説明

分光蛍光光度計および分光分析光度計

【課題】バックラッシュに起因する波長設定誤差の影響を回避し、3次元蛍光スペクトル測定の高速化または高精度化を図る。
【解決手段】コンピュータ10は、励起側分光器2および蛍光側分光器7が輝線スペクトルを有する入射光を往方向および復方向にスペクトルスキャンしたとき、検知器8によって得られる蛍光スペクトルを取得し、その蛍光スペクトルを既知の輝線の波長と比較することによって、励起パルスモータ12や蛍光パルスモータ11で設定される往方向および復方向スキャン時の波長設定誤差を取得し、各方向スキャン時の波長校正値とする。従って、両方向スキャン時での蛍光スペクトルの波長校正が可能となる。従って、片方向スキャン時の蛍光スペクトルしか利用できない場合に比べ、3次元蛍光スペクトル測定の高速化または高精度化が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3次元の蛍光スペクトルまたは透過・吸収スペクトルを測定する分光蛍光光度計および分光分析光度計に関する。
【背景技術】
【0002】
分光蛍光光度計は、通常、光源からの連続光を分光した励起光を測定試料に照射する励起側分光器と、励起光が照射された測定試料から放出される蛍光を単色光に分光する蛍光側分光器と、分光された単色光をその強度に応じて電気信号に変換する検知器と、前記の励起側分光器および蛍光側分光器を制御するとともに、前記検知器から出力された電気信号を測定データとして取得し、複数の測定データを、適宜、処理して、その処理結果を表示装置に表示するコンピュータと、を含んで構成される。
【0003】
一般に、測定試料に対し、励起光の波長を変化させた際の蛍光強度(励起スペクトルという)を測定する場合には、励起側分光器を測定開始波長から測定終了波長まで変化させ、各波長の励起光を測定試料に照射し、ある固定波長に設定された蛍光側分光器を経て得られる測定試料から放出される蛍光の強度を検知器で検出し、その検出した蛍光の強度信号をA/D(Analog to Digital)変換してコンピュータに入力する。コンピュータは、各波長の励起光に対して得られた蛍光の強度を2次元のスペクトルとして表示装置に表示する。
【0004】
また、測定試料に対し固定波長の励起光を照射し、蛍光波長を変化させた際の波長ごとの蛍光強度(蛍光スペクトルという)を測定する場合には、ある固定波長に設定された励起側分光器からの励起光を測定試料に照射し、そのとき測定試料から放出される蛍光を、蛍光側分光器の分光波長を測定開始波長から測定終了波長まで変化させて分光し、波長毎の蛍光の強度を検知器で検出し、その検出した蛍光の強度信号をA/D変換してコンピュータに入力する。コンピュータは、各波長の励起光に対して得られた蛍光の強度を2次元のスペクトルとして表示装置に表示する。
【0005】
これらの励起スペクトルおよび蛍光スペクトルは、いずれか一方の分光器が分光する波長を固定し、他方の分光器が分光する波長を変化させたとき、それぞれ、別個に取得される2次元の蛍光スペクトルである。なお、分光器が分光する波長を変化させながら移動することを「スペクトルスキャン」または、単に「スキャン」という。
【0006】
ところで、特許文献1には、3次元蛍光スペクトルを取得する技術が開示されている。3次元蛍光スペクトルを取得する場合には、まず、励起波長を固定し、蛍光波長を開始波長から終了波長までスペクトルスキャンして蛍光スペクトルを測定する。次に、蛍光波長を開始波長に戻すとともに、励起波長を一定量だけ駆動し、次の励起波長を設定後、再度、蛍光波長を開始波長から終了波長までスペクトルスキャンして蛍光スペクトルを測定する。さらに、同様の操作を励起波長が所定の最終波長に達するまで繰り返すことにより、3次元蛍光スペクトルを取得する。そして、その取得された3次元蛍光スペクトルは、例えば、励起波長を横軸、蛍光波長を縦軸とするXY平面上に、等高線図や鳥瞰図などによって描画され、表示装置などに表示される。
【0007】
このような3次元蛍光スペクトルが、例えば、等高線で表示されたときには、その等高線表示において、山頂の位置は、測定試料の蛍光の発光にとって最適な励起波長および蛍光波長に相当する。さらに、その表示は、測定試料の測定範囲内のあらゆる励起波長と蛍光波長とに対する蛍光の発光特性を示したものであるので、技術者にとっては、測定試料の特徴を把握するのが容易となる。すなわち、3次元蛍光スペクトル表示からは、測定試料に含まれる蛍光物質の成分数や、その成分を同定するための情報など、多くの情報が得られる。
【0008】
なお、特許文献2には、3次元蛍光スペクトル表示の概念は示されていないが、測定方法については、特許文献1と同様の測定方法が示されている。また、特許文献3や特許文献4には、3次元蛍光スペクトルを表示せずに、測定試料にとって最適の励起波長および蛍光波長を探索する方法が示されている。
【0009】
例えば、特許文献3においては、前記したような3次元蛍光スペクトルを取得する要領で、まず、仮の励起波長に対する仮の最適蛍光波長を見つけ出し、その仮の最適蛍光波長から最適な励起波長と最適な蛍光波長を探索するといった方法が採られている。ただし、この方法では、測定時間を短縮するために、励起波長範囲と蛍光波長範囲が限定されているので、全ての範囲での3次元蛍光スペクトル測定は行われない。
【0010】
また、特許文献4においては、励起波長をシフトさせて蛍光波長を測定し、蛍光波長の変動のなかったピークを蛍光ピークとし、最適な励起波長と最適な蛍光波長を探索するという方法が採られている。
【0011】
以上のように、特許文献3や特許文献4に開示されたものは、単に、測定試料の最適な蛍光波長および励起波長を取得しようとするものであり、それによって得られる情報は、蛍光特性を把握できるような情報を含んでいないなど、情報量の面で、3次元蛍光スペクトルには及ばない。従って、測定試料の3次元蛍光スペクトルを取得し、表示する技術は、他の類似の技術に比べても、多くの利点を有しており、今後、ますます幅広く用いられる技術といえる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開昭61−100832号公報
【特許文献2】特開昭63−243842号公報
【特許文献3】特開平9−159609号公報
【特許文献4】特開平1−214723号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、3次元蛍光スペクトルは、その取得のための測定時間が長いことが問題視されている。その測定時間は、測定する波長域と、励起波長の間隔と、蛍光スペクトルスキャンの速度と、に依存している。
【0014】
例えば、スキャンスピードが12,000nm/min、波長移動速度が12,000nm/minの一般的な分光蛍光光度計を用いて、波長範囲が200nm〜800nmの蛍光スペクトル測定を行う場合には、蛍光スペクトルは、約5秒のスキャンにより取得されるが、蛍光側分光器が元のスキャン開始波長位置に戻されるのにさらに約5秒かかる。3次元蛍光スペクトル取得の場合には、このような蛍光スペクトル測定が、励起波長200nm〜800nmの範囲で、例えば、5nm間隔で行われる。その場合には、励起波長を変化させながら120回の蛍光スペクトルの測定が繰り返し行われることになるので、3次元蛍光スペクトル取得のための測定時間は、(5秒+5秒)×120回=1200秒=20分となる。この測定時間を短縮するためには、例えば、スキャンスピードを高速化すればよいが、スキャンスピードを高速化する場合には、ノイズの増大など他の問題が生じる。
【0015】
ところで、従来の3次元蛍光スペクトル取得において、励起波長を固定して、蛍光スペクトルを測定するときには、蛍光側分光器におけるスキャンは、一方向(往方向)に限定されている。すなわち、蛍光側分光器では、蛍光波長が開始波長から終了波長までスキャンされたとき、蛍光スペクトルの取得が行われ、蛍光波長が復方向の終了波長から開始波長へ戻されるときには、蛍光スペクトルの取得は行われなかった。その結果、3次元蛍光スペクトル測定に実際の測定時間の2倍の時間がかかっていることになる。
【0016】
従来、スペクトルスキャンが一方向のみでしか行われないことについての理由は、分光器において分光する光の波長を定める波長駆動系の構造が関係している。すなわち、一般的な分光器では、その波長駆動は、パルスモータとギヤとカムとを用いて、回折格子(または、プリズム)を回転させることによって行われている。このとき、回折格子が回転した回転量が波長の設定値となるので、その回転量の設定精度がそのまま波長設定の精度となる。ギヤにはいわゆるバックラッシュが存在するので、バックラッシュの影響をなくすために、波長駆動の際には、ギヤは必ず同じ方向に回転させるようにされている。
【0017】
ちなみに、特許文献1においては、分光器における終了波長から開始波長まで戻す復方向でのスペクトルスキャンは、バックラッシュの影響があるので行われず、次の励起波長における蛍光スペクトル測定の際に、蛍光波長が開始位置に戻された後、励起波長が所定量駆動される。また、特許文献3にも、最適な励起波長、蛍光波長を検出するときには、スペクトルスキャンは一定の方向で行われている。
【0018】
以上のような従来技術の問題点に鑑み、本発明は、バックラッシュに起因する波長設定誤差の影響を回避することができ、かつ、3次元蛍光スペクトル測定の高速化または高精度化を図ることが可能な分光蛍光光度計および分光分析光度計を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
請求項1に記載の分光蛍光光度計は、それぞれ、入射光をスペクトルスキャンして、そのスペクトルスキャン時に設定される波長の光を選択的に取り出す第1の分光器および第2の分光器と、所定の光源からの入射光のうち、前記第1の分光器により選択的に取り出された第1の波長の選択光が、測定試料に照射され、前記選択光の照射により前記測定試料から発せられた蛍光または間接光が前記第2の分光器へ入射されたとき、前記第2の分光器により選択的に取り出された第2の波長の蛍光または間接光の強度を検出する検知器と、前記第1の分光器および第2の分光器に対するスペクトルスキャン動作を制御するとともに、前記検知器によって検出される蛍光の強度を取得し、前記取得した蛍光の強度を、前記第1の波長と前記第2の波長とに対応付けて、前記蛍光の3次元スペクトルを生成するデータ処理部と、を備え、前記データ処理部は、(1−1)前記第1の分光器および前記第2の分光器のそれぞれに既知の輝線スペクトルを有する入射光が入射されたとき、前記第1の分光器および前記第2の分光器のそれぞれに対し、前記入射光の往方向および復方向でのスペクトルスキャンを指示し、(1−2)前記指示に基づく前記第1の分光器および前記第2の分光器のそれぞれにおける前記入射光の往方向および復方向でのスペクトルスキャンによって前記検知器から得られる往方向スペクトルおよび復方向スペクトルを、前記既知の輝線スペクトルと比較して、前記第1の分光器および前記第2の分光器のそれぞれにおける往方向波長校正値および復方向波長校正値を取得し、(1−3)前記測定試料から発せられる蛍光の3次元スペクトルを生成する場合には、前記第1の分光器および前記第2の分光器のそれぞれに対してそれぞれ設定された前記第1の波長および第2の波長を、そのとき前記第1の分光器および前記第2の分光器のそれぞれにおいて行われていたスペクトルスキャンの方向に応じて、前記往方向波長校正値または復方向波長校正値により校正することを特徴とする。
【0020】
請求項1に記載の分光蛍光光度計では、第1の分光器(励起側分光器)および第2の分光器(蛍光側分光器)のそれぞれについて、往方向のスペクトルスキャン時の波長校正値だけでなく、復方向のスペクトルスキャン時の波長校正値を実測して取得する。すなわち、第1の分光器および第2の分光器に対して、両方向のスペクトルススキャン時の波長設定校正値が取得されることになるため、測定試料から発せられる蛍光の3次元スペクトルを測定するとき、いずれの分光器において、いずれの方向にスペクトルスキャンした場合であっても、バックラッシュに起因するスペクトルスキャン時の波長の設定誤差を校正することができる。
【0021】
従って、請求項1に記載の分光蛍光光度計を用いると、往方向にスペクトルスキャンしたときだけでなく、復方向にスペクトルスキャンしたときに取得された蛍光スペクトルのデータも校正されたデータとして利用することができるようになる。そのため、分光蛍光光度計における3次元蛍光スペクトル取得の手順設定の自由度が増加し、その結果、3次元蛍光スペクトルを取得する時間を短縮したり、取得する3次元蛍光スペクトルを高精度化したりすることが可能になる。
【0022】
請求項2に記載の分光蛍光光度計は、請求項1に記載の分光蛍光光度計であって、前記データ処理部は、前記測定試料から発せられる蛍光の3次元スペクトルを生成する場合に、(2−1)前記第1の分光器に対し、前記往方向のスペクトルスキャンの開始を指示し、前記第1の分光器による前記往方向のスペクトルスキャンが開始され、前記第1の分光器の選択光の波長として所定の開始波長が設定されたとき、前記第1の分光器に対し、前記往方向のスペクトルスキャンの一時停止を指示する第1の処理と、(2−2)前記第2の分光器に対し、前記往方向のスペクトルスキャンの実行を指示し、前記第2の分光器による前記往方向のスペクトルスキャンが実行されたとき、前記検知器によって検出される所定の波長範囲の蛍光のスペクトルを取得する第2の処理と、(2−3)前記第1の分光器に対し、前記往方向のスペクトルスキャンの再開を指示し、前記第1の分光器による前記往方向のスペクトルスキャンが再開され、前記第1の分光器の選択光の波長が所定の変量だけ増加または減少されて設定されたとき、前記第1の分光器に対し、前記往方向のスペクトルスキャンの一時停止を指示する第3の処理と、(2−4)前記第2の分光器に対し、前記復方向のスペクトルスキャンの実行を指示し、前記第2の分光器による前記復方向のスペクトルスキャンが実行されたとき、前記検知器によって検出される前記所定の波長範囲の蛍光のスペクトルを取得する第4の処理と、(2−5)前記第1の分光器に対し、前記往方向のスペクトルスキャンの再開を指示し、前記第1の分光器による前記往方向のスペクトルスキャンが再開され、前記第1の分光器の選択光の波長が所定の変量だけ増加または減少されて設定されたとき、前記第1の分光器に対し前記往方向スキャンの一時停止を指示する第5の処理と、(2−6)前記第1の分光器の選択光の波長が所定の終了波長に到達したか否かを判定し、前記第1の分光器の選択光の波長が前記所定の終了波長に到達していないとき、前記第2の処理以降の処理を繰り返して実行し、前記第1の分光器の選択光の波長が前記所定の終了波長に到達したとき、前記第2の分光器に対し前記往方向のスペクトルスキャンの終了を指示する第6の処理と、を実行することを特徴とする。
【0023】
請求項2に記載の分光蛍光光度計では、データ処理部は、第1の分光器における分光波長をある波長(以下、励起波長という)に固定し、第2の分光器で往方向のスペクトルスキャンをして、測定試料の励起波長(W)に対する蛍光のスペクトルを取得し、次に、第1の分光器の励起波長を所定量だけ増加させた値(W+Δ:Δは、所定の変量)に設定して、復方向のスキャンを行って、励起波長(W+Δ)に対する蛍光のスペクトルを取得する。
【0024】
従って、請求項2に記載の分光蛍光光度計を用いると、復方向のスペクトルスキャンで蛍光スペクトルを取得しない場合に比べ、短時間(半分の時間)で3次元蛍光スペクトルを取得することができる。
【0025】
請求項3に記載の分光蛍光光度計は、請求項1に記載の分光蛍光光度計であって、前記データ処理部は、前記測定試料から発せられる蛍光の3次元スペクトルを生成する場合に、(3−1)前記第1の分光器に対し、前記往方向のスペクトルスキャンの開始を指示し、前記第1の分光器による前記往方向のスペクトルスキャンが開始され、前記第1の分光器の選択光の波長として所定の開始波長が設定されたとき、前記第1の分光器に対し、前記往方向のスペクトルスキャンの一時停止を指示する第1の処理と、(3−2)前記第2の分光器に対し、前記往方向のスペクトルスキャンの実行を指示し、前記第2の分光器による前記往方向のスペクトルスキャンが実行されたとき、前記検知器によって検出される所定の波長範囲の蛍光のスペクトルを取得する第2の処理と、(3−3)前記第2の分光器に対し、前記復方向のスペクトルスキャンの実行を指示し、前記第2の分光器による前記復方向のスペクトルスキャンが実行されたとき、前記検知器によって検出される前記所定の波長範囲の蛍光のスペクトルを取得する第3の処理と、(3−4)前記第2の処理および第3の処理によってそれぞれ取得された前記蛍光のスペクトルを平均化する第4の処理と、(3−5)前記第1の分光器に対し、前記往方向のスペクトルスキャンの再開を指示し、前記第1の分光器による前記往方向のスペクトルスキャンが再開され、前記第1の分光器の選択光の波長が所定の変量だけ増加または減少されて設定されたとき、前記第1の分光器に対し前記往方向スキャンの一時停止を指示する第5の処理と、(3−6)前記第1の分光器の選択光の波長が所定の終了波長に到達したか否かを判定し、前記第1の分光器の選択光の波長が所定の終了波長に到達していないとき、前記第2の処理以降の処理を繰り返して実行し、前記第1の分光器の選択光の波長が所定のスキャン終了波長に到達したとき、前記第2の分光器に対し前記往方向のスペクトルスキャンの終了を指示する第6の処理と、を実行することを特徴とする。
【0026】
請求項3に記載の分光蛍光光度計では、データ処理部は、例えば、第1の分光器の励起波長(W)を設定し、第2の分光器で往方向のスペクトルスキャンをして、測定試料の励起波長(W)に対する蛍光のスペクトルを取得し、次に、励起波長(W)を変更することなく、復方向のスペクトルスキャンを行って、同じ励起波長(W)に対する蛍光のスペクトルを取得する。そして、励起波長(W)に対して、往方向のスキャンで得られた蛍光のスペクトルと、復方向のスキャンで得られた蛍光のスペクトルと、を平均して、励起波長(W)に対する蛍光のスペクトルとする。
【0027】
請求項4に記載の分光蛍光光度計は、請求項1に記載の分光蛍光光度計であって、前記データ処理部は、前記測定試料から発せられる蛍光の3次元時間変化スペクトルを生成する場合に、(4−1)前記第1の分光器および前記第2の分光器のうち一方の分光器を、入射光の0次光を選択して透過させるように設定する第1の処理と、(4−2)前記第1の分光器および前記第2のうち他方の分光器に対して、前記往方向のスペクトルスキャンを指示し、前記他方の分光器による前記往方向のスペクトルスキャンが実行されたとき、前記検知器によって検出される所定の波長範囲の前記蛍光のスペクトルを取得する第2の処理と、(4−3)前記第1の分光器および前記第2の分光器のうち他方の分光器に対して、前記復方向のスペクトルスキャンを指示し、前記他方の分光器による前記復方向のスペクトルスキャンが実行されたとき、前記検知器によって検出される所定の波長範囲の前記蛍光のスペクトルを取得する第3の処理と、を所定の終了時刻になるまで繰り返して実行することを特徴とする。
【0028】
請求項4に記載の分光蛍光光度計では、往方向のスペクトルスキャンだけでなく、復方向のスペクトルスキャンでも蛍光スペクトルを取得するので、往方向のスペクトルスキャンだけで蛍光スペクトルを取得した場合に比べ、2倍の時間分解能の3次元時間変化蛍光スペクトルを取得することが可能になる。
【0029】
請求項5に記載の分光蛍光光度計は、請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の分光蛍光光度計であって、前記往方向は、短波長側から長波長側へ向かう方向であり、前記復方向は、長波長側から短波長側へ向かう方向であることを特徴とする。
請求項6に記載の分光蛍光光度計は、請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の分光蛍光光度計であって、前記往方向は、長波長側から短波長側へ向かう方向であり、前記復方向は、短波長側から長波長側へ向かう方向であることを特徴とする。
【0030】
請求項5または請求項6の発明によれば、往方向スキャンのスキャン方向を、短波長側から長波長側の方向にするか、または、長波長側から短波長側の方向にするかは、測定試料の特性などに応じて、適宜、定めることができることが可能となる。従って、例えば、通常は、スキャン方向を、短波長側から長波長側の方向に定めておき、エネルギが大きい短波長の照射により測定試料がダメージを受ける場合には、その測定試料の特性などに応じて、長波長側から短波長側の方向に変更することができるようになる。
【0031】
請求項7に記載の分光分析光度計は、それぞれ、入射光をスペクトルスキャンして、そのスペクトルスキャン時に設定される波長の光を選択的に取り出す第1の分光器および第2の分光器と、所定の光源からの入射光のうち、前記第1の分光器により選択的に取り出された第1の波長の第1の選択光のうち、さらに、測定試料を透過した透過光が前記第2の分光器へ入射されたとき、前記第2の分光器により選択的に取り出された第2の波長の第2の選択光の強度を検出する検知器と、前記第1の分光器および第2の分光器に対するスペクトルスキャン動作を制御するとともに、前記検知器によって検出される前記第2の選択光の強度を取得し、前記取得した第2の選択光の強度に基づき、前記測定試料の3次元時間変化透過・吸収スペクトルを生成するデータ処理部と、を備え、前記データ処理部は、(5−1)前記第1の分光器および前記第2の分光器のそれぞれに既知の輝線スペクトルを有する入射光が入射されたとき、前記第1の分光器および前記第2の分光器のそれぞれに対し、前記入射光の往方向および復方向でのスペクトルスキャンを指示し、(5−2)前記指示に基づく前記第1の分光器および前記第2の分光器のそれぞれにおける前記入射光の往方向および復方向でのスペクトルスキャンによって前記検知器から得られる往方向スペクトルおよび復方向スペクトルを、前記既知の輝線スペクトルと比較して、前記第1の分光器および前記第2の分光器のそれぞれにおける往方向波長校正値および復方向波長校正値を取得し、(5−3)前記測定試料の3次元時間変化透過・吸収スペクトルを生成する場合には、前記第1の分光器および前記第2の分光器のそれぞれに対してそれぞれ設定された前記第1の波長および第2の波長を、そのとき前記第1の分光器および前記第2の分光器のそれぞれにおいて行われていたスペクトルスキャンの方向に応じて、前記往方向波長校正値または復方向波長校正値により校正すること、を特徴とする。
【0032】
請求項7に記載の分光分析光度計では、第1の分光器(励起側分光器)および第2の分光器(蛍光側分光器)のそれぞれについて、往方向のスペクトルスキャン時の波長校正値だけでなく、復方向のスペクトルスキャン時の波長校正値を実測して取得する。すなわち、第1の分光器および第2の分光器に対して、両方向のスペクトルスキャン時の波長設定校正値が取得されることになるため、前記測定試料の3次元時間変化透過・吸収スペクトルを測定するとき、いずれの分光器において、いずれの方向にスペクトルスキャンした場合であっても、バックラッシュに起因するスペクトルスキャン時の波長の設定誤差を校正することができる。
【0033】
従って、請求項7に記載の分光分析光度計を用いると、往方向にスペクトルスキャンしたときだけでなく、復方向にスペクトルスキャンときに取得された透過・吸収スペクトルのデータも校正されたデータとして利用することができるようになる。そのため、分光分析光度計における3次元間変化透過・吸収スペクトル取得の手順設定の自由度が増加し、その結果、3次元蛍光スペクトルを取得する時間を短縮したり、取得する3次元蛍光スペクトルを高精度化したりすることが可能になる。
【0034】
請求項8に記載の分光分析光度計は、請求項7に記載の分光分析光度計であって、前記データ処理部は、前記測定試料の透過・吸光の3次元スペクトルを生成する場合に、(6−1)前記第1の分光器および前記第2の分光器に対して、前記第1の波長と第2の波長とを一致させる同期スペクトルスキャンを前記往方向に実行することを指示し、前記指示された往方向の同期スペクトルスキャンが実行されたとき、前記検知器によって検出される所定の波長範囲の前記透過光のスペクトルを取得する第1の処理と、(6−2)前記第1の分光器および前記第2の分光器に対して、前記第1の波長と第2の波長とを一致させる同期スペクトルスキャンを前記復方向に実行することを指示し、前記指示された復方向の同期スペクトルスキャンが実行されたとき、前記検知器によって検出される所定の波長範囲の前記透過光のスペクトルを取得する第2の処理と、を所定の終了時刻になるまで繰り返して実行すること、を特徴とする。
【0035】
請求項9に記載の分光分析光度計は、請求項7に記載の分光分析光度計であって、前記データ処理部は、前記測定試料の透過・吸光の3次元スペクトルを生成する場合に、(7−1)前記第1の分光器および前記第2のうち一方の分光器を、入射光の0次光を選択して透過させるように設定する第1の処理と、(7−2)前記第1の分光器および前記第2のうち他方の分光器に対して、前記往方向のスペクトルスキャンを指示し、前記他方の分光器による前記往方向のスペクトルスキャンが実行されたとき、前記検知器によって検出される所定の波長範囲の前記透過光のスペクトルを取得する第2の処理と、(7−3)前記第1の分光器および前記第2のうち他方の分光器に対して、前記復方向のスペクトルスキャンを指示し、前記他方の分光器による前記復方向のスペクトルスキャンが実行されたとき、前記検知器によって検出される所定の波長範囲の前記透過光のスペクトルを取得する第3の処理と、を所定の終了時刻になるまで繰り返して実行することを特徴とする。
【0036】
請求項8または請求項9に記載の分光分析光度計によれば、往方向のスペクトルスキャンだけでなく、復方向のスペクトルスキャンでも透過・吸収スペクトルを取得するので、往方向のスペクトルスキャンだけで透過・吸収スペクトルを取得した場合に比べ、2倍の時間分解能の3次元時間変化透過・吸収スペクトルを取得することが可能になる。
【0037】
請求項10に記載の分光分析光度計は、請求項7ないし請求項9のいずれか1項に記載の分光分析光度計であって、前記往方向は、短波長側から長波長側へ向かう方向であり、前記復方向は、長波長側から短波長側へ向かう方向であることを特徴とする。
請求項11に記載の分光分析光度計は、請求項7ないし請求項9のいずれか1項に記載の分光分析光度計であって、前記往方向は、長波長側から短波長側へ向かう方向であり、前記復方向は、短波長側から長波長側へ向かう方向であることを特徴とする。
【0038】
請求項10または請求項11の発明によれば、往方向スキャンのスキャン方向を、短波長側から長波長側の方向にするか、または、長波長側から短波長側の方向にするかは、測定試料の特性などに応じて、適宜、定めることができることが可能となる。従って、例えば、通常は、スキャン方向を、短波長側から長波長側の方向に定めておき、エネルギが大きい短波長の照射により測定試料がダメージを受ける場合には、その測定試料の特性などに応じて、長波長側から短波長側の方向に変更することができるようになる。
【発明の効果】
【0039】
本発明によれば、分光蛍光光度計および分光分析光度計において、バックラッシュに起因する波長設定誤差の影響を回避することができ、かつ、3次元蛍光スペクトル測定の高速化または高精度化を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る分光蛍光光度計の構成の例を示した図。
【図2】2次元励起スペクトルの例を示した図。
【図3】2次元蛍光スペクトルの例を示した図。
【図4】3次元蛍光スペクトルの例を示した図。
【図5】励起側分光器における波長設定誤差を校正するための波長校正値を取得する原理を示した図。
【図6】励起側分光器における波長設定誤差を校正するための波長校正値を取得する手順の例を示した図。
【図7】本発明の第1の実施形態に係る分光蛍光光度計の構成の一部を変形した分光蛍光光度計の構成の例を示した図。
【図8】従来の3次元蛍光スペクトルの測定シーケンスの例。
【図9】本発明の実施形態に係る3次元蛍光スペクトルの高速測定シーケンスの例を示した図。
【図10】本発明の実施形態に係る3次元蛍光スペクトルの高精度測定シーケンスの例を示した図。
【図11】本発明の実施形態に係る3次元時間変化蛍光スペクトルの測定シーケンスの例を示した図。
【図12】本発明の実施形態に係る3次元時間変化励起スペクトルの測定シーケンスの例を示した図。
【図13】本発明の第2の実施形態に係る分光分析光度計の構成の例を示した図。
【図14】本発明の第2の実施形態に係る分光分析光度計による3次元時間変化透過・吸収スペクトルの測定シーケンスの例を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、本発明の実施形態について、適宜、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0042】
<第1の実施形態>
図1は、本発明の第1の実施形態に係る分光蛍光光度計の構成の例を示した図である。図1に示すように、分光蛍光光度計100は、光度計部110、データ処理部120、操作・表示部130を含んで構成される。
【0043】
光度計部110は、励起側分光器2および蛍光側分光器7の2つの分光器を含んで構成され、光源1から発せられた連続光は、励起側分光器2により単色の励起光として分光され、ビームスプリッタ3を経て試料設置部5に設置された測定試料6に照射される。このとき、ビームスプリッタ3では、励起光の一部が分光され、モニタ検知器4により、その光の強度が測定され、光源1の変動を補正するために用いられる。
【0044】
励起光が照射されると、測定試料6から蛍光が放出されるが、その放出された蛍光は、蛍光側分光器7により単色光に分光され、分光された単色の蛍光は、検知器8によってその蛍光の強度に応じた電気信号として検出される。検知器8によって検出された蛍光の強度信号は、A/D変換器9を介してディジタルデータに変換され、コンピュータ10に取り込まれる。コンピュータ10は、その取得した蛍光強度のデータを、励起光の波長と、蛍光側分光器7で分光したときの蛍光の波長と、に対応付けて記憶装置に保存するとともに、適宜、モニタ表示装置13に表示する。
【0045】
ここで、とくに図示はしないが、分光器の簡単な構成と波長駆動系について説明しておく。分光器(励起側分光器2、蛍光側分光器7)は、入射光をスペクトル分解する回折格子(グレーティング)と、そのスペクトル分解された入射光を受けて、そのスペクトル分解された入射光のうち、特定の波長の光(単色光)を選択的に取り出すスリットを含んで構成される。従って、スリットが透過させる光の波長は、スペクトル分解された入射光を受けるスリットの位置によって決まる。この場合、通常の分光器では、スリットの位置を固定しておいて、回折格子を少しずつ回転させていくことによって、スリットが透過させる光の波長が定められる。
【0046】
励起側分光器2および蛍光側分光器7に含まれる回折格子は、それぞれ、ギヤやカムなどを介して、励起側パルスモータ12および蛍光側パルスモータ11につながれており、励起側パルスモータ12および蛍光側パルスモータ11の回転力を動力とし、回転する。
【0047】
また、励起側パルスモータ12は、コンピュータ10の指令によって駆動され、その駆動量に応じて励起側分光器2の回折格子が回転させられ、励起側分光器2によって取り出される光の波長、つまり、分光される単色光の波長が設定される。同様に、蛍光側パルスモータ11は、コンピュータ10の指令によって駆動され、その駆動量に応じて蛍光側分光器7の回折格子が回転させられ、蛍光側分光器7によって取り出される光の波長、つまり、分光される単色光の波長が設定される。このような単色光の波長を設定する機構部は、しばしば、波長駆動系と呼ばれる。
【0048】
次に、図2および図3を用いて、分光蛍光光度計100によって得られる2次元蛍光スペクトルの例について説明する。ここで、図2は、2次元励起スペクトルの例を示した図、図3は、2次元蛍光スペクトルの例を示した図である。
【0049】
図2に示した励起スペクトルは、光源1からの光源光を励起側分光器2でスペクトルスキャンし、蛍光側分光器7により分光される蛍光を特定の波長に固定したとき、検知器8から得られる蛍光強度の、励起光の波長に対する依存関係を表したものである。図2では、縦軸は蛍光強度、横軸は励起光の波長(以下、励起波長という)を表している。
【0050】
このとき、コンピュータ10は、蛍光側パルスモータ11を駆動して、蛍光側分光器7が分光する光の波長をある固定波長に設定しておき、次に、励起側パルスモータ12を駆動して、励起側分光器2が分光する光(つまり、励起光)の波長を、あらかじめ定められた測定開始波長から測定終了波長までスキャンする。
【0051】
その場合、励起側分光器2のスペクトルスキャンによって分光された各波長の励起光が測定試料6に照射され、その照射により測定試料6から発せられる蛍光のうち、前記固定波長に設定された蛍光側分光器7を透過した蛍光の強度が検知器8により検出される。そこで、コンピュータ10は、検知器8により検出された蛍光の強度を、A/D変換器9でディジタルデータに変換した後、スペクトルスキャン時の波長(励起波長)に対応付けて取得する。
【0052】
コンピュータ10は、こうして取得した蛍光の強度と励起波長との関係を、図2に示すような2次元の励起スペクトルとしてモニタ表示装置13に表示する。なお、図2中に記載の“EM:500nm”は、蛍光側分光器7が分光する固定波長を意味する。
【0053】
また、図3に示した蛍光スペクトルは、励起側分光器2の励起光の波長を固定し、測定試料6から発せられる蛍光を蛍光側分光器7によりスペクトルスキャンしたとき、検知器8から得られる蛍光強度の、スペクトルスキャン時の蛍光の波長に対する依存関係を表したものである。図3では、縦軸は蛍光強度、横軸は蛍光の波長を表している。
【0054】
このとき、コンピュータ10は、励起側パルスモータ12を駆動して、励起側分光器2が分光する光の波長をある固定波長に設定しておき、次に、蛍光側パルスモータ11を駆動して、蛍光側分光器7が分光する蛍光の波長を、あらかじめ定められた測定開始波長から測定終了波長までスキャンする。
【0055】
その場合、励起側分光器2によって分光された固定波長の励起光が測定試料6に照射され、その照射により測定試料6から発せられる蛍光は、蛍光側分光器7によりスペクトルスキャンされ、そのスペクトルスキャン時の蛍光の各波長に応じて、蛍光側分光器7を透過した蛍光の強度が検知器8により検出される。そこで、コンピュータ10は、検知器8により検出された蛍光の強度を、A/D変換器9でディジタルデータに変換した後、蛍光側分光器7によるスペクトルスキャン時の波長に対応付けて取得する。
【0056】
コンピュータ10は、こうして取得した蛍光の強度と、蛍光側分光器7によるスペクトルスキャン時の波長と、の関係を図3に示したような2次元の蛍光スペクトルとして、モニタ表示装置13に表示する。なお、図3中に記載の“EX:350nm”は、励起側分光器2が分光する固定波長を意味する。
【0057】
図4は、3次元蛍光スペクトルの例を示した図である。コンピュータ10は、基本的には、励起側分光器2における励起光の固定波長の設定を変えつつ、図3に示した2次元の蛍光スペクトルを取得すれば、3次元蛍光スペクトルを取得することができる。すなわち、コンピュータ10は、励起側分光器2による励起波長を、まず、励起光についての開始波長に固定し、蛍光側分光器7によるスペクトルスキャンによって、その励起波長に対する蛍光スペクトルを取得する。そして、それ以降、コンピュータ10は、励起波長を所定の量だけ駆動し(増加または減少させる)、励起波長を固定させた状態で蛍光側分光器7によるスペクトルスキャンによって蛍光スペクトルを取得する処理を、励起光の波長があらかじめ定められた終了波長に達するまで繰り返し実行する。
【0058】
コンピュータ10は、こうして取得した3次元蛍光スペクトルを、図4に示すような等高線図としてモニタ表示装置13に表示する。
【0059】
続いて、図5および図6を参照して、励起側分光器2における波長駆動系のバックラッシュに起因する波長設定誤差を校正するための波長校正値を取得する方法について説明する。ここで、図5は、励起側分光器2における波長設定誤差を校正するための波長校正値を取得する原理を示した図、図6は、その波長校正値を取得する手順の例を示した図である。
【0060】
バックラッシュは、波長駆動の方向(スペクトルスキャンの方向)によって、それぞれ独立に生じるので、波長設定誤差を補正するための波長校正値は、波長駆動の方向ごとに取得する必要がある。
【0061】
例えば、励起側分光器2の波長校正値を取得する場合には、光源1として、連続スペクトルを有する光源を用いるのではなく、輝線スペクトルを有する光源を用いる。例えば、光源1として、水銀ランプを用いた場合には、図5(c)に示すように、輝線がW1(253.7nm),W2(435.8nm),W3(546.1nm)の位置に現れることが知られている。そこで、その輝線W1,W2,W3を基準にすれば、励起側分光器2の波長駆動系の波長設定誤差を求めることができる。
【0062】
以上のように、水銀ランプは、可視光近辺の広い範囲に3本の波長の輝線(253.7nm,435.8nm,546.1nm)を有しているので、短波長から長波長までの複数の波長で励起側分光器2や蛍光側分光器7の波長校正値を得ることができる。従って、水銀ランプは、波長校正用光源として好適である。なお、波長校正用光源として、一般的な分光蛍光光度計100の励起光源に用いられているキセノンランプを用いてもよい。
【0063】
そこで、水銀ランプを光源とする光源光を励起側分光器2へ入射し、励起側分光器2により、その入射光を往方向(例えば、短波長側から長波長側への方向)および復方向(往方向と反対の方向で、ここでは、長波長側から短波長側への方向)にそれぞれスペクトルスキャンして、それぞれの方向に対応する発光スペクトルを取得する。そうすると、図5(a)、(b)に示すように、その発光スペクトルに現れる輝線の波長は、バックラッシュに対応する分だけ、例えば、往方向では−側にαex、復方向では+側にβexだけずれたものになる。そこで、これらのずれがバックラッシュにより固定的に生じるものと考えれば、これらのずれの量αexおよびβexは、それぞれ往方向および復方向の波長校正値とみなすことができる。
【0064】
次に、図6を参照して、励起側分光器2における波長校正値を取得する手順について詳しく説明する。図6に示すように、まず、ユーザは、光源1として1本以上の輝線を有する水銀ランプなどの波長校正用光源をセットし、その光源光を励起側分光器2へ導入する(ステップS10)。このとき、コンピュータ10は、操作パネル14からの入力データを読み取って、励起側分光器2のスキャンの開始波長Wexsおよび終了波長Wexeを設定する(ステップS11)。
【0065】
次に、コンピュータ10は、励起側パルスモータ12など励起側分光器2の波長駆動系を駆動して、波長校正用光源光を開始波長Wexsから終了波長Wexeまで往方向にスペクトルスキャンして、往方向の発光スペクトルを測定する(ステップS12)。
【0066】
なお、ここでは、スペクトルスキャンの開始は、開始波長Wexsから、としているが、波長駆動系のバックラッシュの影響を考慮すると、実際には、開始波長Wexsよりやや小さいWexs−γの波長位置から開始する必要がある(γは、バックラッシュの影響を回避するための波長設定値であり、その値は、例えば、1nm〜5nm程度である)。すなわち、スペクトルスキャンの実動作は、バックラッシュを考慮して、開始波長Wexsより手前の波長位置Wexs−γから開始される。
【0067】
また、コンピュータ10は、検知器8を介して、励起側分光器2で分光された波長校正用光源光の強度を検知する必要がある。そのために、ここでは、試料設置部5には測定試料6の代わりに石英などからなる散乱板が設置され、また、蛍光側分光器7は、入射光の0次光を透過させる、いわゆるミラーモードで使用されるものとする。
【0068】
次に、コンピュータ10は、測定した往方向の発光スペクトルと波長校正用光源の輝線とを比較して(図5(a)参照)、往方向の波長校正値αexを取得する(ステップS13)。なお、波長校正用光源に複数の輝線がある場合には、少なくとも1本の輝線が一致し、できるだけ多くの輝線が一致するように波長校正値αexを定める。
【0069】
次に、コンピュータ10は、励起側パルスモータ12など励起側分光器2の波長駆動系を駆動して、波長校正用光源光を終了波長Wexeから開始波長Wexsまで復方向にスペクトルスキャンして、復方向の発光スペクトルを測定する(ステップS14)。なお、この場合は、バックラッシュを考慮すると、実際のスペクトルスキャンは、終了波長Wexeよりやや大きいWexe+γから開始される。
【0070】
次に、コンピュータ10は、測定した復方向の発光スペクトルと波長校正用光源の輝線とを比較して(図5(b)参照)、復方向の波長校正値βexを取得する(ステップS15)。コンピュータ10は、以上のようにして取得した励起側分光器2についての往方向の波長校正値αexおよび復方向の波長校正値βexを記憶装置に記憶しておく。
【0071】
同様の手順により、コンピュータ10は、蛍光側分光器7についての往方向の波長校正値αemおよび復方向の波長校正値βemを取得することができる。その手順の詳細な説明は省略するが、この場合には、励起側分光器2は、波長校正用光源光の0次光を透過させるミラーモードで使用され、図6に示した手順と同様の手順のスペクトルスキャンは、蛍光側分光器7で行われる。
【0072】
なお、図6では、水銀ランプなどの波長校正用光源光を励起側分光器2で分光し、蛍光側分光器7をミラーモードで用い、検知器8を介して得られる波長校正用光源光のスペクトルの輝線の波長により、波長校正値を取得しているが、図1に示した分光蛍光光度計100の構成では、モニタ検知器4を用いることによっても、同様に波長校正値を取得することができる。
【0073】
この場合には、励起側分光器2で分光された波長校正用光源光の強度は、モニタ検知器4を介してコンピュータ10に取得される。従って、図6を用いて説明した波長校正値の取得手順におけるコンピュータ10の処理としては、波長校正用光源光の強度を検知器8で取得するところを、モニタ検知器4で取得すると変更だけで、他の処理は、図6に示した処理と同じである。
【0074】
なお、本明細書では、「コンピュータ10が、スペクトルスキャンをする」という表現を多用しているが、これは、「コンピュータ10が、励起側パルスモータ12や蛍光側パルスモータ11などの波長駆動系を駆動することによって、励起側分光器2や蛍光側分光器7によって分光された所定の波長範囲の光の強度を、検知器8を介して取得する」ことを意味するものとする。
【0075】
図7は、本発明の第1の実施形態に係る分光蛍光光度計100の構成の一部を変形した分光蛍光光度計の構成の例を示した図である。図7に示すように、その変形例の分光蛍光光度計100aでは、図1に示した分光蛍光光度計100に、波長校正用光源15が追加された構成となっている。さらに、その波長校正用光源15を含む光度計部110aには、光源切替ミラー16も追加されている。コンピュータ10は、切替ミラー16を適宜制御することによって、励起側分光器2に導入する光の光源として光源1を使用するか、または、波長校正用光源15を使用するか、を切替えることができる。
【0076】
従って、実施形態の変形例では、波長校正用光源15を設けたことにより、コンピュータ10は、図6に示したステップS10の手順を、ユーザの介入なしに行うことが可能になる。従って、コンピュータ10は、励起側分光器2および蛍光側分光器7のそれぞれにおける往方向の波長校正値および復方向の波長校正値を、自動処理によって取得することが可能となる。
【0077】
よって、その波長校正値の自動取得を利用すれば、分光蛍光光度計100aは、電源投入時や、毎日の始業時などに、波長校正値の自動取得を行うようにすることができる。そうした場合には、ギヤなど波長駆動系の機構部の磨耗や温度変化に対応した波長校正値を取得することが可能となる。また、自動取得であれば、波長校正値を複数回にわたって取得してもユーザの負担にならないので、波長校正値を複数回取得することにすれば、波長校正値自体の高精度化を図ることも可能となる。
【0078】
続いて、図8〜図12を参照して、分光蛍光光度計100による3次元蛍光スペクトルの様々な取得シーケンスについて説明する。ここで、図8は、比較例として、従来の3次元蛍光スペクトルの測定シーケンスの例を示した図、図9は、本発明の実施形態に係る3次元蛍光スペクトルの高速測定シーケンスの例を示した図、図10は、本発明の実施形態に係る3次元蛍光スペクトルの高精度測定シーケンスの例を示した図、図11は、本発明の実施形態に係る3次元時間変化蛍光スペクトルの測定シーケンスの例を示した図、図12は、本発明の実施形態に係る3次元時間変化励起スペクトルの測定シーケンスの例を示した図である。
【0079】
図8に示すように、3次元蛍光スペクトルは、従来の一般的な分光蛍光光度計では、次のようなシーケンスで取得されていた。なお、図8において、上半分に記載されたグラフは、励起側分光器2が、励起波長をWex1,Wex2,・・・と、適宜、定めながら、蛍光側分光器7が、開始波長Wems〜終了波長Wemeの範囲のスペクトルスキャンを、横軸方向の矢印方向に沿って行うことを表したものである。また、図8において、下半分に記載された表は、上半分のグラフと同じ内容を、表にして表したものである(以下、図10以降の同様の図でも同じ)。
【0080】
まず、時間t=1のときに、コンピュータ10は、励起側分光器2の励起波長をWex1に固定し、測定試料6から発せられる蛍光を、蛍光側分光器7で開始波長Wemsから終了波長Wemeまで往方向(WemsFW)にスペクトルスキャンして、励起波長Wex1に対する蛍光スペクトルを取得する。次に、時間t=2のときに、終了波長Wemeの位置にある蛍光側分光器7の分光波長位置(スリットの位置)を、復方向(WemsBK)に移動させ、開始波長Wemsの位置まで戻し、次の測定に備える。この分光波長位置の移動では、蛍光スペクトルは取得されない。なお、図8では、蛍光スペクトルを取得しない分光波長位置の移動は、破線の矢印で示されている。
【0081】
続いて、コンピュータ10は、時間t=3のときに、励起波長を所定量(Δ:例えば、Δ=5nm)駆動して、励起側分光器2の励起波長をWex2(=Wex1+Δ)に固定し、測定試料6から発せられる蛍光を、蛍光側分光器7で開始波長Wemsから終了波長Wemeまで往方向(WemsFW)にスペクトルスキャンして、励起波長Wex2に対する蛍光スペクトルを取得する。次に、時間t=4のときに、終了波長Wemeの位置にある蛍光側分光器7の分光波長位置を、復方向(WemsBK)に移動させ、開始波長Wemsの位置まで戻し、次の測定に備える。
【0082】
コンピュータ10は、時間t=3,4のときのシーケンスと同様のシーケンスを、励起波長が終了波長Wexnに到達するまで繰り返して実行し、各励起波長に対する蛍光スペクトルを取得することにより、3次元蛍光スペクトルを取得する。この場合、3次元蛍光スペクトルの取得時間は、t=2nとなる。
【0083】
以上に説明した従来の3次元蛍光スペクトル取得シーケンスにおいては、時間t=2,4,6,・・・のときには、蛍光側分光器7の分光波長位置が終了波長Wemeの位置から開始波長Wemsの位置まで、単に、戻されるだけに費やされており、蛍光スペクトルの取得には用いられていない。これでは、時間が無駄に費やされているといわざるを得ない。そこで、本発明の実施形態では、これ以降に詳しく説明するように、復方向のスキャン時にも蛍光スペクトルを取得するようにして、蛍光スペクトル取得の高速化や高精度化を実現する。
【0084】
また、図9に示すように、3次元蛍光スペクトルの高速測定シーケンスでは、コンピュータ10は、まず、時間t=1のときに、励起側分光器2の励起波長をWex1に固定し、測定試料6から発せられる蛍光を、蛍光側分光器7で開始波長Wemsから終了波長Wemeまで往方向(WemsFW)にスペクトルスキャンして、励起波長Wex1に対する蛍光スペクトルを取得する。
【0085】
次に、コンピュータ10は、時間t=2のときに、励起側分光器2の励起波長を所定量(Δ)駆動して、励起側分光器2の励起波長をWex2(=Wex1+Δ)に固定し、測定試料6から発せられる蛍光を、蛍光側分光器7で終了波長Wemeから開始波長Wemsまで復方向(WemsBK)にスペクトルスキャンして、励起波長Wex2に対する蛍光スペクトルを取得する。
【0086】
次に、コンピュータ10は、時間t=3のときに、励起側分光器2の励起波長を所定量(Δ)駆動して、励起側分光器2の励起波長をWex3(=Wex2+Δ)に固定し、測定試料6から発せられる蛍光を、蛍光側分光器7で開始波長Wemsから終了波長Wemeまで往方向(WemsFW)にスペクトルスキャンして、励起波長Wex3に対する蛍光スペクトルを取得する。
【0087】
次に、コンピュータ10は、時間t=4のときに、励起側分光器2の励起波長を所定量(Δ)駆動して、励起側分光器2の励起波長をWex4(=Wex3+Δ)に固定し、測定試料6から発せられる蛍光を、蛍光側分光器7で終了波長Wemeから開始波長Wemsまで復方向(WemsBK)にスペクトルスキャンして、励起波長Wex4に対する蛍光スペクトルを取得する。
【0088】
コンピュータ10は、時間t=3,4のときのシーケンスと同様のシーケンスを、励起波長が終了波長Wexnに到達するまで繰り返して実行し、各励起波長に対する蛍光スペクトルを取得することにより、3次元蛍光スペクトルを取得する。
【0089】
なお、以上の蛍光スペクトル測定シーケンスにおいて、往方向のスペクトルスキャンで得られた蛍光スペクトルについては、そのスキャン時の波長を、先に説明した蛍光側分光器7に対する往方向の波長校正値αemで校正し、また、復方向のスペクトルスキャンで得られた蛍光スペクトルについては、そのスキャン時の波長を、復方向の波長校正値βemで校正する。そうすることによって、バックラッシュに起因するスペクトルスキャン時の波長設定誤差を解消することができる。
【0090】
なお、この場合、3次元蛍光スペクトルの取得時間は、t=nとなる。従って、以上に説明した3次元蛍光スペクトルの高速測定シーケンスでは、従来の3次元蛍光スペクトルの測定シーケンスの場合に比べ、半分の時間で3次元蛍光スペクトルを取得することができる。
【0091】
また、図10に示すように、3次元蛍光スペクトルの高精度測定シーケンスでは、コンピュータ10は、まず、時間t=1のときに、励起側分光器2の励起波長をWex1に固定し、測定試料6から発せられる蛍光を、蛍光側分光器7で開始波長Wemsから終了波長Wemeまで往方向(WemsFW)にスペクトルスキャンして、励起波長Wex1に対する蛍光スペクトルを取得する。次に、コンピュータ10は、時間t=2のときに、励起側分光器2の励起波長をWex1に固定したまま、測定試料6から発せられる蛍光を、蛍光側分光器7で終了波長Wemeから開始波長Wemsまで復方向(WemsBK)にスペクトルスキャンして、励起波長Wex1に対する蛍光スペクトルを取得する。
【0092】
次に、コンピュータ10は、時間t=3のときに、励起側分光器2の励起波長を所定量(Δ)駆動して、励起側分光器2の励起波長をWex2(=Wex1+Δ)に固定し、測定試料6から発せられる蛍光を、蛍光側分光器7で開始波長Wemsから終了波長Wemeまで往方向(WemsFW)にスペクトルスキャンして、励起波長Wex2に対する蛍光スペクトルを取得する。さらに、コンピュータ10は、時間t=4のときに、励起側分光器2の励起波長をWex2に固定したまま、測定試料6から発せられる蛍光を、蛍光側分光器7で終了波長Wemeから開始波長Wemsまで復方向(WemsBK)にスペクトルスキャンして、励起波長Wex2に対する蛍光スペクトルを取得する。
【0093】
コンピュータ10は、時間t=3,4のときのシーケンスと同様のシーケンスを、励起波長が終了波長Wexnに到達するまで繰り返して実行し、各励起波長に対する蛍光スペクトルを取得する。従って、その場合の蛍光スペクトルの総取得時間は、t=2nとなる。また、本測定シーケンスでは、同じ励起波長に対して往方向および復方向の2つの蛍光スペクトルが取得される。つまり、2倍のデータが取得されたことになるので、それらを平均することによってノイズの影響を低下させることができ、より高精度の蛍光スペクトルを取得することができる。すなわち、従来と同じ時間で、より高精度の蛍光スペクトルが得られることになる。
【0094】
また、図11に示すように、3次元時間変化蛍光スペクトルの測定シーケンスでは、コンピュータ10は、まず、時間t=1のときに、励起側分光器2の励起波長をWexnに固定し、測定試料6から発せられる蛍光を、蛍光側分光器7で開始波長Wemsから終了波長Wemeまで往方向(WemsFW)にスペクトルスキャンして、励起波長Wexnに対する時間t=1のときの蛍光スペクトルを取得する。次に、コンピュータ10は、時間t=2のときに、励起側分光器2の励起波長をWexnに固定したまま、測定試料6から発せられる蛍光を、蛍光側分光器7で終了波長Wemeから開始波長Wemsまで復方向(WemsBK)にスペクトルスキャンして、励起波長Wexnに対する時間t=2のときの蛍光スペクトルを取得する。
【0095】
次に、コンピュータ10は、時間t=3のときに、励起側分光器2の励起波長をWexnに固定し、測定試料6から発せられる蛍光を、蛍光側分光器7で開始波長Wemsから終了波長Wemeまで往方向(WemsFW)にスペクトルスキャンして、励起波長Wexnに対する時間t=3のときの蛍光スペクトルを取得する。次に、コンピュータ10は、時間t=2のときに、励起側分光器2の励起波長をWexnに固定したまま、測定試料6から発せられる蛍光を、蛍光側分光器7で終了波長Wemeから開始波長Wemsまで復方向(WemsBK)にスペクトルスキャンして、励起波長Wexnに対する時間t=4のときの蛍光スペクトルを取得する。
【0096】
コンピュータ10は、時間t=3,4のときのシーケンスと同様のシーケンスを、時間が所定の時間t=nに到達するまで繰り返して実行し、励起波長がWexnの場合の各時間t=1,2,3,・・・,nに対応する蛍光スペクトルを取得する。
【0097】
コンピュータ10は、以上のシーケンスにより、励起波長がWexnの場合の蛍光スペクトルの時間変化を得ることができる。なお、励起波長Wexnは、励起側分光器2に対してあらかじめ設定されたスペクトルスキャンの開始波長Wexsと終了波長Wexeとの間に含まれる波長、すなわち、Wexs≦Wexn≦Wexeである。
【0098】
また、図12に示すように、3次元時間変化励起スペクトルの測定シーケンスでは、コンピュータ10は、まず、時間t=1のときに、蛍光側分光器7の分光波長をWemnに固定し、光源1からの入射光を、励起側分光器2で開始波長Wexsから終了波長Wexeまで往方向(WexsFW)にスペクトルスキャンして、蛍光波長Wemnに対する時間t=1のときの蛍光スペクトルを取得する。次に、コンピュータ10は、時間t=2のときに、蛍光側分光器7の分光波長をWemnに固定したまま、光源1からの入射光を、励起側分光器2で終了波長Wexeから開始波長Wexsまで復方向(WexsBK)にスペクトルスキャンして、蛍光波長Wemnに対する時間t=2のときの蛍光スペクトルを取得する。
【0099】
次に、コンピュータ10は、時間t=3のときに、蛍光側分光器7の分光波長をWemnに固定したまま、光源1からの入射光を、励起側分光器2で開始波長Wexsから終了波長Wexeまで往方向(WexsFW)にスペクトルスキャンして、蛍光波長Wemnに対する時間t=3のときの蛍光スペクトルを取得する。次に、コンピュータ10は、時間t=4のときに、蛍光側分光器7の分光波長をWemnに固定したまま、光源1からの入射光を、励起側分光器2で終了波長Wexeから開始波長Wexsまで往方向(WexsBK)にスペクトルスキャンして、蛍光波長Wemnに対する時間t=4のときの蛍光スペクトルを取得する。
【0100】
コンピュータ10は、時間t=3,4のときのシーケンスと同様のシーケンスを、時間が所定の時間t=nに到達するまで繰り返して実行し、蛍光波長がWemnの場合の各時間t=1,2,3,・・・,nに対応する励起スペクトルを取得する。
【0101】
コンピュータ10は、以上のシーケンスにより、蛍光波長がWemnの場合の励起スペクトルの時間変化を得ることができる。なお、蛍光波長Wemnは、蛍光側分光器7に対してあらかじめ設定されたスペクトルスキャンの開始波長Wemsと終了波長Wemeとの間に含まれる波長、すなわち、Wems≦Wemn≦Wemeである。
【0102】
以上、図9〜図12を用いて説明した測定シーケンスにより取得された3次元蛍光スペクトル(励起スペクトルを含む)は、いったんコンピュータ10の記憶装置に記憶された後、図4に示したような等高線などで表示された3次元蛍光スペクトルの図をモニタ表示装置などに表示される。
【0103】
以上、本発明の第1の実施形態によれば、分光蛍光光度計100,100aの励起側分光器2や蛍光側分光器7で入射光をスペクトルスキャンする場合、事前に、短波長側から長波長側への往方向に波長駆動する場合の、バックラッシュに起因する誤差を校正するための往方向の波長校正値を取得するだけではなく、長波長側から短波長側への復方向に波長駆動する場合の、バックラッシュに起因する誤差を校正するための復方向の波長校正値をも取得する。従って、励起側分光器2や蛍光側分光器7においては、入射光が往方向だけでなく復方向にスキャンされるときでも、そのスペクトルを取得することができ、かつ、その取得したスペクトルの波長データを、そのスキャン方向に応じて、往方向の波長校正値または復方向の波長校正値で校正することができる。
【0104】
従って、本実施形態によれば、図9および図10を用いて説明した通り、従来に比べ、高速に(短時間に)3次元蛍光スペクトルを取得することが可能になり、また、従来と同じ時間であれば、より高精度の3次元蛍光スペクトルを取得することが可能になる。
【0105】
また、図11および図12に示した時間変化の3次元蛍光スペクトルまたは励起スペクトルを取得する場合には、往方向だけでなく、復方向でもスペクトル取得が可能となるので、従来、復方向でスペクトル取得ができなかった場合に比べ、半分の時間間隔ごとのスペクトルが得られる。従って、3次元時間変化蛍光スペクトル測定では、その時間分解能を2倍に向上させることができる。
【0106】
また、往方向スキャンでも復方向スキャンでも波長校正されたスペクトルが取得可能になったことの効果は、当然ながら、3次元蛍光スペクトルの取得時だけでなく2次元蛍光スペクトルの取得時にも及ぶ。
【0107】
例えば、従来、往方向のスペクトルスキャンだけで取得していた蛍光スペクトルを往方向および復方向の両方向のスペクトルスキャンで取得するようにすれば、取得された蛍光スペクトルの高精度化を図ることが可能となる。また、同じ条件でn回測定することにより蛍光スペクトルの高精度化を図る場合には、従来に比べ、半分の時間で、その測定を行うことが可能となる。
【0108】
また、第1の実施形態では、往方向スキャンでも復方向スキャンでも蛍光スペクトルの取得が可能であるので、分光蛍光光度計100の構成を、ユーザがスペクトルスキャンの方向を選択可能な構成にすることは容易である。そこで、例えば、操作パネル14からの入力により、ユーザがスペクトルスキャンの方向を自由に指定できるようにしておく。そうすれば、例えば、エネルギーの強い短波長の励起光が照射されると劣化するような試料が測定試料6として用いられたときでも、そのスペクトルスキャンの方向を長波長側から短波長側へ指定することによって、劣化の影響を受ける時間を短くなるようにして、測定試料6の蛍光スペクトルを得ることができる。
【0109】
なお、以上に説明した第1の実施形態では、励起側分光器2および蛍光側分光器7においては、短波長側を開始波長とし、長波長側を終了波長としたが、長波長側を開始波長とし、短波長側を終了波長としても構わない。
【0110】
<第2の実施形態>
図13は、本発明の第2の実施形態に係る分光分析光度計の構成の例を示した図である。図13に示すように、分光分析光度計150は、光度計部155、データ処理部120、操作・表示部130を含んで構成され、第1の実施形態における分光蛍光光度計100の一部が改変されて、測定試料6の透過率や吸光度を測定する装置にされたものである。従って、分光分析光度計150の構成は、図1に示した分光蛍光光度計100(または、図7に示した波長校正用光源15を内蔵した分光蛍光光度計100a)の構成とほとんど同じである。以下、その構成と相違する部分についてのみ説明する。
【0111】
分光分析光度計150においては、光度計部155の励起側分光器2で分光された励起光は、ミラー19によって方向が変えられ、試料設置部5を通過して、蛍光側分光器7へ導入されるように構成されている。従って、試料設置部5に測定試料6を設置し、その測定試料6を透過したときの励起光と、試料設置部5に測定試料6を設置しなかったときの励起光とを、それぞれ、蛍光側分光器7でスペクトルスキャンして分析することによって、測定試料6の透過率や吸光度の波長依存特性などを得ることができる。
【0112】
このとき、励起側分光器2や蛍光側分光器7では、適宜、スペクトルスキャンが行われるが、そのスペクトルスキャンのための波長駆動は、励起側パルスモータ12や蛍光側パルスモータ11によって行われるので、第1の実施形態の場合と同様に、その波長駆動では、バックラッシュに起因する誤差が発生する。そこで、本実施形態でも、第1の実施形態の場合と同様にして、励起側分光器2および蛍光側分光器7のそれぞれに対し、往方向および復方向の波長校正値を取得する。
【0113】
なお、第2の実施形態では、蛍光側分光器7に蛍光が入射されるわけではないが、その蛍光側分光器7の機能は、第1の実施形態における分光蛍光光度計100の蛍光側分光器7と実質的に同じなので同じ名称をそのまま継承したものである。
【0114】
続いて、図14を参照して、分光分析光度計150による3次元時間変化透過・吸収スペクトルを測定するシーケンスについて説明する。図14は、本発明の第2の実施形態に係る分光分析光度計150による3次元時間変化透過・吸収スペクトルの測定シーケンスの例を示した図である。図14には、3通りの測定シーケンスの例が示されている。
【0115】
図14(a)によれば、コンピュータ10は、まず、時間t=1のときに、光源1からの入射光を励起側分光器2で開始波長Wexsから終了波長Wexeまで往方向(WexsFW)にスペクトルスキャンするとともに、そのスペクトルスキャンと同期して、測定試料6の透過光を蛍光側分光器7で開始波長Wemsから終了波長Wemeまで往方向(WemsFW)にスペクトルスキャンする。
【0116】
次に、コンピュータ10は、時間t=2のときに、光源1からの入射光を励起側分光器2で終了波長Wexeから開始波長Wexsまで復方向(WexsBK)にスペクトルスキャンするとともに、そのスペクトルスキャンと同期して、測定試料6の透過光を蛍光側分光器7で終了波長Wemeから開始波長Wemsまで復方向(WemsBK)にスペクトルスキャンする。
【0117】
コンピュータ10は、時間t=1,2のときのシーケンスと同様のシーケンスを時間が所定の時間t=nに到達するまで繰り返して実行し、各時間t=1,2,3,・・・,nに対応する透過・吸収スペクトルを取得する。
【0118】
なお、この測定シーケンスでは、励起側分光器2の開始波長Wexsと蛍光側分光器7の開始波長Wemsとは等しく、また、励起側分光器2の終了波長Wexeと蛍光側分光器7の終了波長Wemeとは等しいものとする。つまり、この測定シーケンスでは、励起側分光器2および蛍光側分光器7では、同じ開始波長から同じ終了波長まで同期してスペクトルスキャンされるので、励起側分光器2および蛍光側分光器7による分光波長は、常に、同じになる。
【0119】
以上のシーケンスにより、コンピュータ10は、測定試料6への入射光および透過光を同じ波長にした場合の透過・吸収スペクトルの時間変化を得ることができる。
【0120】
また、図14(b)の場合には、コンピュータ10は、励起側分光器2を、0次光を透過させるミラーモードで動作させ、また、蛍光側分光器7により測定試料6を透過した透過光をスペクトルスキャンすることにより、同様の透過・吸収スペクトルの時間変化を取得する。
【0121】
すなわち、図14(b)では、コンピュータ10は、まず、励起側分光器2をミラーモードで動作するように設定する。そして、時間t=1のときに、測定試料6の透過光を蛍光側分光器7で開始波長Wemsから終了波長Wemeまで往方向(WemsFW)にスペクトルスキャンする。次に、t=2のときに、測定試料6の透過光を蛍光側分光器7で終了波長Wemeから開始波長Wemsまで復方向(WemsBK)にスペクトルスキャンする。
【0122】
コンピュータ10は、時間t=1,2のときのシーケンスと同様のシーケンスを時間が所定の時間t=nに到達するまで繰り返して実行し、各時間t=1,2,3,・・・,nに対応する透過・吸収スペクトルを取得する。
【0123】
以上のシーケンスにより、コンピュータ10は、測定試料6へ光源1からの光源光(通常は、連続光)の0次光が照射された場合の、測定試料6の透過・吸収スペクトルの時間変化を取得することができる。
【0124】
また、図14(c)の場合には、コンピュータ10は、蛍光側分光器7を、0次光を透過させるミラーモードで動作させ、また、励起側分光器2により光源1からの光源光(通常は、連続光)をスペクトルスキャンすることにより、同様の透過・吸収スペクトルの時間変化を取得する。
【0125】
すなわち、図14(c)では、コンピュータ10は、まず、蛍光側分光器7をミラーモードで動作するように設定する。そして、時間t=1のときに、光源1からの光源光を励起側分光器2で開始波長Wexsから終了波長Wexeまで往方向(WexsFW)にスペクトルスキャンする。次に、t=2のときに、光源1からの光源光を励起側分光器2で終了波長Wexeから開始波長Wexsまで復方向(WexsBK)にスペクトルスキャンする。
【0126】
コンピュータ10は、時間t=1,2のときのシーケンスと同様のシーケンスを時間が所定の時間t=nに到達するまで繰り返して実行し、各時間t=1,2,3,・・・,nに対応する透過・吸収スペクトルを取得する。
【0127】
以上のシーケンスにより、コンピュータ10は、スペクトルスキャン後の励起光(つまり、単色光)が測定試料6へ照射された場合の、測定試料6の透過・吸収スペクトルの時間変化を取得することができる。
【0128】
なお、本実施形態では、図14(a)〜(c)の測定シーケンスに示したように、往方向でも復方向でも透過・吸収スペクトルを取得することができるので、従来のように復方向スキャン時に透過・吸収スペクトルを取得しなかったときに比べ、測定試料6の透過・吸収スペクトルの時間変化を2倍の時間分解能で取得することが可能になる。
【0129】
また、本実施形態でも、2次元の測定試料6の透過・吸収スペクトルを取得することが可能であり、その場合には、従来、往方向のスペクトルスキャンだけで取得していた透過・吸収スペクトルを往方向および復方向の両方向のスペクトルスキャンで取得するようにすれば、取得された透過・吸収スペクトルの高精度化を図ることが可能となる。また、同じ条件でn回測定することにより透過・吸収スペクトルの高精度化を図る場合には、従来に比べ、半分の時間で、その測定を行うことが可能となる。
【0130】
<その他の実施形態>
以上に説明した実施形態では、励起側パルスモータ12や蛍光側パルスモータ11などの波長駆動系で生じるバックラッシュに起因する波長設定誤差を実測し、実測した誤差を校正値とすることによって、バックラッシュに起因する波長設定誤差の影響を回避できるようにしたが、例えば、励起側パルスモータ12および蛍光側パルスモータ11として回折格子を直接回転させるダイレクトドライブモータを用いることによって、バックラッシュを防止するようにしてもよい。
【0131】
ダイレクトドライブモータを用いた場合には、バックラッシュの問題が解決されるので、往方向にスペクトルスキャンした場合でも、復方向にスペクトルスキャンした場合でも波長設定誤差を無視可能な程度に小さくすることができる。従って、その場合には、あらかじめ励起側分光器2や蛍光側分光器7に対する波長校正値を取得しなくても、図9以下に示した測定シーケンスで3次元の蛍光スペクトルなどを取得することができる。
【0132】
なお、ダイレクトドライブモータを用いた場合でも、その往方向の波長設定値と復方向の波長設定値とには、わずかでも誤差があるとする場合には、第1の実施形態で説明したようにして、励起側分光器2および蛍光側分光器7に対して、往方向および復方向の波長校正値を求めればよい。
【0133】
このように、励起側パルスモータ12および蛍光側パルスモータ11としてダイレクトドライブモータを用いることによって、3次元蛍光スペクトルの測定精度を向上させることができる。
【符号の説明】
【0134】
1 光源
2 励起側分光器(第1の分光器)
3 ビームスプリッタ
4 モニタ検知器
5 試料設置部
6 測定試料
7 蛍光側分光器(第2の分光器)
8 検知器
9 A/D変換器
10 コンピュータ
11 蛍光側パルスモータ
12 励起側パルスモータ
13 モニタ表示装置
14 操作パネル
15 波長校正用光源
16 光源切替ミラー
19 ミラー
100 分光蛍光光度計
110 光度計部
120 データ処理部
130 操作・表示部
150 分光分析光度計



【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ、入射光をスペクトルスキャンして、そのスペクトルスキャン時に設定される波長の光を選択的に取り出す第1の分光器および第2の分光器と、
所定の光源からの入射光のうち、前記第1の分光器により選択的に取り出された第1の波長の選択光が、測定試料に照射され、前記選択光の照射により前記測定試料から発せられた蛍光または間接光が前記第2の分光器へ入射されたとき、前記第2の分光器により選択的に取り出された第2の波長の蛍光または間接光の強度を検出する検知器と、
前記第1の分光器および第2の分光器に対するスペクトルスキャン動作を制御するとともに、前記検知器によって検出される蛍光の強度を取得し、前記取得した蛍光の強度を、前記第1の波長と前記第2の波長とに対応付けて、前記蛍光の3次元スペクトルを生成するデータ処理部と、
を備え、
前記データ処理部は、
前記第1の分光器および前記第2の分光器のそれぞれに既知の輝線スペクトルを有する入射光が入射されたとき、前記第1の分光器および前記第2の分光器のそれぞれに対し、前記入射光の往方向および復方向でのスペクトルスキャンを指示し、
前記指示に基づく前記第1の分光器および前記第2の分光器のそれぞれにおける前記入射光の往方向および復方向でのスペクトルスキャンによって前記検知器から得られる往方向スペクトルおよび復方向スペクトルを、前記既知の輝線スペクトルと比較して、前記第1の分光器および前記第2の分光器のそれぞれにおける往方向波長校正値および復方向波長校正値を取得し、
前記測定試料から発せられる蛍光の3次元スペクトルを生成する場合には、前記第1の分光器および前記第2の分光器のそれぞれに対してそれぞれ設定された前記第1の波長および第2の波長を、そのとき前記第1の分光器および前記第2の分光器のそれぞれにおいて行われていたスペクトルスキャンの方向に応じて、前記往方向波長校正値または復方向波長校正値により校正すること
を特徴とする分光蛍光光度計。
【請求項2】
前記データ処理部は、
前記測定試料から発せられる蛍光の3次元スペクトルを生成する場合に、
前記第1の分光器に対し、前記往方向のスペクトルスキャンの開始を指示し、前記第1の分光器による前記往方向のスペクトルスキャンが開始され、前記第1の分光器の選択光の波長として所定の開始波長が設定されたとき、前記第1の分光器に対し、前記往方向のスペクトルスキャンの一時停止を指示する第1の処理と、
前記第2の分光器に対し、前記往方向のスペクトルスキャンの実行を指示し、前記第2の分光器による前記往方向のスペクトルスキャンが実行されたとき、前記検知器によって検出される所定の波長範囲の蛍光のスペクトルを取得する第2の処理と、
前記第1の分光器に対し、前記往方向のスペクトルスキャンの再開を指示し、前記第1の分光器による前記往方向のスペクトルスキャンが再開され、前記第1の分光器の選択光の波長が所定の変量だけ増加または減少されて設定されたとき、前記第1の分光器に対し、前記往方向のスペクトルスキャンの一時停止を指示する第3の処理と、
前記第2の分光器に対し、前記復方向のスペクトルスキャンの実行を指示し、前記第2の分光器による前記復方向のスペクトルスキャンが実行されたとき、前記検知器によって検出される前記所定の波長範囲の蛍光のスペクトルを取得する第4の処理と、
前記第1の分光器に対し、前記往方向のスペクトルスキャンの再開を指示し、前記第1の分光器による前記往方向のスペクトルスキャンが再開され、前記第1の分光器の選択光の波長が所定の変量だけ増加または減少されて設定されたとき、前記第1の分光器に対し前記往方向スキャンの一時停止を指示する第5の処理と、
前記第1の分光器の選択光の波長が所定の終了波長に到達したか否かを判定し、前記第1の分光器の選択光の波長が前記所定の終了波長に到達していないとき、前記第2の処理以降の処理を繰り返して実行し、前記第1の分光器の選択光の波長が前記所定の終了波長に到達したとき、前記第2の分光器に対し前記往方向のスペクトルスキャンの終了を指示する第6の処理と、
を実行すること
を特徴とする請求項1に記載の分光蛍光光度計。
【請求項3】
前記データ処理部は、
前記測定試料から発せられる蛍光の3次元スペクトルを生成する場合に、
前記第1の分光器に対し、前記往方向のスペクトルスキャンの開始を指示し、前記第1の分光器による前記往方向のスペクトルスキャンが開始され、前記第1の分光器の選択光の波長として所定の開始波長が設定されたとき、前記第1の分光器に対し、前記往方向のスペクトルスキャンの一時停止を指示する第1の処理と、
前記第2の分光器に対し、前記往方向のスペクトルスキャンの実行を指示し、前記第2の分光器による前記往方向のスペクトルスキャンが実行されたとき、前記検知器によって検出される所定の波長範囲の蛍光のスペクトルを取得する第2の処理と、
前記第2の分光器に対し、前記復方向のスペクトルスキャンの実行を指示し、前記第2の分光器による前記復方向のスペクトルスキャンが実行されたとき、前記検知器によって検出される前記所定の波長範囲の蛍光のスペクトルを取得する第3の処理と、
前記第2の処理および第3の処理によってそれぞれ取得された前記蛍光のスペクトルを平均化する第4の処理と、
前記第1の分光器に対し、前記往方向のスペクトルスキャンの再開を指示し、前記第1の分光器による前記往方向のスペクトルスキャンが再開され、前記第1の分光器の選択光の波長が所定の変量だけ増加または減少されて設定されたとき、前記第1の分光器に対し前記往方向スキャンの一時停止を指示する第5の処理と、
前記第1の分光器の選択光の波長が所定の終了波長に到達したか否かを判定し、前記第1の分光器の選択光の波長が所定の終了波長に到達していないとき、前記第2の処理以降の処理を繰り返して実行し、前記第1の分光器の選択光の波長が所定のスキャン終了波長に到達したとき、前記第2の分光器に対し前記往方向のスペクトルスキャンの終了を指示する第6の処理と、
を実行すること
を特徴とする請求項1に記載の分光蛍光光度計。
【請求項4】
前記データ処理部は、
前記測定試料から発せられる蛍光の3次元時間変化スペクトルを生成する場合に、
前記第1の分光器および前記第2のうち一方の分光器を、入射光の0次光を選択して透過させるように設定する第1の処理と、
前記第1の分光器および前記第2のうち他方の分光器に対して、前記往方向のスペクトルスキャンを指示し、前記他方の分光器による前記往方向のスペクトルスキャンが実行されたとき、前記検知器によって検出される所定の波長範囲の前記蛍光のスペクトルを取得する第2の処理と、
前記第1の分光器および前記第2のうち他方の分光器に対して、前記復方向のスペクトルスキャンを指示し、前記他方の分光器による前記復方向のスペクトルスキャンが実行されたとき、前記検知器によって検出される所定の波長範囲の前記蛍光のスペクトルを取得する第3の処理と、
を所定の終了時刻になるまで繰り返して実行すること
を特徴とする請求項1に記載の分光蛍光光度計。
【請求項5】
前記往方向は、短波長側から長波長側へ向かう方向であり、復方向は、長波長側から短波長側へ向かう方向であること
を特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の分光蛍光光度計。
【請求項6】
前記往方向は、長波長側から短波長側へ向かう方向であり、復方向は、短波長側から長波長側へ向かう方向であること
を特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の分光蛍光光度計。
【請求項7】
それぞれ、入射光をスペクトルスキャンして、そのスペクトルスキャン時に設定される波長の光を選択的に取り出す第1の分光器および第2の分光器と、
所定の光源からの入射光のうち、前記第1の分光器により選択的に取り出された第1の波長の第1の選択光のうち、さらに、測定試料を透過した透過光が前記第2の分光器へ入射されたとき、前記第2の分光器により選択的に取り出された第2の波長の第2の選択光の強度を検出する検知器と、
前記第1の分光器および第2の分光器に対するスペクトルスキャン動作を制御するとともに、前記検知器によって検出される前記第2の選択光の強度を取得し、前記取得した第2の選択光の強度に基づき、前記測定試料の3次元時間変化透過・吸収スペクトルを生成するデータ処理部と、
を備え、
前記データ処理部は、
前記第1の分光器および前記第2の分光器のそれぞれに既知の輝線スペクトルを有する入射光が入射されたとき、前記第1の分光器および前記第2の分光器のそれぞれに対し、前記入射光の往方向および復方向でのスペクトルスキャンを指示し、
前記指示に基づく前記第1の分光器および前記第2の分光器のそれぞれにおける前記入射光の往方向および復方向でのスペクトルスキャンによって前記検知器から得られる往方向スペクトルおよび復方向スペクトルを、前記既知の輝線スペクトルと比較して、前記第1の分光器および前記第2の分光器のそれぞれにおける往方向波長校正値および復方向波長校正値を取得し、
前記測定試料の3次元時間変化透過・吸収スペクトルを生成する場合には、前記第1の分光器および前記第2の分光器のそれぞれに対してそれぞれ設定された前記第1の波長および第2の波長を、そのとき前記第1の分光器および前記第2の分光器のそれぞれにおいて行われていたスペクトルスキャンの方向に応じて、前記往方向波長校正値または復方向波長校正値により校正すること
を特徴とする分光分析光度計。
【請求項8】
前記データ処理部は、
前記測定試料の透過・吸光の3次元スペクトルを生成する場合に、
前記第1の分光器および前記第2の分光器に対して、前記第1の波長と第2の波長とを一致させる同期スペクトルスキャンを前記往方向に実行することを指示し、前記指示された往方向の同期スペクトルスキャンが実行されたとき、前記検知器によって検出される所定の波長範囲の前記透過光のスペクトルを取得する第1の処理と、
前記第1の分光器および前記第2の分光器に対して、前記第1の波長と第2の波長とを一致させる同期スペクトルスキャンを前記復方向に実行することを指示し、前記指示された復方向の同期スペクトルスキャンが実行されたとき、前記検知器によって検出される所定の波長範囲の前記透過光のスペクトルを取得する第2の処理と、
を所定の終了時刻になるまで繰り返して実行すること
を特徴とする請求項7に記載の分光分析光度計。
【請求項9】
前記データ処理部は、
前記測定試料の透過・吸光の3次元スペクトルを生成する場合に、
前記第1の分光器および前記第2のうち一方の分光器を、入射光の0次光を選択して透過させるように設定する第1の処理と、
前記第1の分光器および前記第2のうち他方の分光器に対して、前記往方向のスペクトルスキャンを指示し、前記他方の分光器による前記往方向のスペクトルスキャンが実行されたとき、前記検知器によって検出される所定の波長範囲の前記透過光のスペクトルを取得する第2の処理と、
前記第1の分光器および前記第2のうち他方の分光器に対して、前記復方向のスペクトルスキャンを指示し、前記他方の分光器による前記復方向のスペクトルスキャンが実行されたとき、前記検知器によって検出される所定の波長範囲の前記透過光のスペクトルを取得する第3の処理と、
を所定の終了時刻になるまで繰り返して実行すること
を特徴とする請求項7に記載の分光分析光度計。
【請求項10】
前記往方向は、短波長側から長波長側へ向かう方向であり、復方向は、長波長側から短波長側へ向かう方向であること
を特徴とする請求項7ないし請求項9のいずれか1項に記載の分光分析光度計。
【請求項11】
前記往方向は、長波長側から短波長側へ向かう方向であり、復方向は、短波長側から長波長側へ向かう方向であること
を特徴とする請求項7ないし請求項9のいずれか1項に記載の分光分析光度計。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2010−276362(P2010−276362A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−126541(P2009−126541)
【出願日】平成21年5月26日(2009.5.26)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】