説明

分析チップ用の温度制御装置

【課題】 分析チップの被温度調節部の温度を高精度かつ局所的に制御する分析チップ用の温度制御装置を提供する。
【解決手段】 温度制御装置10の温度調節部20はコイルばね23により分析チップ50に対し三次元方向に支持されつつ分析チップ50の面50aに押し付けられている。これにより、分析チップ50に反りが生じる場合、または分析チップ50の被温度調節部が均一な平面状に形成されない場合でも、温度調節部20は分析チップ50の形状に追従して所定の位置に密着する。また、温度制御装置10は分析チップ50の各被温度調節部ごとに対応する温度調節部20を備えている。そのため、各被温度調節部の温度は個別に制御される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分析チップ用の温度制御装置に関し、特に分析チップの微細な流路および反応領域ごとに温度を制御する分析チップ用の温度制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
分析チップでは、薄い板状のチップ上に微細な流路および反応領域が形成されている。この分析チップ上の流路および反応領域において、試料の分離、合成あるいは解析などが行われる。かかる分析チップは、マイクロチップといわれることもある。このような分析チップでは、流路および反応領域などの複数の被温度調節部ごとに、異なる温度で高精度かつ局所的に温度を制御する必要がある。
【0003】
上記のように分析チップの被温度調節部の温度を局所的に制御する技術として、例えば特許文献1、2または非特許文献1に開示されている技術が公知である。特許文献1では、分析チップの分析電極ごとに分析電極を加熱する加熱電極を備えている。これにより、分析チップの分析電極は個別に温度調節される。また、特許文献2では、熱伝導体で構成される複数のアイランドを個別に温度調節する温度調節器を備えている。これにより、アイランドごとに温度調節が可能となり、アイランドに接するサンプル溶液の温度が制御される。さらに、非特許文献1では、被温度調節部を有するチップの一方の面側に微小のペルチェ素子を有するヒートシンクが設置されている。これにより、チップの被温度調節部はペルチェ素子によって温度調節が行われる。
【0004】
【特許文献1】特開平11−127900号公報
【特許文献2】特開平13−235474号公報
【非特許文献1】シチズン時計株式会社のウェブサイト URL:http://www.citizen.co.jp/med/field/index.html
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示されている発明の場合、分析電極には加熱電極が設置されるのみである。そのため、分析電極を冷却することは困難である。その結果、設定温度が雰囲気温度に近いとき、精密な温度調節は困難である。また、特許文献2に開示されている発明も、特許文献1と同様にアイランドは加熱されるのみである。そのため、アイランドと接するサンプル容器の冷却は困難であり、精密な温度調節は困難である。さらに、特許文献1に開示されている発明の場合、チップと一体に分析電極および加熱電極が設置されている。そのため、チップを分析電極および加熱電極と分離して交換することは困難である。
【0006】
一方、非特許文献1に開示されている発明の場合、ペルチェ素子を用いることにより、被温度調節部は加熱だけでなく冷却も可能となる。また、チップとペルチェ素子とは分離しているため、チップのみを容易に交換することができる。しかしながら、薄い板状のチップに流路および反応領域を形成する場合、チップには反りが生じやすい。そのため、非特許文献1に開示されている発明の場合、チップの被温度調節部にペルチェ素子が密着せず、高精度かつ局所的な温度調節は困難である。また、チップの反りが微小な場合でも、複数のペルチェ素子の被温度調節部に接する面を同一の平面上に設置することは困難である。また、チップを局所的に温度制御すると、チップには反りが生じる。そのため、すべてのペルチェ素子をチップに均一に密着させることは困難である。したがって、非特許文献1に開示されている発明では、チップの高精度かつ局所的な温度制御は困難になるおそれがある。
【0007】
そこで、本発明の目的は、分析チップの被温度調節部の温度を高精度かつ局所的に制御する分析チップ用の温度制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の分析チップ用の温度制御装置によると、複数の被温度調節部を有する薄板状の分析チップを一方の面側から加熱または冷却し、前記被温度調節部の温度を制御する分析チップ用の温度制御装置であって、熱伝導体から形成され、前記分析チップの前記一方の面側から前記被温度調節部にそれぞれ接する温度調節部と、前記温度調節部に接して設置され、通電することにより前記温度調節部を加熱または冷却するペルチェ素子部と、前記分析チップとは反対側から前記温度調節部を支持し、前記温度調節部を前記分析チップに対し三次元の方向への移動を許容しつつ前記分析チップへ押し付ける弾性支持部と、を備えることを特徴とする。温度調節部を支持する弾性支持部は、分析チップに対し三次元の方向への移動を許容している。本明細書中において、分析チップの三次元の方向とは、分析チップの板厚方向をz軸とし、このz軸に垂直な分析チップの平面拡大方向をそれぞれx軸およびy軸としている。これにより、温度調節部は、チップの形状および変形にかかわらず、弾性支持部により常に分析チップの一方の面側に押し付けられる。そのため、温度調節部は分析チップの一方の面側に密着する。温度調節部は、ペルチェ素子部によって加熱または冷却される。したがって、分析チップの被温度調節部の温度を高精度かつ局所的に制御することができる。
【0009】
また、本発明の分析チップ用の温度制御装置によると、前記ペルチェ素子部の前記分析チップとは反対側に前記ペルチェ素子からの排熱を放熱するヒートシンクを備え、前記弾性支持部は、前記温度調節部、前記ペルチェ素子部および前記ヒートシンクを一体に支持している。これにより、温度調節部、ペルチェ素子およびヒートシンクは一体に弾性支持部により分析チップに押し付けられる。そのため、温度調節部は個別にペルチェ素子によって加熱または冷却されるとともに、ペルチェ素子の排熱はヒートシンクを介して放熱される。したがって、温度調節部の温度を個別に高精度に制御することができるので、分析チップの被温度調節部の温度を高精度かつ局所的に制御することができる。
【0010】
さらに、本発明の分析チップ用の温度制御装置によると、前記弾性支持部は、前記複数の被温度調節部にそれぞれ接する前記温度調節部を個別に支持している。これにより、分析チップが局所的に変形しても、各温度調節部は分析チップの変形に応じて個別に分析チップへ押し付けられる。そのため、分析チップの変形に関わらず、温度調節部は分析チップに密着する。したがって、温度調節部の温度を個別に高精度に制御することができる。
【0011】
さらにまた、本発明の分析チップ用の温度制御装置によると、前記弾性支持部は、前記複数の被温度調節部にそれぞれ接する前記温度調節部を複数まとめて支持している。これにより、弾性支持部の数が低減され、構造が簡略化される。したがって、簡単な構造で温度調節部の温度を個別に高精度に制御することができる。
【0012】
さらにまた、本発明の分析チップ用の温度制御装置によると、前記弾性支持部は、前記分析チップと重ねて設置可能な板状の弾性体である。そのため、例えば発泡体のような薄い板状の弾性体で温度調節部を支持することにより、各温度調節部は一枚の弾性体により独立した移動が許容される。これにより、各温度調節部は、簡単な構造で分析チップに密着する。したがって、構造の複雑化を招くことなく、温度調節部の温度を個別に高精度に制御することができる。
【0013】
さらにまた、本発明の分析チップ用の温度制御装置によると、前記分析チップを前記温度調節部とは反対側から前記温度調節部側へ押し付ける押さえ手段をさらに備える。そのため、分析チップは、温度調節部が押し付けられるとともに、押さえ手段により温度調節部側へ押し付けられる。これにより、分析チップは、さらに温度調節部に密着する。したがって、温度調節部の温度を個別に高精度に制御することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の複数の実施例を図面に基づいて説明する。
(第1実施例)
本発明の第1実施例による分析チップ用の温度制御装置を図1および図2に示す。図1は、図2のI−I線で切断した断面図である。図2は、本発明の第1実施例による温度制御装置を適用した分析チップの平面視を示す概略図である。
【0015】
図1に示すように、第1実施例による分析チップ用の温度制御装置10は上方に分析チップ50が搭載される。温度制御装置10は、温度調節部20、ペルチェ素子部21、ヒートシンク22、弾性支持部としてのコイルばね23および支持本体24を備えている。支持本体24は、筐体25に取り付けられている。筐体25の内部には、ヒートシンク22に送風するファン26が設置されている。
【0016】
温度調節部20は、例えば銅、アルミニウムまたは各種の金属の合金など、熱伝導体により形成されている。温度調節部20は、金属に限らず例えば熱伝導性を有するセラミックスや樹脂などで形成してもよい。温度調節部20は、図示しない温度検出部が設置されている。温度検出部は、例えばサーミスタなどを有しており、温度調節部20の温度を検出する。温度検出部は、検出した温度調節部20の温度を信号として図示しない制御部に出力する。
【0017】
ペルチェ素子部21は、温度調節部20の分析チップ50とは反対側の面に接している。温度調節部20とペルチェ素子部21とは例えば接着剤により接着されている。ペルチェ素子部21は、通電することにより発熱または吸熱するペルチェ素子を有している。ペルチェ素子は、印加される電流の向きによって一方の端面から熱を吸収し、他方の端面に排熱する。これにより、ペルチェ素子に印加する電流の向きおよび大きさを制御することにより、温度調節部20は加熱または冷却され、温度調節部20は所定の温度に制御される。温度調節部20は、図示しない制御部によって制御される。制御部は、図示しない温度検出部で検出された温度に基づいて、ペルチェ素子部21に供給する電流の向きおよび大きさ、または電流の供給の断続を制御する。
【0018】
ヒートシンク22は、例えば銅、アルミニウムまたは各種の金属の合金など、熱伝導体により形成されている。ヒートシンク22は、ペルチェ素子部21の温度調節部20とは反対側の面に接している。ヒートシンク22とペルチェ素子部21とは接着剤により接着されている。ヒートシンク22は、熱伝導率の大きな熱伝導体で形成することにより、ペルチェ素子部21からの排熱を放熱する。ヒートシンク22にはファン26から送風される。これにより、ヒートシンク22は放熱が促進される。
【0019】
なお、温度調節部20とペルチェ素子部21、およびペルチェ素子部21とヒートシンク22とは、接着剤により接着する例を説明した。接着剤は、例えばエポキシ樹脂などの熱伝導性の高い接着剤、シリコーン変性ポリマーなどの弾性接着剤、反応形アクリルなどの反応形樹脂系接着剤、α−シアノアクリレートなどの瞬間接着剤、SBS、CR、NBRなどのゴム系溶剤形接着剤、またはEVA、オレフィン、合成ゴムなどのホットメルト系接着剤などを適用することができる。また、温度調節部20とペルチェ素子部21、およびペルチェ素子部21とヒートシンク22とは、例えば銀、銅、アルミニウムまたははんだなどの金属のろう材により接着してもよい。また、温度調節部20、ペルチェ素子部21およびヒートシンク22は、互いに溶接により接続してもよい。
【0020】
弾性支持部としてのコイルばね23は、一体に組み付けられている温度調節部20、ペルチェ素子部21およびヒートシンク22を支持している。コイルばね23は、一方の端部が支持本体24に固定され、他方の端部がヒートシンク22に固定されている。コイルばね23は、ヒートシンク22の周方向において少なくとも二個所以上で一体の温度調節部20、ペルチェ素子部21およびヒートシンク22を支持している。コイルばね23は、一体の温度調節部20、ペルチェ素子部21およびヒートシンク22を支持するとともに、一体の温度調節部20、ペルチェ素子部21およびヒートシンク22を図1の上方すなわち分析チップ50側へ押し上げている。これにより、温度調節部20は、分析チップ50の一方の面50aに押し付けられる。なお、第1実施例では、弾性支持部としてコイルばね23を適用する例について説明している。しかし、弾性支持部は、コイルばね23に限らず、例えば板ばねなどのその他のばね、ゴムなどの弾性体、あるいは気体もしくは液体のダンパなどを適用してもよい。
【0021】
コイルばね23は、ヒートシンク22の周方向において少なくとも二個所以上で一体の温度調節部20、ペルチェ素子部21およびヒートシンク22を支持している。これにより、一体の温度調節部20、ペルチェ素子部21およびヒートシンク22は、分析チップ50に対し三次元の方向への移動が許容される。すなわち、一体の温度調節部20、ペルチェ素子部21およびヒートシンク22は、コイルばね23により、図3のz軸、x軸およびy軸方向への自由な移動が許容されつつ、分析チップ50側へ押し付けられる。
【0022】
図3は、分析チップ50の三次元の方向を示す模式図である。図3に示すように、分析チップ50の板厚方向をz軸とし、このz軸に垂直であって分析チップ50の面が拡大する方向をx軸およびy軸としている。
このように、一体の温度調節部20、ペルチェ素子部21およびヒートシンク22は、コイルばね23によって分析チップ50に対し三次元の方向、すなわち分析チップ50に対し図1の上下左右および紙面前後方向へ自由な移動が許容されつつ、分析チップ50側へ押し付けられている。
【0023】
図4に示すように、温度制御装置10に分析チップを搭載しないとき、一体の温度調節部20、ペルチェ素子部21およびヒートシンク22の中心軸は概ね重力方向の上下に沿っている。これに対し、温度制御装置10に分析チップ50を搭載したとき、分析チップ50の温度調節部20側の面50aに沿って傾斜する。これにより、図1に示すように分析チップ50に反りが生じたり、分析チップ50が変形しているときでも、温度調節部20は分析チップ50の一方の面50aに密着する。なお、図4では、ファン26を筐体25の内側に取り付ける例について説明している。しかし、第1実施例の変形例として、図5に示すように、ファン26はヒートシンク22と一体に組み付ける構成としてもよい。
【0024】
分析チップ50は、基板51とカバー52とから構成されている。基板51は、図2に示すように試料を貯留する貯留槽としての反応槽53および生成槽54と、管路55とを備えている。基板51は、例えばガラス、シリコン、セラミックス、金属、プラスチック、シリコンゴムなどのゴム、あるいはこれらの複合材料によって矩形状に形成されている。基板51には、例えばエッチング加工などにより、反応槽53、生成槽54および管路55が形成されている。カバー52は、図1に示すように温度調節部20とは反対側の面から基板51を覆っている。カバー52は、例えば石英ガラスなどの透明な材料、または基板51と同一の材料から形成されている。
【0025】
反応槽53は、図2に示すように平面視において略矩形の凹状に形成されている。反応槽53には、注入された試料が蓄えられる。反応槽53では、蓄えられた試料が反応可能である。生成槽54は、反応槽53と同様に平面視において略矩形の凹状に形成されている。生成槽54は、反応槽53における反応によって生成した物質が蓄えられる。管路55は、反応槽53と生成槽54とを接続している。管路55は、反応槽53における反応によって生成した物質が生成槽54へ移動する。管路55から分岐する分岐管路56の端部には、開口部57が形成されている。開口部57からは、管路55において不要となる気体が外部へ排出される。
【0026】
分析チップ50の下部には、温度調節部20が複数設置されている。本実施例の場合、反応槽53の下部に温度調節部20aが設置され、反応槽53の近傍における管路55の下部に温度調節部20bが設置され、反応槽53と生成槽54との間における管路55の下部に温度調節部20cが設置され、生成槽54の近傍における管路55の下部に温度調節部20dが設置されている。これら分析チップ50において温度調節部20a、温度調節部20b、温度調節部20cおよび温度調節部20dによって温度が調節される部位が被温度調節部である。温度調節部20a、20b、20c、20dは、それぞれ個別に分析チップ50の被温度調節部の温度を調節する。
【0027】
次に、上記の構成の分析チップ50を適用し、溶解度の差を利用して物質を生成する例を説明する。ここでは、石英ガラスで形成された分析チップ50を適用して、エステル交換反応を実施する場合について説明する。
反応槽53には、プロピオン酸メチル(CH3CH2COOCH3)およびエタノール(CH3CH2OH)を注入する。また、反応槽53には、触媒としてp−トルエンスルホン酸を加える。そして、温度調節部20a、温度調節部20bおよび温度調節部20cに接するペルチェ素子部21に通電し、それぞれ70℃まで加熱する。一方、温度調節部20dに接するペルチェ素子部21に通電し、20℃に制御する。これにより、プロピオン酸メチルとエタノールとを反応させる。その結果、生成槽54にはメタノール(CH3OH)が生成するとともに、反応槽53にはプロピオン酸エチル(CH3CH2COOCH2CH3)が生成する。
【0028】
また、この分析チップ50を適用し、沸点の差を利用して物質を精製する例について説明する。ここでは、例えばシリコンによって形成された分析チップ50を適用して、アルコールの分離を実施する場合について説明する。
あらかじめ開口部57は図示しない栓などにより塞がれる。反応槽53には、エタノール(CH3CH2OH)およびメトキシエタノール(CH3OCH2CH2OH)との混合物を注入する。そして、温度調節部20aおよび温度調節部20bに接するペルチェ素子部21に通電し、それぞれ100℃および80℃に加熱する。一方、温度調節部20cおよび温度調節部20dに接するペルチェ素子部21に通電し、いずれも10℃に制御する。その結果、生成槽54にはエタノールが分離され、反応槽53にはメトキシエタノールが分離される。
【0029】
第1実施例では、温度制御装置10の温度調節部20はコイルばね23により分析チップ50に対し三次元方向に支持されつつ分析チップ50の面50aに押し付けられている。これにより、分析チップ50に反りが生じる場合、または分析チップ50の被温度調節部が均一な平面状に形成されない場合でも、温度調節部20は分析チップ50の形状に追従して所定の位置に密着する。また、温度制御装置10は分析チップ50の各被温度調節部ごとに対応する温度調節部20を備えている。そのため、各被温度調節部の温度は個別に制御される。したがって、温度制御装置10は分析チップ50の被温度調節部の温度を個別に高精度に制御することができる。
【0030】
また、第1実施形態では、温度制御装置10は分析チップ50と別体である。そのため、分析チップ50を複数用意することにより、分析チップ50は容易に交換可能である。これにより、分析チップ50を利用するごとに分析チップ50および温度制御装置10の全体の交換は不要であり、分析チップ50のみを交換することができる。したがって、温度制御装置10の汎用性を高めることができ、分析チップ50を利用した実験の効率を高めることができる。また、このように分析チップ50を交換する場合でも、温度調節部20は分析チップ50の被温度調節部に密着する。そのため、分析チップ50の形状に個体差がある場合でも、温度制御装置10は分析チップ50の被温度調節部の温度を個別に高精度に制御することができる。
【0031】
(第2実施例)
本発明の第2実施例による温度制御装置を適用した分析チップを図6に示す。第1実施例と実質的に同一の構成部位には同一の符号を付し、説明を省略する。
図6は、本発明の第2実施例による温度制御装置を適用した分析チップの平面視を示す概略図である。
【0032】
分析チップ60は、三つの貯留槽61、62、63と、各貯留槽61、62、63に連通する三本の管路64、65、66とを有している。第2実施例に適用される分析チップ60は、パラフィンバルブ71、72、73を有している。パラフィンバルブ71、72、73は、各管路64、65、66の途中にそれぞれ設置されている。パラフィンバルブ71、72、73は、例えば融点が50℃前後のパラフィンで形成されている。そのため、パラフィンバルブ71、72、73の近傍が室温のとき、パラフィンバルブ71、72、73は固形となって管路64、65、66を閉塞している。一方、パラフィンバルブ71、72、73を融点以上に加熱すると、パラフィンバルブ71、72、73は溶解し、管路64、65、66を開放する。管路64、65、66には、それぞれ途中に拡大部67、68、69が形成されている。三つの貯留槽61、62、63には、図6(A)に示すようにそれぞれ任意の試料が蓄えられている。
【0033】
パラフィンバルブ71、72、73の下方には、温度制御装置10の温度調節部20e、20f、20gがそれぞれ設置されている。温度制御装置10の温度調節部20の構成は、支持本体24に対する温度調節部20の配置以外は第1実施例と同一である。これにより、温度調節部20eは、分析チップ60においてパラフィンバルブ71の下方に接し、パラフィンバルブ71の温度を調節する。同様に、温度調節部20fはパラフィンバルブ72の温度を調節し、温度調節部20gはパラフィンバルブ73の温度を調節する。すなわち、パラフィンバルブ71、72、73は被温度調節部となる。
【0034】
温度調節部20e、20f、20gの各ペルチェ素子部21への通電を停止しているとき、パラフィンバルブ71、パラフィンバルブ72およびパラフィンバルブ73は室温に近似する温度となっている。そのため、図6(A)に示すように、パラフィンバルブ71は管路64を閉塞し、パラフィンバルブ72は管路65を閉塞し、パラフィンバルブ73は管路66を閉塞している。
【0035】
ここで貯留槽62に連通する管路65を開放するとき、パラフィンバルブ72の温度を調節する温度調節部20fのペルチェ素子部21に通電し、パラフィンバルブ72を加熱する。一方、パラフィンバルブ71の温度を調節する温度調節部20eのペルチェ素子部21、およびパラフィンバルブ73の温度を調節する温度調節部20gのペルチェ素子部21にも逆方向に通電し、パラフィンバルブ71およびパラフィンバルブ73を冷却する。分析チップ60のように、微小なチップの場合、管路64と管路65および管路65と管路66との距離は数mm程度である。そのため、管路65のパラフィンバルブ72を加熱したとき、熱伝導により隣接するパラフィンバルブ71およびパラフィンバルブ73も加熱され、パラフィンバルブ71およびパラフィンバルブ73は溶融するおそれがある。そこで、第2実施例では、温度調節部20fによりパラフィンバルブ72が加熱されるとき、隣接するパラフィンバルブ71およびパラフィンバルブ73は温度調節部20eまたは温度調節部20gにより融点以下に冷却される。
【0036】
パラフィンバルブ72が融点以上に加熱されると、パラフィンバルブ72は溶融し、図6(B)に示すように管路65は開放される。管路65において溶融したパラフィンは、拡大部68に捕集される。一方、管路64のパラフィンバルブ71および管路66のパラフィンバルブ73は冷却されるため、融点以上の温度に達しない。そのため、管路64および管路66は閉塞状態を維持する。したがって、管路65のみが開放され、貯留槽62に蓄えられた試料は管路65を通して図示しない所定の部位へ供給される。
【0037】
以上のように、第2実施例では、各管路64、65、66の各パラフィンバルブ71、72、73にそれぞれ温度制御装置10の温度制御部20e、20f、20gが接している。そのため、各パラフィンバルブ71、72、73は個別に高精度に温度制御される。したがって、分析チップ60のように各管路64、65、66の間隔が小さなときでも、各パラフィンバルブ71、72、73の開閉を精密に制御することができる。
【0038】
(第3実施例)
本発明の第3実施例による温度制御装置を図7に示す。なお、第1実施例と実質的に同一の構成部位には同一の符号を付し、説明を省略する。
図7は、本発明の第3実施例による温度制御装置を示す図であり、図1に対応する断面図である。
【0039】
第3実施例の温度制御装置11は、温度調節部20、ペルチェ素子部21およびヒートシンク22の支持方法が第1実施例と異なる。支持本体27は、一体の温度調節部20、ペルチェ素子部21およびヒートシンク22の下方すなわち分析チップ50とは反対側に配置されている。弾性支持部としてのコイルばね28は、一方の端部がヒートシンク22のペルチェ素子部21と反対側の端部と接続し、他方の端部が支持本体27と接続している。そのため、一体の温度調節部20、ペルチェ素子部21およびヒートシンク22は、分析チップ50とは反対側の端部においてコイルばね28によって支持されている。コイルばね28は、第1実施例と同様に一体の温度調節部20、ペルチェ素子部21およびヒートシンク22を分析チップ50に対し三次元の方向へ移動を許容しつつ分析チップ50方向へ押し付けている。
第3実施例では、第1実施例と同様に複数の温度調節部20はそれぞれ分析チップ50の被温度調節部に密着する。したがって、分析チップ50の被温度調節部の温度を個別に高精度に制御することができる。
【0040】
(第4実施例)
本発明の第4実施例による温度制御装置を図8に示す。なお、第1実施例と実質的に同一の構成部位には同一の符号を付し、説明を省略する。
図8は、本発明の第4実施例による温度制御装置を示す図であり、図1に対応する断面図である。
【0041】
第4実施例の温度制御装置12は、温度調節部20、ペルチェ素子部21およびヒートシンク22の支持方法が第1実施例と異なる。第4実施例では、一体の温度調節部20、ペルチェ素子部21およびヒートシンク22は、弾性支持部の弾性体および支持本体を構成する弾性シート30により支持されている。弾性シート30は、例えば発泡樹脂、ゴムシートまたはゲルシートなどの弾性を有する材料から形成される。弾性シート30は、分析チップ50と重なるように分析チップ50と概ね平行に設置されている。弾性シート30は、自由に弾性変形する。そのため、弾性シート30は、一体の温度調節部20、ペルチェ素子部21およびヒートシンク22を分析チップ50に対し三次元の方向へ移動を許容しつつ分析チップ50方向へ押し付けている。
【0042】
第4実施例では、弾性シート30は複数の温度調節部20を支持している。なお、弾性シート30は複数の温度調節部20のすべてを支持してもよく、単数または複数の温度調節部20をグループ化しそのグループごとに複数の弾性シート30により支持する構成としてもよい。
第4実施例では、弾性シート30により温度調節部20を支持することにより、温度制御装置12の構造、特に温度調節部20の支持構造を簡単にすることができる。また、温度調節部20は弾性シート30に任意に配置することが可能となる。したがって、分析チップ50に配置される例えば貯留槽および管路に応じて温度調節部20の位置を任意に変更することができる。
【0043】
(第5実施例)
本発明の第5実施例による温度制御装置を図9に示す。なお、第1実施例と実質的に同一の構成部位には同一の符号を付し、説明を省略する。
図9は、本発明の第4実施例による温度制御装置を示す図であり、図1に対応する断面図である。
【0044】
第5実施例の温度制御装置13は、分析チップ50の上方すなわち分析チップ50の温度調節部20とは反対側に押さえ手段としての加重部40を有している。加重部40は、例えば錘などのように物理的に分析チップ50を押さえつける手段、または例えばクランプなどにように機械的に分析チップ50を押さえつける手段が適用される。
【0045】
加重部40は、分析チップ50の温度調節部20とは反対側から分析チップ50を温度調節部20方向へ押し付ける。これにより、分析チップ50には、コイルばね23により温度調節部20が押し付けられるとともに、加重部40により温度調節部20へ押し付けられる。その結果、分析チップ50は、加重部40と温度調節部20との間に挟み込まれる。
【0046】
第5実施例では、加重部40により分析チップ50を温度調節部20に押し付けることにより、分析チップ50と温度調節部20とはより緊密に密着する。これにより、分析チップ50の被温度調節部における温度はより精密に制御される。したがって、分析チップ50の被温度調節部の温度を個別に高精度に制御することができる。
【0047】
以上、複数の実施例で説明した分析チップ50、60は例示である。そのため、分析チップ50、60の形状、ならびに反応槽、生成槽、貯留槽および管路の配置などは、上述の分析チップ50、60に限定されるものではなく、任意に変更することができる。また、複数の実施例では、分析チップ50、60が上方に凸状に変形する例について説明したが、これは例示であり、分析チップ50、60の変形状態がその他の形状であっても、温度調節部20は分析チップ50、60に密着する。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】図2のI−I線で切断した断面図である。
【図2】本発明の第1実施例による温度制御装置を適用した分析チップの平面視を示す概略図である。
【図3】分析チップの三次元の方向を示す模式図である。
【図4】本発明の第1実施例による温度調節装置を示す図であって、分析チップを搭載しない状態における図1に対応する断面図である。
【図5】本発明の第1実施例による温度調節装置の変形例を示す図であって、分析チップを搭載しない状態における図1に対応する断面図である。
【図6】本発明の第2実施例による温度制御装置を適用した分析チップの平面視を示す概略図である。
【図7】本発明の第3実施例による温度制御装置を示す図であって、図1に対応する断面図である。
【図8】本発明の第4実施例による温度制御装置を示す図であって、図1に対応する断面図である。
【図9】本発明の第5実施例による温度制御装置を示す図であって、図1に対応する断面図である。
【符号の説明】
【0049】
10、11、12、13 温度制御装置、20、20a、20b、20c、20d、20e、20f、20g 温度調節部、21 ペルチェ素子部、22 ヒートシンク、23、28 コイルばね(弾性支持部)、30 弾性シート(弾性体)、40 加重部(押さえ手段)、50、60 分析チップ、50a 面、53 反応槽(被温度調節部)、54 管路(被温度調節部)、71、72、73 パラフィンバルブ(被温度調節部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の被温度調節部を有する薄板状の分析チップを一方の面側から加熱または冷却し、前記被温度調節部の温度を制御する分析チップ用の温度制御装置であって、
熱伝導体から形成され、前記分析チップの前記一方の面側から前記被温度調節部にそれぞれ接する温度調節部と、
前記温度調節部に接して設置され、通電することにより前記温度調節部を加熱または冷却するペルチェ素子部と、
前記分析チップとは反対側から前記温度調節部を支持し、前記温度調節部を前記分析チップに対し三次元の方向への移動を許容しつつ前記分析チップへ押し付ける弾性支持部と、
を備えることを特徴とする分析チップ用の温度制御装置。
【請求項2】
前記ペルチェ素子部の前記分析チップとは反対側に前記ペルチェ素子からの排熱を放熱するヒートシンクを備え、
前記弾性支持部は、前記温度調節部、前記ペルチェ素子部および前記ヒートシンクを一体に支持していることを特徴とする請求項1記載の分析チップ用の温度制御装置。
【請求項3】
前記弾性支持部は、前記複数の被温度調節部にそれぞれ接する前記温度調節部を個別に支持していることを特徴とする請求項1または2記載の分析チップ用の温度制御装置。
【請求項4】
前記弾性支持部は、前記複数の被温度調節部にそれぞれ接する前記温度調節部を複数まとめて支持していることを特徴とする請求項1または2記載の分析チップ用の温度制御装置。
【請求項5】
前記弾性支持部は、前記分析チップと重ねて設置可能な板状の弾性体であることを特徴とする請求項4記載の分析チップ用の温度制御装置。
【請求項6】
前記分析チップを前記温度調節部とは反対側から前記温度調節部側へ押し付ける押さえ手段をさらに備えることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項記載の分析チップ用の温度制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−194686(P2006−194686A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−5367(P2005−5367)
【出願日】平成17年1月12日(2005.1.12)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】