説明

分析装置ならびにこの分析装置で使用される分析用媒体

【課題】回転中の分析用媒体の温度検出において、分析用媒体の形状や回転数に制約を排除し、高い温度測定精度を提供する。
【解決手段】シャフト20の回転軸を中心に回転するロータ1と、ロータ1上に配置された分析用媒体3と、分析用媒体3を加熱するヒータ12と、回転軸線の延長上に配置されたサーモパイル10と、サーモパイル10の出力信号から分析用媒体3の温度を検知する温度データ処理部105と、サーモパイル10と分析用媒体3との間に配置された反射鏡14とからなり、反射鏡14が回転軸線上に分析用媒体3と同期して回転可能で、かつ、分析用媒体3から放射される赤外線をサーモパイル10に導く角度に保持されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液、尿、汗などの体液や、工場排水、汚水などの中に含まれる特定成分を分析するための分析装置およびそれに使用される分析用媒体に関し、詳細には、回転中の分析用媒体の温度を測定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生活習慣病、心筋梗塞や癌などの早期発見のために、血液、尿など試料中に含まれる特定因子や、工場排水などに含まれる特定の環境負荷物質などを迅速に測定する分析装置が数々提案され、一部実用化されている。
【0003】
これら提案されている分析装置やそれに使用される分析用媒体はその測定方式や形態など多数存在するが、酵素反応や化学反応を利用した比色測定や濁度測定で特定成分を測定するのが一般的であり、反応に影響を及ぼす反応部の温度検出や温度制御が非常に重要な要因となっている。
【0004】
特に、近年提案されている生化学分析装置においては、中央部分に血液供給口、希釈液貯留部などを備えたPMMAなどのプラスチック材料で形成された円盤状の分析用媒体を分析装置に設置し、血球分離部、混合部、定量部、分配流路、供給用流路を介して各試薬反応槽に定量混合液を、分析装置の回転駆動手段により分析用媒体の回転速度などを調整する事で供給し、分析各試薬反応槽における試薬と試料との反応により生じた呈色を光学的に検出するものがあり、試料と試薬との反応を有効に且つ効果的に、さらに測定精度を高めるために分析用媒体の温度を37℃±0.5℃程度に保温している。
【0005】
この生化学分析装置の温度制御部の構成としては、分析用媒体の一面の一部を加熱するためのハロゲンランプなどの加熱手段と、加熱手段に対向する部位の温度を計測するためのサーモパイルに代表される非接触タイプの温度計測手段と、温度計測手段で計測した温度に基づいて加熱手段の分析用媒体を加熱する熱量を調節制御する制御手段及び吸熱効果を高め消費電力を抑えるための分析用媒体の裏面に配置した吸熱部材から成っている(例えば特許文献1)。
【特許文献1】特開2007−10320号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし分析用媒体がサーモパイルに対して相対的に回転するような場合にはサーモパイルの温度検出応答性の課題から分析用媒体がサーモパイルに常時対面するようにする必要があり、分析用媒体の形状や配置に制約を与えるという課題を有している。
【0007】
また、サーモパイルの位置が分析用媒体の回転中心とは異なる位置に配置されている場合には、分析用媒体の温度測定領域が回転中には変わるので、サーモパイルの温度検出応答性の課題からどの箇所の温度測定結果であるかが不明確となる。これは特に高速回転時には顕著となる。
【0008】
本発明は上記課題に鑑み、分析用媒体の形状、配置や回転数に制約を与えず、かつ、高い温度測定精度を実現するための分析装置および分析用媒体を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の請求項1記載の分析装置は、軸を中心に回転するロータの上に分析用媒体をセットし、分析測定中の前記分析用媒体の温度を検出して制御する分析装置であって、前記軸の延長上に配置されたサーモパイルと、前記サーモパイルの出力信号から前記分析用媒体の温度を検出する信号処理手段と、前記サーモパイルと前記分析用媒体との間に配置された少なくとも1つの反射鏡とを備え、前記反射鏡のうち前記サーモパイルに最も近い反射鏡が前記軸の線上に前記分析用媒体と同期して回転可能で、かつ、前記分析用媒体から放射される赤外線を前記サーモパイルに導く角度に保持されていることを特徴とする。
【0010】
本発明の請求項2記載の分析装置は、請求項1において、前記分析用媒体を加熱する加熱手段を有していることを特徴とする。
本発明の請求項3記載の分析装置は、請求項2において、前記加熱手段が、前記サーモパイルによる温度測定の結果にもとづき制御されるよう構成したことを特徴とする。
【0011】
本発明の請求項4記載の分析装置は、請求項1において、前記分析用媒体の温度測定面の法線と測定される放射赤外線との挟角との関係に対応した温度補正値により、前記サーモパイルから得た検出温度を補正して温度測定結果を得るよう構成したことを特徴とする。
【0012】
本発明の請求項5記載の分析装置は、請求項1において、前記分析用媒体の温度測定面の法線と前記サーモパイルによって測定される放射赤外線との挟角が70°以下になるように構成したことを特徴とする。
【0013】
本発明の請求項6記載の分析装置は、請求項1において、前記分析用媒体の温度測定面の法線と前記サーモパイルによって測定される放射赤外線との挟角が略0°となるように前記分析用媒体の温度測定面が形成されていることを特徴とする。
【0014】
本発明の請求項7記載の分析装置は、請求項2において、前記加熱手段の温度を検出する接触式温度センサを有し、前記分析用媒体が前記ロータに保持されていない状態において前記ロータの開口部を通して前記加熱手段の温度を前記サーモパイルで測定可能となるように構成するとともに、前記接触式温度センサの温度検出値と前記サーモパイルの温度検出値および前記加熱手段と前記分析用媒体との放射率の違いから前記サーモパイルの温度検出値を補正するようにしたことを特徴とする。
【0015】
本発明の請求項8記載の分析装置は、請求項2において、前記分析用媒体と同一材料で作られ前記加熱手段と接触配置された温度参照部材と、前記温度参照部材の温度を測定するように接触配置された接触式温度センサとを有し、前記分析用媒体が前記ロータに保持されていない状態において前記ロータの開口部を通して前記温度参照部材の温度を前記サーモパイルで測定可能となるように構成するとともに、前記接触式温度センサの温度検出値と前記サーモパイルの温度検出値を比較し、前記サーモパイルの温度検出値を補正するよう構成したことを特徴とする。
【0016】
本発明の請求項9記載の分析用媒体は、請求項1に記載の分析装置で使用される分析用媒体であって、分析装置の前記サーモパイルでの赤外線受光領域より広い範囲に黒体処理が施されていることを特徴とする。
【0017】
本発明の請求項10記載の分析用媒体は、請求項6に記載の分析装置で使用される分析用媒体であって、温度測定面の法線と前記サーモパイルによって測定される放射赤外線との挟角が略0度となるように前記温度測定面が形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
この構成によれば、分析用媒体の形状、配置や回転数に制約を与えず、かつ、高い温度測定精度を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に、本発明の分析装置の実施の形態を図面とともに詳細に説明する。
(実施の形態1)
図1〜図4は本発明の実施の形態1を示す。
【0020】
図1は本発明の分析装置の断面図である。図2は図1から主要部のみを抽出し記述した斜視図、そして図3は分析用媒体の分析装置への装着時の断面図を示している。
この分析装置のロータ1とシャフト20はロータ保持部材21を介して固着されており、モータ4とシャフト20はカップリング5a,5bにより駆動して連結されている。ロータ1が取り付けられたシャフト20は、軸受け保持部材22に収納されているボールベアリング9a,9bにより支持されている。モータ4は、CPUなどで構成される中央処理部101からの駆動命令に従い、ドライバICなどで構成される駆動制御部102から印加される電流により回転駆動される。
【0021】
分析用媒体3は、血液などに含まれる特定の成分、例えば総コレステロールやグルコースなどの試料を分析装置にセットする媒体で、試料を媒体内に注入するための注入口19と、注入された試料を貯留しておく試料チャンバー18と、試料を移送するための流路17および試薬を含んだ測定チャンバー16がその分析測定項目数に応じて複数配置された構成となっている。
【0022】
また、ロータ1上には分析用媒体3との回転時のバランスをとるためのバランサ2が配置されている。ロータ1および分析用媒体3を含めた回転部分は、上ハウジング6aと下ハウジング6bにより密閉された空間内にあり、加熱手段としてのヒータ12a〜12dによりハウジング空間内が加温できる構成になっている。
【0023】
次に、本発明の分析装置における具体的な試料の測定方法について、分析用媒体3の分析装置への挿入までの手順については図3を用いて説明し、それ以降の手順については図1および図2を用いて説明する。なお、図1や図2には主要部の視覚性を損ねるため便宜上、図3で示している一部の部材(例えば分析用媒体保持部材25など)は省略して記載している。
【0024】
ユーザーは分析装置に分析用媒体3を装着する前に、まず注入口19からシリンジなどで採血した血液をスポイドやピペットなどにより試料チャンバー18に注入する。
そしてユーザーは扉11を開け、それと連動して保持部材回転ヒンジ24を中心に回動するクラムシェルタイプの分析用媒体保持部材25に挿入し(連動機構については図示しない)、扉11を閉じることで分析用媒体3をロータ1上の所定の位置に位置決めピン23を介して保持する。そしてユーザーは測定開始を指示するための操作ボタンなどを配置した操作部108を操作して血液成分の測定を開始する。
【0025】
ユーザーからの命令を中央処理部101で解釈し、駆動制御部102によりモータ4を駆動し分析用媒体3を約3000rpmで2分程度回転させることにより、まず試料チャンバー18中の血液が遠心力を受け血球と血漿に分離する。血球、血漿分離後、モータ4は停止し、分離した血漿のみが毛細管で構成になっている流路17を通して測定チャンバー16の直前まで毛細管力によって移送される。
【0026】
続いてモータ4を1500rpm程度で回転させ、毛細管内に留まっている血漿を測定チャンバー16に導入する。測定チャンバー16に導入された血漿は測定チャンバー16に配置されている酵素、色素、バッファなどで構成される試薬(図示せず)と酵素反応を起こし呈色する。このときモータ4の回転数を例えば500rpmから1500rpmに速度変動させ加速度を印加するとか、時計回り、反時計回りと正逆回転運動を繰り返すことにより溶解や攪拌を促進することが可能である。
【0027】
呈色した反応液は、中央処理部101からの指示で光源制御部103を介して選択的に点灯するLEDやレーザなどの光源8により照射され、ロータ1の開口28と分析用媒体3の測定チャンバー16を通過して、その透過光が検出器7により検出される。検出器7の出力は信号処理部104を介して中央処理部101に読み込まれ、入射光に対する反射光の比率により吸光度を求め、メモリ部109に保持された検量線に基づき特定成分の濃度が中央処理部101で演算され表示部107に表示される。
【0028】
図2では光源として2種類のLEDを記しているが、それぞれ異なる測定項目を測定するために異なる波長のLEDとしており、例えば、総コレステロール測定では530nm、グルコース測定では460nmを使用するようになっており、それぞれの波長に対応した検出器7が準備されている。
【0029】
試薬と血漿との反応は、一般的に温度依存性が高く測定時間や測定精度に影響するため、少なくとも試薬反応を開始してからの温度は一定であることが望ましく、一般的には30℃〜37℃、望ましくは37℃程度の温度が好ましい。そのため、本分析装置では試薬との反応開始時には少なくとも37℃±0.5℃になるようにヒータ12a〜12dの温度制御を行いハウジング空間内の空気温度を管理している。このようにハウジング内の空気温度を一定にすることにより分析用媒体3をムラなく均一に加熱することが可能となる。またヒータ12a〜12dの温度制御においては、回転中の分析用媒体3の温度を監視する必要があることから、温度検出手段としてサーモパイル10が使用されるが、一般的なサーモパイルは応答性が数十ミリ秒から数百ミリ秒と非常に悪く、図に示すような自身には回転中心を持たない分析用媒体3、つまりロータ1の一端に分析用媒体3が載置されるような場合には、サーモパイル10をロータ半径位置のいずれの場所に配置しようとも分析用媒体3が回転中にサーモパイル10の温度検出領域から逸脱し、ロータ1やバランサ2と分析用媒体3が交互にサーモパイル10の温度検出領域に入るようになり精度のよい温度検出ができない。
【0030】
この点を解決するためにこの実施の形態では、サーモパイル10をロータ1の回転中心軸上方に配置し、シャフト20上に分析用媒体にある一定の角度で正対している反射鏡14が固着された反射鏡保持部材13を取り付けることにより、反射鏡14を介してサーモパイル10が常に分析用媒体3からの赤外線放射15を受光できるよう構成されている。
【0031】
サーモパイル10で検出された分析用媒体3の温度を温度データ処理部105で信号処理し中央処理部101を介して温度制御部106に対してフィードバックを行い、加熱時間や加熱温度などのヒータ12a〜12dへの制御を行いハウジング内空気温度を制御し、分析用媒体3が所定の温度にするように動作する。
【0032】
このとき、絶対温度を精度良く測定するためには測定対象物である分析用媒体3から放射される赤外線を受光する角度が重要である。図4は赤外線受光角度(図1中のθ)とそのときの温度測定値の関係を示したグラフであるが、赤外線受光角度θが鈍角になるに従い測定温度結果は真値(本実験では便宜上39.7℃を真値として用いている)から乖離する。このデータを予めメモリ部109に格納されたプログラムに補正係数として記憶しておき、サーモパイル10から出力される信号の温度データ処理部105の結果を補正し、正しい温度値に基づく温度制御を実行することが可能となる。
【0033】
また、反射鏡14は赤外線放射率が極端に小さいためあまり温度測定結果には影響を与えないが、メモリ部109に格納されたプログラム内に補正係数として記憶して補正することでさらに精度のよい測定が可能となる。
【0034】
なお、サーモパイル10は市販されている部材を使用することになるが、測定対象物の材料に応じてサーモパイル10の回路上に備えた可変抵抗で予め出力値を調整しているために、通常は分析装置側では材料による補正は特に必要としない。
【0035】
このように駆動手段であるモータ4と、シャフト20を中心にモータ4により回転するロータ1と、ロータ1上に配置された分析用媒体3と、分析用媒体3を加熱するヒータ12a〜12dと、シャフト20の回転軸線の延長上に配置されたサーモパイル10と、サーモパイル10の出力信号から分析用媒体3の温度を検知する温度データ処理部105と、サーモパイル10と分析用媒体3との間に配置された反射鏡14とからなり、反射鏡14が回転軸線上に分析用媒体3と同期して回転可能で、かつ、分析用媒体3から放射される赤外線をサーモパイル10に導く角度に保持されていることにより、分析用媒体3上の常に同じ箇所の温度測定が可能となり、分析用媒体3の形状に対する自由度が増すとともに、回転速度に関する制限もなく、かつ、温度制御の精度が向上し、延いては測定精度向上が可能となる。
【0036】
具体的には、分析用媒体3内に回転中心軸を含める必要がないために小型、軽量化が可能となり、分析装置の小型化にもなる。また、回転測定に依存せず、回転中も常に精度の高い温度検出が可能で、それに応じた温度制御が可能となるために測定精度が向上する。
【0037】
このように、本発明に係る分析装置およびそれに使用する分析用媒体によると、分析用媒体の形状や回転数に制約を与えず、かつ、高い温度測定精度を実現することを可能とするという特徴を有し、血液、尿、汗などの体液や、工場排水、汚水などの中に含まれる特定成分を分析するための分析装置およびそれに使用する分析用媒体として好適である。
【0038】
(実施の形態2)
図5〜図8は本発明の実施の形態2を示す。
なお、実施の形態1と同様の構成部には同じ符号を用いて詳細な説明は省略する。
【0039】
図5は実施の形態2の分析装置と分析用媒体の主要部の斜視図を示しており、実施の形態1の構成と大きく異なる箇所は、分析用媒体3の温度測定箇所に、サーモパイル10での赤外線受光領域より広い範囲に黒体処理を施し黒体処理部27を有している点であり、現在実用化されている黒体塗装や黒体テープなどをこれらの黒体処理方法として用いることができる。
【0040】
図6は黒体処理を施した際の放射赤外線受光角度依存性を示した図である。
実施の形態1では放射赤外線受光角度に基づく測定結果の補正の実施に関する例を示したが、黒体処理を施すことにより放射赤外線受光角度が70°以下であれば、放射赤外線受光角度の補正の必要がなく、高い精度での温度測定が可能となり補正による誤差を排除できるという利点を有する。
【0041】
なお、この実施の形態では黒体処理部27を分析用媒体3の一部としているが、測定チャンバー16を除く全面であってもよく、分析装置に加熱手段を有する場合においては分析用媒体3の熱吸収性が向上し、効率よく加温することができるという効果が得られる。
【0042】
また、図7に示した例では、さらに測定チャンバー16の投影面積より少し小さい開口制限部29および試料注入口19を除く表面に黒体処理部27(斜線部)を設けた分析用媒体3を示しており、この構成によると、図8で示しているようにロータ1に測定チャンバー16の直径より大径の開口28を設けた場合であっても、測定チャンバー16からの透過光30のみを取得できるようになるため、ロータ1の製造が容易となるという別の効果をもたらす。具体的には、検体量を極小化したいため測定チャンバー16はφ1〜φ2程度であって、図1などに示した開口28の大きさはφ0.6〜φ1.6程度と小径にしなければならず、製造上プレスのパンチが壊れやすいという欠点があるが、図7に示したように測定チャンバー16の投影面積より少し小さい開口制限部29および試料注入口19を除く表面に黒体処理部27を設けることで、ロータ1の開口28としては測定チャンバー16よりも大径であっても測定することができ、ロータ1の開口28のパンチ加工が容易である。
【0043】
(実施の形態3)
図9は本発明の実施の形態3を示す。
なお、実施の形態1と同様の構成部には同じ符号を用いて詳細な説明は省略する。
【0044】
実施の形態1の構成と大きく異なるところは、シャフト20の回転中心軸上に設けられサーモパイル10に対向する第1の反射鏡としての反射鏡14に加え、分析用媒体3に対向する第2の反射鏡としての反射鏡26を設けた点である。
【0045】
このように、サーモパイル10と分析用媒体3との間に配置された反射鏡14,26のうちのサーモパイル10に最も近い方の反射鏡14が、シャフト20の回転軸線上に分析用媒体3と同期して回転可能で、かつ、分析用媒体3から放射される赤外線をサーモパイル10に導く角度θに保持することによって、分析用媒体3の温度測定面とその法線と測定すべき放射赤外線とのなす角度を略0°とすることができ、放射赤外線受光角度による補正が必要なくより精度の高い測定が可能となるという利点を有する。
【0046】
なお、さらに反射鏡14と反射鏡26との間に集光レンズを配置することで、サーモパイルへの赤外線入射領域を小さくすることができ、装置の小型化に有利となる。
(実施の形態4)
図10と図11は本発明の実施の形態4示す。
【0047】
なお、実施の形態1と同様の構成部には同じ符号を用いて詳細な説明は省略する。
実施の形態1の構成と大きく異なる点は、分析用媒体3の温度測定面の法線とサーモパイル10によって測定される放射赤外線との挟角が約0°となるように分析用媒体3の温度測定面31が形成されている点である。
【0048】
このように構成することにより実施の形態2で説明した放射赤外線受光角度による補正が必要なくなり、より精度の高い測定が可能となるという利点を有する。
(実施の形態5)
図12と図13は本発明の実施の形態5を示す。
【0049】
なお、実施の形態1と同様の構成部には同じ符号を用いて詳細な説明は省略する。
実施の形態1の構成と大きく異なる点は、ロータ1にヒータ12bからの放射赤外線をサーモパイル10が受光できるように開口部34が設けられている点とヒータ12bと接触して配置された接触式温度センサとしての接触式温度センサとしての温度センサ35が設けられている点である。
【0050】
この分析装置では、分析用媒体3がロータ1に保持されていない状態において、ロータ1の開口部34を通してヒータ12bの温度をサーモパイル10で測定するように構成されており、温度センサ35の温度検出値とサーモパイル10の温度検出値およびヒータ12bと分析用媒体3との放射率の違いからサーモパイル10の温度検出値を補正する。
【0051】
具体例の処理を図13に基づいて説明する。
長期使用による反射鏡14の変質、汚れなどで反射鏡14の放射率が使用初期と変動した場合などの温度測定絶対値の補償を行うことを目的として、ステップS201〜ステップS212を実施する。
【0052】
分析装置を使用する日の最初のキャリブレーションとして、ステップS201で分析装置の電源を投入する。
ステップS202では、ロータ1を所定の位置に移動して停止する。ここで所定の位置は、ロータ1の開口部34を通してヒータ12bの温度をサーモパイル10で測定する位置である。
【0053】
ステップS203とステップS204では、分析用媒体3(図12中には図示されず)がロータ1に載置されていない状態でヒータ12bを、温度センサ35での検出温度が30℃になるように温度制御し、温度センサ35での検出温度が30℃になったときのサーモパイル10によるヒータ12bの検出温度をステップS205で読み取って、温度センサ35との絶対値の差を中央処理部101で演算しメモリ部109で記憶する。
【0054】
ステップS206〜ステップS208では、同様にステップS202の位置にロータ1を停止させた状態で、今度はヒータ12bを、温度センサ35での検出温度が35℃になるように温度制御し、温度センサ35での検出温度が35℃になったときのサーモパイル10によるヒータ12bの検出温度をステップS205で読み取って、温度センサ35との絶対値の差を中央処理部101で演算しメモリ部109で記憶する。
【0055】
ステップS209〜ステップS211では、同様にステップS202の位置にロータ1を停止させた状態で、今度はヒータ12bを、温度センサ35での検出温度が40℃になるように温度制御し、温度センサ35での検出温度が40℃になったときのサーモパイル10によるヒータ12bの検出温度をステップS205で読み取って、温度センサ35との絶対値の差を中央処理部101で演算しメモリ部109で記憶する。
【0056】
ステップS212では、このステップS205,ステップS208およびステップS211で求めることが出来た温度センサ35での検出温度が30℃,35℃,40℃におけるサーモパイル10の実際の検出特性の差と、メモリ部109に予め記憶されているヒータ12bと分析用媒体3の放射率の違いに基づいて、回帰分析を行って、サーモパイル10の検出温度を入力して分析用媒体3の正確な温度を算出できる近似式を計算し、この近似式をメモリ部109で記憶する。
【0057】
このステップS202〜ステップS212のルーチンを完了すると、分析用媒体3をロータ1にセットし、ステップS202でのロータ1の停止を解除して試料の成分分析のルーチンを実行し、試料の成分分析実行中のサーモパイル10の検出温度を、ステップS212でメモリ部109に記憶させた近似式を読み出してこの近似式で補正した分析用媒体3の温度が目標温度に近づくようにヒータ12a〜12dへの通電を制御する。
【0058】
(実施の形態6)
図14は本発明の実施の形態6の分析装置の断面図を示しており、実施の形態5と同様の構成部には同じ符号を用いて詳細な説明は省略する。実施の形態5の構成と大きく異なる点は、分析用媒体3(図14には図示されず)と同じ材料で作られた温度参照用部材36をヒータ12bに上に配置するとともに、温度参照用部材36の温度を測定するための温度センサ35が設けられている点である。
【0059】
この分析装置では、分析用媒体3がロータ1に保持されていない状態においてロータ1の開口部34を通して温度参照部材36の温度をサーモパイル10で測定するように構成されており、図12での説明と同様に温度の補正係数を得、サーモパイル10の温度検出値を補正する。ただし、分析用媒体3と温度参照用部材36とは同じ材料で作られているので放射率の補正は加味する必要がないため放射率設定値の誤差による精度悪化が避けられより精度よい温度測定が可能となる。
【0060】
なお、上記の各実施の形態では、ヒータ12はPETフィルム上に抵抗体などを施した面状のヒータを想定したものであるが、他の面状のヒータ、例えば、マイカにニクロム線を巻き付けたマイカヒータなど、あるいは、局所的な加熱となるランプ類などの発光体を用いる場合は、ハウジング内の熱を循環させるようなファンとの併用で代用することが可能である。
【0061】
また上記の各実施の形態では、モータ4からのロータ1への駆動伝達方式としてカップリング5a,5bを用いたダイレクトドライブ方式として示したが、ギアやベルトなどによる駆動伝達方式であってもよい。
【0062】
また上記の各実施の形態では、試料として血液を用いて説明したが測定結果が温度に依存するような化学反応などを伴う分析であれば適用でき、特に試料に関して制限されるものではない。
【0063】
また上記の各実施の形態では、測定方式として透過吸光度を用いて説明してきたが、反射光による吸光度測定であっても構わないし、蛍光検出など他の測定方式であってももちろん支障はない。
【0064】
上記の各実施の形態では、分析用媒体3の構成としては注入口19、試料チャンバー18、流路17および測定チャンバー16として説明したが、希釈液や、攪拌チャンバーなど分析に必要な要素をさらに構成してもよく、逆に不要な要素は省いて分析用媒体3を構成してもよい。
【0065】
上記の各実施の形態では、加熱手段が備わった分析装置における例を示したが、分析用媒体3の温度を検出することのみが必要で、その測定温度の結果を用いて試料の測定結果などが補正可能な測定項目の場合には特に加熱手段は必要ない。
【0066】
上記の各実施の形態では、分析用媒体3はそれ自身には回転中心を持たずロータ1の一部に配置されるような形状として説明したが、ハウジング内の空気温度を一定に加熱し、分析用媒体3を加熱するような構成の場合には分析用媒体3の面内の温度ムラは少ないため、分析用媒体3自身に回転中心を持つような、例えば回転中心を有する円盤状の媒体であっても構成は可能である。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明は、各種分析装置の小型、軽量化、ならびに測定精度の向上に寄与できる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の実施の形態1における分析装置の断面図
【図2】同実施の形態の分析装置の主要部斜視図
【図3】同実施の形態の分析装置に分析用媒体をセットする工程の断面図
【図4】同実施の形態の放射赤外線受光角度と温度測定値との関係図
【図5】本発明の実施の形態2における分析装置および分析用媒体の主要部斜視図
【図6】同実施の形態の放射赤外線受光角度と温度測定値との関係図
【図7】同実施の形態の黒体処理による開口制限を備えた分析用媒体の斜視図
【図8】同実施の形態の黒体処理による開口制限を備えた分析用媒体および分析装置の断面図
【図9】本発明の実施の形態3における分析装置および分析用媒体の断面図
【図10】本発明の実施の形態4における分析装置および分析用媒体の断面図
【図11】同実施の形態の分析装置および分析用媒体の主要部斜視図
【図12】本発明の実施の形態5における分析装置の断面図
【図13】同実施の形態における温度検出値補正方法のフローチャート
【図14】本発明の実施の形態6における分析装置の断面図
【符号の説明】
【0069】
1 ロータ
2 バランサ
3 分析用媒体
4 モータ
5a,5b カップリング
6a 上ハウジング
6b 下ハウジング
7 検出器
8 光源
9a,9b ボールベアリング
10 サーモパイル
11 扉
12a,12b,12c,12d ヒータ
13 反射鏡保持部材
14 反射鏡
15 放射赤外線
16 測定チャンバー
17 流路
18 試料チャンバー
19 試料注入口
20 シャフト(軸)
21 ロータ保持部材
22 軸受け保持部材
23 位置決めピン
24 保持部材回転ヒンジ
25 分析用媒体保持部材
26 第2の反射鏡
27 黒体処理部
28 開口
29 黒体処理による開口制限部
30 透過光
31 温度測定面
34 ロータ上の開口部
35 温度センサ(接触式温度センサ)
36 温度参照用部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸を中心に回転するロータの上に分析用媒体をセットし、分析測定中の前記分析用媒体の温度を検出して制御する分析装置であって、
前記軸の延長上に配置されたサーモパイルと、
前記サーモパイルの出力信号から前記分析用媒体の温度を検出する信号処理手段と、
前記サーモパイルと前記分析用媒体との間に配置された少なくとも1つの反射鏡とを備え、
前記反射鏡のうち前記サーモパイルに最も近い反射鏡が前記軸の線上に前記分析用媒体と同期して回転可能で、かつ、前記分析用媒体から放射される赤外線を前記サーモパイルに導く角度に保持されている
分析装置。
【請求項2】
前記分析用媒体を加熱する加熱手段を有している
請求項1に記載の分析装置。
【請求項3】
前記加熱手段が、前記サーモパイルによる温度測定の結果にもとづき制御されるよう構成した
請求項2に記載の分析装置。
【請求項4】
前記分析用媒体の温度測定面の法線と測定される放射赤外線との挟角との関係に対応した温度補正値により、前記サーモパイルから得た検出温度を補正して温度測定結果を得るよう構成した
請求項1に記載の分析装置。
【請求項5】
前記分析用媒体の温度測定面の法線と前記サーモパイルによって測定される放射赤外線との挟角が70°以下になるように構成した
請求項1に記載の分析装置。
【請求項6】
前記分析用媒体の温度測定面の法線と前記サーモパイルによって測定される放射赤外線との挟角が略0°となるように前記分析用媒体の温度測定面が形成されている
請求項1に記載の分析装置。
【請求項7】
前記加熱手段の温度を検出する接触式温度センサを有し、前記分析用媒体が前記ロータに保持されていない状態において前記ロータの開口部を通して前記加熱手段の温度を前記サーモパイルで測定可能となるように構成するとともに、前記接触式温度センサの温度検出値と前記サーモパイルの温度検出値および前記加熱手段と前記分析用媒体との放射率の違いから前記サーモパイルの温度検出値を補正するようにした
請求項2に記載の分析装置。
【請求項8】
前記分析用媒体と同一材料で作られ前記加熱手段と接触配置された温度参照部材と、
前記温度参照部材の温度を測定するように接触配置された接触式温度センサと
を有し、前記分析用媒体が前記ロータに保持されていない状態において前記ロータの開口部を通して前記温度参照部材の温度を前記サーモパイルで測定可能となるように構成するとともに、前記接触式温度センサの温度検出値と前記サーモパイルの温度検出値を比較し、前記サーモパイルの温度検出値を補正するよう構成した
請求項2に記載の分析装置。
【請求項9】
請求項1に記載の分析装置で使用される分析用媒体であって、
分析装置の前記サーモパイルでの赤外線受光領域より広い範囲に黒体処理が施されている
分析用媒体。
【請求項10】
請求項6に記載の分析装置で使用される分析用媒体であって、
温度測定面の法線と前記サーモパイルによって測定される放射赤外線との挟角が略0°となるように前記温度測定面が形成されている
分析用媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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