説明

凝集沈殿の発生が抑制された組成物

【課題】 松樹皮抽出物が有するタンパク質との凝集沈殿の発生が抑制された組成物、さらには、当該凝集沈殿の発生が抑制された組成物からなる固形石鹸組成物を提供すること。
【解決手段】 液体状の組成物に松樹皮抽出物を配合し、その後に茶抽出物及び/またはアミノ酸配列(Gly−X−Y)を有するポリペプチドを配合する方法で調製された凝集沈殿の発生が抑制された組成物を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体状の組成物に松樹皮抽出物を配合し、その後に茶抽出物及び/またはアミノ酸配列(Gly−X−Y)を有するポリペプチドを配合する方法で調製された凝集沈殿の発生が抑制された組成物に関し、さらには、当該組成物から成る固形石鹸に関する。
【背景技術】
【0002】
松樹皮抽出物は、プロアントシアニジンで総称される重合度が2以上の縮重合体からなる縮合型タンニンを多量含有している。
【0003】
プロアントシアニジンは、古くから肌の収斂性を高め、整肌効果を目的として使用されていた。近年、プロアントシアニジンは、抗酸化作用や美白効果などの種々の活性を有することから、食品や化粧品への応用が図られている(特許文献1及び2)。
【0004】
しかし、プロアントシアニジンはタンパク質との結合能力が高いため、タンパク質と結合して凝集沈殿や懸濁を生じる。そのため、製剤化が困難なだけでなく、コラーゲンやプロアントシアニジンが沈殿し、それぞれの有する生体への効果が非常に低下するという問題から、製剤や化粧品への応用範囲が限られていた。
【特許文献1】特開昭61−16982号公報
【特許文献2】特開平2−134309号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、松樹皮抽出物とタンパク質との凝集沈殿の発生が抑制された組成物、さらには、当該凝集沈殿の発生が抑制された組成物からなる固形石鹸組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、この様な課題を解決するために鋭意研究を行った結果、液体状の組成物に松樹皮抽出物を配合し、その後に茶抽出物及び/またはアミノ酸配列(Gly−X−Y)を有するポリペプチドを配合するとタンパク質との凝集沈殿の発生が抑制されることを見出して、本発明を完成した。
【0007】
好ましい実施態様において、アミノ酸配列(Gly−X−Y)を有するポリペプチドは、コラーゲン、エラスチンから選ばれるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、本発明は、下記実施形態の記載により限定して解釈するべきでなく、特許請求の範囲における記載の範囲内で種々の変更が可能である。
【0009】
本発明での液体状の組成物としては、医薬品、医薬部外品、化粧品、トイレタリー用品が挙げられる。例えば、化粧水、化粧クリーム、乳液、クリーム、整髪料、シャンプー、ヘアリンス、トリートメント、ボディシャンプー、洗顔剤、ファンデーション、リップグロス、育毛剤、目薬、アイウォッシュ、歯磨剤、マウスウォッシュなどが挙げられる。
【0010】
本発明に用いられる松樹皮抽出物としては、フランス海岸松(Pinus Martima)、カラマツ、クロマツ、アカマツ、ヒメコマツ、ゴヨウマツ、チョウセンマツ、ハイマツ、リュウキュウマツ、ウツクシマツ、ダイオウマツ、シロマツ、カナダのケベック地方のアネダなどのマツ目に属する植物の樹皮抽出物が好ましく用いられる。中でも、フランス海岸松(Pinus Martima)の樹皮抽出物が好ましい。
【0011】
フランス海岸松は、南仏の大西洋沿岸の一部に生育している海洋性松をいう。このフランス海岸松の樹皮は、プロアントシアニジン、有機酸、ならびにその他の生理活性成分などを含有し、その主要成分であるプロアントシアニジンに、活性酸素を除去する強い抗酸化作用があることが知られている。
【0012】
プロアントシアニジンは、フラバン−3−オール及び/またはフラバン−3,4−ジオールを構成単位とする重合度が2以上の縮重合体からなる化合物群をいう。植物が作り出す強力な抗酸化物質であり、植物の葉、樹皮、果実の皮及び種に集中的に含まれている。このプロアントシアニジンは、ヒトの体内では生成することができない物質である。
【0013】
松樹皮抽出物には、プロアントシアニジンとして重合度が2以上の縮重合体が含有され、さらにカテキンなどが含有される。特に、重合度が低い縮重合体が多く含まれるプロアントシアニジンが好ましく用いられる。重合度の低い縮重合体としては、重合度が2〜30の縮重合体(2〜30量体)が好ましく、重合度が2〜10の縮重合体(2〜10量体)がより好ましく、重合度が2〜4の縮重合体(2〜4量体)がさらに好ましい。重合度が2〜4の縮重合体(2〜4量体)のプロアントシアニジンは、特に体内に吸収されやすい。本明細書では、上記の重合度が2〜4の重合体を、オリゴメリック・プロアントシアニジン(Oligomeric proanthocyanidin、以下「OPC」という)という。
【0014】
松樹皮抽出物は、松樹皮を水または有機溶媒で抽出して得られる。水を用いる場合には、温水または熱水が好適に用いられる。抽出に用いる有機溶媒としては、食品あるいは薬剤の製造に許容される有機溶媒が用いられ、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、アセトン、ヘキサン、シクロヘキサン、プロピレングリコール、含水エタノール、含水プロピレングリコール、エチルメチルケトン、グリセリン、酢酸メチル、酢酸エチル、ジエチルエーテル、ジクロロメタン、食用油脂、1,1,1,2−テトラフルオロエタン、及び1,1,2−トリクロロエテンが挙げられる。これらの水及び有機溶媒は単独で用いてもよいし、組合わせて用いてもよい。特に、熱水、含水エタノール、及び含水プロピレングリコールが好ましく用いられる。
【0015】
上記松樹皮抽出物には、プロアントシアニジン、特にOPCとともにカテキン類が含まれていることが好ましい。カテキン類とは、ポリヒドロキシフラバン−3−オールの総称である。カテキン類としては、(+)−カテキン、(−)−エピカテキン、(+)−ガロカテキン、(−)−エピガロカテキン、エピガロカテキンガレート、エピカテキンガレートなどが知られている。上記松樹皮のような原料植物由来
の抽出物からは、狭義のカテキンといわれている(+)−カテキンの他、ガロカテキン、アフゼレキン、ならびに(+)−カテキンまたはガロカテキンの3−ガロイル誘導体が単離されている。カテキン類には、口臭防止作用、発癌改善作用、動脈硬化予防作用、脂肪代謝異常の改善作用、血圧上昇改善作用、血小板凝集改善作用、抗アレルギー作用、抗ウイルス作用、抗菌作用、虫歯予防作用、腸内細菌叢正常化作用、活性酸素やフリーラジカルの消去作用、抗酸化作用などがあることが知られている。カテキン類は、OPCの存在下で水溶性が増すと同時に、OPCを活性化する性質がある。
【0016】
本発明の凝集沈殿の発生が抑制された組成物は、松樹皮抽出物を0.00001重量%以上含有する。好ましくは組成物中に松樹皮抽出物を0.00001〜20重量%、より好ましくは0.00001重量%〜15重量%、最も好ましくは0.00001重量%〜10重量%含有する。
【0017】
本発明に用いられる茶抽出物としては、例えばカメリア・シネンシス(Camellia・sinensis)、カメリア・アッサミカ(Camellia・assamica)及びやぶきた種又はそれらの雑種から得られる茶葉が挙げられる。
【0018】
粉砕工程は、乾燥した緑葉をカッター、スライサー、ダイサーなどの当業者に公知の任意の機械または道具により、乾燥した緑葉を粉砕する工程である。次に、90重量%が100メッシュ区分を通過するように、微粉砕される。微粉砕は、例えば、クラッシャー、ミル、ブレンダー、石臼などの当業者が通常用いる任意の機械または道具を用いて行われる。
【0019】
抽出溶媒としては、通常食品、化粧品製造で用いられるエタノールが使用出来る。
【0020】
茶を抽出する方法は、撹拌抽出など従来の方法により行うことができる。また、抽出時、抽出溶媒にあらかじめアスコルビン酸ナトリウムなどの有機酸又は有機酸塩類を添加してもよい。また、煮沸脱気や窒素ガス等の不活性ガスを通気して溶存酸素を除去しつついわゆる非酸化的雰囲気下で抽出する方法も併用して良い。
【0021】
得られた抽出液は、減圧濃縮(薄膜濃縮、フラッシュ濃縮)、RO膜濃縮等の濃縮、遠心分離、濾過等の処理を行うことができる。
【0022】
本発明に用いられるアミノ酸配列(Gly−X−Y)を有するポリペプチドであるコラーゲン、エラスチンとしては特に制限されるものではない。
【実施例】
【0023】
以下、本発明の実施例について説明する。なお、本発明は、下記の実施例に限定して解釈すべきではなく、特許請求の範囲における記載の範囲内で種々の変更が可能である。
【0024】
(実施例1:茶抽出物配合石鹸)
松樹皮抽出物0.001重量%を石鹸素地に予め配合し、その後茶抽出物0.001重量%を配合してさらによく混合した。この混合した素地を常法により押出し、型打ち成型して石鹸を調製した。
【0025】
(実施例2:コラーゲン配合石鹸)
松樹皮抽出物0.001重量%を石鹸素地に予め配合し、その後コラーゲン0.001重量%を配合してさらによく混合した。この混合した素地を常法により押出し、型打ち成型して石鹸を調製した。
【0026】
(実施例3:エラスチン配合石鹸)
松樹皮抽出物0.001重量%を石鹸素地に予め配合し、その後エラスチン0.001重量%を配合してさらによく混合した。この混合した素地を常法により押出し、型打ち成型して石鹸を調製した。
【0027】
(実施例4:茶抽出物、コラーゲン、エラスチン配合石鹸)
松樹皮抽出物0.001重量%を石鹸素地に予め配合し、その後茶抽出物0.001重量%とコラーゲン0.001重量%とエラスチン0.001重量%を配合してさらによく混合した。この混合した素地を常法により押出し、型打ち成型して石鹸を調製した。
【0028】
(比較例1:茶抽出物配合石鹸)
松樹皮抽出物0.001重量%と茶抽出物0.001重量%を石鹸素地に同時に配合した。この混合した素地を常法により押出し、型打ち成型して石鹸を調製した。
【0029】
(比較例2:コラーゲン配合石鹸)
松樹皮抽出物0.001重量%とコラーゲン0.001重量%を石鹸素地に同時に配合した。この混合した素地を常法により押出し、型打ち成型して石鹸を調製した。
【0030】
(比較例3:エラスチン配合石鹸)
松樹皮抽出物0.001重量%とエラスチン0.001重量%を石鹸素地に同時に配合した。この混合した素地を常法により押出し、型打ち成型して石鹸を調製した。
【0031】
(比較例4:茶抽出物、コラーゲン、エラスチン配合石鹸)
松樹皮抽出物0.001重量%と茶抽出物0.001重量%とコラーゲン0.001重量%とエラスチン0.001重量%を石鹸素地に同時に配合した。この混合した素地を常法により押出し、型打ち成型して石鹸を調製した。
【0032】
(評価方法)
上記で調製した石鹸を任意な部分で切断し、その切断面に凝集沈殿物が存在するかを目視にて確認した。
【0033】
その結果、実施例1乃至3については、凝集沈殿物を認めなかった。実施例4については、極僅かの凝集沈殿物を認めたものの商品価値を損なうものではなかった。
【0034】
比較例1乃至4については、凝集沈殿物が多数認められ商品価値を損なうものであった。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の凝集沈殿の発生が抑制された組成物は、松樹皮抽出物がタンパク質と結合して起こる凝集沈殿を抑制できるため、製剤化が困難であった化粧品等への応用が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体状の組成物に松樹皮抽出物を配合し、その後に茶抽出物及び/またはアミノ酸配列(Gly−X−Y)を有するポリペプチドを配合する方法で調製されたことを特徴とする凝集沈殿の発生が抑制された組成物。
【請求項2】
アミノ酸配列(Gly−X−Y)を有するポリペプチドが、コラーゲン、エラスチンから選ばれるものである請求項1に記載の凝集沈殿の発生が抑制された組成物。
【請求項3】
請求項1乃至2の凝集沈殿の発生が抑制された組成物から成る固形石鹸組成物。

【公開番号】特開2010−65186(P2010−65186A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−234782(P2008−234782)
【出願日】平成20年9月12日(2008.9.12)
【出願人】(398028503)株式会社東洋新薬 (182)
【Fターム(参考)】