分散型無機EL素子の製造方法、分散型無機EL素子及びそれを備えた照明装置
【課題】製造コストを抑えながら、発光輝度の高い分散型無機EL素子を製造する。
【解決手段】誘電体スラリー4bをシート化した誘電体グリーンシート4aをセラミック基板102上に配置した状態で、当該グリーンシート4aを高温焼成することによって厚膜誘電体シート4を作製した後、その厚膜誘電体シート4をセラミック基板102から剥離し、その剥離した厚膜誘電体シート4を用いて分散型無機EL素子する。このように誘電体層として用いる厚膜誘電体シートを個別に作製することにより、厚膜誘電体シートを素子基板の耐熱温度よりも高い温度で焼成することが可能になるので、低コストで誘電体層(厚膜誘電体シート)の誘電率を高くすることができ、発光輝度の向上を図ることができる。
【解決手段】誘電体スラリー4bをシート化した誘電体グリーンシート4aをセラミック基板102上に配置した状態で、当該グリーンシート4aを高温焼成することによって厚膜誘電体シート4を作製した後、その厚膜誘電体シート4をセラミック基板102から剥離し、その剥離した厚膜誘電体シート4を用いて分散型無機EL素子する。このように誘電体層として用いる厚膜誘電体シートを個別に作製することにより、厚膜誘電体シートを素子基板の耐熱温度よりも高い温度で焼成することが可能になるので、低コストで誘電体層(厚膜誘電体シート)の誘電率を高くすることができ、発光輝度の向上を図ることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分散型無機EL素子の製造方法に関する。また、分散型無機EL素子及びそれを備えた照明装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、軽量・薄型の面発光型素子として、EL素子(エレクトロルミネッセンス素子)が注目されている。EL素子は、高精細、高コントラスト、応答速度が速いといった特徴あることから、液晶ディスプレイ用バックライト、各種インテリア用照明装置、車載用表示装置などに応用されつつある。
【0003】
EL素子は大別すると、有機EL素子と無機ELとがある。また、無機EL素子には、例えば厚さが1μm程度の薄膜蛍光層の両側あるいは片側に絶縁層を設けた薄膜型無機EL素子と、無機蛍光体粒子を高分子有機材料からなるバインダ中に分散させた蛍光体層を用いる分散型無機EL素子(例えば、特許文献1〜3参照)とがある。これらの無機EL素子のうち、分散型無機EL素子は、スクリーン印刷法やコーティング法等の簡便な方法により面発光素子を低コストで製造できる点で優れている。
【0004】
無機EL素子の一例を図11に示す。この例の無機EL素子D10は、透明基板(透明ガラス基板等)301上(片面上)に、透明導電膜(例えばITO(酸化インジウムスズ))302、バインダ中に蛍光体粒子を分散してなる蛍光体層(発光層)303、比較的高い誘電率を持つ有機樹脂あるいはバインダ中に高誘電率粒子(例えばBaTiO3粒子)を分散してなる誘電体層(絶縁層)304、及び、電極層305が順次積層されており、透明導電膜302と電極層305との間に交流電源306によって交流電圧を印加することにより蛍光体層303が発光する。なお、誘電体層304は素子の絶縁破壊を防ぐために設けられている。
【0005】
このような構造の無機EL素子D10の製造プロセスの一例について以下に説明する。
【0006】
(i)透明基板(素子基板)301の表面(片面)に透明導電膜302をスパッタリング法等によって形成する。
【0007】
(ii)透明基板301上に形成した透明導電膜層302の表面に蛍光体ペーストをシート状に塗布し、その塗布した蛍光体ペーストを乾燥させて蛍光体層303(例えば、膜厚20〜100μm)を形成する。蛍光体ペーストとしては、蛍光体粒子(例えば粒径が5〜20μmの[ZnS:Cu,Cl]粒子)を高誘電率バインダ中に分散したものが用いられている。
【0008】
(iii)上記蛍光体層303上に誘電体ペーストをシート状に塗布し、その塗布した誘電体ペーストを乾燥させて誘電体層304を得る。誘電体ペーストとしては、高誘電率バインダ中に高誘電率粒子(例えばBaTiO3粒子)を混合・分散したものが用いられている。
【0009】
(iv)上記誘電体層304の表面上に導電性ペースト(例えば、Ag(銀)ペースト)を塗布・乾燥して電極層305を形成することによって、図11に示す構造の分散型無機EL素子D10を得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2006−233147号公報
【特許文献2】特開2008−251313号公報
【特許文献3】特開2009−152073号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、誘電体層に分散する高誘電率粒子は誘電率εが非常に高い(BaTiO3粒子では誘電率εが1000以上)が、バインダ中に分散した状態では、高誘電率粒子(BaTiO3粒子)同士の間に余分なバインダ成分が存在しているため、高誘電率粒子同士の接触面積が低下し、誘電体層としての誘電率が粒子のみの場合に比べて低くなるので静電容量が低下する。図11に示すような構造の分散型無機EL素子において、誘電体層の静電容量が低下すると、蛍光体層にかかる電圧が低下してしまい、素子の発光輝度が低下する。この点について、図12を参照して説明する。
【0012】
図12の等価回路において、素子全体にかかる電圧をVa、誘電体層にかかる電圧をVI、誘電体層の静電容量をCI、蛍光体層の静電容量をCPとすると、蛍光体層にかかる電圧VPは
VP=CI/(CI+CP)*Va・・・(1)
となる。ここで、誘電体層の静電容量CIは[CI=εISI/dI εI:誘電体層の誘電率、SI:誘電体層の面積、dI:誘電体層の膜厚]であり、蛍光体層の静電容量CPは[CP=εPSP/dP εP:蛍光体層の誘電率、SP:蛍光体層の面積、dP:蛍光体層の膜厚]である。
【0013】
このような(1)式から明らかなように、分散型無機EL素子において誘電体層の静電容量CIが低いと、蛍光体層にかかる電圧VPが低くなってしまい、素子の発光輝度が低下する。
【0014】
分散型無機EL素子の発光輝度を高くするには、誘電体層の静電容量つまり誘電率を高くすればよいが、素子基板の耐熱性が課題となる。すなわち、高誘電率粒子の密度が高くて、誘電率が非常に高い誘電体層を得るには、バインダ中に高誘電率粒子を分散させた誘電体ペースト(誘電体スラリー)を高温(バインダ成分(樹脂成分・溶媒)を除去し、誘電体粉末の粒子成長が生じる程度の高温)で焼成する必要があるが、このような高温の焼成を行うには、耐熱性の高い素子基板を用いる必要があって、製造コストが高くなる。
【0015】
本発明はそのような実情を考慮してなされたもので、耐熱性の高い素子基板を用いることなく誘電体層の高温焼成が可能であり、もって、製造コストを低く抑えながら発光輝度の向上を図ることのできる分散型無機EL素子の製造方法を提供することを目的とする。さらに、そのような特徴を有する製造方法にて作製された分散型無機EL素子、及び、それを備えた照明装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の製造方法は、透明導電層、蛍光体層、誘電体層、及び、電極層を有し、前記透明導電層と電極層との間に前記蛍光体層及び誘電体層が配置された分散型無機EL素子の製造方法であって、バインダ中に高誘電率粒子を分散させた誘電体スラリーを作製する工程と、前記誘電体スラリーをシート化してグリーンシートを作製する工程と、前記高誘電率粒子に対する濡れ性が低い材料製の剥離層が表面に形成されたセラミック基板を用い、そのセラミック基板の剥離層上に前記グリーンシートを配置した状態で当該グリーンシートを焼成することによって、前記誘電体層として用いる厚膜誘電体シートを作製する工程と、前記厚膜誘電体シートを前記セラミック基板から剥離し、その剥離した厚膜誘電体シートを用いて当該分散型無機EL素子を作製する工程とを含むことを技術的特徴としている。
【0017】
この発明の製造方法によれば、誘電体スラリーをシート化したグリーンシートをセラミック基板の剥離層上に配置した状態で、当該グリーンシートを焼成することによって厚膜誘電体シートを作製しているので、誘電体層(厚膜誘電体シート)の焼成を個別に行うことができる。これにより誘電体層として用いる厚膜誘電体シートを、素子基板の耐熱温度よりも高い温度で焼成することが可能になる。これによって誘電体層(厚膜誘電体シート)の誘電率を高くすることができ、発光輝度が高い分散型無機EL素子を得ることができる。例えば、厚膜誘電体シートを1000℃以上の高温で焼成すると、高誘電率粒子(BaTiO3)が粒子成長して密度が非常に高くなるので、シートが割れにくくなるとともに、誘電体層(厚膜誘電体シート)の誘電率が更に高くなって、性能に優れた分散型無機EL素子を得ることができる。
【0018】
しかも、誘電体層(厚膜誘電体シート)の焼成を個別に行っているので、素子基板として耐熱性が低くて安価な基板(例えば青板ガラス・プラスチック基板)を用いることが可能となり、これにより製造コストの低減化を図ることができる。
【0019】
この発明の製造方法において、厚膜誘電体シートを用いて、分散型無機EL素子を製造する場合の具体的な例として以下のものを挙げることができる。
【0020】
まず、厚膜誘電体シートとは別工程において、透明導電層が表面に形成された透明基板の表面上に蛍光体層を形成して蛍光体層付基板を作製しておき、その蛍光体層付基板上に上記厚膜誘電体シートを積層する。そして、その厚膜誘電体シート上に電極層を形成することによって、誘電体層付の透明基板上に、蛍光体層、厚膜誘電体シート及び電極層が順次積層されてなる分散型無機EL素子を得るという方法を挙げることができる。
【0021】
また、他の具体的な例として、前記厚膜誘電体シートを基板として、当該厚膜誘電体シート上に、バインダ中に蛍光体を分散させた蛍光体ペーストをシート状に塗布して前記蛍光体層を形成し、さらに、その蛍光体層上に、透明導電層が表面に形成された透明基板を積層する。そして、前記厚膜誘電体シートの前記蛍光体層とは反対側の面に電極層を形成することによって分散型無機EL素子を得るという方法を挙げることができる。
【0022】
この例において、厚膜誘電体シート上に蛍光体ペーストを塗布・乾燥した後に、その蛍光体ペースト(乾燥体)を高温で焼成するようにしてもよい。こうした処理を行うと、蛍光体層の結晶性が高くなって発光輝度が更に向上する。
【0023】
また、他の解決手段として、透明導電層、蛍光体層、誘電体層、及び、電極層を有し、前記透明導電層と電極層との間に前記蛍光体層及び誘電体層が配置された分散型無機EL素子の製造方法であって、バインダ中に高誘電率粒子を分散させた誘電体スラリーを作製する工程と、前記誘電体スラリーをシート化してグリーンシートを作製する工程と、前記グリーンシート上に、バインダ中に蛍光体を分散させた蛍光体ペーストをシート状に塗布するとともに、前記高誘電率粒子に対する濡れ性が低い材料製の剥離層が表面に形成されたセラミック基板を用い、そのセラミック基板の剥離層上に前記グリーンシート及び蛍光体ペーストを配置した状態で、これらグリーンシート及び蛍光体ペーストを焼成することによって、前記誘電体層として用いる厚膜誘電体シート及び前記蛍光体層を作製する工程と、前記焼成後の厚膜誘電体シート及び蛍光体層を前記セラミック基板から剥離し、その剥離した厚膜誘電体シート及び蛍光体層を用いて当該分散型無機EL素子を作製する工程とを含むことを特徴とする製造方法を挙げることができる。
【0024】
この発明の製造方法においても、誘電体層として用いる厚膜誘電体シートを、素子基板の耐熱温度よりも高い温度(例えば、1000℃以上の高温)で焼成することが可能になるので、誘電体層(厚膜誘電体シート)の誘電率を高くすることができる。これによって発光輝度が高い分散型無機EL素子を得ることができる。しかも、誘電体層(厚膜誘電体シート)の焼成を個別に行うので、素子基板として耐熱性が低くて安価な基板(例えば青板ガラス・プラスチック基板)を用いることが可能となり、これにより製造コストの低減化を図ることができる。
【0025】
さらに、この発明の製造方法では、蛍光体ペースト及び誘電体グリーンシートを高温で焼成しているので、厚膜誘電体シート(誘電体層)の誘電率が高くなる上に、蛍光体層の結晶性が高くなる。これによって分散型無機EL素子の発光輝度が更に向上する。
【0026】
この発明の製造方法において、蛍光体層及び厚膜誘電体シートの焼結体を用いて、分散型無機EL素子を製造する場合の具体的な例として、厚膜誘電体シートと同時に焼成した蛍光体層上に、透明導電層が表面に形成された透明基板を積層し、さらに、前記厚膜誘電体シートの前記蛍光体層とは反対側の面に電極層を形成することによって分散型無機EL素子を得るという構成を挙げることができる。
【0027】
ここで、本発明の製造方法において、「高誘電率粒子に対する濡れ性が低い材料製の剥離層」とは、高誘電率粒子を分散した誘電体グリーンシートを焼成した後の厚膜誘電体シートとの結合力が弱くて、厚膜誘電体シートを容易に剥離することが可能な材料製の剥離層のことである。
【0028】
具体的には、例えば高誘電率粒子がBaTiO3である場合、剥離層の材料として、KNbO3、PbNbO3、Ta2O5、LiTaO3、Y2O3、SiO2、ZrO2を挙げることができる。これらのうち、特に好ましいのは、ZrO2である。
【0029】
次に、本発明の分散型無機EL素子及び照明装置について説明する。
【0030】
まず、本発明の分散型無機EL素子は、上記した特徴を有する製造方法によって作製されているので、誘電体層(厚膜誘電体シート)の誘電率を高めることができ、発光輝度が従来品に比べて向上する。
【0031】
本発明の照明装置は、上記した特徴を有する製造方法によって作製された分散型無機EL素子を備えているので、少ない電力で明るい照明を実現することができる。本発明の照明装置の具体的な例として、液晶ディスプレイ用バックライト、平面発光照明装置、車載用表示装置などを挙げることができる。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、耐熱性の高い素子基板を用いることなく誘電体層(厚膜誘電体シート)の高温焼成が可能になるので、製造コストを低く抑えながら、分散型無機EL素子の発光輝度の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の分散型無機EL素子の一例の断面構造を模式的に示す図である。
【図2】図1の分散型無機EL素子の製造方法の一例を模式的に示す図である。
【図3】図1の分散型無機EL素子の製造方法の一例を模式的に示す図である。
【図4】図1の分散型無機EL素子の製造方法の一例を模式的に示す図である。
【図5】本発明の分散型無機EL素子の他の例の断面構造を模式的に示す図である。
【図6】図5の分散型無機EL素子の製造方法の一例を模式的に示す図である。
【図7】図5の分散型無機EL素子の製造方法の他の例を模式的に示す図である。
【図8】厚膜誘電体シートを焼成する際の昇温プログラムの一例を示す図である。
【図9】厚膜誘電体シートの焼成温度と誘電率・誘電損失との関係を示すグラフである。
【図10】本発明の[実施例1]の発光輝度及び[比較例1]の発光輝度を測定した結果を示すグラフである。
【図11】従来の分散型無機EL素子の一例の断面構造を模式的に示す図である。
【図12】図11の分散型無機EL素子の等価回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0035】
[実施形態1]
図1は本発明の分散型無機EL素子の一例の断面構造を模式的に示す図である。
【0036】
この例の分散型無機EL素子D1は、片面に透明導電膜2が形成された透明基板(素子基板)1上に、蛍光体層3、厚膜誘電体シート4、及び、金属電極(電極層)5が順次積層された構造となっており、蛍光体層3と金属電極5との間の絶縁層、つまり、素子の絶縁破壊を防止するための誘電体層を厚膜誘電体シート4(詳細については後述する)によって構成している点に特徴がある。
【0037】
そして、このような構造の分散型無機EL素子D1において、透明導電膜2と金属電極5との間に交流電源6によって交流電圧を印加することにより蛍光体層3が発光する。
【0038】
次に、図1の分散型無機EL素子D1の製造方法について説明する。
【0039】
この例では、蛍光体層3と厚膜誘電体シート4とを別の工程で作製し、その蛍光体層3と厚膜誘電体シート4とを組み合わせて分散型無機EL素子D1を作製する。
【0040】
<蛍光体層の作製>
まず、蛍光体層の作製方法について図2を参照して説明する。
【0041】
<ST11>
図2(1)に示すように、透明基板1の表面(片面)にスパッタリング法等によって透明導電膜2を形成する。この例に用いる透明基板1としては、透明なガラス基板または透明なフィルムなどを挙げることができる。また、透明導電膜2の導電材料としては、スズ添加酸化インジウム(ITO:Tin doped Indium Oxide)、亜鉛添加酸化インジウム(IZO:Indium Zinc Oxide)、アルミニウム添加酸化亜鉛(AZO:Al doped Zinc Oxide)などを挙げることができる。
【0042】
<ST12>
高誘電率バインダ中に蛍光体粒子を分散した蛍光体ペーストを用い、上記透明基板1に形成した透明導電膜2上に蛍光体ペーストをドクターブレード法やスクリーン印刷法などによってシート状に塗布し、その塗布した蛍光体ペーストを乾燥させて蛍光体層3を得る(図2(2))。このようにして透明基板1上に透明導電膜2及び蛍光体層3を積層したものを蛍光体層付基板10という。
【0043】
この例において、蛍光体ペーストに用いる蛍光体粒子としては、[ZnS:Ag,Cl]、[ZnS:Cu,Al]、[ZnS:Cu,Au,Al]などの硫化亜鉛化合物の粒子を挙げることができる。
【0044】
また、高誘電率バインダとしては、例えば、シアノレジン(シアノエチルセルロースの商品名:信越化学工業社製CR−V)、ELバインダ(商品名:埼玉薬品製)などを挙げることができる。また、誘電率の高いポリマー(例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン)系樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フッ化ビニリデンなどを挙げることができる。
【0045】
<厚膜誘電体シート作製・素子の作製>
次に、厚膜誘電体シート4の作製方法について図3を参照して説明する。
【0046】
<ST21>
誘電体スラリーを調製する。具体的には、高誘電率粒子(例えばBaTiO3)、有機溶媒(例えばトルエン:エタノール(6:4))、バインダ(例えば、PVB(ポリビニルブチラール))、可塑剤(例えばDOP(フタル酸ジオクチル))、焼結助剤(例えばガラスフリット)、及び、分散剤(例えばSN9228(商品名:サンノプコ社製分散剤))を混合・分散して誘電体スラリーを調製する。
【0047】
ここで、誘電体スラリー(厚膜誘電体シート)の作製に用いる高誘電率粒子としては、誘電率及び絶縁性が高くて、かつ高い誘電破壊電圧を有する金属酸化物または窒化物、具体的には、例えば、TiO2、BaTiO3、SrTiO3、PbTiO3、KNbO3、PbNbO3、Ta2O5、BaTa2O6、LiTaO3、Y2O3、Al2O3、ZrO2、SiO2、AlON、Si3N4、ZnSなどを挙げることができる。これらのうち、特に好ましいのは、BaTiO3である。
【0048】
また、誘電体スラリーの調製において、バインダは、高誘電率粒子の重量(100wt%)に対して9.09wt%以上添加する必要がある。バインダの添加量が9.09wt%未満であると、粘度等が良質な誘電体スラリーを得ることができない。誘電体スラリーの適切な粘度は650〜2000mPa・sである。
【0049】
可塑剤は、高誘電率粒子の重量(100wt%)に対して1.18wt%以上添加する必要がある。可塑剤の添加量が1.18wt%未満であると、しなやかな誘電体グリーンシートを得ることができない。また、可塑剤の添加量が少なすぎると、誘電体グリーンシートの割れが発生しやすくなる。
【0050】
なお、ガラスフリットは必ずしも添加する必要はないが、ガラスフリットを添加すると誘電体グリーンシートの強度・密度が上昇する。ただし、ガラスフリットを添加すると、焼成後の厚膜誘電体シートの誘電率が低下する。
【0051】
<ST22>
図3(1)に示すように、上記工程(ST21)で調製した誘電体スラリー4bを、表面が平坦な基板101にドクターブレード法等によってシート状に成形した後に、誘電体スラリー4bを乾燥することにより誘電体グリーンシート4aを作製する。その後、誘電体グリーンシート4aを基板101から剥離する(図3(2))。
【0052】
なお、誘電体グリーンシート4aを作製する際に用いる基板101については、表面が平坦なものであれば任意の基板を用いることができる。また、基板101は耐熱性が低いものであっても問題はない。この例では、例えばガラス基板を用いる。
【0053】
<ST23>
図3(3)に示すように、剥離層103が片面に形成されたセラミック基板102を2枚用意し、これら2枚のセラミック基板102,102の間(剥離層103,103の間)に誘電体グリーンシート4aを挟み込む(図3(4))。
【0054】
剥離層103は、高誘電率粒子との濡れ性が良くない材料粒子をバインダ中に分散した剥離層スラリーを用い、その剥離層スラリーをセラミック基板102の表面上にドクターブレード法等によってシート状に成形した後に、剥離層スラリーを焼成することによって形成する。
【0055】
剥離層103に用いる材料としては、上記した高誘電率粒子と濡れ性の良くない金属酸化物、具体的には、上記高誘電率粒子がBaTiO3である場合、KNbO3、PbNbO3、Ta2O5、LiTaO3、Y2O3、SiO2、ZrO2を挙げることができる。これらのうち、特に好ましいのは、ZrO2である。
【0056】
<ST24>
図3(4)に示すように、2枚の剥離層付のセラミック基板102,102間に誘電体グリーンシート4aに挟み込んだ状態で、誘電体グリーンシート4aを1000℃以上の高温で焼成して厚膜誘電体シート4を得る。なお、図3の例では、2枚の剥離層付のセラミック基板102を用いているが、1枚の剥離層付のセラミック基板102の剥離層103上に誘電体グリーンシート4aを配置した状態で高温焼成を行うようにしてもよい。
【0057】
<ST25>
図3(5)に示すように、剥離層付のセラミック基板102を剥離して厚膜誘電体シート4を取り出す。そして、このようにして作製した厚膜誘電体シート4を用いて分散型無機EL素子D1を作製する。
【0058】
具体的には、この工程(ST21〜ST25:図3(1)〜(5))に示す方法で作製した厚膜誘電体シート4と、上記した工程(ST11〜ST12:図2(1)〜(2))に示す方法で作成した蛍光体層付基板10とを用い、図4(1)に示すように、蛍光体層付基板10の蛍光体層3上に厚膜誘電体シート4を積層する。次に、図4(2)に示すように、厚膜誘電体シート4の表面(蛍光体層3とは反対側の面)に、導電性ペーストを塗布・乾燥して金属電極5を形成することによって、図1に示す構造の分散型無機EL素子D1を得ることができる。
【0059】
なお、導電性ペーストとしては、Ag(銀)ペーストや、ドータイト(登録商標:藤倉化成株式会社製の銀ペースト(銀の粉体を含有する導体ペースト))を用いる。
【0060】
ここで、蛍光体層付基板10の蛍光体層3上に厚膜誘電体シート4を積層する際に、厚膜誘電体シート4を蛍光体層3に接着しなくてもよい。つまり、素子作製完了後に素子全体がフィルム等によってラミネートされ、そのラミネートの際に厚膜誘電体シート4が蛍光体層3に圧着されるので、積層時に蛍光体層3と厚膜誘電体シート4とを接着しなくてもよい。
【0061】
なお、上記した工程(ST12)において、上記透明基板1上に積層した蛍光体層3(蛍光体ペースト)が未乾燥状態のときに、その蛍光体層3上に厚膜誘電体シート4を積層することにより、蛍光体層(蛍光体ペースト)3が乾燥したときに当該蛍光体ペーストのバインダ(例えば、シアノエチルセルロース)が接着剤として機能して、厚膜誘電体シート4が蛍光体層3に接着されるようにしてもよい。
【0062】
以上のように、この例の製造方法によれば、誘電体スラリーをシート化した誘電体グリーンシート4aをセラミック基板102上に配置した状態で、当該グリーンシート4aを焼成することによって厚膜誘電体シート4を作製した後、その厚膜誘電体シート4をセラミック基板102から剥離して、透明導電膜2付の透明基板(素子基板)1に形成した蛍光体層3上に積層しているので、厚膜誘電体シート4の焼成を個別に行うことができる。これにより誘電体層として用いる厚膜誘電体シート4を、素子基板(透明基板1)の耐熱温度よりも高い温度で焼成することが可能になる。これによって誘電体層(厚膜誘電体シート4)の誘電率を高くすることができ、発光輝度が高い分散型無機EL素子D1を得ることができる。ここで、厚膜誘電体シート4を1000℃以上の高温で焼成すると、BaTiO3が粒子成長して密度が非常に高くなるので、シートが割れにくくなるとともに、誘電体層(厚膜誘電体シート4)の誘電率が更に高くなって、性能に優れた分散型無機EL素子D1を得ることができる。
【0063】
しかも、誘電体層(厚膜誘電体シート4)の焼成を個別に行うので、素子基板選択の制限が少なくなり、素子基板として耐熱性が低くて安価な基板(例えば青板ガラス・プラスチック基板)を用いることが可能になる。これにより製造コストの低減化を図ることができる。
【0064】
[実施形態2]
図5は本発明の分散型無機EL素子の他の例の断面構造を模式的に示す図である。
【0065】
この例の分散型無機EL素子D2は、厚膜誘電体シート4を基板として、その厚膜誘電体シート4の一面41上に、蛍光体層13、透明導電膜12付の透明基板11が積層されており、厚膜誘電体シート4の他の面42(蛍光体層13とは反対側の面)に金属電極(背面電極)15が形成されている点を特徴としている。
【0066】
この例の分散型無機EL素子D2の製造方法について図6を参照して説明する。
【0067】
<ST31>
上記した[実施形態1]の工程(ST21〜ST25:図3(1)〜(5))と同様な方法で厚膜誘電体シート4を作製した後、厚膜誘電体シート4の一面41上に蛍光体層13を形成する(図6(1))。
【0068】
具体的には、高誘電率バインダ中に蛍光体粒子を分散した蛍光体ペーストを用い、厚膜誘電体シート4の一面41上に蛍光体ペーストをドクターブレード法やスクリーン印刷法などによってシート状に塗布・乾燥した後、その蛍光体ペースト(乾燥体)を高温(例えば400℃以上)で焼成して結晶化させることによって、厚膜誘電体シート4上に蛍光体層13を形成する。なお、蛍光体ペーストには、上記した[実施形態1]の工程(ST12)と同様なものを用いる。
【0069】
<ST32>
図6(2)に示すように、厚膜誘電体シート4の他の面(蛍光体層13とは反対側の面)42に、導電性ペーストを塗布・乾燥して金属電極(背面電極)15を形成する。導電性ペーストとしては、Ag(銀)ペーストや、ドータイト(登録商標)を用いる。
【0070】
なお、この工程(ST32)つまり厚膜誘電体シート4の他の面42に金属電極15を形成する工程は、上記した工程(ST31)よりも前に行っておいてもよい。
【0071】
<ST33>
図6(3)に示すように、透明導電膜12付の透明基板11([実施形態1]の工程(ST11)と同じ方法で作製)を、厚膜誘電体シート4(蛍光体層13)上に、その透明導電膜12が蛍光体層13に接触するように積層することによって、図5に示す構造の分散型無機EL素子D2を製造することができる。
【0072】
なお、透明導電膜12付の透明基板11を積層する際に、透明導電膜12を蛍光体層13に接着しなくてもよい。つまり、素子作製完了後に素子全体がフィルム等によってラミネートされ、そのラミネートの際に透明基板11の透明導電膜12が蛍光体層13に圧着されるので、積層時に透明導電膜12と蛍光体層13とを接着しなくてもよい。
【0073】
以上のように、この例の製造方法によれば、誘電体層として用いる厚膜誘電体シート4を個別に焼成し、その厚膜誘電体シート4を基板として、当該厚膜誘電体シート4上に蛍光体層13及び透明導電膜12付の透明基板11を順次積層することによって分散型無機EL素子D2を作製しているので、誘電体層として用いる厚膜誘電体シート4を、素子基板(透明基板11)の耐熱温度よりも高い温度で焼成することが可能になる。これによって誘電体層(厚膜誘電体シート)の誘電率を高くすることができ、発光輝度が高い分散型無機EL素子D2を得ることができる。ここで、厚膜誘電体シート4を1000℃以上の高温で焼成すると、BaTiO3が粒子成長して密度が非常に高くなるので、シートが割れにくくなるとともに、誘電体層(厚膜誘電体シート4)の誘電率が更に高くなって、性能に優れた分散型無機EL素子D2を得ることができる。
【0074】
しかも、誘電体層(厚膜誘電体シート4)の焼成を個別に行うので、素子基板選択の制限が少なくなり、素子基板として耐熱性が低くて安価な基板(例えば青板ガラス・プラスチック基板)を用いることが可能になる。これにより製造コストの低減化を図ることができる。
【0075】
さらに、この例の製造方法では、厚膜誘電体シート4上に蛍光体ペーストを塗布・乾燥した後、その蛍光体ペーストを高温で焼成しているので、蛍光体層13の結晶性が高くなって、素子の発光輝度が更に向上する。
【0076】
なお、この例において、厚膜誘電体シート4上に蛍光体ペーストを塗布・乾燥するという処理のみで蛍光体層13を形成してもよい。
【0077】
[実施形態3]
上記した図6の製造方法では、厚膜誘電体シート4上に蛍光体ペーストを塗布・乾燥後に焼成することにより、蛍光体層13を形成しているが、誘電体グリーンシート4aの焼成時に同時に蛍光体ペースト(乾燥体)を焼成するようにしてもよい。その一例を図7を参照して説明する。
【0078】
<ST41>
上記[実施形態1]の工程(ST21:図3(1)〜(2))と同じ方法で基板101上に誘電体グリーンシート4aを成形する。ただし、誘電体グリーンシート4aは、基板101から剥離しないで基板101上に残したままの状態としておく。
【0079】
次に、図7(1)に示すように、誘電体グリーンシート4a上に蛍光体ペースト13bをドクターブレード法やスクリーン印刷法などによってシート状に塗布した後に乾燥することにより蛍光層乾燥体13aを作製する。その後に、誘電体グリーンシート4a及び蛍光層乾燥体13bを基板101から剥離しておく。なお、蛍光体ペーストには、上記した[実施形態1]の工程(ST12)と同様なものを用いる。
【0080】
<ST42>
図7(2)に示すように、剥離層103が片面に形成されたセラミック基板102を2枚用意し、これら2枚のセラミック基板102,102の間(剥離層103,103の間)に、蛍光層乾燥体13a及び誘電体グリーンシート4aを挟み込む。
【0081】
なお、剥離層103は、高誘電率粒子(例えばBaTiO3粒子)及び蛍光体粒子(例えば[ZnS:Cu,Cl])との濡れ性が良くない材料粒子(例えばZrO2)をバインダ中に分散した剥離層スラリーを用い、セラミック基板102の表面上に剥離層スラリーをドクターブレード法等によってシート状に成形した後に、その剥離層シートを焼結することによって形成する。
【0082】
<ST43>
2枚の剥離層付のセラミック基板102,102間に乾燥体13a及び誘電体グリーンシート4aに挟み込んだ状態で(図7(2))、乾燥体13a及び誘電体グリーンシート4aを1000℃以上の高温で焼結する。この焼成により蛍光体層13と厚膜誘電体シート4(図7(3))とを作製することができる。
【0083】
ここで、この例のように、誘電体グリーンシート4aと蛍光体ペースト(乾燥体)とを同時焼成する場合は、蛍光体の酸化を防ぐために、不活性ガス(N2、Ar等)雰囲気中で焼成する必要がある。
【0084】
<ST44>
図7(3)に示すように、剥離層付のセラミック基板102を剥離して蛍光体層13と厚膜誘電体シート4とを取り出す。そして、このようにして作製した蛍光体層13及び厚膜誘電体シート4の焼結体を用いて分散型無機EL素子D2を作製する。
【0085】
具体的には、上記した[実施形態2]の工程(ST32〜ST33:図6(2)〜(3))と同様な方法により、図5に示す厚膜誘電体シート4の他の面(蛍光体層13とは反対側の面)42に、導電性ペーストを塗布・乾燥して金属電極15を形成する。次に、透明導電膜12付の透明基板11([実施形態1]の工程(ST11)と同じ方法で作製)を、厚膜誘電体シート4(蛍光体層13)上に、その透明導電膜12が蛍光体層13に接触するように積層することによって、図5に示す構造の分散型無機ELD2を作製する。
【0086】
この例の製造方法においても、誘電体層として用いる厚膜誘電体シート4を、素子基板(透明基板11)よりも高い温度(例えば、1000℃以上)で焼成することが可能になるので、誘電体層(厚膜誘電体シート4)の誘電率を高くすることができる。これによって分散型無機EL素子D2の発光輝度が向上する。しかも、誘電体層(厚膜誘電体シート4)の焼成を個別に行うので、素子基板選択の制限が少なくなり、素子基板として耐熱性が低くて安価な基板(例えば、ガラス基板)を用いることが可能になる。これにより製造コストの低減化を図ることができる。
【0087】
さらに、この例の製造方法では、誘電体グリーンシート4a上に蛍光体ペーストを塗布・乾燥した後、その蛍光体ペースト(蛍光層乾燥帯)及び誘電体グリーンシート4aを高温で焼成しているので、誘電体グリーンシート4aの誘電率が高くなる上に、蛍光体層13の結晶性が高くなって、素子の発光輝度が更に向上する。
【0088】
[照明装置の実施形態]
この例の照明装置は、上記した特徴を有する製造方法によって製造された分散型無機EL素子を備えていることを特徴としている。従って、この例の照明装置では、少ない電力で明るい照明を実現することができる。
【0089】
また、上記した特徴を有する製造方法によって作製された分散型無機EL素子を適用する照明装置としては、例えば、液晶ディスプレイ用バックライト、平面発光照明装置、車載用表示装置などを挙げることができる。
【実施例】
【0090】
本発明の実施例を比較例とともに説明する。
[実施例1]
−蛍光体層付基板の作製−
素子基板(透明基板)としてガラス板を用い、そのガラス基板の片面(表面)にスパッタリング法によってITOからなる透明導電膜を形成した。次に、その透明基板に形成した透明導電膜層上に蛍光体ペーストをスクリーン印刷法によってシート状に塗布し、その塗布した蛍光体ペーストを乾燥させることにより、ガラス基板上に膜厚約50μmの蛍光体層が積層されてなる蛍光体層付基板を得た。なお、蛍光体ペーストには、粒径10μmの[ZnS:Cu,Cl]粒子(蛍光体粒子)をシアノエチルセルロース(シアノレンジ)中に混合・分散したものを用いた。
<厚膜誘電体シートの作製>
−誘電体グリーンシートの調製−
高誘電率粒子:粒径0.2μmのBaTiO3微粉末51.93wt%、有機溶媒:[トルエン:エタノール(6:4)]40.10wt%、バインダ:PVB(ポリビニルブチラール)4.72wt%、可塑剤:DOP(フタル酸ジオクチル)2.36wt%、分散剤:SN9228(商品名:サンノプコ社製分散剤)0.47wt%、及び、焼結助剤:ガラスフリット(SiO2−BaO−B2O3)0.51wt%を、ボールミルにて18時間混合・分散した後、その混合物を減圧脱泡(約0.1MPa中に静置)して誘電体スラリーを調製した。
【0091】
このように調製した誘電体スラリーをガラス基板上にドクターブレード法にてシート状に成形した後、そのガラス基板上の誘電体スラリーを熱風(80℃)によって乾燥して誘電体グリーンシートを作製した。
【0092】
−剥離層付セラミック基板の作製−
BaTiO3との濡れ性が低いZrO2粒子(粒径:1μm)33.68wt%、有機溶剤:[アセトン21・86wt%+BCA(ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート)41.09wt%]、バインダ:EC(エチル繊維素)3.37wt%をボールミルにて4時間混合・分散して剥離層スラリーを調製した。
【0093】
次に、剥離層スラリーをセラミック基板(例えばAl2O3基板)上にドクターブレード法にてシート状に塗布した後、650℃にて剥離層スラリーを焼成して剥離層付セラミック基板を得た。なお、焼成プロセスでにおける昇温速度は116℃/hとした。
【0094】
−厚膜誘電体シートの作製−
上記処理にて作製した誘電体グリーンシートを、図3(4)に示すように、2枚の剥離層付セラミック基板の間に挟み込んだ状態で加熱炉内に配置し、図8に示す昇温プログラムで焼成することによって膜厚約80μmの厚膜誘電体シートを作製した後、その厚膜誘電体シートを剥離層付セラミック基板から剥離した。なお、図8の昇温プログラムにおいて、脱脂時の昇温速度は116℃/hである。
【0095】
ここで、上記処理にて作製した誘電体グリーンシートを、600℃、800℃、1000℃、1100℃の各温度で焼成したサンプル(厚膜誘電体シート)について、誘電率ε及び誘電損失を測定した。その結果を図9のグラフに示す。この図9のグラフから明らかなように、1000℃以上の焼成温度で誘電体グリーンシートを焼成することにより、高い誘電率εの厚膜誘電体シートが得られることが確認できた。また、焼成温度を1000℃以上とすることにより、誘電損失についても良好な値が得られることが確認できた。
【0096】
−分散型有機EL素子の作製−
上記した処理によって作製した厚膜誘電体シートと蛍光体層付基板とを用い、図4(1)〜(2)に示すように、蛍光体層付基板の蛍光体層上に厚膜誘電体シートに積層し、さらに、厚膜誘電体シートの表面(蛍光体層とは反対側の面)に、Agペーストを塗布・乾燥して金属電極(背面電極)を形成して、図1に示す構造の分散型無機EL素子を得た。
【0097】
以上のようにして作製した分散型無機EL素子の発光輝度について測定した。具体的には、図1に示すように、透明導電膜と金属電極との間に交流電源によって交流電圧(1kHz)を印加するとともに、その印加電圧を0〜250Vの間で変化させながら発光輝度を測定した。その結果を図10のグラフに示す。なお、図10のグラフでは、下記の[比較例1]で作製した分散型無機EL素子の印加電圧250Vにおける発光輝度を「1」とした相対輝度で表している。
【0098】
[比較例1]
上記した実施例1において、厚膜誘電体シートに替えて、蛍光体層の上に誘電体ペーストの塗布・乾燥によって誘電体層を形成したこと以外は実施形態1と同じとして図11に示す分散型無機EL素子を作製したものを比較例1とした。
【0099】
すなわち、上記実施例1を同じ処理によって蛍光体層付基板を作製、蛍光体層付基板の蛍光体層上に、誘電体ペーストをシート状に塗布し、その塗布した誘電体ペーストを乾燥させて膜厚約80μmの誘電体層を得た。その後、Agペーストを塗布・乾燥して金属電極(背面電極)を形成することにより、図11に示す構造の分散型無機EL素子(従来品)を得た。誘電体ペーストとしては、高誘電率バインダ中に粒径0.2μmのBaTiO3を混合・分散したものを用いた。
【0100】
このようにした作製した分散型無機EL素子(比較例1)の発光輝度について、上記した実施例1と同じ方法で発光輝度を測定した。その結果を図10のグラフに示す。
【0101】
この図10のグラフから明らかなように、実施例1の分散型有機EL素子つまり1000℃以上で焼成した厚膜誘電体シートを用いた分散型有機EL素子は、比較例1(従来品)に対して、発光輝度が大幅に向上することが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明は、分散型無機EL素子の製造方法に利用可能であり、分散型無機EL素子、及び、それを備えた照明装置の発光輝度を向上する技術に利用することができる。
【符号の説明】
【0103】
1 透明基板
2 透明導電膜
3 蛍光体層
4 厚膜誘電体シート
4a 誘電体グリーンシート
4b 誘電体スラリー
5 金属電極(電極層)
10 蛍光体層付基板
11 透明基板
12 透明導電膜
13 蛍光体層
15 金属電極(電極層)
101 基板
102 セラミック基板
103 剥離層
【技術分野】
【0001】
本発明は、分散型無機EL素子の製造方法に関する。また、分散型無機EL素子及びそれを備えた照明装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、軽量・薄型の面発光型素子として、EL素子(エレクトロルミネッセンス素子)が注目されている。EL素子は、高精細、高コントラスト、応答速度が速いといった特徴あることから、液晶ディスプレイ用バックライト、各種インテリア用照明装置、車載用表示装置などに応用されつつある。
【0003】
EL素子は大別すると、有機EL素子と無機ELとがある。また、無機EL素子には、例えば厚さが1μm程度の薄膜蛍光層の両側あるいは片側に絶縁層を設けた薄膜型無機EL素子と、無機蛍光体粒子を高分子有機材料からなるバインダ中に分散させた蛍光体層を用いる分散型無機EL素子(例えば、特許文献1〜3参照)とがある。これらの無機EL素子のうち、分散型無機EL素子は、スクリーン印刷法やコーティング法等の簡便な方法により面発光素子を低コストで製造できる点で優れている。
【0004】
無機EL素子の一例を図11に示す。この例の無機EL素子D10は、透明基板(透明ガラス基板等)301上(片面上)に、透明導電膜(例えばITO(酸化インジウムスズ))302、バインダ中に蛍光体粒子を分散してなる蛍光体層(発光層)303、比較的高い誘電率を持つ有機樹脂あるいはバインダ中に高誘電率粒子(例えばBaTiO3粒子)を分散してなる誘電体層(絶縁層)304、及び、電極層305が順次積層されており、透明導電膜302と電極層305との間に交流電源306によって交流電圧を印加することにより蛍光体層303が発光する。なお、誘電体層304は素子の絶縁破壊を防ぐために設けられている。
【0005】
このような構造の無機EL素子D10の製造プロセスの一例について以下に説明する。
【0006】
(i)透明基板(素子基板)301の表面(片面)に透明導電膜302をスパッタリング法等によって形成する。
【0007】
(ii)透明基板301上に形成した透明導電膜層302の表面に蛍光体ペーストをシート状に塗布し、その塗布した蛍光体ペーストを乾燥させて蛍光体層303(例えば、膜厚20〜100μm)を形成する。蛍光体ペーストとしては、蛍光体粒子(例えば粒径が5〜20μmの[ZnS:Cu,Cl]粒子)を高誘電率バインダ中に分散したものが用いられている。
【0008】
(iii)上記蛍光体層303上に誘電体ペーストをシート状に塗布し、その塗布した誘電体ペーストを乾燥させて誘電体層304を得る。誘電体ペーストとしては、高誘電率バインダ中に高誘電率粒子(例えばBaTiO3粒子)を混合・分散したものが用いられている。
【0009】
(iv)上記誘電体層304の表面上に導電性ペースト(例えば、Ag(銀)ペースト)を塗布・乾燥して電極層305を形成することによって、図11に示す構造の分散型無機EL素子D10を得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2006−233147号公報
【特許文献2】特開2008−251313号公報
【特許文献3】特開2009−152073号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、誘電体層に分散する高誘電率粒子は誘電率εが非常に高い(BaTiO3粒子では誘電率εが1000以上)が、バインダ中に分散した状態では、高誘電率粒子(BaTiO3粒子)同士の間に余分なバインダ成分が存在しているため、高誘電率粒子同士の接触面積が低下し、誘電体層としての誘電率が粒子のみの場合に比べて低くなるので静電容量が低下する。図11に示すような構造の分散型無機EL素子において、誘電体層の静電容量が低下すると、蛍光体層にかかる電圧が低下してしまい、素子の発光輝度が低下する。この点について、図12を参照して説明する。
【0012】
図12の等価回路において、素子全体にかかる電圧をVa、誘電体層にかかる電圧をVI、誘電体層の静電容量をCI、蛍光体層の静電容量をCPとすると、蛍光体層にかかる電圧VPは
VP=CI/(CI+CP)*Va・・・(1)
となる。ここで、誘電体層の静電容量CIは[CI=εISI/dI εI:誘電体層の誘電率、SI:誘電体層の面積、dI:誘電体層の膜厚]であり、蛍光体層の静電容量CPは[CP=εPSP/dP εP:蛍光体層の誘電率、SP:蛍光体層の面積、dP:蛍光体層の膜厚]である。
【0013】
このような(1)式から明らかなように、分散型無機EL素子において誘電体層の静電容量CIが低いと、蛍光体層にかかる電圧VPが低くなってしまい、素子の発光輝度が低下する。
【0014】
分散型無機EL素子の発光輝度を高くするには、誘電体層の静電容量つまり誘電率を高くすればよいが、素子基板の耐熱性が課題となる。すなわち、高誘電率粒子の密度が高くて、誘電率が非常に高い誘電体層を得るには、バインダ中に高誘電率粒子を分散させた誘電体ペースト(誘電体スラリー)を高温(バインダ成分(樹脂成分・溶媒)を除去し、誘電体粉末の粒子成長が生じる程度の高温)で焼成する必要があるが、このような高温の焼成を行うには、耐熱性の高い素子基板を用いる必要があって、製造コストが高くなる。
【0015】
本発明はそのような実情を考慮してなされたもので、耐熱性の高い素子基板を用いることなく誘電体層の高温焼成が可能であり、もって、製造コストを低く抑えながら発光輝度の向上を図ることのできる分散型無機EL素子の製造方法を提供することを目的とする。さらに、そのような特徴を有する製造方法にて作製された分散型無機EL素子、及び、それを備えた照明装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の製造方法は、透明導電層、蛍光体層、誘電体層、及び、電極層を有し、前記透明導電層と電極層との間に前記蛍光体層及び誘電体層が配置された分散型無機EL素子の製造方法であって、バインダ中に高誘電率粒子を分散させた誘電体スラリーを作製する工程と、前記誘電体スラリーをシート化してグリーンシートを作製する工程と、前記高誘電率粒子に対する濡れ性が低い材料製の剥離層が表面に形成されたセラミック基板を用い、そのセラミック基板の剥離層上に前記グリーンシートを配置した状態で当該グリーンシートを焼成することによって、前記誘電体層として用いる厚膜誘電体シートを作製する工程と、前記厚膜誘電体シートを前記セラミック基板から剥離し、その剥離した厚膜誘電体シートを用いて当該分散型無機EL素子を作製する工程とを含むことを技術的特徴としている。
【0017】
この発明の製造方法によれば、誘電体スラリーをシート化したグリーンシートをセラミック基板の剥離層上に配置した状態で、当該グリーンシートを焼成することによって厚膜誘電体シートを作製しているので、誘電体層(厚膜誘電体シート)の焼成を個別に行うことができる。これにより誘電体層として用いる厚膜誘電体シートを、素子基板の耐熱温度よりも高い温度で焼成することが可能になる。これによって誘電体層(厚膜誘電体シート)の誘電率を高くすることができ、発光輝度が高い分散型無機EL素子を得ることができる。例えば、厚膜誘電体シートを1000℃以上の高温で焼成すると、高誘電率粒子(BaTiO3)が粒子成長して密度が非常に高くなるので、シートが割れにくくなるとともに、誘電体層(厚膜誘電体シート)の誘電率が更に高くなって、性能に優れた分散型無機EL素子を得ることができる。
【0018】
しかも、誘電体層(厚膜誘電体シート)の焼成を個別に行っているので、素子基板として耐熱性が低くて安価な基板(例えば青板ガラス・プラスチック基板)を用いることが可能となり、これにより製造コストの低減化を図ることができる。
【0019】
この発明の製造方法において、厚膜誘電体シートを用いて、分散型無機EL素子を製造する場合の具体的な例として以下のものを挙げることができる。
【0020】
まず、厚膜誘電体シートとは別工程において、透明導電層が表面に形成された透明基板の表面上に蛍光体層を形成して蛍光体層付基板を作製しておき、その蛍光体層付基板上に上記厚膜誘電体シートを積層する。そして、その厚膜誘電体シート上に電極層を形成することによって、誘電体層付の透明基板上に、蛍光体層、厚膜誘電体シート及び電極層が順次積層されてなる分散型無機EL素子を得るという方法を挙げることができる。
【0021】
また、他の具体的な例として、前記厚膜誘電体シートを基板として、当該厚膜誘電体シート上に、バインダ中に蛍光体を分散させた蛍光体ペーストをシート状に塗布して前記蛍光体層を形成し、さらに、その蛍光体層上に、透明導電層が表面に形成された透明基板を積層する。そして、前記厚膜誘電体シートの前記蛍光体層とは反対側の面に電極層を形成することによって分散型無機EL素子を得るという方法を挙げることができる。
【0022】
この例において、厚膜誘電体シート上に蛍光体ペーストを塗布・乾燥した後に、その蛍光体ペースト(乾燥体)を高温で焼成するようにしてもよい。こうした処理を行うと、蛍光体層の結晶性が高くなって発光輝度が更に向上する。
【0023】
また、他の解決手段として、透明導電層、蛍光体層、誘電体層、及び、電極層を有し、前記透明導電層と電極層との間に前記蛍光体層及び誘電体層が配置された分散型無機EL素子の製造方法であって、バインダ中に高誘電率粒子を分散させた誘電体スラリーを作製する工程と、前記誘電体スラリーをシート化してグリーンシートを作製する工程と、前記グリーンシート上に、バインダ中に蛍光体を分散させた蛍光体ペーストをシート状に塗布するとともに、前記高誘電率粒子に対する濡れ性が低い材料製の剥離層が表面に形成されたセラミック基板を用い、そのセラミック基板の剥離層上に前記グリーンシート及び蛍光体ペーストを配置した状態で、これらグリーンシート及び蛍光体ペーストを焼成することによって、前記誘電体層として用いる厚膜誘電体シート及び前記蛍光体層を作製する工程と、前記焼成後の厚膜誘電体シート及び蛍光体層を前記セラミック基板から剥離し、その剥離した厚膜誘電体シート及び蛍光体層を用いて当該分散型無機EL素子を作製する工程とを含むことを特徴とする製造方法を挙げることができる。
【0024】
この発明の製造方法においても、誘電体層として用いる厚膜誘電体シートを、素子基板の耐熱温度よりも高い温度(例えば、1000℃以上の高温)で焼成することが可能になるので、誘電体層(厚膜誘電体シート)の誘電率を高くすることができる。これによって発光輝度が高い分散型無機EL素子を得ることができる。しかも、誘電体層(厚膜誘電体シート)の焼成を個別に行うので、素子基板として耐熱性が低くて安価な基板(例えば青板ガラス・プラスチック基板)を用いることが可能となり、これにより製造コストの低減化を図ることができる。
【0025】
さらに、この発明の製造方法では、蛍光体ペースト及び誘電体グリーンシートを高温で焼成しているので、厚膜誘電体シート(誘電体層)の誘電率が高くなる上に、蛍光体層の結晶性が高くなる。これによって分散型無機EL素子の発光輝度が更に向上する。
【0026】
この発明の製造方法において、蛍光体層及び厚膜誘電体シートの焼結体を用いて、分散型無機EL素子を製造する場合の具体的な例として、厚膜誘電体シートと同時に焼成した蛍光体層上に、透明導電層が表面に形成された透明基板を積層し、さらに、前記厚膜誘電体シートの前記蛍光体層とは反対側の面に電極層を形成することによって分散型無機EL素子を得るという構成を挙げることができる。
【0027】
ここで、本発明の製造方法において、「高誘電率粒子に対する濡れ性が低い材料製の剥離層」とは、高誘電率粒子を分散した誘電体グリーンシートを焼成した後の厚膜誘電体シートとの結合力が弱くて、厚膜誘電体シートを容易に剥離することが可能な材料製の剥離層のことである。
【0028】
具体的には、例えば高誘電率粒子がBaTiO3である場合、剥離層の材料として、KNbO3、PbNbO3、Ta2O5、LiTaO3、Y2O3、SiO2、ZrO2を挙げることができる。これらのうち、特に好ましいのは、ZrO2である。
【0029】
次に、本発明の分散型無機EL素子及び照明装置について説明する。
【0030】
まず、本発明の分散型無機EL素子は、上記した特徴を有する製造方法によって作製されているので、誘電体層(厚膜誘電体シート)の誘電率を高めることができ、発光輝度が従来品に比べて向上する。
【0031】
本発明の照明装置は、上記した特徴を有する製造方法によって作製された分散型無機EL素子を備えているので、少ない電力で明るい照明を実現することができる。本発明の照明装置の具体的な例として、液晶ディスプレイ用バックライト、平面発光照明装置、車載用表示装置などを挙げることができる。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、耐熱性の高い素子基板を用いることなく誘電体層(厚膜誘電体シート)の高温焼成が可能になるので、製造コストを低く抑えながら、分散型無機EL素子の発光輝度の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の分散型無機EL素子の一例の断面構造を模式的に示す図である。
【図2】図1の分散型無機EL素子の製造方法の一例を模式的に示す図である。
【図3】図1の分散型無機EL素子の製造方法の一例を模式的に示す図である。
【図4】図1の分散型無機EL素子の製造方法の一例を模式的に示す図である。
【図5】本発明の分散型無機EL素子の他の例の断面構造を模式的に示す図である。
【図6】図5の分散型無機EL素子の製造方法の一例を模式的に示す図である。
【図7】図5の分散型無機EL素子の製造方法の他の例を模式的に示す図である。
【図8】厚膜誘電体シートを焼成する際の昇温プログラムの一例を示す図である。
【図9】厚膜誘電体シートの焼成温度と誘電率・誘電損失との関係を示すグラフである。
【図10】本発明の[実施例1]の発光輝度及び[比較例1]の発光輝度を測定した結果を示すグラフである。
【図11】従来の分散型無機EL素子の一例の断面構造を模式的に示す図である。
【図12】図11の分散型無機EL素子の等価回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0035】
[実施形態1]
図1は本発明の分散型無機EL素子の一例の断面構造を模式的に示す図である。
【0036】
この例の分散型無機EL素子D1は、片面に透明導電膜2が形成された透明基板(素子基板)1上に、蛍光体層3、厚膜誘電体シート4、及び、金属電極(電極層)5が順次積層された構造となっており、蛍光体層3と金属電極5との間の絶縁層、つまり、素子の絶縁破壊を防止するための誘電体層を厚膜誘電体シート4(詳細については後述する)によって構成している点に特徴がある。
【0037】
そして、このような構造の分散型無機EL素子D1において、透明導電膜2と金属電極5との間に交流電源6によって交流電圧を印加することにより蛍光体層3が発光する。
【0038】
次に、図1の分散型無機EL素子D1の製造方法について説明する。
【0039】
この例では、蛍光体層3と厚膜誘電体シート4とを別の工程で作製し、その蛍光体層3と厚膜誘電体シート4とを組み合わせて分散型無機EL素子D1を作製する。
【0040】
<蛍光体層の作製>
まず、蛍光体層の作製方法について図2を参照して説明する。
【0041】
<ST11>
図2(1)に示すように、透明基板1の表面(片面)にスパッタリング法等によって透明導電膜2を形成する。この例に用いる透明基板1としては、透明なガラス基板または透明なフィルムなどを挙げることができる。また、透明導電膜2の導電材料としては、スズ添加酸化インジウム(ITO:Tin doped Indium Oxide)、亜鉛添加酸化インジウム(IZO:Indium Zinc Oxide)、アルミニウム添加酸化亜鉛(AZO:Al doped Zinc Oxide)などを挙げることができる。
【0042】
<ST12>
高誘電率バインダ中に蛍光体粒子を分散した蛍光体ペーストを用い、上記透明基板1に形成した透明導電膜2上に蛍光体ペーストをドクターブレード法やスクリーン印刷法などによってシート状に塗布し、その塗布した蛍光体ペーストを乾燥させて蛍光体層3を得る(図2(2))。このようにして透明基板1上に透明導電膜2及び蛍光体層3を積層したものを蛍光体層付基板10という。
【0043】
この例において、蛍光体ペーストに用いる蛍光体粒子としては、[ZnS:Ag,Cl]、[ZnS:Cu,Al]、[ZnS:Cu,Au,Al]などの硫化亜鉛化合物の粒子を挙げることができる。
【0044】
また、高誘電率バインダとしては、例えば、シアノレジン(シアノエチルセルロースの商品名:信越化学工業社製CR−V)、ELバインダ(商品名:埼玉薬品製)などを挙げることができる。また、誘電率の高いポリマー(例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン)系樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フッ化ビニリデンなどを挙げることができる。
【0045】
<厚膜誘電体シート作製・素子の作製>
次に、厚膜誘電体シート4の作製方法について図3を参照して説明する。
【0046】
<ST21>
誘電体スラリーを調製する。具体的には、高誘電率粒子(例えばBaTiO3)、有機溶媒(例えばトルエン:エタノール(6:4))、バインダ(例えば、PVB(ポリビニルブチラール))、可塑剤(例えばDOP(フタル酸ジオクチル))、焼結助剤(例えばガラスフリット)、及び、分散剤(例えばSN9228(商品名:サンノプコ社製分散剤))を混合・分散して誘電体スラリーを調製する。
【0047】
ここで、誘電体スラリー(厚膜誘電体シート)の作製に用いる高誘電率粒子としては、誘電率及び絶縁性が高くて、かつ高い誘電破壊電圧を有する金属酸化物または窒化物、具体的には、例えば、TiO2、BaTiO3、SrTiO3、PbTiO3、KNbO3、PbNbO3、Ta2O5、BaTa2O6、LiTaO3、Y2O3、Al2O3、ZrO2、SiO2、AlON、Si3N4、ZnSなどを挙げることができる。これらのうち、特に好ましいのは、BaTiO3である。
【0048】
また、誘電体スラリーの調製において、バインダは、高誘電率粒子の重量(100wt%)に対して9.09wt%以上添加する必要がある。バインダの添加量が9.09wt%未満であると、粘度等が良質な誘電体スラリーを得ることができない。誘電体スラリーの適切な粘度は650〜2000mPa・sである。
【0049】
可塑剤は、高誘電率粒子の重量(100wt%)に対して1.18wt%以上添加する必要がある。可塑剤の添加量が1.18wt%未満であると、しなやかな誘電体グリーンシートを得ることができない。また、可塑剤の添加量が少なすぎると、誘電体グリーンシートの割れが発生しやすくなる。
【0050】
なお、ガラスフリットは必ずしも添加する必要はないが、ガラスフリットを添加すると誘電体グリーンシートの強度・密度が上昇する。ただし、ガラスフリットを添加すると、焼成後の厚膜誘電体シートの誘電率が低下する。
【0051】
<ST22>
図3(1)に示すように、上記工程(ST21)で調製した誘電体スラリー4bを、表面が平坦な基板101にドクターブレード法等によってシート状に成形した後に、誘電体スラリー4bを乾燥することにより誘電体グリーンシート4aを作製する。その後、誘電体グリーンシート4aを基板101から剥離する(図3(2))。
【0052】
なお、誘電体グリーンシート4aを作製する際に用いる基板101については、表面が平坦なものであれば任意の基板を用いることができる。また、基板101は耐熱性が低いものであっても問題はない。この例では、例えばガラス基板を用いる。
【0053】
<ST23>
図3(3)に示すように、剥離層103が片面に形成されたセラミック基板102を2枚用意し、これら2枚のセラミック基板102,102の間(剥離層103,103の間)に誘電体グリーンシート4aを挟み込む(図3(4))。
【0054】
剥離層103は、高誘電率粒子との濡れ性が良くない材料粒子をバインダ中に分散した剥離層スラリーを用い、その剥離層スラリーをセラミック基板102の表面上にドクターブレード法等によってシート状に成形した後に、剥離層スラリーを焼成することによって形成する。
【0055】
剥離層103に用いる材料としては、上記した高誘電率粒子と濡れ性の良くない金属酸化物、具体的には、上記高誘電率粒子がBaTiO3である場合、KNbO3、PbNbO3、Ta2O5、LiTaO3、Y2O3、SiO2、ZrO2を挙げることができる。これらのうち、特に好ましいのは、ZrO2である。
【0056】
<ST24>
図3(4)に示すように、2枚の剥離層付のセラミック基板102,102間に誘電体グリーンシート4aに挟み込んだ状態で、誘電体グリーンシート4aを1000℃以上の高温で焼成して厚膜誘電体シート4を得る。なお、図3の例では、2枚の剥離層付のセラミック基板102を用いているが、1枚の剥離層付のセラミック基板102の剥離層103上に誘電体グリーンシート4aを配置した状態で高温焼成を行うようにしてもよい。
【0057】
<ST25>
図3(5)に示すように、剥離層付のセラミック基板102を剥離して厚膜誘電体シート4を取り出す。そして、このようにして作製した厚膜誘電体シート4を用いて分散型無機EL素子D1を作製する。
【0058】
具体的には、この工程(ST21〜ST25:図3(1)〜(5))に示す方法で作製した厚膜誘電体シート4と、上記した工程(ST11〜ST12:図2(1)〜(2))に示す方法で作成した蛍光体層付基板10とを用い、図4(1)に示すように、蛍光体層付基板10の蛍光体層3上に厚膜誘電体シート4を積層する。次に、図4(2)に示すように、厚膜誘電体シート4の表面(蛍光体層3とは反対側の面)に、導電性ペーストを塗布・乾燥して金属電極5を形成することによって、図1に示す構造の分散型無機EL素子D1を得ることができる。
【0059】
なお、導電性ペーストとしては、Ag(銀)ペーストや、ドータイト(登録商標:藤倉化成株式会社製の銀ペースト(銀の粉体を含有する導体ペースト))を用いる。
【0060】
ここで、蛍光体層付基板10の蛍光体層3上に厚膜誘電体シート4を積層する際に、厚膜誘電体シート4を蛍光体層3に接着しなくてもよい。つまり、素子作製完了後に素子全体がフィルム等によってラミネートされ、そのラミネートの際に厚膜誘電体シート4が蛍光体層3に圧着されるので、積層時に蛍光体層3と厚膜誘電体シート4とを接着しなくてもよい。
【0061】
なお、上記した工程(ST12)において、上記透明基板1上に積層した蛍光体層3(蛍光体ペースト)が未乾燥状態のときに、その蛍光体層3上に厚膜誘電体シート4を積層することにより、蛍光体層(蛍光体ペースト)3が乾燥したときに当該蛍光体ペーストのバインダ(例えば、シアノエチルセルロース)が接着剤として機能して、厚膜誘電体シート4が蛍光体層3に接着されるようにしてもよい。
【0062】
以上のように、この例の製造方法によれば、誘電体スラリーをシート化した誘電体グリーンシート4aをセラミック基板102上に配置した状態で、当該グリーンシート4aを焼成することによって厚膜誘電体シート4を作製した後、その厚膜誘電体シート4をセラミック基板102から剥離して、透明導電膜2付の透明基板(素子基板)1に形成した蛍光体層3上に積層しているので、厚膜誘電体シート4の焼成を個別に行うことができる。これにより誘電体層として用いる厚膜誘電体シート4を、素子基板(透明基板1)の耐熱温度よりも高い温度で焼成することが可能になる。これによって誘電体層(厚膜誘電体シート4)の誘電率を高くすることができ、発光輝度が高い分散型無機EL素子D1を得ることができる。ここで、厚膜誘電体シート4を1000℃以上の高温で焼成すると、BaTiO3が粒子成長して密度が非常に高くなるので、シートが割れにくくなるとともに、誘電体層(厚膜誘電体シート4)の誘電率が更に高くなって、性能に優れた分散型無機EL素子D1を得ることができる。
【0063】
しかも、誘電体層(厚膜誘電体シート4)の焼成を個別に行うので、素子基板選択の制限が少なくなり、素子基板として耐熱性が低くて安価な基板(例えば青板ガラス・プラスチック基板)を用いることが可能になる。これにより製造コストの低減化を図ることができる。
【0064】
[実施形態2]
図5は本発明の分散型無機EL素子の他の例の断面構造を模式的に示す図である。
【0065】
この例の分散型無機EL素子D2は、厚膜誘電体シート4を基板として、その厚膜誘電体シート4の一面41上に、蛍光体層13、透明導電膜12付の透明基板11が積層されており、厚膜誘電体シート4の他の面42(蛍光体層13とは反対側の面)に金属電極(背面電極)15が形成されている点を特徴としている。
【0066】
この例の分散型無機EL素子D2の製造方法について図6を参照して説明する。
【0067】
<ST31>
上記した[実施形態1]の工程(ST21〜ST25:図3(1)〜(5))と同様な方法で厚膜誘電体シート4を作製した後、厚膜誘電体シート4の一面41上に蛍光体層13を形成する(図6(1))。
【0068】
具体的には、高誘電率バインダ中に蛍光体粒子を分散した蛍光体ペーストを用い、厚膜誘電体シート4の一面41上に蛍光体ペーストをドクターブレード法やスクリーン印刷法などによってシート状に塗布・乾燥した後、その蛍光体ペースト(乾燥体)を高温(例えば400℃以上)で焼成して結晶化させることによって、厚膜誘電体シート4上に蛍光体層13を形成する。なお、蛍光体ペーストには、上記した[実施形態1]の工程(ST12)と同様なものを用いる。
【0069】
<ST32>
図6(2)に示すように、厚膜誘電体シート4の他の面(蛍光体層13とは反対側の面)42に、導電性ペーストを塗布・乾燥して金属電極(背面電極)15を形成する。導電性ペーストとしては、Ag(銀)ペーストや、ドータイト(登録商標)を用いる。
【0070】
なお、この工程(ST32)つまり厚膜誘電体シート4の他の面42に金属電極15を形成する工程は、上記した工程(ST31)よりも前に行っておいてもよい。
【0071】
<ST33>
図6(3)に示すように、透明導電膜12付の透明基板11([実施形態1]の工程(ST11)と同じ方法で作製)を、厚膜誘電体シート4(蛍光体層13)上に、その透明導電膜12が蛍光体層13に接触するように積層することによって、図5に示す構造の分散型無機EL素子D2を製造することができる。
【0072】
なお、透明導電膜12付の透明基板11を積層する際に、透明導電膜12を蛍光体層13に接着しなくてもよい。つまり、素子作製完了後に素子全体がフィルム等によってラミネートされ、そのラミネートの際に透明基板11の透明導電膜12が蛍光体層13に圧着されるので、積層時に透明導電膜12と蛍光体層13とを接着しなくてもよい。
【0073】
以上のように、この例の製造方法によれば、誘電体層として用いる厚膜誘電体シート4を個別に焼成し、その厚膜誘電体シート4を基板として、当該厚膜誘電体シート4上に蛍光体層13及び透明導電膜12付の透明基板11を順次積層することによって分散型無機EL素子D2を作製しているので、誘電体層として用いる厚膜誘電体シート4を、素子基板(透明基板11)の耐熱温度よりも高い温度で焼成することが可能になる。これによって誘電体層(厚膜誘電体シート)の誘電率を高くすることができ、発光輝度が高い分散型無機EL素子D2を得ることができる。ここで、厚膜誘電体シート4を1000℃以上の高温で焼成すると、BaTiO3が粒子成長して密度が非常に高くなるので、シートが割れにくくなるとともに、誘電体層(厚膜誘電体シート4)の誘電率が更に高くなって、性能に優れた分散型無機EL素子D2を得ることができる。
【0074】
しかも、誘電体層(厚膜誘電体シート4)の焼成を個別に行うので、素子基板選択の制限が少なくなり、素子基板として耐熱性が低くて安価な基板(例えば青板ガラス・プラスチック基板)を用いることが可能になる。これにより製造コストの低減化を図ることができる。
【0075】
さらに、この例の製造方法では、厚膜誘電体シート4上に蛍光体ペーストを塗布・乾燥した後、その蛍光体ペーストを高温で焼成しているので、蛍光体層13の結晶性が高くなって、素子の発光輝度が更に向上する。
【0076】
なお、この例において、厚膜誘電体シート4上に蛍光体ペーストを塗布・乾燥するという処理のみで蛍光体層13を形成してもよい。
【0077】
[実施形態3]
上記した図6の製造方法では、厚膜誘電体シート4上に蛍光体ペーストを塗布・乾燥後に焼成することにより、蛍光体層13を形成しているが、誘電体グリーンシート4aの焼成時に同時に蛍光体ペースト(乾燥体)を焼成するようにしてもよい。その一例を図7を参照して説明する。
【0078】
<ST41>
上記[実施形態1]の工程(ST21:図3(1)〜(2))と同じ方法で基板101上に誘電体グリーンシート4aを成形する。ただし、誘電体グリーンシート4aは、基板101から剥離しないで基板101上に残したままの状態としておく。
【0079】
次に、図7(1)に示すように、誘電体グリーンシート4a上に蛍光体ペースト13bをドクターブレード法やスクリーン印刷法などによってシート状に塗布した後に乾燥することにより蛍光層乾燥体13aを作製する。その後に、誘電体グリーンシート4a及び蛍光層乾燥体13bを基板101から剥離しておく。なお、蛍光体ペーストには、上記した[実施形態1]の工程(ST12)と同様なものを用いる。
【0080】
<ST42>
図7(2)に示すように、剥離層103が片面に形成されたセラミック基板102を2枚用意し、これら2枚のセラミック基板102,102の間(剥離層103,103の間)に、蛍光層乾燥体13a及び誘電体グリーンシート4aを挟み込む。
【0081】
なお、剥離層103は、高誘電率粒子(例えばBaTiO3粒子)及び蛍光体粒子(例えば[ZnS:Cu,Cl])との濡れ性が良くない材料粒子(例えばZrO2)をバインダ中に分散した剥離層スラリーを用い、セラミック基板102の表面上に剥離層スラリーをドクターブレード法等によってシート状に成形した後に、その剥離層シートを焼結することによって形成する。
【0082】
<ST43>
2枚の剥離層付のセラミック基板102,102間に乾燥体13a及び誘電体グリーンシート4aに挟み込んだ状態で(図7(2))、乾燥体13a及び誘電体グリーンシート4aを1000℃以上の高温で焼結する。この焼成により蛍光体層13と厚膜誘電体シート4(図7(3))とを作製することができる。
【0083】
ここで、この例のように、誘電体グリーンシート4aと蛍光体ペースト(乾燥体)とを同時焼成する場合は、蛍光体の酸化を防ぐために、不活性ガス(N2、Ar等)雰囲気中で焼成する必要がある。
【0084】
<ST44>
図7(3)に示すように、剥離層付のセラミック基板102を剥離して蛍光体層13と厚膜誘電体シート4とを取り出す。そして、このようにして作製した蛍光体層13及び厚膜誘電体シート4の焼結体を用いて分散型無機EL素子D2を作製する。
【0085】
具体的には、上記した[実施形態2]の工程(ST32〜ST33:図6(2)〜(3))と同様な方法により、図5に示す厚膜誘電体シート4の他の面(蛍光体層13とは反対側の面)42に、導電性ペーストを塗布・乾燥して金属電極15を形成する。次に、透明導電膜12付の透明基板11([実施形態1]の工程(ST11)と同じ方法で作製)を、厚膜誘電体シート4(蛍光体層13)上に、その透明導電膜12が蛍光体層13に接触するように積層することによって、図5に示す構造の分散型無機ELD2を作製する。
【0086】
この例の製造方法においても、誘電体層として用いる厚膜誘電体シート4を、素子基板(透明基板11)よりも高い温度(例えば、1000℃以上)で焼成することが可能になるので、誘電体層(厚膜誘電体シート4)の誘電率を高くすることができる。これによって分散型無機EL素子D2の発光輝度が向上する。しかも、誘電体層(厚膜誘電体シート4)の焼成を個別に行うので、素子基板選択の制限が少なくなり、素子基板として耐熱性が低くて安価な基板(例えば、ガラス基板)を用いることが可能になる。これにより製造コストの低減化を図ることができる。
【0087】
さらに、この例の製造方法では、誘電体グリーンシート4a上に蛍光体ペーストを塗布・乾燥した後、その蛍光体ペースト(蛍光層乾燥帯)及び誘電体グリーンシート4aを高温で焼成しているので、誘電体グリーンシート4aの誘電率が高くなる上に、蛍光体層13の結晶性が高くなって、素子の発光輝度が更に向上する。
【0088】
[照明装置の実施形態]
この例の照明装置は、上記した特徴を有する製造方法によって製造された分散型無機EL素子を備えていることを特徴としている。従って、この例の照明装置では、少ない電力で明るい照明を実現することができる。
【0089】
また、上記した特徴を有する製造方法によって作製された分散型無機EL素子を適用する照明装置としては、例えば、液晶ディスプレイ用バックライト、平面発光照明装置、車載用表示装置などを挙げることができる。
【実施例】
【0090】
本発明の実施例を比較例とともに説明する。
[実施例1]
−蛍光体層付基板の作製−
素子基板(透明基板)としてガラス板を用い、そのガラス基板の片面(表面)にスパッタリング法によってITOからなる透明導電膜を形成した。次に、その透明基板に形成した透明導電膜層上に蛍光体ペーストをスクリーン印刷法によってシート状に塗布し、その塗布した蛍光体ペーストを乾燥させることにより、ガラス基板上に膜厚約50μmの蛍光体層が積層されてなる蛍光体層付基板を得た。なお、蛍光体ペーストには、粒径10μmの[ZnS:Cu,Cl]粒子(蛍光体粒子)をシアノエチルセルロース(シアノレンジ)中に混合・分散したものを用いた。
<厚膜誘電体シートの作製>
−誘電体グリーンシートの調製−
高誘電率粒子:粒径0.2μmのBaTiO3微粉末51.93wt%、有機溶媒:[トルエン:エタノール(6:4)]40.10wt%、バインダ:PVB(ポリビニルブチラール)4.72wt%、可塑剤:DOP(フタル酸ジオクチル)2.36wt%、分散剤:SN9228(商品名:サンノプコ社製分散剤)0.47wt%、及び、焼結助剤:ガラスフリット(SiO2−BaO−B2O3)0.51wt%を、ボールミルにて18時間混合・分散した後、その混合物を減圧脱泡(約0.1MPa中に静置)して誘電体スラリーを調製した。
【0091】
このように調製した誘電体スラリーをガラス基板上にドクターブレード法にてシート状に成形した後、そのガラス基板上の誘電体スラリーを熱風(80℃)によって乾燥して誘電体グリーンシートを作製した。
【0092】
−剥離層付セラミック基板の作製−
BaTiO3との濡れ性が低いZrO2粒子(粒径:1μm)33.68wt%、有機溶剤:[アセトン21・86wt%+BCA(ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート)41.09wt%]、バインダ:EC(エチル繊維素)3.37wt%をボールミルにて4時間混合・分散して剥離層スラリーを調製した。
【0093】
次に、剥離層スラリーをセラミック基板(例えばAl2O3基板)上にドクターブレード法にてシート状に塗布した後、650℃にて剥離層スラリーを焼成して剥離層付セラミック基板を得た。なお、焼成プロセスでにおける昇温速度は116℃/hとした。
【0094】
−厚膜誘電体シートの作製−
上記処理にて作製した誘電体グリーンシートを、図3(4)に示すように、2枚の剥離層付セラミック基板の間に挟み込んだ状態で加熱炉内に配置し、図8に示す昇温プログラムで焼成することによって膜厚約80μmの厚膜誘電体シートを作製した後、その厚膜誘電体シートを剥離層付セラミック基板から剥離した。なお、図8の昇温プログラムにおいて、脱脂時の昇温速度は116℃/hである。
【0095】
ここで、上記処理にて作製した誘電体グリーンシートを、600℃、800℃、1000℃、1100℃の各温度で焼成したサンプル(厚膜誘電体シート)について、誘電率ε及び誘電損失を測定した。その結果を図9のグラフに示す。この図9のグラフから明らかなように、1000℃以上の焼成温度で誘電体グリーンシートを焼成することにより、高い誘電率εの厚膜誘電体シートが得られることが確認できた。また、焼成温度を1000℃以上とすることにより、誘電損失についても良好な値が得られることが確認できた。
【0096】
−分散型有機EL素子の作製−
上記した処理によって作製した厚膜誘電体シートと蛍光体層付基板とを用い、図4(1)〜(2)に示すように、蛍光体層付基板の蛍光体層上に厚膜誘電体シートに積層し、さらに、厚膜誘電体シートの表面(蛍光体層とは反対側の面)に、Agペーストを塗布・乾燥して金属電極(背面電極)を形成して、図1に示す構造の分散型無機EL素子を得た。
【0097】
以上のようにして作製した分散型無機EL素子の発光輝度について測定した。具体的には、図1に示すように、透明導電膜と金属電極との間に交流電源によって交流電圧(1kHz)を印加するとともに、その印加電圧を0〜250Vの間で変化させながら発光輝度を測定した。その結果を図10のグラフに示す。なお、図10のグラフでは、下記の[比較例1]で作製した分散型無機EL素子の印加電圧250Vにおける発光輝度を「1」とした相対輝度で表している。
【0098】
[比較例1]
上記した実施例1において、厚膜誘電体シートに替えて、蛍光体層の上に誘電体ペーストの塗布・乾燥によって誘電体層を形成したこと以外は実施形態1と同じとして図11に示す分散型無機EL素子を作製したものを比較例1とした。
【0099】
すなわち、上記実施例1を同じ処理によって蛍光体層付基板を作製、蛍光体層付基板の蛍光体層上に、誘電体ペーストをシート状に塗布し、その塗布した誘電体ペーストを乾燥させて膜厚約80μmの誘電体層を得た。その後、Agペーストを塗布・乾燥して金属電極(背面電極)を形成することにより、図11に示す構造の分散型無機EL素子(従来品)を得た。誘電体ペーストとしては、高誘電率バインダ中に粒径0.2μmのBaTiO3を混合・分散したものを用いた。
【0100】
このようにした作製した分散型無機EL素子(比較例1)の発光輝度について、上記した実施例1と同じ方法で発光輝度を測定した。その結果を図10のグラフに示す。
【0101】
この図10のグラフから明らかなように、実施例1の分散型有機EL素子つまり1000℃以上で焼成した厚膜誘電体シートを用いた分散型有機EL素子は、比較例1(従来品)に対して、発光輝度が大幅に向上することが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明は、分散型無機EL素子の製造方法に利用可能であり、分散型無機EL素子、及び、それを備えた照明装置の発光輝度を向上する技術に利用することができる。
【符号の説明】
【0103】
1 透明基板
2 透明導電膜
3 蛍光体層
4 厚膜誘電体シート
4a 誘電体グリーンシート
4b 誘電体スラリー
5 金属電極(電極層)
10 蛍光体層付基板
11 透明基板
12 透明導電膜
13 蛍光体層
15 金属電極(電極層)
101 基板
102 セラミック基板
103 剥離層
【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明導電層、蛍光体層、誘電体層、及び、電極層を有し、前記透明導電層と電極層との間に前記蛍光体層及び誘電体層が配置された分散型無機EL素子の製造方法であって、
バインダ中に高誘電率粒子を分散させた誘電体スラリーを作製する工程と、
前記誘電体スラリーをシート化してグリーンシートを作製する工程と、
前記高誘電率粒子に対する濡れ性が低い材料製の剥離層が表面に形成されたセラミック基板を用い、そのセラミック基板の剥離層上に前記グリーンシートを配置した状態で当該グリーンシートを焼成することによって、前記誘電体層として用いる厚膜誘電体シートを作製する工程と、
前記厚膜誘電体シートを前記セラミック基板から剥離し、その剥離した厚膜誘電体シートを用いて当該分散型無機EL素子を作製する工程と、
を含むことを特徴とする分散型無機EL素子の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の分散型無機EL素子の製造方法において、
透明導電層が表面に形成された透明基板の表面上に蛍光体層を形成する工程と、前記透明基板上の蛍光体層上に前記厚膜誘電体シートを積層する工程と、前記厚膜誘電体シート上に電極層を形成する工程とを含むことを特徴とする分散型無機EL素子の製造方法。
【請求項3】
請求項1記載の分散型無機EL素子の製造方法において、
前記厚膜誘電体シートを基板として、当該厚膜誘電体シート上に、バインダ中に蛍光体を分散させた蛍光体ペーストをシート状に塗布して前記蛍光体層を形成する工程と、前記蛍光体層上に、透明導電層が表面に形成された透明基板を積層する工程と、前記厚膜誘電体シートの前記蛍光体層とは反対側の面に電極層を形成する工程とを含むことを特徴とする分散型無機EL素子の製造方法。
【請求項4】
透明導電層、蛍光体層、誘電体層、及び、電極層を有し、前記透明導電層と電極層との間に前記蛍光体層及び誘電体層が配置された分散型無機EL素子の製造方法であって、
バインダ中に高誘電率粒子を分散させた誘電体スラリーを作製する工程と、
前記誘電体スラリーをシート化してグリーンシートを作製する工程と、
前記グリーンシート上に、バインダ中に蛍光体を分散させた蛍光体ペーストをシート状に塗布するとともに、前記高誘電率粒子に対する濡れ性が低い材料製の剥離層が表面に形成されたセラミック基板を用い、そのセラミック基板の剥離層上に前記グリーンシート及び蛍光体ペーストを配置した状態で、これらグリーンシート及び蛍光体ペーストを焼成することによって、前記誘電体層として用いる厚膜誘電体シート及び前記蛍光体層を作製する工程と、
前記焼成後の厚膜誘電体シート及び蛍光体層を前記セラミック基板から剥離し、その剥離した厚膜誘電体シート及び蛍光体層を用いて当該分散型無機EL素子を作製する工程とを含むことを特徴とする分散型無機EL素子の製造方法。
【請求項5】
請求項4記載の分散型無機EL素子の製造方法において、
前記焼成した蛍光体層上に、透明導電層が表面に形成された透明基板を積層する工程と、前記厚膜誘電体シートの前記蛍光体層とは反対側の面に電極層を形成する工程とを含むことを特徴とする分散型無機EL素子の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1つに記載の分散型無機EL素子の製造方法によって作製されたことを特徴とする分散型無機EL素子。
【請求項7】
請求項6に記載の分散型無機EL素子を備えていることを特徴とする照明装置。
【請求項1】
透明導電層、蛍光体層、誘電体層、及び、電極層を有し、前記透明導電層と電極層との間に前記蛍光体層及び誘電体層が配置された分散型無機EL素子の製造方法であって、
バインダ中に高誘電率粒子を分散させた誘電体スラリーを作製する工程と、
前記誘電体スラリーをシート化してグリーンシートを作製する工程と、
前記高誘電率粒子に対する濡れ性が低い材料製の剥離層が表面に形成されたセラミック基板を用い、そのセラミック基板の剥離層上に前記グリーンシートを配置した状態で当該グリーンシートを焼成することによって、前記誘電体層として用いる厚膜誘電体シートを作製する工程と、
前記厚膜誘電体シートを前記セラミック基板から剥離し、その剥離した厚膜誘電体シートを用いて当該分散型無機EL素子を作製する工程と、
を含むことを特徴とする分散型無機EL素子の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の分散型無機EL素子の製造方法において、
透明導電層が表面に形成された透明基板の表面上に蛍光体層を形成する工程と、前記透明基板上の蛍光体層上に前記厚膜誘電体シートを積層する工程と、前記厚膜誘電体シート上に電極層を形成する工程とを含むことを特徴とする分散型無機EL素子の製造方法。
【請求項3】
請求項1記載の分散型無機EL素子の製造方法において、
前記厚膜誘電体シートを基板として、当該厚膜誘電体シート上に、バインダ中に蛍光体を分散させた蛍光体ペーストをシート状に塗布して前記蛍光体層を形成する工程と、前記蛍光体層上に、透明導電層が表面に形成された透明基板を積層する工程と、前記厚膜誘電体シートの前記蛍光体層とは反対側の面に電極層を形成する工程とを含むことを特徴とする分散型無機EL素子の製造方法。
【請求項4】
透明導電層、蛍光体層、誘電体層、及び、電極層を有し、前記透明導電層と電極層との間に前記蛍光体層及び誘電体層が配置された分散型無機EL素子の製造方法であって、
バインダ中に高誘電率粒子を分散させた誘電体スラリーを作製する工程と、
前記誘電体スラリーをシート化してグリーンシートを作製する工程と、
前記グリーンシート上に、バインダ中に蛍光体を分散させた蛍光体ペーストをシート状に塗布するとともに、前記高誘電率粒子に対する濡れ性が低い材料製の剥離層が表面に形成されたセラミック基板を用い、そのセラミック基板の剥離層上に前記グリーンシート及び蛍光体ペーストを配置した状態で、これらグリーンシート及び蛍光体ペーストを焼成することによって、前記誘電体層として用いる厚膜誘電体シート及び前記蛍光体層を作製する工程と、
前記焼成後の厚膜誘電体シート及び蛍光体層を前記セラミック基板から剥離し、その剥離した厚膜誘電体シート及び蛍光体層を用いて当該分散型無機EL素子を作製する工程とを含むことを特徴とする分散型無機EL素子の製造方法。
【請求項5】
請求項4記載の分散型無機EL素子の製造方法において、
前記焼成した蛍光体層上に、透明導電層が表面に形成された透明基板を積層する工程と、前記厚膜誘電体シートの前記蛍光体層とは反対側の面に電極層を形成する工程とを含むことを特徴とする分散型無機EL素子の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1つに記載の分散型無機EL素子の製造方法によって作製されたことを特徴とする分散型無機EL素子。
【請求項7】
請求項6に記載の分散型無機EL素子を備えていることを特徴とする照明装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2011−175936(P2011−175936A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−40763(P2010−40763)
【出願日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【出願人】(000195029)星和電機株式会社 (143)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【出願人】(000195029)星和電機株式会社 (143)
【Fターム(参考)】
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