説明

分析物検出のための糖尿病管理装置と選択的にデータを転送する方法

【課題】可動構成要素とベースステーションを有する糖尿病管理装置においてデータを選択的に転送するための方法に関する。
【解決手段】無線通信リンクが確立されている第一の時間間隔内に、データの第一の部分が可動構成要素からベースステーションに転送されるよう、データ転送が選択的に実行され、また、第一の部分は、第一の時間間隔内に転送されたデータが、可動構成要素に格納された全データを代表するようにプロセッサ制御の選択アルゴリズムを用いて選択される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可動構成要素とベースステーションを有する糖尿病管理装置に関し、可動構成要素は、身体に装着するまたは、体内に埋め込むことが可能であるとともに、データを格納するためのメモリを有し、また、データをベースステーションに転送するための交信部を有する。ベースステーションは、可動構成要素からデータを無線受信するための交信部と、転送されてきたデータを格納するためのメモリを有する。可動構成要素から転送されてきたデータを表示するための出力部を随意に設けてもよい。データ転送は、可動構成要素とベースステーションのあいだの無線通信リンクが存在している時間間隔内に行われる。本発明は、また、可動構成要素とベースステーションを有する糖尿病管理装置においてデータを選択的に転送するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
糖尿病管理装置は、体内の血糖のような糖尿病の治療に関係する分析物を検出するおよび/または特に薬剤注射による治療を行うために用いられる。重要な例としては、血糖値メータまたはインスリンポンプがある。最近の糖尿病管理装置は、実施事項を記録に残すことによって、使用者が実施事項を後で分析できるようになっている。これにより、いわゆる履歴ファイルが、長い使用期間中に作成される。
【0003】
また、糖尿病管理装置には、実施事項の記録データと同様に分析データも格納される。特に(挿入式または非挿入式に拘わらず)身体に装着する、または体内に埋め込む分析装置の場合には、分析物の頻繁な、現実にはそれに止まらず連続した測定と定量さえもが行われるために、大量の測定データおよび/または分析データが生成される。一時的に格納されたデータは、PCのようなベースステーションに時々転送しなければならない。
【0004】
この目的のために、身体に装着可能な機器の場合には、通信プロトコルを備えた有線接続、または無線接続がしばしば用いられる。勿論、埋め込み式機器の場合、データ転送は常に無線で行われる。従来技術によるデータ転送においては、一般に取得したデータの全てがダウンロードされる。この際、逐次転送が行われ、データは、生成された順序(先入れ先出し)またはそれを反転させた順序(後入れ先出し)で転送される。
【0005】
この従来技術による方法の場合、少なくとも全データを転送するあいだは、データ転送のためのリンクが存在するものと想定されている。一般にデータ転送は中断されることはない。使用者は、自発的にデータ転送を開始するとともにその進行を監視しているために、データ転送が実行されていることを認識している。また、一般にデータ転送に用いられるソフトウェアは、たとえば、グラフィックおよび/または百分比の数値により転送の進行程度を表示する。
【0006】
使用者は、このデータ転送を大変煩わしく感じている。データ転送を中断することができず、また、データ転送中はベースステーションから離れることができないために、使用者は、自分たちはベースステーションに拘束されていると考える。
【0007】
使用者の使い心地を向上させるためには、管理装置は、身体に装着された、または体内に埋め込まれた可動構成要素とベースステーションのあいだの通信が、使用者による開始の動作や監視が不要で、「必要に応じて」自動的に開始されるように設計されていなければならない。使用者が可動構成要素をベースステーションに近付けたとき、無線通信が自動的に実行される。管理装置は、特定の相手方構成要素に接近したとき、自動的にそのことを認識する。従って、使用者にとっては、リンクを確立することが非常に容易で扱いやすい管理装置になる。
【0008】
データ転送は、使用者がベースステーションに充分に接近した位置に留まるあいだにだけ実行することができる。身体に装着された可動構成要素とベースステーションのあいだで実行されるこの種の通信に使用可能なリンク時間は、使用者がベースステーションに接近した位置に留まる時間の関数として変化する。このように、管理装置にはデータ転送に使用可能な時間が分からない。従来技術による糖尿病管理装置を用いていて、リンクの継続時間が変化するとともに、その時間の長さを事前に知ることができない場合には、確実なデータ転送を実行することは不可能である。
【0009】
さらに、糖尿病管理装置の使用には特別な問題が付随する。
一方では、これらの管理装置は、きわめて重要で複雑な医療機能を備えている。そのような管理装置を介して取得したデータを基にして実施される、または管理装置が直接実施するような人体の調節系への介入は、一般には高度な専門知識を有する医療関係者によって直接または、たとえば、集中治療部内における継続した診察の下で実施される。しかし、インスリンポンプのような糖尿病管理装置の操作者は患者であり、患者は、一般には医療に関しては素人であって、調節系への介入の影響を完全に理解することはできない。
他方では、糖尿病患者は、とりわけ進行した状態にあるとき、病気のために身体能力が低下しており、また、集中力にも乏しい。このために、管理装置を正しく操作して正確な設定を行うことができない、または、気付かないうちにインスリンの規定投与量を間違えるといった誤った設定を行うことになる。このような場合、患者は、重大な健康上の害を被る。このため、患者の行為を記録するとともに、そのような記録を、分析機能と警告を発する機能を備えたベースステーションに定期的に転送することが重要である。
【0010】
先に説明した問題のために、身体に装着された機器とベースステーションのあいだの通信を無線によって実行する場合には、全データを転送するためのリンク時間を確実に確保することが不可能であるという大きい危険性が伴う。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、本発明は、身体に装着された可動構成要素からベースステーションに対して、先に説明した問題点と課題を考慮に入れてデータ転送を実行するとともに、使用者がより快適に感ずる糖尿病管理装置を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の目的は、請求項1に記載した特徴を有する糖尿病管理装置と、請求項16に記載した特徴を有する選択的にデータの転送を行う方法によって達成される。
【0013】
人体に対して使用される本発明による糖尿病管理装置は、可動構成要素とベースステーションを有する。可動構成要素は、身体に装着可能であるまたは、体内に埋め込み可能であるとともに、データを格納するためのメモリと、データをベースステーションに転送するための交信部を有する。ベースステーションは、可動構成要素からデータを無線受信するための交信部と、転送されてきたデータを格納するためのメモリを有する。ベースステーションは、また、可動構成要素から転送されてきたデータを表示するための出力部を随意に備えていてもよい。可動構成要素とベースステーションのあいだのデータ転送は、無線通信リンクが確立されている時間間隔内に実行される。データ転送に使用可能な時間の長さが原則として未知であるために選択的なデータ転送が行われ、その場合、データの第一の部分が第一の時間間隔内に転送される。データの第一の部分は、プロセッサ制御の選択アルゴリズムを用いて選択され、かつ、この時間間隔内に転送されるデータは、可動構成要素に格納されている全データを代表するように決定される。
【0014】
本発明による糖尿病管理装置についてはデータ転送の時間がきわめて短くなるように構成されているが、それは、糖尿病患者が、低下した集中力のために、身体に装着した可動構成要素とベースステーションのあいだの無線通信が実行されていることにしばしば気付かないおよび/またはその実行を監視しないからである。従って、接続が確立されているあいだに転送可能なデータは、しばしば可動構成要素に格納されているデータの一部だけとなる。
【0015】
データの選択が適切に行なわれた場合には、比較的少量のデータを選択しかつ転送することによって、全データについての特徴を正確に把握することが可能である。このために、最も高次の情報を内包したデータが優先的に転送されるよう、データに優先順位を付けることが好ましい。第一の部分として選択されたデータが全データを代表しているために、全データの全体像についてのきわめて正確な情報の取得を目的として全データを転送するおよび/または分析する必要はない。
【0016】
この種の糖尿病管理装置は、とりわけ可動構成要素が体内に埋め込まれた連続動作式測定器を有する方が有利である。一般に、可動構成要素のメモリには数日という長い期間の測定値が格納される。本発明においては、この大量の測定値の中から選択された小さい一部分によって、きわめて正確に全測定値を代表させることができる。
【0017】
測定値および/またはその分析結果は、たとえば、血糖値測定装置におけるインスリン投与量のような制御助変数の分析と評価に用いられるために、直近の測定値が一般には特に重要である。従って、選択されたデータつまり測定値の第一の部分の少なくとも一部は、生成された順序を反転させた順序(後入れ先出しの原則)でベースステーションに転送することが好ましい。つまり、最後に検出された測定値が最初に転送される。この原則は、フォアグラウンド(foreground)にある転送に関する別の基準と組み合わせることができるために、厳格に適用する必要はない。なお、原則として、測定値が生成されたタイミングだけではなく測定値に内包された情報がきわめて重要であることも事実である。
【0018】
全データの可能な限り最良のイメージを把握する場合、一般には下記の二つの手法を用いることができる。
1.全データから抽出するデータを、時間的に等間隔に位置する固定ラスタを用いて選択する。
2.第一の部分のデータを、固定ラスタを回避する方法で、即ち二つの選択されたデータ間の時間間隔が異なるように選択する。
【0019】
データの第一の部分が時間的に固定されたラスタ、即ち選択されたデータの各々の時間間隔が等しいラスタ、を用いて選択される好ましい実施形態において、データの全体像は全データに基づいて一様に導出される。データの第一の部分が可動構成要素からベースステーションに転送された後、データの選択は、選択しようとする第一の値が第一の部分の二つのデータのあいだに位置するよう、たとえば、ラスタを移動することによって連続的に精度の向上が図られる。代替としては、等しい時間間隔で選択しようとするデータの間隔を短くすることもできる。
【0020】
等間隔のラスタを用いて選択することにより、全データについての全体像を上手くかつ迅速に把握することが可能になる。この方法は、とりわけ選択された測定値にアウトライアが含まれていないケースにおいては好適である。しかし、等間隔のラスタを用いた場合、周期誤差を確実に認識することはできない。アウトライアつまり医療上の上限値を超えるデータ、または測定誤差も、固定ラスタを用いた場合には必ずしも検出されない。
【0021】
第一の部分のデータは、確率関数が組み込まれた選択アルゴリズムを用いて選択する方が有利である。第一の部分に含まれる時間的に隣接して選択された二つのデータの時間間隔は各々異なっている。第一の部分のデータは、確率密度にしたがって選択される。
【0022】
高次の「メタ情報(meta-information)」を確率関数に組み込むこともできる。この「メタ情報」は、糖尿病管理装置または分析装置、および/または学習機能を有する装置の場合には可動構成要素によって生成することができる。この目的のために、過去の情報や、先のデータ転送のために選択して転送されたデータの分析結果、たとえば測定値についてのアウトライア(ないしは、域外値)が何時から頻繁に発生するようになったかについて、が収集される。アウトライアが過去には朝により頻繁に発生していた場合、現在の測定においてもアウトライアが朝に検出されて、可動構成要素のメモリに格納される確率が高くなる。このために、特に朝には上限値を高くして質問を出すように選択アルゴリズムを変更してもよい。
【0023】
確率関数に替えて、選択アルゴリズムは、第一の部分のデータが無作為に抽出されるようにするために、ランダム関数を基にすることもできる。隣接して選択された二つのデータの時間間隔は、周期誤差に伴う問題を回避するために一般には各々異なっており、等間隔ではない。
【0024】
データ転送のための第一の時間間隔の予想長さは、可動構成要素とベースステーションのあいだで既に実施されたデータ転送に基づいて同様に決定されることが好ましい。通信リンクが継続されている時間間隔内において転送可能なデータの予想量は、既に実施されたデータ転送を基にして同様に決定してもよい。この時間間隔および/またはデータ量は、可動構成要素とベースステーションのあいだで行われようとしているデータ転送またはその次のデータ転送のために利用可能なおよび/または同量のデータを転送可能な同等のリンク継続時間を確率的に表したものである。患者は、ほぼ一定の行動パターンを示すものと想定されている。特に、既に実施された複数回のデータ転送について分析することが可能な場合、次回のデータ転送に要する時間の予測はより正確なものになる。このようにして、データ転送に利用可能な時間間隔を有効に利用することが可能になる。
【0025】
データ転送の時間間隔内に可動構成要素からベースステーションに転送された第一の部分のデータは、糖尿病管理装置に記録として残しておくことが好ましい。既に転送されたデータについては、可動構成要素とベースステーションの両方にその記録を残すようになっている方がとりわけ有利である。代替としては、マーカーを二つの装置の一方だけに設定してもよい。たとえば、可動構成要素を装着した使用者が想定された行動パターンを逸脱してベースステーションから離れたためにデータ転送が中断された場合、中断された転送は、次回のデータ転送の時に続けることができる。この場合、転送を終えたデータを可動構成要素からベースステーションに再度転送する必要はない。このようにして、可動構成要素からベースステーションへのデータ転送の効率向上が図られる。本発明による糖尿病管理装置の好ましい実施形態において、転送を終えた第一の部分のデータは、可動構成要素のメモリから削除される。
【0026】
身体に装着可能な可動構成要素は、また、身体に接触させることができる機器を含むと了解されるものとする。例としてはインスリンのような薬剤を投与するための注射器があり、投与に関する情報は、ベースステーションに転送されるようになっている。この種の可動構成要素は、短時間だけ、即ち薬剤が投与されているあいだだけ、身体に装着される。
【0027】
「データ」の用語は、本発明においては通常の意味に解釈されるものとし、糖尿病管理装置の可動構成要素とベースステーション間で転送される全ての情報を含む。この意味での情報は、たとえば、血糖値のような血液の状態についての測定値、とりわけ注射器については投与量、とりわけインスリンポンプについてはポンプの送出量および測定血圧の変化を示すグラフを含む。「データ」の用語には、また、内部クロックまたはカウンタが発生し、絶対時間または相対時間として表示される時間の長さを含む。これにより、測定値の生成時刻を検出して転送することが可能になる。データは、また、電気抵抗、電圧または電流に基づいて測定することもできる。光学測定値(光度測定)やその他の情報も、また、本発明における「データ」の用語に包含される。
【0028】
本発明による糖尿病管理装置の好ましい実施形態について、添付図面を参照して詳細に説明する。図示した種々の特徴は、本発明の好ましい実施形態を具現するために単独でまたは組み合わせて用いることができる。分析装置は、ここでは糖尿病管理装置の具現可能な実施形態として説明されているが、その一般性を制限するものではない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
図1に示した分析装置1は、可動構成要素として身体に装着可能なまたは埋め込み可能な分析器2と、別体としてのベースステーション3を有する。
【0030】
分析器2は、分析物を検出して分析に好適な測定値を生成する測定部4を有する。分析器2は、さらに交信部5、プロセッサ6、および測定値を格納するためのメモリ7を有する。測定値は、通信リンクが確立されているときにベースステーションに転送可能なデータである。測定値の第一の部分は選択アルゴリズムを用いて選択されるが、選択アルゴリズムは、分析器2のプロセッサ6によって制御されていることが好ましい。
【0031】
測定値の第一の部分は、分析器2とベースステーション3のあいだのデータ通信が開始される前に選択を終えておくことが好ましい。従って、転送対象の全測定値は、分析器2とベースステーション3のあいだのデータリンクが確立されたときには準備が完了していて、直ちに送信可能な状態にある。
【0032】
ベースステーション3は、分析器2の測定値を無線受信するための交信部8、分析器2から転送されてきた測定値を格納するためのメモリ9、および測定値を表示するための出力部10を有する。出力部10は、また、音響信号を発信するおよび/または測定値を音声によって出力するために、ディスプレイの他にスピーカを含むこともできる。
【0033】
ベースステーション3は、測定値の転送数が下限値を下回ったときに光によるおよび/または音響による警告を発するためにアラーム11を有することが好ましい。アラーム11は、ディスプレイ、光表示器および/またはスピーカを有していてもよい。警告は、とりわけ分析器2からベースステーション3への測定値の転送量が少な過ぎるために、分析器に格納された測定値全体の特徴を正しく把握できない場合に発せられる。
【0034】
分析器2の交信部5とベースステーション3の交信部8のあいだの通信リンクを確立するために、ベースステーション3からは予め決められた周波数と、予め決められた出力で質問が発せられる。ベースステーション3が「マスタ」になり、分析器2が「スレーブ」になることによって二つの装置のあいだに「主従関係」が構成される。スレーブとしての分析器2は、ベースステーション3から発せられた質問を受信周波数を合わせて受信する。データ転送のための出力は、信号の強度が増大したことにより分析器とベースステーション間の距離が所定値以下になったことを分析器が認識できる高さに設定される。また、交信部5と交信部8のあいだの双方向データ転送に要する時間を測定することも可能である。
【0035】
分析器2とベースステーション3のあいだの距離が所定値より小さくなったとき、分析器2はベースステーション3の質問に応答する。このとき、交信部5、8間のリンクが確立される。実際にデータ転送を開始する前に、たとえば、余りにも短い接続時間または好ましくない通信状態を識別する、ないしは二つの装置間のデータ転送に係わる変数、即ちデータ転送のスピードや通信の出力等、を調節するために待ち時間を随意に設けることもできる。
【0036】
全ての条件が整ったとき、分析器2は、(好ましくはベースステーション3からの質問を直接受信していない場合にも)測定値の第一の部分をマスタつまりベースステーション3、に転送する。ベースステーション3からの質問を省略することによって、データ転送に要する時間を短縮することができる。
【0037】
分析器2は、ベースステーション3からのパルス、信号または命令によって「休止状態」から「作動状態」に移行することが好ましい。休止状態とは、省エネモードまたは転送の出力が低いモードのことである。これにより、分析器2を保持した患者が受ける電磁波の影響とともにエネルギー消費を低減することができる。
【0038】
図2は、分析器2に格納されている測定値を表しており、同一の時間間隔で測定された個別の測定値の全てが示されている。
【0039】
第一の部分として転送される測定値はデータ転送のリンクが確立される前に選択されていることが好ましいために、通信リンクが存在するときには、分析器2とベースステーション3のあいだのデータ転送を直ちに開始することができる。データ転送中は、分析器2がマスタとして動作し、ベースステーション3がスレーブとして動作することが好ましい。データ転送においては、たとえば、第一の部分に含まれる最後に測定された測定値Aを最初に転送することができる。また、第一の部分に含まれる別の測定値、たとえばアウトライアとして検出された測定値、を最初に転送することもできる。データに内包された情報量が増大したために最初に転送する測定値選択の基準が無いときには、直近の測定値が転送される。
【0040】
測定値の最初の転送後に、ベースステーション3は、測定値が転送されたことを患者に知らせるために信号を随意に出力することができる。ベースステーション3との交信を実施するか否かは、患者自身が設定できるようになっていることが好ましい。この種の確認が望ましい場合、確認は、測定値の最初の転送および/またはそれに続けて追加的な測定値の各々を転送した後に、ないしはデータ転送完了時に実施することができる。
【0041】
測定値の最初の転送後におよび/またはそれに続けて追加的な測定値の転送中に通信リンクが中断した場合、データ転送中はマスタとして動作している分析器2は、スレーブに変わるとともに、もし、その設定がなされているときには待機時間経過後に休止状態になる。このときベースステーション3はマスタに変わる。このように、分析器2とベースステーション3は、マスタとスレーブの機能が常に切り替わるようになっている。
【0042】
選択された測定値の第一の部分が完全に転送されたとき、分析器2とベースステーション3のあいだでは確認信号が取り交わされる。その後、ベースステーション3は、分析器2に対して追加的な測定値の転送を要請することが可能になる。代替として、分析器2を、メモリにある全測定値のベースステーション3への転送が完了するまで測定値の転送を継続するように構成することもできる。
【0043】
測定値の第一の部分を選択する際には、通信リンクの継続時間は常に未知であり、また、何時中断されるかも知れないことに留意しなければならない。従って、この選択は、医学的判断を行うために必要な事項を優先させて実行されることが好ましい。このため、データ転送の直前に測定された測定値がしばしば重要になる。医学的に設定された閾値または許容範囲を超えるアウトライアが検出された場合には、この値も転送することが好ましい。許容範囲は、この装置では予め決められているが、たとえば、医療関係者によって変更できるようになっていることが好ましい。患者自身による変更は、可能ではあるが一般には好ましくない。
【0044】
追加的な測定値の選択は、既に選択した測定値の関数として行うことも可能である。この間接的な選択は、選択した値がアウトライアであった場合にとりわけ有利である。追加的な測定値の選択は、固定時間ラスタを用いて、ある区間において予め決められた許容範囲を超えたアウトライアを中心にして実施することが好ましい。その区間に含まれるアウトライアを中心にした測定値の全てを選択することがとりわけ好ましい。
【0045】
図3の測定値A、A’は、医学上指定された上限を超えているためにアウトライアであると見なされる。次に、断続線で示した測定値B1〜B4を選択することによって区間Bが決められる。区間B内の測定値から等間隔に位置する測定値を選択することによって、この時間間隔における測定値が描くグラフの全体像を把握することが可能になり、これにより、アウトライアA、A’に向けて上昇しているのかまたは下降しているのかが識別される。この場合にも、データ転送は、直近の測定値から開始され、より以前の測定値の転送は通信リンクが確立されている限り継続される。
【0046】
区間Bに続けて、より長い時間の全体像を把握するために別の区間Cが設定され、区間Cにおいても測定値は等間隔のラスタを用いて選択される。これにより、全体像把握の対象が全測定値に拡大される。この様子は、図4に示されている。
【0047】
メモリに格納されている全測定値は複数の区間に分割する方が有利であり、この場合、第一の部分は、これら複数の区間の測定値によって構成される。測定値は、区間毎に重みが付けられるよう各々の区間から密度を変えて選択される。区間毎に重みを変えて測定値を選択するという方法は、アウトライアが特定の時刻を含む区間においてより頻繁に現れることが履歴から分かっているときに、とりわけ有利である。この場合、測定値は、過去に余り重要ではないと判定された他の区間より高い密度になるようこの区間から選択される。
【0048】
上記の場合の例を挙げると、格納されている全測定値が二つの区間に分割され、第一の区間の測定値は、第二の区間の測定値より新しい。第一の部分は、第一の区間から選択された測定値の密度が第二の区間から選択された測定値の密度より高くなるように選択される。これにより、より新しい測定値の方が一般にはより高次の情報を内包するという事実が考慮に入れられる。特に、測定値がインスリンの投与量の決定に用いられるときには、新しい測定値の方が、それ以前に取得された測定値より重要である。
【0049】
図5は、格納されている全測定値を二つの区間に分割したケースを示す。区間Bは、新しい側の一群の測定値を含む。区間Bに含まれる測定値は、図示した例においては全測定値の約15%を占める。この15%の割合の測定値群の中から、四つの測定値B1〜B4が選択される。区間Dは、残り85%の測定値を含む。この区間から、破断線で示した合計九つの測定値が選択される。区間Dから選択された測定値の絶対数は区間Bから選択された測定値の数より多いが、測定値選択の密度は区間Bの方が高い。
【0050】
図5は、また、区間Bにおいては測定値が一定間隔のラスタを用いて選択され、一方、区間Dにおいては測定値が確率関数に基づいたラスタを用いて選択された状態を示す。この場合、選択された測定値間の時間間隔は一定ではない。
【0051】
図6は、全測定値を二つの区間B、Eに分割し、第二の区間Eにおいて二つの測定値E1、E2が選択されたが、これらの測定値は許容範囲を超えているためにアウトライアであると判定されたケースを示す。この場合、区間Eでの測定値の選択は可変ラスタを用いて実施されたが、測定値E1、E2をアウトライアであると判定した後にその選択方法は変更された。即ち、新たな区間E1’、E2’がアウトライアである測定値E1、E2の各々を中心にして設定され、区間E1’、E2’において測定値は一定間隔のラスタを用いて選択された。このケースの場合、測定値の選択は全て区間E1’、E2’において実施される。このように、分析装置1は、アウトライアに対してきわめて柔軟に対応することができる。アウトライアとそれに近接した測定値が内包する高次の情報が、第一の部分の選択を実施するときに考慮に入れられる。第一の部分の選択された測定値が全測定値の全体像をきわめて正確に表すために、たとえば、患者の健康状態またはインスリンポンプについてはその動作状態を判定するときに、全測定値に替えて第一の部分の測定値を用いることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】分析器とベースステーションを有する分析装置の模式図である。
【図2】分析器のメモリに格納された測定値を時系列に配置したグラフである。
【図3】時系列に配置された測定値に第一の選択基準を用いたケースを示すグラフである。
【図4】時系列に配置された測定値に第二の選択基準を用いたケースを示すグラフである。
【図5】時系列に配置された測定値に第三の選択基準を用いたケースを示すグラフである。
【図6】時系列に配置された測定値に第四の選択基準を用いたケースを示すグラフである。
【符号の説明】
【0053】
1 分析装置
2 分析器
3 別々のベースステーション
4 測定部
5、8 交信部
6 プロセッサ
7 メモリ
10 出力部
11 アラーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可動構成要素(2)とベースステーション(3)とを有する糖尿病管理装置であって、
前記可動構成要素(2)は、身体に装着可能または体内に埋め込み可能であるとともに、
データを格納するためのメモリ(7)と、
データを前記ベースステーション(3)に転送するための交信部(5)とを有し、
前記ベースステーション(3)は、
前記可動構成要素(2)からデータを無線受信するための交信部(8)と、
転送されてきたデータを格納するためのメモリ(9)と、
随意に、前記可動構成要素(2)から転送されてきたデータを表示するための出力部(10)とを有し、
データ転送が、前記可動構成要素(2)と前記ベースステーション(3)のあいだの無線通信リンクが確立されている時間間隔内に実行される糖尿病管理装置において、
無線通信リンクが確立されている第一の時間間隔内にデータの第一の部分が前記可動構成要素(2)から前記ベースステーション(3)に転送されるよう、データ転送が選択的に実行され、
さらに、前記第一の部分は、前記第一の時間間隔内に転送されたデータが前記可動構成要素(2)に格納された全データを代表するようにプロセッサ制御の選択アルゴリズムを用いて選択されることを特徴とする糖尿病管理装置。
【請求項2】
前記データの第一の部分は、データ転送を開始する前に選択されることを特徴とする請求項1記載の糖尿病管理装置。
【請求項3】
前記データの第一の部分は、前記可動構成要素(2)のプロセッサ(6)によって制御される選択アルゴリズムを用いて選択されることを特徴とする請求項1または2記載の糖尿病管理装置。
【請求項4】
前記データの第一の部分の少なくとも一部は、生成された順序を反転させた順序で前記ベースステーション(3)に転送されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の糖尿病管理装置。
【請求項5】
前記データの第一の部分は、選択された隣接するデータ間の時間間隔が等しくなるよう、固定時間ラスタを用いて選択されることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の糖尿病管理装置。
【請求項6】
前記データの第一の部分は、選択された隣接するデータ間の時間間隔が異なるよう、確率関数が組み込まれた選択アルゴリズムを用いて選択されることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の糖尿病管理装置。
【請求項7】
前記メモリ(7)に格納された全データが複数の区間に分割され、前記第一の部分は、区間毎に異なった重みを持たせるために各々の区間から異なった密度で選択されたデータによって構成されることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の糖尿病管理装置。
【請求項8】
格納された全データが生成時間に応じて少なくとも二つの区間に分割され、第一の区間のデータが第二の区間のデータより新しくなるようにされ、さらに、前記第一の部分は、前記第一の区間から選択されたデータの密度が前記第二の区間から選択されたデータの密度より高くなるように選択されることを特徴とする請求項7記載の糖尿病管理装置。
【請求項9】
追加的なデータの選択は、既に選択されたデータの関数として選択されることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の糖尿病管理装置。
【請求項10】
ある時間間隔内の追加的なデータ、好ましくは前記時間間隔内に生成された全データは、予め決められた、好ましくは可変の許容範囲を超えたアウトライアを中心にしたデータから選択されることを特徴とする請求項9記載の糖尿病管理装置。
【請求項11】
前記第一の部分の予想データ数および/またはデータ転送のための前記第一の時間間隔の予想長さは、前記可動構成要素(2)と前記ベースステーション(3)のあいだで既に実行されたデータ転送を基準にして決定されることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の糖尿病管理装置。
【請求項12】
転送データ数が下限値を下回ったとき光によるおよび/または音響による警告を発するために、アラーム(11)が前記ベースステーション(3)の一部として設けられていることを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載の糖尿病管理装置。
【請求項13】
前記可動構成要素(2)から前記ベースステーション(3)に転送された前記第一の部分のデータ数が、前記可動構成要素(2)および/または前記ベースステーション(3)に記録として残されることを特徴とする請求項1〜12のいずれか1項に記載の糖尿病管理装置。
【請求項14】
転送が完了したデータは、前記可動構成要素(2)の前記メモリ(7)から消去されることを特徴とする請求項1〜13のいずれか1項に記載の糖尿病管理装置。
【請求項15】
人体内の分析物を検出し、かつ、分析物を検出して検出した分析物の特性データを生成する測定器を含む可動構成要素を有する分析装置として実施されることを特徴とする請求項1〜14のいずれか1項に記載の糖尿病管理装置。
【請求項16】
可動構成要素(2)とベースステーション(3)とを有する糖尿病管理装置において選択的にデータを転送する方法であって、
前記可動構成要素(2)は、身体に装着可能または体内に埋め込み可能であるとともに、
データを格納するためのメモリ(7)と、
データを前記ベースステーション(3)に転送するための交信部(5)とを有し、
前記ベースステーション(3)は、
前記可動構成要素(2)からデータを無線受信するための交信部(8)と、
転送されてきたデータを格納するためのメモリ(9)と、
随意に、前記可動構成要素(2)から転送されてきたデータを表示するための出力部(10)とを有し、
データ転送が前記可動構成要素(2)と前記ベースステーション(3)のあいだの無線通信リンクが確立されている時間間隔内に実行される糖尿病管理装置において選択的にデータを転送する方法において、
プロセッサ制御の選択アルゴリズムを用いてデータの第一の部分を選択する段階と、
無線通信リンクが確立されている第一の時間間隔内に前記データの第一の部分を前記可動構成要素(2)から前記ベースステーション(3)に転送する段階とを用いてデータ転送を選択的に実行し、
さらに、前記第一の部分は、前記第一の時間間隔内に転送されたデータが前記可動構成要素(2)に格納された全データを代表するように選択されることを特徴とする糖尿病管理装置において選択的にデータを転送する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−48382(P2008−48382A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2007−155558(P2007−155558)
【出願日】平成19年6月12日(2007.6.12)
【出願人】(501205108)エフ ホフマン−ラ ロッシュ アクチェン ゲゼルシャフト (285)
【Fターム(参考)】