説明

凝集処理水および凝集排泥水の膜ろ過濃縮方法

【課題】
被処理水中の固形物の沈降速度を高めることができる膜ろ過濃縮方法を提供すること。また、被処理水中の固形物の水分含量を低減させ、固形物間の自由水や従来方では除去しがたい間隙水も除去して、固形物の水分含量を低減させて、固形物の沈降速度を高めることアルミ系凝集剤を用い、有機物などを共存させずに、原水の沈殿槽での凝集効果を高めること。
【解決手段】
原水に凝集剤を添加して攪拌した凝集水を一次膜ろ過処理し、次に、前記一次膜ろ過処理で発生する逆流洗浄排水を処理する工程において、前記逆流洗浄排水を排水槽で受水・貯留し、その受水・貯留した排水を間欠的に二次膜ろ過処理して、圧密汚泥を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浄水場における膜ろ過処理で排出される逆流洗浄排水、および、凝集沈殿処理で沈殿池から引抜かれる凝集排汚水の膜ろ過濃縮方法に関する。
【背景技術】
【0002】
浄水プロセスにおける従来の標準的な膜ろ過処理では、河川や湖沼等から取水した原水を着水井で受水した後、原水中の濁質や有機物の一部を集塊させるために、ポリ塩化アルミニウム(PAC)等の無機系凝集剤を添加し混和して、その凝集水を所定の圧力をもって膜ろ過処理している。その際、前記の膜ろ過処理においては、定期的に物理洗浄の一つである逆流洗浄(以下、逆洗という)操作が行われ、その逆洗排水はその固形物濃度に関わらず後段の排水池を経て、濃縮槽へ送られ、ここで通常48時間以上の滞留時間をもって固形物と水の密度差を利用して重力沈降させる濃縮法により固液分離されて、最終的には脱水処理される。
【0003】
浄水プロセスにおける従来の凝集沈殿処理では、上記と同様に凝集混和した後、フロック形成操作によりフロックを大きく成長させて沈殿池で沈降分離する。そこで沈殿池の底部に沈降した凝集汚泥は、定期的に所定時間引抜かれ、その排汚水は上記と同様に排水池を経て、重力沈降させる濃縮法により固液分離されて、脱水処理される。
また、上記の固形物の濃縮法において、ろ布を用いて固形物をろ布表面に捕捉させ濃縮させる方法(特許文献1)、中空糸膜を用いた多段式膜ろ過装置による濃縮法(特許文献2)等がある。
【0004】
上記の逆洗排水、排泥水の濃縮方法には以下の問題がある。
重力沈降を利用した前記濃縮法においては、滞留時間を48時間以上確保する必要があるため、濃縮に時間を要すとともに、濃縮槽設備が大きくなり過大な設置面積も必要となる。特に、上記膜ろ過処理の逆洗排水の濃縮においては、降雨によって原水濁度が高くなった場合には逆洗排水中の固形物濃度も比較的高くなるため濃縮槽での重力沈降濃縮を適用できるが、原水が表流水の場合は年間平均の濁度10度以下の浄水場が殆ど(約96%、2003年水質統計より)で逆洗排水中の固形物濃度が低くなって沈降速度が遅くなり重力沈降濃縮が困難となる。
上記濃縮法と異なる濃縮法としてのろ布を用いた濃縮法においては、ろ布は糸と糸で縫合したものを用いるため、凝集初期のフロックのように、粒径が数μmから数十μmと小さい場合は、ろ布表面で捕捉することができず、ろ液とともに排出されてしまう。その結果、脱水機へ供給する固形物量は少なくなるとともに、排出されたろ液を原水側に戻すと回収率は向上するが、原水の負荷変動に繋がる。
【0005】
また、特許文献2や3提案の膜濃縮法では、一次膜ろ過装置のろ過流束に比べて二次膜ろ過装置のろ過流束の方が低い値で運転するとのろ過流束の規定はあるが、固形物の濃縮性を高めて後段の汚泥脱水性を大きく左右する膜入口圧または膜差圧の規定がない。そのため、前記の圧力が所定圧に達していない条件、すなわち物理的な外力が不足な状態では、固形物内の間隙水は粒子間の表面張力や毛管力などの物理的な作用によって付着している為、間隙水を最大限に除去することは不可能である。
以上のような従来の逆洗排水、排泥水の濃縮方法の問題から、その後段の脱水工程では所定の脱水性を維持できなくなったり、また、維持するために脱水機の脱水速度を大幅に減少させたり、脱水機の必要台数を増加させなければならない等の問題があった。
【0006】
【特許文献1】特公昭60−59002号公報
【特許文献2】特開平11−57434号公報
【特許文献3】特開2004−267887号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の問題点を鑑みてなされたもので、被処理水中の固形物の沈降速度を高めることができる膜ろ過濃縮方法を提供することを課題とする。また、被処理水中の固形物の水分含量を低減させ、固形物間の自由水や従来法では除去しがたい間隙水も除去されると考えられるほど固形物の水分含量を低減させて、固形物の沈降速度を高めることが出来る膜ろ過濃縮方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたもので、下記を特徴とするものである。
請求項1に記載の発明は、原水に凝集剤を添加して撹拌した凝集水を一次膜ろ過処理し、次に、前記一次膜ろ過処理で発生する逆洗排水を処理する工程において、前記の逆洗排水を排水槽で受水・貯留し、その受水・貯留した排水を濃縮処理した後に二次膜ろ過処理して、圧密汚泥を形成させることを特徴とする凝集処理水の膜ろ過濃縮方法である。ここで、濃縮処理法の一つとして受水・貯留した逆洗排水を重力沈降させ、その濃縮された逆洗排水を取り出す方法が挙げられる。逆洗排水を重力沈降させるために、逆洗排水を重力沈降槽に受水・貯留し、逆洗排水を間欠的に引抜いてもよい。
前記請求項1の方法では、前記圧密汚泥の水分含量が低減されているので、被処理水中の固形物の沈降速度を高めることができる。なお、逆洗排水を排水槽へ受水・貯留するとは、逆洗排水を排水槽へ受水し、貯留するという意味であり、その受水・貯留した排水を二次膜ろ過する条件は、圧密汚泥の水分含量が低減され、被処理水中の固形物の沈降速度を高めることができる条件であればとくに限定されない。また、排水槽へ受水・貯留される逆洗排水の受水・貯留された量が所定量を超えたときに二次膜ろ過することが好ましい。
請求項1記載の方法により、圧密汚泥の水分含量が低減され、原水水質の変動や凝集処理法の影響を受けることなく、被処理水中の固形物の沈降速度を高めて安定した濃縮処理を行うことができる。
前記中空糸膜からなる膜は特に制限されないのであり、例えば、精密ろ過膜(MF膜)、限外ろ過膜(UF膜)などが使用される。さらに、それら中空糸膜を含む膜モジュールでもよい。具体的には、平膜モジュール、中空糸膜型モジュール、管型モジュールなどが例示される。
【0009】
請求項2に記載の発明は、原水に凝集剤を添加して撹拌した凝集水を一次膜ろ過処理し、次に、前記一次膜ろ過処理で発生する逆洗排水を処理する工程において、前記の逆洗排水を一次膜ろ過処理での逆流洗浄開始から所定時間のみ排水槽へ受水・貯留して、受水・貯留した排水を二次膜ろ過処理して、圧密汚泥を形成させることを特徴とする凝集処理水の膜ろ過濃縮方法である。この発明では、逆洗排水の濁度は、逆洗開始時には低く、時間の経過とともに増大し、最大値をとった後は次第に減少し、やがてなだらかに減少する傾向にあることに着目し、前記逆洗排水中の濁度が比較的高い逆洗排水、固形物濃度が比較的高い逆洗排水だけを受水・貯留することに特徴があり、後段の二次膜ろ過処理の効率化につなげる。また、請求項2の発明は、原水に凝集剤を添加して撹拌した凝集水を一次膜ろ過処理し、次に、前記一次膜ろ過処理で発生する逆洗排水を処理する工程において、前記の逆洗排水を一次膜ろ過処理での逆流洗浄開始から所定時間のみ排水槽へ受水・貯留して、受水・貯留した排水を間欠的に二次膜ろ過処理して、圧密汚泥を形成させることを特徴とする凝集処理水の膜ろ過濃縮方法でもある。ここで、間欠的の意味は、例えば、一次膜ろ過処理と二次膜ろ過処理とを比較したときに、膜ろ過装置の数や水処理能力等により、一次膜ろ過装置から発生する逆洗排水の量が二次膜ろ過装置の処理量よりも不足するときには、前記二次膜ろ過での逆洗排水の処理を一時的に中止するということであり、連続的に二次膜ろ過装置を稼動しないということである。そのほか、逆洗排水を重力沈降させることを意図し、重力沈降時間を確保するために、前記二次膜ろ過での逆洗排水の処理を一時的に中止することもある。
前記請求項2の方法では、前記圧密汚泥の水分含量が低減されているので、被処理水中の固形物の沈降速度を高めることができる。なお、逆洗排水を排水槽へ受水・貯留するとは、上記のとおりである。また、排水槽へ受水・貯留される逆洗排水の受水・貯留された量が所定量を超えたときに二次膜ろ過することが好ましい。 前記受水・貯留した排水を間欠的に二次膜ろ過する条件も上記と同様である。
請求項2記載の方法により、圧密汚泥の水分含量が低減され、原水水質の変動や凝集処理法の影響を受けることなく、被処理水中の固形物の沈降速度を高めて安定した濃縮処理を行うことができる。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項1〜3記載のいずれかの凝集処理水の膜ろ過濃縮方法において、二次膜ろ過処理する際、膜入口圧または膜差圧が予め設定した値に達するまで、受水・貯留した排水を膜ろ過処理し、続いて、膜供給水を固形物含有量の少ない水に変更して予め設定した時間の膜ろ過処理を行うことを特徴とする。ここで、膜入口圧または膜差圧の設定値、新たに供給する固形物含量の少ない水の供給時間の設定値については、処理すべき第一次膜ろ過の逆洗排水の性状、形成される圧密汚泥がとる性状等により変動するので一概に規定することができない。なお、予め簡単な試験を行い、設定することができる。また、固形物含有量の少ない水とは、例えば水道水を処理して得られる固形物含有量の少ない水を意味するが、この例示された水に限定されないのであり、第二次膜ろ過処理水、第一次膜ろ過処理水等の固形物含量が少ない水でもよい。予め設定した時間は処理する逆洗排水の性状や処理量等により変更されるので一概に規定することができない。なお、予め簡単な試験を行い、設定することができる。
この方法により、形成された汚泥の水分含量は減少されており、固形物全体の沈降速度を向上できる。また、変更した膜供給水としての固形物含量が少ない水の送水圧を前記効果がもたらされるように調整することが望ましい。
この方法により固形物全体の沈降速度を向上できる理由は、膜表面に堆積した固形物間の自由水と通常の膜ろ過濃縮法では除去し難い間隙水を除去でき、かつ、均一に高密度化して固形物全体の沈降速度を向上できると推察できる。
【0011】
請求項4に記載の発明は、上記請求項1〜3記載のいずれかの発明において、二次膜ろ過処理水の一部を原水に返送し、前記ろ過処理水の残部を二次膜ろ過処理の逆流洗浄用水とすることを特徴とする。
請求項5記載の発明は、上記請求項3記載の発明において、二次膜ろ過処理して形成された圧密汚泥を逆流洗浄処理し、発生する逆流洗浄排水を重力沈降槽に導入することを特徴とする。
【0012】
請求項6に記載の発明は、被処理水である凝集排泥水を凝集沈殿処理して発生する沈殿池沈降の凝集汚泥を処理する工程において、前記沈殿池からの凝集汚泥引抜きに際して生じる排泥水を排水槽へ受水・貯留して、前記排水槽から沈降した濃縮汚泥排水を膜ろ過処理して、圧密汚泥を形成することを特徴とする凝集排泥水の膜ろ過濃縮方法。
また、請求項7に記載の発明は、請求項6記載の凝集排泥水の膜ろ過濃縮方法において、膜ろ過処理は、膜入口圧または膜差圧が予め設定した値に達するまで、受水・貯留した排水を膜ろ過処理し、続いて、膜供給水を固形物含有量の少ない水に変更して予め設定して時間の膜ろ過処理を行うことを特徴とする。
請求項8に記載の発明は、請求項6又は7記載の発明において、予め設定して時間の膜ろ過処理を行うことにより形成された圧密汚泥を逆流洗浄処理し、発生する逆流洗浄排水を重力沈降槽に導入することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の膜ろ過濃縮方法により、一次膜ろ過処理で発生する逆洗排水の処理量を減らし、逆洗排水中の固形物の沈降速度を高め、効率的な処理を行うことができる。また、前記逆洗排水を二次膜ろ過処理し、圧密汚泥を形成させ、被処理水中の固形物の沈降速度を高めることができる。これは、前記圧密汚泥を形成させることにより、被処理水中の固形物の自由水と通常の膜ろ過濃縮法では除去し難い間隙水も除去できることによると考えられ、難脱水性汚泥などに対しても高密度な状態で固形物を脱水機へ供給することが可能となる。よって、脱水工程の時間を大幅に短縮することができる。例えば、凝集処理水の膜ろ過濃縮方法において、被処理水中の固形物の沈降速度を2倍以上にすることができる。
また、本発明の凝集排汚泥の膜ろ過濃縮方法も上記と同様であり、優れた効果をもたらすのであり、被処理水中の固形物の沈降速度を1.5倍以上にすることができる。
【発明の実施の形態】
【0014】
以下に、本発明の実施の形態を図に基づいて説明する。なお、本発明はこの発明の実施の形態によって制限されるものではない。
図1は、本発明が適用される膜ろ過濃縮処理フロー模式図である。
河川や湖沼等から取水した原水1は、アルミ系または鉄系の凝集剤を用いて凝集処理工程2で原水中の固形物を微フロック化させる。凝集処理工程2の処理水は一次膜ろ過処理3に供給し、一次膜ろ過処理3で所定時間、膜ろ過処理を行う。
一次膜ろ過処理3の膜処理水は、消毒工程4で消毒されて浄水5へと送水される。
また、一次膜ろ過処理3の膜表面には、凝集処理工程で微フロック化された固形物が堆積するため、所定の間隔で膜表面の逆洗を行い。逆洗排水が発生する。
【0015】
前記の逆洗排水は排水槽6に送水し、貯留する。排水槽6に貯留された逆洗排水を重力沈降させ、次いで、汚泥界面が排水槽6の下方に設けた引抜き口よりも下がらないようにして、沈降した濃縮汚泥だけを前記引抜き口より引抜く。このとき、前記引抜き口から汚泥界面を監視することが望ましい。この引抜いた濃縮汚泥を二次膜ろ過処理7に送水し、二次膜ろ過処理7で所定時間、膜ろ過処理を行う。前記逆洗排水は間欠的に二次膜ろ過処理7に送水することが好ましい。
ここで、排水槽6から濃縮汚泥を引抜く上記と異なる方法として、予め実験的に求めた引抜き時間を設定しておき、汚泥が沈降した状態から決められた時間引抜くように操作してもよい。
また、排水槽6に送水し、貯留される逆洗排水が、一次膜ろ過処理での逆洗排水であって、一次膜ろ過処理での逆流洗浄開始から所定時間のみの逆洗排水であり、その受水・貯留した排水を二次膜ろ過処理して、圧密汚泥を形成させることもできる。
【0016】
二次膜ろ過処理7の膜処理水は固形物量が希薄であるため、一次膜ろ過処理3の洗浄水として用い、圧密汚泥を形成するための固形分含量の少ない水とすることもできる。もしくは、原水に戻すこともできる。
また、二次膜ろ過処理7の膜表面も上述の一次膜ろ過処理3と同様に、固形物が堆積されるため、所定時間または所定圧力に達した時点で逆洗を行って、このときの逆洗排泥水を脱水機に供給する。
ここで、一次膜ろ過処理3で発生する逆洗排水は、排水開始から所定時間までは固形物含有量が多い状態であるが、それ以降は固形物が少ない状態となる。この状態変化を検証した結果を以下に説明する。
【0017】
図2は、水源:河川表流水、原水濁度:0.7mg/L、PAC注入率:20mg/Lの条件下で処理された凝集水に対し、表1に示す膜ろ過条件で所定時間の膜ろ過処理を行った時の膜ろ過逆洗排水の時間と濁度の関係を示したものである。

表1.膜ろ過条件

【0018】
図2から、逆洗開始から10秒までに排水濁度が最高26mg/Lまで上昇し、10秒から20秒の間では3mg/Lまで低下することがわかる。そして、20秒以降は、排水濁度は3.0mg/L一定となっており、固形物濃度は希薄となることが分かる。したがって、本発明では、排水槽内の固形物量を多い状態で貯留するために、一次膜ろ過処理で発生する逆洗排水は、排水開始から予め設定した所定時間までを排水槽へ受水することとした。ここで、排水槽への受水設定時間は、原水濁度、処理条件等により変動するので、一概に規定することができない。原水濁度、処理条件等を反映させて設定すればよい。また、原水を用いて実験データを予め得ておき、そのデータから排水槽への受水設定時間を設定してもよい。
【0019】
また、二次膜ろ過処理7では、脱水工程時間を短縮化させるために、固形物の水分含量を低減し、沈降速度を向上させる操作を行う。ここで、固形物の水分含量には固形物間の自由水と間隙水を含む。
上記操作を具体的に説明すると、排水槽6から送水された排水を二次膜ろ過処理7に供給し、二次膜ろ過処理7の膜入口圧または膜差圧が予め設定した値に達するまで膜ろ過処理し、続いて、膜供給水を固形物含有量の少ない水に変更して予め設定して時間の膜ろ過処理を行う。この操作により、固形物の沈降速度を向上できた結果を図3、図4で説明する。なお、排水槽から排水を間欠的に送水してもよい。
【0020】
図3、4は、所定条件下の凝集処理水を表2に示した膜ろ過条件で処理した時の膜ろ過逆洗排水を250mLのメスシリンダ内にそれぞれ供給し、固形物の沈降速度を示したものである。ここで、図3は、凝集処理水を一次膜ろ過処理した後に発生する逆洗排水を、本発明が規定する条件で2時間二次膜ろ過処理し、次いで、発生した逆洗排水の汚泥界面高さを示したものである。メスシリンダ内に供給された逆洗排水は、初めは固形物が分散された状態であるが、時間経過とともに高密度の固形物がメスシリンダ下方へ沈んでゆき、所定時間が経過すると、上澄液の領域と、固形分が沈降または浮遊する濁った領域に分かれてゆき、この境界は、時間の経過とともに下方へ移動していく。さらに、時間が経過すると、前記固形分が浮遊する領域の固形分が、メスシリンダー下方へ沈んでゆき、上澄液の領域と固形物の領域とに分離する。
図4は、図3での一次膜ろ過処理した後に発生する逆洗排水を本発明が規定する条件で2時間二次膜ろ過処理した後に、固形物含有量の少ない水道脱塩素水、つまり、活性炭に通水処理した水道水で、更に1時間膜ろ過処理し、次いで、発生した逆洗排水の汚泥界面高さを示したものである。メスシリンダ内に供給された逆洗排水は、初めは固形物が分散された状態であるが、時間経過とともに高密度の固形物からメスシリンダ下方へ沈んでゆき、所定時間が経過すると上澄液の領域と、固形分が沈降または浮遊する濁った領域に分かれてゆき、さらに時間が経過すると上澄液の領域と固形物の領域とに分離し、その境界は時間の経過とともに下方へ移動し、さらに時間が経過すると、その境界の移動はみとめられなくなる。
前記一次膜ろ過処理した後に発生する逆洗排水は、一次膜ろ過処理での逆流洗浄開始から約20秒の間の逆洗排水を集め処理した逆洗排水である。
ここで、本実験における原水および凝集処理条件は表3の通りである。
【0021】
表2.膜ろ過条件


表3.原水および凝集処理条件


表4.二次膜ろ過条件

【0022】
図3から、本発明が規定する条件で2時間二次膜ろ過処理し、発生した逆洗排水は、沈降開始1分で固形物界面が125mLまで低下した沈降速度の速い固形物と、沈降開始してから120分経過しても固形物界面が240mLと沈降速度の遅い固形物を含むことが分かる。
ここで、上記の現象について図5を用いて説明する。
【0023】
図5は、排水固形物の水分状態を示したものである。図5において、固形物の水分形態には、自由に移動できる「自由水」と、固形物間の隙間に存在している「間隙水」と、固形物表面と化学結合している「表面付着水」と、固形物内に存在している「内部水」と、に大別される。この中で、自由水は容易に除去可能であり、表面付着水と内部水は、濃縮操作を行っても除去出来ないものである。一方、間隙水は物理的な負荷(外力)をかけることによって、一部を除去可能である。上記の結果において、膜表面近傍の堆積固形物は、ろ過によって固形物同士が近接(圧縮)して自由水と間隙水が少なくなり、密度の高く、沈降速度の速い固形物になったと考えられる。しかしながら、膜表面から比較的遠い距離にある堆積固形物は、圧縮力(時間を含む)が小さいため、固形物間に間隙水が多く含み、密度が低く、沈降速度の遅い固形物になっていると推測される。したがって、逆洗排水を一般的な膜ろ過処理(運転)しただけでは堆積した固形物の密度に分布が生じることが示唆される。
【0024】
一方、図4における逆洗排水は、全ての固形物が沈降開始1分で125mLまで沈降しており、固形物と上澄液との界面ははっきりと分かれていたので、堆積した固形物密度が均一した状態であることが分かる。これは、固形物含有量の少ない水を供給して圧力をかけることで、膜表面から比較的遠い距離にある固形物は加圧・圧縮され、膜表面近傍の堆積固形物に接近して固形物間の自由水、間隙水が排出され、高密度化が十分に進行したからだと推察される。
上記結果と考察に基づき、膜表面に固形物を一旦堆積させ、続いて固形物含有量の少ない水に変更して、更に膜ろ過処理を行うことで、堆積した固形物全体の沈降速度を向上させることにした。尚、図3では沈降速度が240mL/1200minと遅い固形物が存在するのに対し、図4では全ての固形物の沈降速度が240mL/3minとなっていることから、上記操作によって、固形物の沈降速度を少なくとも2倍以上高められる。
【0025】
本実験に使用した膜は中空糸膜であるが、平膜でも良く、膜の種類は限外ろ過膜でも良い。さらに、ろ過方式はクロスフロー方式でも良い。
尚、本実験における膜ろ過時間の設定は、膜差圧が30kPaを到達した時点でろ過終了としたが、指標を膜入口圧で設定しても良く、原水濁度やその他の処理条件によって膜ろ過時間は任意に設定変更してよい。
また、被処理水を凝集排泥水としても、上述した同様な操作を行うことで、沈降速度が高い固形物として改質することが可能である。
【0026】
以下に、被処理水を凝集排泥水とした場合の結果について述べる。ここで。凝集排泥水は、従来から行われている水処理方法で行われた結果得られた圧密汚泥を含む汚泥水をいう。
図6は、浄水処理量9万m3/日、原水濁度2mg/L(年間平均濁度3mg/L)、原水色度4度(年間平均色度8度)の原水条件に対し、平均PAC注入率20mg/Lで凝集沈殿処理した凝集排泥水と、凝集排泥水を上述と同様の運転法で膜ろ過処理を行った時の沈降速度を比較した結果である。
【0027】
図6から、凝集排泥水に比べて、凝集排泥水を膜ろ過処理した場合の方が沈降速度は1.5倍高い結果となった。これより、凝集排泥水に対しても上述のような膜ろ過処理を行うことで沈降速度の速い固形物に改質できることがわかる。ここで、凝集水に比べて、凝集排泥水の改質効果が小さい理由は、凝集排泥水は、沈殿池で徐々に固形物が積み重なって堆積されるため、固形物が圧縮されて密度が高い状態となっているものと考えられる。また、凝集排泥水を対象とする場合、凝集排泥水の初期固形物濃度は凝集水に比べて高いため、一次(一段)膜ろ過処理でも優れた効果をもたらす。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明が適用される膜ろ過濃縮処理フロー模式図である。
【図2】本実施例における凝集水を対象とした膜ろ過逆洗排水の排水時間と濁度の関係を示す線図である。
【図3】本実施例における二次膜ろ過処理した固形物(逆洗排水ろ過のみ)の沈降速度を示す線図である。
【図4】本実施例における二次膜ろ過処理した固形物(逆洗排水ろ過+沈降性向上)の沈降速度を示す線図である。
【図5】本実施例を示唆する固形物中の水分状態を示す模式図である。
【図6】本実施例における凝集排泥水を膜ろ過処理した時の沈降速度を示す線図である。
【符号の説明】
【0029】
1.原水
2.凝集処理工程
3.一次膜ろ過処理
4.消毒工程
5.浄水
6.排水槽
7.二次膜ろ過処理

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原水に凝集剤を添加して攪拌した凝集水を一次膜ろ過処理し、次に、前記一次膜ろ過処理で発生する逆流洗浄排水を処理する工程において、前記逆流洗浄排水を排水槽で受水・貯留し、その受水・貯留した排水を濃縮処理した後に二次膜ろ過処理して、圧密汚泥を形成することを特徴とする凝集処理水の膜ろ過濃縮方法。
【請求項2】
原水に凝集剤を添加して攪拌した凝集水を一次膜ろ過処理し、次に、前記一次膜ろ過処理で発生する逆流洗浄排水を処理する工程において、前記逆流洗浄排水を一次膜ろ過処理での逆流洗浄開始から所定時間のみ排水槽で受水・貯留し、その受水・貯留した排水を二次膜ろ過処理して、圧密汚泥を形成することを特徴とする凝集処理水の膜ろ過濃縮方法。
【請求項3】
二次膜ろ過処理は、膜入口圧または膜差圧が予め設定した値に達するまで、受水・貯留した排水を膜ろ過処理し、続いて、膜供給水を固形物含有量の少ない水に変更して予め設定した時間の膜ろ過処理を行うことを特徴とする請求項1又は2記載の凝集処理水の膜ろ過濃縮方法。
【請求項4】
二次膜ろ過処理水の一部を原水に返送し、前記ろ過処理水の残部を二次膜ろ過処理の逆流洗浄用水とすることを特徴とする請求項1〜3記載のいずれかの凝集処理水の膜ろ過濃縮方法
【請求項5】
二次膜ろ過処理して形成された圧密汚泥を逆流洗浄処理し、発生する逆流洗浄排水を重力沈降槽に導入することを特徴とする請求項3記載の凝集処理水の膜ろ過濃縮方法。
【請求項6】
被処理水である凝集排泥水を凝集沈殿処理して発生する沈殿池沈降の凝集汚泥を処理する工程において、前記沈殿池からの凝集汚泥引抜きに際して生じる排泥水を排水槽へ受水・貯留して、前記排水槽から沈降した濃縮汚泥排水を膜ろ過処理して、圧密汚泥を形成することを特徴とする凝集排泥水の膜ろ過濃縮方法。
【請求項7】
膜ろ過処理は、膜入口圧または膜差圧が予め設定した値に達するまで、受水・貯留した排水を膜ろ過処理し、続いて、膜供給水を固形物含有量の少ない水に変更して予め設定した時間の膜ろ過処理を行うことを特徴とする請求項6記載の凝集排泥水の膜ろ過濃縮方法。
【請求項8】
予め設定した時間の膜ろ過処理を行うことにより形成された圧密汚泥を逆流洗浄処理し、発生する逆流洗浄排水を重力沈降槽に導入することを特徴とする請求項6又は7記載の凝集処理水の膜ろ過濃縮方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2009−183901(P2009−183901A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−28219(P2008−28219)
【出願日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【出願人】(507214083)メタウォーター株式会社 (277)
【Fターム(参考)】