説明

冷電子放出素子の製造方法

【課題】低コスト化が可能なスピント型エミッタを形成できる冷電子放出素子の製造方法を提供する。
【解決手段】基板1上にエミッタ電極2を形成し、エミッタ電極2上の所定範囲にアモルファスシリコン層3を形成し、エミッタ電極2の表面上にアモルファスシリコン層3の表面とその表面とが連続する平坦な面となるように絶縁層5を形成し、絶縁層5及びアモルファスシリコン層3の各表面に導電層6とエッチングマスク層7とを順次積層し、アモルファスシリコン層3の表面が露出するように導電層6及びエッチングマスク層7をリング状にエッチングし、露出したアモルファスシリコン層3を等方的にエッチングし、アモルファスシリコン層3の表面近傍部を変質させて変質部とし、変質部、エッチングマスク層7、及びアモルファスシリコン層3上の導電層6を除去すると共に、アモルファスシリコン層3を略円錐形状のエミッタ10とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スピント型エミッタを有する冷電子放出素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スピント型エミッタを有する冷電子放出素子は、ディスプレイや磁気測定などに幅広く使用されている。
また、スピント型エミッタを有する冷電子放出素子は、電界放射現象を利用している。即ち、この冷電子放出素子は、物質に印加する電界の強度を上げるとその強度に応じて物質表面のエネルギー障壁の幅が次第に狭くなり、電界強度が所定の値以上になると、物質中の電子がトンネル効果によりそのエネルギー障壁を突破できるようになり、そのため物質から冷電子が放出されるという現象を利用している。この場合、電場がポアソンの方程式に従って冷電子を放出するスピント型エミッタに電界が集中するので、比較的低い電圧で効率的に冷電子の放出を行うことができる。
【0003】
このようなスピント型エミッタを有する冷電子放出素子の構造を図8に示す。
図8は、スピント型エミッタを有する冷電子放出素子の一般的な構造を示す斜視図である。
【0004】
図8に示すように、スピント型エミッタを有する冷電子放出素子120は、基板101上にエミッタ電極102が形成されており、このエミッタ電極102上には絶縁層103とゲート電極104とが所定の開口部105を有して順次積層されている。また、この開口部105には、エミッタ電極102と接して略円錐形状のスピント型エミッタ106が形成されている。
このスピント型エミッタ106の先端が尖っているほど、この先端に電界が集中しやすいので、より低い電圧で効率的に冷電子の放出を行うことができる。
【0005】
このような略円錐形状のスピント型エミッタの形成方法が、特許文献1及び特許文献2に記載されている。
特許文献1に記載されているスピント型エミッタの形成方法は、基板に単結晶シリコンウエハを用いて、この単結晶シリコンウエハの表面近傍部を円錐形状に異方性エッチングすることによってスピント型エミッタを得る方法である。
また、特許文献2に記載されているスピント型エミッタの形成方法は、ゲート電極の上方からエミッタ電極に向かって導電性材料を斜め蒸着することによってスピント型エミッタを得る方法である。
【特許文献1】特開平4−94033号公報
【特許文献2】特開平6−96664号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載されているスピント型エミッタの形成方法は、高価な単結晶シリコンウエハを用いるため、冷電子放出素子の低コスト化に対して改善が望まれる。
また、特許文献2に記載されているスピント型エミッタの形成方法は、導電性材料を斜め蒸着する際、基板を回転させながら、かつ、斜め蒸着を行うため、蒸着装置の機構が複雑になるので、多額の設備コストが必要になったり、生産性が悪化するといった不具合が生じる。従って、特許文献2に記載されているスピント型エミッタの形成方法によって作製された冷電子放出素子は高価なものとなる。
【0007】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、低コスト化が可能なスピント型エミッタを形成できる冷電子放出素子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本願発明は次の手段を有する。
基板(1)上にエミッタ電極(2)を形成するエミッタ電極形成工程と、形成された前記エミッタ電極(2)上の所定範囲に、アモルファスシリコン層(3)を形成するアモルファスシリコン層形成工程と、前記アモルファスシリコン層(3)を除く前記エミッタ電極(2)上に、前記アモルファスシリコン層(3)の表面とその表面とが連続する平坦な面となるように絶縁層(5)を形成する絶縁層形成工程と、前記絶縁層(5)及び前記アモルファスシリコン層(3)の各表面に、導電層(6)を形成し、この導電層(6)上にエッチングマスク層(7)を形成する積層工程と、前記アモルファスシリコン層(3)の表面が露出するように、前記エッチングマスク層(7)及び前記導電層(6)の所定範囲をリング状に順次エッチングする第1エッチング工程と、前記第1エッチング工程で露出した前記アモルファスシリコン層(3)を等方的にエッチングする第2エッチング工程と、少なくとも前記アモルファスシリコン層(3)における表面近傍部を変質させて変質部とする変質工程と、前記変質部、前記エッチングマスク層(7)、及び前記アモルファスシリコン層(3)上の前記導電層(6)を除去すると共に、前記アモルファスシリコン層(3)を前記エミッタ電極(2)と接する面が底面となる略円錐状のエミッタ(10)とするエミッタ形成工程と、を有することを特徴とする冷電子放出素子(20)の製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、基板1上にエミッタ電極2を形成する工程と、エミッタ電極2上の所定の範囲にアモルファスシリコン層3を形成する工程と、エミッタ電極2上の所定の範囲を残してエミッタ電極2上にアモルファスシリコン層3の表面とその表面とが連続する平坦な面となるように絶縁層5を形成する工程と、絶縁層5及びアモルファスシリコン層3の表面に、導電層6及びエッチングマスク層7を順次積層する工程と、アモルファスシリコン層3の表面が露出するようにエッチングマスク層7及び導電層6の所定範囲をリング状に順次エッチングする工程と、露出したアモルファスシリコン層3を等方的にエッチングする工程と、少なくともアモルファスシリコン層3における表面近傍部を変質させて変質部とする工程と、変質部、エッチングマスク層7、及びアモルファスシリコン層3上の導電層6を除去すると共に、アモルファスシリコン層3をエミッタ電極2と接する面が底面となる略円錐状のエミッタ10とする工程と、を有するようにしたので、低コスト化が可能なスピント型エミッタを有する冷電子放出素子を製造できるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の実施の形態を、好ましい実施例により図1〜図7を用いて説明する。
本発明の冷電子放出素子の製造方法の実施例を、第1工程〜第7工程として、以下に説明する。
図1〜図7は、本発明の冷電子放出素子の製造方法の実施例における第1工程〜第7工程を説明するための模式的断面図である。なお、図7(a)は斜視図、図7(b)は模式的断面図である。そして、各図と各工程とはそれぞれ対応している。
【0011】
<実施例>
(第1工程)[図1参照]
基板1の表面上に、真空成膜法を用いて、例えばNb(ニオブ)をその厚さが約0.1μmとなるように成膜する。この成膜されたNbはエミッタ電極2となる。
実施例では、基板1として、高価な単結晶シリコンウエハではなく、安価なガラス板を用いた。このガラス板は市販のものを使用することができる。
ここで、真空成膜法とは、スパッタ法や蒸着法などを示し、実施例ではスパッタ法を用いた。
【0012】
(第2工程)[図2参照]
エミッタ電極2の表面上に、真空成膜法を用いて、n型アモルファスシリコンをその厚さが約0.5μmとなるように成膜する。
実施例では、この真空成膜法として、プラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)法を用いた。
次に、成膜されたn型アモルファスシリコンをフォトリソ法により選択的にエッチングすることによって、直径が約1μmの円筒状のn型アモルファスシリコン層3を形成する。
実施例では、このエッチング方法として、SF(6フッ化硫黄)によるドライエッチングを用いた。
【0013】
(第3工程)[図3参照]
エミッタ電極2及びn型アモルファスシリコン層3の表面上に、真空成膜法を用いて、SiO(二酸化シリコン)をその厚さが約0.5μmとなるように成膜する。実施例では、この真空成膜法として、プラズマCVD法を用いた。
次に、この成膜されたSiO及びn型アモルファスシリコン層3の表面近傍部を、例えばケミカルメカニカルポリッシュ(CMP)法により研磨して、研磨後のSiO及びn型アモルファスシリコン層3の表面を連続する平坦な面にすると共にその各厚さを約0.3μmにする。この研磨後のSiOは、絶縁層5となる。
【0014】
(第4工程)[図4参照]
n型アモルファスシリコン層3及び絶縁層5の表面上に、例えばスパッタ法によりNb(ニオブ)をその厚さが約0.2μmとなるように成膜して導電層6を形成した後、この導電層6の表面上に、例えばプラズマCVD法によりSiOをその厚さが約0.2μmとなるように成膜してSiO層7を形成する。
次に、フォトリソ法を用いて、導電層6及びSiO層7を選択的にエッチングすることによって、n型アモルファスシリコン層3上にリング状の開口部8を形成して、開口部8におけるn型アモルファスシリコン層3の表面を露出させる。
実施例では、n型アモルファスシリコン層3の外形と開口部8の外形とが略一致し、開口部8の幅wが約0.3μmとなるように、リング状の開口部8を形成した。
この開口部8形成後のSiO層7はエッチングマスク9となる。
【0015】
(第5工程)[図5参照]
円錐形状に近い形状になるように、露出したn型アモルファスシリコン層3を等方的にドライエッチングする。
実施例では、このドライエッチングを、エッチングガスにSFを使用し、真空度を13.3Pa、RFパワーを160Wとした反応性イオンエッチングにて行った。
また、このドライエッチングでは絶縁層5はほとんどエッチングされない。
【0016】
(第6工程)[図6参照]
(酸素)プラズマ処理を行って、n型アモルファスシリコン層3の表面近傍部を酸化させる。また、このOプラズマ処理により、導電層6の露出している面近傍部も酸化される。
なお、図6では、このOプラズマ処理により酸化された部分(変質部と呼ぶ場合がある)をわかりやすくするために斜線部で表している。
また、実施例では、酸化によりn型アモルファスシリコン層3の表面近傍部を変質させて変質部を形成したが、これに限定されるものではない。例えば、酸化の代わりに窒化等により変質部を形成してもよい。
【0017】
(第7工程)[図7参照]
例えば緩衝フッ酸溶液によるウェットエッチングを行って、上述の変質部を除去する。また、このウェットエッチングにより、エッチングマスク9及びn型アモルファスシリコン層3上の導電層6部を除去すると共に、先端が尖った略円錐状のスピント型エミッタ10を得る。また、このウェットエッチング後の導電層6は、ゲート電極12となる。
なお、このウェットエッチングにより、絶縁層5の内壁近傍部もエッチングされる。
【0018】
上述した第1工程〜第7工程により、実施例における冷電子放出素子20を得る。
この冷電子放出素子20は、スピント型エミッタ10の先端が尖っているため、この先端に電界が集中しやすいので、より低い電圧で効率的に冷電子の放出を行うことができる。
また、実施例で説明したように、本発明の冷電子放出素子の製造方法によれば、単結晶シリコンウエハを使用することなく、また、斜め蒸着をすることなくスピント型エミッタを形成することができるので、冷電子放出素子の低コスト化が可能になる。
また、本発明の冷電子放出素子の製造方法によれば、基板に例えばガラス板を用いることができるので、大面積のガラス板に同時に複数の冷電子放出素子を形成することが可能であり、冷電子放出素子の低コスト化に有利である。
【0019】
本発明の実施例は、上述した構成及び手順に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において変形例としてもよいのは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の冷電子放出素子の製造方法の実施例における第1工程を説明するための模式的断面図である。
【図2】本発明の冷電子放出素子の製造方法の実施例における第2工程を説明するための模式的断面図である。
【図3】本発明の冷電子放出素子の製造方法の実施例における第3工程を説明するための模式的断面図である。
【図4】本発明の冷電子放出素子の製造方法の実施例における第4工程を説明するための模式的断面図である。
【図5】本発明の冷電子放出素子の製造方法の実施例における第5工程を説明するための模式的断面図である。
【図6】本発明の冷電子放出素子の製造方法の実施例における第6工程を説明するための模式的断面図である。
【図7】本発明の冷電子放出素子の製造方法の実施例における第7工程を説明するための斜視図及び模式的断面図である。
【図8】冷電子放出素子の一般的な構造を説明するための斜視図である。
【符号の説明】
【0021】
1 基板、 2 エミッタ電極、 3 n型アモルファスシリコン層、 5 絶縁層、 6 導電層、 7 SiO層、 8 開口部、 9 エッチングマスク、 10 エミッタ、 12 ゲート電極、 20 冷電子放出素子、 w 幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上にエミッタ電極を形成するエミッタ電極形成工程と、
形成された前記エミッタ電極上の所定範囲に、アモルファスシリコン層を形成するアモルファスシリコン層形成工程と、
前記アモルファスシリコン層を除く前記エミッタ電極上に、前記アモルファスシリコン層の表面とその表面とが連続する平坦な面となるように絶縁層を形成する絶縁層形成工程と、
前記絶縁層及び前記アモルファスシリコン層の各表面に導電層を形成し、この導電層上にエッチングマスク層を形成する積層工程と、
前記アモルファスシリコン層の表面が露出するように、前記エッチングマスク層及び前記導電層の所定範囲をリング状に順次エッチングする第1エッチング工程と、
前記第1エッチング工程で露出した前記アモルファスシリコン層を等方的にエッチングする第2エッチング工程と、
少なくとも前記アモルファスシリコン層における表面近傍部を変質させて変質部とする変質工程と、
前記変質部、前記エッチングマスク層、及び前記アモルファスシリコン層上の前記導電層を除去すると共に、前記アモルファスシリコン層を前記エミッタ電極と接する面が底面となる略円錐状のエミッタとするエミッタ形成工程と、
を有することを特徴とする冷電子放出素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−115564(P2007−115564A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−306795(P2005−306795)
【出願日】平成17年10月21日(2005.10.21)
【出願人】(000004329)日本ビクター株式会社 (3,896)
【Fターム(参考)】