説明

凸版印刷機

【課題】被印刷基板上に転写不良のない均一な膜厚の印刷パターンを転写可能な凸版印刷機を提供すること。
【解決手段】被印刷基板に微細パターンを印刷する印刷機であって、移動定盤と、回転式の版胴と、凸版と、アニロックスロールと、インキ供給装置と、前記アニロックスロールと前記凸版とを接触させてインキを前記凸版上に転写する機構と、前記凸版の周囲を覆うように配置された版カバーと、を備え、前記凸版上に転写されたインキを前記被印刷基板に接触させて転写する凸版印刷機において、
前記版カバーは、前記インキを前記アニロックスロールから前記凸版上への転写を介して前記被印刷基板に転写するまでの間の、前記凸版上に前記インキが転写されている領域に配置されていることを特徴とする印刷機としたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶剤に溶解してなるインキを被印刷基板上に印刷することにより均一な膜厚の印刷パターンを形成するための印刷機に関する。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、有機EL素子)は、二つの対向する電極基板間に有機発光材料を有する有機発光層が挟持された構造をもつ発光素子で、電圧の印加により陽極から正孔、陰極から電子が注入され、この正孔と電子の対が有機発光層表面あるいは内部で再結合することによって発生したエネルギーを光として取り出す素子である。有機発光層は一層から多層のものがあるが、効率よく発光させるためには、それぞれの層の膜厚コントロールが重要であり、例えば100nm程度の薄膜にする必要がある。さらに、ディスプレイ化するためには有機発光層を均一な膜厚で高精細にパターニングする必要がある。
【0003】
有機EL素子をフルカラー化するために発光層をパターニングする手段としては、低分子系材料を用いる場合は、所望の画素形状に応じたパターンが形成されたマスクを用いて、異なる発光色の発光材料を所望の画素に対応した部分に蒸着し形成する方法が行われている。この方法は所望の形状に薄膜を均一に形成する優れた方法であるが、蒸着される基板が大型になると、マスク精度の点からパターンの形成が困難になるという問題点がある。
【0004】
一方、高分子系材料を用いる場合は、溶媒に溶解または分散させることにより有機高分子発光材料をインキ化し、主にインクジェット法によるパターン形成と、印刷によるパターン形成方法が提案されている。例えば、特開平10−12377号公報(特許文献1)に開示されているインクジェット法は、インクジェットノズルから溶剤に溶かした発光材料を基板上に噴出させ、基板上で乾燥させることで所望のパターンを得る方法である。しかしながら、ノズルから噴出されたインク液滴は球状であり、基板上に着弾する際にインクが円形状に広がることで、パターニング形状が悪い、着弾精度が低くパターンの直線性が得られないという問題点がある。これに対し、例えば、特開2002−305077号公報(特許文献2)に開示されている手法では、予め基板上にフォトリソグラフィーなどを用いて、撥インク性が発現する材料でバンクを形成し、そこにインク液滴を着弾させることで、バンク形状に応じてインクがはじかれて、直線性のあるパターンが得られる。しかし、はじいたインクが画素内に戻るときに画素内部でインクが盛り上がり、画素内の有機発光層の膜厚にばらつきができてしまうという問題が残る。
【0005】
印刷によるパターン形成方法としては、凹版印刷、平版印刷、スクリーン印刷、凸版印刷などが提案されている。しかしながら、被印刷基板としてガラス基板等を用いる有機EL素子やディスプレイでは、基板のキズやゆがみが好ましくないことから、グラビア印刷法のように金属製の印刷版等の硬い版を用いる方法は不向きである。また、有機発光層形成材料を溶媒に溶解若しくは分散させたインキは一般に粘度が低いため、オフセット印刷やスクリーン印刷には適さない。これに対し、ゴムやその他の樹脂を主成分とした感光性樹脂版を用いる凸版印刷法は、ガラス基板を傷つけることもなく、低粘度のインキにも適している。実際に、凸版印刷法による有機発光層の形成が提唱されている(特許文献3)。
【0006】
凸版印刷法に用いられる印刷機のインキ供給ユニットでは、溶剤の揮発によるインキ粘度変化を抑制するために密閉系が多く採用されている。また、アニロックスロール表面の大気暴露を極力小さくしたユニットを使用することでアニロックスロール表面における溶剤揮発を抑制する装置も提案されている(特許文献4)。
【0007】
凸版印刷法では、アニロックスロール上のインキを凸版に転写させた後、被印刷基板にパターニングする。このとき、薄膜形成のため凸版上に転写されたインキは微量であるため、常に全面にインキが存在するアニロックスロールと比較して溶剤の揮発が進行しやすい。凸版上で過度に乾燥が進行したインキは被印刷基板へのパターニング不良が起きる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10−12377号公報
【特許文献2】特開2002−305077号公報
【特許文献3】特開2008−216949号公報
【特許文献4】特開2009−59496号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記問題を解決するためになされたものであって、その目的は被印刷基板上に転写不良のない均一な膜厚の印刷パターンを転写可能な凸版印刷機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するための手段として、請求項1に記載の発明は、被印刷基板に微細パターンを印刷する印刷機であって、前記被印刷基板を搬送するための移動定盤と、前記定盤上に配置される回転式の版胴と、前記版胴の周囲に配置された凸版と、前記版胴の回転軸と同一方向の回転軸となるよう配置されたアニロックスロールと、前記アニロックスロールにインキを供給するインキ供給装置と、前記アニロックスロールと前記凸版とを接触させて前記インキを前記凸版上に転写する機構と、前記凸版の周囲を覆うように配置された版カバーと、を備え、前記凸版上に転写されたインキを前記被印刷基板に接触させて転写する凸版印刷機において、前記版カバーは、前記インキを前記アニロックスロールから前記凸版上への転写を介して前記被印刷基板に転写するまでの間の、前記凸版上に前記インキが転写されている領域に配置されていることを特徴とする印刷機である。
【0011】
また、請求項2に記載の発明は、被印刷基板に微細パターンを印刷する印刷機であって、前記被印刷基板を搬送するための移動定盤と、前記定盤上に配置される回転式の版胴と、前記版胴の周囲に配置された凸版と、前記版胴の回転軸と同一方向の回転軸となるよう配置されたアニロックスロールと、前記アニロックスロールにインキを供給するインキ供給装置と、前記アニロックスロールと前記凸版とを接触させて前記インキを前記凸版上に転写する機構と、前記凸版の周囲を覆うように配置された版カバーと、を備え、前記凸版に転写されたインキを前記被印刷基板に接触させて転写する凸版印刷機において、前記版カバーは、前記インキを前記アニロックスロールから前記凸版上へ転写する領域と、前記凸版から前記被印刷基板へ転写する領域を除く全面に配置されていることを特徴とする印刷機である。
【0012】
また、請求項3に記載の発明は、前記版カバーの内面は、前記版胴の周囲に配置された前記凸版の曲率と同一の曲率をもつことを特徴とする請求項1または2に記載の印刷機である。
【0013】
また、請求項4に記載の発明は、前記インキの粘度は2〜120mPa・sであることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の印刷機である。
【0014】
また、請求項5に記載の発明は、前記版カバーの材料は金属であることを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の印刷機である。
【0015】
また、請求項6に記載の発明は、前記インキに用いる溶剤の沸点が100〜250℃であることを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載の印刷機である。
【0016】
また、請求項7に記載の発明は、前記版カバーは、該版カバーが前記凸版を覆う領域を調整する機構を持つことを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項に記載の印刷機である。
【0017】
また、請求項8に記載の発明は、有機発光材料と溶剤からなるインキをアニロックスロール上に均一に塗布する工程と、前記アニロックスロール上のインキを凸版上に転写する工程と、前記凸版上に転写されたインキを前記凸版の移動と共に搬送する工程と、前記凸版上のインキを被印刷基板に転写する工程と、からなる有機EL素子の製造方法であって、前記凸版上に転写されたインキを前記凸版の移動と共に搬送する工程は、前記凸版を覆う版カバーと前記凸版とで作られる閉空間中で行なわれることを特徴とする有機EL素子の製造方法である。
【発明の効果】
【0018】
以上より、本発明によれば、アニロックスロールから凸版へのインキの転写領域から凸版から被印刷基板へのインキの転写領域まで、または、アニロックスロールから凸版への転写領域と、凸版から被印刷基板への転写領域を除く凸版全面に、凸版の曲率と同一の曲率をもつ金属製の版カバーを設けることにより、インキを凸版上に転写した後、被印刷基板にパターニングするまでの間に、凸版上のインキの乾燥を抑制することで膜厚にムラの無い均一な印刷パターンが形成できる。
【0019】
また、インキ粘度を2〜120mPa・sにすることにより、凸版上でのインキのレベリング性が向上し、面内の膜厚均一性を向上することができる。
【0020】
また、インキに用いる溶剤の沸点が100〜250℃にすることにより、アニロックスロールや凸版上に転写されたインキが不均一に乾燥されることを抑制し、被印刷基板に転写不良のない、均一な印刷パターンが形成でき、印刷パターン形成後に有機発光層中に溶剤が残存するといった問題が無い。
【0021】
また、凸版を覆う版カバーに凸版を覆う領域を用いる溶剤の沸点に合わせて調整する機構を設けることで、アニロックスロールから凸版へのインキの転写に適した粘度と凸版から被印刷基板へのインキの転写に適した粘度が異なる場合でも、凸版上において凸版から被印刷基板への印刷に適した粘度に調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の印刷機の一例を説明する概略断面図
【図2】凸版から被印刷基板への転写領域を除く凸版全面を閉空間とした本発明の印刷機の一例を説明する概略断面図
【図3】従来の印刷機の概略断面図
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明にかかる印刷機の実施の形態について図面を参照して説明する。なお、以下に説明する実施の形態に限定されるものではない。
【0024】
本発明の実施の形態に係る印刷機は、図1に示すように、回転式の版胴102、版胴102の周囲に形成される発光パターン形成用の凸版101と、被印刷基板106を搬送する移動定盤と、凸版101上にインキを供給するアニロックスロール104と、アニロックスロール104にインキを供給するインキ供給装置103と、凸版101上のインキの乾燥を防ぐ版カバー108を含んで構成されている。次に、本発明の各構成を詳細に説明する。
【0025】
版胴102は移動定盤上に配置されるものであり、定位置に回転可能に支持されている。凸版101は、版胴102の周面に装着されている。アニロックスロール104は版胴102の回転軸線と平行にかつ凸版101の表面の版面と接触するように設置されている。インキ供給装置103はインキ供給装置103の種類に応じて、アニロックスロール104とインキ供給装置103の供給口とが接するよう設置されている。被印刷基板106は移動定盤上に載置されている。移動定盤は版胴102の回転軸と直交する方向に水平に移動するよう設置されている。版カバー108は被印刷基板106及びアニロックスロール104が凸版101と接する部分とその周囲以外の凸版101の周囲に、版カバー108内部表面と凸版101の版面が接触せずに凸版101の版面を覆って設置されている。
【0026】
アニロックスロール104の回転に伴い、インキ供給装置103から供給されたインキはアニロックスロール104表面に均一に保持されたあと、版胴102に取り付けされた凸版101の版面に転移する。被印刷基板106は摺動可能な移動定盤上に固定され、凸版101のパターンと基板のパターンの位置調整機構により、位置調整しながら印刷開始位置まで移動する。印刷開始位置からは被印刷基板106は凸版101の凸部と接して版胴102の回転と同期しながら移動し、凸版101から被印刷基板106の所定位置にパターニングしてインキを転写し、有機機能層を形成する。被印刷基板106にインキパターンが設けられた後は、必要に応じてオーブンなどによる乾燥工程を設けることができる。
【0027】
本発明の実施の形態に係るアニロックスロール104は、版胴102の周速と同一の周速で回転しながらインキを凸版101に供給するものである。アニロックスロール104はクロム製やセラミックス製のものを用いることができ、アニロックスロール104の外周面には、インキを保持するための細かい孔や凹部、セル状などのパターンが形成されていることが望ましい。
【0028】
アニロックスロール104と凸版101とが当接する位置は、インキ供給手段が移動定盤及び被印刷基板106と干渉しない限り、出来るだけ版胴102の直下、すなわち版胴102の回転に伴い凸版101と被印刷基板106とが接触する点に近い方が、凸版101へのインキ供給位置から凸版101と被印刷基板106との接触点までの間の距離を短くできると同時に凸版101の版面にインキが塗布されている時間が短くなり、インキの乾燥が防げるため望ましい。
【0029】
本発明の実施の形態に係るインキ供給装置103は、滴下型のインキ供給装置103、ファウンテンロール、ダイコーター、キャップコーターなどのコーターやそれらを組み合わせたものなどを用いることができる。また、アニロックスロール104上に均一にインキを供給する為にドクターブレードを併設することが望ましい。さらに、インキ供給装置103にインキを補充するインキ補充装置(図示せず)や、インキを保存するインキタンク(図示せず)が接続されていることが望ましい。
【0030】
本発明の実施の形態に係る凸版101に用いられる凸版101の基材となる材料は、印刷に対する機械的強度を有すれば良く、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリブタジエン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、ポリアミド、ポリエーテルスルホン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリビニルアルコールなどの公知の合成樹脂、鉄や銅、アルミニウムといった公知の金属、またはそれらの積層体を用いることができる。
【0031】
さらに、凸版101を構成する基材としては、高い寸法安定性を保持するものが望ましく、基材として用いられる材料としては金属が好適に使用される。基材として用いられる金属としては鉄、アルミニウム、銅、亜鉛、ニッケル、チタン、クロム、金、銀やそれらの合金、積層体などが挙げられるが、特に、加工性、経済性から鉄を主成分とするスチール基材やアルミ基材を好適に用いることができる。
【0032】
凸版101の版面を樹脂で形成する場合、その版面上の凸部の形成方法としてはポジ型感光性樹脂を用いたフォトリソグラフィー法、ネガ型感光性樹脂を用いたフォトリソグラフィー法、射出成型、凸版印刷法、凹版印刷法、平版印刷法、孔版印刷法、レーザーアブレーション法等の種々のパターン成型法を用いることができるが、パターンの高精細さの観点から、感光性樹脂を用いたフォトリソグラフィー法が望ましく、また、要求精度の凸版を形成可能なネガ型感光性樹脂を用いたフォトリソグラフィー法が最も望ましい。
【0033】
感光光性樹脂を用いたフォトリソグラフィー法を凸部パターン形成法として適用する場合、基材層、反射抑制層、感光性樹脂層が順次積層されている板状感光性樹脂積層体から凸版101の凸部を形成することが最も望ましい。感光性樹脂層の成型方法は、射出成型法、突出成型法、ラミネート法、バーコート法、スリットコート法、カンマコート法などの公知の方法を用いることができる。
【0034】
凸版101の版面を樹脂で形成する場合、用いる樹脂としてはインキに対する耐溶剤性があればよく、ニトリルゴム、シリコーンゴム、イソプレンゴム、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ブチルゴム、アクリロニトリルゴム、エチレンプロピレンゴム、ウレタンゴムなどのゴムの他に、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリブタジエン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、ポリアミド、ポリエーテルスルホン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリビニルアルコールなどの合成樹脂やそれらの共重合体、セルロース誘導体などや、フッ素系エラストマーやポリ四フッ化エチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリ六フッ化ビニリデンやそれらの共重合体といったフッ素系樹脂から一種類以上を選択することができる。
【0035】
本発明の実施の形態に係る凸版101は、上記のように基材上に凸部パターンが形成された凸版101を版胴102に巻きつけて使用されるが、版胴102を基材として直接版胴102に凸部パターンを形成しても良い。
【0036】
上記凸版101を用いた印刷において、アニロックスロール104から凸版101表面に転写されたインキは乾燥し易く、乾燥により凸版101上のインキの粘度分布に偏りが生じたりインキが固化すると、被印刷基板106に形成される有機発光層の厚みにムラが生じる。
そこで、凸版101の周面の大気と接触する部分を版カバー108で覆うことにより、凸版101表面に転写されたインキの乾燥を抑制してムラなく有機発光層を形成することができる。
【0037】
次に、本発明の実施の形態に係る版カバー108について説明する。
図1は、本発明に係る印刷機を用いてインキ供給装置103からアニロックスロール104上に供給されたインキが凸版101を経て被印刷基板106上に転写される印刷工程に於いて、アニロックスロール104から凸版101へのインキの転写から、凸版101から被印刷基板106へのインキの転写までの領域を閉空間とする版カバー108を説明する概略断面図である。
【0038】
図1に示すように、インキの凸版101上での乾燥を抑制するために版カバー108を設置することで、大気暴露による凸版101上のインキの乾燥を抑制できる。版カバー108は、アニロックスロール104及び被印刷基板106やそれらに付随する装置、並びに移動定盤と移動定盤上の被印刷基板106の移動に支障が無いように、アニロックスロール104から凸版101上へインキを転写する領域から、凸版101から被印刷基板106にインキを転写する領域までの大気暴露しうる領域をできる限り覆うような形状であることが望ましい。
【0039】
また、凸版101の曲率と版カバー108の曲率を合わせ、凸版101の版面と版カバー108の内壁が触れないように凸版101と版カバー108を肉薄して設置することで、凸版101と版カバー108の間のインキの溶剤が蒸発しうる空間を狭め、アニロックスロール104から凸版101へ転写した後の溶剤の蒸発量を減らしてインキの乾燥をより抑えることができる。この様な形状としては、少なくとも凸版101の版面と対面する版カバー108の内面の曲率が凸版101の曲率と等しければよく、例えば凸版101と同じ曲率の円筒形の一部を切り取った曲板状などが挙げられる。その他の版カバー108の形状としては、インキの乾燥を防ぐ形状であればよく、凸版101の曲率に合わせて平面の板を組み合わせた形状や、凸版101の曲率とは異なる曲率の円筒の一部の形状であっても良い。
【0040】
さらに、インキに用いられる溶剤の沸点に応じて、凸版101の乾燥状態を制御するための開閉可能な窓を版カバー108に設けたり、凸版101の一部を大気暴露にできるように版カバー108の一部を着脱可能又は伸縮可能な機構を設けることもでき、アニロックスロール104から凸版101へのインキの転写に適した粘度と凸版101から被印刷基板106へのインキの転写に適した粘度が異なる場合でも、凸版101上において凸版101から被印刷基板106への印刷に適した粘度に調整することができる。
【0041】
上記の様に版カバー108はインキ供給装置103側にのみ取り付け、被印刷基板106にインキを印刷した後の凸版101は大気中に露出されていても良いが、図2に示すようにアニロックスロール104から凸版101へのインキの転写領域及び凸版101から被印刷基板106へのインキの転写領域を除く凸版101全面を閉空間とするようにカバーを設置することもでき、この場合印刷中の凸版101に外部からの埃などの異物が付着することを防ぐこともできるため特に望ましい。さらに、印刷前のアニロックスロール104から被印刷基板106までの版カバー108と、印刷後の被印刷基板106からアニロックスロール104までの版カバー108とは一体となり、アニロックスロール104と凸版101が接触する領域及び凸版101と被印刷基板106が接触する領域にのみ開口部を有する円筒形であっても良い。なお、版カバー108の形状が上記のうちのいずれの場合でも、凸版101の洗浄のために版カバー108は印刷機から着脱可能な形状であることが望ましい。
【0042】
版カバー108の材料としては、インキに用いられる溶剤の蒸気を透過又は吸収する、溶剤蒸気によって溶解する、溶剤分子と反応するといった問題が無く、インキの乾燥を防ぐことができるものであれば良い。上記のような溶媒による問題が生じないプラスチック板やフィルムを用いることができるが、用いられる溶剤は一般に有機溶媒であるため、金属が好適に用いることができ、特に、加工性や安定性、経済性に優れた鉄やアルミニウムを用いることが望ましい。
【0043】
使用するインキは、アニロックスロール104への塗工に用いるインキ供給装置103に及びアニロックスロール104から凸版101への転写を考慮し適した粘度に調整し、インキの粘度は2〜120mPa・sとすることが望ましい。本実施の形態で用いる凸版印刷法ではアニロックスから凸版101上へのインキの転写が最初に行われるが、120mPa・s以上の粘度ではアニロックスから凸版101上へインキが転写した後、凸版101上で十分インキがレベリングせず、ムラの原因になる。また、2mPa・s以下では、画素内ではじきムラが発生しやすく、ムラの原因になる。
【0044】
アニロックスロール104から凸版101上に転写されるインキ量は、被印刷基板106に成膜する膜厚によって決定するが、インキ濃度とアニロックスロール104セル容積を調整してすることで凸版101上に転写されるインキ量を一定にすることが望ましい。
【0045】
使用するインキに用いる溶剤は、印刷するパターン全域が被印刷基板106に良好な形状で転写されるように、パターン内におけるインキの乾燥の程度に差が生じにくいように、沸点が100〜250℃の溶剤を用いることが望ましく、この様な溶媒としては、例えば、キシレン、トルエンなどがある。沸点が100℃未満の溶剤を用いた場合には、版カバー108を設けてもインキの乾燥による有機発光層のムラを防ぐことができず、また、沸点が250℃より高いものを用いた場合には、有機発光層形成後の乾燥のための時間の増大や、乾燥のための加熱温度が高くなり有機発光層やその他の層を破損したり、有機発光層中に溶剤が残存する恐れがある。
【0046】
本発明の実施の形態に係るインキに溶解して使用される有機発光材料としては、クマリン系、ペリレン系、ピレン系、アンスロン系、ポルフィレン系、キナクリドン系、N,N’−ジアルキル置換キナクリドン系、ナフタルイミド系、N,N’−ジアリール置換ピロロピロール系、イリジウム錯体系、白金錯体系、ユーロピウム錯体系等の低分子発光性色素を、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリビニルカルバゾール等の高分子中に溶解若しくは高分子に共重合させたものや、ポリアリーレン系、ポリアリーレンビニレン系やポリフルオレン系等の高分子発光体を用いることができる。
【0047】
また、クマリン系蛍光体、ペリレン系蛍光体、ピラン系蛍光体、アンスロン系蛍光体、ポリフィリン系蛍光体、キナクリドン系蛍光体、N,N’−ジアルキル置換キナクリドン系蛍光体、ナフタルイミド系蛍光体、N,N’−ジアリール置換ピロロピロール系蛍光対等、Ir錯体等の燐光性発光体などの低分子系発光材料を、高分子中に分散させたものが使用できる。高分子としてはポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリビニルカルバゾール等が使用できる。また、ポリアリーレン系、ポリアリーレンビニレン系、ポリフルオレン、ポリフェニレンビニレン、ポリパラフェニレンビニレン、ポリチオフェン、ポリスピロなどの高分子発光材料であってもよい。また、溶剤に溶解でき、本発明の印刷機で印刷できるものであれば、低分子発光性色素を溶剤に溶解させたものも用いることもできる。
【実施例1】
【0048】
以下に、実施例及び比較例を示す。
(被印刷基板106の作製)
被印刷基板106として、支持体上に設けられたスイッチング素子として機能する薄膜トランジスタと、その上方に形成された平坦化層と、平坦化層状にコンタクトホールによって前記薄膜トランジスタと導通が図られている画素電極とを備えたアクティブマトリクス基板を用いた。画素サイズの1辺は、150μm角であり、RGBのサブピクセルのサイズは50×150μmである。
【0049】
前記アクティブマトリクス基板上に設けられている画素電極の端部を被覆し画素を区画するような形状で隔壁を形成した。この隔壁の形成は、日本ゼオン社製ポジレジストZWD6216−6をスピンコータにてアクティブマトリクス基板の全面に乾燥後の膜厚が1μmであるように成膜した後、フォトリソグラフィーによって各サブピクセルの4辺に線幅20μmの隔壁を形成した。
【0050】
画素電極の上にスピンコート法により正孔輸送層として、ポリ−(3,4)−エチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンスルホン酸(PEDOT/PSS)1.5wt%水溶液が100nmの膜厚で成膜した。さらに、この成膜されたPEDOT/PSS薄膜は、減圧下100℃で1時間乾燥することで、被印刷基板106を作製した。
【0051】
(インキの作製)
赤色、緑色、青色(R、G、B)の3色からなる以下のインキは、キシレンに溶解し調整した。赤色発光インキ(R)は、ポリフルオレン系誘導体のキシレン1wt%溶液(住友化学社製赤色発光材料、商品名Red1100)である。緑色発光インキ(G)は、ポリフルオレン系誘導体のキシレン1wt%溶液(住友化学社製緑色発光材料、商品名Green1300)である。青色発光インキ(B)は、ポリフルオレン系誘導体のキシレン1wt%溶液(住友化学社製青色発光材料、商品名Blue1100)である。
【0052】
(凸版101の作製)
厚さ250μmのニッケル材を感光性凸版101の基材として、前記基材の上に黒色顔料を混錬したアクリルバインダー樹脂溶液を乾燥膜厚が10μmになるように塗布して乾燥し、反射防止層を形成した。
【0053】
水溶性ポリアミドを主成分とし、ラジカル重合性モノマーとしてとしてジペンタエリスリトールヘキサキスアクリレート、光重合開始剤として2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ製)を混錬した感光性樹脂組成物が、前記基材の表面に版材の総厚が310μmとなるように溶融塗工したものを感光性樹脂層とし、ポリビニルアルコール溶液を乾燥膜厚1μmになるように塗布したポリエチレンテレフタレートフィルム(フィルム厚み125μm:帝人デュポンフィルム社製)をラミネートした。
【0054】
合成石英基材のクロムマスクを凸版パターンの原版とし、このマスクをプロキシミティ露光装置にセットしたものを用いて凸版を露光することで所望のパターンが形成された凸版101を作製した。
【0055】
(印刷工程)
感光性凸版101を枚葉式の凸版印刷機の版胴102に固定した。次に、インキをインキ供給装置103に供給し、アニロックスロール104を回転させることで全面にインキングする。アニロックスロール104は600ライン/インチのアニロックスロールを使用した。その後、アニロックスロール104上の余剰インキをドクターブレード105でかき取り、感光性凸版101の凸部のラインパターンをインキングした。
【0056】
このとき、図1に示すように、アニロックスロールからインキを転写した後の凸版表面が被印刷基板106に転写するまでの領域が閉空間となるようにアルミ板から成る版カバー108で覆った。
【0057】
前記のようにインキングされた感光性凸版101を被印刷基板106に押し当てることで、被印刷基板106の上にストライプパターンを印刷した。この工程を赤色有機発光層、緑色有機発光層、青色有機発光層それぞれに繰り返すことで有機発光層パターンを得た。各色について印刷をおこなった後、オーブン内にて130℃で1時間乾燥を行った。
【0058】
前記のように形成されたパターン各色の平均膜厚は80nm程度であり、一般的な統計的手法である3σ法を用い、σを標準偏差とした場合の膜厚のばらつきの値3σは10nmであった。
【0059】
また、印刷により形成した有機発光層上に真空蒸着法によってカルシウムを10nm、銀を300nm成膜し、その後ガラスキャップを用いて封止することで有機EL表示素子を作成した。
【0060】
前記表示素子について点灯表示確認を行ったところ、パネル全面においてムラの無い良好な発光が得られた。
【0061】
<比較例>
比較例として、図3に示すように凸版上のインキ乾燥を抑制できない構造の印刷機を使用して印刷をした例を示す。
【0062】
図3に示すような印刷機を使用して実施例と同様に有機EL素子を作製した。
【0063】
形成されたパターン各色の平均膜厚は80nm程度で実施例と同等であるが、3σの値は、20nmと大きく、転写パターンの中央部と外周部で顕著な膜厚差が確認された。
【0064】
前記のように作成された表示素子について点灯表示確認を行ったところ、発光ムラが確認された。
表1に実施例と比較例のパネル点灯結果を以下に示す。
【0065】
【表1】

【符号の説明】
【0066】
101・・・凸版
102・・・版胴
103・・・インキ供給装置
104・・・アニロックスロール
105・・・ドクターブレード
106・・・被印刷基板
107・・・移動定盤
108・・・版カバー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被印刷基板に微細パターンを印刷する印刷機であって、
前記被印刷基板を搬送するための移動定盤と、
前記定盤上に配置される回転式の版胴と、
前記版胴の周囲に配置された凸版と、
前記版胴の回転軸と同一方向の回転軸となるよう配置されたアニロックスロールと、
前記アニロックスロールにインキを供給するインキ供給装置と、
前記アニロックスロールと前記凸版とを接触させて前記インキを前記凸版上に転写する機構と、
前記凸版の周囲を覆うように配置された版カバーと、
を備え、前記凸版上に転写されたインキを前記被印刷基板に接触させて転写する凸版印刷機において、
前記版カバーは、前記インキを前記アニロックスロールから前記凸版上への転写を介して前記被印刷基板に転写するまでの間の、前記凸版上に前記インキが転写されている領域に配置されていることを特徴とする印刷機。
【請求項2】
被印刷基板に微細パターンを印刷する印刷機であって、
前記被印刷基板を搬送するための移動定盤と、
前記定盤上に配置される回転式の版胴と、
前記版胴の周囲に配置された凸版と、
前記版胴の回転軸と同一方向の回転軸となるよう配置されたアニロックスロールと、
前記アニロックスロールにインキを供給するインキ供給装置と、
前記アニロックスロールと前記凸版とを接触させて前記インキを前記凸版上に転写する機構と、
前記凸版の周囲を覆うように配置された版カバーと、
を備え、前記凸版に転写されたインキを前記被印刷基板に接触させて転写する凸版印刷機において、
前記版カバーは、前記インキを前記アニロックスロールから前記凸版上へ転写する領域と、前記凸版から前記被印刷基板へ転写する領域を除く全面に配置されていることを特徴とする印刷機。
【請求項3】
前記版カバーの内面は、前記版胴の周囲に配置された前記凸版の曲率と同一の曲率をもつことを特徴とする請求項1または2に記載の印刷機。
【請求項4】
前記インキの粘度は2〜120mPa・sであることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の印刷機。
【請求項5】
前記版カバーの材料は金属であることを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の印刷機。
【請求項6】
前記インキに用いる溶剤の沸点が100〜250℃であることを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載の印刷機。
【請求項7】
前記版カバーは、該版カバーが前記凸版を覆う領域を調整する機構を持つことを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項に記載の印刷機。
【請求項8】
有機発光材料と溶剤からなるインキをアニロックスロール上に均一に塗布する工程と、
前記アニロックスロール上のインキを凸版上に転写する工程と、
前記凸版上に転写されたインキを前記凸版の移動と共に搬送する工程と、
前記凸版上のインキを被印刷基板に転写する工程と、
からなる有機EL素子の製造方法であって、前記凸版上に転写されたインキを前記凸版の移動と共に搬送する工程は、
前記凸版を覆う版カバーと前記凸版とで作られる閉空間中で行なわれることを特徴とする有機EL素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−73269(P2011−73269A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−226863(P2009−226863)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】