説明

分析装置

【課題】分析精度の高い分析装置を提供する。
【解決手段】イオンビームを試料10に照射するイオン照射部と、試料から第1の方向106に散乱する散乱イオンを通過させるための第1の開口部34aと、試料から第1の方向と異なる第2の方向114に散乱する散乱イオンを通過させるための第2の開口部34bとが形成された制限板24と、制限板の第1の開口部を通過した散乱イオンと、制限板の第2の開口部を通過した散乱イオンとに対して磁場を印加する磁場印加部28と、磁場印加部により偏向された各々の散乱イオンを検出するイオン検出部30とを有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ラザフォード後方散乱分光法(RBS、Rutherford Backscattering Spectrometry)、或いは、イオン散乱分光法(Ion Scattering Spectroscopy)と称される分析法を用いた分析装置が提案されている。
【0003】
かかる分析装置は、加速されたHeイオン等を真空中で試料に衝突させ、試料の原子核による弾性散乱を受けたHeイオン等のエネルギーと収量とを、マグネットとマルチチャンネルプレートとを用いて検出し、スペクトルを得るものである。
【0004】
このスペクトルを解析することにより、原子層レベルの深さ分解能で、試料の元素の深さ方向の濃度分布等を測定することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−344319号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】木村健二、中嶋薫 共著、「高分解能RBS装置の開発」、表面科学、Vol. 22, No. 7, p.431-437, 2001
【非特許文献2】R. D. Edge, “R.B.S. Microscopic ‘Tomography’,” IEEE Transactions on Nuclear Science, Vol. NS-30, No. 2, April 1983.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の分析装置は、必ずしも十分に高い分析精度が得られない場合があった。
【0008】
本発明の目的は、分析精度の高い分析装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
実施形態の一観点によれば、イオンビームを試料に照射するイオン照射部と、前記試料から第1の方向に散乱する散乱イオンを通過させるための第1の開口部と、前記試料から第1の方向と異なる第2の方向に散乱する散乱イオンを通過させるための第2の開口部とが形成された制限板と、前記制限板の前記第1の開口部を通過した前記散乱イオンと、前記制限板の前記第2の開口部を通過した前記散乱イオンとに対して磁場を印加する磁場印加部と、前記磁場印加部により偏向された各々の前記散乱イオンを検出するイオン検出部とを有することを特徴とする分析装置が提供される。
【発明の効果】
【0010】
開示の分析装置によれば、試料から第1の方向に散乱する散乱イオンを通過させる第1の開口部と、試料から第2の方向に散乱する散乱イオンを通過させる第2の開口部とが形成された制限板が設けられている。このため、試料から第1の方向と第2の方向とにそれぞれ散乱した散乱イオンによるエネルギースペクトルを、それぞれ取得することが可能となる。しかも、試料から第1の方向に散乱した散乱イオンと、試料から第2の方向に散乱した散乱イオン以外の散乱イオンは、制限板により遮断される。特定方向に散乱した散乱イオンのみによるエネルギースペクトルが得られるため、エネルギースペクトルに含まれるバックグラウンドを著しく低減することができる。複数方向分のエネルギースペクトルが得られ、しかも、これらによるエネルギースペクトルは同一状態の試料から得られるものであり、しかも、エネルギースペクトルに含まれるバックグラウンドが著しく低いため、分析精度を十分に向上することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】一実施形態による分析装置を示す平面図である。
【図2】一実施形態による分析装置の一部を示す側面図である。
【図3】制限板を示す平面図である。
【図4】散乱イオンの軌道等を示す模式図である。
【図5】一実施形態において用いられる調整部を示す側面図である。
【図6】一実施形態の変形例(その1)による分析装置を示す平面図である。
【図7】一実施形態の変形例(その2)による分析装置の一部を示す側面図である。
【図8】一実施形態の変形例(その2)による分析装置を示す平面図である。
【図9】一実施形態の変形例(その2)による分析装置の一部を示す側面図である。
【図10】一実施形態の変形例(その2)において用いられる調整部を示す側面図である。
【図11】参考例による分析装置を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図11は、参考例による分析装置を示す平面図である。
【0013】
図11に示すように、参考例による分析装置は、イオン照射部202と分析器204とを有している。イオン照射部202は、イオン源212と、イオンを加速する加速管214と、イオンビームを成形するスリット216と、イオンビームを単色化するウィーンフィルタ218と、単色化されたイオンビームを更に成形するスリット220とを有している。イオン照射部202から出射されるイオンビームは、分析器204のチャンバ222内に配された試料210に入射されるようになっている。
【0014】
分析器204は、試料210が載置されるチャンバ222と、試料210から散乱した散乱イオンに磁場を印加する磁場印加部228と、磁場印加部228により偏向された散乱イオンを検出するイオン検出部230と、処理部232とを有している。
【0015】
しかしながら、このような参考例による分析装置では、必ずしも十分に高い分析精度が得られない場合があった。
【0016】
[一実施形態]
一実施形態による分析装置を図1乃至図5を用いて説明する。図1は、本実施形態による分析装置を示す平面図である。図2は、本実施形態による分析装置の一部を示す側面図である。図3は、制限板を示す平面図である。図4は、散乱イオンの軌道等を示す模式図である。図5は、本実施形態において用いられる調整部を示す側面図である。
【0017】
本実施形態による分析装置は、ラザフォード後方散乱分光法を用いた分析装置である。
【0018】
図1に示すように、本実施形態による分析装置は、試料10に対してイオンビームを照射するイオン照射部2と、イオンビームの照射によって試料10から散乱した散乱イオンによるエネルギースペクトルを測定する分析器4とを有している。
【0019】
イオン照射部2は、イオンを発するイオン源12と、イオンを加速する加速管14と、イオンビームを成形するスリット16と、イオンビームを単色化するウィーンフィルタ18と、単色化されたイオンビームを更に成形するスリット20とを有している。
【0020】
イオン源12は、イオン(荷電粒子)を発するものである。かかるイオン源12としては、例えばヘリウム(He)イオンを発するイオン源を用いる。
【0021】
イオン源12の後段には、イオン源12から発せられるイオンを加速する加速管14が設けられている。加速管14における印加電位は、例えば300kV〜500kV程度とする。
【0022】
加速管14の後段には、スリット16が配されている。かかるスリット16は、加速管14により加速されたイオンビームの通過を制限し、所望のビーム形状及びビームサイズのイオンビームを得るためのものである。スリット16の開口寸法は、例えば1mm×1mm程度とする。
【0023】
スリット16の後段には、ウィーンフィルタ(Wien Filter)18が設けられている。ウィーンフィルタ18は、所定のエネルギーのイオンを通過させ、イオンビームを単色化するものである。
【0024】
ウィーンフィルタ18の後段には、スリット20が配されている。かかるスリット20は、ウィーンフィルタ18により単色化されたイオンビームの通過を制限し、所望のビーム形状及びビームサイズのイオンビームを得るためのものである。スリット20の開口寸法は、例えば0.5mm×0.5mm程度とする。
【0025】
イオン照射部2において、イオンビームは管21内を進行するようになっており、かかる管21内は真空状態に保持されている。
【0026】
こうして、イオンビームを照射するイオン照射部2が形成されている。
【0027】
イオン照射部2から出射されるイオンビームは、後述する分析器4のチャンバ22内に配された試料10に入射されるようになっている。イオン照射部2から出射されるイオンビームの進行方向は、図1の紙面に対して平行な方向である。
【0028】
分析器4は、イオンビームの照射によって試料10から散乱した散乱イオンに磁場を印加することにより、散乱イオンの進行方向を偏向し、散乱イオンの偏向量に基づいてエネルギースペクトルを測定するものである。磁場を印加した際における散乱イオンの偏向量は、散乱イオンの運動エネルギーに依存する。散乱イオンの運動エネルギーは、試料にイオンビームを照射した際にイオンが衝突した相手の原子核の質量、及び、衝突した相手の原子核の試料表面からの距離(深さ)に依存する。このため、散乱イオンによるエネルギースペクトル(エネルギー分布)から、試料の元素、及び、当該元素の存在する深さを推定することが可能である。従って、取得されたエネルギースペクトルに基づいて、試料10の分析を行うことが可能である。
【0029】
分析器4は、チャンバ22と、所定の方向に散乱したイオンを通過させる制限板24と、散乱イオンの進行方向を調整する調整部26と、散乱イオンに磁場を印加する磁場印加部28と、散乱イオンを検出するイオン検出部30と、処理部32とを有している。
【0030】
チャンバ22内には、分析対象となる試料(分析試料、供試体)10が配される。試料10の測定面(イオン入射面)は、図1の紙面に対して垂直に配される。
【0031】
チャンバ22と磁場印加部28との間には、制限板(検出粒子制限板、引き出し部、スリット)24が配されている。かかる制限板24は、試料10から様々な方向に散乱した散乱イオンの通過を制限し、試料10から複数の特定の方向にそれぞれ散乱した散乱イオンを通過させるためのものである。試料10と制限板24との間の距離は、例えば70mm程度とする。
【0032】
図3に示すように、制限板24には、制限板24の中央部に形成された第1の開口部(第1の検出孔)34aと、第1の開口部34aと制限板24の外縁部との間に形成された第2の開口部(第2の検出孔)34bとが形成されている。分析器4に制限板24を配した状態において、第2の開口部34bは、第1の開口部34aの上方に位置している。
【0033】
第1の開口部34aは、試料10の主面(測定面)100に入射されるイオンビームの軌道101と試料10の主面100の法線方向102とを含む第1の面104に含まれる第1の方向106に散乱した散乱イオンが達する箇所に位置している(図4参照)。第1の面104は、図1の紙面に対して平行である。第1の面104は、試料10に入射されるイオンビームの軌道100と、試料10から第1の方向106に散乱される散乱イオンの軌道108とを含む。
【0034】
第2の開口部34bは、第1の方向106と第1の面104の法線方向110とを含む第2の面112に含まれる第2の方向114に拡散した散乱イオンが達する箇所に位置している。第2の面112は、図1の紙面に対して垂直な面である。第2の面112は、試料10から第1の方向106に散乱される散乱イオンの軌道108と、試料10から第2の方向114に散乱される散乱イオンの軌道116とを含む。試料10から第1の方向106に散乱される散乱イオンは、第1の面104と第2の面112とが交差する箇所に形成される線分に沿って進行する。
【0035】
制限板24は、円盤状に形成されている。制限板24の直径は、例えば38mm程度とする。制限板24の厚さは、例えば1mm程度とする。第1の開口部34a及び第2の開口部の開口寸法は、それぞれ例えば0.5mm×0.5mm程度とする。第1の開口部34aは、制限板24の例えば中心部に位置している。制限板24の主面の法線方向は、第1の方向106と一致している。従って、試料10から第1の方向106に散乱する散乱イオンは、制限板24の主面に直交するように第1の開口部34aを通過する。第2の開口部34bは、上述したように、第1の開口部34aと制限板24の外縁部との間に位置している。第1の開口部34aと第2の開口部34bとの間の距離は、例えば10mm程度とする。第1の開口部34aの位置と第2の開口部34bの位置とを結ぶ線分の方向は、図1における紙面垂直方向である。第1の開口部34aの位置と第2の開口部34bの位置とを結ぶ線分は、第2の面112に含まれる。
【0036】
制限板24と磁場印加部28との間には、調整部(偏向器)26が配されている。かかる調整部26は、試料10から第2の方向114に散乱して制限板24の第2の開口部34bを通過した散乱イオンの進行方向を調整するためのものである。調整部26は、試料10から第2の方向114に散乱して制限板24の第2の開口部34bを通過した散乱イオンに対して電場(電界)を印加することにより、散乱イオンの進行方向を偏向する。
【0037】
調整部26は、散乱イオンの軌道に沿うように配された複数対の平行平板電極36a〜36cを有している。ここでは、例えば3対の平行平板電極36a〜36cが配されている。
【0038】
平行平板電極36a〜36cの各々の電極38は、例えば導電性の板状体により形成されている。かかる板状体としては、例えばアルミニウム板が用いられている。電極38の寸法は、例えば、50mm×50mm×2mm程度とする。互いに対向する電極38の間隔は、例えば10mm程度とする。互いに隣接している平行平板電極36a〜36cの間隔は、例えば10mm程度とする。互いに隣接する平行平板電極36a〜36cは、図5における紙面上下方向に、所定の寸法ずつずらして配されている。ここでは、互いに隣接する平行平板電極36a〜36cを、図5における紙面上下方向に、例えば2mmずつずらして配している。
【0039】
各々の平行平板電極36a〜36cには、各々の電極38間に直流電圧を印加する電圧印加部40a〜40cが接続されている。電圧印加部40a〜40cにより各々の平行平板電極36a〜36cの電極38間に印加される電圧は、例えば0〜20kV程度とする。各々の平行平板電極36a〜36cの電極38間に印加する電圧を適宜設定することにより、制限板24の第2の開口部34bを通過した散乱イオンの進行方向を、制限板24の第1の開口部34aを通過した散乱イオンの進行方向と平行にすることができる。
【0040】
試料10から第1の方向106に散乱されて制限板24の第1の開口部34aを通過した散乱イオンは、調整部26を経由することなく、磁場印加部28に導入される(図2参照)。
【0041】
一方、試料10から第2の方向114に散乱され、制限板24の第2の開口部34bを通過した散乱イオンは、調整部26により進行方向が調整され、制限板24の第1の開口部34aを通過した散乱イオンの進行方向と平行に進行する。
【0042】
第1の開口部34aを通過して磁場印加部28に導入される散乱イオンの軌道と、第2の開口部34bを通過し、調整部26により軌道が調整されて磁場印加部28に導入される散乱イオンの軌道とは、図1の紙面垂直方向から見ると、互いに重なり合っている。しかも、試料10から第2の方向114に散乱され、制限板24の第2の開口部34bを通過し、調整部26により進行方向が調整された散乱イオンの進行方向は、制限板24の第1の開口部34aを通過した散乱イオンの進行方向に対して平行となる。従って、制限板24の第1の開口部34aを通過した散乱イオンと、試料10から第2の方向114に散乱され、制限板24の第2の開口部34bを通過し、調整部26により進行方向が調整された散乱イオンとは、共通の磁場印加部28に導入することができる。
【0043】
磁場印加部(磁場偏向型エネルギー分光器、偏向手段、偏向器、磁場形成器)28は、図1における紙面垂直方向、即ち、図2における紙面上下方向に、ほぼ均一な磁場42を生ずるものである。磁場印加部28は、磁場の印加により進行方向が徐々に変化する散乱イオンが通過可能なように形成された分析管(偏向管)44と、分析管44の上下に配された一対のマグネット(電磁石)46a、46bとを有している。磁場印加部28は、散乱イオンの進行方向に対して垂直な方向に磁場42を印加する。イオンに磁場を印加すると、イオンにローレンツ力が作用する。イオンに作用するローレンツ力の大きさは、イオンの運動エネルギーに依存するため、イオンは、当該イオンの運動エネルギーに応じた軌道をたどる。
【0044】
磁場印加部28により偏向された散乱イオンは、チャンバ29内に配されたイオン検出部30に導入されるようになっている。イオン検出部30は、第1のイオン検出器48aと、第1の検出器48bの上方に配された第2のイオン検出器48bとを有している。第1のイオン検出器48aのイオン検出領域(図示せず)には、制限板24の第1の開口部34aを通過し、磁場印加部28により偏向された散乱イオンが入射されるようになっている。第2のイオン検出器48bのイオン検出領域(図示せず)には、制限板24の第2の開口部34bを通過し、調整部26により進行方向が調整され、磁場印加部28により偏向された散乱イオンが入射されるようになっている。第1のイオン検出器48a及び第2のイオン検出器48bとしては、いずれも1次元型の位置敏感検出器(PSD、Position Sensitive Detector)が用いられている。位置敏感検出器は、イオンの入射位置を検出し得る検出器である。1次元型の位置敏感検出器は、イオン検出領域のうちのイオンが入射した位置を1次元的に検出し得る。イオン検出器48a、48bは、イオン検出領域のうちの散乱イオンが入射された位置についての情報を示す信号(検出信号)を出力する。
【0045】
イオン検出部30には、例えばアナログ−デジタル変換回路(ADC、Analog to Digital Converter)(図示せず)等を介して、処理部(制御部)32が接続されている。処理部32は、本実施形態による分析装置全体を制御するとともに、所定の処理を行うものである。処理部32としては、例えば、所定の処理プログラムがインストールされたパーソナルコンピュータ等を用いることができる。
【0046】
上述したように、イオンに作用するローレンツ力の大きさは、イオンの運動エネルギーに依存するため、散乱イオンは、当該散乱イオンの運動エネルギーに応じた軌道をたどる。従って、第1のイオン検出器48a及び第2のイオン検出器48bにそれぞれ入射される散乱イオンの入射位置と入射数とに基づいて、エネルギースペクトルをそれぞれ求めることが可能である。具体的には、処理部32は、第1のイオン検出器48aに入射される散乱イオンの入射位置と入射数とに基づいて、第1の開口部34aを通過し、磁場印加部28により偏向される散乱イオンによるエネルギースペクトルを得る。また、処理部32は、第2のイオン検出器48bに入射される散乱イオンの入射位置と入射数とに基づいて、第2の開口部34bを通過し、調整部26により進行方向が調整され、磁場印加部28により偏向される散乱イオンによるエネルギースペクトルを得る。
【0047】
分析器4において、イオンビームや散乱イオンはチャンバ22、29内や管23内や分析管44内を進行するようになっており、かかるチャンバ22、29内や管23内や分析管44内は真空状態に保持されている。
【0048】
こうして、本実施形態による分析装置が形成されている。
【0049】
このように、本実施形態によれば、試料10から第1の方向106に散乱する散乱イオンを通過させる第1の開口部34aと、試料10から第2の方向114に散乱する散乱イオンを通過させる第2の開口部34bとが形成された制限板24が設けられている。このため、本実施形態によれば、試料10から第1の方向106と第2の方向114とにそれぞれ散乱した散乱イオンによるエネルギースペクトルを、それぞれ取得することが可能となる。しかも、本実施形態によれば、試料10から第1の方向106に散乱した散乱イオンと、試料10から第2の方向114に散乱した散乱イオン以外の散乱イオンは、制限板24により遮断される。特定方向に散乱した散乱イオンのみによるエネルギースペクトルが得られるため、エネルギースペクトルに含まれるバックグラウンドを著しく低減することができる。複数方向分のエネルギースペクトルが得られ、しかも、これらによるエネルギースペクトルは同一状態の試料から得られるものであり、しかも、エネルギースペクトルに含まれるバックグラウンドが著しく低いため、分析精度を十分に向上することができる。
【0050】
また、本実施形態によれば、制限板24を通過した散乱イオンの進行方向を調整する調整部26が設けられているため、第1の開口部34aを通過した散乱イオンと第2の開口部34bを通過した散乱イオンとを共通の磁場印加部28に導入することができる。このため、本実施形態によれば、共通の磁場印加部26を用いてこれらの散乱イオンに磁場を印加することができる。従って、本実施形態によれば、大型化や高額化等を招くことなく、分析精度を十分に向上することができる。
【0051】
(変形例(その1))
本実施形態の変形例(その1)による分析装置について図6及び図7を用いて説明する。図6は、本変形例による分析装置を示す平面図である。図7は、本変形例による分析装置の一部を示す側面図である。
【0052】
本変形例による分析装置は、2次元型のイオン検出器によりイオン検出部30aが形成されているものである。
【0053】
図6及び図7に示すように、磁場印加部28により偏向された散乱イオンは、イオン検出部30aに導入されるようになっている。イオン検出部30aは、2次元型のイオン検出器により形成されている。2次元型のイオン検出器30aのイオン検出領域(図示せず)には、第1の開口部34aを通過し、磁場印加部28により進行方向が偏向された散乱イオンが入射されるようになっている。また、2次元型のイオン検出器30aのイオン検出領域には、制限板24の第2の開口部34bを通過し、調整部26により進行方向が調整され、磁場印加部28により偏向された散乱イオンも入射されるようになっている。2次元型のイオン検出器30aとしては、2次元型の位置敏感検出器が用いられている。2次元型の位置敏感検出器は、イオン検出領域のうちのイオンが入射した位置を2次元的に検出し得る。2次元型のイオン検出器30aは、イオン検出領域のうちの散乱イオンが入射された位置についての情報を示す信号(検出信号)を出力する。
【0054】
イオン検出部30aには、例えばアナログ−デジタル変換回路(図示せず)等を介して、処理部32が接続されている。処理部32は、2次元型のイオン検出器30aに入射される散乱イオンの入射位置と入射数とに基づいて、第1の開口部34aを通過し、磁場印加部28により偏向される散乱イオンによるエネルギースペクトルを得る。また、処理部32は、2次元型のイオン検出器30aに入射される散乱イオンの入射位置と入射数とに基づいて、第2の開口部34bを通過し、調整部26により進行方向が調整され、磁場印加部28により偏向される散乱イオンによるエネルギースペクトルを得る。
【0055】
このように、2次元型のイオン検出器によりイオン検出部30aが形成されていてもよい。
【0056】
(変形例(その2))
本実施形態の変形例(その2)による分析装置について図8乃至図10を用いて説明する。図8は、本変形例による分析装置を示す平面図である。図9は、本変形例による分析装置の一部を示す側面図である。図10は、本変形例において用いられる調整部を示す側面図である。
【0057】
本変形例による分析装置は、湾曲した電極41a,41bを用いて調整部26aが形成されているものである。
【0058】
図6及び図7に示すように、試料10から第2の方向114に散乱し、制限板24の第2の開口部34bを通過した散乱イオンは、調整部26aに導入されるようになっている。調整部26aは、互いに対向する一対の電極41a,41bを有している。電極41a,41bは、電場(電界)を印加した際に徐々に進行方向が変化する散乱イオンの軌道に沿うように湾曲している。
【0059】
調整部26aの電極41a,41bには、電極41aと電極41bとの間に直流電圧を印加する電圧印加部40dが接続されている。電圧印加部40dにより調整部26aの電極41a、41b間に印加される電圧は、例えば20kV以下とする。電極41a,41b間に印加する電圧を適宜設定することにより、第1の開口部34aを通過する散乱イオンの進行方向106と平行な方向に、第2の開口部34bを通過した散乱イオンを進行させることができる。
【0060】
このように、湾曲した電極41a,41bを用いて調整部26aを形成してもよい。
【0061】
[変形実施形態]
上記実施形態に限らず種々の変形が可能である。
【0062】
例えば、上記実施形態では、イオン源12として、ヘリウムイオンを発するイオン源を用いる場合を例に説明したが、これに限定されるものではない。例えば、イオン源12として、水素イオン等を発するイオン源を用いるようにしてもよい。
【0063】
また、上記実施形態では、3対の平行平板電極36a〜36cを用いる場合を例に説明したが、平行辺板電極36a〜36cの数は、3対に限定されるものではなく、適宜設定すればよい。
【0064】
また、図8乃至図10に示す変形例(その2)による分析装置では、において、2次元型のイオン検出器30aを形成する場合を例に説明したが、これに限定されるものではない。例えば、図8乃至図10に示す変形例(その2)による分析装置において、図1乃至図5を用いて上述した分析装置と同様に、1次元型のイオン検出器48a,48bを用いるようにしてもよい。
【0065】
また、上記実施形態では、試料10から第2の方向114に散乱し、制限板24の第2の開口部34bを通過した散乱イオンの進行方向を、調整部26だけを用いて調整する場合を例に説明したが、これに限定されるものではない。例えば、第1の面104の面内方向と平行な方向に散乱イオンの進行方向を偏向し得る他の調整部を、調整部26の前段又は後段に配するようにしてもよい。
【0066】
上記実施形態に関し、更に以下の付記を開示する。
【0067】
(付記1)
イオンビームを試料に照射するイオン照射部と、
前記試料から第1の方向に散乱する散乱イオンを通過させるための第1の開口部と、前記試料から第1の方向と異なる第2の方向に散乱する散乱イオンを通過させるための第2の開口部とが形成された制限板と、
前記制限板の前記第1の開口部を通過した前記散乱イオンと、前記制限板の前記第2の開口部を通過した前記散乱イオンとに対して磁場を印加する磁場印加部と、
前記磁場印加部により偏向された各々の前記散乱イオンを検出するイオン検出部と
を有することを特徴とする分析装置。
【0068】
(付記2)
付記1記載の分析装置において、
前記制限板の前記第1の開口部を通過した前記散乱イオンと、前記制限板の前記第2の開口部を通過した前記散乱イオンとが、共通の前記磁場印加部に導入されるように、前記散乱イオンの進行方向を調整する調整部を更に有する
ことを特徴とする分析装置。
【0069】
(付記3)
付記2記載の分析装置において、
前記調整部は、前記制限板の前記第1の開口部を通過した前記散乱イオンの前記進行方向と、前記制限板の前記第2の開口部を通過した前記散乱イオンの前記進行方向とが、平行になるように、前記散乱イオンの前記進行方向を調整する
ことを特徴とする分析装置。
【0070】
(付記4)
付記2又は3記載の分析装置において、
前記調整部は、前記散乱イオンに電場を印加することにより、前記散乱イオンの前記進行方向を調整する
ことを特徴とする分析装置。
【0071】
(付記5)
付記1乃至4のいずれかに記載の分析装置において、
前記調整部は、前記散乱イオンの軌道に沿うように配された複数対の平行平板電極を有する
ことを特徴とする分析装置。
【0072】
(付記6)
付記1乃至5のいずれかに記載の分析装置において、
前記制限板の前記第1の開口部は、前記試料に照射される前記イオンビームの軌道と前記試料の主面の法線方向とを含む第1の面に含まれる第1の方向に散乱した前記散乱イオンが達する箇所に位置しており、
前記制限板の前記第2の開口部は、前記第1の方向と前記第1の面の法線方向とを含む第2の面に含まれる第2の方向に拡散した前記散乱イオンが達する箇所に位置している
ことを特徴とする分析装置。
【0073】
(付記7)
付記1乃至6のいずれかに記載の分析装置において、
前記イオン検出部は、前記制限板の前記第1の開口部を通過し、前記磁場印加部により偏向された前記散乱イオンを検出する第1の1次元検出器と、前記制限板の前記第2の開口部を通過し、前記磁場印加部により偏向された前記散乱イオンを検出する第2の1次元検出器とを有する
ことを特徴とする分析装置。
【0074】
(付記8)
付記1乃至6のいずれかに記載の分析装置において、
前記イオン検出部は、前記制限板の前記第1の開口部を通過し、前記磁場印加部により偏向された前記散乱イオンと、前記制限板の前記第2の開口部を通過し、前記磁場印加部により偏向された前記散乱イオンとを検出する2次元検出器を有する
ことを特徴とする分析装置。
【符号の説明】
【0075】
2…イオン照射部
4…分析器
10…試料
12…イオン源
14…加速管
16…スリット
18…ウィーンフィルタ
20…スリット
21…管
22…チャンバ
23…管
24…制限板
26,26a…調整部
28…磁場印加部
29…チャンバ
30、30a…イオン検出部
32…処理部
34a,34b…開口部
36a〜36c…平行平板電極
38…電極
40…電圧印加部
41a,41b…電極
42…磁場
44…分析管
46a,46b…マグネット
48a,48b…イオン検出器
100…主面
101…軌道
102…法線方向
104…第1の面
106…第1の方向
108…軌道
110…法線方向
112…第2の面
114…第2の方向
116…軌道
202…イオン照射部
204…分析器
210…試料
212…イオン源
214…加速管
216…スリット
218…ウィーンフィルタ
220…スリット
222…チャンバ
228…磁場印加部
230…イオン検出部
232…処理部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオンビームを試料に照射するイオン照射部と、
前記試料から第1の方向に散乱する散乱イオンを通過させるための第1の開口部と、前記試料から第1の方向と異なる第2の方向に散乱する散乱イオンを通過させるための第2の開口部とが形成された制限板と、
前記制限板の前記第1の開口部を通過した前記散乱イオンと、前記制限板の前記第2の開口部を通過した前記散乱イオンとに対して磁場を印加する磁場印加部と、
前記磁場印加部により偏向された各々の前記散乱イオンを検出するイオン検出部と
を有することを特徴とする分析装置。
【請求項2】
請求項1記載の分析装置において、
前記制限板の前記第1の開口部を通過した前記散乱イオンと、前記制限板の前記第2の開口部を通過した前記散乱イオンとが、共通の前記磁場印加部に導入されるように、前記散乱イオンの進行方向を調整する調整部を更に有する
ことを特徴とする分析装置。
【請求項3】
請求項2記載の分析装置において、
前記調整部は、前記制限板の前記第1の開口部を通過した前記散乱イオンの前記進行方向と、前記制限板の前記第2の開口部を通過した前記散乱イオンの前記進行方向とが、平行になるように、前記散乱イオンの前記進行方向を調整する
ことを特徴とする分析装置。
【請求項4】
請求項2又は3記載の分析装置において、
前記調整部は、前記散乱イオンに電場を印加することにより、前記散乱イオンの前記進行方向を調整する
ことを特徴とする分析装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の分析装置において、
前記制限板の前記第1の開口部は、前記試料に照射される前記イオンビームの軌道と前記試料の主面の法線方向とを含む第1の面に含まれる第1の方向に散乱した前記散乱イオンが達する箇所に位置しており、
前記制限板の前記第2の開口部は、前記第1の方向と前記第1の面の法線方向とを含む第2の面に含まれる第2の方向に拡散した前記散乱イオンが達する箇所に位置している
ことを特徴とする分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−92470(P2013−92470A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−235297(P2011−235297)
【出願日】平成23年10月26日(2011.10.26)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】