説明

分岐コネクタおよび分岐コネクタに接続されるコネクタ

【課題】伝送波形の歪みを改善するためのフィルタ材を一体的に備えた分岐コネクタおよび分岐コネクタに接続するコネクタを提供する。
【解決手段】通信回路を構成する幹線から支線が分岐接続する位置に設ける分岐コネクタあるいは分岐コネクタに接続するコネクタであって、コネクタハウジングがフェライトを含有する樹脂により成形されている、あるいは、樹脂成形品からなるコネクタハウジングの壁面にフェライト被覆層が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分岐コネクタおよび分岐コネクタに接続されるコネクタに関し、詳しくは、車載LAN等の通信ネットワークの幹線から支線を分岐する分岐接続部に生じる伝送波形歪みを緩和する機能を備えたものである。
【背景技術】
【0002】
車載ネットワーク等の通信ネットワークにおいて、1つの通信機器から別の通信機器へ信号を伝送する際に、電気的または磁気的ノイズによって伝送波形に歪みが発生して通信が正常に行われないという問題がある。この波形歪みは主としてインピーダンスの不整合に起因する信号の反射によっても発生し、通信線の分岐点や通信機器内に収容した基板との接続点においてはインピーダンス不整合が発生することは避けられなかった。そのため、従来より分岐点や通信機器との接続点での波形歪みを改善するための種々の技術が提案されている。
【0003】
例えば、特開平6−76886号公報(特許文献1)では、図8に示すように、コネクタハウジング1内に収容した端子2を円筒状のフェライトコア3に通すことにより伝送波形の歪みを改善している。
しかしながら、特許文献1で提供されている構造では、各端子2を円筒状のフェライトコア3に通さなければならず、かつ、これらフェライトコア3を保持するための構造が必要となり、部品点数およびコネクタの製造工程が増加すると共に、コネクタハウジング1の構造が複雑になる問題がある。
【0004】
【特許文献1】特開平6−76886号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は前記問題に鑑みてなされたものであり、伝送波形の歪みを改善するためのフェライトからなるフィルタ材を一体的に備えた分岐コネクタおよび分岐コネクタに接続するコネクタを提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するため、本発明は、第1の発明として、通信回路を構成する幹線から支線が分岐接続する位置に設けられる分岐コネクタであって、
長尺なジョイント部と、該ジョイント部の長さ方向に間隔をあけて突出させた複数の電線接続用端子部を有するバスバーと、
前記バスバーを収容するコネクタハウジングを備え、
前記コネクタハウジングはフェライトを含有する樹脂により成形され、あるいは樹脂成形品からなる前記コネクタハウジングの壁面にフェライト被覆層が設けられていることを特徴とする分岐コネクタを提供している。
【0007】
前記フェライト被覆層は、前記コネクタハウジングの外周面あるいは/および前記支線と接続するコネクタを嵌合するコネクタ嵌合部の内周面からなる前記コネクタハウジングの壁面に設けられ、かつ、該フェライト被覆層は前記バスバーの電線接続用端子部の軸線まわりの外周全周を囲むように設けられていることが好ましい。
【0008】
また、本発明は、第2の発明として、通信回路を構成する幹線から支線が分岐接続する位置に設けられる分岐コネクタに対して、嵌合接続される前記幹線および支線に夫々接続されたコネクタであって、
一端が前記幹線もしくは支線の端末に接続される一方、他端が前記分岐コネクタとの接続時に分岐コネクタ内のバスバーに設けた電線接続用端子部に接続される端子材と、
前記端子材を収容するコネクタハウジングを備え、
前記コネクタハウジングがフェライトを含有する樹脂により成形され、あるいは樹脂成形品からなるコネクタハウジングの壁面にフェライト被覆層が設けられていることを特徴とするコネクタを提供している。
【0009】
前記フェライト被覆層は、前記コネクタハウジングの外周面あるいは/および前記端子材を収容する端子収容室の内周面からなる前記コネクタハウジングの壁面に設けられ、かつ、該フェライト被覆層は前記端子材の軸線まわりの外周全周を囲むように設けられていることが好ましい。
【0010】
前記構成の第1の発明の分岐コネクタあるいは/および第2の発明のコネクタによれば、コネクタハウジングを磁性体であるフェライトを含有する樹脂で成形している、あるいは、コネクタハウジングの壁面にフェライト被覆層を設けているため、コネクタハウジングに一体的に設けたフェライトが分岐接続部近傍に発生する磁界を吸収して熱に変え、分岐接続部のインピーダンス不整合から増大した高周波成分を低減することができ、分岐接続部で生じる伝送波形の歪みを改善することができる。
また、コネクタハウジングにフェライトを一体的に設けているため、分岐接続部近傍において幹線もしくは支線に接続された端子材やバスバーの電線接続用端子部を別体のフェライトに通す必要がない。これにより、コネクタハウジングと別体のフェライトや該フェライトを保持するための構造が不要となり、部品点数およびコネクタの製造工程を低減できると共に、コネクタハウジングの構造を簡単にすることができる。
【0011】
さらに、第1の発明において、フェライト被覆層で前記バスバーの電線接続用端子部の軸線まわりの外周全周を囲む、あるいは、第2の発明において、フェライト被覆層で前記端子材の軸線まわりの外周全周を囲むと、バスバーの電線接続用端子部もしくは端子材を環状のフェライト被覆層に貫通させた状態となり、分岐接続部で生じる伝送波形の歪みをより改善しやすくなる。
特に、第2の発明において、前記端子材を収容する端子収容室の内周面にそれぞれフェライト被覆層を設けると、1つのフェライト被覆層に複数の端子材を貫通させるのではなく、各端子材を異なるフェライト被覆層にそれぞれ貫通させることができるため、フィルタ性能を均一に保持することができる。
【0012】
なお、分岐コネクタと該分岐コネクタに接続するコネクタのいずれか一方のコネクタハウジングにフェライトを一体的に設けてもよいし、分岐コネクタと該分岐コネクタに接続するコネクタの両方のコネクタハウジングにフェライトを一体的に設けてもよい。
【発明の効果】
【0013】
前述したように、本発明によれば、コネクタハウジングに伝送波形の歪みを改善するためのフェライトを一体的に設けているため、分岐接続部近傍の幹線もしくは支線に接続された端子材やバスバーの電線接続用端子部を別体のフェライトに通すことなく伝送波形の歪みを改善することができる。これにより、コネクタハウジングと別体のフェライトや該フェライトを保持するための構造が不要となり、部品点数およびコネクタの製造工程を低減できると共に、コネクタハウジングの構造を簡単にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
図1乃至図3は、本発明の第1実施形態を示し、分岐コネクタ10は、CAN通信(差動伝送方式)を行う車載LANにおいて、幹線から支線が分岐する分岐部を形成するものであり、図1に示すように、差動伝送線路を構成するツイストペア電線40の端末に接続されたコネクタ30(30A、30B)と嵌合接続するものである。
【0015】
分岐コネクタ10のコネクタハウジング11は、磁性体である粒状のフェライト13を含有した樹脂成形品である。コネクタハウジング11に使用する樹脂としては、PBT(ポリブチレンテレフタレート)、SPS(シンジオタクチックポリスチレン)、LCP(液晶ポリエステル)が一般的であるが、ナイロン等でもよい。該コネクタハウジング11は、図2に示すように、一側部に左右方向Xに延在するバスバー収容部11aを上下方向Yに2段で並設する一方、他側部に4つのコネクタ嵌合部11bを左右方向Xに並設している。これらバスバー収容部11aとコネクタ嵌合部11bは、コネクタ嵌合部11bの底壁11cで仕切っており、該底壁11cに左右方向Xに間隔をあけてバスバー収容部11aとコネクタ嵌合部11bに連通する端子孔11dを穿設している。コネクタ嵌合部11bの内面の所要箇所には、後述するコネクタ30を係止するための係止溝11eを設けている。
【0016】
前記コネクタハウジング11のバスバー収容部11aに収容するバスバー20は、長尺なジョイント部20aと、該ジョイント部20aの長さ方向に間隔をあけて突出させた複数の電線接続用端子部20bからなる。
バスバー20のジョイント部20aをコネクタハウジング11のバスバー収容部11aに収容する一方、電線接続用端子部20bはコネクタハウジング11の端子孔11dを貫通させて、先端部をコネクタ嵌合部11b内に突出させている。このように、コネクタハウジング11内にバスバー20を収容した状態で、バスバー収容部11aを設けたコネクタハウジング11の一側にカバー12をロック結合して、バスバー収容部11aの開口端を閉鎖している。
【0017】
前記コネクタハウジング11のコネクタ嵌合部11bに嵌合するコネクタ30のコネクタハウジング31も、磁性体である粒状のフェライト13を含有した樹脂成形品である。コネクタハウジング31に使用する樹脂も、PBT(ポリブチレンテレフタレート)、SPS(シンジオタクチックポリスチレン)、LCP(液晶ポリエステル)が一般的であるが、ナイロン等でもよい。該コネクタハウジング31は、図3に示すように、上下方向Yに2つの端子収容室31aを並設し、外面の所要箇所に分岐コネクタ10のコネクタ嵌合部11b内に係止するための係止爪31bを突設している。該コネクタ30は差動伝送線路を構成するツイストペア電線40の端末に接続され、上方の端子収容室31a−1には、ツイストペア電線40の第1通信線41A(CAN_H)の端末に接続した端子材42Aが挿入係止されている一方、下方の端子収容室31a−2には、ツイストペア電線40の第2通信線41B(CAN_L)の端末に接続した端子材42Bが挿入係止されている。
【0018】
本実施形態では、通信回路の幹線を構成する2組のツイストペア電線40Aと支線を構成する2組のツイストペア電線40Bの端末に接続されたコネクタ30A、30Bを分岐コネクタ10のコネクタ嵌合部11bに夫々嵌合している。このとき、コネクタ30の端子材42A、42Bが分岐コネクタ10内のバスバー20の電線接続用端子部20bとそれぞれ雌雄嵌合接続され、ツイストペア電線40の第1通信線41A同士、第2通信線41B同士がそれぞれバスバー20を介して接続される。
【0019】
前記構成によれば、分岐コネクタ10と該分岐コネクタ10に接続されるコネクタ30のコネクタハウジング11、31を磁性体であるフェライト13を含有する樹脂で成形しているため、コネクタハウジング11、31に一体的に設けたフェライト13が分岐接続部近傍に発生する磁界を吸収して熱に変え、分岐接続部のインピーダンス不整合から増大した高周波成分を低減することができ、分岐接続部で生じる伝送波形の歪みを改善することができる。
このように、コネクタハウジング11、31にフェライトを含有させているため、分岐接続部近傍の幹線もしくは支線に接続された端子材42やバスバー20の電線接続用端子部20bを別体のフェライトに通す必要がない。これにより、コネクタハウジング11、31と別体のフェライトや、コネクタハウジング11、31にフェライトを保持するための構造が不要となり、部品点数およびコネクタの製造工程を低減できると共に、コネクタハウジング11、31の構造を簡単にすることができる。
【0020】
なお、本実施形態では、分岐コネクタ10と該分岐コネクタに接続されるコネクタ30の両方のコネクタハウジング11、31にフェライトを含有させているが、いずれか一方のコネクタハウジングにのみフェライトを含有させてもよい。
また、支線に接続したコネクタ30Bのコネクタハウジングにのみフェライトを含有させ、幹線に接続したコネクタ30Aのコネクタハウジングにはフェライトを含有させなくてもよい。
さらに、分岐コネクタ10に差動伝送線路を構成するツイストペア電線40を接続しているため、コネクタハウジング11内にバスバー20を2段で配置しているが、ペア電線以外の電線を接続する場合には、コネクタハウジング11に1段あるいは3段以上でバスバーを配置してもよい。
【0021】
図4及び図5に、本発明の第2実施形態を示す。
本実施形態では、分岐コネクタ10と該分岐コネクタ10に接続するコネクタ30のコネクタハウジング11、31を成形する樹脂にフェライトを含有させておらず、分岐コネクタ10のコネクタハウジング11ではコネクタ嵌合部11bの内周面、コネクタ30のコネクタハウジング31では外周面にそれぞれフェライト被覆層14、32を設けている。該フェライト被覆層14は、ペースト状のフェライトを噴き付けにより塗布して形成している。
前記コネクタハウジング11では、フェライト被覆層14によりバスバー20の電線接続用端子部20aの軸線まわりの外周全周を囲んでおり、コネクタハウジング31では、フェライト被覆層32により端子材42の軸線まわりの外周全周を囲んでいる。
【0022】
前記構成によれば、コネクタハウジング11、31のフェライト被覆層14、32によりバスバー20の電線接続用端子部20aと端子材42の外周を囲んでいるため、分岐接続部で生じる伝送波形の歪みを改善することができる。
このように、コネクタハウジング11、31にフェライト被覆層14、32を一体的に設けているため、別体のフェライトや、コネクタハウジング11、31にフェライトを保持するための構造が不要となり、部品点数およびコネクタの製造工程を低減できると共に、コネクタハウジング11、31の構造を簡単にすることができる。
なお、支線に接続したコネクタ30Bのコネクタハウジングにのみフェライト被覆層を設け、幹線に接続したコネクタ30Aのコネクタハウジングにはフェライト被覆層を設けなくてもよい。
【0023】
図6及び図7は、第2実施形態の変形例を示す。
分岐コネクタ10のコネクタハウジング11に設けるフェライト被覆層14は、図6(A)に示すように、コネクタハウジング11の外周面に設けてもよいし、図6(B)に示すように、コネクタハウジング11の外周面とコネクタ嵌合部11bの内周面の両方に設けてもよい。
【0024】
一方、コネクタ30のコネクタハウジング31に設けるフェライト被覆層32は、図7(A)に示すように、端子収容室31aの内周面に設けてもよいし、図7(B)に示すように、コネクタハウジング31の外周面と端子収容室31aの内周面の両方に設けてもよい。
これら分岐コネクタ10とコネクタ30のいずれを組み合わせて用いてもよく、また、分岐コネクタ10とコネクタ30のいずれか一方にのみフェライト被覆層を設ける構成としてもよい。
さらに、第1実施形態のフェライトを含有する樹脂で成形したコネクタハウジング11、31にフェライト被覆層14、32を設けてもよい。
なお、他の構成及び作用効果は第1実施形態と同様のため、同一の符号を付して説明を省略する。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明の分岐コネクタは、車載LAN・OA(Office Automation)・FA(Factory Automation)等の通信回路に好適に用いられるものである。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の第1実施形態の分岐コネクタと、該分岐コネクタに接続するコネクタを示す図面である。
【図2】分岐コネクタの断面図である。
【図3】分岐コネクタにコネクタを接続した状態を示す断面図である。
【図4】第2実施形態の分岐コネクタと、該分岐コネクタに接続するコネクタを示す図面である。
【図5】分岐コネクタにコネクタを接続した状態を示す断面図である。
【図6】(A)(B)は、第2実施形態の変形例の分岐コネクタの断面図ある。
【図7】(A)(B)は、第2実施形態の変形例のコネクタの断面図ある。
【図8】従来例を示す図面である。
【符号の説明】
【0027】
10 分岐コネクタ
11 コネクタハウジング
11a バスバー収容部
11b コネクタ嵌合部
13 フェライト
14 フェライト被覆層
20 バスバー
20a ジョイント部
20b 電線接続用端子部
30 コネクタ
32 フェライト被覆層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
通信回路を構成する幹線から支線が分岐接続する位置に設けられる分岐コネクタであって、
長尺なジョイント部と、該ジョイント部の長さ方向に間隔をあけて突出させた複数の電線接続用端子部を有するバスバーと、
前記バスバーを収容するコネクタハウジングを備え、
前記コネクタハウジングはフェライトを含有する樹脂により成形され、あるいは樹脂成形品からなる前記コネクタハウジングの壁面にフェライト被覆層が設けられていることを特徴とする分岐コネクタ。
【請求項2】
前記フェライト被覆層は、前記コネクタハウジングの外周面あるいは/および前記支線と接続するコネクタを嵌合するコネクタ嵌合部の内周面からなる前記コネクタハウジングの壁面に設けられ、かつ、該フェライト被覆層は前記バスバーの電線接続用端子部の軸線まわりの外周全周を囲むように設けられている請求項1に記載の分岐コネクタ。
【請求項3】
通信回路を構成する幹線から支線が分岐接続する位置に設けられる分岐コネクタに対して、嵌合接続される前記幹線および支線に夫々接続されたコネクタであって、
一端が前記幹線もしくは支線の端末に接続される一方、他端が前記分岐コネクタとの接続時に分岐コネクタ内のバスバーに設けた電線接続用端子部に接続される端子材と、
前記端子材を収容するコネクタハウジングを備え、
前記コネクタハウジングがフェライトを含有する樹脂により成形され、あるいは樹脂成形品からなるコネクタハウジングの壁面にフェライト被覆層が設けられていることを特徴とするコネクタ。
【請求項4】
前記フェライト被覆層は、前記コネクタハウジングの外周面あるいは/および前記端子材を収容する端子収容室の内周面からなる前記コネクタハウジングの壁面に設けられ、かつ、該フェライト被覆層は前記端子材の軸線まわりの外周全周を囲むように設けられている請求項3に記載のコネクタ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2008−153066(P2008−153066A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−340027(P2006−340027)
【出願日】平成18年12月18日(2006.12.18)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】