を引抜方向に押し進めて、図7に示すように、テーパ部30が、ダイス70のベアリング71よりも出側となる位置で保持する。プラグ1を保持した後、素管60を引き抜いて金属管とする。以上の工程により製造された金属管は、上述のとおり、従来の冷間引抜加工で製造された金属管と比較して、外面の引張残留応力が低減される。
【0041】
なお、冷間引抜中のプラグ1の保持位置は、図7の位置に制限されない。たとえば、テーパ部30が、ダイス70のベアリング71内に含まれていても、本発明の効果は有効に得られる。ただし、プラグ1のテーパ部30は、図7に示すように、ダイス70のベアリングよりも出側に位置するのが好ましい。テーパ部30を通過中の素管60の外面が、ダイス70のベアリング71により拘束されている場合よりも、ダイス70に拘束されていない方が、拡管中の素管60の内面側と外面側との変形差が大きくなるためと推定される。
【実施例1】
【0042】
プラグ形状と冷間引抜加工後の金属管の引張残留応力との関係を有限要素法にて調査した。具体的には、二次元軸対称弾塑性解析に基づいてシミュレーションを行い、冷間引抜加工後の金属管の外面の周方向の引張残留応力σを計算した。
【0043】
被加工材となる素管の外径は55mmとし、肉厚は11.5mmとした。また、冷間引抜加工前の素管の降伏応力YSは284MPaとした。冷間引抜加工に用いるダイスは、図5に示すダイス70と同じ形状とし、ダイス穴径Ddは45.1mm、アプローチ角2αは25°とした。
【0044】
さらに、シミュレーションに用いた複数のプラグは、図1に示すプラグ1と同じ形状とし、各プラグの寸法形状(外径D1、D2、段差h、テーパ半角θ、軸方向長さL)は、表1に示すとおりとした。
【表1】

表1中の各試験番号のプラグを用いて冷間引抜加工をシミュレートし、冷間引抜加工後の金属管の外面の周方向の引張残留応力σを計算した。そして、素管の降伏応力YS(=284MPa)を用いて、σ/YSを求めた。
【0045】
シミュレート結果を表1に示す。表1を参照して、試験番号2〜5、7〜9、12及び13は、プラグ形状がいずれも式(1)〜式(4)を満たした。そのため、冷間引抜加工後の引張残留応力は小さく、σ/YSが0.5未満であった。
【0046】
一方、試験番号1は、プラグ形状が式(3)を満たさなかった。そのため、σ/YSが0.5以上となった。試験番号6は、L/D2が0.8を超え、式(2)を満たさなかった。そのため、σ/YSが0.5以上となった。試験番号10は、拡管率ρが0.25未満であり、式(1)を満たさなかった。また、L/D2が0.06未満であり、式(2)を満たさなかった。そのため、σ/YSが0.5以上となった。試験番号11は、L/D2がいずれも0.06未満であり、式(2)を満たさなかった。そのため、σ/YSがいずれも0.5以上となった。試験番号14及び15は、プラグ形状が式(2)及び式(4)を満たさなかったため、σ/YSが0.5以上となった。試験番号16は、プラグ形状が式(4)を満たさなかったため、σ/YSが0.5以上となった。
【実施例2】
【0047】
実機による冷間引抜加工試験を表2に示す試験番号21〜26の条件で実施した。
【表2】

プラグ形状のタイプは、従来の円筒型プラグ形状のものと、図1に示す本発明のプラグ形状のものとを準備した。円筒型プラグ形状の外径は、表2中のD2欄に示すとおりであった。本発明のプラグ形状は、表2中のD2、D1、h、θ、Lに示すとおりであり、いずれも式(1)〜式(4)を満たした。各試験番号では、表2に示すダイス穴径Dd及びアプローチ角2αを有するテーパダイスを使用した。
【0048】
上述のダイス及びプラグを用いて、素管を冷間引抜し、金属管とした。冷間引抜後の金属管の外径及び肉厚は表2に示すとおりであった。冷間引抜後、金属管の外面の円周方向の引張残留応力σをX線にて測定した。
【0049】
測定結果を表2に示す。同一の寸法形状(外径及び肉厚)の金属管を製造した場合の円筒型プラグと本発明プラグの引張残留応力を比較すると、本発明プラグの方が、円筒型プラグよりも、引張残留応力σが小さかった。具体的には、試験番号22の方が、試験番号21よりも引張残留応力σが小さかった。同様に、試験番号24の方が、試験番号23よりも引張残留応力が小さく、試験番号26の方が、試験番号25よりも引張残留応力が小さかった。
【0050】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。よって、本発明は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変形して実施することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の実施の形態による冷間加工用プラグの側面図である。
【図2】図1に示した冷間加工用プラグを用いて金属管を冷間引抜加工したときの、拡管率とプラグのテーパ部の長さと冷間引抜後の引張残留応力との関係を示す図である。
【図3】図1と異なる形状の、本実施の形態による冷間加工用プラグの側面図である。
【図4】図1及び図3と異なる形状の、本実施の形態による冷間加工用プラグの側面図である。
【図5】本実施の形態による金属管の製造工程の第1工程を示す図である。
【図6】本実施の形態による金属管の製造工程の第2工程を示す図である。
【図7】本実施の形態による金属管の製造工程の第3工程を示す図である。
【符号の説明】
【0052】
1 プラグ
20 第1円柱部
30 テーパ部
40 第2円柱部
70 ダイス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属管の冷間引抜加工に用いられるプラグであって、
外径D1を有する第1の円柱部と、
前記第1の円柱部と同軸に形成され、外径D1よりも大きい外径D2を有する第2の円柱部と、
前記第1の円柱部と前記第2の円柱部との間に形成され、前記第1の円柱部から前記第2の円柱部に向かって徐々に大きくなる外径を有するテーパ表面と軸方向長さLとを有するテーパ部とを備え、
前記外径D1及びD2と、前記軸方向長さLとは、式(1)〜(4)を満たすことを特徴とする冷間引抜加工用プラグ。
0.25≦ρ≦2.00 (1)
0.06≦L/D2≦0.8 (2)
L/D2≦0.3×ρ+0.575 (3)
L/D2≧0.1×ρ (4)
ここで、ρ=(D2−D1)/D1×100である。
【請求項2】
請求項1に記載の冷間引抜加工用プラグであってさらに、
前記テーパ表面のうち、前記第1の円柱部の端縁との結合部分は、凹状になめらかに湾曲していることを特徴とする冷間引抜加工用プラグ。
【請求項3】
素管の一端をダイスに挿入する工程と、
請求項1又は請求項2に記載の冷間引抜加工用プラグを、引き抜き方向に向かって、前記第2の円柱部から前記素管に挿入する工程と、
前記冷間引抜加工用プラグを所定の位置で保持しながら、前記素管を引き抜く工程とを備えることを特徴とする金属管の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−39768(P2009−39768A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−208908(P2007−208908)
【出願日】平成19年8月10日(2007.8.10)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】