説明

分布型光ファイバセンサ

【課題】高い空間分解能を維持しつつ、歪み又は温度を高感度且つ高精度に計測することができる分布型光ファイバセンサを提供することを課題とする。
【解決手段】本発明は、光ファイバ10と、レイリー散乱現象を利用して光ファイバ10の歪み又は温度に基づくレイリー周波数シフト量Δνrを計測するレイリー計測手段11と、レイリー周波数シフト量Δνrから光ファイバ10の歪み又は温度を算出する算出手段とを備え、レイリー計測手段11は、スペクトル拡散方式を用いた光パルスを生成してこの光パルスを光ファイバ10内に入射させる光パルス出射手段13と、光ファイバ10から射出される光に対してスペクトル拡散方式に対応したパルス圧縮を行う整合フィルタ551と、整合フィルタ551で圧縮された光に基づいてレイリー散乱現象に係る光を検出する検出手段560とを有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバをセンサとして用い、その長尺方向についての歪み又は温度の分布を測定する分布型光ファイバセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光ファイバを用い、その長尺方向についての歪み又は温度の分布測定を行う光ファイバセンシング技術として、光ファイバ中で起こるレイリー散乱現象に基づく方法がある。この方法として、例えば、特許文献1に記載の方法が知られている。この方法では、光ファイバが当該光ファイバの設置される環境(計測対象物)における歪み又は温度を検出する媒体として利用される。
【0003】
具体的に、計測対象物に設置された光ファイバの一方の端部(入力端)からプローブ光として光パルスが入力(入射)される。この光パルスの入力によって光ファイバの長手方向の各領域において発生し、入力端に戻ってきたレイリー後方散乱が測定され、前記各領域におけるレイリー散乱の散乱光のスペクトルデータが得られる。また、光パルスをプローブ光として用いているため、入力端から入力された光パルスが光ファイバ中で散乱して当該入力端に戻ってくるまでの往復時間により、この光パルスの散乱、即ち、レイリー散乱が生じた光ファイバの長尺方向における位置が特定される。
【0004】
このように得られたスペクトルデータは、各光ファイバ固有のものである。これは、レイリー散乱が光ファイバのコア内のガラス固有の微小な屈折率の揺らぎによって発生し、この揺らぎのパターンは光ファイバの製造時に決まるからである。このレイリースペクトルは、光ファイバに歪みや温度変化が生じたときにも図13に示されるようにスペクトルの波形を変えず、周波数だけがずれる(即ち、周波数シフトが生じる)。
【0005】
そこで、光ファイバの長尺方向の各領域における周波数シフトからそのシフト量を検出し、このシフト量に基づくことによって、光ファイバの各領域における歪み又は温度を高感度且つ高精度に検出することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−236513号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の方法では、光ファイバに入力されるプローブ光(光パルス)のパルス幅により空間分解能が決まる。即ち、プローブ光のパルス幅内でレイリー散乱光のスペクトルの周波数シフトの量が大きく変動するとシフト量の検出が困難になるため、高い空間分解能を実現するには、パルス幅を短くする必要があった。
【0008】
しかし、プローブ光のパルス幅を短くすると各パルスのエネルギーが減少し、これにより、光ファイバの各領域で散乱され入力端に戻ってくる散乱光の信号強度が低下する。そのため、光ファイバの入力端から離れた位置からの散乱光(レイリー散乱光)を精度よく計測することが難しく、歪み又は温度を高感度且つ高精度に測定できないといった問題が生じる。
【0009】
本発明の目的は、高い空間分解能を維持しつつ、歪み又は温度を高感度且つ高精度に計測することができる分布型光ファイバセンサを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで、上記課題を解消すべく、本発明は、センサとして用いられる光ファイバと、レイリー散乱現象を利用して前記光ファイバに生じた歪み又は前記光ファイバの温度に基づくレイリー周波数シフト量を計測するレイリー計測手段と、前記レイリー計測手段によって計測されたレイリー周波数シフト量から前記光ファイバに生じた歪み又は前記光ファイバの温度を算出する算出手段と、を備える。そして、前記レイリー計測手段は、スペクトル拡散方式を用いた光パルスを生成してこの光パルスを前記光ファイバ内に入射させる光パルス出射手段と、前記光ファイバから射出される光に対して前記スペクトル拡散方式に対応したパルス圧縮を行う整合フィルタと、前記整合フィルタで圧縮された光に基づいて前記レイリー散乱現象に係る光を検出する検出手段とを有することを特徴とする。
【0011】
この分布型光ファイバセンサにおいては、スペクトル拡散方式によりパルス幅を長くした光パルス(プローブ光)を光ファイバに入射させ、戻ってきた光(レイリー後方散乱光)を前記スペクトル拡散方式に対応した圧縮を行うことにより、光ファイバにおける光パルスを入射させた部位から離れた位置における光ファイバの歪み又は光ファイバの温度も高感度且つ高精度に計測することが可能となる。即ち、入射させるパルス幅を大きくしてパルスの有するエネルギーを大きくして遠方で散乱され戻ってくる光の信号強度を確保してSNを高めると共に、圧縮により高い空間分解能を確保することが可能となる。
【0012】
具体的に、前記光パルス出射手段は、光パルスを生成する光パルス光源と、前記光パルスに対しチャープによって周波数変調を行うチャープ変調手段と、を備えることにより、光ファイバに生じた歪み又は光ファイバの温度を高感度且つ高精度に計測することができる。
【0013】
この場合、前記チャープ変調手段では、非線形チャープにより周波数変調が行われてもよく、窓関数により周波数変調が行われてもよい。これらいずれの構成によっても、計測結果におけるレンジサイドローブを抑えることができる。
【0014】
また、前記光パルス出射手段は、光パルスを生成する光パルス光源と、擬似乱数符号を用いて前記光パルスの位相変調を行う拡散変調手段と、を備えてもよい。
【0015】
かかる構成によっても、光ファイバに生じた歪み又は光ファイバの温度を高感度且つ高精度に計測することができる。
【0016】
この場合、前記拡散変調手段では、擬似乱数符号として相補符号が用いられること、が好ましい。
【0017】
このように、2系列の符号である相補符号を用いることにより、位相変調において1系列の符号を用いる場合に比べ、光ファイバに生じた歪み又は光ファイバの温度を高感度且つ高精度に計測することができる。
【発明の効果】
【0018】
以上より、本発明によれば、高い空間分解能を維持しつつ、歪み又は温度を高感度且つ高精度に計測することができる分布型光ファイバセンサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】第1実施形態に係る分布型光ファイバセンサの構成を示すブロック図である。
【図2】(A)は、前記分布型光ファイバセンサの三角パルス発生手段の動作を説明するための図であり、(B)は、前記三角パルス発生器において生成される三角波のパターンを示す図である。
【図3】他実施形態に係る分布型光ファイバセンサの光パルス出射手段の構成を示すブロック図である。
【図4】(A)は、前記分布型光ファイバセンサの強度パルス発生手段の動作を説明するための図であり、(B)は、前記強度パルス発生手段において生成される強度パターンを示す図である。
【図5】前記分布型光ファイバの受信部の構成を示すブロック図である。
【図6】前記受信部の直交検波器の構成を示すブロック図である。
【図7】前記受信部の信号処理手段の構成を示すブロック図である。
【図8】前記信号処理手段の逆チャープフィルタの構成を示すブロック図である。
【図9】前記分布型光ファイバセンサによる歪み及び温度の計測動作を説明するためのフローチャートである。
【図10】前記分布型光ファイバセンサにより計測されたレイリー周波数シフト量の一例を示す図である。
【図11】第2実施形態に係る分布型光ファイバセンサの構成を示すブロック図である。
【図12】プローブ光の構成及び整合フィルタを説明するための図である。
【図13】レイリー周波数シフトを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る分布型光ファイバセンサの第1実施形態を図面に基づいて説明する。なお、各図において同一の符号を付した構成は、同一の構成であることを示し、その説明を省略する。図1は、第1実施形態における分布型光ファイバセンサFSの構成を示すブロック図である。
【0021】
図1に示す分布型光ファイバセンサFSは、検出用光ファイバ10と、レイリー計測手段11と、制御処理部12と、を備える。
【0022】
検出用光ファイバ10は、歪み又は温度を検出するセンサ用の光ファイバである。この検出用光ファイバ10は、第1端部(入力端)10aと、この第1端部10aと反対側の端部である第2端部10bとを有する。検出用光ファイバ10の入力端10aは、当該入力端10aからパルス光が検出用光ファイバ10内に入射され、レイリー散乱現象の作用を受けて戻ってきた光を検出用光ファイバ10の外部に射出する。ここで、配管、油田管、橋、トンネル、ダム、建物等の構造物や地盤等の計測対象物に生じた歪み又は温度を測定する場合には、当該検出用光ファイバ10が接着剤や固定部材等によって計測対象物に固定される。
【0023】
レイリー計測手段11は、レイリー散乱現象を利用して検出用光ファイバ10に生じた歪み又は検出用光ファイバ10の温度に基づくレイリー周波数シフト量(以下、単に「周波数シフト量」とも称する。)を計測する手段である。このレイリー計測手段11は、光パルス出射手段13と、受信部50とを備える。また、本実施形態のレイリー計測手段11は、光強度・偏光調整手段14及び光サーキュレータ15も備える。
【0024】
光パルス出射手段13は、スペクトル拡散方式を用いた光パルスを生成してこの光パルスを入力端10aから検出用光ファイバ10内に入射させるものであり、光パルス光源20と、チャープ手段30とを有する。ここで、スペクトル拡散方式とは、出力信号を本来よりも広い帯域に拡散して出力する方式であり、本実施形態の光パルス出射手段13におけるスペクトル拡散方式としては、周波数チャープ方式が用いられる。
【0025】
光パルス光源20は、多数の光パルスからなるパルス光を生成・出射する光源装置であり、連続光を出射する光源21と、光源21からの連続光をパルス光にする光パルス生成手段22とを有する。
【0026】
光源21は、所定周波数の光を射出することができ、制御処理部12による制御によって温度や駆動電流を変更することによって発振波長(発振周波数)を変えることができる。本実施形態の光源としては、例えば、波長可変半導体レーザ(周波数可変半導体レーザ)が用いられる。この光源21は、周波数可変光源としても機能する。光源21には三角パルス発生手段300が接続され、この光源21の出力端子(射出端子)は、光パルス生成手段22の入力端子(入射端子)に光学的に接続される。
【0027】
光パルス生成手段22は、光源21からの連続光をパルス光に変換する手段である。本実施形態の光パルス生成手段22は、強度パルス発生手段310が接続され、この強度パルス発生手段310からの強度パターン信号に基づいて光源21からの連続光に間歇的に強度変調を行い、この強度変調を行った部分だけを切り出し、パルス光(チャープパルス)を生成する。
【0028】
これら光源21と光パルス生成手段22に接続される三角パルス発生手段300と強度パルス発生手段310とにより、チャープ手段30が構成される。このチャープ手段30は、光パスル光源20において生成される光パルスに対しチャープによって周波数変調を行う手段である。尚、三角パルス発生手段300と強度パルス発生手段310とには、それぞれ同期信号出力手段320が接続されている。
【0029】
具体的に、三角パルス発生手段300は、光源21から出射される光に対して周波数変調(チャープ変調)をかけるための手段である。この三角パルス発生手段300は、図2(A)に示されるように、メモリー301と、DA変換器302とを有する。メモリー301は、制御処理部12において作り出された三角波のパターン(図2(B)参照)信号を格納し、この三角波のパターン信号を同期信号出力手段320からの同期信号に基づいてDA変換器302に出力する。DA変換器302は、メモリー301からの三角波のパターン信号をDA変換して光源21に出力する。これにより、光源21から出射された光に対して間歇的にチャープ変調がかけられる。
【0030】
詳しくは、メモリー301に格納される三角波のパターン信号は、光源21から発せられる光の周波数が光源21に入力される電圧vに比例するものとすれば、以下の式(1)により与えられる。
【数1】

ここで、tが時間、τがパルスの時間幅、Tがパルスを発生させる周期、bが変調をかけないときの電圧、aがチャープの周波数変化率に比例した定数である。
【0031】
このような電圧が光源21に印加(入力)されることにより、光源21からは以下の式(2)により示される光信号が光源21に向けて出力される。
【数2】

【0032】
光源21では、この光信号に基づいて変調された光が出力される。
【0033】
尚、チャープ変調は、本実施形態のように光源21に対して変調を行う直接変調に限定されず、光源21から出力された後の光信号に対して行う間接変調でもよい。具体的には、例えば、図3に示されるように、三角パルス発生手段300が接続された周波数変調手段305を光源21と光パルス生成手段22との間に設け、三角パルス発生手段300からの三角波のパターン信号に基づき周波数変調手段305が光源21から出射された光信号に対して間歇的にチャープ変調をかけてもよい。
【0034】
強度パルス発生手段310は、光パルス生成手段22に対して所定の強度パターン信号を出力するための手段であり、図4(A)に示されるように、メモリー311と、DA変換器312とを有する。この強度パルス発生手段310は、三角パルス発生手段300と同期して動作を行う。即ち、強度パルス発生手段310が出力する強度パターンは、三角パルス発生手段300が出力する三角波のパターンとパルス幅τ及び周期Tが同一である(図4(B)参照)。
【0035】
メモリー311は、制御処理部12において作り出された強度パターンを格納し、この強度パターン信号を同期信号出力手段320からの同期信号に基づいてDA変換器312に出力する。DA変換器312は、メモリー311からの強度パターン信号をDA変換して光パルス生成手段22に出力する。これにより、光パルス生成手段22においてチャープパルスが生成され、このチャープパルスがプローブ光として光パルス生成手段22から検出用光ファイバ10に向けて出力される。
【0036】
強度パターンのパルス(強度パルス)は、単純な矩形波でもよいが、本実施形態では、レンジサイドローブを抑えるために、窓関数としてガウス関数が用いられる。尚、窓関数は、ガウス関数に限定されず、ハニング関数やブラックマン・ハリス関数等の他の関数が用いられてもよい。
【0037】
具体的に、本実施形態のメモリー311に格納される強度パターンは、以下に示すようなパターンである。
【0038】
強度パルスの形状を
【数3】

とすると、メモリー311に格納される強度パターンは、
【数4】

【0039】
となる。ここで、Rはパルスの時間的広がりに対応した定数である。
【0040】
このような強度パターン信号がDA変換器312によりDA変換されて光パルス生成手段22に出力されることにより、光パルス生成手段22において生成されて出力される光(チャープパルス)が、
【数5】

となる。
【0041】
図1に戻り、光強度・偏光調整手段14は、制御処理部12によって制御され、光パルス生成手段22から出力されたプローブ光(チャープパルス)の光強度を調整するとともに、プローブ光の偏光面をランダムに変更して射出する手段である。光強度・偏光調整手段14の出力端子は、光サーキュレータ15の第1端子に光学的に接続される。光強度・偏光調整手段14は、例えば、プローブ光の光強度を減衰して射出するとともにその減衰量を変更することができる光可変減衰器と、プローブ光の偏光面をランダムに変えて射出することができる偏光制御器とを備えて構成される。
【0042】
光サーキュレータ15は、入射光と射出光とがその端子番号に循環関係を有する非可逆性の光部品である。即ち、第1端子に入射した光は、第2端子から射出されるとともに、第3端子からは射出されず、第2端子に入射した光は、第3端子から射出されるとともに、第1端子からは射出されず、第3端子に入射した光は、第1端子から射出されるとともに、第2端子からは射出されない。光サーキュレータ15の第1端子は、光強度・偏光調整部14の出力端子に光学的に接続され、第2端子は、光コネクタ16を介して検出用光ファイバ10の入力端10aに光学的に接続され、第3端子は、受信部50の入力端子に光学的に接続される。
【0043】
受信部50は、制御処理部12により制御され、図5にも示されるように、検出用光ファイバ10から射出される光に対して光パルス出射手段13におけるスペクトル拡散方式(本実施形態では、周波数チャープ方式)に対応したパルス圧縮を行い、この圧縮した入力光に基づいてレイリー散乱現象に係る光(レイリー後方散乱光)を検出する部位である。この受信部50は、コヒーレント受信機500と、信号処理手段550とを備える。また、コヒーレント受信機500と信号処理手段530との間には、コヒーレント受信機500からの出力信号を格納するメモリー52が設けられている。
【0044】
コヒーレント受信機500は、局部発振光発生器(以下、単に「局部発振器」とも称する。)51が接続され、検出用光ファイバ10からの入力光と局部発振器51からの局発光との光へテロダインによりベースバンド信号YI,YQ,XI,XQを復調し、これらベースバンド信号YI,YQ,XI,XQを偏波合成することによりベースバンド信号Q,Iを得るための回路である。
【0045】
具体的に、コヒーレント受信機500への入力光(検出用光ファイバ10からの光)は、プローブ光(チャープパルス)と検出用光ファイバ10の応答特性との畳み込みとなる。入力光をf(t)、検出用光ファイバの応答特性をh(t)とすると、
【数6】

と表せる。
【0046】
この光は、偏波の角度が未知であるため、コヒーレント受信機500において互いに直交する2つの偏波(X偏波とY偏波)に分離し、これら入力光のX偏波及びY偏波と、コヒーレント受信機500において同様に分離偏波した局発光のX偏波及びY偏波とによる直交検波が行われ、これにより、ベースバンド信号YI,YQ,XI,XQが得られる。
【0047】
このコヒーレント受信機500は、第1及び第2偏光子501,502と、第1及び第2直交検波器510,520と、偏波合成手段540とを備える。第1偏光子501(又は第2偏光子502)は、入力された光をX偏波とY偏波とに分離偏波して出力する素子である。
【0048】
第1直交検波器510(又は第2直交検波器520)は、直交検波を行うための回路であり、図6に示されるように、局部発振器51からの局発光のY(又はX)偏波と検出用光ファイバ10からの入力光のY(又はX)偏波とがそれぞれ入力されるビームスプリッタ511,511’,513,513’(又は521,521’,523,523’)と、(1/4)波長板512(又は522)と、光検出器514,514’(又は524,524’)と、信号強度を増幅する増幅器(アンプ)515,515’(又は525,525’)と、フィルタ(本実施形態ではローパスフィルタ)516,516’(又は526,526’)と、を備える。本実施形態の第1直交検波器510は、入力された局発光のY偏波と入力光のY偏波とからベースバンド信号YQ,YIを復調する。一方、本実施形態の第2直交検波器520は、入力された局発光のX偏波と入力光のX偏波とからベースバンド信号XQ,XIを復調する。
【0049】
ビームスプリッタ511(又は521)は、入力端子から入力された光を分岐し、2つの出力端子からそれぞれ出力する素子である。一方、ビームスプリッタ513(又は523)は、2つの入力端子からそれぞれ入力された光を合流させ、1つの出力端子から出力する素子である。(1/4)波長板512(又は522)は、当該波長板512(又は522)を通過する前と後で光の位相差が90°となるように光の位相を変換する素子である。光検出器514(又524)は、入力された光の強度を電気信号に変換して出力する素子である。
【0050】
第1直交検波器510には、復調されたベースバンド信号YQ,YIを出力するための2つの出力端子が設けられている。また、第2直交検波器520には、復調されたベースバンド信号XQ,XIを出力するための2つの出力端子が設けられている。これら、第1直交検波器510及び第2直交検波器520の各出力端子には、AD変換器530a〜530dとメモリー531a〜531dとがそれぞれ接続されている。各AD変換器530a〜530dは、第1直交検波器510又は第2直交検波器から出力されたベースバンド信号をAD変換し、このAD変換されたベースバンド信号YI,YQ,XI,XQを対応するメモリー531a〜531dがそれぞれ格納する。
【0051】
偏波合成手段540は、第1直交検波器510及び第2直交検波器520において得られたベースバンド信号YI,YQ,XI,XQを偏波合成し、ベースバンド信号I,Qとして出力する手段である。具体的に、偏波合成手段540は、第1直交検波器510及び第2直交検波器520で得られ、AD変換器530a〜530dによりデジタル化されたベースバンド信号YI,YQ,XI,XQに対して以下の式(7)による演算を行い、この演算により得られたベースバンド信号I,Qを出力する。
【数7】

【0052】
偏波合成手段540には、上記のように得られたベースバンド信号I,Qを出力するための2つの出力端子が設けられ、各出力端子には、メモリー52a,52bが接続されている。これら各メモリー52a,52bは、偏波合成手段540から出力されたベースバンド信号I,Qを、同期信号出力手段320からの同期信号に基づいて周期T毎に格納する。
【0053】
信号処理手段550は、検出用光ファイバ10からの入力光のチャープ成分を圧縮し、これを解析処理する手段であり、図7に示されるように、逆チャープフィルタ(整合フィルタ)551と、信号分析部560と、を有する。
【0054】
逆チャープフィルタ551は、整合フィルタの一種であり、メモリー52a,52bに格納されたベースバンド信号I,Qのチャープ成分を圧縮する。このとき、逆チャープフィルタ551は、圧縮された信号が検出用光ファイバ10のインパルス応答を得られるように設定されるチャープ条件に基づいて動作する。このチャープ条件は、光源21及び光パルス生成手段22により生成されたチャープパルスの動作条件に基づくものであり、逆チャープフィルタ551における演算の係数となる。この逆チャープフィルタ551への入力がメモリー52a,52bからの2チャンネルで行われ、各入力が実数部と虚数部との複素数として扱われるため、逆チャープフィルタ551の係数も複素数として扱う。
【0055】
具体的に、逆チャープフィルタ551の係数は、逆チャープフィルタ551に入力される信号からチャープ成分を取り除くため、
【数8】

の形をとる。
【0056】
詳しくは、逆チャープフィルタ551には、メモリー52a,52bから、以下に式(9)に示す形の信号が入力される。
【数9】

【0057】
このような信号が入力された逆チャープフィルタ551では、以下の演算が行われる。
【数10】

ここでg(t)がフィルタ係数、{ }の中が入力信号である。
【0058】
より詳細には、逆チャープフィルタ551では、図8及び以下の式(11)に示す演算によるフィルタ処理が行われる。この演算は、4つの畳み込み計算と2つの加減算に分類できる。尚、チャープ条件及びメモリー52a,52bからの入力信号は、いずれも複素信号であり、Ig(t),Qg(t),Ib(t),Qb(t)とし、演算により得られた結果をIs+Qsとする。
【数11】

ここで、上記の式(11)において、(i)が図8におけるFIRフィルタ552において行われる畳み込み計算を示し、(ii)が図8におけるFIRフィルタ553において行われる畳み込み計算を示し、(iii)が図8におけるFIRフィルタ554において行われる畳み込み計算を示し、(iv)が図8におけるFIRフィルタ555において行われる畳み込み計算を示す。また、上記の式(11)において、(a)が図8の加算器556において行われる計算を示し、(b)が図8の加算器557において行われる計算を示す。
【0059】
逆チャープフィルタ551は、ミキサ558によって演算により得られた結果(Is+Qs)の二乗和を求め、出力信号として出力する。
【0060】
信号分析部560は、逆チャープフィルタ551から出力された出力信号のPower(電力)に比例した成分の推移に基づき検出用光ファイバ10の特性を分析処理し、入力光からレイリー散乱現象に係る光(レイリー後方散乱光)のレイリースペクトルを導出する部位(検出手段)である。
【0061】
さらに、信号分析部560は、このようの求めたレイリースペクトルのシフト量(レイリー周波数シフト量)Δνrを検出し、このレイリー周波数シフト量Δνrに基づいて検出用光ファイバ10に生じた歪み又は検出用光ファイバ10の温度を導出する部位(算出手段)である。具体的に、信号分析部560は、歪みが生じていない状態(又は温度変化前の状態)の検出用光ファイバ10の長尺方向の各領域におけるレイリースペクトルと、歪みが生じている状態(又は温度変化後の状態)の検出用光ファイバ10の長尺方向において、前記歪みが生じていない状態の各領域部分に対応する部分のレイリースペクトルとの相関関数係数をそれぞれ計算する。そして、信号分析部560は、この相関関係係数に基づいて、検出用光ファイバ10の長尺方向の各領域部分におけるレイリー周波数シフト量Δνrを高感度且つ高精度で導出する。このように求めたレイリー周波数シフト量Δνrから、信号分析部560は、検出用光ファイバ10の長尺方向の各領域部分における歪み又は温度を導出する。
【0062】
制御処理部は、分布型光ファイバセンサFSの各構成を制御するための部位であり、例えば、マイクロプロセッサ、ワーキングメモリ、及び、検出用光ファイバ10の歪み又は温度の分布を高空間分解能で測定するために必要なデータを記憶するメモリー等を備えている。また、前記のように制御処理部は、チャープパルスを生成するための三角波のパターンや強度パターンの作成等も行う。
【0063】
次に、以上のような分布型光ファイバセンサFSにおける歪み又は温度の計測動作について説明する。図9は、分布型光ファイバセンサFSによる歪み又は温度の計測動作を説明するためのフローチャートである。
【0064】
検出用光ファイバ10が計測対象物に固定された状態で、分布型光ファイバセンサFSにより所定範囲でプローブ光の周波数の掃引を行いレイリー周波数シフト量Δνrが測定される。具体的には、先ず、制御処理部12は、光パルス出射手段13(詳しくは、光パルス光源20及びチャープ手段30)を制御することにより、レイリー散乱現象を利用するためのパルス光(チャープパルス)を生成させる。詳しくは、制御処理部12は、同期信号に基づく三角波のパターン(図2(B)参照)を三角パルス発生手段300に作成させて光源21から出射される光に対して間歇的にチャープ変調をかける(ステップS1)。そして、制御処理部12は、同期信号に基づいて三角波のパターンと同期した強度パターン(図4(B)参照)を強度パルス発生手段310に生成させ、これに基づき光パルス生成手段22において光源21からの光に強度変調を施す。これにより、検出用光ファイバ10にプローブ光として入射させるチャープパルスが光パルス生成手段22において生成される(ステップS2)。このように生成されたチャープパルスは、パルス幅が大きいため各パルスの有するエネルギーが高く、検出用光ファイバ10に入射され入力端10aから離れた領域で散乱され戻ってきても所望の信号強度が得られる。
【0065】
光パルス生成手段22からのパルス光(チャープパルス)は、光強度・偏光調整部14に入射され、光強度・偏光調整部14でその光強度が調整されると共に、その偏光方向がランダム(無作為)に調整される(ステップS3)。即ち、光強度・偏光調整部14は、高速偏波スクランブラーとして機能し、各パルス光にランダムな偏波面を与える。このように、光強度・偏光調整部14により各パルス光にランダムな偏光面を測定毎に与えているので、受信部50は、波長の変化分のレイリー後方散乱光を加算して平均を取ることにより平滑なレイリー後方散乱光を得ることができ、このレイリー後方散乱光のレベルから距離の損失を精度よく換算することが可能となる。
【0066】
その後、パルス光は、光サーキュレータ15及び光コネクタ16を介して入力端10aから検出用光ファイバ10内に入射される(ステップS4)。
【0067】
検出用光ファイバ10の入力端10aから入射したパルス光は、検出用光ファイバ10内で散乱されてレイリー現象を生じさせる(ステップS5)。この散乱によって入力端10aまで戻ってきたレイリー散乱現象に係る光(レイリー後方散乱光)は、入力端10aから検出用光ファイバ10の外部に射出され、光コネクタ16、光サーキュレータ15を介して受信部50まで導光される。
【0068】
受信部50に入射した検出用光ファイバ10からの光(入力光)は、コヒーレント受信機500において、局部発振光発生器51からの局発光を用いた直交検波によってベースバンド信号YI,YQ,XI,XQに復調された後、偏波合成手段540によってベースバンド信号YI,YQ,XI,XQの偏波合成が行われ、ベースバンド信号I,Q(式(7)参照)となる(ステップS6)。即ち、レイリー後方散乱光と局発光とのヘテロダイン受信によりI,Q分離がなされる。
【0069】
このベースバンド信号I,Qが信号処理手段550の逆チャープフィルタ551において逆チャープをかけられて圧縮され(ステップS7)、この圧縮された信号が信号分析部560において分析される。これにより、検出用光ファイバ10の長尺方向の各領域部分におけるレイリースペクトルが高精度且つ光分解能で得られる(ステップS8)。
【0070】
そして、信号分析部560は、歪みが生じていない状態(又は温度変化前の状態)の検出用光ファイバ10の長尺方向の各領域におけるレイリースペクトルと、歪みが生じている状態(又は温度変化後の状態)の検出用光ファイバ10の長尺方向において、前記歪みが生じていない状態の各領域部分に対応する部分のレイリースペクトルとの相関関数係数をそれぞれ計算することによって、検出用光ファイバ10の長尺方向の各領域部分におけるレイリー周波数シフト量Δνrを高感度且つ高精度で求める(ステップS9)。
【0071】
信号分析部560は、このように求めたレイリー周波数シフト量Δνrに基づき、検出用光ファイバ10の長尺方向の各領域部分における歪み又は温度をそれぞれ求める。その結果、検出用光ファイバ10の長尺方向における歪み又は温度分布が高感度且つ高精度で得られる(ステップS10)。
【0072】
図10は、図1に示す分布型光ファイバセンサFSにより計測されたレイリー周波数シフト量Δνrの一例を示す図である。図10(A)は、歪みがある場合と歪みがない場合とのレイリースペクトルを示し、図10(B)は、歪みがある場合と歪みがない場合との相関関係係数を示している。図10(A)に示すように、歪みがある場合のレイリースペクトルが図中の実線であり、歪みがない場合のレイリースペクトルが図中の破線であり、両者の相関関係係数を計算すると、図10(B)に示すようになり、両者の相関関係係数のピークのオフセット量Δvrがレイリー周波数シフト量となる。
【0073】
このΔvrだけ、歪みがある場合のレイリースペクトル(実線)を移動させると、図10(C)のようになり、歪みがある場合のレイリースペクトル(実線)と歪みがない場合のレイリースペクトル(破線)とがほぼ一致しており、レイリー周波数シフト量を高精度で求めることができたことがわかる。
【0074】
以上のように、本実施形態の分布型光ファイバセンサFSにおいては、スペクトル拡散方式(周波数チャープ変調)によりパルス幅を長くした光パルス(チャープパルス)をプローブ光として検出用光ファイバ10に入射させ、戻ってきた光(レイリー後方散乱光)を前記スペクトル拡散方式に対応した圧縮を行う(逆チャープをかける)ことにより、検出用光ファイバ10における入力端10aから離れた領域(位置)における当該光ファイバ10に生じた歪み又は当該光ファイバ10の温度も高感度且つ高精度に計測することが可能となる。即ち、チャープ変調により入射させるパルス幅を大きくすることによりパルスの有するエネルギーを大きくして遠方で散乱され戻ってくる光の信号強度を確保してSNを高めると共に、逆チャープ(圧縮)により高い空間分解能を確保することが可能となる。
【0075】
次に、本発明に係る分布型光ファイバセンサの第2実施形態を図面に基づいて説明する。尚、上記第1実施形態と同様の構成には同一符号を用いると共に詳細な説明を省略し、異なる構成についてのみ詳細に説明する。図11は、第2実施形態における分布型光ファイバセンサFSの構成を示すブロック図である。
【0076】
図11に示す分布型光ファイバセンサFSは、検出用光ファイバ10と、レイリー計測手段11と、制御処理部12と、局部発振器51Aとを備える。
【0077】
レイリー計測手段11は、光パルス出射手段13と、受信部50と、を備える。また、本実施形態のレイリー計測手段11は、光カプラ17及び変調器18も備える。
【0078】
光パルス出射手段13は、光源21と、光源21からの連続光をパルス光にする光パルス生成手段22Aとを有する。光パルス生成手段22Aは、光源21が出射した連続光が入射され、制御処理部12の制御により、この連続光からプローブ光としてのパルス光を生成する手段である。このパルス光を構成する各パルスは、スペクトル拡散方式が用いられた光パルスである。本実施形態では、スペクトル拡散方式として、図12(A)に示すような擬似乱数による位相変調方式が用いられる。
【0079】
位相変調方式としては、例えば、PN系列を用いて位相を変調する方式等が挙げられる。PN系列は、擬似乱数(pseudo-random number)系列であり、本実施形態では、相補符号を用いる。具体的に、擬似乱数系列として、Golay符号系列が用いられる。
【0080】
光カプラ17は、光源21からの光を分岐させ、光パルス生成手段22と受信部50とに出力する。この光カプラ17は、入力端子が光源21の出力端子と光学的に接続され、一方の出力端子が光パルス生成手段22の入力端子と光学的に接続され、他方の出力端子が変調器18の入力端子と光学的に接続されている。
【0081】
変調器18は、局部発振器51Aが接続され、この局部発振器51Aからのマイクロ波に基づいて光源21からの光を周波数シフトさせ、受信部50(詳しくは、ヘテロダイン検波手段152)に出力する。
【0082】
受信部50は、制御処理部12により制御され、検出用光ファイバ10からの入力光に対して光パルス出射手段13におけるスペクトル拡散方式(本実施形態では、位相変調方式)に対応したパルス圧縮を行い、この圧縮した入力光に基づいてレイリー散乱現象に係る光(レイリー後方散乱光)を検出する部位である。この受信部50は、光へテロダイン検波手段151と、ヘテロダイン検波手段152と、信号処理手段550Aとを備える。
【0083】
光へテロダイン検波手段151は、検出用光ファイバ10からの入力光と変調器18で周波数シフトされた光源21からの光との光へテロダインにより、入力光をマイクロ波に落とす手段である。また、ヘテロダイン検波手段152は、光へテロダイン検波手段151によりマイクロ波に落とされた入力光を、さらに、マイクロ波のヘテロダイン受信によりI,Q両チャンネルからのベースバンドの複素信号を出力する手段である。
【0084】
信号処理手段550Aは、ヘテロダイン検波手段152からの複素信号に対して本実施形態のスペクトル拡散方式に対応する整合フィルタと、この整合フィルタの出力の二乗和を導出し、これに基づいて検出用光ファイバ10の長尺方向における各領域のレイリースペクトルを導出する検出手段とを有する。さらに、信号処理手段550Aは、第1実施形態の信号処理手段550と同様に、レイリースペクトルのシフト量(レイリー周波数シフト量)Δνrを検出し、このレイリー周波数シフト量Δνrに基づいて検出用光ファイバ10に生じた歪み又は検出用光ファイバ10の温度を導出する算出手段も有する。
【0085】
ここで、本実施形態の整合フィルタは、図12(B)に示すような、スペクトル拡散に用いた擬似符号(図12(A)参照)を時間的に反転し、整合フィルタへの入力との畳み込みを取るものである。
【0086】
以上のような分布型光ファイバセンサFSにおける歪み又は温度の計測動作について説明する。
【0087】
角周波数ωの光源21からの光に光パルス生成手段22Aにおいて広帯域変調をかけ、これにより生成されたパルス幅Dの大きなパルス光を検出用光ファイバ10に入射させる。光源21からの光は、その一部が光カプラ17により分岐され、局部発振器51Aで発生させる各周波数ωLOのマイクロ波に基づき変調器18において周波数シフトされる。検出用光ファイバ10内で散乱して戻ってきた光は、光へテロダイン検波手段151において、前記周波数シフトした光と光へテロダインにより中心周波数がωLOのマイクロ波に落とされる。さらに、ヘテロダイン検波手段152において、前記マイクロ波とのヘテロダイン受信によりそのI,Q両チャンネルからの出力でベースバンドの複素信号が取り出される。この信号処理手段550Aにおいて、この複素信号に対して整合フィルタをかけ、その出力の二乗和を出力する。これに基づいて、信号処理手段550Aは、検出用光ファイバ10の長尺方向における各領域のレイリースペクトルを導出する。
【0088】
ここで、本実施形態でのプローブ光と信号処理手段550Aの整合フィルタとについて詳しく説明する。
【0089】
パルス圧縮方式として、本実施形態の光パルス生成手段22Aでは、擬似乱数による位相変調を用いている。プローブ光としてパルス幅Dの大きなパルスが用いられ、このパルスには、光パルス生成手段22Aにおいて図12(A)に示すような擬似乱数符号による位相変調が施される。一方、信号処理手段550Aでは、整合フィルタを用いてパルス圧縮が行われる。この整合フィルタは、図12(B)に示すような擬似乱数の符号列を時間反転させたものである。
【0090】
プローブ光は、幅Dの長いパルスとし、パルス内部は、M個の幅d=(D/M)のセルに分割される。各セルを
【数12】

と表す。擬似乱数系列を±1という値を取る数列r,m=1,…,Mとし、プローブ光の形状関数を
【数13】

とする。
【0091】
擬似乱数は、その自己相関関数が
【数14】

を満たすことが理想である。そこで、本実施形態では、Golay符号列のように2系列の符号系列を用い、式(15)を仮定する。ここでδk,0は、クロネッカーのデルタを表す。
【0092】
整合フィルタのインパルス応答は時間積分の値がMとなるように規格化して
【数15】

とする。このとき、
【数16】

となる。Dを固定してd→0とすると、
【0093】
【数17】

となることに注意する。ここで、δ(t)はDiracのδ関数である。
【0094】
次に、整合フィルタによる復調後のレイリー散乱スペクトルについて説明する。
【0095】
時間tに検出用光ファイバ10の入力端10aに戻るレイリー後方散乱光の電界は、減衰を無視すれば、
【数18】

と表せる。ここで、Δχは検出用光ファイバ10の長さ方向の電気感受率の揺らぎであり、ωは検出用光ファイバ10の入力端10aから入射する光の角周波数である。
【0096】
マイクロ波ωLOで周波数シフトさせた光源21からの光との光へテロダインにより、光ヘテロダイン検波手段151においてマイクロ波に落とした入力信号は、直流成分を除けば
【数19】

と表される。ここで、Δφは2つの光の初期位相差を表す。
【0097】
このマイクロ波信号をヘテロダイン検波手段152でヘテロダインしてベースバンドに落とした複素信号は、
【数20】

と表され、さらに、整合フィルタをかけた入力信号は、
【数21】

と表される。従って、復調処理後のレイリー散乱のスペクトルは、
【数22】

となる。このように、パルス圧縮により得られるレイリースペクトルは、形状関数がfpc(t)となるようなパルスを用いたときのレイリースペクトルに等しくなっていることがわかる。
【0098】
pc(t)が式(16)のような形状を持つ場合には、底辺の幅が2dで高さがMの三角パルスを用いるのと等価になる。
【0099】
以上のように、本実施形態に係る分布型光ファイバセンサFSにおいても、スペクトル拡散方式(位相変調方式)によりパルス幅を長くした光パルス(プローブ光)を検出用光ファイバ10に入射させ、戻ってきた光(レイリー後方散乱光)を前記位相変調方式に対応した圧縮を行うことにより、検出用光ファイバ10における入力端10aから離れた領域における検出用光ファイバ10に生じた歪み又は検出用光ファイバ10の温度も高感度且つ高精度に計測することが可能となる。
【0100】
尚、本発明の分布型光ファイバセンサは、上記第1及び第2実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【0101】
第1実施形態の光パルス出射手段においては、スペクトル拡散方式として周波数チャープ方式が用いられ、第2実施形態の光パルス出射手段においては、スペクトル拡散方式として位相を変調する位相変調方式が用いられているが、これらに限定されず、周波数チャープ方式と位相変調方式とを組み合わせたハイブリッド方式等であってもよい。
【0102】
チャープ手段30は、光源21からの光を非線形チャープや窓関数により周波数変調するように構成されることにより、レンジサイドローブが抑えられる。
【符号の説明】
【0103】
10 検出用光ファイバ
11 レイリー計測手段
13 光パルス出射手段
550 信号処理手段(算出手段)
551 逆チャープフィルタ(整合フィルタ)
FS 分布型光ファイバセンサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
センサとして用いられる光ファイバと、
レイリー散乱現象を利用して前記光ファイバに生じた歪み又は前記光ファイバの温度に基づくレイリー周波数シフト量を計測するレイリー計測手段と、
前記レイリー計測手段によって計測されたレイリー周波数シフト量から前記光ファイバに生じた歪み又は前記光ファイバの温度を算出する算出手段と、を備え、
前記レイリー計測手段は、スペクトル拡散方式を用いた光パルスを生成してこの光パルスを前記光ファイバ内に入射させる光パルス出射手段と、前記光ファイバから射出される光に対して前記スペクトル拡散方式に対応したパルス圧縮を行う整合フィルタと、前記整合フィルタで圧縮された光に基づいて前記レイリー散乱現象に係る光を検出する検出手段とを有することを特徴とする分布型光ファイバセンサ。
【請求項2】
前記光パルス出射手段は、光パルスを生成する光パルス光源と、前記光パルスに対しチャープによって周波数変調を行うチャープ変調手段と、を備えることを特徴とする請求項1に記載の分布型光ファイバセンサ。
【請求項3】
前記チャープ変調手段では、非線形チャープにより周波数変調が行われることを特徴とする請求項2に記載の分布型光ファイバセンサ。
【請求項4】
前記チャープ変調手段では、窓関数により周波数変調が行われることを特徴とする請求項2に記載の分布型光ファイバセンサ。
【請求項5】
前記光パルス出射手段は、光パルスを生成する光パルス光源と、擬似乱数符号を用いて前記光パルスの位相変調を行う拡散変調手段と、を備えることを特徴とする請求項1に記載の分布型光ファイバセンサ。
【請求項6】
前記拡散変調手段では、擬似乱数符号として相補符号が用いられることを特徴とする請求項5に記載の分布型光ファイバセンサ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−232138(P2011−232138A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−101877(P2010−101877)
【出願日】平成22年4月27日(2010.4.27)
【出願人】(303021609)ニューブレクス株式会社 (23)
【Fターム(参考)】