説明

分析装置

【課題】鉛直方向へ移動させる移動手段を用いなくても蓋を開けることが可能であり、かつ、搬送時であっても試料が配置された密閉空間の気密性を確保可能な分析装置を提供する。
【解決手段】分析試料を保持する試料台、及び、試料台に保持された分析試料を少なくとも覆う蓋を備え、蓋によって覆われた空間が密閉され、密閉された空間内の圧力をP1、蓋を境に該空間と隣接する隣接空間の圧力をP2、とするとき、分析試料の分析が開始されるまでに、P2<P1とされ、少なくとも圧力差P1−P2に起因する力Fを受けた蓋が動くことによって空間の密閉が解除されるように、蓋の質量が決定されている、分析装置とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分析装置に関し、特に、試料が配置された空間と当該空間の外側に位置する空間とを画定する蓋を、容易に開けることが可能な分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
分析装置を用いて、反応性の高い試料(以下において、単に「試料」という。)を分析する場合、試料ホルダに配置された試料は、減圧環境や不活性ガス環境等に密閉される。その後、密閉空間に配置された試料を備える試料ホルダが、分析装置にセットされ、密閉空間を形成していた部材(例えば、密閉空間と当該密閉空間の外側の空間とを区画する蓋等。以下において「蓋」という。)が取り除かれる等の過程を経て、試料の分析が行われる。それゆえ、試料の分析前に取り除かれる蓋を有する試料ホルダが用いられる場合には、蓋を取り除く手段を有する試料ホルダ及び/又は分析装置が使用される。
【0003】
このような試料ホルダや分析装置等に関連する技術として、例えば特許文献1には、分析用試料を保持する試料ホルダと、その試料ホルダに被せられ分析試料を大気と隔離して密閉し試料ホルダを内置する試料導入室の外部から操作して開閉もしくは着脱可能な試料蓋と、その試料蓋または試料ホルダにリリーフ弁とを備えることを特徴とする搬送用試料容器が開示されている。そして、特許文献1には、分析室の手前に位置する試料導入室へ搬送用試料容器をセットした後、試料蓋の上方に位置するつまみの先端についている着脱雄ネジを試料蓋の着脱ネジに入れて、試料蓋を上方に取り外す形態が開示されている。また、特許文献2には、逆止弁つき排気バルブを有してボックス本体の上面に凹設した試料ポケットと、開放付勢ばねを有して試料ポケットの上方開口部を気密閉鎖可能の蓋板とを備え、試料ポケット内が概ね真空状態にして、かつ、試料ポケット外が概ね1気圧の圧力関係において蓋板が閉鎖気密状態を維持すると共に、試料ポケットの内外圧が概ね均衡した圧力関係において(すなわち、特許文献2に係る試料ボックスが真空状態の測定環境に導入された状況下において)、蓋板が付勢ばねの付勢力によって自動開放可能に構成された構造を特徴とする試料ボックスが開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開2001−153760号公報
【特許文献2】特開平11−201920号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されている技術には、試料導入室の外部から操作して開閉若しくは着脱可能な試料蓋が備えられている。そのため、試料分析室のほかに試料導入室が備えられ、かつ、試料蓋を鉛直方向へ移動させる移動手段が備えられる分析装置に適用される場合には、特許文献1に開示されている搬送用試料容器を用いても、蓋を開けることが可能になる。ところが、特許文献1に開示されている搬送用試料容器は、試料導入室が備えられない分析装置や、試料蓋を鉛直方向へ移動させる移動手段が備えられない分析装置に適用されると、蓋を開けることができない、という問題があった。なお、特許文献1に開示されている搬送用試料容器にはリリーフ弁が備えられている。そのため、真空排気により減圧された試料分析室に当該搬送用試料容器を配置した場合にも、分析試料が保持された空間と試料分析室との間に圧力差は生じない。一方、特許文献2に開示されている技術によれば、真空状態とされた測定環境で、蓋を自動的に開放することが可能になる。ところが、特許文献2に開示された技術では、試料ポケット内を真空状態に維持したまま、試料ボックスを試料分析室へ搬送する必要がある。そのため、特許文献2に開示されている技術には、(1)搬送時に密閉空間の気密性を確保し難い、(2)真空状態を維持するための押付力が搬送時に緩むことがある、(3)試料ポケット内を真空状態にするため、試料が粉末状である場合には飛散しやすい、等の問題があった。
【0006】
そこで本発明は、鉛直方向へ移動させる移動手段を用いなくても蓋を開けることが可能であり、かつ、搬送時であっても試料が配置された密閉空間の気密性を確保可能な、分析装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段をとる。すなわち、
本発明は、分析試料を保持する試料台、及び、試料台に保持された分析試料を少なくとも覆う蓋を備え、蓋によって覆われた空間が密閉され、密閉された空間内の圧力をP1、蓋を境に上記空間と隣接する隣接空間の圧力をP2、とするとき、分析試料の分析が開始されるまでに、P2<P1とされ、少なくとも圧力差P1−P2に起因する力Fを受けた蓋が動くことによって上記空間の密閉が解除されるように、蓋の質量が決定されていることを特徴とする、分析装置である。
【0008】
ここに、「試料台に保持された分析試料を少なくとも覆う蓋」とは、試料台及び蓋を用いて、分析試料が保持された空間を密閉可能な形態で、蓋が配置されることをいう。さらに、「蓋を境に上記空間と隣接する隣接空間」とは、分析試料が配置されている密閉された空間(以下において「密閉空間」ということがある。)を画定していた蓋が開放された場合に、これまで密閉されていた空間と連通する空間をいう。当該隣接空間の具体例としては、分析試料の分析が行われる分析装置内の試料分析室のほか、特許文献1に開示されている試料導入室に相当する部屋が分析装置に備えられている場合には、当該試料導入室等を挙げることができる。さらに、P1は特に限定されるものではないが、密閉空間の気密性を容易に確保可能な形態とする等の観点からは、常圧とすることが好ましい。さらに、P2は、P1未満の圧力であれば特に限定されるものではなく、例えば、真空排気を伴う分析装置(例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)、X線光電子分光分析装置(XPS)等)で分析試料を分析する際における、試料分析室の圧力(例えば、50kPa以下の圧力)とすることができる。さらに、「少なくとも圧力差P1−P2に起因する力Fを受けた蓋が動くことによって上記空間の密閉が解除されるように蓋の質量が決定されている」とは、蓋には少なくとも力Fが働き、かつ、蓋を外部から操作しなくても空間の密閉が解除されるように蓋の質量が決定されていることをいう。
【0009】
また、上記本発明において、力F及び重力を受けることによって蓋が試料台から外れるように構成することができる。
【0010】
ここに、「蓋が試料台から外れる」とは、力F及び重力を受けた蓋が試料台から外れることにより密閉空間が開放され、試料台に保持された分析試料の分析が蓋によって妨げられない形態になることをいう。
【0011】
また、力F及び重力を受けることにより、蓋が試料台から外れるように構成されている上記本発明において、蓋の重心が、蓋の鉛直方向における長さの中心から鉛直方向下方へずれていることが好ましい。
【0012】
また、上記本発明において、さらに、少なくとも力Fを受けた蓋を、水平面と平行な方向へ移動可能な移動手段が備えられることが好ましい。
【0013】
以下において、「少なくとも力Fを受けた蓋」とは、P2<P1とされた後の蓋をいう。さらに、「少なくとも力Fを受けた蓋を、水平面と平行な方向へ移動可能な移動手段」とは、少なくとも力Fを受けて動くことにより空間の密閉が解除された後の蓋を、水平面と平行な方向へ移動させることが可能な移動手段をいう。
【0014】
また、上記本発明において、さらに、少なくとも力Fを受けた蓋が鉛直面と交差する方向へ移動可能なように配置されるとともに、蓋と接触する接触部材が備えられ、少なくとも力Fを受けた蓋が、接触部材と接触しながら動くように構成することができる。
【0015】
また、少なくとも力Fを受けた蓋が、接触部材と接触しながら動くことにより、上記空間の密閉が解除されるように構成されている上記本発明において、蓋と接触部材との間に働く摩擦力を低減させる低減手段を有することが好ましい。
【0016】
また、少なくとも力Fを受けた蓋が、接触部材と接触しながら動くことにより、上記空間の密閉が解除されるように構成されている上記本発明において、さらに、P2<P1とされた後に、蓋と接触している接触部材と試料台との距離を増大させる、距離増大手段が備えられていても良い。
【0017】
また、少なくとも力Fを受けた蓋が、接触部材と接触しながら動くことにより、上記空間の密閉が解除されるように構成されている上記本発明において、鉛直面と交差する方向を水平方向とすることができる。
【0018】
また、上記本発明において、さらに、力Fの発生前後に亘って試料台と蓋とを連結する連結部が備えられ、連結部は、少なくとも、蓋が試料台に対して回動する際に回転軸として機能する軸部を有し、少なくとも力Fを受けた蓋が軸部を中心にして回動した後に、分析試料の分析が行われることが好ましい。
【0019】
また、連結部が備えられる上記本発明において、さらに、試料台から離れる方向へと向かう、少なくとも力Fを受けた蓋の動きを許容する許容部が、連結部に備えられていても良い。
【0020】
また、連結部が備えられる上記本発明において、さらに、試料台を傾ける傾斜手段が備えられることが好ましい。
【0021】
また、連結部が備えられる上記本発明において、さらに、回動した蓋を受け止める受け部が備えられることが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、圧力差P1−P2に起因する力Fを用いて蓋を開けることができるので、鉛直方向へ移動させる移動手段を用いなくても蓋を開けることが可能な分析装置を提供することができる。さらに、本発明によれば、例えば、圧力P1を常圧とする(分析試料が保持された空間を常圧P1の環境下で密閉する)ことにより、搬送時に密閉空間へ外気が侵入する事態を抑制でき、密閉空間の気密性を確保することが可能になる。したがって、本発明によれば、鉛直方向へ移動させる移動手段を用いなくても蓋を開けることが可能であり、かつ、搬送時であっても分析試料が配置された密閉空間の気密性を確保可能な分析装置を提供することができる。そのため、本発明によれば、大気による汚染が抑制された分析試料を分析することが可能な分析装置を提供することができる。また、本発明によれば、例えば、圧力P1を常圧とすることにより、飛散しやすい分析試料であっても容易に分析することが可能な、分析装置を提供することもできる。
【0023】
また、本発明において、力F及び重力を受けた蓋が試料台から外れる形態とすることにより、力F及び蓋の自重を用いて蓋を試料台から外すことができるので、上記効果に加え、さらに分析試料を容易に分析することが可能な、分析装置を提供することができる。
【0024】
また、力F及び重力を受けた蓋が試料台から外れるように構成されている本発明において、蓋の重心が、蓋の鉛直方向における長さの中心から鉛直方向下方へずれていることにより、力F及び重力を受けた蓋を試料台から外しやすい形態とすることができる。
【0025】
また、本発明において、少なくとも力Fを受けて動いた蓋を水平面と平行な方向へ移動可能な移動手段が備えられることにより、分析試料の分析が開始されるまでに、蓋を確実に取り除くことが可能になる。
【0026】
また、本発明において、少なくとも力Fを受けた蓋が接触部材と接触しながら動く形態とすることにより、蓋の自重を用いなくとも蓋を試料台から外すことが可能な分析装置を提供することができる。
【0027】
また、少なくとも力Fを受けた蓋が接触部材と接触しながら動くことによって、分析試料が保持されている空間の密閉が解除される本発明において、蓋と接触部材との間に働く摩擦力を低減させる低減手段が備えられることにより、蓋を試料台から外すことが容易になる。
【0028】
また、少なくとも力Fを受けた蓋が接触部材と接触しながら動くことによって、分析試料が保持されている空間の密閉が解除される本発明において、P2<P1とされた後に、蓋と接触している接触部材と試料台との距離を増大させる距離増大手段が備えられることにより、蓋を試料台から確実に外すことが可能な分析装置を提供することができる。
【0029】
また、少なくとも力Fを受けた蓋が接触部材と接触しながら動くことによって、分析試料が保持されている空間の密閉が解除される本発明において、少なくとも力Fを受けた蓋が水平方向へ移動可能なように配置されることにより、蓋を試料台から外すことが容易になる。
【0030】
また、本発明において、軸部を有する連結部が備えられ、少なくとも力Fを受けた蓋が軸部を中心に回動する過程を経た後に分析試料の分析が行われる形態とすることにより、上記効果に加えて、蓋の飛び出しや落下によって分析試料及び測定系を傷つける危険性を低減することが可能な、分析装置を提供することができる。さらに、当該形態とすることにより、開けた蓋を閉めることが可能になるので、分析された分析試料を容易に回収することが可能な、分析装置を提供することができる。
【0031】
また、軸部を有する連結部が備えられ、少なくとも力Fを受けた蓋が軸部を中心に回動する過程を経て、分析試料が保持されている空間の密閉が解除される本発明において、連結部に許容部が備えられることにより、回動前に試料台から離れる方向へ向かう蓋の動きを許容することができる。そのため、かかる形態とすることにより、少なくとも力Fを受けた蓋が動きやすい分析装置を提供することができる。
【0032】
また、軸部を有する連結部が備えられ、少なくとも力Fを受けた蓋が軸部を中心に回動する過程を経て、分析試料が保持されている空間の密閉が解除される本発明において、試料台を傾ける傾斜手段が備えられることにより、蓋を容易に開閉することが可能な、分析装置を提供することができる。
【0033】
また、軸部を有する連結部が備えられ、少なくとも力Fを受けた蓋が軸部を中心に回動する過程を経て、分析試料が保持されている空間の密閉が解除される本発明において、回動した蓋を受け止める受け部が備えられることにより、開けた蓋を容易に閉めることが可能な、分析装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、図面を参照しつつ、本発明について説明する。なお、以下の形態は本発明の例示であり、本発明は以下の形態に限定されるものではない。
【0035】
1.第1実施形態
図1は、第1実施形態にかかる本発明の分析装置100に備えられるサンプルホルダ10の形態を概略的に示す図である。図1の紙面上下方向が、鉛直方向である。図1に示すように、サンプルホルダ10は、試料台1と、該試料台1に被せられる蓋2と、試料台1を固定する基台3と、を備え、蓋2は、通気孔4を有している。サンプルホルダ10に、反応性の高い分析試料5をセットする際には、例えば、Arガス等に代表される不活性雰囲気中、常圧P1(以下において「圧力P1」ということがある。)の環境下で、試料台1に分析試料5を配置する。その後、Oリング6が嵌め込まれた試料台1に蓋2を被せ、蓋2の通気孔4をシール7で塞ぐことにより、分析試料5が保持された空間8を、試料台1、蓋2、Oリング6、及び、シール7を用いて密閉する。このようにして空間8が密閉されるため、サンプルホルダ10によれば、分析試料5が保持された密閉空間8への大気の侵入を抑制することが可能になる。
【0036】
図2は、図1に示すサンプルホルダ10を備える分析装置100の形態を概略的に示す図である。図3は、蓋2が持ち上がったサンプルホルダ10の形態を概略的に示す図である。図3の紙面上下方向が鉛直方向である。分析装置100を用いて分析試料5を分析するには、サンプルホルダ10を分析装置100の分析室90へセットした後、真空排気することにより、分析室90を減圧し、分析室90の圧力をP2(<P1)にする。このようにして分析室90の圧力がP2にされると、分析試料5が保持された密閉空間8の圧力P1が、分析室90の圧力P2よりも大きいため、蓋2には、少なくとも圧力差P1−P2に起因する力Fが作用する。ここで、蓋2の質量は、圧力差P1−P2に起因する力Fを受けた蓋2が動くことによって空間8の密閉が解除されるように決定されている。そのため、分析装置100によれば、外部操作をしなくても、力Fを用いて蓋2を持ち上げることができ、これによって、空間8の密閉を解除することができる(図3参照)。分析装置100では、空間8の密閉が解除された後に、分析試料5が分析される。
【0037】
このように、分析装置100によれば、分析室90と空間8との圧力差P1−P2に起因する力Fを用いて蓋2を開けることができる。そのため、特許文献1に開示されているような鉛直方向へ動作可能な移動手段や、蓋を開けるための準備室が備えられていなくても、本発明の分析装置100によれば、密閉空間8を画定している蓋2を開放することができる。そして、本発明の分析装置100では、密閉空間8の圧力をP1とすることにより、当該空間8を真空状態にした場合と比較して、密閉空間8への大気の流入を抑制することができ、分析室90の圧力をP2へと低減することによって蓋2を開けることができる。そのため、本発明の分析装置100によれば、外気によるサンプルの汚染を抑制することができ、反応性の高い試料を分析することが可能になる。加えて、本発明の分析装置100では、常圧P1の環境下で空間8が密閉されるので、分析試料5が飛散しやすいもの(例えば、ナノ粒子等の粉末サンプル)であっても、容易に分析することができる。
【0038】
分析装置100において、空間8の密閉が解除された後に分析試料5を分析しやすい形態にする等の観点からは、空間8の密閉が解除された後に、蓋2が分析試料5の分析の妨げにならない位置へ配置されることが好ましい。かかる観点から、少なくとも力Fを受けた蓋2が移動しやすい形態とすることが好ましく、例えば、力Fを受けた蓋2の飛び上がりを容易にする程度に、蓋2の重さを軽くすることが好ましい。
【0039】
2.第2実施形態
図4は、第2実施形態にかかる本発明の分析装置に備えられるサンプルホルダ20の形態を概略的に示す図である。図5は、サンプルホルダ20の蓋2が試料台1から外れる様子を示す図である。図4及び図5の紙面上下方向が、鉛直方向である。図4及び図5において、図1〜図3と同様の構成を採るものには、これらの図で使用した符号と同符号を付し、その説明を適宜省略する。以下、図4及び図5を参照しつつ、第2実施形態にかかる本発明の分析装置について説明する。
【0040】
図4及び図5に示すように、サンプルホルダ20は、分析試料5を保持する面が鉛直面となるように傾けて配置された試料台1と、該試料台1に被せられる蓋2と、試料台1を固定する基台3と、を備えている。サンプルホルダ20に分析試料5をセットする手順、及び、分析試料5がセットされたサンプルホルダ20を第2実施形態にかかる分析装置へセットする手順は、第1実施形態にかかる分析装置100と同様にすることができる。第2実施形態にかかる分析装置(以下、本段落において単に「分析装置」ということがある。)を用いて分析試料5を分析するには、サンプルホルダ20を分析装置の分析室へセットした後、真空排気することにより、分析室を減圧し、当該分析室の圧力をP2にする。このようにして分析室の圧力がP2にされると、分析試料5が保持された空間8の圧力P1が、分析室の圧力P2よりも大きいため、蓋2には、少なくとも圧力差P1−P2に起因する力Fが作用する。ここで、蓋2の質量は、少なくとも圧力差P1−P2に起因する力Fを受けた蓋2が動くことによって空間8の密閉が解除されるように決定されている。そのため、第2実施形態にかかる分析装置によれば、力Fを用いて、試料台1から遠ざかる向きへ蓋2を移動させることができ、これによって、空間8の密閉を解除することができる。さらに、第2実施形態にかかる分析装置に備えられるサンプルホルダ20は、試料台1が傾けて配置されているので、試料台1から遠ざかる向きへと移動した蓋2は、その後、自重によって試料台1の下方へと落下する(図5参照)。このように、サンプルホルダ20を備える第2実施形態にかかる分析装置によれば、力F及び蓋2の自重を用いて蓋2を試料台1から外すことができるので、分析試料5を容易に分析することが可能になる。
【0041】
第2実施形態にかかる分析装置において、少なくとも力Fを受けた蓋2が試料台1から外れやすい形態にする等の観点からは、蓋2の重心が、該蓋2の鉛直方向における長さの中心から鉛直方向下方へずれていることが好ましい。かかる形態とすることにより、蓋2が試料台1の下方へと落下しやすくなるので、少なくとも力Fを受けた蓋2が試料台1から外れやすい形態とすることが可能になる。ここで、蓋2の重心を鉛直方向における長さの中心から鉛直方向下方へとずらす手段としては、鉛直方向における長さの中心から鉛直方向下方に位置する蓋2の部位の肉厚を、鉛直方向上方に位置する蓋2の部位の肉厚よりも厚くする、又は、鉛直方向における長さの中心から鉛直方向下方に位置する部位に重りを余分に取り付ける、等の手段を例示することができる。
【0042】
さらに、第1実施形態にかかる分析装置100及び第2実施形態にかかる分析装置において、分析試料5の分析の妨げにならない位置へ蓋2を確実に配置可能な形態にする等の観点からは、上記構成に加え、さらに、少なくとも力Fを受けて動いた蓋2を水平面と平行な方向へ移動可能な移動手段(不図示)が備えられる形態とすることが好ましい。第二実施形態にかかる分析装置に、分析試料が保持されたサンプルホルダを水平面と平行な方向へ移動可能な機構(以下において「搬送アーム」ということがある。)が備えられる場合、当該搬送アームを、第2実施形態にかかる分析装置の移動手段として機能させることができる。
【0043】
3.第3実施形態
図6は、第3実施形態にかかる本発明の分析装置に備えられるサンプルホルダ20及び接触部材31の形態を概略的に示す図である。図7は、接触部材31に接触しながら試料台1から遠ざかる蓋2の様子を示す図である。図6及び図7の紙面上下方向が、鉛直方向である。図6及び図7において、図1〜図5と同様の構成を採るものには、これらの図で使用した符号と同符号を付し、その説明を適宜省略する。以下、図6及び図7を参照しつつ、第3実施形態にかかる本発明の分析装置について説明する。
【0044】
図6及び図7に示すように、サンプルホルダ20は、分析試料5を保持する面が鉛直面となるように傾けて配置された試料台1と、該試料台1に被せられる蓋2と、試料台1を固定する基台3と、を備えている。蓋2と接触するように配置された接触部材31は、複数のロール状部材31a、31a、…を備えている。サンプルホルダ20に分析試料5をセットする手順は、第1実施形態にかかる分析装置100と同様にすることができる。第3実施形態にかかる分析装置(以下、本段落において単に「分析装置」という。)を用いて分析試料5を分析するには、分析試料5が保持されたサンプルホルダ20と接触部材31とが図6に示す配置となるように、分析室へサンプルホルダ20をセットする。その後、真空排気することにより、分析室を減圧し、当該分析室の圧力をP2にする。このようにして分析室の圧力がP2にされると、分析試料5が保持された空間8の圧力P1が、分析質の圧力P2よりも大きいため、蓋2には、少なくとも圧力差P1−P2に起因する力Fが作用する。ここで、蓋2の質量は、少なくとも圧力差P1−P2に起因する力Fを受けた蓋2が動くことによって空間8の密閉が解除されるように決定されている。そのため、第3実施形態にかかる分析装置によれば、力Fを用いて、試料台1から遠ざかる向きへ蓋2を移動させることができ、これによって、空間8の密閉を解除することができる。ここで、試料台1から遠ざかる向きへと移動した蓋2は接触部材31と接触している。そのため、少なくとも力Fを受けて動いた蓋2は、その後、接触部材31を構成するロール状部材31a、31a、…と接触しながら、接触部材31の表面を移動することにより、試料台1から遠ざかる(図7参照)。このように、第3実施形態にかかる分析装置によれば、力Fを用いて動かした蓋2を、接触部材31に接触させながら、試料台1から遠ざかる向きへと移動させることができるので、分析試料5を容易に分析することが可能になる。
【0045】
第3実施形態にかかる分析装置において、力Fを受けて動いた蓋2が、接触部材31の表面を移動しやすい形態にする等の観点からは、さらに、蓋2と接触部材31との間に働く摩擦力を低減させる低減手段が備えられることが好ましい。当該低減手段の具体例としては、公知の潤滑剤等を例示することができる。
【0046】
さらに、第3実施形態にかかる分析装置において、分析試料5の分析を容易に行い得る形態とする等の観点からは、力Fを受けて動いた蓋2と試料台1との距離を容易に増大させ得る形態とすることが好ましい。当該形態の分析装置は、例えば、基台3及び/又は接触部材31を動かすことにより、蓋2と試料台1との距離を増大させる手段(距離増大手段)が備えられる形態とすることにより、実現可能である。本発明の分析装置において、距離増大手段は公知のものを用いることができる。本発明が、搬送アームを有する公知の分析装置(例えば、SEM、XPS等)に適用される場合、距離増大手段を用いて移動される基台3及び/又は接触部材31の方向は、水平面と平行な方向とすることが好ましい。
【0047】
4.第4実施形態
図8は、第4実施形態にかかる本発明の分析装置に備えられるサンプルホルダ40の形態を概略的に示す図である。図9は、サンプルホルダ40の形態を概略的に示す側面図である。図10は、力Fを受けて蓋2が動いた後のサンプルホルダ40の形態を概略的に示す図である。図11は、力Fを受けて蓋2が動いた後のサンプルホルダ40の形態を概略的に示す側面図である。図12は、蓋2が回動した後のサンプルホルダ40の形態を概略的に示す図である。図8〜図12の紙面上下方向が、鉛直方向である。図8〜図12において、図1と同様の構成を採るものには、図1で使用した符号と同符号を付し、その説明を適宜省略する。以下、図8〜図12を参照しつつ、第4実施形態にかかる本発明の分析装置について説明する。
【0048】
図8〜図12に示すように、サンプルホルダ40は、試料台1と、該試料台1に被せられる蓋2と、試料台1を固定する基台41と、を備え、試料台1及び蓋2は、蝶番状の連結部42を介して連結されている。連結部42は、蓋2が試料台1に対して回動する際に回転軸として機能する軸部43、該軸部43に連結された連結板44及び連結板45、連結板44と試料台1とを固定する部材46、並びに、蓋2に固定された部材47を有し、さらに、蓋2とともに移動する部材47の動きを許容する許容手段として機能する孔48が、連結板45に備えられている。サンプルホルダ40に、分析試料5をセットする際には、例えば、Arガス等に代表される不活性雰囲気中、常圧P1の環境下で、蓋2が開いた状態のサンプルホルダ40の試料台1に、分析試料5を配置する。その後、軸部43を中心に蓋2を回動させる過程を経て、Oリング6が嵌め込まれた試料台1に蓋2を被せ、蓋2の通気孔4をシール7で塞ぐことにより、分析試料5が保持された空間8を、試料台1、蓋2、Oリング6、及び、シール7を用いて密閉する。このようにして空間8が密閉されるため、サンプルホルダ40によれば、分析試料5が保持された密閉空間8への大気の侵入を抑制することが可能になる。
【0049】
第4実施形態にかかる分析装置(以下、本段落及び次段落において単に「分析装置」又は「本発明の分析装置」という。)を用いて分析試料5を分析するには、分析試料5が保持されたサンプルホルダ40を分析装置の分析室へセットした後、真空排気することにより、当該分析室を減圧し、分析室の圧力をP2にする。このようにして分析室の圧力がP2になると、分析試料5が保持された密閉空間8の圧力P1が、分析室の圧力P2よりも大きいため、蓋2には、少なくとも圧力差P1−P2に起因する力Fが作用する。ここで、蓋2の質量は、圧力差P1−P2に起因する力Fを受けた蓋2が動くことによって空間8の密閉が解除されるように決定されている。そのため、本発明の分析装置によれば、外部操作をしなくても、力Fを用いて蓋2を持ち上げることができ(図10及び図11参照)、これによって、空間8の密閉を解除することができる。このようにして蓋2が持ち上がった後、本発明の分析装置では、基台41のチルト機構49を機能させて基台41を傾ける。基台41が傾くと、蓋2の重心が移動する。そのため、蓋2は軸部43を中心にして回動し、サンプルホルダ40は図12に示す状態となる。本発明の分析装置では、サンプルホルダ40が図12に示す状態となることにより、蓋2が完全に開いた後に、チルト機構49の機能が解除される。チルト機構49が解除されると、基台41は水平な状態に戻り、分析試料5の分析が開始される。
【0050】
分析試料5の分析が終了した後に、基台41のチルト機構49を蓋2が開く方向と逆方向に機能させて基台41を傾ける。これに伴って蓋2の重心が移動する。そのため、重心が移動した蓋2は軸部43を中心にして回動し、サンプルホルダ40は図10及び図11に示す状態(以下において「蓋2が閉まった状態」ということがある。)へと戻る。
【0051】
このように、第4実施形態にかかる分析装置によっても、分析室と空間8との圧力差P1−P2に起因する力Fを用いて蓋2を開けることができる。さらに、第4実施形態にかかる分析装置も、密閉空間8の圧力を常圧P1とすることにより、当該空間8を真空状態にした場合と比較して、外気によるサンプルの汚染を抑制することができ、反応性の高い試料を分析することが可能になるほか、分析試料5が飛散しやすいもの(例えば、ナノ粒子等の粉末サンプル)であっても、容易に分析することができる。これらの効果に加えて、さらに、第4実施形態にかかる分析装置では、連結部42を介して試料台1及び蓋2が連結されている。そのため、蓋2を完全に開放した場合であっても、蓋2が飛び出したり落下したりすることがない。蓋2の飛び出しや落下を防止することにより、蓋2によって分析試料5や測定系が傷つけられる事態を回避することができる。そのため、かかる形態とすることにより、分析試料5や測定系が傷つけられる事態を回避することが可能な、分析装置を提供することができる。さらに、第4実施形態にかかる分析装置によれば、チルト機構49を利用することにより、蓋2が閉まった状態へと戻すことができる。このようにして、蓋2が閉まった状態へと移行すると、分析が終了した分析試料5を回収することが容易になる。そのため、かかる形態とすることにより、分析試料5を容易に回収することが可能な、分析装置を提供することができる。本発明において、チルト機構49の形態は特に限定されるものではなく、公知の形態とすることができる。
【0052】
5.第5実施形態
図13は、第5実施形態にかかる本発明の分析装置に備えられるサンプルホルダ50の形態を概略的に示す図である。図14は、蓋2が回動した後のサンプルホルダ50の形態を概略的に示す図である。図13及び図14の紙面上下方向が、鉛直方向である。図13及び図14において、図8〜図12と同様の構成を採るものには、これらの図で使用した符号と同符号を付し、その説明を適宜省略する。以下、図13及び図14を参照しつつ、第5実施形態にかかる本発明の分析装置について説明する。
【0053】
図13及び図14に示すように、サンプルホルダ50は、分析試料5を保持する面が略水平面であり、かつ、蓋2との接触面等が傾斜面となるように形成されている試料台51と、該試料台51に被せられる蓋2と、試料台51を固定する基台3と、を備え、試料台51及び蓋2は、連結部42を介して連結されている。サンプルホルダ50において、試料台51が蓋2と接触する面の傾斜は、力Fを受けて持ち上げられた状態にある蓋2の重心が、軸部43の外側(軸部43に対して試料台51と反対側。以下において同じ。)になるように設計されている。そのため、上記第4実施形態にかかる分析装置と同様の手順により、サンプルホルダ50を分析室へとセットし、分析室の圧力をP2にすることにより、力Fを受けた蓋2が持ち上がると、持ち上げられた蓋2の重心は軸部43の外側にあるため、持ち上げられた蓋2は軸部43を中心にして回動し、サンプルホルダ50は図14に示す状態となる。第5実施形態にかかる分析装置では、サンプルホルダ50が図14に示す状態へと移行した後に、分析試料5の分析が開始される。
【0054】
このように、第5実施形態にかかる分析装置で用いられるサンプルホルダ50は、蓋2が持ち上がると回動するように設計されている。そのため、サンプルホルダ50の基台3には、サンプルホルダ40の基台41に備えられていたチルト機構49が備えられていない。基台にチルト機構が備えられていなくても、例えば上記サンプルホルダ50の形態とすることにより、蓋2を容易に開けることが可能になる。
【0055】
6.第6実施形態
図15は、第6実施形態にかかる本発明の分析装置に備えられるサンプルホルダ60の形態を概略的に示す図である。図16は、蓋2が回動した後のサンプルホルダ60の形態を概略的に示す図である。図15及び図16の紙面上下方向が、鉛直方向である。図15及び図16において、図8〜図12と同様の構成を採るものには、これらの図で使用した符号と同符号を付し、その説明を適宜省略する。以下、図15及び図16を参照しつつ、第6実施形態にかかる本発明の分析装置について説明する。
【0056】
図15及び図16に示すように、サンプルホルダ60は、分析試料5を保持する面が鉛直面となるように傾けて配置された試料台1と、該試料台1に被せられる蓋2と、試料台1を固定する基台3と、を備えている。サンプルホルダ60において、試料台1及び蓋2は、蝶番状の連結部62を介して連結されている。連結部62は、蓋2が試料台1に対して回動する際に回転軸として機能する軸部43、該軸部43に連結された連結板63及び連結板64、並びに、連結板64と蓋2とを連結する部材65を有している。連結板63及び基台3は図示されていない固定手段を介して固定されており、連結板64には、蓋2とともに移動する部材65の動きを許容する許容手段として機能する孔(不図示)が備えられている。サンプルホルダ60に分析試料5をセットする手順、及び、分析試料5がセットされたサンプルホルダ60を第6実施形態にかかる分析装置へセットする手順は、第4実施形態にかかる分析装置と同様にすることができる。第6実施形態にかかる分析装置(以下、本段落において単に「分析装置」ということがある。)を用いて分析試料5を分析するには、サンプルホルダ60を分析装置の分析室へセットした後、真空排気することにより分析室を減圧し、当該分析室の圧力をP2にする。このようにして分析室の圧力がP2にされると、分析試料5が保持された空間8の圧力P1が、分析室の圧力P2よりも大きいため、蓋2には、少なくとも圧力差P1−P2に起因する力Fが作用する。蓋2の質量は、少なくとも圧力差P1−P2に起因する力Fを受けた蓋2が動くことによって空間8の密閉が解除されるように決定されているので、第6実施形態にかかる分析装置によれば、力Fを用いて、試料台1から遠ざかる向きへ蓋2を移動させることができ、これによって、空間8の密閉を解除することができる。さらに、第6実施形態にかかる分析装置に備えられるサンプルホルダ60は、試料台1が傾けて配置されている。そのため、試料台1から遠ざかる向きへと移動した蓋2は、その後、自重によって試料台1の下方へと移動すべく、軸部43を中心にして回動し、サンプルホルダ60は図16に示す状態となる。このように、サンプルホルダ60を備える第6実施形態にかかる分析装置によれば、力F及び蓋2の自重を用いて蓋2を開けることができるので、分析試料5を容易に分析することが可能になる。
【0057】
第6実施形態にかかる分析装置において、少なくとも力Fを受けた蓋2が軸部43を中心にして回動しやすい形態にする等の観点からは、蓋2の重心が、該蓋2の鉛直方向における長さの中心から鉛直方向下方へずれていることが好ましい。このようにすることで、力Fを受けて動いた蓋2が軸部43を中心にして回動しやすい分析装置を提供することができる。なお、蓋2の重心を鉛直方向における長さの中心から鉛直方向下方へとずらす手段としては、第2実施形態にかかる分析装置の場合と同様のものを例示することができる。
【0058】
7.第7実施形態
図17は、第7実施形態にかかる本発明の分析装置に備えられるサンプルホルダ70の形態を概略的に示す図である。図18は、蓋2が回動した後のサンプルホルダ70の形態を概略的に示す図である。図17及び図18の紙面上下方向が、鉛直方向である。図17及び図18において、図8〜図12と同様の構成を採るものには、これらの図で使用した符号と同符号を付し、その説明を適宜省略する。以下、図17及び図18を参照しつつ、第7実施形態にかかる本発明の分析装置について説明する。
【0059】
図17及び図18に示すように、サンプルホルダ70は、試料台1と、該試料台1に被せられる蓋2と、試料台1を固定する基台41と、を備えている。試料台1及び蓋2は、蝶番状の連結部42を介して接続されており、連結板44には、側面視L字型の受け部71が備え付けられている。サンプルホルダ70に分析試料5をセットする手順、及び、分析試料5がセットされたサンプルホルダ70を第7実施形態にかかる分析装置へセットする手順は、第4実施形態にかかる分析装置と同様にすることができる。第7実施形態にかかる分析装置(以下、本段落及び次段落において単に「分析装置」又は「本発明の分析装置」ということがある。)を用いて分析試料5を分析するには、サンプルホルダ70を分析装置の分析室へセットした後、真空排気することにより分析室を減圧し、当該分析室の圧力をP2にする。このようにして分析室の圧力がP2にされると、分析試料5が保持された空間8の圧力P1が、分析室の圧力P2よりも大きいため、蓋2には、少なくとも圧力差P1−P2に起因する力Fが作用する。蓋2の質量は、少なくとも圧力差P1−P2に起因する力Fを受けた蓋2が動くことによって空間8の密閉が解除されるように決定されているので、第7実施形態にかかる分析装置も、力Fを用いて、蓋2を持ち上げることができ、これによって、空間8の密閉を解除することができる。このようにして蓋2が持ち上がった後、本発明の分析装置では、基台41のチルト機構49を機能させて基台41を傾ける。基台41が傾くと、蓋2の重心が移動する。そのため、蓋2は軸部43を中心にして回動し、蓋2は受け部71によって受け止められる(図18参照)。本発明の分析装置では、サンプルホルダ70の蓋2が受け部71によって受け止められた後に、チルト機構49の機能が解除される。チルト機構49が解除されると、基台41は水平な状態に戻り、分析試料5の分析が開始される。
【0060】
分析試料5の分析が終了した後に、基台41のチルト機構49を蓋2が開く方向と逆方向に機能させて基台41を傾ける。これに伴って蓋2の重心が移動する。そのため、重心が移動した蓋2は、軸部43を中心にして回動し、サンプルホルダ70は、チルト機構49を機能させる前の状態(蓋2が閉まった状態)へと戻る。ここで、サンプルホルダ70には、側面視L字型の受け部71が備えられ、チルト機構49を機能させて回動させた蓋2は受け部71によって受け止められる。すなわち、サンプルホルダ70では、蓋2の回動幅が受け部71によって制限されているので、チルト機構49を用いた時に、蓋2が閉まりやすい状態とされている。そのため、第7実施形態にかかる分析装置によれば、上記第4実施形態にかかる分析装置により得られる効果に加え、さらに、蓋2を容易に閉めることが可能になる。
【0061】
8.第8実施形態
図19は、第8実施形態にかかる本発明の分析装置に備えられるサンプルホルダ80の形態を概略的に示す図である。図20は、蓋82が回動した後のサンプルホルダ80の形態を概略的に示す図である。図19及び図20の紙面上下方向が、鉛直方向である。図19及び図20において、図8〜図12と同様の構成を採るものには、これらの図で使用した符号と同符号を付し、その説明を適宜省略する。以下、図19及び図20を参照しつつ、第8実施形態にかかる本発明の分析装置について説明する。
【0062】
図19及び図20に示すように、サンプルホルダ80は、試料台81と、該試料台81に被せられる蓋82と、試料台81を固定する基台3と、を備えている。試料台81及び蓋82は、回動軸を有する連結部83を介して連結されており、蓋82及び連結部83は一体化されている。サンプルホルダ80に分析試料5をセットする手順、及び、分析試料5がセットされたサンプルホルダ80を第8実施形態にかかる分析装置へセットする手順は、第4実施形態にかかる分析装置と同様にすることができる。第8実施形態にかかる分析装置(以下、本段落及び次段落において単に「分析装置」又は「本発明の分析装置」ということがある。)を用いて分析試料5を分析するには、サンプルホルダ80を分析装置の分析室へセットした後、真空排気することにより分析室を減圧し、当該分析室の圧力をP2にする。このようにして分析室の圧力がP2にされると、分析試料5が保持された空間88の圧力P1が、分析室の圧力P2よりも大きいため、蓋82には、少なくとも圧力差P1−P2に起因する力Fが作用する。蓋82の質量は、少なくとも圧力差P1−P2に起因する力Fを受けた蓋82が動くことによって空間88の密閉が解除されるように決定されているので、第8実施形態にかかる分析装置においても、力Fを用いて蓋82を動かすことができる。ここで、上述のように、蓋82は連結部83と一体化されており、当該連結部83を介して、試料台81及び蓋82が連結されている。そのため、力Fを受けた蓋82は、連結部83の回動軸を中心にして回動し、サンプルホルダ80は図20に示す状態となる。第8実施形態にかかる分析装置では、サンプルホルダ80が図20に示す蓋82が開いた状態へと移行した後に、分析試料5の分析が開始される。
【0063】
このように、第8実施形態にかかる分析装置で用いられるサンプルホルダ80は、蓋82が力Fを受けると回動するように設計されている。そのため、サンプルホルダ80の基台3には、サンプルホルダ40の基台41に備えられていたチルト機構49が備えられていない。さらに、サンプルホルダ80では、力Fを受けた蓋82は回動するのみなので、上記連結部42の部材47と孔48との間や連結板45と蓋2との間に働き得る摩擦力が存在しない。そのため、かかる形態とすることにより、蓋82を容易に開けることが可能になる。サンプルホルダ80において、連結部83の締め付けは、蓋82が真空排気時の開き具合に応じて制御することができる。
【0064】
第8実施形態にかかる分析装置で用いられるサンプルホルダの形態は、試料台及び蓋を連結する連結部と蓋とが一体化され、かつ、真空排気時に蓋が開く形態であれば、上記サンプルホルダ80に限定されるものではない。例えば、上記サンプルホルダ50のように、蓋との接触面等が傾斜面となるように形成された試料台を備える形態や、上記サンプルホルダ60のように、分析試料を保持する面が鉛直面となるように試料台が傾けて配置された形態とすることも可能である。このほか、側面視L字型の受け部が試料台に備え付けられた形態や、チルト機構を有する基台が備えられる形態とすることも可能である。
【0065】
第4実施形態にかかる分析装置〜第7実施形態にかかる分析装置に関する上記説明では、連結部42が備えられる形態を例示したが、これらの分析装置に備えられる連結部は、上記形態に限定されるものではない。図21及び図22に、本発明の分析装置に備えられ得る連結部の他の形態を示す。図21は図9と対応する図であり、図22は図8と対応する図である。図21及び図22において、図8〜図12と同様の構成を採るものには、これらの図で使用した符号と同符号を付し、その説明を適宜省略する。
【0066】
図21に示す連結部91は、蓋2が試料台1に対して回動する際に回転軸として機能する軸部43、該軸部43に連結された連結板92及び連結板93、連結板93と試料台1とを固定する固定部材46、並びに、連結板92に対して上下動可能な形態で蓋2に固定された部材94を有している。そして、連結板92の鉛直方向上端には、力Fを受けた蓋2とともに上方へ移動する部材94の過度の移動を防止する停止部95が備えられている。かかる形態の連結部91が備えられていても、力Fを受けて持ち上げられた蓋2の動きが、連結板92及び部材94によって許容される。さらに、持ち上げられた蓋2に固定されている部材94は、軸部43に連結された連結板92と接触可能である。そのため、例えばチルト機構49を機能させることにより、持ち上げられた蓋2を、軸部43を中心にして回動させることができる。
【0067】
一方、図22に示す連結部96は、連結板93及び連結板45、連結板93と試料台1とを固定する固定部材46、並びに、連結板93と連結板45とを連結する連結部材97を有している。連結部材97は、蓋2に連結された軸部98の移動を許容する空間99、及び、軸部98と蓋2とを連結する連結部位の移動を許容する開口部(不図示)を有している。かかる形態の連結部96が備えられていても、力Fを受けて持ち上げられた蓋2の動きが、連結部材97の空間99等によって許容される。さらに、空間99を移動する軸部98は、蓋2に連結されている。そのため、例えばチルト機構49を機能させることにより、軸部98を中心にして、持ち上げられた蓋2を回動させることができる。
【0068】
連結部が備えられる本発明の分析装置において、連結部を構成する部材の材料は、上記動作環境に耐え得る材料であれば特に限定されるものではなく、金属のほか、樹脂等を用いることができる。
【0069】
また、本発明の分析装置において、試料台及び蓋の材料は、上記動作環境に耐え得る材料であれば特に限定されるものではなく、金属のほか、樹脂等を用いることができる。
【0070】
また、本発明の分析装置において、サンプルホルダが配置された環境が真空排気された時の蓋の動作を容易にする等の観点からは、上記構成に加え、さらに、蓋の動作を補助する補助手段(例えば、バネ、ネジ等)が備えられることが好ましい。
【実施例】
【0071】
実施例を参照しつつ、本発明についてさらに説明する。なお、実施例1〜実施例3において、試料台を覆う蓋の通気孔は、常圧のArガス雰囲気下で塞いだ。
【0072】
<実施例1>
サンプルホルダ10と同様の形態のサンプルホルダを分析装置へセットし、動作確認試験を行った。試験条件を以下に示す。
・分析装置;X線光電子分光分析装置(XPS)
・圧力P2;50kPa以下(分析前に、1×10−5Paまで減圧する。)
・蓋の質量;120g
・蓋の構成材料;モリブデン含有金属
【0073】
上記条件の下で実施例1にかかる動作確認試験を行った結果、XPSの分析室の圧力P2を50kPa以下へと低減することにより、蓋が持ち上がった。そのため、本実施例では、持ち上がった蓋を、XPSに備えられていた搬送アームを使って移動することにより、蓋を試料台から外した。以上より、実施例1にかかる分析装置(本発明の分析装置)によれば、圧力差P1−P2に起因する力を用いて蓋を動かすことができた。すなわち、実施例1によれば、蓋を鉛直方向へ移動させる移動手段や予備排気室が備えられない分析装置であっても、圧力差P1−P2に起因する力を用いて蓋を開けることができた。また、本発明の分析装置によれば、分析試料が配置された密閉空間を真空状態にすることがないため、密閉空間への外気の流入を抑制することができ、分析試料が大気によって汚染される程度を従来よりも低減することができた。
【0074】
<実施例2>
サンプルホルダ10と同様の形態のサンプルホルダを分析装置へセットし、動作確認試験を行った。試験条件を以下に示す。
・分析装置;X線光電子分光分析装置(XPS)
・圧力P2;50kPa以下(分析前に、1×10−5Paまで減圧する。)
・蓋の質量;10g
・蓋の構成材料;アルミニウム含有金属
【0075】
上記条件の下で実施例2にかかる動作確認試験を行った結果、XPSの分析室の圧力P2を50kPa以下へと低減することにより、蓋が持ち上がり、最終的に蓋が飛ぶことにより試料台から外れた。以上より、実施例2にかかる分析装置(本発明の分析装置)によれば、圧力差P1−P2に起因する力を用いて蓋を動かすことができ、蓋の質量等を制御することによって、搬送アームを用いなくても蓋を試料台から外すことができた。すなわち、実施例2によれば、蓋を鉛直方向及び水平方向へ移動させる移動手段や予備排気室が備えられない分析装置であっても、圧力差P1−P2に起因する力を用いて蓋を開けることができた。また、本発明の分析装置によれば、分析試料が配置された密閉空間を真空状態にすることがないため、密閉空間への外気の流入を抑制することができ、分析試料が大気によって汚染される程度を従来よりも低減することができた。
【0076】
<実施例3>
サンプルホルダ40と同様の形態のサンプルホルダを分析装置へセットし、動作確認試験を行った。試験条件を以下に示す。
・分析装置;電界放射型走査電子顕微鏡(FE−SEM)
・圧力P2;10−2Torr以下(分析前に、5×10−5Torrまで減圧する。)
・蓋の質量;20g
・蓋の構成材料;アルミニウム含有金属
・連結部の構成材料;ステンレス鋼(SUS304)
【0077】
上記条件の下で実施例3にかかる動作確認試験を行った結果、FE−SEMの分析室の圧力P2を10−2Torr以下へと低減することにより、蓋が持ち上がった。そのため、本実施例では、蓋が持ち上がった状態で基台のチルト機構を機能させ、基台を傾けることにより、サンプルホルダを図12に示す状態にした。そして、分析試料の分析終了後にチルト機構の機能を利用することにより、サンプルホルダを、蓋が閉まった状態へ移行させた。
【0078】
以上より、実施例3にかかる分析装置(本発明の分析装置)によれば、圧力差P1−P2に起因する力を用いて蓋を動かすことができ、チルト機構を機能させることによって、蓋を開けることができた。すなわち、実施例3によれば、蓋を鉛直方向及び水平方向へ移動させる移動手段や予備排気室が備えられない分析装置であっても、圧力差P1−P2に起因する力を用いて蓋を開けることができた。さらに、実施例3によれば、蓋及び試料台が連結されていたため、移動した蓋の飛び出しや落下によって分析試料及び測定系が破損する事態を回避することができ、チルト機構を利用して蓋を閉めることにより分析試料を容易に回収することができた。また、本発明の分析装置によれば、分析試料が配置された密閉空間を真空状態にすることがないため、密閉空間への外気の流入を抑制することができ、分析試料が大気によって汚染される程度を従来よりも低減することができた。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】サンプルホルダ10の形態を概略的に示す図である。
【図2】第1実施形態にかかる本発明の分析装置100の形態を概略的に示す図である。
【図3】蓋2が持ち上がったサンプルホルダ10の形態を概略的に示す図である。
【図4】サンプルホルダ20の形態を概略的に示す図である。
【図5】サンプルホルダ20の蓋2が試料台1から外れる様子を示す図である。
【図6】サンプルホルダ30及び接触部材31の形態を概略的に示す図である。
【図7】接触部材31に接触しながら試料台1から遠ざかる蓋2の様子を示す図である。
【図8】サンプルホルダ40の形態を概略的に示す図である。
【図9】サンプルホルダ40の形態を概略的に示す側面図である。
【図10】蓋2が動いた後のサンプルホルダ40の形態を概略的に示す図である。
【図11】蓋2が動いた後のサンプルホルダ40の形態を概略的に示す側面図である。
【図12】蓋2が回動した後のサンプルホルダ40の形態を概略的に示す図である。
【図13】サンプルホルダ50の形態を概略的に示す図である。
【図14】蓋2が回動した後のサンプルホルダ50の形態を概略的に示す図である。
【図15】サンプルホルダ60の形態を概略的に示す図である。
【図16】蓋2が回動した後のサンプルホルダ60の形態を概略的に示す図である。
【図17】サンプルホルダ70の形態を概略的に示す図である。
【図18】蓋2が回動した後のサンプルホルダ70の形態を概略的に示す図である。
【図19】サンプルホルダ80の形態を概略的に示す図である。
【図20】蓋82が回動した後のサンプルホルダ80の形態を概略的に示す図である。
【図21】連結部91を有するサンプルホルダを示す図である。
【図22】連結部96を有するサンプルホルダを示す図である。
【符号の説明】
【0080】
1…試料台
2…蓋
3…基台
4…通気孔
5…分析試料
6…Oリング
7…シール
8…空間
10…サンプルホルダ
20…サンプルホルダ
31…接触部材
31a…ロール状部材
40…サンプルホルダ
41…基台
42…連結部
43…軸部
44…連結板
45…連結板
46…部材
47…部材
48…孔
49…チルト機構
50…サンプルホルダ
51…試料台
60…サンプルホルダ
62…連結部
63…連結板
64…連結板
65…部材
70…サンプルホルダ
71…受け部
80…サンプルホルダ
81…試料台
82…蓋
83…連結部
88…空間
90…分析室
91…連結部
92…連結板
93…連結板
94…部材
95…停止部
96…連結部
97…連結部材
98…軸部
99…空間
100…分析装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分析試料を保持する試料台、及び、前記試料台に保持された前記分析試料を少なくとも覆う蓋を備え、
前記蓋によって覆われた空間が密閉され、
密閉された前記空間内の圧力をP1、前記蓋を境に前記空間と隣接する隣接空間の圧力をP2、とするとき、
前記分析試料の分析が開始されるまでに、P2<P1とされ、
少なくとも圧力差P1−P2に起因する力Fを受けた前記蓋が動くことによって前記空間の密閉が解除されるように、前記蓋の質量が決定されていることを特徴とする、分析装置。
【請求項2】
前記力F及び重力を受けることにより、前記蓋が前記試料台から外れることを特徴とする、請求項1に記載の分析装置。
【請求項3】
前記蓋の重心が、前記蓋の鉛直方向における長さの中心から鉛直方向下方へずれていることを特徴とする、請求項2に記載の分析装置。
【請求項4】
さらに、少なくとも前記力Fを受けた前記蓋を、水平面と平行な方向へ移動可能な移動手段が備えられることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の分析装置。
【請求項5】
さらに、少なくとも前記力Fを受けた前記蓋が鉛直面と交差する方向へ移動可能なように配置されるとともに、前記蓋と接触する接触部材が備えられ、
少なくとも前記力Fを受けた前記蓋が、前記接触部材と接触しながら動くことを特徴とする、請求項1に記載の分析装置。
【請求項6】
前記蓋と前記接触部材との間に働く摩擦力を低減させる低減手段を有することを特徴とする、請求項5に記載の分析装置。
【請求項7】
さらに、P2<P1とされた後に、前記蓋と接触している前記接触部材と前記試料台との距離を増大させる、距離増大手段が備えられることを特徴とする、請求項5又は6に記載の分析装置。
【請求項8】
鉛直面と交差する前記方向が水平方向であることを特徴とする、請求項5〜7のいずれか1項に記載の分析装置。
【請求項9】
さらに、前記力Fの発生前後に亘って前記試料台と前記蓋とを連結する連結部が備えられ、
前記連結部は、少なくとも、前記蓋が前記試料台に対して回動する際に回転軸として機能する軸部を有し、
少なくとも前記力Fを受けた前記蓋が前記軸部を中心にして回動した後に、前記分析試料の分析が行われることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の分析装置。
【請求項10】
さらに、前記試料台から離れる方向へと向かう、少なくとも前記力Fを受けた前記蓋の動きを許容する許容部が、前記連結部に備えられることを特徴とする、請求項9に記載の分析装置。
【請求項11】
さらに、前記試料台を傾ける傾斜手段が備えられることを特徴とする、請求項9又は10に記載の分析装置。
【請求項12】
さらに、回動した前記蓋を受け止める受け部が備えられることを特徴とする、請求項9〜11のいずれか1項に記載の分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2010−38601(P2010−38601A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−199257(P2008−199257)
【出願日】平成20年8月1日(2008.8.1)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】