説明

分岐澱粉とその製造方法並びに用途

【課題】 耐老化性を有する新規澱粉質と、当該澱粉質を原料澱粉質から酵素的に効率よく製造する方法並びにその用途を提供することを課題とする。
【解決手段】 顕著な老化耐性を有する、6−α−マルトシル分岐構造及び/又は6−α−マルトテトラオシル分岐構造を有する分岐澱粉と、原料澱粉質をほとんど低分子化することなく、当該分岐澱粉を製造する方法並びに当該分岐澱粉の用途を提供することにより上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分岐澱粉とその製造方法並びに用途、詳細には、6−α−マルトシル分岐構造及び/又は6−α−マルトテトラオシル分岐構造を有する分岐澱粉とその製造方法並びに用途に関する。
【背景技術】
【0002】
澱粉は、主として高等植物の種子や地下茎の細胞内に貯蔵されている高分子グルカンであり、一般に、アミロースとアミロペクチンの混合物である。アミロースは、グルコースがα−1,4結合で直鎖状に結合した構造を有するα−1,4グルカンである。一方、アミロペクチンは、α−1,4グルカンの直鎖のところどころで、通常、グルコース重合度6以上のα−1,4グルカンがα−1,6結合で分岐した構造を有している。澱粉は、その水分散液を加熱すると膨潤して粘稠な糊化澱粉となるものの、冷却して放置すると老化してゲル化を起こし易い性質を持っている。澱粉は、古くより糊化されて食用に供され、また、優れた加工性と安価であること、貯蔵性があることから、食品の主原料として利用され、さらに、増粘剤、保水剤、コロイド安定剤などとしても、食品の物性改良と品質保持の目的で広く利用されている。また、澱粉は液化されて、グルコース、異性化糖、マルトオリゴ糖、水飴などの原料として工業的に利用されている。しかしながら、糊化澱粉や液化澱粉は保存中に老化し、ゲル化を起こし易く、保水性が失われ硬くなって、食用に適さなくなったり、酵素作用を受け難くなるなどの欠点がある。
【0003】
このような状況下、澱粉の構造を化学的に修飾し、その糊化澱粉に耐老化性を賦与する試みが多く行なわれており、具体的には、エステル化澱粉、エーテル化澱粉、酸化澱粉などの種々の修飾澱粉が挙げられる。しかしながら、修飾澱粉は、特殊な官能基等を付与することにより本来のグルコース構造が失われ、長期的使用において安全性が懸念されることから、好んで利用される状況にない。
【0004】
また、澱粉を酵素的に改変し、老化抑制を図ろうとする提案も行われている。特許文献1には、澱粉液化液に、澱粉のα−1,4結合を切断し、転移反応によりα−1,6結合を合成する枝作り酵素(ブランチング酵素;EC 2.4.1.18)、4−α−グルカノトランスフェラーゼ(D−酵素;EC 2.4.1.25)又はCGTase(EC 2.4.1.19)を作用させることにより、水溶性の大環状構造グルカンを形成させる方法が提案されている。しかしながら、この大環状構造グルカンは、環状構造の形成と共に分子量が大幅に低下し、粘度が低下することから、原料液化澱粉の持つ物性が失われるという問題がある。また、特許文献2には、ニューロスポラ・クラッサ(Neurospora crassa)由来の枝作り酵素を利用して、糊化澱粉からほとんど分子量を低下させることなく、原料の澱粉と比較して分岐構造が密で、グルコース重合度4乃至7を中心とする分岐構造を有する高度分岐澱粉を形成させる方法が提案されている。しかしながら、ニューロスポラ・クラッサは特殊なカビであり、食品組成物を製造する上で安全性が確認されていないことから工業的製造、産業上の使用には至っていない。さらに、特許文献3には大麦由来の枝作り酵素(SBE−II)とホスホリラーゼを利用し、グルコース−1−リン酸とマルトオリゴ糖を反応基質として、グルコース重合度6又は7を中心とする分岐構造を有する分岐澱粉を形成させる方法が提案されている。しかしながら、大麦由来の枝作り酵素(SBE−II)やホスホリラーゼ、基質であるグルコース−1−リン酸を工業的製造に利用するのは極めて困難である。このような状況下、澱粉質をほとんど低分子化することなく、老化性などの物性の改善された澱粉質の提供が望まれる。
【0005】
【特許文献1】特開平8−134104号公報
【特許文献2】特開2001−294601号公報
【特許文献3】特開2002−78497号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、耐老化性を有する新規澱粉質と、当該澱粉質を原料澱粉質から酵素的に効率よく製造する方法並びにその用途を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記課題を解決するために、各種糖転移酵素の利用に着目し、鋭意研究を重ねる過程において、本発明と同じ出願人による特願2004−174880号明細書に開示した、サイクロ{→6)−α−D−グルコピラノシル−(1→4)−α−D−グルコピラノシル−(1→6)−α−D−グルコピラノシル−(1→4)−α−D−グルコピラノシル−(1→}の構造を有する環状マルトシルマルトース(以下、本明細書では「環状マルトシルマルトース」と略称する。)を、α−1,4グルカンから生成する環状マルトシルマルトース生成酵素を高濃度の液化澱粉又は澱粉部分分解物に作用させたところ、意外にも、環状マルトシルマルトースの生成は僅かであり、分子間及び/又は分子内の6−α−マルトシル転移作用により、酵素的に改変された澱粉が生成することを見出した。この改変澱粉の構造及び物性を調べたところ、環状マルトシルマルトース生成酵素は、原料の澱粉質に対して分子量の低下や還元力の増加をほとんど起こすことなく、液化澱粉又は澱粉部分分解物から6−α−マルトシル分岐構造及び/又は6−α−マルトテトラオシル分岐構造を有する新規分岐澱粉を生成することを見出した。さらに、この6−α−マルトシル分岐構造及び/又は6−α−マルトテトラオシル分岐構造を有する分岐澱粉が、顕著な耐老化性を有することを見出して本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、顕著な老化耐性を有する、6−α−マルトシル分岐構造及び/又は6−α−マルトテトラオシル分岐構造を有する分岐澱粉と、原料澱粉質をほとんど低分子化することなく、当該分岐澱粉を製造する方法並びに当該分岐澱粉の用途を提供することにより上記課題を解決するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、耐老化性を有する新規分岐澱粉が大量・安価に供給できることとなり、飲食物をはじめとする様々な分野における利用が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明でいう6−α−マルトシル分岐構造及び/又は6−α−マルトテトラオシル分岐構造を有する分岐澱粉(以下、本明細書では、単に「分岐澱粉」と略称することもある。)とは、分子内に、マルトース単位及び/又はマルトテトラオース単位でα−1,6結合により分岐した構造を有する澱粉質全般を意味し、澱粉質におけるα−1,4グルカン鎖の内部のみならず、その非還元末端グルコースの6位にマルトース及び/又はマルトテトラオースがα−1,6結合した構造を有するものをも包含する。本発明の分岐澱粉の分子量は特に限定されないものの、1.0×10ダルトン以上のものが好ましい。本発明の6−α−マルトシル分岐構造及び/又は6−α−マルトテトラオシル分岐構造を有する分岐澱粉は、α−1,6結合を特異的に加水分解する澱粉枝切酵素の1種であるプルラナーゼで消化すると固形物当たりマルトースを1.8質量%以上及び/又はマルトテトラオースを0.7質量%以上生成することを特徴とする。通常の澱粉の分岐構造の鎖長(グルコース重合度)は、一般に9乃至10にピークを有していることから、本発明の分岐澱粉は、極端に短く、特定の鎖長を有する分岐構造を有しており、原料として用いる既存の澱粉と明瞭に区別することができる。また、本発明の分岐澱粉は、通常の澱粉と比較して分岐の箇所が増加し、直鎖部分が短いものとなっているにもかかわらず、分子量はほとんど低下していない。
【0011】
また、本発明の6−α−マルトシル分岐構造及び/又は6−α−マルトテトラオシル分岐構造を有する分岐澱粉において、既存の澱粉に比べα−1,6結合による分岐した箇所が増加していることは、公知のメチル化分析を行い、部分メチル化物中に1位及び6位水酸基がグルコシド結合に関与しているグルコースの存在を示す、2,3,4−トリメチル−1,5,6−トリアセチルグルシトール(以下、「2,3,4−トリメチル化物」と略称する)の含量が、原料澱粉のそれよりも増加しており、通常、部分メチル化物の固形物当たり0.4質量%以上を示すことから判定することができる。また、β−アミラーゼによる分解試験(β−アミロリシス)を行い、本発明の分岐澱粉のβ−アミラーゼ分解限度が、原料澱粉のそれよりも小さいことから判定することができる。
【0012】
さらに、本発明の6−α−マルトシル分岐構造及び/又は6−α−マルトテトラオシル分岐構造を有する分岐澱粉は、具体的には実験の項で後述するものの、当該分岐澱粉を濃度25質量%の水溶液とし、これを5℃で10日間保持した場合においても、澱粉の老化による白濁を実質的に示さず、原料液化澱粉に比べ、著しい耐老化性を示すという特徴を有している。
【0013】
本発明の6−α−マルトシル分岐構造及び/又は6−α−マルトテトラオシル分岐構造を有する分岐澱粉を製造する方法としては、例えば、液化澱粉を原料とし、これに作用して澱粉分子内に6−α−マルトシル分岐構造及び/又は6−α−マルトテトラオシル分岐構造を生成する酵素を用いる方法が好適である。このような酵素としては、液化澱粉に作用し、非還元末端に存在するマルトース構造を認識し、このマルトースを澱粉分子の他の非還元末端グルコース残基若しくは澱粉分子内部のグルコース残基の6位水酸基にα−マルトシル転移するか、又は、このマルトースを澱粉分子の他の非還元末端グルコース残基の4位水酸基にα−マルトシル転移する反応を触媒するかぎり、いずれの酵素も用いることができる。例えば、本出願人と同一の出願人により特願2004−174880号明細書に開示された環状マルトシルマルトース生成酵素を好適に用いることができる。
【0014】
本発明の分岐澱粉の製造に使用できる環状マルトシルマルトース生成酵素の環状マルトシルマルトース生成機構は以下のようなものである。
1)基質としてグルコース重合度が3以上のα−1,4グルカンに作用し、その非還元性末端のマルトシル残基を他のα−1,4グルカン分子の非還元性末端グルコース残基の6位水酸基に転移する分子間の6−α−マルトシル転移を触媒することにより、非還元末端に6−α−マルトシル基を有するグルコース重合度が2増加した6−α−マルトシル−マルトオリゴ糖と、グルコース重合度が2減じたマルトオリゴ糖とを生成する。
2)さらに、6−α−マルトシル−マルトオリゴ糖に作用し、分子内α−マルトシル転移することにより環状化し、サイクロ{→6)−α−D−グルコピラノシル−(1→4)−α−D−グルコピラノシル−(1→6)−α−D−グルコピラノシル−(1→4)−α−D−グルコピラノシル−(1→}の構造を有する環状マルトシルマルトースと、グルコース重合度が4減じたマルトオリゴ糖を生成する。
3)本酵素は、僅かながら分子間の4−α−マルトシル転移も触媒し、マルトオリゴ糖から、グルコース重合度が2増加したマルトオリゴ糖と、グルコース重合度が2減じたマルトオリゴ糖とを僅かに生成する。
上記の反応を触媒する酵素はその給源、形態、粗酵素又は精製酵素の区別なく本発明の環状マルトシルマルトース生成酵素に包含される。
【0015】
本発明に用いる環状マルトシルマルトース生成酵素の具体例としては、例えば、下記の理化学的性質を有する環状マルトシルマルトース生成酵素が挙げられる。
(1)分子量
SDS−ゲル電気泳動法において、72,000±20,000ダルトン。
(2)等電点
アンフォライン含有等電点電気泳動法において、pI3.6±0.5。
(3)至適温度
pH6.0、30分間反応の条件下で、50℃乃至55℃。
(4)至適pH
40℃、30分間反応の条件下で、pH5.5乃至6.5。
(5)温度安定性
pH6.0、60分間保持の条件下で、30℃まで安定。
1mMカルシウムイオン存在下では、50℃まで安定。
(6)pH安定性
4℃、24時間保持の条件下で、pH5.0乃至9.0で安定。
【0016】
本発明に用いる環状マルトシルマルトース生成酵素はその給源によって制限されないものの、好ましい給源として、微生物が挙げられ、アルスロバクター・グロビホルミス M6(受託番号 FERM BP−8448)が産生する環状マルトシルマルトース生成酵素が好適に用いられる。環状マルトシルマルトース生成酵素産生能を有する微生物には、上記菌はもとより、その変異株、更には、環状マルトシルマルトース生成酵素産生能を有する組換え体微生物を含む他の微生物、及び、それらの変異株なども包含される。
【0017】
本発明の分岐澱粉の製造に用いる環状マルトシルマルトース生成酵素は、当該分岐澱粉の調製に使用できるかぎり精製酵素であっても粗酵素であっても良く、また、遊離の酵素であっても、固定化された酵素であっても使用することができる。固定化酵素の場合、反応の形式は、バッチ式、半連続式及び連続式のいずれでもよい。固定化方法としては、担体結合法、(例えば、共有結合法、イオン結合法、あるいは物理的吸着法)、架橋法あるいは包括法(格子型あるいはマイクロカプセル型)など、公知の方法を使用することができる。
【0018】
本発明の分岐澱粉を製造するための原料となる澱粉は、例えば、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、米澱粉、餅米澱粉などの地上澱粉、馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉、タピオカ澱粉、くず澱粉などの地下澱粉などを工業的に有利に用いることができる。さらに、澱粉から得られたアミロース、アミロペクチン、澱粉部分分解物などを原料とすることもできる。澱粉から本発明の分岐澱粉を製造するに際しては、上記のような原料澱粉を、通常、糊化及び/又は液化して用いるのが好適である。澱粉の糊化・液化の方法自体は、公知の方法を採用することができる。
【0019】
例えば、液化澱粉へ環状マルトシルマルトース生成酵素を作用させる方法は、次のような条件下で好ましく実施できる。まず、液化澱粉の濃度は、通常、10乃至45質量%が好ましい。液化澱粉の濃度が10質量%未満であると環状マルトシルマルトース生成酵素が分子内マルトシル転移反応を触媒し易くなり、分岐澱粉よりも環状マルトシルマルトースを生成し、分岐澱粉の収率が低下する。一方、45質量%を超えると澱粉の水への溶解が困難となるため好ましくない。
【0020】
本発明の分岐澱粉を製造するに際し、環状マルトシルマルトース生成酵素は、液化澱粉固形物1グラム当たり、0.01乃至10単位、好ましくは0.02乃至1単位となるように使用される。ここでいう酵素1単位とは、後述する環状マルトシルマルトース生成酵素の活性測定法の条件下において、1分間に1μmolの環状マルトシルマルトースを生成する酵素量を1単位としたものである。環状マルトシルマルトース生成酵素の使用量が0.01単位未満であると反応が不十分で酵素添加の意味がなく、一方、10単位を超えると効果が頭打ちとなる上、製造コストが増大するため、いずれも好ましくない。
【0021】
酵素反応における反応温度は、反応が進行する温度、即ち60℃付近までで行えばよい。好ましくは30乃至50℃付近の温度を用いる。反応pHは、通常、5乃至9の範囲、好ましくはpH5乃至7の範囲に調整するのがよい。酵素の使用量と反応時間とは密接に関係しており、目的とする酵素反応の進行により適宜選択すればよい。
【0022】
反応により得られた反応物を、そのまま分岐澱粉製品とすることもできる。必要に応じて、反応により得られた生成物を遠心分離、濾過等により不溶物を除去し、水溶性画分を濃縮することで、目的とする本発明の分岐澱粉の溶液を得ることもできる。得られた分岐澱粉の溶液は、そのまま利用できるものの、保存に有利で、かつ用途によっては利用しやすいように、乾燥し、粉末として得ることが望ましい。乾燥は、通常、凍結乾燥、或いは噴霧乾燥やドラム乾燥などの方法が利用できる。乾燥物は、必要により粉砕することが望ましい。
【0023】
環状マルトシルマルトース生成酵素を液化澱粉に作用させて得られる反応物は、通常、本発明の分岐澱粉とともに少量の環状マルトシルマルトースを含有しているものの、この反応物はそのまま本発明の分岐澱粉として用いることができる。また、必要に応じて、このようなオリゴ糖を除去し、精製した分岐澱粉として用いることも有利に実施できる。精製の方法としては、ゲル濾過クロマトグラフィーなど常法の多糖類の精製方法を適宜、必要に応じて選択すればよい。
【0024】
このようにして得られる本発明の分岐澱粉は、その溶液を低温下で放置しても通常の澱粉と比較して、老化による白濁が観察されず、顕著な耐老化性を有するという特徴を有している。一般に、澱粉は冷水に不溶であるが、本発明の分岐澱粉は、少なくとも20質量%までは冷水に対して溶解する。また、本発明の分岐澱粉は、原料澱粉液化液に比べて、その水溶液が低粘度のものであり、取扱い性に優れている。
【0025】
本発明の分岐澱粉は、澱粉を含有する飲食物における通常の澱粉の代替品として用いると、それ自体が耐老化性を有するため、澱粉の老化が抑制された飲食物が得られる。この飲食物は、澱粉の老化に起因する保水性、保形性、冷凍耐性、消化性などの低下が抑制されたものである。なお、澱粉を含有する飲食物としては、もち、だんご、クッキー、パン、麺類、澱粉含有スポーツドリンク、澱粉含有栄養補助食品などが挙げられる。
【0026】
以上述べたような各種組成物に、本発明の分岐澱粉を含有させる方法としては、その製品が完成するまでの工程に含有せしめればよく、例えば、混和、混捏、溶解、浸漬、浸透、散布、塗布、被覆、噴霧、注入、固化など公知の方法が適宜選ばれる。その量は、通常1質量%以上、望ましくは5質量%以上、さらに望ましくは10質量%以上含有せしめるのが好適であり、目的に応じて、適宜選択することができる。
【0027】
本発明の分岐澱粉は、賦形性、照り付与性、保湿性、粘性などの性質を具備している。従って、本発明の分岐澱粉は、品質改良剤、安定剤、賦形剤などとして、飲食物、嗜好物、飼料、餌料、化粧品、医薬品などの各種組成物に有利に利用できる。また、接着用組成物、コーティング用組成物の他、フィルム、シート、チューブ、カプセル、短棒などの各種成形物としても有利に使用できる。
【0028】
本発明の分岐澱粉は、例えば、通常のプラスチック成形機を利用することにより、フィルム、シート、チューブ、カプセルの形態に成形することができる。成形方法は特に限定されず、例えば、押出成形、射出成形、加圧成形、注型成形、スタンピング成形、カッティング成形及びフィルム成形法など適宜の方法を用いることができる。得られる成型物は生分解性成形物として使用することができる。本発明の分岐澱粉を含有してなる成形物には、必要に応じて、他の水溶性多糖類、例えば、澱粉、澱粉部分分解物、アミロース、アミロペクチンなどの澱粉質、エステル化、エーテル化、酸化及び/又は架橋化された澱粉誘導体、プルラン、アルギン酸ナトリウム、寒天、ペクチン、キサンタンガム、デキストラン、カラギーナン、コンドロイチン硫酸などを併用することもできる。また、成型物の可塑性を調節するために可塑剤を添加することも有利に実施できる。可塑剤としては、水や各種ポリオール類、例えば、グリセリン、ポリビニルアルコールなどの多価アルコール、エリスリトール、キシリトール、ソルビトール、マルチトールなどの糖アルコール、α,α−トレハロースなどの非還元性糖質、尿素、大豆油やひまし油などの天然油脂、有機酸のアルキルエステルなどが挙げられる。
【0029】
また、分岐澱粉含有成型物には、上記の成分に加えて、無機及び有機の他の成分を適宜含有させることができる。無機成分としては、タルク、二酸化チタン、炭酸カルシウム、砂、クレー、石灰石、珪藻土、雲母、ガラス、石英、セラミックスなどが挙げられる。有機成分としては澱粉、セルロース、木材粉、繊維、蛋白質及びその分解物、脂質類、糖脂肪酸エステル類、エタノールなどのアルコール類、着色料、保存料、着香料、矯味剤などが挙げられる。
【0030】
以下、実験により本発明をさらに具体的に説明する。
【0031】
<実験1:環状マルトシルマルトース生成酵素の調製>
実験に先立ち、アルスロバクター・グロビホルミス M6(FERM BP−8448)を培養し、培養上清中の環状マルトシルマルトース生成酵素を精製して酵素標品を調製した。
【0032】
<実験1−1:アルスロバクター・グロビホルミス M6の培養>
澱粉部分分解物(商品名『パインデックス#4』、松谷化学工業株式会社製造)1.5w/v%、酵母抽出物(商品名『ポリペプトン』、日本製薬株式会社製造)0.5w/v%、酵母抽出物(商品名『酵母エキスS』、日本製薬株式会社製造)0.1w/v%、リン酸二カリウム0.1w/v%、リン酸一ナトリウム・2水和物0.06w/v%、硫酸マグネシウム・7水和物0.05w/v%、炭酸カルシウム0.3w/v%、及び水からなる液体培地を、500ml容三角フラスコ2本に100mlずつ入れ、オートクレーブで121℃、20分間滅菌し、冷却して、アルスロバクター・グロビホルミス M6(FERM BP−8448)を接種し、27℃、230rpmで48時間回転振盪培養したものを種培養とした。容量30Lのファーメンターに種培養と同じ組成の液体培地を約20L入れて、加熱滅菌、冷却して温度27℃とした後、種培養液約200mlを接種し、温度27℃、pH5.5乃至8.0に保ちつつ、96時間通気攪拌培養した。培養後、ファーメンターから培養液を抜き出し、遠心分離(8,000rpm、20分間)して菌体を除き、培養上清約18Lを得た。
【0033】
環状マルトシルマルトース生成酵素の酵素活性は、以下の方法で測定した。可溶性澱粉を濃度2w/v%となるよう2mM塩化カルシウムを含む50mM酢酸緩衝液(pH6.0)に溶解させ基質液とし、その基質液0.5mlに酵素液0.5mlを加えて、40℃で30分間酵素反応し、その反応液を10分間、約100℃で加熱して反応を停止させた後、残存可溶性澱粉や夾雑オリゴ糖を分解するためにα−グルコシダーゼ(『トランスグルコシダーゼL「アマノ」』、天野エンザイム株式会社製造))を固形物1グラム当り4000単位とグルコアミラーゼ(グルコチーム、ナガセ生化学工業株式会社販売)を固形物1グラム当り250単位添加して50℃、1時間処理し、その処理液中の環状マルトシルマルトース量を、高速液体クロマトグラフィー(以下、「HPLC」と略称する)法で定量する。環状マルトシルマルトース生成酵素の活性1単位は、上記の条件下で1分間に1μモルの環状マルトシルマルトースを生成する酵素量と定義する。なお、HPLCは、カラムに『Shodex SUGAR KS−801』(昭和電工株式会社製造)を用い、溶離液に水を用いて、カラム温度60℃、流速0.5ml/分の条件で行い、検出は示差屈折計RI−8012(東ソー株式会社製造)を用いて行った。
【0034】
<実験1−2:環状マルトシルマルトース生成酵素の精製>
培養上清のうち、約9.2Lに、最終濃度60%飽和となるように硫安を添加し、4℃、24時間放置することにより塩析した。生成した塩析沈殿物を遠心分離(11,000rpm、30分間)にて回収し、これを10mMトリス−塩酸緩衝液(pH7.5)に溶解後、同緩衝液に対して透析し、粗酵素液として約240mlを得た。この粗酵素液を東ソー株式会社製『DEAE−トヨパール(Toyopearl) 650S』ゲルを用いた陰イオン交換クロマトグラフィー(ゲル容量100ml)に供した。環状マルトシルマルトース生成酵素活性は、10mMトリス−塩酸緩衝液(pH7.5)で平衡化した『DEAE−トヨパール(Toyopearl) 650S』ゲルに吸着し、食塩濃度0Mから0.4Mのリニアグラジエントで溶出させたところ、食塩濃度約0.22M付近に溶出した。この活性画分を回収し、終濃度1Mとなるように硫安を添加して4℃、24時間放置した後、遠心分離して不溶物を除き、東ソー株式会社製『フェニル−トヨパール(Phenyl−Toyopearl) 650M』ゲルを用いた疎水クロマトグラフィー(ゲル容量10ml)に供した。環状マルトシルマルトース生成酵素活性は、1M硫安を含む20mM酢酸緩衝液(pH6.0)で平衡化した『フェニル−トヨパール(Phenyl−Toyopearl) 650M』ゲルに吸着し、硫安濃度1Mから0Mのリニアグラジエントで溶出させたところ、硫安濃度約0.1M付近に溶出した。この精製の各ステップにおける環状マルトシルマルトース生成酵素活性、環状マルトシルマルトース生成酵素比活性及び収率を表1に示す。
【0035】
【表1】

【0036】
疎水クロマトグラフィー後の環状マルトシルマルトース生成酵素精製標品を5乃至20w/v%濃度勾配ポリアクリルアミドゲル電気泳動に供し、酵素標品の純度を検定したところ、蛋白バンドは単一であり、純度の高い標品であった。
【0037】
<実験2:分岐澱粉の調製>
液化澱粉に環状マルトシルマルトース生成酵素を作用させた際に生成する反応生成物の構造と物性を調べるため、以下の実験を行った。
【0038】
<実験2−1:酵素反応>
市販のワキシーコーンスターチ(三和澱粉工業株式会社製)2,500gを1mMの塩化カルシウムを含む水道水25Lに懸濁し、2N塩酸にてpH6.0に調整して濃度10質量%の澱粉乳を調製した。この澱粉乳にα−アミラーゼ(商品名「ネオスピターゼPK2」、ナガセ生化学工業株式会社製)を20,000単位添加し、30分間攪拌した後、連続液化装置に流速1L/分で通液した。澱粉乳を連続液化装置にて100℃で25分間、次いで、140℃で5分間加熱することにより液化澱粉を調製した。得られた液化澱粉は、活性炭により脱色し、珪藻土濾過した後、減圧下で濃度25質量%まで濃縮した。この濃縮液化澱粉を5等分し、内、4つの液化澱粉に実験1で得た環状マルトシルマルトース生成酵素精製標品を、液化澱粉固形物1グラム当たり0.0125、0.025、0.05又は0.1単位の割合で加え、50℃、pH6.0で24時間作用させた。100℃で10分加熱することにより酵素反応を停止した後、それぞれの反応液中の環状マルトシルマルトース含量をHPLCにて測定した。なお、環状マルトシルマルトース生成酵素を作用させていない原料液化澱粉を対照とした。
【0039】
なお、HPLCは、『MCIgel CK04SS』(三菱化学株式会社製造)カラムを2本直列に連結して用い、溶離液に水を用いて、カラム温度80℃、流速0.4ml/分の条件で行い、検出は示差屈折計RI−8012(東ソー株式会社製造)を用いて行った。
【0040】
【表2】

【0041】
表2から明らかなように、各反応液において環状マルトシルマルトース生成酵素の作用量が多いほど環状マルトシルマルトース含量が増加する傾向が認められた。しかしながら、その含量は、今回検討した最大の酵素作用量、液化澱粉1グラム当たり0.1単位の場合においても約5%と僅かであった。
【0042】
<実験2−2:分岐澱粉の精製>
実験2−1で得た各種反応液をそれぞれ濾過し、常法に従って、活性炭で脱色し、H型及びOH型イオン交換樹脂により脱塩して精製後、エバポレーターで固形分濃度20質量%まで濃縮した。続いて、副生成物として混在する環状マルトシルマルトースを除去するため、強酸性カチオン交換樹脂(アンバーライトCR−1310、Na型、オルガノ株式会社製造)を用いたカラム分画を行なった。樹脂を内径5.4cmのジャケット付きステンレス製カラム4本に充填し、直列につなぎ樹脂層全長240cmとした。カラム内温度60℃に維持しつつ、澱粉溶液を樹脂に対して5v/v%加え、これに60℃の温水をSV0.13で流して分画し、溶出液の糖組成をHPLC法でモニターし、環状マルトシルマルトースを含まない高分子画分を採取した。得られた高分子画分は、25質量%まで濃縮した後、真空乾燥し、いずれも固形物当たりの収率90%以上で各分岐澱粉粉末を得た。これらの分岐澱粉は実験2−1と同じHPLC分析に供し、環状マルトシルマルトースを含まないことを確認した。
【0043】
<実験3:分岐澱粉の構造分析>
実験2の方法で得た分岐澱粉につき、以下の試験を行い、分岐澱粉の構造を調べた。
【0044】
<実験3−1:分岐澱粉の分子量分布>
実験2の方法で得た分岐澱粉の分子量分布を、ゲル濾過分析により検討した。ゲル濾過分析は、「TSK−GEL ALPHA−M」カラム(東ソー株式会社製)2本を直列に連結し、溶離液に水を用いて、カラム温度30℃、流速0.3ml/分の条件で行い、検出は示差屈折計「RI−8012」(東ソー株式会社製)を用いて行った。分岐澱粉は、水に懸濁し、終濃度1Nになるよう水酸化ナトリウムを添加して溶解し、5℃で一夜放置した後、1N塩酸で中和し、メンブラン濾過したものをゲル濾過分析の試料とした。対照として、ワキシーコーンスターチ液化液を同様に分析した。なお、試料中のグルカンの分子量は、分子量測定用プルラン標準品(株式会社林原生物化学研究所販売)を同様にゲル濾過分析して作成した分子量の検量線に基づき算出した。ゲル濾過クロマトグラフィーにおける溶出パターンを図1に示した。なお、図1中、aは対照(原料液化澱粉)であり、b、c、d及びeは、それぞれ液化澱粉固形物当たり環状マルトシルマルトース生成酵素を0.0125単位、0.025単位、0.05単位及び0.1単位作用させて得られた分岐澱粉である。以下、液化澱粉固形物当たり環状マルトシルマルトース生成酵素を0.0125単位、0.025単位、0.05単位及び0.1単位作用させて得られた分岐澱粉を、それぞれ分岐澱粉1、2、3及び4と呼称する。
【0045】
図1から明らかなように、対照の液化澱粉は、ゲル濾過クロマトグラフィーにおいて、大別して3つのピーク(図1における符号1、2及び3)を示した。3つのピークの内、溶出が最も遅いピーク3に含まれるグルカンの重量平均分子量は検量線のデータから1.1×10ダルトンと算出されたものの、溶出が早いピーク1及び2は分子量の検量線の範囲外の高分子であり、ピーク1及び2に含まれるグルカンの分子量は測定不能であった。液化澱粉に環状マルトシルマルトース生成酵素を作用させて得られた分岐澱粉1(図1中のb)から分岐澱粉4(図1中のe)のいずれも、そのゲル濾過クロマトグラフィーにおける溶出パターンは原料液化澱粉のそれと大差なく、環状マルトシルマルトース生成酵素を作用させても、その分子量分布に大きな変化が生じていないことが判明した。
【0046】
<実験3−2:分岐澱粉の加水分解率>
実験2−2で得た4種の分岐澱粉又は対照の液化澱粉の還元力を測定した。各試料の全糖量をアンスロン−硫酸法により、また、還元糖量を改良パーク・ジョンソン法(檜作ら、「カーボハイドレート リサーチ(Carbohydrate Research)」、第94巻、205乃至213頁(1981年)を参照)により定量し、全糖量中に占める還元糖量の割合(%)を意味する加水分解率を、次式 加水分解率(%)=(還元糖量/全糖量)×100 にて算出した。結果を表3に示す。
【0047】
【表3】

【0048】
表2から明らかなように、環状マルトシルマルトース生成酵素の作用量が液化澱粉固形物1グラム当たり0.1単位と最も多い分岐澱粉においても、対照の原料液化澱粉と比較して加水分解率の増加は僅か約0.1%であり、環状マルトシルマルトース生成酵素の反応によって起こる加水分解は、ほとんど無視できる程度であった。
【0049】
<実験3−3:分岐澱粉のメチル化分析>
実験2−2で得た4種の分岐澱粉又は対照の液化澱粉について、構成糖であるグルコースの結合様式を調べるため、常法に従いメチル化した後、酸により加水分解し、続いて還元、アセチル化し、得られた部分メチル−アセチルグルシトール(以下、「部分メチル化物」と略称することがある。)をガスクロマトグラフィー法(以下、「GLC」と略称する。)にて分析し、部分メチル化物の組成を調べた。結果を表4に示す。
【0050】
【表4】

【0051】
表4の結果から明らかなように、対照の液化澱粉では、2,3,4−トリメチル化物が全く検出されないことから、他のグルコースと1位及び6位で結合しているグルコース残基が存在しないと考えられる。一方、環状マルトシルマルトース生成酵素を作用させて得られた分岐澱粉では、2,3,4−トリメチル化物が検出され、酵素の作用量が多くなるにつれて、その割合が増加した。この結果は、酵素の作用量が多くなるにつれて、グルコース残基の6位に他のグルコースが1位で結合した構造、すなわち、分岐構造が増加することを物語っている。加えて、2,3−ジメチル化物の割合も増加傾向にあることから、1位、4位及び6位で他のグルコースと結合しているグルコース残基も僅かに増加していると考えられた。このことは、環状マルトシルマルトース生成酵素の作用による6−α−マルトシル転移が、基質澱粉の非還元末端グルコース残基の6位だけでなく、澱粉を構成するグルコース鎖の内部に位置するグルコース残基の6位に対しても起こることを示唆している。
【0052】
<実験3−4:分岐澱粉のプルラナーゼ消化における生成物>
実験2−2の方法で得た4種の分岐澱粉又は対照の液化澱粉について分岐構造を調べる目的で、澱粉のα−1,6結合を特異的に加水分解するプルラナーゼ(EC 3.2.1.41)を作用させ、それぞれのプルラナーゼ消化物の糖組成を調べた。
【0053】
実験2−2の方法で得た4種の分岐澱粉又は対照の液化澱粉を、終濃度1w/v%になるよう脱イオン水に溶解し、酢酸緩衝液(pH6.0)を終濃度20mMになるよう加えた後、基質固形分1グラム当たり20単位のプルラナーゼ(試薬結晶品、株式会社林原生物化学研究所製造)を加え、40℃で24時間反応させた。反応後、100℃、10分間の加熱処理を行い、プルラナーゼを失活させた後、反応液の糖組成を実験2と同じHPLC法にて測定した。結果を表5に示す。また、表5における対照の液化澱粉と分岐澱粉3(環状マルトシルマルトース生成酵素の作用量:0.05単位/g−液化澱粉)の結果を、グルコースの重合度を横軸とし、プルラナーゼ消化物中の含量(%)を縦軸とした図に表したものを図2に示す。なお、図2中の符号a及びdは、それぞれ対照の液化澱粉及び分岐澱粉3を意味する。
【0054】
【表5】

【0055】
表5及び図2の結果から明らかなように、対照の液化澱粉の場合、DP6以上のマルトオリゴ糖が生成し、DP5以下のマルトオリゴ糖は認められないのに対して、環状マルトシルマルトース生成酵素を作用させて調製した本発明の分岐澱粉では、プルラナーゼ消化物中のDP5以下のマルトオリゴ糖、とりわけ、マルトース(DP2)及びマルトテトラオース(DP4)が顕著に増加していた。この結果から、環状マルトシルマルトース生成酵素の作用によって、6−α−マルトシル分岐構造及び/又は6−α−マルトテトラオシル分岐構造を有する新たな分岐澱粉が生成していることが判明した。
【0056】
<実験3−5:分岐澱粉のβ−アミラーゼ分解限度(β−アミロリシス)>
実験2−2で得た4種の分岐澱粉又は対照の液化澱粉をそれぞれ終濃度1w/v%、酢酸緩衝液(pH5.5)を終濃度20mMになるよう調製した基質溶液に、固形物1g当たり100単位のβ−アミラーゼ(大豆由来、ナガセ生化学工業製)を加え、50℃で24時間作用させ、100℃で10分間熱処理して酵素反応を停止した。なお、β−アミラーゼの活性1単位は、濃度1質量%の可溶性澱粉を基質とし、pH5.5、40℃の条件下で1分間に1μmolのマルトースに相当する還元力を生成する酵素量と定義した。各分岐澱粉及び対照の液化澱粉のβ−アミラーゼ消化物中のマルトースとβ−アミラーゼで分解されないβ−リミットデキストリンの含量を実験1と同じHPLC条件にて測定した。結果を表6に示す。
【0057】
【表6】

【0058】
表6の結果から明らかなように、分岐澱粉は、作用させた環状マルトシルマルトース生成酵素の量が多いほど、β−アミラーゼ消化により生成するマルトースの含量が低い値を示し、逆にβ−リミットデキストリンの含量は高い値を示した。β−アミラーゼは澱粉を非還元末端からマルトース単位で加水分解し、α−1,6結合による分岐点の手前で加水分解反応を停止する酵素であることから、上記結果は、環状マルトシルマルトース生成酵素が液化澱粉に作用し、そのα−1,6マルトシル転移により分岐構造が形成され、環状マルトシルマルトース生成酵素の作用量が多いほど分岐澱粉における分岐構造の割合も増加する(分岐が密になる)ことを物語っている。
【0059】
<実験3−6:分岐澱粉のヨウ素呈色>
実験2−2で得た4種の分岐澱粉又は対照の液化澱粉を、脱イオン水にそれぞれ濃度0.15質量%になるよう溶解し、この溶液0.5mlに0.02N硫酸を10ml、0.1Nヨウ素−ヨウ化カリウム溶液を0.5ml添加し、25℃で25分間放置した後、450乃至700nmの範囲でヨウ素−澱粉複合体の吸収スペクトルを測定した。結果を図3に示す。なお、図3中の符号a、b、c、d及びeは、実験3−1、図1で述べたものと同様である。図3の結果から明らかなように、環状マルトシルマルトース生成酵素の作用量が多い分岐澱粉ほど全体として吸光度が低かった。最大吸収波長はおよそ520nmで各試料間に差は認められなかった。実験3−2の結果から、環状マルトシルマルトース生成酵素の作用による加水分解はほとんど認められなかったにもかかわらず、環状マルトシルマルトース生成酵素の作用量が多い分岐澱粉ほど吸光度が低い理由として、環状マルトシルマルトース生成酵素の作用量が多い分岐澱粉ほどヨウ素と複合体を形成する澱粉の直鎖構造の存在比が低下し、澱粉へのヨウ素の結合量が低下したものと考えられた。
【0060】
実験3の結果から、液化澱粉に環状マルトシルマルトース生成酵素を作用させて得られる分岐澱粉は、6−α−マルトシル分岐構造及び/又は6−α−マルトテトラオシル分岐構造を有する新規な分岐澱粉であることが判明した。本発明の分岐澱粉の構造を示す模式図を液化澱粉のそれとともに図4に示す。図4中、A及びBは、それぞれ原料液化澱粉及び本発明の分岐澱粉の模式図である。なお、図4に示す模式図において、符号1、2及び3はそれぞれ、液化澱粉における、グルコースがα−1,4結合で連なった直鎖状構造(アミロース構造)、α−1,6結合により前記直鎖状構造が分岐した部位、及び還元末端グルコースを意味し、また、符号4及び5は、本発明の分岐澱粉における6−α−マルトシル分岐構造及び6−α−マルトテトラオシル分岐構造を意味している。
【0061】
<実験4:分岐澱粉の耐老化性>
実験2の方法で得た分岐澱粉4種と対照の液化澱粉について、耐老化性を検討した。濃度25質量%になるよう水に加熱・溶解した各試料をガラス製試験管に分注し、密閉状態で、温度5℃で10日間冷蔵保存した後、澱粉の老化の程度を観察した。結果を図5に示す。なお、図5中の符号a、b、c、d及びeは、実験3−1及び図1で述べたものと同様である。図5の結果から明らかなように、対照の液化澱粉(a)は上記保存条件下において白濁し、さらに一部固化も生じており、澱粉の老化が顕著であった。一方、環状マルトシルマルトース生成酵素を作用させて調製した分岐澱粉(b〜e)は、いずれも透明な溶液状態を維持しており、6−α−マルトシル分岐構造及び/又は6−α−マルトテトラオシル分岐構造を有する本発明の分岐澱粉は、顕著な耐老化性を有していることが判明した。
【0062】
以下、実施例により、さらに具体的に本発明を説明する。本発明の分岐澱粉の製造例を実施例1乃至5で示し、本発明の分岐澱粉を含有せしめた組成物を実施例6乃至14で示す。しかしながら、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。
【実施例1】
【0063】
ワキシーコーンスターチ(三和澱粉工業株式会社製)を水道水に懸濁し、これに最終濃度1mMとなるように塩化カルシウムを加え、pH6.0に調整して濃度約10質量%の澱粉乳を調製した。この澱粉乳に耐熱性α−アミラーゼ(商品名「スピターゼHS」、ナガセ生化学工業株式会社製)を澱粉固形物1グラム当たり0.05mg添加し、30分間攪拌した後、連続液化装置に流速1L/分で通液した。澱粉乳を連続液化装置にて100℃で25分間、次いで、140℃で5分間加熱して液化澱粉を調製した。次いで、この液化澱粉溶液減圧下で濃縮し、濃度約25質量%の液化澱粉溶液とした後、実験1の方法で得た環状マルトシルマルトース生成酵素精製標品を澱粉固形物1グラム当り0.1単位になるように加え、pH6.0、温度50℃で20時間反応させた。100℃、20分間の熱処理により酵素反応を停止させた後、冷却し、濾過して得られる濾液を、常法に従って、活性炭で脱色し、珪藻土濾過し、濃度約25質量%の分岐澱粉溶液を固形物当たり収率約90%で得た。なお、得られた分岐澱粉のプルラナーゼ消化物は、マルトースを3.7質量%、マルトテトラオースを1.7質量%含有していた。また、得られた分岐澱粉の部分メチル化物は、2,3,4−トリメチル化物を8.2質量%含有していた。本品は、固形物当たり、96.7質量%の分岐澱粉及び3.3質量%の環状マルトシルマルトースを含有していた。本品は、適度の粘度、保湿性、耐老化性、包接性を有し、呈味改良剤、品質改良剤、離水防止剤、安定剤、変色防止剤、賦形剤、包接剤、粉末化基材などとして、各種飲食物、化粧品、医薬品など各種組成物に有利に利用できる。
【実施例2】
【0064】
実施例1で得た溶液状の分岐澱粉を濾過し、常法に従って、活性炭で脱色し、H型及びOH型イオン交換樹脂により脱塩して精製後、エバポレーターで固形分濃度20質量%まで濃縮した。続いて、強酸性カチオン交換樹脂(アンバーライトCR−1310、Na型、オルガノ株式会社製造)を用いたカラム分画に供し、副生成物として混在する環状マルトシルマルトースを除去した。分画は、樹脂を内径5.4cmのジャケット付きステンレス製カラム4本に充填し、直列につなぎ樹脂層全長240cmとしたカラムを用い、カラム内温度60℃に維持しつつ、澱粉溶液を樹脂に対して5v/v%加え、これに60℃の温水をSV0.13で流す条件にて行った。環状マルトシルマルトースを含まない高分子画分を採取し、25質量%まで濃縮した後、パルス燃焼式乾燥システムPULCO(パルテック株式会社製)にて脱水、乾燥し粉末化した。この操作により、吸湿性が少なく、粒度特性の優れた分岐澱粉粉末が得られた。本品は、固形分濃度30質量%までは水に容易に溶解し、水溶性は良好であった。本品は呈味改良剤、品質改良剤、離水防止剤、安定剤、変色防止剤、賦形剤、包接剤、粉末化基材などとして、各種飲食物、化粧品、医薬品など各種組成物に有利に利用できる。
【実施例3】
【0065】
市販の澱粉部分分解物(商品名「パインデックス#100」、松谷化学工業株式会社製)を濃度約30%(w/v)水溶液とし、終濃度1mMとなるように塩化カルシウムを加え、pH6.0に調整した。これに実験1の方法で得た環状マルトシルマルトース生成酵素精製標品を基質固形物1グラム当り1単位加え、40℃で48時間反応させた後、100℃に加熱し10分保持して反応を停止させた。反応液を、常法に従って、活性炭で脱色し、珪藻土濾過して精製し、更に、濃縮して濃度30質量%の分岐澱粉部分分解物溶液を固形物当たり収率約90%で得た。本品は、固形物当たり、グルコース重合度7以上の分岐澱粉部分分解物90.8質量%、グルコース重合度1乃至6のマルトオリゴ糖6.7質量%、及び環状マルトシルマルトースを2.5質量%含有していた。本品は、適度の粘度、保湿性、耐老化、包接性を有し、呈味改良剤、品質改良剤、離水防止剤、安定剤、変色防止剤、賦形剤、包接剤、粉末化基材などとして、各種飲食物、化粧品、医薬品など各種組成物に有利に利用できる。
【0066】
なお、原料の澱粉部分分解物をプルラナーゼ消化したところ、生成するアミロースの老化により不溶化したのに対し、本品のプルラナーゼ消化物は、耐老化性を示し清澄な溶液を維持しており、マルトースを26.3質量%、マルトテトラオースを15.4質量%含有していた。
【実施例4】
【0067】
環状マルトシルマルトース生成酵素を作用させるに際し、基質固形物1グラム当たり2,500単位のイソアミラーゼを作用させた以外は実施例3と同様に反応し、常法に従って、活性炭で脱色し、珪藻土濾過して精製し、更に、濃縮して濃度30質量%の分岐澱粉部分分解物溶液を固形物当たり収率約90%で得た。本品は、固形物当たり、グルコース重合度7以上の分岐澱粉部分分解物69.6質量%、グルコース重合度1乃至6のマルトオリゴ糖27.3質量%、及び環状マルトシルマルトースを3.1質量%含有していた。本品は、適度の粘度、保湿性、耐老化、包接性を有し、呈味改良剤、品質改良剤、離水防止剤、安定剤、変色防止剤、賦形剤、包接剤、粉末化基材などとして、各種飲食物、化粧品、医薬品など各種組成物に有利に利用できる。
【0068】
なお、本品のプルラナーゼ消化物はマルトースを41.5質量%、マルトテトラオースを26.2質量%含有する清澄な溶液であった。本品のプルラナーゼ消化物におけるマルトース及びマルトテトラオース含量を実施例3で得た分岐澱粉部分分解物のプルラナーゼ消化物のそれと比較すると、約1.5倍程度高い値を示した。このことは、イソアミラーゼによりグルコース重合度の大きい分岐を加水分解しつつ、環状マルトシルマルトース生成酵素を作用させると、6−α−マルトシル分岐構造及び/又は6−α−マルトテトラオシル分岐構造の数を増加させることができることを示唆している。
【実施例5】
【0069】
実施例4で得た溶液状の分岐澱粉部分分解物を濾過し、常法に従って、活性炭で脱色し、H型及びOH型イオン交換樹脂により脱塩して精製後、エバポレーターで固形分濃度20質量%まで濃縮した。続いて、強酸性カチオン交換樹脂(アンバーライトCR−1310、Na型、オルガノ株式会社製造)を用いたカラム分画に供し、混在する環状マルトシルマルトースを含むオリゴ糖を除去した。分画は、樹脂を内径5.4cmのジャケット付きステンレス製カラム4本に充填し、直列につなぎ樹脂層全長240cmとしたカラムを用い、カラム内温度60℃に維持しつつ、澱粉溶液を樹脂に対して5v/v%加え、これに60℃の温水をSV0.13で流す条件にて行った。オリゴ糖を含まない高分子画分を採取し、25質量%まで濃縮した後、パルス燃焼式乾燥システムPULCO(パルテック株式会社製)にて脱水、乾燥し粉末化した。この操作により、吸湿性が少なく、粒度特性の優れた分岐澱粉粉末が得られた。本品は、固形分濃度30質量%までは水に容易に溶解し、水溶性は良好であった。本品は呈味改良剤、品質改良剤、離水防止剤、安定剤、変色防止剤、賦形剤、包接剤、粉末化基材などとして、各種飲食物、化粧品、医薬品など各種組成物に有利に利用できる。
【実施例6】
【0070】
<おはぎ>
マルトース(登録商標『サンマルト』、株式会社林原商事販売)350質量部、トレハロース(登録商標『トレハ』、株式会社林原商事販売)150質量部を温水に溶解し、濃度70質量%の糖液を調製して55℃に保温した。次いで、予め水に浸漬しておいた800質量部の餅米を常法により蒸し器で蒸し上げ、55℃まで冷却した後、前記糖液500質量部と実施例3の方法で得た分岐澱粉200質量部を加えて均質に攪拌した。これを保温容器に入れて約1時間、45〜50℃に保持した後、取り出し、こし餡を用いておはぎを調製した。本品は、耐老化性を有する分岐澱粉を含有していることから老化が抑制されており、冷蔵、或いは冷凍保存後に解凍しても離水などの発生もなく、調製直後の柔らかさが保持される高品質のおはぎである。
【実施例7】
【0071】
<ういろう>
米粉70質量部に、実施例2の方法で得た分岐澱粉40質量部、無水結晶マルチトール70質量部、含水結晶トレハロース(登録商標『トレハ』、株式会社林原商事販売)50質量部、及びプルラン4質量部を均一に混合してういろうの素を製造した。ういろうの素と適量の抹茶と水とを混練し、これを容器に入れて60分間蒸し上げて抹茶ういろうを製造した。本品は、照り、口当たりも良好で、風味も良い。また、澱粉の老化も抑制され、日持ちも良く、低カロリーのういろうとしても好適である
【実施例8】
【0072】
<カスタードクリーム>
実施例2の方法で得た分岐澱粉100質量部、マルトテトラオース含有シラップ(登録商標「テトラップ」、株式会社林原商事販売)100質量部、トレハロース含水結晶60質量部、蔗糖40質量部、および食塩1質量部を充分に混合し、鶏卵280質量部を加えて攪拌し、これに沸騰した牛乳1、000質量部を徐々に加え、更に火にかけて攪拌を続け、全体が半透明になった時に火を止め、これを冷却して適量のバニラ香料を加え、計量、充填、包装して製品を得た。本品は、なめらかな光沢を有し、風味良好で、澱粉の老化も抑制されており、高品質のカスタードクリームである。
【実施例9】
【0073】
<粉末ペプチド>
40%食品用大豆ペプチド溶液(不二製油株式会社販売、商品名『ハイニュートS』)1質量部に、実施例2の方法で得た粉末状分岐澱粉2質量部を混合し、プラスチック製バットに入れ、50℃で減圧乾燥し、粉砕して粉末ペプチドを得た。本品は風味良好で、プレミックス、冷菓などの低カロリー製菓材料として有用であるのみならず、経口流動食、経管流動食のための材料としても有用である。
【実施例10】
【0074】
<流動食用固体製剤>
実施例2の方法で得た粉末状分岐澱粉100質量部、トレハロース含水結晶200質量部、マルトテトラオース高含有粉末200質量部、粉末卵黄270質量部、脱脂粉乳209質量部、塩化ナトリウム4.4質量部、塩化カリウム1.8質量部、硫酸マグネシウム4質量部、チアミン0.01質量部、L−アスコルビン酸ナトリウム0.1質量部、ビタミンEアセテート0.6質量部およびニコチン酸アミド0.04質量部からなる配合物を調製し、この配合物25グラムずつ防湿性ラミネート小袋に充填し、ヒートシールして製品を得た。本品は、経口的、または鼻腔、胃、腸などへ経管的使用方法により利用され、耐老化性を有する分岐澱粉が生体へのエネルギー補給用に有利に利用できる。
【実施例11】
【0075】
<錠剤>
アスピリン50質量部にトレハロース含水結晶粉末14質量部、実施例3の方法で調製した分岐澱粉4質量部を充分に混合した後、常法に従って打錠機により打錠して厚さ5.25mm、1錠680mgの錠剤を製造した。本品は、分岐澱粉とトレハロースの賦形性を利用したもので、吸湿性がなく、物理的強度も充分にあり、しかも水中での崩壊はきわめて良好である。
【実施例12】
【0076】
<外傷治療用膏薬>
マルトース400質量部に、ヨウ素3質量部を溶解したメタノール50質量部を加え混合し、更に実施例5の方法で調製した分岐澱粉含有粉末の10w/v%水溶液200質量部を加えて混合し、適度の延び、付着性を示す外傷治療用膏薬を得た。本品は、分岐澱粉による適度な粘度、保湿性を有しており、経時変化が少ない商品価値の高い膏薬である。また、本品は、ヨウ素による殺菌作用のみならず、マルトースによる細胞へのエネルギー補給剤としても作用することから治癒期間が短縮され、創面もきれいに治る。
【実施例13】
【0077】
<フィルム>
実施例1の方法で得た分岐澱粉溶液を濃度25質量%に調整し、平板上に固定したポリエチレンテレフタレートフィルム上に適当量滴下し、YBA型ベーカリーアプリケーター(ヨシミツ精機社製6型)にて薄く延ばした後、室温で4時間程度乾燥し、厚さ19μm、水分含量10.5質量%のフィルムを調製した。乾燥した分岐澱粉フィルムはポリエチレンテレフタレートフィルムから剥離し、RH52.8%に調湿したデシケーター内で一夜以上保存し、製品とした。本品は、プルランフィルムと同様に、透明度が高く、光沢があり、柔軟性に優れた良質なフィルムであった。本品の引っ張り強度は1.760kgfであり、水溶性は良好であった。本品は、可食性フィルムとして有利に利用できる。
【実施例14】
【0078】
<フィルム>
実施例2の方法で得た分岐澱粉8質量部、カラギーナン(商品名「NEWGELIN NC−400」、中央フーズマテリアル株式会社販売)2質量部、ショ糖ステアリン酸エステル(商品名「シュガーエステルS1670」、三菱化学フーズ株式会社販売)0.01質量部、グリセリン25質量部、及び脱イオン水65質量部を混合し加熱溶解した後、これをアプリケーター(商品名「ベーカーアプリケーターYBA型」ヨシミツ精機株式会社販売)を使用して、ガラス平板上にポリエチレンテレフタレートを密着させたものの上に適量滴下し、展延し、ゲル化させた後、50℃で6時間乾燥して、水分含量約18%、厚さ0.5mmの分岐澱粉フィルムを調製した。本品はヒートシール性、透明性に優れており、また、崩壊性、水溶性に優れており、可食性フィルムやカプセル皮膜として好適である。
【実施例15】
【0079】
<カプセル>
実施例2の方法で得た分岐澱粉250質量部、カラギーナン(商品名「NEWGELIN NC−400」、中央フーズマテリアル株式会社販売)20質量部、グリセリン40質量部、及び脱イオン水700質量部を混合し、加熱溶解して原料水溶液を調製し、減圧脱泡した。この溶液を50℃に保温し、カプセル形成用ピンの先端を溶液中に入れた後、取り出し、乾燥してハードカプセルを調製した。本カプセルは、表面に光沢を持ち、透明性に優れ、酸素透過性を示さず、湿度変化に対する安定性に優れていた。また、水系で適度な徐崩性を有していることから、食品、医薬品の充填容器として好適である。
【実施例16】
【0080】
<カプセル>
市販のプルラン(商品名「プルランPF−20」、株式会社林原商事販売)200質量部、実施例5の方法で得た分岐澱粉50質量部、カラギーナン(商品名「NEWGELIN NC−400」、中央フーズマテリアル株式会社販売)1質量部、塩化アンモニウム2質量部、及び脱イオン水750質量部を混合し、加熱溶解して原料水溶液を調製し、減圧脱泡した。この溶液を50℃に保温し、カプセル形成用ピンの先端を溶液中に入れた後、取り出し、乾燥してハードカプセルを調製した。本カプセルは、表面に光沢を持ち、透明性に優れ、酸素透過性を示さず、湿度変化に対する安定性に優れていた。また、水系で適度な徐崩性を有していることから、食品、医薬品の充填容器として好適である。
【実施例17】
【0081】
<肥料杭>
配合肥料(N=14%、P=8%、KO=12%)、実施例2の方法で得た分岐澱粉粉末、硫酸カルシウム、水の割合を質量でそれぞれ70、10、15、5とし、充分混合した後、押出機(L/D=20、圧縮比=1.8、ダイスの口径=30mm)で80℃に加熱して成形し、肥料杭を製造した。本品は、肥料用容器が不溶で取り扱い容易であり、全層施肥に適した強度を有し、更に、配合割合を変えることにより肥料成分の溶出速度を調節できるものである。また、必要ならば、この肥料杭に植物ホルモン、農業用薬剤及び土壌改良剤などの混合も容易である。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明によれば、液化澱粉をほとんど低分子化させることなく澱粉本来の性質を著しく改良することができ、分岐構造が密で、耐老化性を有する新規分岐澱粉を大量・安価に提供することができる。本発明の新規分岐澱粉は、高溶解性を利用した澱粉高含有スポーツドリンクや栄養補助食品などとして有効に利用することができる。また、これを澱粉代替品として澱粉質含有食品に添加することにより、澱粉の老化に起因する様々な品質劣化を低減することができる。さらに、食品用途にとどまらず、接着剤や生分解性ポリマー用の原料などの工業用途や、オブラートに代表される各種フィルム、カプセルの原料などの医薬用途としても利用が期待され、各産業分野における意義は極めて高い。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】液化澱粉に環状マルトシルマルトース生成酵素を作用させて得られた各種分岐澱粉のゲル濾過クロマトグラフィーにおける溶出パターンを示す図である。
【図2】液化澱粉に環状マルトシルマルトース生成酵素を作用させて得られた各種分岐澱粉のプルラナーゼ消化物中におけるグルコース重合度7以下のマルトオリゴ糖の含量を重合度別に比較した図である。
【図3】液化澱粉に環状マルトシルマルトース生成酵素を作用させて得られた各種分岐澱粉のヨウ素−澱粉複合体の吸収スペクトルを示す図である。
【図4】原料液化澱粉と本発明の分岐澱粉の構造を模式的に示した図である。
【図5】本発明の分岐澱粉及び原料液化澱粉を濃度25質量%の溶液とし、ガラス製試験管に分注して温度5℃で10日間冷蔵保存したものの写真である。
【符号の説明】
【0084】
a:対照の液化澱粉
b:分岐澱粉1(環状マルトシルマルトース生成酵素作用量0.0125単位)
c:分岐澱粉2(環状マルトシルマルトース生成酵素作用量0.025単位)
d:分岐澱粉3(環状マルトシルマルトース生成酵素作用量0.05単位)
e:分岐澱粉4(環状マルトシルマルトース生成酵素作用量0.1単位)
図1における
1:ワキシーコーンスターチ液化液のゲル濾過クロマトグラフィーにおけるピーク1
2:ワキシーコーンスターチ液化液のゲル濾過クロマトグラフィーにおけるピーク2
3:ワキシーコーンスターチ液化液のゲル濾過クロマトグラフィーにおけるピーク3
図4における
A:液化澱粉の模式図
B:本発明の分岐澱粉の模式図
1:グルコースがα−1,4結合で連なった鎖状構造(アミロース構造)
2:α−1,6結合による鎖状構造の分岐部位
3:還元末端グルコース
4:6−α−マルトシル分岐構造
5:6−α−マルトテトラオシル分岐構造

【特許請求の範囲】
【請求項1】
6−α−マルトシル分岐構造及び/又は6−α−マルトテトラオシル分岐構造を有する分岐澱粉。
【請求項2】
プルラナーゼ(EC 3.2.1.41)消化により、固形物当たりマルトースを1.8質量%以上及び/又はマルトテトラオースを0.7質量%以上生成することを特徴とする請求項1記載の分岐澱粉。
【請求項3】
メチル化分析において、部分メチル化物が、固形物当たり2,3,4−トリメチル−1,5,6−トリアセチルグルシトールを0.4質量%以上含有することを特徴とする請求項1又は2記載の分岐澱粉。
【請求項4】
分岐澱粉が、その濃度25質量%の水溶液を5℃で10日間保持した場合においても、澱粉の老化による白濁を実質的に示さない、耐老化性を有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の分岐澱粉。
【請求項5】
液化澱粉及び/又は澱粉部分分解物に環状マルトシルマルトース生成酵素を作用させて6−α−マルトシル分岐構造及び/又は6−α−マルトテトラオシル分岐構造を有する分岐澱粉を生成せしめる工程と、生成する6−α−マルトシル分岐構造及び/又は6−α−マルトテトラオシル分岐構造を有する分岐澱粉を採取する工程とを含んでなる6−α−マルトシル分岐構造及び/又は6−α−マルトテトラオシル分岐構造を有する分岐澱粉の製造方法。
【請求項6】
環状マルトシルマルトース生成酵素が、下記の理化学的性質を有する請求項5記載の分岐澱粉の製造方法。
(1)作用
グルコース重合度が3以上のα−1,4グルカンに作用し、サイクロ{→6)−α−D−グルコピラノシル−(1→4)−α−D−グルコピラノシル−(1→6)−α−D−グルコピラノシル−(1→4)−α−D−グルコピラノシル−(1→}の構造を有する環状マルトシルマルトースを生成する。
(2)分子量
SDS−ゲル電気泳動法において、72,000±20,000ダルトン。
(3)等電点
アンフォライン含有等電点電気泳動法において、pI3.6±0.5。
(4)至適温度
pH6.0、30分間反応の条件下で、50℃乃至55℃。
(5)至適pH
40℃、30分間反応の条件下で、pH5.5乃至6.5。
(6)温度安定性
pH6.0、60分間保持の条件下で、30℃まで安定。
1mMカルシウムイオン存在下では、50℃まで安定。
(7)pH安定性
4℃、24時間保持の条件下で、pH5.0乃至9.0で安定。
【請求項7】
環状マルトシルマルトース生成酵素が、アルスロバクター属微生物由来の酵素である請求項5又は6に記載の分岐澱粉の製造方法。
【請求項8】
アルスロバクター属微生物が、アルスロバクター・グロビホルミス(Arthrobacter globiformis) M6(独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター、寄託番号FERM BP−8448)又はその変異株である請求項7に記載の分岐澱粉の製造方法。
【請求項9】
請求項1乃至4のいずれかに記載の分岐澱粉又は請求項5乃至8のいずれかに記載の製造方法により製造される分岐澱粉を含有する飲食物。
【請求項10】
請求項1乃至4のいずれかに記載の分岐澱粉又は請求項5乃至8のいずれかに記載の製造方法により製造される分岐澱粉を含んでなる成形物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−312705(P2006−312705A)
【公開日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−298253(P2005−298253)
【出願日】平成17年10月13日(2005.10.13)
【出願人】(000155908)株式会社林原生物化学研究所 (168)
【Fターム(参考)】