分析装置
【課題】加熱温度に対する追随変化が異なる本体部と保護キャップとからなる分析用デバイスを用いた場合であっても、本体部の温度制御の乱調を低減させることができる分析装置を提供する。
【解決手段】分析用デバイス1の回動中に、サーモパイル31の温度測定領域が本体部6上を通過する間は、本体部6において検出された温度を基にヒータ34の加熱動作を制御し、サーモパイル31の温度測定領域が保護キャップ5上を通過する間は、サーモパイル31の温度測定領域が保護キャップ5に到達する直前の本体部6において検出された温度を基にヒータ34の加熱動作を制御する。
【解決手段】分析用デバイス1の回動中に、サーモパイル31の温度測定領域が本体部6上を通過する間は、本体部6において検出された温度を基にヒータ34の加熱動作を制御し、サーモパイル31の温度測定領域が保護キャップ5上を通過する間は、サーモパイル31の温度測定領域が保護キャップ5に到達する直前の本体部6において検出された温度を基にヒータ34の加熱動作を制御する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保護キャップなどの付属部材が本体部に係止された分析用デバイスを回動させることにより、前記本体部に形成されている測定槽に分析対象を貯留させ、その貯留された前記分析対象を分析する分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体状の試料を分析する分析装置として、マイクロチャネル構造体が形成された分析用デバイスを回転させるものが従来より知られている。例えば特許文献1には、血液の特定成分を測定するために、血液が導入された分析用デバイスを、その分析用デバイスの中心を回転中心として回転させる生化学分析装置が開示されている。
【0003】
この従来の生化学分析装置は、分析用デバイスを回転させることにより発生する遠心力と、分析用デバイスに設けられたマイクロチャネル構造体に発生する毛細管力とを利用して、分析用デバイスの注入口からマイクロチャネル構造体に導入された血液を、分析用デバイスの端部側に設けられた、マイクロチャネル構造体の一部である測定スポットへ向けて移送させながら、当該血液に各種の操作を施すことで、測定スポットに分析対象を貯留させる。その貯留された分析対象には、試薬との混合による呈色が生じており、この従来の生化学分析装置は、その呈色を光学的に読み取ることで、血液の特定成分を測定する。
【0004】
各種の操作には、注入口から導入された血液を溶液成分である血漿または血清と固形成分である血球とに遠心分離する操作や、遠心分離された溶液成分を希釈液により希釈する操作や、希釈された溶液成分を試薬と混合させる操作などがある。その他に、注入口に点着された血液や、遠心分離された溶液成分や、希釈された溶液成分などを必要な量だけ保持して定量する操作なども含まれる。
【0005】
分析用デバイスは、マイクロチャネル構造体が形成された本体部と、本体部に係止される試料飛散防止用の保護キャップに大別される。保護キャップは、注入口の付近に付着した試料液が、分析中に遠心力によって外部へ飛散するのを防止するために取り付けられている。
【0006】
また、この種の生化学分析装置は、測定精度を高めるために、分析用デバイスの本体部の温度を37°C±0.5°C程度に保温する。回転体の温度制御方法としては、非接触方式の赤外線センサを用いて回転体の温度に検出し、その検出した温度データに基づき、回転体が所定温度となるように、回転体を加熱する加熱装置の加熱動作を制御するループ制御が一般的である。また、赤外線センサは、一般的に、回転体の回転中心とは異なる位置に配置される。このように回転体の回転中心とは異なる位置に配置した非接触方式の赤外線センサを用いて加熱装置の加熱動作をループ制御するシステムは、例えば特許文献2に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−92390号公報
【特許文献2】特開平5−146720号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上のように、従来の分析装置は、分析用デバイスの回転中心とは異なる位置に配置した非接触方式の赤外線センサを用いて、分析用デバイスを加熱する加熱装置の加熱動作をループ制御している。
【0009】
しかしながら、従来の分析装置では、分析用デバイスの本体部に保護キャップが係止している場合、分析用デバイスが回転する間に、赤外線センサの温度測定領域が、異なる素材で作製された本体部と保護キャップ上を通過するため、所定温度にする必要がある本体部の温度制御に乱調をきたすという問題があった。また、それにより本体部の所定温度への到達時間が増大するという問題があった。
【0010】
すなわち、本体部と保護キャップが異なる素材で作製されている場合、本体部と保護キャップとで加熱装置の加熱温度に対する追随変化が異なる。そのため、分析用デバイスが回転する間に、加熱温度に対する追随変化が異なる部材の温度が検出され、それにより本体部の温度制御に乱調をきたしてしまう。本体部と保護キャップが異なる素材で作製されるのは、一方に設けた爪を他方に設けた爪係止用の穴に引っ掛けて、保護キャップを本体部に係止させる操作を容易にするためである。つまり、本体部と保護キャップは硬度が異なる素材で作製される。一般的には、保護キャップの内部が空洞であるので、保護キャップに本体部よりも柔らかい素材を使用する。
【0011】
また、保護キャップの内部が空洞であるので、本体部と保護キャップとでは熱容量が異なる。この熱容量の違いも、加熱装置の加熱温度に対する追随変化が異なる原因となり、本体部の温度制御に乱調をきたしてしまう。
【0012】
本発明は、上記問題点に鑑み、加熱温度に対する追随変化が異なる本体部と保護キャップとからなる分析用デバイスを用いた場合であっても、本体部の温度制御の乱調を低減させることができる分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の分析装置は、測定槽が形成された本体部と、前記本体部に係止された付属部材とを具備する分析用デバイスを回動させることにより、前記測定槽に分析対象を貯留させ、その貯留された前記分析対象を分析する分析装置であって、受光した赤外線に基づく信号を発生する赤外線センサと、加熱器と、前記赤外線センサが発生する信号から温度を検出し、その検出された温度を基に、前記本体部が所定温度となるように前記加熱器の加熱動作を制御する温度制御部と、を備え、前記温度制御部は、前記分析用デバイスの回動中に、前記赤外線センサの測定領域が前記本体部上を通過する間、前記本体部において検出された温度を基に前記加熱器の加熱動作を制御し、前記測定領域が前記付属部材上を通過する間、前記測定領域が前記付属部材に到達する直前の前記本体部において検出された温度を基に前記加熱器の加熱動作を制御することを特徴とする。
【0014】
上記した本発明の分析装置において、前記温度制御部は、前記測定領域が前記付属部材上を通過する間、前記測定領域が前記付属部材に到達する直前に検出された温度を基に前記加熱器の加熱動作を制御してもよい。
【0015】
または、上記した本発明の分析装置において、前記温度制御部は、前記測定領域が前記付属部材に到達する直前の前記本体部の複数個所において検出された温度を基に、前記測定領域が前記付属部材上を通過する間の温度の予測値を生成し、その生成された予測値を基に、前記測定領域が前記付属部材上を通過する間、前記加熱器の加熱動作を制御してもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の好ましい形態によれば、加熱温度に対する追随変化が異なる本体部と保護キャップなどの付属部材とを具備する分析用デバイスを用いる場合であっても、本体部の温度制御の乱調を低減させることができ、ひいては本体部の所定温度への到達時間の削減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施の形態における分析装置の温度制御に係る構成の一例を示す図
【図2】本発明の実施の形態における分析装置による温度制御の一例を説明するための図
【図3】本発明の実施の形態における分析装置による温度制御の他例を説明するための図
【図4】本発明の実施の形態における分析装置による温度制御の他例で使用される温度データを示す図
【図5】本発明の実施の形態における分析装置に使用される分析用デバイスの本体部と保護キャップの温度上昇曲線の概要を示す図
【図6】従来の温度制御による本体部の温度曲線を示す図
【図7】本発明の実施の形態における分析装置に赤外線センサとして設けられたサーモパイルの拡大図
【図8】本発明の実施の形態における分析装置に加熱器として設けられた面状ヒータの電源回路の一例を示す図
【図9】本発明の実施の形態における分析装置に使用される分析用デバイスの一例を示す図
【図10】本発明の実施の形態における分析装置に使用される分析用デバイスの一例を示す図
【図11】本発明の実施の形態における分析装置に使用される分析用デバイスの一例を示す分解図
【図12】本発明の実施の形態における分析装置に使用される分析用デバイスの一例を示す図
【図13】本発明の実施の形態における分析装置の外観の概略を示す図
【図14】本発明の実施の形態における分析装置の回転制御および分析処理に係る構成の一例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態における分析装置について、図面を交えて説明する。ただし、先行して説明した要素には同一符号を付し、適宜説明を省略する。なお、この実施の形態では、血液を分析する分析装置について説明するが、本発明は、試料に関して特に制限されるものではない。
【0019】
まず、この分析装置にて使用される分析用デバイスについて、図9〜図12を用いて説明する。図9は保護キャップを閉じた状態の分析用デバイスを、図10は保護キャップを開放した状態の分析用デバイスをそれぞれ示している。また、図11は分析用デバイスを分解した図、図12は分析用デバイスを、図9の下側を上側に向けた状態で示す図である。
【0020】
図9〜図12に示すように、この分析用デバイス1は、ベース基板2と、ベース基板2の表面を覆うカバー基板3と、希釈液を保持する希釈液容器4と、試料飛散防止用の保護キャップ5の4つの部品で構成されている。
【0021】
ベース基板2とカバー基板3は、希釈液容器4などを内部にセットした状態で接合される。この接合されたベース基板2とカバー基板3が分析用デバイス1の本体部6を構成しており、付属部材である保護キャップ5は本体部6に取り付けられている。この保護キャップ5により、試料である血液を本体部6内に注入するための注入口7の付近に付着した血液が、分析中に遠心力によって外部へ飛散する事態を防止することができる。また、希釈液容器4の開口4aは、希釈液を入れた後に図示しないアルミ箔によって封止されている。
【0022】
ベース基板2の片面には微細な凹凸形状が形成されており、その凹部の開口をカバー基板3で覆うことによって、本体部6にマイクロチャネル構造体が形成される。マイクロチャネル構造体は、複数の測定槽8a〜8cやその他の槽、並びにそれらの槽の間を連通する流路などからなる。
【0023】
3つの測定槽8a〜8cは、円盤状の分析用デバイス1の周縁部側の同一半径上に配置されており、それらには分析に必要な試薬が予め担持されている。このように複数の測定槽を設けた場合、各測定槽にそれぞれ異なる試薬を担持させることで複数種類の項目を分析することが可能となる。
【0024】
その他の槽には、注入口7から導入された血液を溶液成分である血漿または血清と固形成分である血球とに遠心分離するための分離槽や、遠心分離された溶液成分を希釈液により希釈するための希釈槽などが含まれる。その他に、注入口に点着された血液や、遠心分離された溶液成分や、希釈された溶液成分などを必要な量だけ保持して定量する定量槽なども含まれる。
【0025】
保護キャップ5の片側は、ベース基板2とカバー基板3にそれぞれ形成された軸9a、9bに係合して開閉できるように枢支されている。また、保護キャップ5の他方の片側には、ベース基板2とカバー基板3にそれぞれ形成された爪10a、10bに係止する爪係止用の穴11a、11bが形成されており、保護キャップ5を閉じるときには、それらの穴11a、11bに爪10a、10bを引っ掛けて本体部6に係止させる。
【0026】
このように、本体部6側に設けた爪10a、10bを保護キャップ5側に設けた爪係止用の穴11a、11bに引っ掛けて、保護キャップ5を本体部6に係止させる操作を容易にするために、本体部6と保護キャップ5は硬度が異なる素材で作製される。ここでは、本体部6の素材にポリカーボネート樹脂を使用し、保護キャップ5の素材にABS樹脂を使用する場合について説明するが、無論、本体部6と保護キャップ5に使用することができる素材は、それらに限定されるものではない。
【0027】
さらに、この分析用デバイス1の本体部6には、原点位置を示す原点位置マーク12が設けられている。原点位置マーク12は、例えばベース基板2とカバー基板3にそれぞれ形成した貫通孔12a、12bで構成することができる。ここでは、原点位置マーク12が貫通孔である場合について説明する。
【0028】
また、この分析用デバイス1のカバー基板3と保護キャップ5にはそれぞれ回転支持部13、14が形成されている。また、この分析用デバイス1は、保護キャップ5を閉じることにより希釈液容器4が移動して、希釈液容器の開口4aを封止するアルミ箔が、ベース基板2に設けられた図示しない突起によって破られ、希釈液容器4に予め保持されていた希釈液が流れ出す構成となっている。
【0029】
続いて、分析装置について説明する。分析装置は、円盤状の分析用デバイス1を用いて、その分析用デバイス1の内部に導入された血液の特定成分を測定する。図1は本発明の実施の形態における分析装置の温度制御に係る構成の一例を示す図である。図1には、分析用デバイス1が装着されドア16が閉じられた状態の分析装置15の要部の断面を示している。また、図13は本発明の実施の形態における分析装置の外観の概略を示す図である。図13には、ドア16が開放された状態の分析装置15を示している。
【0030】
分析用デバイス1は、分析用デバイス1の注入口7に血液が点着され、保護キャップ5が閉じられてから、図1、図13に示すように、分析装置15のターンテーブル17に装着される。ターンテーブル17は軸心18を中心に回転する。
【0031】
ターンテーブル17の上面には溝19が形成されており、分析用デバイス1をターンテーブル17に装着した状態では、分析用デバイス1のカバー基板3と保護キャップ5にそれぞれ形成されている回転支持部13、14が溝19に係合している。
【0032】
また、ターンテーブル17に分析用デバイス1を装着してから、分析装置15のドア16を閉じると、図1に示すように、装着された分析用デバイス1は、ドア16の側に設けられた可動片20によって、ターンテーブル17の軸心18上の位置がバネ21の付勢力でターンテーブル17の側に押えられる。これにより、分析用デバイス1は、回転駆動手段であるブラシレスモータ22によって回転駆動されるターンテーブル17と一体に、軸心18まわりに回転する。したがって、分析用デバイス1は回転中心を持つ。ここでは、回転駆動手段として1個のブラシレスモータ22を設ける場合について説明する。なお、図1には、希釈液容器の開口4aを封止するアルミ箔を破るための突起23を示している。
【0033】
続いて、この分析装置15による分析用デバイス1を回転させる処理、並びに血液の特定成分を光学的に読み取る処理について説明する。図14は本発明の実施の形態における分析装置の回転制御および分析処理に係る構成の一例を示す図である。
【0034】
この分析装置15は、図14に示すように、光学的読み取り部24、原点センサ25、A/D変換部26、モータ駆動部27、光源駆動部28、マイクロコンピュータ29および記憶装置30を備える。
【0035】
光学的読み取り部24は、分析用デバイス1の測定槽8a〜8cに貯留された分析対象の特定成分を光学的に読み取る。詳しくは、光学的読み取り部24は、分析用デバイス1の測定槽8a〜8cに検出光を照射するための光源24aと、測定槽8a〜8cを通過した透過光の光量を検出する受光器24bとを備えている。なお、このように検出光が分析用デバイス1の本体部6を透過する必要があるので、本体部6は、光透過性を備えた素材で作製する必要がある。
【0036】
原点センサ25は、分析用デバイス1の絶対位置を検出するために設けられている。詳しくは、原点センサ25は、分析用デバイス1に形成された貫通孔の原点位置マーク12を検出したタイミングで原点信号を発生する。
【0037】
A/D変換部26は、光学的読み取り部24の受光器24bからのアナログ信号をデジタル信号へ変換する。モータ駆動部27は、マイクロコンピュータ29からの駆動命令に従い、ブラシレスモータ22を駆動する信号を発生する。光源駆動部28は、マイクロコンピュータ29からの駆動命令に従い、光学的読み取り部24の光源24aを駆動する信号を発生する。
【0038】
モータ駆動部27により駆動されるブラシレスモータ22は、回転に同期するFG信号を発生する。この実施の形態では、そのFG信号を基にブラシレスモータ22の回転速度などが制御される場合について説明する。
【0039】
ブラシレスモータ22は、ターンテーブル17を介して分析用デバイス1を軸心18まわりに任意の方向に所定の回転速度で回転させるだけではなく、所定の停止位置で軸心18を中心に所定の振幅範囲および周期で左右に往復運動をさせて分析用デバイス1を揺動させることができるように構成されている。
【0040】
なお、ここではブラシレスモータ22により分析用デバイス1を揺動させる場合について説明するが、これに限らず、例えば、ブラシレスモータ22とは別にモータを設け、そのモータ軸の回動をターンテーブルに伝播させて揺動させてもよい。
【0041】
マイクロコンピュータ29は、この分析装置15全体の動作を制御する。記憶装置30には、マイクロコンピュータ29が処理を実行するために用いる情報などが格納される。マイクロコンピュータ29は、例えば、ブラシレスモータ22が発生するFG信号を基に、ターンテーブル17の回転速度や回転方向などを制御する。
【0042】
また例えば、マイクロコンピュータ29は、原点センサ25からの原点信号を検出すると、FG信号の計数を開始し、その計数値を基に、光学的読み取り部24の読み取りタイミング、つまり光源24aの発光タイミングを制御する。また例えば、A/D変換部26からの信号を基に分析結果を演算する。これにより、光源24aが発光する光を測定槽8a〜8cに照射し、測定槽8a〜8cを透過した透過光の光量を検出し、測定槽8a〜8cに貯留された分析対象の特定成分を測定することができる。
【0043】
なお、各測定槽8a〜8cにそれぞれ異なる試薬を担持させ、複数種類の項目を分析する場合には、各項目に対応する異なる波長の光源を複数設けるとともに、それぞれの波長に対応した検出器を設ける。
【0044】
このように構成された分析装置15は、分析用デバイス1の回転速度などを調整することにより、分析用デバイス1の注入口7からマイクロチャネル構造体に導入された血液を、軸心18を中心に分析用デバイス1を回転させることにより発生する遠心力と、分析用デバイス1に設けられたマイクロチャネル構造体に発生する毛細管力とを利用して、分析用デバイス1の周縁部側に設けられた、マイクロチャネル構造体の一部である測定槽8a〜8cへ向けて移送させながら、当該血液に各種の操作を施して、測定槽8a〜8cに分析対象を貯留させる。その貯留された分析対象には、試薬との混合による呈色が生じており、この分析装置15は、回転する分析用デバイス1から、その呈色を光学的に読み取ることで、試料である血液の特定成分を測定する。
【0045】
各種の操作には、注入口7から導入された血液を溶液成分である血漿または血清と固形成分である血球とに遠心分離する操作や、遠心分離された溶液成分を希釈液により希釈する操作や、希釈された溶液成分を試薬と混合させる操作などが含まれる。その他に、注入口7に点着された血液や、遠心分離された溶液成分や、希釈された溶液成分等を必要な量だけ保持して定量する操作なども含まれる。
【0046】
続いて、この分析装置15による温度制御について説明する。試薬との反応は、一般的に温度依存性が高く測定時間や測定精度に影響するため、少なくとも試薬反応が開始してからの温度は一定であることが望ましく、一般的には30°C〜37°C程度、望ましくは37°C程度の温度が好ましい。
【0047】
この分析装置15は、測定精度を高めるために、遅くとも試薬反応開始時までに分析用デバイス1の本体部6の温度を37°C±0.5°C程度に保温する。図1に示すように、この分析装置15は、温度制御に係る要素として、サーモパイル31と、温度制御部32と、ヒータ駆動部33と、面状のヒータ34と、導熱板35とを備える。
【0048】
サーモパイル31は、受光した赤外線に基づく信号を発生する非接触式の赤外線センサの一例である。ここでは、赤外線センサがサーモパイルである場合について説明するが、無論、赤外線センサはサーモパイルに限定されるものではない。
【0049】
サーモパイル31は、赤外線の受光面が分析装置15に装着された分析用デバイス1に対向するように配置されている。好ましくは、サーモパイル31の温度測定領域が、回転する分析用デバイス1の測定槽8a〜8cを通過するように配置する。図7はサーモパイル31の拡大図である。
【0050】
サーモパイル31は、分析装置15に分析用デバイス1が装着されている場合、分析用デバイス1から輻射される赤外線エネルギーに応じたレベルの信号を発生する。このサーモパイル31の温度測定領域は、分析用デバイス1が1回転する間に、本体部6と保護キャップ5上を通過する。
【0051】
温度制御部32は、サーモパイル31が発生する信号から温度を検出し、その検出された温度データを基に、サーモパイル31により検出される温度が所定温度となるようにヒータ34の加熱動作を制御する。
【0052】
詳しくは、温度制御部32は、A/D変換部36とマイクロコンピュータ29からなる。A/D変換部36は、サーモパイル31が発生するアナログ信号をデジタル信号に変換する。マイクロコンピュータ29は、A/D変換部36からの信号を温度に変換する計算式を用いて温度を検出する。その計算式は、記憶装置30に格納されている。さらに、マイクロコンピュータ29は、その検出された温度データを基に、サーモパイル31により検出される温度が所定温度となるようにヒータ34の加熱動作を制御する。
【0053】
ヒータ駆動部33は、マイクロコンピュータ29からの駆動命令に従い、ヒータ34を駆動する信号を発生する。面状のヒータ34は加熱器の一例であり、分析装置15の庫内の雰囲気を加熱する。分析用デバイス1は、分析装置15の庫内の雰囲気を介して加熱される。導熱板35は、分析装置15の庫内の雰囲気を均一に加熱するために設けられている。
【0054】
続いて、この分析装置15における温度制御プロセスについて説明する。まず、分析用デバイス1が分析装置15の庫内に設置される前に、ドア16が閉じられた状態で、分析装置15の庫内の雰囲気の温度が制御される。すなわち、温度制御部32が、サーモパイル31が発生する信号を基に、分析装置15の庫内の雰囲気が所定の温度に到達し、その所定の温度に保たれるように、ヒータ34の加熱動作を制御する。このとき、サーモパイル31は、分析装置15の庫内のドア16の側から発せされる赤外線を受光して、分析装置15の庫内の雰囲気の温度に対応する赤外線エネルギーに応じたレベルの信号を生成する。
【0055】
その後、分析用デバイス1が分析装置15の庫内に設置され、ドア16が閉じられると、温度制御部32は、測定槽8a〜8cに担持されている試薬と分析対象とが反応を開始するときまでに、分析用デバイス1の本体部6が所定の温度(37°C±0.5°C程度)に到達し、その所定の温度に保たれるように、ヒータ34の加熱動作を制御する。
【0056】
このように分析用デバイス1の本体部6の温度を37°C±0.5°C程度に保温した状態で、測定槽8a〜8cに担持されている試薬と分析対象とを反応させ、その反応後の分析対象を測定することにより、測定精度を高めることができる。
【0057】
ヒータ34の加熱動作の制御は、例えばヒータ34の電源を入り切りする制御であってもよい。図8はヒータ34の電源回路を示す図である。ここでは、加熱器が、PETフィルム上に抵抗体などを施した面状のヒータである場合について説明する。
【0058】
図8に示すように、ヒータ34の電源回路は、ヒータ34とスイッチ素子37の直列回路で構成されている。スイッチ素子37は、ヒータ駆動部33からの制御信号S1によってオンおよびオフが制御される素子である。このスイッチ素子37のオンおよびオフを制御することにより、ヒータ34が分析装置15の庫内の雰囲気を加熱する熱量が調整制御される。なお、ヒータ34の加熱動作の制御は、これに限らず、例えばヒータ34へ供給する電圧または電流のレベル制御等であってもよい。
【0059】
続いて、この分析装置15による回転中の分析用デバイス1の本体部6の温度制御について説明する。この分析装置15に使用される円盤状の分析用デバイス1は、本体部6に保護キャップ5が係止している。そのため、分析用デバイス1が1回転する間に、サーモパイル31の温度測定領域が本体部6と保護キャップ5上を通過するが、本体部6と保護キャップ5は異なる素材で作製されており、加熱温度に対する追随変化が異なる。
【0060】
図5は本発明の実施の形態における分析装置に使用される分析用デバイスの本体部と保護キャップの温度上昇曲線の概要を示す図である。図5において、実線は保護キャップ5の温度曲線を示し、破線は本体部6の温度曲線を示している。ここでは、本体部6にポリカーボネート樹脂を使用し、保護キャップ5にABS樹脂を使用しており、この場合、図5に示すように、保護キャップ5は本体部6よりも温度上昇が速くなる。
【0061】
さらに、保護キャップ5は内部が空洞である。そのため、本体部6と保護キャップ5とでは熱容量が異なる。この熱容量の違いも、加熱温度に対する追随変化が異なる原因となる。
【0062】
このように本体部6と保護キャップ5とでは、加熱温度に対する追随変化が異なる。そのため、分析用デバイス1が回転する間に、加熱温度に対する追随変化が異なる部材の温度が検出される。したがって、本体部6と保護キャップ5とで検出された温度データを用いて温度制御を実行すると、温度制御に乱調をきたす。図6は、本体部と保護キャップとで検出された温度データを用いる従来の温度制御による本体部の温度曲線を示す図である。
【0063】
図6に示すように、本体部と保護キャップとで検出された温度データを用いて温度制御を実行した場合、本体部の温度制御に乱調をきたす。また、それにより本体部の所定温度への到達時間が増大する。
【0064】
この分析装置15では、温度制御部32が、分析用デバイス1の回動中に、サーモパイル31の温度測定領域が本体部6上を通過する間は、本体部6において検出された温度データを基にヒータ34の加熱動作を制御する。そして、サーモパイル31の温度測定領域が付属部材である保護キャップ5上を通過する間は、サーモパイル31の温度測定領域が保護キャップ5に到達する直前の本体部6において検出された温度データを基にヒータ34の加熱動作を制御する。
【0065】
これにより、加熱温度に対する追随変化が本体部6とは異なる素材で作製された保護キャップ5の検出温度を、本体部6の温度制御に使用せずに済むので、本体部6の温度制御の乱調を低減させることができる。
【0066】
続いて、サーモパイル31の温度測定領域が保護キャップ5を通過する間におけるヒータ34の加熱動作の制御の第1の例について説明する。図2は本発明の実施の形態における分析装置による温度制御の一例を説明するための図である。ここでは、分析用デバイス1が1回転する間に、本体部6においてFG信号のパルスが16回発生し、保護キャップ5においてFG信号のパルスが8回発生する場合について説明する。
【0067】
温度制御部32を構成するマイクロコンピュータ29は、原点センサ25からの原点信号を検出すると、ブラシレスモータ22が発生するFG信号の計数を開始し、その計数値を基に、サーモパイル31の温度測定領域が本体部6と保護キャップ5上のいずれに存在するのかを判断する。そして、サーモパイル31の温度測定領域が本体部6上を通過する間は、本体部6において検出された温度データを基に、ヒータ34の加熱動作を制御する。一方、サーモパイル31の温度測定領域が保護キャップ5上を通過する間は、サーモパイル31の温度測定領域が保護キャップ5に到達する直前に検出された温度データをホールドして、そのホールドされた温度データを基に、ヒータ34の加熱動作を制御する。したがって、サーモパイル31の温度測定領域が保護キャップ5に到達する直前のヒータ34の出力が、サーモパイル31の温度測定領域が保護キャップ5上を通過するまで維持される。
【0068】
このようにすれば、加熱温度に対する追随変化が本体部6とは異なる素材で作製された保護キャップ5の検出温度を、本体部6の温度制御に使用せずに済むので、本体部6の温度制御の乱調を低減させることができる。
【0069】
続いて、サーモパイル31の温度測定領域が保護キャップ5を通過する間におけるヒータ34の加熱動作の制御の第2の例について、図2を用いて説明した温度制御と異なる点を説明する。図3は本発明の実施の形態における分析装置による温度制御の他例を説明するための図である。
【0070】
温度制御部32を構成するマイクロコンピュータ29は、サーモパイル31の温度測定領域が保護キャップ5に到達する直前の本体部6の複数個所において検出された温度データを基に、サーモパイル31の温度測定領域が保護キャップ5上を通過する間の温度データの予測値を生成し、その生成された予測値を基に、サーモパイル31の温度測定領域が保護キャップ5上を通過する間、ヒータ34の加熱動作を制御する。
【0071】
例えば、図3に示すように、サーモパイル31の温度測定領域が保護キャップ5上を通過する間、その保護キャップ5の直前の本体部6の始端における温度‘a°C’と後端における温度‘b°C’とを基に、サーモパイル31の温度測定領域が保護キャップ5上を通過する間の温度データの予測値として、FG信号が発生するごとに‘(b−a)/16’を‘b’に加算した値を生成してもよい。
【0072】
なお、サーモパイル31の温度測定領域が保護キャップ5上を通過する間の温度データを予測するのに、本体部6の始端と後端における温度データをサンプリングする場合について説明したが、無論、本体部6の他の箇所における温度データをサンプリングしてもよいし、サンプリング数も2つに限定されるものではなく、2つ以上であればよい。
【0073】
図4は、温度制御部32がヒータ34の加熱動作を制御するのに使用する温度データを示す図である。図4において、実線はサーモパイル31により検出される温度データを示し、破線は予測値を示している。
【0074】
温度制御部32は、サーモパイル31の温度測定領域が保護キャップ5上を通過する間、破線で示す予測値を用いて、ヒータ34の加熱動作を制御する。図4に示すように、本体部6の複数個所において検出された温度データを基に生成した予測値を、サーモパイル31の温度測定領域が保護キャップ5上を通過する間の温度データとして挿入することで、その間に使用する温度データを、本体部6の温度に近似させることができる。
【0075】
このようにすれば、加熱温度に対する追随変化が本体部6とは異なる素材で作製された保護キャップ5の検出温度を、本体部6の温度制御に使用せずに済むので、本体部6の温度制御の乱調を低減させることができる上、本体部6の温度変化に近似する予測値を基にヒータの加熱動作を制御できるので、温度制御の精度をより向上させることができる。
【0076】
続いて、この分析装置15の分析工程の概要について説明する。まず、分析装置15に分析用デバイス1が装着される前に、分析装置15は庫内の温度を22〜23°C程度に保温する。その後、ユーザが、分析装置15のドア16を開けて、試料である血液が導入された分析用デバイス1を分析装置15に装着し、ドア16を閉じる。分析用デバイス1は、保護キャップ5が開放された状態で、シリンジなどで採血された血液がスポイドやピペットなどにより注入口7に点着された後、保護キャップ5が閉じられ、分析装置15に装着される。
【0077】
分析装置15に分析用デバイス1が装着された後、分析装置15は、ブラシレスモータ22の回転駆動を開始し、原点信号の発生を検出すると、FG信号の計数を開始する。そして、FG信号を基に、分析用デバイス1の回転速度などを調整することにより、分析用デバイス1の内部に導入された血液を、遠心力と毛細管力とを利用して測定槽8a〜8cへ向けて移送させながら、当該血液に各種の操作を施して、測定槽8a〜8cに分析対象を貯留させる。この間、FG信号の計数値とサーモパイル31により検出される温度データとを基にヒータ34の加熱動作を制御して、試薬反応が始まるまでに、分析用デバイス1の本体部6の温度を37°C±0.5°C程度に保温する。さらに、この間、ブラシレスモータ22の回転数を変化させて加速度を発生させたり、停止させたり、時計回り、反時計回りに正逆回転運動を繰り返すことにより分析用デバイスを揺動させたりしてもよい。その後、測定槽8a〜8cに貯留されている試薬反応後の分析対象の特定成分を光学的に測定する。
【0078】
なお、ここでは、付属部材が試料飛散防止用の保護キャップである場合を例に説明したが、付属部材は保護キャップに限るものではなく、試料が導入されるマイクロチャネル構造体が形成された本体部とは異なる素材で作製され、分析中に本体部に係止するものであればよい。
【0079】
また、ここでは、円盤状の分析用デバイスを例に説明したが、分析用デバイスの形状は円盤状に限るものではなく、分析用デバイスの回転中に、サーモパイルなどの赤外線センサの測定領域が、本体部と保護キャップなどの付属部材上を通過するような形状であればよい。
【0080】
また、ここでは、加熱器として、PETフィルム上に抵抗体などを施して作製される面状のヒータを想定したが、これに限らず、例えば、マイカにニクロム線を巻き付けたマイカヒータなどでもよい。
【0081】
また、ここでは、透過光を利用して試料の特定成分を測定する場合について説明したが、反射光を利用する測定方式であっても構わないし、蛍光検出など他の測定方式であってももちろん支障はない。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明にかかる分析装置は、加熱温度に対する追随変化が異なる本体部と保護キャップなどの付属部材とを具備する分析用デバイスを用いる場合であっても、本体部の温度制御の乱調を低減させることができ、ひいては本体部の所定温度への到達時間の削減を図ることができ、生化学分析装置などの、保護キャップなどの付属部材が本体部に係止された分析用デバイスを回動させることにより、本体部に形成されている測定槽に分析対象を貯留させ、その貯留された分析対象を分析する分析装置に有用である。
【符号の説明】
【0083】
1 分析用デバイス
2 ベース基板
3 カバー基板
4 希釈液容器
5 保護キャップ
6 本体部
7 注入口
8a〜8c 測定槽
9a、9b 軸
10a、10b 爪
11a、11b 穴
12 原点位置マーク
12a、12b 貫通孔
13、14 回転支持部
15 分析装置
16 ドア
17 ターンテーブル
18 軸心
19 溝
20 可動片
21 バネ
22 ブラシレスモータ
23 突起
24 光学的読み取り部
24a 光源
24b 受光器
25 原点センサ
26 A/D変換部
27 モータ駆動部
28 光源駆動部
29 マイクロコンピュータ
30 記憶装置
31 サーモパイル
32 温度制御部
33 ヒータ駆動部
34 ヒータ
35 導熱板
36 A/D変換部
37 スイッチ素子
【技術分野】
【0001】
本発明は、保護キャップなどの付属部材が本体部に係止された分析用デバイスを回動させることにより、前記本体部に形成されている測定槽に分析対象を貯留させ、その貯留された前記分析対象を分析する分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体状の試料を分析する分析装置として、マイクロチャネル構造体が形成された分析用デバイスを回転させるものが従来より知られている。例えば特許文献1には、血液の特定成分を測定するために、血液が導入された分析用デバイスを、その分析用デバイスの中心を回転中心として回転させる生化学分析装置が開示されている。
【0003】
この従来の生化学分析装置は、分析用デバイスを回転させることにより発生する遠心力と、分析用デバイスに設けられたマイクロチャネル構造体に発生する毛細管力とを利用して、分析用デバイスの注入口からマイクロチャネル構造体に導入された血液を、分析用デバイスの端部側に設けられた、マイクロチャネル構造体の一部である測定スポットへ向けて移送させながら、当該血液に各種の操作を施すことで、測定スポットに分析対象を貯留させる。その貯留された分析対象には、試薬との混合による呈色が生じており、この従来の生化学分析装置は、その呈色を光学的に読み取ることで、血液の特定成分を測定する。
【0004】
各種の操作には、注入口から導入された血液を溶液成分である血漿または血清と固形成分である血球とに遠心分離する操作や、遠心分離された溶液成分を希釈液により希釈する操作や、希釈された溶液成分を試薬と混合させる操作などがある。その他に、注入口に点着された血液や、遠心分離された溶液成分や、希釈された溶液成分などを必要な量だけ保持して定量する操作なども含まれる。
【0005】
分析用デバイスは、マイクロチャネル構造体が形成された本体部と、本体部に係止される試料飛散防止用の保護キャップに大別される。保護キャップは、注入口の付近に付着した試料液が、分析中に遠心力によって外部へ飛散するのを防止するために取り付けられている。
【0006】
また、この種の生化学分析装置は、測定精度を高めるために、分析用デバイスの本体部の温度を37°C±0.5°C程度に保温する。回転体の温度制御方法としては、非接触方式の赤外線センサを用いて回転体の温度に検出し、その検出した温度データに基づき、回転体が所定温度となるように、回転体を加熱する加熱装置の加熱動作を制御するループ制御が一般的である。また、赤外線センサは、一般的に、回転体の回転中心とは異なる位置に配置される。このように回転体の回転中心とは異なる位置に配置した非接触方式の赤外線センサを用いて加熱装置の加熱動作をループ制御するシステムは、例えば特許文献2に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−92390号公報
【特許文献2】特開平5−146720号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上のように、従来の分析装置は、分析用デバイスの回転中心とは異なる位置に配置した非接触方式の赤外線センサを用いて、分析用デバイスを加熱する加熱装置の加熱動作をループ制御している。
【0009】
しかしながら、従来の分析装置では、分析用デバイスの本体部に保護キャップが係止している場合、分析用デバイスが回転する間に、赤外線センサの温度測定領域が、異なる素材で作製された本体部と保護キャップ上を通過するため、所定温度にする必要がある本体部の温度制御に乱調をきたすという問題があった。また、それにより本体部の所定温度への到達時間が増大するという問題があった。
【0010】
すなわち、本体部と保護キャップが異なる素材で作製されている場合、本体部と保護キャップとで加熱装置の加熱温度に対する追随変化が異なる。そのため、分析用デバイスが回転する間に、加熱温度に対する追随変化が異なる部材の温度が検出され、それにより本体部の温度制御に乱調をきたしてしまう。本体部と保護キャップが異なる素材で作製されるのは、一方に設けた爪を他方に設けた爪係止用の穴に引っ掛けて、保護キャップを本体部に係止させる操作を容易にするためである。つまり、本体部と保護キャップは硬度が異なる素材で作製される。一般的には、保護キャップの内部が空洞であるので、保護キャップに本体部よりも柔らかい素材を使用する。
【0011】
また、保護キャップの内部が空洞であるので、本体部と保護キャップとでは熱容量が異なる。この熱容量の違いも、加熱装置の加熱温度に対する追随変化が異なる原因となり、本体部の温度制御に乱調をきたしてしまう。
【0012】
本発明は、上記問題点に鑑み、加熱温度に対する追随変化が異なる本体部と保護キャップとからなる分析用デバイスを用いた場合であっても、本体部の温度制御の乱調を低減させることができる分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の分析装置は、測定槽が形成された本体部と、前記本体部に係止された付属部材とを具備する分析用デバイスを回動させることにより、前記測定槽に分析対象を貯留させ、その貯留された前記分析対象を分析する分析装置であって、受光した赤外線に基づく信号を発生する赤外線センサと、加熱器と、前記赤外線センサが発生する信号から温度を検出し、その検出された温度を基に、前記本体部が所定温度となるように前記加熱器の加熱動作を制御する温度制御部と、を備え、前記温度制御部は、前記分析用デバイスの回動中に、前記赤外線センサの測定領域が前記本体部上を通過する間、前記本体部において検出された温度を基に前記加熱器の加熱動作を制御し、前記測定領域が前記付属部材上を通過する間、前記測定領域が前記付属部材に到達する直前の前記本体部において検出された温度を基に前記加熱器の加熱動作を制御することを特徴とする。
【0014】
上記した本発明の分析装置において、前記温度制御部は、前記測定領域が前記付属部材上を通過する間、前記測定領域が前記付属部材に到達する直前に検出された温度を基に前記加熱器の加熱動作を制御してもよい。
【0015】
または、上記した本発明の分析装置において、前記温度制御部は、前記測定領域が前記付属部材に到達する直前の前記本体部の複数個所において検出された温度を基に、前記測定領域が前記付属部材上を通過する間の温度の予測値を生成し、その生成された予測値を基に、前記測定領域が前記付属部材上を通過する間、前記加熱器の加熱動作を制御してもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の好ましい形態によれば、加熱温度に対する追随変化が異なる本体部と保護キャップなどの付属部材とを具備する分析用デバイスを用いる場合であっても、本体部の温度制御の乱調を低減させることができ、ひいては本体部の所定温度への到達時間の削減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施の形態における分析装置の温度制御に係る構成の一例を示す図
【図2】本発明の実施の形態における分析装置による温度制御の一例を説明するための図
【図3】本発明の実施の形態における分析装置による温度制御の他例を説明するための図
【図4】本発明の実施の形態における分析装置による温度制御の他例で使用される温度データを示す図
【図5】本発明の実施の形態における分析装置に使用される分析用デバイスの本体部と保護キャップの温度上昇曲線の概要を示す図
【図6】従来の温度制御による本体部の温度曲線を示す図
【図7】本発明の実施の形態における分析装置に赤外線センサとして設けられたサーモパイルの拡大図
【図8】本発明の実施の形態における分析装置に加熱器として設けられた面状ヒータの電源回路の一例を示す図
【図9】本発明の実施の形態における分析装置に使用される分析用デバイスの一例を示す図
【図10】本発明の実施の形態における分析装置に使用される分析用デバイスの一例を示す図
【図11】本発明の実施の形態における分析装置に使用される分析用デバイスの一例を示す分解図
【図12】本発明の実施の形態における分析装置に使用される分析用デバイスの一例を示す図
【図13】本発明の実施の形態における分析装置の外観の概略を示す図
【図14】本発明の実施の形態における分析装置の回転制御および分析処理に係る構成の一例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態における分析装置について、図面を交えて説明する。ただし、先行して説明した要素には同一符号を付し、適宜説明を省略する。なお、この実施の形態では、血液を分析する分析装置について説明するが、本発明は、試料に関して特に制限されるものではない。
【0019】
まず、この分析装置にて使用される分析用デバイスについて、図9〜図12を用いて説明する。図9は保護キャップを閉じた状態の分析用デバイスを、図10は保護キャップを開放した状態の分析用デバイスをそれぞれ示している。また、図11は分析用デバイスを分解した図、図12は分析用デバイスを、図9の下側を上側に向けた状態で示す図である。
【0020】
図9〜図12に示すように、この分析用デバイス1は、ベース基板2と、ベース基板2の表面を覆うカバー基板3と、希釈液を保持する希釈液容器4と、試料飛散防止用の保護キャップ5の4つの部品で構成されている。
【0021】
ベース基板2とカバー基板3は、希釈液容器4などを内部にセットした状態で接合される。この接合されたベース基板2とカバー基板3が分析用デバイス1の本体部6を構成しており、付属部材である保護キャップ5は本体部6に取り付けられている。この保護キャップ5により、試料である血液を本体部6内に注入するための注入口7の付近に付着した血液が、分析中に遠心力によって外部へ飛散する事態を防止することができる。また、希釈液容器4の開口4aは、希釈液を入れた後に図示しないアルミ箔によって封止されている。
【0022】
ベース基板2の片面には微細な凹凸形状が形成されており、その凹部の開口をカバー基板3で覆うことによって、本体部6にマイクロチャネル構造体が形成される。マイクロチャネル構造体は、複数の測定槽8a〜8cやその他の槽、並びにそれらの槽の間を連通する流路などからなる。
【0023】
3つの測定槽8a〜8cは、円盤状の分析用デバイス1の周縁部側の同一半径上に配置されており、それらには分析に必要な試薬が予め担持されている。このように複数の測定槽を設けた場合、各測定槽にそれぞれ異なる試薬を担持させることで複数種類の項目を分析することが可能となる。
【0024】
その他の槽には、注入口7から導入された血液を溶液成分である血漿または血清と固形成分である血球とに遠心分離するための分離槽や、遠心分離された溶液成分を希釈液により希釈するための希釈槽などが含まれる。その他に、注入口に点着された血液や、遠心分離された溶液成分や、希釈された溶液成分などを必要な量だけ保持して定量する定量槽なども含まれる。
【0025】
保護キャップ5の片側は、ベース基板2とカバー基板3にそれぞれ形成された軸9a、9bに係合して開閉できるように枢支されている。また、保護キャップ5の他方の片側には、ベース基板2とカバー基板3にそれぞれ形成された爪10a、10bに係止する爪係止用の穴11a、11bが形成されており、保護キャップ5を閉じるときには、それらの穴11a、11bに爪10a、10bを引っ掛けて本体部6に係止させる。
【0026】
このように、本体部6側に設けた爪10a、10bを保護キャップ5側に設けた爪係止用の穴11a、11bに引っ掛けて、保護キャップ5を本体部6に係止させる操作を容易にするために、本体部6と保護キャップ5は硬度が異なる素材で作製される。ここでは、本体部6の素材にポリカーボネート樹脂を使用し、保護キャップ5の素材にABS樹脂を使用する場合について説明するが、無論、本体部6と保護キャップ5に使用することができる素材は、それらに限定されるものではない。
【0027】
さらに、この分析用デバイス1の本体部6には、原点位置を示す原点位置マーク12が設けられている。原点位置マーク12は、例えばベース基板2とカバー基板3にそれぞれ形成した貫通孔12a、12bで構成することができる。ここでは、原点位置マーク12が貫通孔である場合について説明する。
【0028】
また、この分析用デバイス1のカバー基板3と保護キャップ5にはそれぞれ回転支持部13、14が形成されている。また、この分析用デバイス1は、保護キャップ5を閉じることにより希釈液容器4が移動して、希釈液容器の開口4aを封止するアルミ箔が、ベース基板2に設けられた図示しない突起によって破られ、希釈液容器4に予め保持されていた希釈液が流れ出す構成となっている。
【0029】
続いて、分析装置について説明する。分析装置は、円盤状の分析用デバイス1を用いて、その分析用デバイス1の内部に導入された血液の特定成分を測定する。図1は本発明の実施の形態における分析装置の温度制御に係る構成の一例を示す図である。図1には、分析用デバイス1が装着されドア16が閉じられた状態の分析装置15の要部の断面を示している。また、図13は本発明の実施の形態における分析装置の外観の概略を示す図である。図13には、ドア16が開放された状態の分析装置15を示している。
【0030】
分析用デバイス1は、分析用デバイス1の注入口7に血液が点着され、保護キャップ5が閉じられてから、図1、図13に示すように、分析装置15のターンテーブル17に装着される。ターンテーブル17は軸心18を中心に回転する。
【0031】
ターンテーブル17の上面には溝19が形成されており、分析用デバイス1をターンテーブル17に装着した状態では、分析用デバイス1のカバー基板3と保護キャップ5にそれぞれ形成されている回転支持部13、14が溝19に係合している。
【0032】
また、ターンテーブル17に分析用デバイス1を装着してから、分析装置15のドア16を閉じると、図1に示すように、装着された分析用デバイス1は、ドア16の側に設けられた可動片20によって、ターンテーブル17の軸心18上の位置がバネ21の付勢力でターンテーブル17の側に押えられる。これにより、分析用デバイス1は、回転駆動手段であるブラシレスモータ22によって回転駆動されるターンテーブル17と一体に、軸心18まわりに回転する。したがって、分析用デバイス1は回転中心を持つ。ここでは、回転駆動手段として1個のブラシレスモータ22を設ける場合について説明する。なお、図1には、希釈液容器の開口4aを封止するアルミ箔を破るための突起23を示している。
【0033】
続いて、この分析装置15による分析用デバイス1を回転させる処理、並びに血液の特定成分を光学的に読み取る処理について説明する。図14は本発明の実施の形態における分析装置の回転制御および分析処理に係る構成の一例を示す図である。
【0034】
この分析装置15は、図14に示すように、光学的読み取り部24、原点センサ25、A/D変換部26、モータ駆動部27、光源駆動部28、マイクロコンピュータ29および記憶装置30を備える。
【0035】
光学的読み取り部24は、分析用デバイス1の測定槽8a〜8cに貯留された分析対象の特定成分を光学的に読み取る。詳しくは、光学的読み取り部24は、分析用デバイス1の測定槽8a〜8cに検出光を照射するための光源24aと、測定槽8a〜8cを通過した透過光の光量を検出する受光器24bとを備えている。なお、このように検出光が分析用デバイス1の本体部6を透過する必要があるので、本体部6は、光透過性を備えた素材で作製する必要がある。
【0036】
原点センサ25は、分析用デバイス1の絶対位置を検出するために設けられている。詳しくは、原点センサ25は、分析用デバイス1に形成された貫通孔の原点位置マーク12を検出したタイミングで原点信号を発生する。
【0037】
A/D変換部26は、光学的読み取り部24の受光器24bからのアナログ信号をデジタル信号へ変換する。モータ駆動部27は、マイクロコンピュータ29からの駆動命令に従い、ブラシレスモータ22を駆動する信号を発生する。光源駆動部28は、マイクロコンピュータ29からの駆動命令に従い、光学的読み取り部24の光源24aを駆動する信号を発生する。
【0038】
モータ駆動部27により駆動されるブラシレスモータ22は、回転に同期するFG信号を発生する。この実施の形態では、そのFG信号を基にブラシレスモータ22の回転速度などが制御される場合について説明する。
【0039】
ブラシレスモータ22は、ターンテーブル17を介して分析用デバイス1を軸心18まわりに任意の方向に所定の回転速度で回転させるだけではなく、所定の停止位置で軸心18を中心に所定の振幅範囲および周期で左右に往復運動をさせて分析用デバイス1を揺動させることができるように構成されている。
【0040】
なお、ここではブラシレスモータ22により分析用デバイス1を揺動させる場合について説明するが、これに限らず、例えば、ブラシレスモータ22とは別にモータを設け、そのモータ軸の回動をターンテーブルに伝播させて揺動させてもよい。
【0041】
マイクロコンピュータ29は、この分析装置15全体の動作を制御する。記憶装置30には、マイクロコンピュータ29が処理を実行するために用いる情報などが格納される。マイクロコンピュータ29は、例えば、ブラシレスモータ22が発生するFG信号を基に、ターンテーブル17の回転速度や回転方向などを制御する。
【0042】
また例えば、マイクロコンピュータ29は、原点センサ25からの原点信号を検出すると、FG信号の計数を開始し、その計数値を基に、光学的読み取り部24の読み取りタイミング、つまり光源24aの発光タイミングを制御する。また例えば、A/D変換部26からの信号を基に分析結果を演算する。これにより、光源24aが発光する光を測定槽8a〜8cに照射し、測定槽8a〜8cを透過した透過光の光量を検出し、測定槽8a〜8cに貯留された分析対象の特定成分を測定することができる。
【0043】
なお、各測定槽8a〜8cにそれぞれ異なる試薬を担持させ、複数種類の項目を分析する場合には、各項目に対応する異なる波長の光源を複数設けるとともに、それぞれの波長に対応した検出器を設ける。
【0044】
このように構成された分析装置15は、分析用デバイス1の回転速度などを調整することにより、分析用デバイス1の注入口7からマイクロチャネル構造体に導入された血液を、軸心18を中心に分析用デバイス1を回転させることにより発生する遠心力と、分析用デバイス1に設けられたマイクロチャネル構造体に発生する毛細管力とを利用して、分析用デバイス1の周縁部側に設けられた、マイクロチャネル構造体の一部である測定槽8a〜8cへ向けて移送させながら、当該血液に各種の操作を施して、測定槽8a〜8cに分析対象を貯留させる。その貯留された分析対象には、試薬との混合による呈色が生じており、この分析装置15は、回転する分析用デバイス1から、その呈色を光学的に読み取ることで、試料である血液の特定成分を測定する。
【0045】
各種の操作には、注入口7から導入された血液を溶液成分である血漿または血清と固形成分である血球とに遠心分離する操作や、遠心分離された溶液成分を希釈液により希釈する操作や、希釈された溶液成分を試薬と混合させる操作などが含まれる。その他に、注入口7に点着された血液や、遠心分離された溶液成分や、希釈された溶液成分等を必要な量だけ保持して定量する操作なども含まれる。
【0046】
続いて、この分析装置15による温度制御について説明する。試薬との反応は、一般的に温度依存性が高く測定時間や測定精度に影響するため、少なくとも試薬反応が開始してからの温度は一定であることが望ましく、一般的には30°C〜37°C程度、望ましくは37°C程度の温度が好ましい。
【0047】
この分析装置15は、測定精度を高めるために、遅くとも試薬反応開始時までに分析用デバイス1の本体部6の温度を37°C±0.5°C程度に保温する。図1に示すように、この分析装置15は、温度制御に係る要素として、サーモパイル31と、温度制御部32と、ヒータ駆動部33と、面状のヒータ34と、導熱板35とを備える。
【0048】
サーモパイル31は、受光した赤外線に基づく信号を発生する非接触式の赤外線センサの一例である。ここでは、赤外線センサがサーモパイルである場合について説明するが、無論、赤外線センサはサーモパイルに限定されるものではない。
【0049】
サーモパイル31は、赤外線の受光面が分析装置15に装着された分析用デバイス1に対向するように配置されている。好ましくは、サーモパイル31の温度測定領域が、回転する分析用デバイス1の測定槽8a〜8cを通過するように配置する。図7はサーモパイル31の拡大図である。
【0050】
サーモパイル31は、分析装置15に分析用デバイス1が装着されている場合、分析用デバイス1から輻射される赤外線エネルギーに応じたレベルの信号を発生する。このサーモパイル31の温度測定領域は、分析用デバイス1が1回転する間に、本体部6と保護キャップ5上を通過する。
【0051】
温度制御部32は、サーモパイル31が発生する信号から温度を検出し、その検出された温度データを基に、サーモパイル31により検出される温度が所定温度となるようにヒータ34の加熱動作を制御する。
【0052】
詳しくは、温度制御部32は、A/D変換部36とマイクロコンピュータ29からなる。A/D変換部36は、サーモパイル31が発生するアナログ信号をデジタル信号に変換する。マイクロコンピュータ29は、A/D変換部36からの信号を温度に変換する計算式を用いて温度を検出する。その計算式は、記憶装置30に格納されている。さらに、マイクロコンピュータ29は、その検出された温度データを基に、サーモパイル31により検出される温度が所定温度となるようにヒータ34の加熱動作を制御する。
【0053】
ヒータ駆動部33は、マイクロコンピュータ29からの駆動命令に従い、ヒータ34を駆動する信号を発生する。面状のヒータ34は加熱器の一例であり、分析装置15の庫内の雰囲気を加熱する。分析用デバイス1は、分析装置15の庫内の雰囲気を介して加熱される。導熱板35は、分析装置15の庫内の雰囲気を均一に加熱するために設けられている。
【0054】
続いて、この分析装置15における温度制御プロセスについて説明する。まず、分析用デバイス1が分析装置15の庫内に設置される前に、ドア16が閉じられた状態で、分析装置15の庫内の雰囲気の温度が制御される。すなわち、温度制御部32が、サーモパイル31が発生する信号を基に、分析装置15の庫内の雰囲気が所定の温度に到達し、その所定の温度に保たれるように、ヒータ34の加熱動作を制御する。このとき、サーモパイル31は、分析装置15の庫内のドア16の側から発せされる赤外線を受光して、分析装置15の庫内の雰囲気の温度に対応する赤外線エネルギーに応じたレベルの信号を生成する。
【0055】
その後、分析用デバイス1が分析装置15の庫内に設置され、ドア16が閉じられると、温度制御部32は、測定槽8a〜8cに担持されている試薬と分析対象とが反応を開始するときまでに、分析用デバイス1の本体部6が所定の温度(37°C±0.5°C程度)に到達し、その所定の温度に保たれるように、ヒータ34の加熱動作を制御する。
【0056】
このように分析用デバイス1の本体部6の温度を37°C±0.5°C程度に保温した状態で、測定槽8a〜8cに担持されている試薬と分析対象とを反応させ、その反応後の分析対象を測定することにより、測定精度を高めることができる。
【0057】
ヒータ34の加熱動作の制御は、例えばヒータ34の電源を入り切りする制御であってもよい。図8はヒータ34の電源回路を示す図である。ここでは、加熱器が、PETフィルム上に抵抗体などを施した面状のヒータである場合について説明する。
【0058】
図8に示すように、ヒータ34の電源回路は、ヒータ34とスイッチ素子37の直列回路で構成されている。スイッチ素子37は、ヒータ駆動部33からの制御信号S1によってオンおよびオフが制御される素子である。このスイッチ素子37のオンおよびオフを制御することにより、ヒータ34が分析装置15の庫内の雰囲気を加熱する熱量が調整制御される。なお、ヒータ34の加熱動作の制御は、これに限らず、例えばヒータ34へ供給する電圧または電流のレベル制御等であってもよい。
【0059】
続いて、この分析装置15による回転中の分析用デバイス1の本体部6の温度制御について説明する。この分析装置15に使用される円盤状の分析用デバイス1は、本体部6に保護キャップ5が係止している。そのため、分析用デバイス1が1回転する間に、サーモパイル31の温度測定領域が本体部6と保護キャップ5上を通過するが、本体部6と保護キャップ5は異なる素材で作製されており、加熱温度に対する追随変化が異なる。
【0060】
図5は本発明の実施の形態における分析装置に使用される分析用デバイスの本体部と保護キャップの温度上昇曲線の概要を示す図である。図5において、実線は保護キャップ5の温度曲線を示し、破線は本体部6の温度曲線を示している。ここでは、本体部6にポリカーボネート樹脂を使用し、保護キャップ5にABS樹脂を使用しており、この場合、図5に示すように、保護キャップ5は本体部6よりも温度上昇が速くなる。
【0061】
さらに、保護キャップ5は内部が空洞である。そのため、本体部6と保護キャップ5とでは熱容量が異なる。この熱容量の違いも、加熱温度に対する追随変化が異なる原因となる。
【0062】
このように本体部6と保護キャップ5とでは、加熱温度に対する追随変化が異なる。そのため、分析用デバイス1が回転する間に、加熱温度に対する追随変化が異なる部材の温度が検出される。したがって、本体部6と保護キャップ5とで検出された温度データを用いて温度制御を実行すると、温度制御に乱調をきたす。図6は、本体部と保護キャップとで検出された温度データを用いる従来の温度制御による本体部の温度曲線を示す図である。
【0063】
図6に示すように、本体部と保護キャップとで検出された温度データを用いて温度制御を実行した場合、本体部の温度制御に乱調をきたす。また、それにより本体部の所定温度への到達時間が増大する。
【0064】
この分析装置15では、温度制御部32が、分析用デバイス1の回動中に、サーモパイル31の温度測定領域が本体部6上を通過する間は、本体部6において検出された温度データを基にヒータ34の加熱動作を制御する。そして、サーモパイル31の温度測定領域が付属部材である保護キャップ5上を通過する間は、サーモパイル31の温度測定領域が保護キャップ5に到達する直前の本体部6において検出された温度データを基にヒータ34の加熱動作を制御する。
【0065】
これにより、加熱温度に対する追随変化が本体部6とは異なる素材で作製された保護キャップ5の検出温度を、本体部6の温度制御に使用せずに済むので、本体部6の温度制御の乱調を低減させることができる。
【0066】
続いて、サーモパイル31の温度測定領域が保護キャップ5を通過する間におけるヒータ34の加熱動作の制御の第1の例について説明する。図2は本発明の実施の形態における分析装置による温度制御の一例を説明するための図である。ここでは、分析用デバイス1が1回転する間に、本体部6においてFG信号のパルスが16回発生し、保護キャップ5においてFG信号のパルスが8回発生する場合について説明する。
【0067】
温度制御部32を構成するマイクロコンピュータ29は、原点センサ25からの原点信号を検出すると、ブラシレスモータ22が発生するFG信号の計数を開始し、その計数値を基に、サーモパイル31の温度測定領域が本体部6と保護キャップ5上のいずれに存在するのかを判断する。そして、サーモパイル31の温度測定領域が本体部6上を通過する間は、本体部6において検出された温度データを基に、ヒータ34の加熱動作を制御する。一方、サーモパイル31の温度測定領域が保護キャップ5上を通過する間は、サーモパイル31の温度測定領域が保護キャップ5に到達する直前に検出された温度データをホールドして、そのホールドされた温度データを基に、ヒータ34の加熱動作を制御する。したがって、サーモパイル31の温度測定領域が保護キャップ5に到達する直前のヒータ34の出力が、サーモパイル31の温度測定領域が保護キャップ5上を通過するまで維持される。
【0068】
このようにすれば、加熱温度に対する追随変化が本体部6とは異なる素材で作製された保護キャップ5の検出温度を、本体部6の温度制御に使用せずに済むので、本体部6の温度制御の乱調を低減させることができる。
【0069】
続いて、サーモパイル31の温度測定領域が保護キャップ5を通過する間におけるヒータ34の加熱動作の制御の第2の例について、図2を用いて説明した温度制御と異なる点を説明する。図3は本発明の実施の形態における分析装置による温度制御の他例を説明するための図である。
【0070】
温度制御部32を構成するマイクロコンピュータ29は、サーモパイル31の温度測定領域が保護キャップ5に到達する直前の本体部6の複数個所において検出された温度データを基に、サーモパイル31の温度測定領域が保護キャップ5上を通過する間の温度データの予測値を生成し、その生成された予測値を基に、サーモパイル31の温度測定領域が保護キャップ5上を通過する間、ヒータ34の加熱動作を制御する。
【0071】
例えば、図3に示すように、サーモパイル31の温度測定領域が保護キャップ5上を通過する間、その保護キャップ5の直前の本体部6の始端における温度‘a°C’と後端における温度‘b°C’とを基に、サーモパイル31の温度測定領域が保護キャップ5上を通過する間の温度データの予測値として、FG信号が発生するごとに‘(b−a)/16’を‘b’に加算した値を生成してもよい。
【0072】
なお、サーモパイル31の温度測定領域が保護キャップ5上を通過する間の温度データを予測するのに、本体部6の始端と後端における温度データをサンプリングする場合について説明したが、無論、本体部6の他の箇所における温度データをサンプリングしてもよいし、サンプリング数も2つに限定されるものではなく、2つ以上であればよい。
【0073】
図4は、温度制御部32がヒータ34の加熱動作を制御するのに使用する温度データを示す図である。図4において、実線はサーモパイル31により検出される温度データを示し、破線は予測値を示している。
【0074】
温度制御部32は、サーモパイル31の温度測定領域が保護キャップ5上を通過する間、破線で示す予測値を用いて、ヒータ34の加熱動作を制御する。図4に示すように、本体部6の複数個所において検出された温度データを基に生成した予測値を、サーモパイル31の温度測定領域が保護キャップ5上を通過する間の温度データとして挿入することで、その間に使用する温度データを、本体部6の温度に近似させることができる。
【0075】
このようにすれば、加熱温度に対する追随変化が本体部6とは異なる素材で作製された保護キャップ5の検出温度を、本体部6の温度制御に使用せずに済むので、本体部6の温度制御の乱調を低減させることができる上、本体部6の温度変化に近似する予測値を基にヒータの加熱動作を制御できるので、温度制御の精度をより向上させることができる。
【0076】
続いて、この分析装置15の分析工程の概要について説明する。まず、分析装置15に分析用デバイス1が装着される前に、分析装置15は庫内の温度を22〜23°C程度に保温する。その後、ユーザが、分析装置15のドア16を開けて、試料である血液が導入された分析用デバイス1を分析装置15に装着し、ドア16を閉じる。分析用デバイス1は、保護キャップ5が開放された状態で、シリンジなどで採血された血液がスポイドやピペットなどにより注入口7に点着された後、保護キャップ5が閉じられ、分析装置15に装着される。
【0077】
分析装置15に分析用デバイス1が装着された後、分析装置15は、ブラシレスモータ22の回転駆動を開始し、原点信号の発生を検出すると、FG信号の計数を開始する。そして、FG信号を基に、分析用デバイス1の回転速度などを調整することにより、分析用デバイス1の内部に導入された血液を、遠心力と毛細管力とを利用して測定槽8a〜8cへ向けて移送させながら、当該血液に各種の操作を施して、測定槽8a〜8cに分析対象を貯留させる。この間、FG信号の計数値とサーモパイル31により検出される温度データとを基にヒータ34の加熱動作を制御して、試薬反応が始まるまでに、分析用デバイス1の本体部6の温度を37°C±0.5°C程度に保温する。さらに、この間、ブラシレスモータ22の回転数を変化させて加速度を発生させたり、停止させたり、時計回り、反時計回りに正逆回転運動を繰り返すことにより分析用デバイスを揺動させたりしてもよい。その後、測定槽8a〜8cに貯留されている試薬反応後の分析対象の特定成分を光学的に測定する。
【0078】
なお、ここでは、付属部材が試料飛散防止用の保護キャップである場合を例に説明したが、付属部材は保護キャップに限るものではなく、試料が導入されるマイクロチャネル構造体が形成された本体部とは異なる素材で作製され、分析中に本体部に係止するものであればよい。
【0079】
また、ここでは、円盤状の分析用デバイスを例に説明したが、分析用デバイスの形状は円盤状に限るものではなく、分析用デバイスの回転中に、サーモパイルなどの赤外線センサの測定領域が、本体部と保護キャップなどの付属部材上を通過するような形状であればよい。
【0080】
また、ここでは、加熱器として、PETフィルム上に抵抗体などを施して作製される面状のヒータを想定したが、これに限らず、例えば、マイカにニクロム線を巻き付けたマイカヒータなどでもよい。
【0081】
また、ここでは、透過光を利用して試料の特定成分を測定する場合について説明したが、反射光を利用する測定方式であっても構わないし、蛍光検出など他の測定方式であってももちろん支障はない。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明にかかる分析装置は、加熱温度に対する追随変化が異なる本体部と保護キャップなどの付属部材とを具備する分析用デバイスを用いる場合であっても、本体部の温度制御の乱調を低減させることができ、ひいては本体部の所定温度への到達時間の削減を図ることができ、生化学分析装置などの、保護キャップなどの付属部材が本体部に係止された分析用デバイスを回動させることにより、本体部に形成されている測定槽に分析対象を貯留させ、その貯留された分析対象を分析する分析装置に有用である。
【符号の説明】
【0083】
1 分析用デバイス
2 ベース基板
3 カバー基板
4 希釈液容器
5 保護キャップ
6 本体部
7 注入口
8a〜8c 測定槽
9a、9b 軸
10a、10b 爪
11a、11b 穴
12 原点位置マーク
12a、12b 貫通孔
13、14 回転支持部
15 分析装置
16 ドア
17 ターンテーブル
18 軸心
19 溝
20 可動片
21 バネ
22 ブラシレスモータ
23 突起
24 光学的読み取り部
24a 光源
24b 受光器
25 原点センサ
26 A/D変換部
27 モータ駆動部
28 光源駆動部
29 マイクロコンピュータ
30 記憶装置
31 サーモパイル
32 温度制御部
33 ヒータ駆動部
34 ヒータ
35 導熱板
36 A/D変換部
37 スイッチ素子
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定槽が形成された本体部と、前記本体部に係止された付属部材とを具備する分析用デバイスを回動させることにより、前記測定槽に分析対象を貯留させ、その貯留された前記分析対象を分析する分析装置であって、
受光した赤外線に基づく信号を発生する赤外線センサと、
加熱器と、
前記赤外線センサが発生する信号から温度を検出し、その検出された温度を基に、前記本体部が所定温度となるように前記加熱器の加熱動作を制御する温度制御部と、
を備え、前記温度制御部は、前記分析用デバイスの回動中に、前記赤外線センサの測定領域が前記本体部上を通過する間、前記本体部において検出された温度を基に前記加熱器の加熱動作を制御し、前記測定領域が前記付属部材上を通過する間、前記測定領域が前記付属部材に到達する直前の前記本体部において検出された温度を基に前記加熱器の加熱動作を制御することを特徴とする分析装置。
【請求項2】
前記温度制御部は、前記測定領域が前記付属部材上を通過する間、前記測定領域が前記付属部材に到達する直前に検出された温度を基に前記加熱器の加熱動作を制御することを特徴とする請求項1記載の分析装置。
【請求項3】
前記温度制御部は、前記測定領域が前記付属部材に到達する直前の前記本体部の複数個所において検出された温度を基に、前記測定領域が前記付属部材上を通過する間の温度の予測値を生成し、その生成された予測値を基に、前記測定領域が前記付属部材上を通過する間、前記加熱器の加熱動作を制御することを特徴とする請求項1記載の分析装置。
【請求項1】
測定槽が形成された本体部と、前記本体部に係止された付属部材とを具備する分析用デバイスを回動させることにより、前記測定槽に分析対象を貯留させ、その貯留された前記分析対象を分析する分析装置であって、
受光した赤外線に基づく信号を発生する赤外線センサと、
加熱器と、
前記赤外線センサが発生する信号から温度を検出し、その検出された温度を基に、前記本体部が所定温度となるように前記加熱器の加熱動作を制御する温度制御部と、
を備え、前記温度制御部は、前記分析用デバイスの回動中に、前記赤外線センサの測定領域が前記本体部上を通過する間、前記本体部において検出された温度を基に前記加熱器の加熱動作を制御し、前記測定領域が前記付属部材上を通過する間、前記測定領域が前記付属部材に到達する直前の前記本体部において検出された温度を基に前記加熱器の加熱動作を制御することを特徴とする分析装置。
【請求項2】
前記温度制御部は、前記測定領域が前記付属部材上を通過する間、前記測定領域が前記付属部材に到達する直前に検出された温度を基に前記加熱器の加熱動作を制御することを特徴とする請求項1記載の分析装置。
【請求項3】
前記温度制御部は、前記測定領域が前記付属部材に到達する直前の前記本体部の複数個所において検出された温度を基に、前記測定領域が前記付属部材上を通過する間の温度の予測値を生成し、その生成された予測値を基に、前記測定領域が前記付属部材上を通過する間、前記加熱器の加熱動作を制御することを特徴とする請求項1記載の分析装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2011−38807(P2011−38807A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−183935(P2009−183935)
【出願日】平成21年8月7日(2009.8.7)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年8月7日(2009.8.7)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】
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