説明

凝集沈殿処理方法及び凝集沈殿処理装置

【課題】本発明の目的は、沈殿槽に堆積する汚泥の高濃度化を防止することができる凝集沈殿処理方法及び凝集沈殿処理装置を提供する。
【解決手段】本発明の凝集沈殿処理方法は、凝集剤を添加して、原水中の懸濁物質を凝集させる凝集工程と、沈殿槽内で凝集した懸濁物質を含む汚泥を沈殿させて処理水と分離する固液分離工程と、前記分離した汚泥を前記凝集工程に返送するか、又は前記分離した汚泥に酸又はアルカリを添加して汚泥を再生処理した後に、前記再生処理した汚泥を前記凝集工程に返送する汚泥返送工程と、を備え、前記汚泥返送工程では、前記凝集工程での汚泥濃度が一定の範囲となるように、返送する汚泥量を調整し、前記凝集工程では、前記沈殿槽内の汚泥濃度が所定以上の時、前記凝集剤のうち高分子凝集剤の添加量を低減する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原水中の懸濁物質を沈降分離させ、処理水を得る凝集沈殿処理方法及び凝集沈殿処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
排水処理や用水処理等において、懸濁物質を含む原水を対象とする場合は、ポリ塩化アルミニウム等のアルミニウム系凝集剤や塩化第二鉄等の鉄系凝集剤等の無機凝集剤を添加してフロックを形成させ沈降分離を図る凝集沈殿処理が用いられる。また、フッ素のようなイオン状の有害物質を含む排水に対しても、カルシウムと反応させてフッ化カルシウムとする固形物化を行った後、アルミニウム系凝集剤等の無機凝集剤を添加し凝集沈殿処理が行われる。
【0003】
上記凝集沈殿処理方法において、懸濁物質を高度に処理するには、アルミニウム系凝集剤等の無機凝集剤を多量に添加する必要があるが、凝集剤を多量に添加すると、凝集沈殿処理により生成した汚泥の脱水性は悪く、汚泥脱水後のケーキ量が非常に多くなる問題等がある。そこで、処理水質を良好に維持しつつ、汚泥脱水後のケーキ量を低減する手法として、汚泥循環法または汚泥循環再生法が適用されることがある。
【0004】
汚泥循環法は沈殿槽から引き抜いた汚泥の一部を凝集反応槽に返送し、凝集反応槽内のフロック(固形物)濃度を高めることにより、原水中の懸濁物質、添加された凝集剤及びフロックの接触効率を高め、凝集反応を効果的に行う処理方法である。このような処理方法により、大きなフロックを形成させ、沈降分離性を高めることができる。
【0005】
また、汚泥循環再生法は、沈殿槽から引き抜いた汚泥の一部に消石灰や水酸化ナトリウム等のアルカリあるいは硫酸等の酸を添加し、汚泥中の凝集剤由来アルミニウム分を溶解させ、凝集機能を再生して凝集反応槽に返送する処理方法である(例えば、特許文献1,2参照)。このような処理方法により、凝集剤を再利用することができるため、新規に添加する凝集剤の量を大幅に削減することができる。また、処理水質の向上をもたらし、かつ、発生する汚泥の濃縮性及び脱水性を向上させ、汚泥処理設備の小型化等も可能となる。
【0006】
しかし、汚泥循環法及び汚泥循環再生法においては、フロックの性状および沈殿槽における滞留時間によって、汚泥が非常に高濃度に濃縮される。濃縮が進行しすぎた場合には沈殿槽内に設置された汚泥掻寄機(スクレーパ)の動作不良、および汚泥引き抜き配管の閉塞等の問題が生じる虞があり、沈殿槽内の汚泥の高濃度化を防止する必要がある。
【0007】
例えば、特許文献3には、沈殿槽内の汚泥を高濃度にさせないために、沈殿槽内より引き抜かれ、循環されている汚泥の濃度を常時測定し、その濃度によって汚泥を系外へ排出する運転方法が提案されている。
【0008】
また、例えば、特許文献4には、沈殿槽内の汚泥を高濃度にさせないために、重金属を含む原水の凝集沈澱処理において、常時モニタリングを行って得られた沈殿槽汚泥濃度、汚泥返送量、原水を中和した際に発生するSS濃度、原水量という4つの因子の関係から導かれる定数Rを20〜30の範囲となるように汚泥返送量を制御する技術が開示されている。また、R<20の場合には、汚泥の粘度が増加して装置の運転に支障をきたすことが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−296838号公報
【特許文献2】特許第2930594号公報
【特許文献3】特開平8−323109号公報
【特許文献4】特開平5−57292号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、沈殿槽に堆積する汚泥の高濃度化を防止することができる凝集沈殿処理方法及び凝集沈殿処理装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の凝集沈殿処理方法は、少なくとも高分子凝集剤を添加して、原水中の懸濁物質を凝集させる凝集工程と、前記凝集工程で凝集した懸濁物質を含む汚泥を沈殿槽内で沈殿させて処理水と分離する固液分離工程と、前記分離した汚泥を前記凝集工程に返送するか、又は前記分離した汚泥に酸又はアルカリを添加して汚泥を再生処理した後に、前記再生処理した汚泥を前記凝集工程に返送する汚泥返送工程と、を備え、前記汚泥返送工程では、前記凝集工程における汚泥濃度が一定の範囲となるように、返送する汚泥量を調整し、前記凝集工程では、前記固液分離工程で分離した沈殿槽内の汚泥濃度が予め設定された第1基準濃度以上の時、前記高分子凝集剤の添加量を低減させる。
【0012】
また、前記凝集沈殿処理方法において、前記沈殿槽に堆積した汚泥の界面位置を測定し、前記沈殿槽内の汚泥濃度を推定する汚泥濃度推定工程を備え、前記凝集工程では、前記測定した汚泥の界面位置が、所定時間、前記沈殿槽に設定した第1基準位置以下の時に前記沈殿槽内の汚泥濃度が第1基準濃度以上と判断し、前記高分子凝集剤の添加量を低減させることが好ましい。
【0013】
また、前記凝集沈殿処理方法において、前記固液分離工程で分離した沈殿槽内の汚泥濃度が、前記第1基準濃度より低い濃度に設定した第2基準濃度以下の時、前記高分子凝集剤の添加量を増加させることが好ましい。
【0014】
また、前記凝集沈殿処理方法において、前記凝集工程では、前記測定した汚泥の界面位置が、所定時間、前記第1基準位置より上方に設定した第2基準位置以上の時に前記沈殿槽内の汚泥濃度が第2基準濃度以下と判断し、前記高分子凝集剤の添加量を増加させることが好ましい。
【0015】
また、前記凝集沈殿処理方法において、前記凝集工程では、前記高分子凝集剤の添加量を増加した後、所定時間、前記測定した汚泥の界面位置が、前記第2基準位置以下の時、前記高分子凝集剤の添加量を低減させることが好ましい。
【0016】
また、本発明の凝集沈殿処理装置は、少なくとも高分子凝集剤を添加して、原水中の懸濁物質を凝集させる凝集手段と、前記凝集手段により凝集した懸濁物質を含む汚泥を沈殿させて処理水と分離する沈殿槽と、前記分離した汚泥を前記凝集手段に返送するか、又は前記分離した汚泥に酸又はアルカリを添加して汚泥を再生処理した後に、前記再生処理した汚泥を前記凝集手段に返送する汚泥返送手段と、を備え、前記汚泥返送手段では、前記凝集手段内の汚泥濃度が一定の範囲となるように、返送する汚泥量を調整し、前記凝集手段では、前記沈殿槽内で分離した汚泥濃度が予め設定された第1基準濃度以上の時、前記高分子凝集剤の添加量を低減させる。
【0017】
また、前記凝集沈殿処理装置において、前記沈殿槽に堆積した汚泥の界面位置を測定し、前記沈殿槽内の汚泥濃度を推定する汚泥濃度推定手段を備え、前記凝集手段では、前記測定した汚泥の界面位置が、所定時間、前記沈殿槽に設定した第1基準位置以下の時に前記沈殿槽内の汚泥濃度が第1基準濃度以上と判断し、前記高分子凝集剤の添加量を低減させることが好ましい。
【0018】
また、前記凝集沈殿処理装置において、前記沈殿槽内の汚泥濃度が、前記第1基準濃度より低い濃度に設定した第2基準濃度以下の時、前記高分子凝集剤の添加量を増加させることが好ましい。
【0019】
また、前記凝集沈殿処理装置において、前記凝集手段では、前記測定した汚泥の界面位置が、所定時間、前記第1基準位置より上方に設定した第2基準位置以上の時に前記沈殿槽内の汚泥濃度が第2基準濃度以下と判断し、前記高分子凝集剤の添加量を増加させることが好ましい。
【0020】
また、前記凝集沈殿処理装置において、前記凝集手段では、前記高分子凝集剤の添加量を増加した後、所定時間、前記測定した汚泥の界面位置が、前記第2基準位置以下の時、前記高分子凝集剤の添加量を低減させることが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明の凝集沈殿処理方法及び凝集沈殿処理装置によれば、沈殿槽に堆積する汚泥の高濃度化を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本実施形態に係る凝集沈殿処理装置の構成の一例を示す模式図である。
【図2】実施例及び比較例で使用した処理装置の構成を示す模式図である。
【図3】試験中の原水濁度の推移を示す図である。
【図4】実施例及び比較例1,2の汚泥循環流量の推移を示す図である。
【図5】実施例及び比較例1,2の沈殿槽の汚泥濃度の推移を示す図である。
【図6】実施例及び比較例1,2の沈殿槽の汚泥界面位置の推移を示す図である。
【図7】実施例のポリマー注入量の推移を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明の実施の形態について以下説明する。本実施形態は本発明を実施する一例であって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
【0024】
図1は、本実施形態に係る凝集沈殿処理装置の構成の一例を示す模式図である。図1に示すように、凝集沈殿処理装置1は、凝集手段としての無機凝集反応槽10及び高分子凝集反応槽12と、沈殿槽14と、汚泥再生槽16と、制御部19と、を備える。無機凝集反応槽10、無機凝集反応槽10と高分子凝集反応槽12との間、高分子凝集反応槽12と沈殿槽14との間は配管やトラフで接続され、懸濁物質を含む原水が流れる。また、沈殿槽14には、懸濁物質が分離した処理水が流れる配管やトラフが接続されている。また、沈殿槽14と無機凝集反応槽10との間には、汚泥再生槽16を介して汚泥循環ライン18(汚泥返送手段)が接続されている。また、汚泥循環ライン18には、汚泥排出ライン20が接続されている。また、汚泥循環ライン18には、汚泥循環ライン18を通る汚泥の流量を検出する流量計18a、汚泥の濃度を検出する汚泥濃度計18b等が設置されている。
【0025】
本実施形態において、処理対象となる懸濁物質を含む原水は、如何なる由来の水であっても良く、例えば、半導体関連産業をはじめとする電子産業排水、用水処理等が対象とする河川水等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、フッ素のようなイオン状の有害物質を含む排水に対しては、予めカルシウムと反応させてフッ化カルシウム等とする固形物化した上で、凝集剤を注入し凝集沈殿処理を行う必要がある。
【0026】
まず、懸濁物質を含む原水は、無機凝集反応槽10に供給される。無機凝集反応槽10には、無機凝集剤を供給する無機凝集剤添加ライン22が接続されており、無機凝集反応槽10内では、無機凝集剤添加ライン22から供給される無機凝集剤により、原水中の懸濁物質が凝集(フロック化)される。また、無機凝集反応槽に、槽内のpHを調整する配管(不図示)を設置し、該配管から槽内に酸又はアルカリ等を注入して、pH調整を行うことが好ましい。なお、無機凝集反応槽10内には、撹拌装置24が設置されているが、この撹拌装置24の設置は任意である。
【0027】
無機凝集剤としては、懸濁物質を凝集(フロック化)させることができる凝集剤として機能するものであれば、任意のものを使用することができ、例えば、ポリ塩化アルミニウム(PAC)、硫酸バンド等のアルミニウム系凝集剤や塩化第二鉄等の鉄系凝集剤等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0028】
次に、凝集(フロック化)した懸濁物質を含む原水は、高分子凝集反応槽12に供給される。高分子凝集反応槽12には、高分子凝集剤を供給する高分子凝集剤添加ライン26が接続されており、高分子凝集反応槽12内では、高分子凝集剤添加ライン26から供給される高分子凝集剤により、無機凝集反応槽10内で生成したフロック(凝集した懸濁物質)の凝集性がさらに高められ、粒径の大きなフロックに成長させることができる。高分子凝集剤添加ライン26には、ポンプ28が設置されており、制御部19からの指示により、高分子凝集剤の添加量を調整することができる。なお、高分子凝集剤の添加量の調整については、後述する。また、高分子凝集反応槽12内には、撹拌装置30が設置されているが、この撹拌装置30の設置は任意である。
【0029】
高分子凝集剤としては、フロックの凝集性を向上させることが可能な任意の高分子を使用することができ、例えば、アニオン性高分子有機凝集剤、ノニオン性高分子有機凝集剤及びカチオン基を有する高分子有機凝集剤を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0030】
アニオン性高分子有機凝集剤としては、例えば、アルギン酸又はその塩、カルボキシメチルセルロース、アクリル酸又はその塩の重合物、アクリル酸又はその塩とアクリルアミドとの共重合物等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、ノニオン性高分子有機凝集剤としては、例えば、アクリルアミドの重合物等が挙げられるが、これに限定されるものではない。また、カチオン基を有する高分子有機凝集剤としては、例えば、カチオン性有機凝結剤、カチオン性高分子有機凝集剤及び両性高分子有機凝集剤等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0031】
高分子凝集反応槽12で凝集(フロック化)した懸濁物質を含む原水は、沈殿槽14に供給される。沈殿槽14では、凝集した懸濁物質が沈降分離し、沈殿槽14の底部に堆積して汚泥となり、処理水は沈殿槽14の上部から取り出される。本実施形態の沈殿槽14は、上向流式沈殿槽が多く用いられるが、固液分離を行うことができる構成のものであれば特に制限されるものでなく、例えば、スラッジブランケット型沈殿槽等でもよい。
【0032】
沈殿槽14の底部には、モータにより回転するスクレーパ32が設けられており、スクレーパ32が回転することにより、沈殿槽14の底部に堆積した汚泥が沈殿槽14の底部中央に掻き寄せられる。そして、沈殿槽14の底部に接続されている汚泥循環ライン18には、汚泥引き抜きポンプ34が設置され、汚泥引き抜きポンプ34により、沈殿槽14底部に堆積した汚泥が引き抜かれる。汚泥引き抜きポンプ34は、制御部19からの指示により、汚泥の引き抜き量(汚泥返送量)を調整することができる。なお、汚泥返送量の調整については、後述する。
【0033】
汚泥引き抜きポンプ34により沈殿槽14から引き抜かれた汚泥は、汚泥循環ライン18を介して汚泥再生槽16に送られて再生処理され、再生汚泥として無機凝集反応槽10に返送される。汚泥再生槽16には、塩酸、硫酸、硝酸等の酸又は水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム等のアルカリを添加する酸・アルカリ添加ライン36が接続されており、酸・アルカリ添加ライン36から汚泥再生槽16へ酸又はアルカリが添加される。これにより、汚泥と酸又はアルカリとが混合され、汚泥中の凝集剤由来の成分(アルミニウム等)が溶解し、凝集機能の再生処理が行われる。なお、汚泥再生槽16内には、撹拌装置38が設置されているが、この撹拌装置38の設置は任意である。
【0034】
汚泥再生槽16の設置は、無機凝集剤の添加量を減らすことができる点で好ましいが、本実施形態では、必ずしも汚泥再生槽16を設置する必要はなく、沈殿槽14から引き抜いた汚泥を再生処理することなく、無機凝集反応槽10に供給するものでもよい。
【0035】
また、汚泥循環ライン18及び汚泥循環ライン18に接続される汚泥排出ライン20には、自動バルブ(AV)が設けられており、汚泥循環ライン18の自動バルブを閉じ、汚泥排出ライン20の自動バルブを開けることにより、沈殿槽14底部から引き抜かれた汚泥が、汚泥排出ライン20を通り、不図示の汚泥貯槽等に移送される。
【0036】
このような汚泥循環法、汚泥循環再生法を用いた凝集沈殿処理では、凝集工程で沈降性、濃縮性の高いフロック(凝集した懸濁物質)が形成される。しかし、前述した通り、沈降性、濃縮性の高いフロックは、沈殿槽14内で高濃度に濃縮された汚泥となりやすい。沈殿槽14で、汚泥の高濃度化が進行すると、沈殿槽14内の汚泥界面は上昇することなく、低下、もしくは一定位置で停滞する。このように沈殿槽14内の汚泥が非常に高濃度に濃縮されると、沈殿槽14の底部に堆積した汚泥を掻き寄せるスクレーパ32の動作不良等が起こる場合がある。また、沈殿槽14内の汚泥が非常に高濃度に濃縮されると、沈殿槽14から引き抜かれた汚泥が通る汚泥循環ライン18の閉塞等も起こる場合がある。
【0037】
ここで、凝集工程で形成されるフロックの性状を決定する因子としては、主に、凝集反応槽内(無機凝集反応槽10又は高分子凝集反応槽12)の汚泥濃度と、凝集反応槽内の汚泥濃度に対する高分子凝集剤添加量とが挙げられる。すなわち、凝集反応槽内の汚泥濃度を所定の範囲に保つように、汚泥返送量を調整することで、高分子凝集剤の添加量がフロック性状を支配する要因となる。そして、高分子凝集剤の添加量とフロック性状との関係は、高分子凝集剤の添加量を低減させれば、フロックの径、比重は共にそれまでと比較して小さくなる。その結果、沈殿槽14の汚泥も濃縮されにくい汚泥へと変質させることができ、沈殿槽14の底部に堆積した汚泥の過度な高濃度化を防止することが出来る。
【0038】
そこで、本実施形態では、通常の凝集反応処理に加え、沈殿槽14に堆積した汚泥の(過度な)高濃度化を防止する処理を行う。以下、具体的に説明する。
【0039】
無機凝集反応槽10には、超音波の減衰幅により無機凝集反応槽10内の汚泥濃度を測定する超音波式等の汚泥濃度計40が設置されており、汚泥濃度計40で検知された無機凝集反応槽10内の汚泥濃度が電気信号として制御部19に、随時送信される。そして、制御部19は、あらかじめ設定された無機凝集反応槽10内の汚泥濃度の目標値(又は目標範囲)となるように、汚泥引き抜きポンプ34による汚泥の引き抜き量を変化させ、汚泥返送量を調整する。汚泥引き抜きポンプ34の引き抜き量の調整はポンプ34のモータ回転数をインバータ等で制御する方式が望ましい。
【0040】
沈殿槽14には、沈殿槽14に堆積した汚泥の界面位置(高さ)を測定する汚泥界面計42が設置されており、汚泥界面計42で検知された汚泥の界面位置が電気信号として制御部19に、随時送信される。なお、汚泥界面計42は、超音波式の汚泥界面計であることが好ましいが、必ずしもこれに制限されるものではない。また、汚泥界面計42は圧力水噴射によりセンサーを定期的に自動洗浄する機構を有したものであることが望ましい。
【0041】
そして、本実施形態では、上記のように、無機凝集反応槽10内の汚泥濃度を一定の範囲内に保ちながら、汚泥界面計42にて沈殿槽14に堆積した汚泥の界面位置を随時検知していく。そして、制御部19は、汚泥界面計42により検知した汚泥の界面位置と沈殿槽14内に予め設定した第1基準位置を比較し、汚泥の界面位置が、所定時間(Ta)、予め設定された第1基準位置以下の時、沈殿槽14内の汚泥濃度が高濃度であると推定する(すなわち、沈殿槽14内の汚泥濃度が予め設定した第1基準濃度以上であると推定する)。この場合、制御部19はポンプ28を制御して、高分子凝集剤の添加量(通常の運転時において添加される高分子凝集剤の添加量)を低減させる。なお、本実施形態では、汚泥の界面位置と沈殿槽14内の汚泥濃度との関係を表すマップを用意し、該マップに汚泥界面計42により検知した汚泥の界面位置を当てはめることにより、沈殿槽14内の汚泥濃度を数値化してもよい。そして、算出した汚泥濃度が予め設定した第1基準濃度以上(汚泥の高濃度化を防止するための閾値)である場合、制御部19はポンプ28を制御して、高分子凝集剤の添加量を低減させる。
【0042】
上記第1基準位置は、沈殿槽14に堆積した汚泥の過度な高濃度化を防止する閾値として任意に設定されるものである。なお、沈殿槽14の容積やタイプによって第1基準位置は異なるものであるが、例えば、汚泥の過度な高濃度化によりスクレーパの動作不良が発生するおそれのある位置であり、図1に示すような通常の沈殿槽であれば直胴部下端、若しくは直胴部下端より上方1m以内の位置である。また、スラッジブランケット型沈殿槽であれば原水噴出口から下方0.5m以内の位置である。
【0043】
所定時間(Ta)は、沈殿槽14に堆積した汚泥の過度な高濃度化を防止する閾値として任意に設定されるものであるが、以下の式(1)を変形して得られる式(2)により求められることが好ましい。
(V×Cs+Css×Q×Ta)/(V×Cs)=Cs’/Cs (1)
Ta=(Cs’/Cs−1)×(V×Cs)/(Css×Q) (2)
V:第1基準位置までの沈殿槽の体積
Css:原水に含まれるSS濃度
Q:沈殿槽への単位時間当たりの通水量
Cs:沈殿槽に堆積する汚泥の初期想定濃度
Cs’:沈殿槽に堆積する汚泥の危険濃度
ここで、Csは、汚泥の沈降試験を行った時の等速沈降区間終端時における汚泥濃度以上であって、24時間静置後の汚泥濃度以下の値として設定される。Cs’は、汚泥が高濃縮された時の濃度として任意に設定されるものであり、例えば、15〜25(w/v)%に設定される。
【0044】
本実施形態では、その後も沈殿槽14内の汚泥の界面位置の検知を継続し、汚泥の界面位置が、所定時間(Ta)、第1基準位置以下の時、制御部19は、ポンプ28を制御して、さらに高分子凝集剤の添加量を低減させる。そして、汚泥の界面位置の判定と高分子凝集剤添加量の調整は、汚泥の界面位置の第1基準位置以上への上昇が確認されるまで繰り返され、第1基準位置以上への上昇が確認された場合は、その時の添加量を維持する。
【0045】
高分子凝集剤の添加量の減少幅は特に制限されるものではないが、通常の運転時において添加される高分子凝集剤の添加量の1/5〜1/2ずつ段階的に減少させることが好ましい。
【0046】
通常、高分子凝集剤添加量を低減した後に、原水性状に変化が生じた場合等では、凝集工程で形成されるフロックの径、比重が小さくなりすぎて、沈殿槽14の汚泥が十分に濃縮されない場合がある。このような場合には、汚泥界面位置が容易に上昇する。
【0047】
そこで、本実施形態では、高分子凝集剤の添加量低減後、汚泥の界面位置が上昇した場合であっても、制御部19は、汚泥界面計により検知した汚泥の界面位置と第2基準位置とを比較し、汚泥の界面位置が、所定時間(Tb)、予め設定された第2基準位置以上の時、沈殿槽14内の汚泥濃度が低濃度であると推定する(すなわち、沈殿槽14内の汚泥濃度が予め設定した第2基準濃度以下であると推定する)。この場合、制御部19は、ポンプ28を制御して、高分子凝集剤の添加量を増加させる。
【0048】
ここで、第2基準位置は、第1基準位置より上方であれば特に制限されるものではないが、汚泥を汚泥排出ライン20に流して系外に排出するための基準位置(汚泥排出基準位置)が設定されている場合には、汚泥排出基準位置以上が好ましい。汚泥排出基準位置以上に汚泥界面が存在すると、汚泥濃度が理想濃度よりも希薄な状態になっている可能性が示唆される。この場合、沈殿槽14内の汚泥界面が上昇しても汚泥排出基準位置に達すると、沈殿槽14内の汚泥が汚泥引き抜きポンプ34を介して汚泥排出ライン20より排出されるが、通常、このようなときは、沈殿槽14内の汚泥濃度が低い状態(薄まった状態)にあるため汚泥が膨張しやすく、汚泥排出速度よりも汚泥の膨張速度が大きい場合は、汚泥排出を行っていても、汚泥界面が汚泥排出基準位置以上に設けた第2基準位置に達することになる。なお、所定時間(Tb)は、任意に設定することができるが、汚泥排出ライン20を介して接続される汚泥濃縮槽(不図示)に極力負担をかけず、沈殿槽14内の汚泥の性状変化のモニタリングが可能な1〜6時間程度が好ましい。
【0049】
高分子凝集剤の添加量の増加幅は特に制限されるものではないが、通常の運転時において添加される高分子凝集剤の添加量の1/10〜1/2ずつ段階的に増加させることが好ましい。また、高分子凝集剤の添加量の増加幅は、高分子凝集剤の添加量の減少幅より小さくすることが好ましい。
【0050】
また、高分子凝集剤添加量を増加させた場合でも、高分子凝集剤添加量が過多になると、沈殿槽14に堆積する汚泥が高濃度に濃縮されていき、汚泥の界面位置が低下する。そこで、本実施形態では、高分子凝集剤添加量増加後、制御部19は、第2基準位置と汚泥界面計により検知した汚泥の界面位置とを比較し、汚泥の界面が、所定時間(Tc)、第2基準位置以下の時、汚泥の界面が第1基準位置よりも低くなるのを待たずに、制御部19は、ポンプ28を制御して、高分子凝集剤の添加量を低減させる。なお、所定時間(Tc)は、任意に設定することができるが、例えば、高分子凝集反応槽12及び沈殿槽14の原水滞留時間の合計時間以上の値とすることが好ましい。
【0051】
本実施形態の凝集沈殿処理の条件としては、例えば、所定時間(Ta,Tb,Tc)を120分〜360分の間に設定し、高分子凝集剤の通常の添加量(増減前の初期添加量)を1〜4mg/Lとし、一回の高分子凝集剤添加低減量を0.5mg/Lとし、一回の高分子凝集剤添加増加量を0.2mg/Lとし、高分子凝集剤添加量の下限値を0mg/Lとし、上限値を通常の添加量と等しくするのが良い。
【0052】
以上のように、無機凝集反応槽10の汚泥濃度を一定の範囲内に保ちながら、沈殿槽14内の汚泥の界面位置を測定し、その測定結果に基づいて高分子凝集剤の添加量を調整することにより、沈殿槽14に堆積する汚泥の高濃度化を防止することができる。
【0053】
これまで、沈殿槽14内の汚泥濃度を、汚泥の界面位値を測定することにより推定していたが、他の実施形態としては、上記方法の代わりに、沈殿槽内の汚泥濃度を、汚泥循環ライン18等に設置した汚泥濃度計18bにより測定してもよい。そして、その測定結果に基づいて高分子凝集剤の添加量を調整する。
【0054】
例えば、他の実施形態では、上記のように、無機凝集反応槽10の汚泥濃度を一定の範囲内に保ちながら、汚泥循環ライン18に設置した汚泥濃度計18bにより、汚泥濃度を随時検知していく。そして、制御部19は、汚泥濃度計18bにより検知した汚泥濃度と予め設定した第1基準濃度を比較し、汚泥濃度が、第1基準濃度以上の時、ポンプ28を制御して、高分子凝集剤の添加量を低減(通常の運転時において添加される高分子凝集剤の添加量)させる。これにより、凝集工程で形成されるフロックの径、比重を小さくすることができるため、沈殿槽14内の汚泥の高濃度化を防止することができる。ここで、第1基準濃度は、沈殿槽14に堆積した汚泥の過度な高濃度化を防止する閾値として任意に設定されるものである。
【0055】
また、本実施形態では、高分子凝集剤の添加量低減後、沈殿槽14内の汚泥濃度が低減した場合であっても、制御部19は、汚泥濃度計18bにより検知した汚泥濃度と第2基準濃度とを比較し、汚泥濃度が、第2基準濃度以下の時、ポンプ28を制御して、高分子凝集剤の添加量を増加させる。これにより、沈殿槽14内の汚泥の低濃度化を抑制することができる。ここで、第2基準濃度は、沈殿槽14内の汚泥の低濃度化を抑制するために、第1基準濃度より小さく設定される。
【0056】
また、本実施形態における凝集沈殿処理装置では、無機凝集剤と高分子凝集剤が添加されているが、少なくとも高分子凝集剤が添加されていれば、無機凝集剤を添加しなくてもよい。その場合は、無機凝集反応槽10は備えておらず、沈殿槽14から引き抜かれた汚泥は、汚泥再生槽16を介して又は汚泥再生槽16を設置せずに高分子凝集反応槽12に返送される。この場合は、高分子凝集反応槽12内の汚泥濃度が目標値(又は目標範囲)となるように、汚泥引き抜きポンプ34による汚泥の引き抜き量を変化させ、汚泥返送量を調整すること以外は変わりがなく、高分子凝集剤の添加量は、沈殿槽14の汚泥界面の状況で調整する。
【実施例】
【0057】
以下、実施例および参考例を挙げ、本発明をより具体的に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0058】
図2は、実施例及び比較例で使用した処理装置の構成を示す模式図である。図2に示す処理装置は、比較例1,2の凝集沈殿処理装置2,3、実施例の凝集沈殿処理装置4を並列に設置し、河川水(原水)を分配供給した。
【0059】
実施例及び比較例1,2の凝集沈殿処理装置は、懸濁物質を含む原水にpH調整用の塩酸、および無機凝集剤としてのポリ塩化アルミニウム(PAC)を添加し、懸濁物質を凝集(フロック化)させる無機凝集反応槽44と、無機凝集反応槽44から排出された原水に高分子凝集剤(ポリアクリルアミドを使用。以後ポリマーと称す。)を添加し、凝集した懸濁物質の粒子を成長させる高分子凝集反応槽46と、高分子凝集反応槽46から排出された原水中の凝集した懸濁物質を沈殿させ、処理水と分離する沈殿槽48と、沈殿槽48から引き抜かれた汚泥にアルカリを添加して再生処理する汚泥再生槽49と、を備える。汚泥再生槽49で再生処理された汚泥は、無機凝集反応槽44へ返送される。
【0060】
また、沈殿槽48内には沈殿槽48に堆積した汚泥界面の位置を測定し、常時測定結果を制御部50へと伝達する汚泥界面計52を設置した。沈殿槽14の底部には、沈殿槽14の底部中央に汚泥を掻き寄せるスクレーパ53を設置した。また、汚泥循環ライン56には、沈殿槽48底部に堆積した汚泥の一部を引き抜く汚泥引き抜きポンプ54を設置した。また、不図示であるが、汚泥循環ライン56には、引き抜いた汚泥の流量を測定する汚泥流量計と、引き抜いた汚泥の濃度を測定する汚泥濃度計と、を設置した。そして、汚泥流量計及び汚泥濃度計の測定結果は、常時制御部50へ送信される。
【0061】
実施例1の凝集沈殿処理装置4の無機凝集反応槽44には、無機凝集反応槽44内の汚泥濃度を測定し、その測定結果を常時制御部50へ送信する汚泥濃度計58を設置した。そして、無機凝集反応槽44内の汚泥濃度が一定の値となるように、制御部50は、汚泥引き抜きポンプ54を調整し、汚泥流量を制御する。また、制御部50は、沈殿槽48内の汚泥の界面位置に応じて、高分子凝集剤を添加するポンプ(不図示)を調整し、高分子凝集剤の添加量を制御する。
【0062】
また、不図示であるが、汚泥循環ライン56には汚泥排出ラインが接続されており、汚泥排出ラインには自動バルブが設けられている。そして、沈殿槽48底部に堆積した汚泥の界面が沈殿槽48の底部より0.8mの位置を上回ると、汚泥排出ライン上の自動バルブが間欠で開閉し、循環汚泥の一部が系外に排出されるようにした。
【0063】
<試験装置>
無機凝集反応槽サイズ:1.0m3
高分子凝集反応槽サイズ:1.0m3
沈殿槽サイズ:3.5m3(有効面積1.0m2
汚泥再生槽:0.3m3
【0064】
<処理条件>
原水を河川水とし、実施例及び比較例1,2の凝集沈殿処理装置に同時に分配供給し、計約15日間の連続運転を行った。通水量は各装置とも6m3/hとした。なお、実験開始前に5日間の連続運転を行っており、これによって沈殿槽48の底部から0.8mの位置まで汚泥を蓄積させてから実験を開始した。この5日間の原水濁度は200mg/L程度で安定していた。
【0065】
<無機凝集剤:PACの添加条件>
各装置とも原水濁度の変動に応じて下記のような注入条件とした。原水濁度100〜300mg/Lのとき120mg/LのPACを添加し、原水濁度300〜500mg/Lのとき200mg/LのPACを添加し、原水濁度500mg/L以上のとき500mg/LのPACを添加した。
【0066】
<有機高分子凝集剤:ポリアクリルアミドの添加条件>
実施例では、通常時2mg/Lのポリマーを添加し、汚泥界面位置が第1基準位置以下にある場合、6時間(所定時間Ta)毎に0.5mg/Lずつポリマー添加量を低減した。低減させた後、汚泥界面が第2基準位置(沈殿槽48の底部より0.8mの位置)以上の位置にある場合、6時間(所定時間Tb)毎に0.2mg/Lずつ増量した。また、増量させた後、2時間(所定時間Tc)後に第2基準位置以下となった場合は増量前の添加量に低減し、第2基準位置以上の場合は引き続き6時間(所定時間Tb)毎に0.2mg/Lずつ増量した。なお、ポリマー添加量の上限は2mg/L、下限は0mg/Lとした。比較例1,2では、常時2mg/Lのポリマー添加量で固定した。
【0067】
上記所定時間Ta(6時間)は、V(第1基準位置までの沈殿槽48の体積)を0.5m3とし、Css(原水に含まれるSS濃度)を0.2(w/v)%とし、Q(沈殿槽48への単位時間当たりの通水量)を6m3/hとし、Cs(沈殿槽48に堆積する汚泥の初期想定濃度)を5(w/v)%とし、Cs’(沈殿槽48に堆積する汚泥の危険濃度)を20(w/v)%として、上式(2)に当てはめることにより算出された値である。また、上記所定時間Tc(2時間)は、高分子凝集反応槽46及び沈殿槽48の原水滞留時間の合計時間以上の値として任意に設定したものである。なお、高分子凝集反応槽46及び沈殿槽48の原水滞留時間は、槽容積及び単位時間当たりの原水通水量から算出され、それぞれ10分、35分であるが(合計時間は45分)、確実に汚泥界面位置の変化が確認されうる時間として、所定時間Tcを2時間とした。
【0068】
<汚泥循環量>
実施例 では、汚泥返送先である無機凝集反応槽44内の汚泥濃度が5000mg/Lとなるように、制御部50により汚泥引き抜きポンプ54の出力を制御した。比較例1では、常時原水流量の10%に固定した。比較例2では、汚泥循環流量(L/h)=R×(原水濁度(mg/L)×原水通水量6000(L/h))/循環汚泥濃度(mg/L) 、R=25として、制御部50により汚泥引き抜きポンプ54の出力を制御した。
【0069】
<試験結果>
試験中の原水濁度の推移は、図3に示す通りであった。これに基づいて、実験期間を以下のような5つの期間に大別した。
期間1:実験開始後0〜100時間(原水濁度最大値289mg/L・最小値198mg/L、PAC添加量120mg/L)
期間2:実験開始後100時間〜218時間(原水濁度最大値462mg/L・最小値309mg/L、PAC注入量200mg/L)
期間3:実験開始後218時間〜258時間(原水濁度最大値289mg/L・最小値221mg/L、PAC注入量120mg/L)
期間4:実験開始後258時間〜330時間(原水濁度最大値1463mg/L・最小値503mg/L、PAC注入量500mg/L)
期間5:実験開始後330時間〜368時間(原水濁度最大値483mg/L・最小値321mg/L、PAC注入量200mg/L)
【0070】
また試験期間中、沈殿槽48の汚泥界面位置、汚泥循環流量を常時記録し、また沈殿槽48の汚泥濃度を6時間毎に測定した。図4は、実施例及び比較例1,2の汚泥循環流量の推移を示す図であり、図5は、実施例及び比較例1,2の沈殿槽の汚泥濃度の推移を示す図であり、図6は、実施例及び比較例1,2の沈殿槽の汚泥界面位置の推移を示す図であり、図7は、実施例のポリマー注入量の推移を示す図である。
【0071】
比較例1において、期間1では、沈殿槽48の汚泥濃度が5(w/v)%前後で運転された。期間2では原水濁度が400mg/L前後と、期間1よりも上昇し、またPAC添加量も120mg/Lから200mg/Lへと増量したため、形成されるフロックの性状が変化し、期間2での沈殿槽48の汚泥濃度は上昇を続けた。そして、期間2での運転開始からおよそ60時間後には汚泥濃度が25.5(w/v)%まで上昇し、スクレーパ53に過負荷が掛かり、運転を停止した。
【0072】
比較例2において、期間1では、比較例1と同様、沈殿槽48の汚泥濃度が5(w/v)%程度で、汚泥循環流量がおよそ600L/h程度であり、安定して運転が行われた。期間2では、比較的高い濁度の原水が流入したが、これに応じて汚泥循環流量を変動させることでフロックの性状を適切に保ち、沈殿槽48の汚泥濃度が5.5(w/v)%程度で安定した。次に期間3では、原水濁度は期間1と同程度であり、この原水濁度に応じて汚泥循環流量を制御したことで、期間1とほぼ同様に、汚泥循環流量は約600L/h、沈殿槽48の汚泥濃度は5(w/v)%で、安定して運転が行われた。期間4では、汚泥界面位置が沈殿槽48の底部より0.8m程度の位置でほぼ安定していた期間1〜3と比較して、界面位置が徐々に低下し系外排出が不可能な状態になった。これは、期間4で原水濁度が急激に上昇し、PAC添加量も120mg/Lから500mg/Lへと増量したため、形成されるフロック、および汚泥の改質が起こったためと考えられる。また、期間4においても原水濁度の変動に合わせて汚泥循環流量の調整が行われたが、汚泥の高濃度化は進行し運転開始からおよそ265時間後には、汚泥濃度が7.1(w/v)%にまで上昇した。また、汚泥循環流量が汚泥引き抜きポンプ54の吐出限界量である1800L/h(原水流量の30%)へと達し、運転開始からおよそ265時間後から300時間までの間、汚泥循環流量は1800L/h程度を示し続けた。このとき、汚泥循環量調整機構が十分に機能せず、高濃度化がさらに進んだと考えられる。その結果、運転開始から295時間後には、汚泥濃度が27(w/v)%に到達し、スクレーパ53に過負荷が掛かり、運転を停止した。
【0073】
実施例において、期間1〜3では、比較例2と同様に安定して運転することが可能であった。期間2においては、沈殿槽48の汚泥濃度に若干の上昇が認められたが、汚泥循環流量を500L/h程度にまで低下させ、無機凝集反応槽44内の汚泥濃度をほぼ一定に保つことで、無機凝集反応槽44で形成されるフロック性状の変化は最小限に抑えられた。これによって、比較例1では高濃度化が進行した期間2においても、沈殿槽48の汚泥濃度は6〜6.5%に保たれ、安定した運転が可能であった。期間4の当初は、比較例2と同様に汚泥の高濃度化が認められ、運転開始からおよそ265時間後には、汚泥濃度が約8(w/v)%まで上昇した。その後も汚泥の濃縮は進行し、汚泥界面の低下が生じた。そして、運転開始からおよそ266時間後には、汚泥濃度は10(w/v)%にまで上昇して、汚泥界面位置が第1基準位置を下回った。その後6時間以上、同じく第1基準位置以下であったことが検知されたため、ポリマー添加量を2mg/Lから1.5mg/Lへと低減させた。これにより、汚泥界面が上昇し、汚泥濃度は運転開始からおよそ274時間経過後には6.5(w/v)%にまで低下し、また、汚泥界面位置も沈殿槽底部より0.8mの位置まで上昇し汚泥の系外排出が行われるようになった。これは、ポリマー添加量が低減されたことで形成されるフロックが小径で、比重の小さなものへと変化したため、フロックの沈降性が低下し、汚泥界面位置が一時的に上昇したものと考えられる。
【0074】
しかし、その後、フロックは次第に沈降性の高い性質へと改質され、運転開始から280時間経過後には、汚泥界面位置が第1基準位置を下回り、また第1基準位置以下の状態が6時間継続したため、高分子凝集剤添加量を1.5mg/Lから1mg/Lへと低減した。これによって徐々に汚泥界面位置は上昇し、汚泥濃度も次第に低下し、運転開始からおよそ288時間後には、汚泥界面位置が沈殿槽48の底部から0.8mで安定し、また汚泥濃度が8(w/v)%程度で安定した(比較例2では汚泥の高濃度化が進行した結果、汚泥濃度は20(w/v)%まで上昇した。)。
【0075】
その後、汚泥界面位置が第2基準位置(沈殿槽48の底部から0.8m)を6時間以上維持したため(運転開始から294時間後)、高分子凝集剤添加量を1mg/Lから1.2mg/Lへと増量した。その後2時間経過後(運転開始から296時間後)も汚泥界面位置は第2基準位置を上回っていたため高分子凝集剤添加量を1.2mg/Lで維持した。その後、6時間経過後(運転開始からおよそ302時間後)も、汚泥界面位置が第2基準位置以上の位置に位置していたため、高分子凝集剤添加量を1.2mg/Lから1.4mg/Lへと増量した。そして、その2時間後には、汚泥濃度が8(w/v)%から9(w/v)%へと上昇し、また汚泥界面位置が沈殿槽48の底部より0.65mとなり、第2基準位置を下回っていたことから、高分子凝集剤添加量を1.4mg/Lから1.2mg/Lへと低減した。その後も汚泥界面位置に基づいた高分子凝集剤添加量の調整を行い、期間4終了時には、高分子凝集剤添加量を1.6mg/Lまで増量した。このときの汚泥濃度は7〜8(w/v)%に安定していた。
【0076】
期間5では、原水濁度が再度低下したため、これに伴ってPAC注入量を500mg/Lから200mg/Lへと低減した。また、高分子凝集剤添加量は、最終的に当初の添加量である2mg/Lまで増量した。そして、汚泥界面位置は第2基準位置で安定し、また汚泥濃度は運転開始から368時間経過後の試験終了時まで6.5(w/v)%程度で安定した。なお、処理水濁度については、期間1〜3及び5では、0.2〜0.4mg/L程度で推移し良好であった。期間4においては、原水の高濁度化によりその他の期間と比較して若干の水質悪化は認められたが、安定したフロック形成が可能であったため、処理水濁度は1mg/L程度で安定して処理することが可能であった。実施例では、汚泥の高濃度化に起因するトラブルが無く、およそ370時間の安定した連続運転が可能であった。
【符号の説明】
【0077】
1〜4 凝集沈殿処理装置、10,44 無機凝集反応槽、12,46 高分子凝集反応槽、14,48 沈殿槽、16,49 汚泥再生槽、18,56 汚泥循環ライン、18a 流量計、18b 汚泥濃度計、19,50 制御部、20 汚泥排出ライン、22無機凝集剤添加ライン、24,30,38 撹拌装置、26 高分子凝集剤添加ライン、28,54 ポンプ、32,53 スクレーパ、34 汚泥引き抜きポンプ、36 酸・アルカリ添加ライン、40 汚泥濃度計、42,52 汚泥界面計、58 汚泥濃度計。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも高分子凝集剤を添加して、原水中の懸濁物質を凝集させる凝集工程と、
前記凝集工程で凝集した懸濁物質を含む汚泥を沈殿槽内で沈殿させて処理水と分離する固液分離工程と、
前記分離した汚泥を前記凝集工程に返送するか、又は前記分離した汚泥に酸又はアルカリを添加して汚泥を再生処理した後に、前記再生処理した汚泥を前記凝集工程に返送する汚泥返送工程と、を備え、
前記汚泥返送工程では、前記凝集工程における汚泥濃度が一定の範囲となるように、返送する汚泥量を調整し、
前記凝集工程では、前記固液分離工程で分離した沈殿槽内の汚泥濃度が予め設定された第1基準濃度以上の時、前記高分子凝集剤の添加量を低減させることを特徴とする凝集沈殿処理方法。
【請求項2】
請求項1記載の凝集沈殿処理方法であって、前記沈殿槽に堆積した汚泥の界面位置を測定し、前記沈殿槽内の汚泥濃度を推定する汚泥濃度推定工程を備え、
前記凝集工程では、前記測定した汚泥の界面位置が、所定時間、前記沈殿槽に設定した第1基準位置以下の時に前記沈殿槽内の汚泥濃度が第1基準濃度以上と判断し、前記高分子凝集剤の添加量を低減させることを特徴とする凝集沈殿処理方法。
【請求項3】
請求項1記載の凝集沈殿処理方法であって、前記固液分離工程で分離した沈殿槽内の汚泥濃度が、前記第1基準濃度より低い濃度に設定した第2基準濃度以下の時、前記高分子凝集剤の添加量を増加させることを特徴とする凝集沈殿処理方法。
【請求項4】
請求項3記載の凝集沈殿処理方法であって、前記凝集工程では、前記測定した汚泥の界面位置が、所定時間、前記第1基準位置より上方に設定した第2基準位置以上の時に前記沈殿槽内の汚泥濃度が第2基準濃度以下と判断し、前記高分子凝集剤の添加量を増加させることを特徴とする凝集沈殿処理方法。
【請求項5】
請求項4記載の凝集沈殿処理方法であって、前記凝集工程では、前記高分子凝集剤の添加量を増加した後、所定時間、前記測定した汚泥の界面位置が、前記第2基準位置以下の時、前記高分子凝集剤の添加量を低減させることを特徴とする凝集沈殿処理方法。
【請求項6】
少なくとも高分子凝集剤を添加して、原水中の懸濁物質を凝集させる凝集手段と、
前記凝集手段により凝集した懸濁物質を含む汚泥を沈殿させて処理水と分離する沈殿槽と、
前記分離した汚泥を前記凝集手段に返送するか、又は前記分離した汚泥に酸又はアルカリを添加して汚泥を再生処理した後に、前記再生処理した汚泥を前記凝集手段に返送する汚泥返送手段と、を備え、
前記汚泥返送手段では、前記凝集手段内の汚泥濃度が一定の範囲となるように、返送する汚泥量を調整し、
前記凝集手段では、前記沈殿槽内で分離した汚泥濃度が予め設定された第1基準濃度以上の時、前記高分子凝集剤の添加量を低減させることを特徴とする凝集沈殿処理装置。
【請求項7】
請求項6記載の凝集沈殿処理装置であって、前記沈殿槽に堆積した汚泥の界面位置を測定し、前記沈殿槽内の汚泥濃度を推定する汚泥濃度推定手段を備え、
前記凝集手段では、前記測定した汚泥の界面位置が、所定時間、前記沈殿槽に設定した第1基準位置以下の時に前記沈殿槽内の汚泥濃度が第1基準濃度以上と判断し、前記高分子凝集剤の添加量を低減させることを特徴とする凝集沈殿処理装置。
【請求項8】
請求項6記載の凝集沈殿処理装置であって、前記沈殿槽内の汚泥濃度が、前記第1基準濃度より低い濃度に設定した第2基準濃度以下の時、前記高分子凝集剤の添加量を増加させることを特徴とする凝集沈殿処理装置。
【請求項9】
請求項8記載の凝集沈殿処理装置であって、前記凝集手段では、前記測定した汚泥の界面位置が、所定時間、前記第1基準位置より上方に設定した第2基準位置以上の時に前記沈殿槽内の汚泥濃度が第2基準濃度以下と判断し、前記高分子凝集剤の添加量を増加させることを特徴とする凝集沈殿処理装置。
【請求項10】
請求項9記載の凝集沈殿処理装置であって、前記凝集手段では、前記高分子凝集剤の添加量を増加した後、所定時間、前記測定した汚泥の界面位置が、前記第2基準位置以下の時、前記高分子凝集剤の添加量を低減させることを特徴とする凝集沈殿処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−45494(P2012−45494A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−190500(P2010−190500)
【出願日】平成22年8月27日(2010.8.27)
【出願人】(000004400)オルガノ株式会社 (606)
【Fターム(参考)】