説明

凹版オフセット印刷法を用いた塗膜の製造方法

【課題】凹版オフセット印刷による連続印刷において、従来の方法に比べて、パイリング現象の発生を低減し、かつパイリング現象が発生するまでの連続印刷回数を延ばすことができる。
【解決手段】無機粉末又は有機粉末から構成される粉末成分、樹脂成分、溶剤成分及び分散剤をそれぞれ含有した印刷用インキを凹状のパターンを有する印刷版に充填し、インキを表面にシリコーンゴムシートを有するロール状の印刷用ブランケットへ転写した後、印刷用ブランケットから被転写体へ転写する凹版オフセット印刷法を用いた塗膜の製造方法の改良であり、樹脂成分がスチレン−アクリル共重合体などから選ばれた成分を含み、受理速度V1が0.1〜12m/min、かつ印刷速度V2が0.2〜120m/minの範囲内であるとき、印刷速度V2と受理速度V1との速度比(V2/V1)が2以上であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体デバイスに微細でかつ高精度の電極パターンを形成する凹版オフセット印刷法での使用に好適な塗膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子回路基板や表示デバイス等の半導体デバイスにおける電極等の形成には従来よりフォトリソグラフィ法が用いられてきたが、このフォトリソグラフィ法は製造工程が複雑であり、また材料ロスが多く、パターン形成に必要な露光装置等の製造設備に莫大な費用がかかるため、製造コストが極めて高くなるという問題があった。更に、パターン形成時の現像処理等にて生じる廃液を処理するコストも高く、しかもこの廃液については環境保護の観点からも問題があった。
【0003】
そこで、低コストでかつ有害な廃液等を生じることのないパターン形成方法に関する研究が種々なされている。なかでも、凹版オフセット印刷法は、微細パターンを高い精度で形成することが可能であることから、フォトリソグラフィ法の代替法として注目されている。凹版オフセット印刷法では、印刷用ブランケットからガラス基板などの被転写体に印刷用インキを100%転写させるために、印刷用ブランケット表面にはシリコーンゴムシートを用い、印刷用インキには印刷用ブランケット表面のシリコーンゴムに溶解し易い、例えば溶剤を加え、この溶剤をシリコーンゴムに溶解させ、印刷用インキとシリコーンゴム界面の界面張力を低下させることでシリコーンゴムから印刷用インキを剥離し易くして印刷用インキを印刷用ブランケットから被転写体上に転写させている。
【0004】
凹版オフセット印刷を用いた技術として、導電性インキ組成物を印刷用ブランケット表面からガラス基板の表面に転移させた後に印刷用ブランケットの表面を加熱し、次いで、印刷用ブランケットの表面を冷却する方法が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。また、印刷用ブランケット表面にシリコン系エラストマを用いたものを使用し、印刷用インキとして、インキ中に低分子量ポリシロキサンを含有させたものを使用し、かつ印刷用インキを印刷用ブランケットから被転写体へ転写した後、印刷用ブランケットの表面を加熱して印刷用ブランケットに吸収された印刷用インキの溶剤を蒸散させ、次いで、印刷用ブランケットの表面を冷却する方法が開示されている(例えば、特許文献2参照。)。
【特許文献1】特開2002−245931号公報(請求項1)
【特許文献2】特開2004−66804号公報(請求項1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の凹版オフセット印刷において、連続で印刷を行うにつれて、印刷用ブランケットからガラス基板のような被転写体に印刷用インキを塗布するときに、印刷用ブランケット上に印刷用インキが次第に残っていく、いわゆるパイリング(piling)という現象が生じる問題があった。パイリング現象が生じる一因としては、図7に示すように、印刷用ブランケット3を回転して、印刷用ブランケット3表面のシリコーンゴムシート3aからガラス基板4へ印刷用インキ1を転写する際に、印刷用インキ1が内部で分断して、印刷用インキ1の一部がシリコーンゴムシート3aに残留してしまうことが主原因と考えられる。このパイリング現象により、得られる塗膜において、膜厚の減少やばらつき、線幅のばらつきの原因になるという問題があった。
【0006】
本発明の目的は、凹版オフセット印刷による連続印刷において、従来の方法に比べて、パイリング現象の発生を低減し、かつパイリング現象が発生するまでの連続印刷回数を延ばすことができる、凹版オフセット印刷法を用いた塗膜の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係る発明は、図1に示すように、無機粉末又は有機粉末から構成される粉末成分、樹脂成分、溶剤成分及び分散剤をそれぞれ含有した印刷用インキを凹状のパターンを有する印刷版に充填し、印刷版から充填したインキを表面にシリコーンゴムシートを有するロール状の印刷用ブランケットへ転写した後、印刷用ブランケットを回転して印刷用ブランケットから被転写体へインキを転写する凹版オフセット印刷法を用いた塗膜の製造方法の改良である。その特徴ある構成は、樹脂成分がスチレン−アクリル共重合体、ウレタン−アクリル共重合体、エポキシ−アクリル共重合体、ポリウレタンアクリレート、ポリエポキシアクリレート、ポリエステルアクリレート、ポリエーテルアクリレート及びポリブタジエンアクリレートからなる群より選ばれた1種又は2種以上の成分を含み、印刷版に充填したインキを印刷用ブランケットへ転写する際の受理速度V1が0.1〜12m/min、かつ印刷用ブランケットから被転写体へインキを転写する際の印刷速度V2が0.2〜120m/minの範囲内であるとき、印刷速度V2と受理速度V1との速度比(V2/V1)が2以上であるところにある。
【0008】
請求項1に係る発明では、印刷用インキに上記種類の樹脂成分を用い、かつ受理速度V1と印刷速度V2との速度比(V2/V1)が2以上となるように受理と印刷とで速度差をつけて、インキの粘弾性特性の速度依存性を利用することにより、凹版オフセット印刷による連続印刷において、従来の方法に比べて、パイリング現象の発生を低減し、かつパイリング現象が発生するまでの連続印刷回数を延ばすことができる。
【0009】
請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明であって、無機粉末が金属粉末、金属酸化物、金属窒化物又はこれらを混合した混合粉末である製造方法である。
【0010】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2に係る発明であって、印刷用インキに含有する無機粉末が銀粉末を含む粉末であり、得られる塗膜が銀含有膜である製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の凹版オフセット印刷法を用いた塗膜の製造方法は、印刷用インキに特定の種類の樹脂成分を用い、かつ受理速度V1と印刷速度V2との速度比(V2/V1)が2以上となるように受理と印刷とで速度差をつけて、インキの粘弾性特性の速度依存性を利用することにより、凹版オフセット印刷による連続印刷において、従来の方法に比べて、パイリング現象の発生を低減し、かつパイリング現象が発生するまでの連続印刷回数を延ばすことができる、従って、本発明の製造方法では、連続印刷におけるパイリング現象に起因する、膜厚の減少やばらつき、線幅のばらつき等が低減される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
次に本発明を実施するための最良の形態を図面に基づいて説明する。
【0013】
本発明者は、半導体デバイスに微細でかつ高精度の電極パターンを形成する凹版オフセット印刷を用いた塗膜の製造方法について、従来より連続印刷を行う際に生じていたパイリング現象に関して鋭意検討した結果、特定の樹脂成分を含んだ印刷用インキを用い、かつオフセット印刷時の受理速度と印刷速度とに特定の速度差をつけて、インキの粘弾性特性の速度依存性を利用することにより、凹版オフセット印刷による連続印刷において、従来の方法に比べて、パイリング現象の発生を低減し、かつパイリング現象が発生するまでの連続印刷回数を延ばすことができることを確認し、本発明に至った。
【0014】
本発明の凹版オフセット印刷法を用いた塗膜の製造方法は、無機粉末又は有機粉末から構成される粉末成分、樹脂成分、溶剤成分及び分散剤をそれぞれ含有した印刷用インキを凹状のパターンを有する印刷版に充填し、印刷版から充填したインキを表面にシリコーンゴムシートを有するロール状の印刷用ブランケットへ転写した後、印刷用ブランケットを回転して印刷用ブランケットから被転写体へインキを転写する凹版オフセット印刷法を用いた塗膜の製造方法の改良である。
【0015】
その特徴ある構成は、樹脂成分がスチレン−アクリル共重合体、ウレタン−アクリル共重合体、エポキシ−アクリル共重合体、ポリウレタンアクリレート、ポリエポキシアクリレート、ポリエステルアクリレート、ポリエーテルアクリレート及びポリブタジエンアクリレートからなる群より選ばれた1種又は2種以上の成分を含み、印刷版に充填したインキを印刷用ブランケットへ転写する際の受理速度V1が0.1〜12m/min、好ましくは1〜6m/min、かつ印刷用ブランケットから被転写体へインキを転写する際の印刷速度V2が0.2〜120m/min、好ましくは6〜40m/minの範囲内であるとき、印刷速度V2と受理速度V1との速度比(V2/V1)が2以上であるところにある。
【0016】
受理速度V1を上記範囲内としたのは、受理速度V1が0.1m/min未満では所望の受理量を得られず、12m/minを越えるとブランケットに印刷用インキが受理しないという問題があるためである。好ましい受理速度V1を1〜6m/minとしたのは、上記範囲内であれば、印刷用インキの弾性率が低くなり、インキが凝集破壊モードとなって、ブランケットへ転写され易くなるためである。また、印刷速度V2を上記範囲内としたのは、印刷速度V2が0.2m/min未満ではブランケットにペーストが残るパイリング現象が生じ易くなり、120m/minを越えるとパターン形状が乱れるという問題があるためである。好ましい印刷速度V2を6〜40m/minとしたのは、上記範囲内であれば、印刷用インキの弾性率が高くなり、インキが界面剥離モードとなって、パイリング現象を生じることなくガラス基板へ転写され易くなるためである。なお、本発明でいう受理速度V1及び印刷速度V2は、ロール状の印刷用ブランケットの周速である。
【0017】
印刷用インキに上記種類の樹脂成分を用い、かつ受理速度V1と印刷速度V2との速度比(V2/V1)が2以上となるように受理と印刷とで速度差をつけて、インキの粘弾性特性の速度依存性を利用することにより、凹版オフセット印刷による連続印刷において、従来の方法に比べて、パイリング現象の発生を低減し、かつパイリング現象が発生するまでの連続印刷回数を延ばすことができる。
【0018】
具体的には、図3に示すような平面凹版10の凹状パターン10aに充填した印刷用インキ11をブランケットロール13表面のシリコーンゴムシート13aへ転写する際、即ちブランケット受理時には、受理速度V1を図2中の点線で示される位置よりも低速にすることで、印刷用インキの弾性率は低くなる。このような低い弾性率では印刷用インキ11が柔らかくなるため、図4に示すように、印刷用インキ11は内部で分断して、印刷用インキ11の大部分がシリコーンゴムシート13aに転写し、一部が平面凹版10の凹状パターン10aに残留する凝集破壊モードとなり、ブランケット上に印刷用インキ11を転位させることが可能となる。一方、図5に示すようなブランケットロール13表面のシリコーンゴムシート13aからガラス基板14へ印刷用インキ11を転写する際、即ち印刷時には、印刷速度V2を図2中の点線で示される位置よりも高速にすることで、印刷用インキの弾性率は高くなる。このような高い弾性率では印刷用インキ11が硬くなるため、図6に示すように、印刷用インキ11は、内部で分断することなく、シリコーンゴムシート13aとの界面で剥離する界面剥離モードとなり、ブランケット上にインキを残留させることなく、ガラス基板へのインキの塗布を行うことが可能となる。
【0019】
この受理速度V1と印刷速度V2の速度比(V2/V1)を最適条件に制御することで、印刷用ブランケット表面に印刷用インキが残留せず、凹版オフセット印刷による連続印刷において、従来の方法に比べて、パイリング現象の発生を低減し、かつパイリング現象が発生するまでの連続印刷回数を延ばすことができる。本発明の塗膜の製造方法では、印刷速度V2と受理速度V1との速度比(V2/V1)が2以上であることを特徴とする。速度比(V2/V1)は良好な印刷パターンを得られるという理由で2〜400が好ましい。速度比(V2/V1)が2未満であると、印刷時に十分なペースト凝集力が得られないという理由により、パイリング現象が生じ易くなる不具合が生じる。
【0020】
本発明の製造方法に使用する印刷用インキに含有する粉末成分は、無機粉末又は有機粉末である。具体的には有機顔料、無機顔料、光輝性顔料、有機染料が挙げられる。また金属粉末、金属酸化物、金属窒化物又はそれらの混合粉末は導電性パターンの印刷に使用できるため特に好適である。有機顔料としては、アゾ系、ポリアゾ系、アンスラキノン系、キナクリドン系、イソインドリン系、イソインドリノン系、フタロシアニン系、ペリレン系、DPP系、蛍光顔料等が挙げられる。無機顔料としては、アセチルカーボン、カーボンナノチューブ、フラーレン、グラファイトのような炭素粉末、合成シリカ、酸化クロム、酸化鉄、酸化チタン、チタンブラック、酸化コバルト、酸化銅、これらの複合酸化物、焼成顔料、硫化亜鉛等が挙げられる。光輝性顔料としては、パール顔料、フレーク顔料、アルミニウム顔料、ブロンズ顔料等が挙げられる。有機染料としては、アルコール可溶性染料、油溶性染料、蛍光染料、集光性染料等が挙げられる。金属粉末、金属酸化物、金属窒化物又はそれらの混合粉末の平均粒径は、印刷適性等を考慮すると、0.01〜5μmが好ましく、0.1〜1μmがより好ましい。この平均粒径はレーザー回折散乱法により求められる数値である。
【0021】
本発明の製造方法に使用する印刷用インキに含有する樹脂成分は、ポリメチルアクリレート等のポリアクリル酸エステル、ポリメチルメタクリレート等のポリメタクリル酸エステルと、ポリスチレン、ポリウレタン、エポキシ樹脂とを共重合させたアクリル−スチレン系共重合体、アクリル−ウレタン系共重合体、アクリル−エポキシ系共重合体、ポリアクリル酸エステルやポリメタクリル酸エステルの一部をウレタン、エポキシで置換したポリウレタンアクリレート、ポリエポキシアクリレート、ポリエステルアクリレート、ポリエーテルアクリレート及びポリブタジエンアクリレートが挙げられる。印刷用インキに上記種類の樹脂成分を含有させることで、ペーストの内部凝集力を向上させるという効果が得られる。一方、上記種類の樹脂成分を含まない場合、ペーストの内部凝集力を向上させるという効果が得られないため、パイリング現象の発生を低減することができない。印刷用インキ100質量%とするとき、樹脂成分5〜20質量%の割合で配合することが好ましい。また、これらの樹脂成分の分子量は、数百〜数百万のオリゴマからポリマーの範囲で好適に用いられる。低分子量の樹脂成分はインキの乾燥抑制に有効であり、高分子量の樹脂成分はインキ内部での凝集破壊を抑制することができる。即ち転写性の向上に有効である。従って、インキ中に低分子量から高分子量と幅広い分子量の樹脂を含有させることにより、インキの乾燥抑制と転写性向上を同時に満たすことができる。上記種類の樹脂成分は、高い凝集力を有し、被転写体への転写時におけるインキ内部での凝集破壊を抑制することができる。上記樹脂成分は単独又は2種以上使用してもよい。
【0022】
本発明の製造方法に使用する印刷用インキに含有する溶剤成分は、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、γ−ブチルラクトン、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコール、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール、ポリエステルポリオール[炭素数が2〜12の脂肪族多塩基酸・炭素数が2〜12の脂肪族多価アルコール]、ポリエステルポリオール[炭素数が8〜15の芳香族多塩基酸・炭素数が2〜12の脂肪族多価アルコール]及び水酸基含有液状アクリル樹脂からなる群より選ばれた1種又は2類以上が挙げられる。印刷用インキ100質量%とするとき、溶剤成分7.5〜30質量%の割合で配合することが好ましい。ポリエステルポリオール[炭素数が2〜12の脂肪族多塩基酸・炭素数が2〜12の脂肪族多価アルコール]としては、ポリ[(1,9−ノナンジオール)−alt−(アジピン酸)]、ポリ[(3−メチル−1,5−ペンタンジオール;トリメチロールプロパン)−alt−(アジピン酸)]、ポリ[(3−メチル−1,5−ペンタンジオール)−alt−(セバシン酸)]が挙げられる。またポリエステルポリオール[炭素数が8〜15の芳香族多塩基酸・炭素数が2〜12の脂肪族多価アルコール]としては、ポリ[(3−メチル−1,5−ペンタンジオール)−alt−(テレフタル酸)]、ポリ[(3−メチル−1,5−ペンタンジオール)−alt−(イソフタル酸)]が挙げられる。更に水酸基含有液状アクリル樹脂としては、ポリ2−ヒドロキシエチルアクリレート、ポリ2−ヒドロキシプロピルアクリレート、ポリ2−ヒドロキシブチルアクリレート、ポリ2−ヒドロキシメタクリレートが挙げられる。上記列挙した溶剤成分は印刷用インキ中の樹脂成分を溶解することが可能であり、印刷用ブランケットへ転写した際に溶剤成分の一部が印刷用ブランケット表面のシリコーンゴムシート中に吸収され、インキとブランケットの間にWBLを形成するため、インキをブランケット上に残すことなく転写することができ、かつブランケットを加熱することなくブランケット表面から吸収された溶剤が揮発するため、本発明の印刷用インキを使用することで、オフセット印刷による連続印刷において印刷パターンの形状変動を低減することができるという利点がある。
【0023】
本発明の製造方法に使用する印刷用インキに分散剤を加えるのは、分散剤を含むことで塗工した層表面が平滑になる効果が得られるためである。印刷用インキ100質量%とするとき分散剤を3〜10質量%の割合で配合することが好ましい。また、形成するラインのエッジ部におけるシャープネスさが高くなる。分散剤としては、カルボン酸系やリン酸エステル系、ポリカルボン酸高分子アニオンアリルエーテルコポリマ、ポリアミン−脂肪酸縮合物、高分子界面活性剤、高分子脂肪酸、脂肪酸エステル縮合体を使用することが好適である。
【0024】
本発明の製造方法に使用する印刷用インキは、樹脂成分が高い凝集力を有し、被転写体への転写時におけるインキ内部での凝集破壊を抑制することができ、溶剤成分は印刷用インキ中の樹脂成分を溶解することが可能であり、印刷用ブランケットへ転写した際に溶剤成分の一部が印刷用ブランケット表面のシリコーンゴムシート中に吸収され、インキとブランケットの間にWBLを形成するためインキをブランケット上に残すことなく転写し易くすることができ、かつブランケットを加熱することなくブランケット表面から吸収された溶剤が揮発するため、連続印刷において印刷パターンの形状変動を低減することができる。
【0025】
本発明の凹版オフセット印刷法を用いた塗膜の製造方法を説明する。
【0026】
先ず、図1(a)に示すように、所望の凹状パターン10aを有する平面凹版10を印刷版として用意し、この平面凹版10表面に印刷用インキ11を所定量供給する。供給した印刷用インキ11は、スキージ12を平面凹版10表面にあててスライドさせることにより、凹状パターン10aに埋め込む。次に、図1(b)に示すように、表面にシリコーンゴムシート13aが取り付けられたブランケットロール13を印刷用ブランケットとして用意し、このブランケットロール13をインキ11が凹状パターン10aに埋め込まれた平面凹版10上に圧接し、この状態でブランケットロール13を回転させ、受理速度V1の範囲内の速度で平面凹版10上をスライドさせることにより、平面凹版10の凹状パターン10aに埋め込まれたインキ11の一部をブランケットロール13のシリコーンゴムシート13a表面に転写する。なお、ブランケットロール表面にはシリコーンゴムシートの代わりにシリコーン樹脂シートを取り付けてもよい。このときの転写率は平面凹版の凹状パターンやインキに含まれる成分やその比率、ブランケットの圧接の強弱によっても異なるが、ほぼ20〜60%程度の割合である。本発明に供される印刷用インキ11に含まれる溶剤成分の一部が、転写した際にブランケットロール13表面のシリコーンゴムシート13a中に吸収され、インキとシリコーンゴムシート13aの間に溶剤に富んだ境界層(WBL)を形成するので、後に続く工程で、インキをブランケット上に残すことなく被転写体に転写し易くすることができる。最後に、図1(c)に示すように、印刷用インキ11を転写したブランケットロール13をガラス基板14のような被転写体に圧接し、この状態でブランケットロール13を回転させ、印刷速度V2の範囲内の速度でガラス基板14上でスライドさせることにより、図1(d)に示すように、ガラス基板14表面に所望のパターンが転写される。
【0027】
このときの印刷速度V2と受理速度V1との速度比(V2/V1)を2以上となるように受理と印刷とで速度差をつけて、インキの粘弾性特性の速度依存性を利用することにより、連続印刷において、従来の方法に比べて、パイリング現象の発生を低減し、かつパイリング現象が発生するまでの連続印刷回数を延ばすことができる。従って、本発明の製造方法では、連続印刷におけるパイリング現象に起因する、膜厚の減少やばらつき、線幅のばらつき等が解消される。
【実施例】
【0028】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
【0029】
<実施例1−1〜実施例1−3>
粉末成分として粒径が0.2〜0.6μmのAgとBi23−B23系ガラスとを83質量部と2質量部の割合で混合した粉末、樹脂成分としてスチレン−アクリル共重合体、溶剤成分としてジエチレングリコールモノブチルエーテル及び分散剤としてカルボン酸系分散剤をそれぞれ用意した。粉末成分、樹脂成分、溶剤成分及び分散剤をミキサで混合し、更に三本ロールミルを用いて5〜10Pa・s程度混練することにより、印刷用インキを得た。なお、この印刷用インキは樹脂成分は7.5質量部、溶剤成分は7.5質量部及び分散剤は5質量部の割合となるように配合した。
【0030】
オフセット印刷に使用する印刷版としてライン幅100μm、深さ25μm、ピッチ360μmの複数の凹状パターンを有する42アロイ製平面凹版を、被転写体としてガラス基板をそれぞれ用意した。また、印刷用ブランケットとして表面に厚さ0.3mmのシリコーンゴムシートが取り付けられたブランケットロールを用いた。先ず、平面凹版表面に得られた印刷用インキを所定量供給し、SUS製ブレードを用いて平面凹版の凹状パターンにインキを埋め込んだ。次に、ブランケットロールを平面凹版上に圧接した状態で回転させ、次の表1に示す受理速度V1の速度(3m/min)で平面凹版上をスライドさせることにより、平面凹版の凹状パターンに埋め込まれたインキの一部をブランケットロールのシリコーンゴムシート表面に転写した。最後に、ブランケットロールをガラス基板に圧接した状態で回転させ、次の表1に示す印刷速度V2の速度(6m/min)でガラス基板上をスライドさせることにより、ガラス基板表面に所定のパターンを有する印刷基板を得た。上記オフセット印刷を基板500枚について連続印刷を行った(実施例1−1)。同様に、次の表1に示すように印刷速度V2(10m/min、30m/min)をそれぞれ変更して連続印刷を行った(実施例1−2、実施例1−3)。
【0031】
<実施例2−1〜実施例2−3>
樹脂成分としてウレタン−アクリル共重合体を用いた以外は実施例1−1〜実施例1−3と同様にして連続印刷を行った。
【0032】
<実施例3−1〜実施例3−3>
樹脂成分としてエポキシ−アクリル共重合体を用いた以外は実施例1−1〜実施例1−3と同様にして連続印刷を行った。
【0033】
<実施例4−1〜実施例4−3>
樹脂成分としてポリウレタンアクリレートを用いた以外は実施例1−1〜実施例1−3と同様にして連続印刷を行った。
【0034】
<実施例5−1〜実施例5−3>
樹脂成分としてポリエポキシアクリレートを用いた以外は実施例1−1〜実施例1−3と同様にして連続印刷を行った。
【0035】
<実施例6−1〜実施例6−3>
樹脂成分としてポリエステルアクリレートを用いた以外は実施例1−1〜実施例1−3と同様にして連続印刷を行った。
【0036】
<実施例7−1〜実施例7−3>
樹脂成分としてポリエーテルアクリレートを用いた以外は実施例1−1〜実施例1−3と同様にして連続印刷を行った。
【0037】
<実施例8−1〜実施例8−3>
樹脂成分としてポリブタジエンアクリレートを用いた以外は実施例1−1〜実施例1−3と同様にして連続印刷を行った。
【0038】
<実施例9−1〜実施例16−3>
次の表2に示すように受理速度V1を1m/minに変更した以外は実施例1−1〜実施例1−3、実施例2−1〜実施例2−3、実施例3−1〜実施例3−3、実施例4−1〜実施例4−3、実施例5−1〜実施例5−3、実施例6−1〜実施例6−3、実施例7−1〜実施例7−3、実施例8−1〜実施例8−3と同様にして連続印刷を行った。
【0039】
<実施例17−1〜実施例24−2>
次の表3に示すように受理速度V1を5m/minに変更した以外は実施例1−2〜実施例1−3、実施例2−2〜実施例2−3、実施例3−2〜実施例3−3、実施例4−2〜実施例4−3、実施例5−2〜実施例5−3、実施例6−2〜実施例6−3、実施例7−2〜実施例7−3、実施例8−2〜実施例8−3と同様にして連続印刷を行った。
【0040】
<比較例1−1〜比較例1−2>
樹脂成分としてポリイソブチルメタクリレートを用い、次の表4に示すように速度比(V2/V1)が2未満となるように受理速度V1と印刷速度V2を制御、具体的には、受理速度V1を3m/min、印刷速度V2を3m/minとした以外は実施例1−1〜実施例1−2と同様にして連続印刷を行った。
【0041】
<比較例2〜比較例9>
次の表4に示すように速度比(V2/V1)が2未満となるように受理速度V1と印刷速度V2を制御、具体的には、受理速度V1を3m/min、印刷速度V2を3m/minとした以外は実施例1−1〜実施例8−3と同様にして連続印刷を行った。
【0042】
<比較試験1>
実施例1−1〜実施例24−2及び比較例1−1〜比較例1−2,比較例2〜9の連続印刷特性の評価として、印刷後のブランケット上にインキが残る、パイリング現象が観察されたパイリング開始印刷回数を調べ、その印刷回数を特性値とした。具体的には、印刷後、50枚毎にブランケット表面にガラス基板に印刷されずにインキが残っているか確認を行い、インキの残りが確認された枚数をパイリング開始印刷回数とした。その結果を次の表1〜表4にそれぞれ示す。
【0043】
【表1】

【0044】
【表2】

【0045】
【表3】

【0046】
【表4】

表4より明らかなように、速度比(V2/V1)が2未満となるように制御した比較例1−1〜1−2及び比較例2〜9では、パイリング開始印刷回数が120〜250枚と、非常に少ない連続印刷枚数でパイリング現象が観察された。一方、表1〜表3より明らかなように、速度比(V2/V1)が2以上となるように制御した実施例1−1〜実施例24−2では、パイリング開始印刷回数が500〜1150枚と、パイリング現象が発生するまでの連続印刷回数が延びることが確認された。また、実施例及び比較例の結果から、速度比(V2/V1)が高くなるほど、パイリング現象が発生するまでの連続印刷回数が延びることが確認された。更に、実施例同士を比較すると、同じ速度比(V2/V1)であれば受理速度V1が早い方がパイリング現象が発生するまでの連続印刷回数が延びる傾向が見られた。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】凹版オフセット印刷法の概略図。
【図2】印刷用インキの離脱速度と弾性率の関係を示す図。
【図3】平面凹版に充填したインキをブランケットロール表面のシリコーンゴムシートへ転写している状況を示す図。
【図4】平面凹版に充填したインキをブランケットロール表面のシリコーンゴムシートへ転写した後の状況を示す図。
【図5】ブランケットロール表面のシリコーンゴムシートからガラス基板へ印刷用インキを転写している状況を示す図。
【図6】ブランケットロール表面のシリコーンゴムシートからガラス基板へ印刷用インキを転写した後の状況を示す図。
【図7】従来の凹版オフセット印刷でのパイリング現象の原因を説明する図。
【符号の説明】
【0048】
10 平面凹版
10a 凹状パターン
11 印刷用インキ
12 スキージ
13 ブランケットロール
13a シリコーンゴムシート
14 ガラス基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機粉末又は有機粉末から構成される粉末成分、樹脂成分、溶剤成分及び分散剤をそれぞれ含有した印刷用インキを凹状のパターンを有する印刷版に充填し、前記印刷版から前記充填したインキを表面にシリコーンゴムシートを有するロール状の印刷用ブランケットへ転写した後、前記印刷用ブランケットを回転して前記印刷用ブランケットから被転写体へインキを転写する凹版オフセット印刷法を用いた塗膜の製造方法において、
前記樹脂成分がスチレン−アクリル共重合体、ウレタン−アクリル共重合体、エポキシ−アクリル共重合体、ポリウレタンアクリレート、ポリエポキシアクリレート、ポリエステルアクリレート、ポリエーテルアクリレート及びポリブタジエンアクリレートからなる群より選ばれた1種又は2種以上の成分を含み、
前記印刷版に充填したインキを前記印刷用ブランケットへ転写する際の受理速度V1が0.1〜12m/min、かつ前記印刷用ブランケットから前記被転写体へインキを転写する際の印刷速度V2が0.2〜120m/minの範囲内であるとき、
前記印刷速度V2と前記受理速度V1との速度比(V2/V1)が2以上であることを特徴とする凹版オフセット印刷法を用いた塗膜の製造方法。
【請求項2】
無機粉末が金属粉末、金属酸化物、金属窒化物又はこれらを混合した混合粉末である請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
印刷用インキに含有する無機粉末が銀粉末を含む粉末であり、得られる塗膜が銀含有膜である請求項1又は2記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−221842(P2008−221842A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−34772(P2008−34772)
【出願日】平成20年2月15日(2008.2.15)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】