説明

分泌細胞を包埋した細胞シート及び該細胞シートの作製方法

【課題】 非抗原性で無毒であり、選択的透過性を有し、分泌細胞の活性を長期間維持することができ、さらに形状、大きさ等を精密に調整できる細胞シートとその作製方法を提供することを課題とする。
【解決手段】 生体適合性のある疎水性(メタ)アクリレート共重合体、光重合性化合物、及び光重合開始剤を含有する光重合性組成物が光重合されてなり、分泌細胞を内部に含む液相が包埋された細胞シートを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は分泌細胞異常の症状の治療に用いることのできる細胞シートと該細胞シートの作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
我が国における糖尿病の患者数は推定約700万人であり、境界型糖尿病を含めると1400万人にものぼるといわれている。糖尿病は、血糖値を下げる唯一のホルモンであるインスリンの産生能力の低下もしくは欠如または、細胞のインスリン感受性の低下が原因で引き起こされる病気で、糖尿病性昏睡のような急性の合併症や糖尿病性網膜症、糖尿病性腎症等の慢性の合併症を引き起こす。
【0003】
糖尿病が引き起こされるメカニズムとして「インスリン依存型糖尿病」(1型)と「インスリン非依存型糖尿病」(2型)に分類されるが、現在のところ共にインスリン注射により血糖値を下げるという治療法が取られることが多い。しかし、インスリン注射では一時的に血糖値を下げることはできるが、糖尿病を完治させることはできない。
【0004】
糖尿病患者のインスリン注射に代わる治療方法として、膵臓移植があるが、患者に適合する臓器が不足しているのが現状である。また、膵臓移植を行うことができたとしても、拒絶反応を抑制するため、生涯免疫抑制剤を服用することが必要となり患者にかかる負担は甚大である。
【0005】
また、インスリンを分泌するβ細胞を有する膵島を膵臓から分離する技術が進歩したことにより、膵島のみを移植する治療法も試みられている。しかし、膵臓移植と同じく患者に適合する膵島が不足しておりまた、膵島移植を行うことができたとしても、移植した膵島の拒絶反応を抑制するため、生涯免疫抑制剤の服用が必要である。
【0006】
このような現状に鑑み、膵島移植の拒絶反応の問題を解決するため、特定の物質で膵島コーティングする技術の構築が試みられてきた。膵島をコーティングすることにより拒絶反応が引き起こされなければ、患者に適合しない膵島も移植することが可能になり、膵島が不足する問題も解決される。
【0007】
コーティングされた膵島が臨床的に有効なものであるためには、コーティングする物質が(1)非抗原性であり且つ無毒であること(2)細胞に必要な栄養素、インスリン分泌を刺激する物質及びインスリン等を透過し、且つ抗体を透過させない選択的透過性を有すること、(3)移植後長期間膵島の活性を維持させることができること(4)移植に適するようにコーティングされた膵島の形状、大きさ(特に分泌細胞をコーティングするコーティング材料自体の厚み)を調整することができること等が要求される。
【0008】
これまでに、アルギン酸塩で膵島をコーティングして得られたカプセル化膵島が作製されている。しかし、純粋なアルギン酸塩を得ることが困難であることから、アルギン酸塩に含まれる不純物に対して拒絶反応を引き起こすことがあり上記要件(1)を満たさず、また、膵島の表面を均一にコーティングすることが困難であるため、物質の選択的透過性を示さず要件(2)を満たさない。更にアルギン酸塩は水溶性であり体内で溶解してしまうため、長期に膵島の活性を維持できず要件(3)も満たさない。また、膵島が直接アルギン酸塩でコーティングされていることも、長期に膵島の活性を維持できない(要件(3)を満たさない)要因となる。加えて、コーティングされた膵島の形状、大きさを調整することも困難であり要件(4)も満たさない。
【0009】
また、アガロースとコラーゲンで膵島をコーティングして得られたカプセル化膵島も作製されている(特許文献1)。しかし、当該カプセル化膵島は、膵島を懸濁したアガロースとコラーゲン溶液をミネラルオイル等に滴下して作製されるため、カプセル化膵島の形状、大きさを精密に調整できず要件(4)を満たさない。また、アガロースとコラーゲンは水溶性であり且つ、膵島が直接コーティングされているため、長期に膵島の活性を維持できず要件(3)を満たさない。加えて、膵島を含まない空のカプセルも多くできる可能性がある。
【0010】
更に、光重合性の化合物でコーティングしたカプセル化細胞も作製されている(特許文献2)。しかし、膵島の表面を均一にコーティングすることが困難であるため、物質の選択的透過性を示さず要件(2)を満たさない。また、当該カプセル化細胞は膵島が直接光重合性の化合物にコーティングされているため、長期に膵島の活性を維持できず要件(3)を満たさない。加えてカプセル化細胞の形状、大きさを調整することは困難であり、要件(4)を満たさない。
【0011】
上記のように移植後の拒絶反応を避けるため、様々な物質によってコーティングされた膵島が種々提案されているが、いずれも(1)〜(4)の全ての要件を備えておらず、臨床において有用なコーティングされた膵島とその作製方法の樹立が望まれている。
また、膵島以外の他の分泌細胞においても同様の問題があり、解決が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特願2006−282280公報
【特許文献2】特願2004−543792公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は上記観点からなされたものであり、非抗原性で無毒であり、選択的透過性を有し、分泌細胞の活性を長期間維持することができ、さらに形状、大きさ等を精密に調整できる細胞シートとその作製方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
請求項1に係る発明は、生体適合性のある疎水性(メタ)アクリレート共重合体、光重合性化合物、及び光重合開始剤を含有する光重合性組成物が光重合されてなり、分泌細胞を内部に含む液相が包埋された細胞シートに関する。
【0015】
請求項2に係る発明は、前記疎水性(メタ)アクリレート共重合体が、前記液相との混合により、前記液相の周囲に界面を形成する性質を有する共重合体であることを特徴とする請求項1に記載の細胞シートに関する。
【0016】
請求項3に係る発明は、前記疎水性(メタ)アクリレート共重合体がアルキル(メタ)アクリレート単位及びメトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート単位を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の細胞シートに関する。
【0017】
請求項4に係る発明は、前記光重合性化合物が、少なくとも一つの不飽和二重結合を持つ光重合性モノマーであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の細胞シートに関する。
【0018】
請求項5に記載の発明は、前記分泌細胞が、膵島である請求項1乃至4のいずれかに記載の細胞シートに関する。
【0019】
請求項6に係る発明は、前記膵島が、ヒト膵島である請求項5に記載の細胞シートに関する。
【0020】
請求項7に係る発明は、以下の(a)〜(c)を順に行うことを特徴とする細胞シートの作製方法に関する。
(a) 生体適合性のある疎水性(メタ)アクリレート共重合体、光重合性化合物及び光重合開始剤からなる光重合性組成物に、分泌細胞を内部に含む液相を分散させる工程
(b) 前記液相を分散した液を用いて膜を形成する工程
(c) 前記膜に光を照射し重合させる工程
【0021】
請求項8に係る発明は、前記(b)の工程が以下の(1)〜(2)を順に行うことを特徴とする請求項7に記載の細胞シートの作製方法に関する。
(1)基盤の上に二本の細線状の物質を一定の間隔を有して配置し、該細線状物質の間に前記液相を分散した液を滴下する工程
(2)前記二本の細線状物質の間隔を広げるように前記細線状物質をスライドさせることにより、二本の細線状物質の間に膜を形成する工程
【0022】
請求項9に係る発明は、前記細線状物質への前記光重合性組成物の濡れ性が良好で且つ、5mm以下の線径を有することを特徴とする請求項8に記載の細胞シートの作製方法に関する。
【0023】
請求項10に係る発明は、前記(メタ)アクリレート共重合体がアルキル(メタ)アクリレート単位及びメトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート単位を有することを特徴とする共重合体である請求項7乃至9のいずれかに記載の細胞シートの作製方法に関する。
【発明の効果】
【0024】
請求項1に係る発明によれば、分泌細胞を包埋(コーティング)する物質が生体適合性のある疎水性(メタ)アクリレート共重合体を有する光重合性組成物であるため、非抗原性で無毒であり、選択的透過性を有する。また、該光重合性組成物は水に不溶であるため、体内で溶解せずに長期間存在するので、分泌細胞の活性を長期に維持することができる。
更に、分泌細胞を含んだ液相をシートに包埋するため、分泌細胞を自然な状態のまま保持できる。このことも、分泌細胞の活性を長期に維持する要因となる。
また、該光重合性組成物は(メタ)アクリレート共重合体に加えて、光重合性化合物と光重合開始剤を有するため、光を照射し重合させることで細胞シートの形状・大きさを決定することができ、細胞シートの形状、大きさを精密に調整できる。
【0025】
請求項2に係る発明によれば、疎水性(メタ)アクリレート共重合体が、分泌細胞を内部に含む液相と混合させることによって、分泌細胞を多数含む液相の周囲に界面を形成し、W/Oエマルションを形成するため、確実に分泌細胞を内部に含む液相を細胞シートに包埋することができる。
【0026】
請求項3に係る発明によれば、(メタ)アクリレート共重合体がアルキル(メタ)アクリレート単位及びメトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート単位を有するため、特に生体適合性に優れ、非抗原性で無毒であり、また、選択的透過性にも優れているため、より安全に移植に用いることができる。更に水に不溶であるため、移植後も分泌細胞の活性を長期に渡って維持することができる。
【0027】
請求項4に係る発明によれば、前記光重合性化合物が、少なくとも一つの不飽和二重結合を持つ重合性モノマーであることにより、光重合を好適に行うことができる。
【0028】
請求項5に係る発明によれば、分泌細胞が膵島であることにより、糖尿病患者に拒絶反応を引き起こすことなく膵島を移植することができるようになり、長期に渡ってインスリンを体内で供給することができる。
【0029】
請求項6に係る発明によれば、膵島がヒト膵島であることにより、糖尿病患者に拒絶反応を引き起こすことなくヒト膵島を移植することができるようになり、動物インスリンに比べて、抗体を作りにくい安全なヒトインスリンを長期に渡って体内で供給できる。
【0030】
請求項7に係る発明によれば、生体適合性のある疎水性(メタ)アクリレート共重合体、光重合性化合物及び、光重合開始剤を含有する光重合性組成物を光重合させてシートを得るため、大きさ、形状を精密に調整することができ且つ、分泌細胞を内部に含む液相を包埋した細胞シートを作製することができる。
【0031】
請求項8に係る発明によれば、細線状の物質をスライドさせる距離や方向により、細胞シートの形状、大きさを精密に調整することができる。
【0032】
請求項9に係る発明によれば、光重合性組成物との濡れ性が良好で且つ、5mm以下の線径を有する細線状物質を用いることによって、薄い細胞シートを作製することができる。
【0033】
請求項10に係る発明によれば、アルキル(メタ)アクリレート単位及びメトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート単位を有することにより、特に生体適合性に優れ、非抗原性で無毒であり、また、選択的透過性にも優れているため、より安全に移植に用いることができる細胞シートを作製することができる。加えて、水に不溶であるため、移植後も分泌細胞の活性を長期に渡って維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】形成した膜に光を照射して重合させている写真である。
【図2】光重合性組成物の中に膵島を内部に含む液相が分散してW/Oエマルションを形成している写真である。
【図3】作製された細胞シートを示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明に係る細胞シートについて詳細に説明する。
本発明に係る細胞シートは、生体適合性のある疎水性(メタ)アクリレート共重合体を有する光重合性組成物からなり、分泌細胞を内部に含む液相(例えば培養液)を包埋することで、液相ごと分泌細胞をコーティングした細胞シートである。
本発明の細胞シートは、人体に移植することにより分泌細胞異常の病気の治療に用いることができる。
以下、本発明に係る細胞シートを構成する光重合性組成物、分泌細胞について夫々説明する。
【0036】
(光重合性組成物)
本発明に用いる光重合性組成物は光の照射で重合し、生体適合性のある疎水性(メタ)アクリレート共重合体を有するものである。該光重合性組成物は、生体適合性のある疎水性(メタ)アクリレート共重合体を含むので、非抗原性で無毒であり、選択的透過性を有する。従って、安全に生体内への移植に用いることができる。更に、水に不溶であるため、生体内で溶解せずに長期に渡って維持される。加えて光重合させたシートの形状、大きさを精密に調整することができるため、移植する場所等に応じて形を変化させることができる。故に分泌細胞を内部に含む液相を包埋する物質としては優れた特性を有しており、また拒絶反応を引き起こさず安全に移植に用いることができる。
【0037】
(疎水性(メタ)アクリレート共重合体)
本発明に用いる疎水性(メタ)アクリレート共重合体は生体適合性を有するものであれば特に限定されず、分泌細胞を内部に含む液相との混合により、分泌細胞を内部に含む液相の周囲に界面を形成して、 W/Oエマルションを形成するものであればよい。確実に分泌細胞を内部に含む液相を細胞シートに包埋することができるからである。
疎水性(メタ)アクリレート共重合体としては、例えば下記一般式1(化1)で示されるアルキル(メタ)アクリレート、下記一般式2(化2)で示されるシリコーン(メタ)アクリレート、下記一般式3(化3)メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0038】
【化1】

【0039】
【化2】

【0040】
【化3】

【0041】
また、生体適合性のある疎水性の(メタ)アクリレート共重合体を軸としたポリロタキサンを用いてもよい。強靭性や伸長性に優れているためである。
軸となる(メタ)アクリレート共重合体はアルキル(メタ)アクリレート単位及びメトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート単位を有する共重合体が好ましい。疎水性・生体適合性の観点でより優れているからである。
尚、ポリエチレンジアクリレートを軸としたポリロタキサンの場合は、ポリエチレンジアクリレートを架橋するためのリングやストッパーも生体適合性のある物質であることが好ましく、例えば、リングはシクロデキストリンが好ましく、ストッパーはアダマンタンが好ましい。また、リングのシクロデキストリンは、光架橋反応により結合し、材料が該光架橋反応により生じる結合基を有する必要がある。感光性基は、シンナモイル基、シンナミリデン基、カルコン残基、イソクマリン残基、2,5−ジメトキシスチルベン残基、チミン残基、スチルピリジニウム残基、α−フェニルマレイミド残基、アントラセン残基及び2−ピロン残基からなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。(WO2006/088200参照)
【0042】
(光重合性化合物)
本発明の光重合性化合物は、少なくとも一つの不飽和二重結合を有する(メタ)アクリレートモノマーである。光重合を好適に行うことができるからである。例えば1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート等が挙げられる。また芳香環を含む(メタ)アクリレートモノマーを使用することが好ましい。芳香環を含む(メタ)アクリレートを使用することにより、強伸度や耐久性の向上が実現されるからである。
【0043】
(光重合開始剤)
本発明に用いる光重合開始剤は、光重合性組成物の光重合を開始する目的で使用されるものである。光重合開始剤を有することにより、光重合性組成物を光で重合させ、細胞シートの形状、大きさを調整することができる。
光重合開始剤としては、光によって重合性の炭素−炭素不飽和基を重合させることができるものであれば良い。中でも、光吸収によって、自己分解や水素の引き抜きによってラジカルを生成する機能を有するものが好ましい。例えば、ベンゾインアルキルエーテル類、ベンゾフェノン類、アントラキノン類、ベンジル類、アセトフェノン類、ジアセチル類、アルキルフェノン類等が挙げられる。
【0044】
(分泌細胞)
本発明の細胞シートでは、分泌細胞を液相内に分散させ、液相ごと細胞シート内に包埋する。従って、分泌細胞を直接コーティングするのとは異なり、より自然な状態に分泌細胞を保つことができ、長期間細胞の活性を維持することができる。分泌細胞を分散させる液相は培養液が好ましい。
【0045】
細胞シートに包埋される分泌細胞としては、分泌細胞が包埋される光重合性組成物を透過する物質を分泌する細胞であれば特に限定されないが、例えばインスリンを分泌するβ細胞や甲状腺ホルモンを分泌する甲状腺濾胞細胞等が挙げられる。
特に、分泌細胞が膵島である場合、糖尿病患者に有効である。
つまり、膵島を内部に含む液相を包埋した細胞シートを糖尿病患者に移植すると、血液中にインスリン分泌のための刺激物質が放出され、移植された細胞シートの表面から当該刺激物質が浸透し、細胞シート中の膵島がそれを感知して、インスリンを分泌する。そのため、糖尿病患者は体内でインスリンが供給されることになり、外部から注射によってインスリンを供給しなくても、血糖値を下げることができるようになるからである。
また、ヒト膵島を内部に含む液相を包埋した細胞シートを移植すればインスリンに対する抗体を形成しにくいヒトインスリンを長期に渡って供給することができる。
【0046】
(細胞シートの作製方法)
以下、細胞シートの作製方法について説明する。
(分泌細胞の分離)
まず、本発明に係る細胞シートに包埋される分泌細胞の分離方法について説明する。
分泌細胞の分離方法は分泌細胞により異なり、分泌細胞に応じて一般的に用いられる方法を採用すればよい。例えば、膵島の場合はコラゲナーゼ消化法により膵臓より分離することができる。分離した膵島同士が接着している場合は、剥離するためトリプシン処理を行った後、1×10〜1×10 cells/mlになるように液相に分散させる。
【0047】
(細胞シートの形成)
次いで、分泌細胞を用いて本発明の細胞シートを作製する方法について説明する。
本発明の細胞シートの作製は、まず(メタ)アクリレート共重合体、光重合性化合物及び光重合開始剤を混合し、混合した混合液(光重合性組成物)に、分泌細胞を内部に含む液相を分散させる。そして、分泌細胞を内部に含む液相が光重合性組成物中に分散するW/Oエマルションを形成させる。
【0048】
W/Oエマルションを形成させた後、W/Oエマルションからなる膜を形成する。
膜を形成する方法としては、図1のように二本の細線状物質(1)(2)を用意し、光を透過する基盤上に細線状物質(1)を固定し、細線状物質(2)を細線状物質(1)と一定の間隔を有するように設置する。該細線状物質(1)(2)の間に前記W/Oエマルションを細線状物質(1)(2)の両方に接触するように滴下する。滴下する量は0.1ml〜10mlが好ましい。その後、二本の細線状物質の間隔が広がるように、基盤より斜め上方(図1の矢印(a)参照)もしくは基盤表面と平行に、細線状物質(2)をスライドさせて膜を形成する。
細線状物質は二本の細線状物質の間に光重合性組成物の膜を形成できるものであれば特に限定されないが、光重合性組成物と良い濡れ性を有し、線経は5mm以下が好ましい。薄い細胞シートを作製することができるからである。
膜の形状、大きさ(特に膜の厚み)は細線状物質を移動させる方向や距離により調整することができる。また、細線状物質を二本とも固定せず、二本の細線状物質の間隔が広がるようにスライドさせて膜を形成することもできる。
そして、前記細線状物質(1)(2)間の薄い膜の全体に光を照射して光重合性組成物を重合させる。図1は下から基盤を透過して光を照射しているが、他の方向から光を照射してもよい。
光を照射した部分のみ重合するので細胞シートの形状、大きさを調整することができる。
また、重合させる個所にだけ光を照射することもでき、例えば分泌細胞を内部に含む液相が存在する部分だけに光を照射すれば、当該液相のみをコーティングすることもできる。
光照射後、重合が完了するまで二酸化炭素インキュベーター中に放置する。これにより膵島を内部に含む液相が包埋された細胞シートを作製することができる。
【0049】
照射する光は可視または長波長の紫外線の形の放射線を利用する。光重合に使用し得る光線の波長は、光重合性の組成物の種類等に応じで異なるが、一般には250nm〜600nmの範囲の光が使われる。光照射における光源は、たとえばLED照射器、あるいはハロゲンランプ、キセノンランプ、白熱ランプあるいは水銀ランプ、あるいはエキシマレーザー、アルゴンイオンレーザー等が挙げられる。
照射時間は光源の光の強さ、光源からの距離等に応じて変える必要があるが、0.1秒〜10秒の範囲内とすることができる。
【実施例】
【0050】
以下、分泌細胞として膵島を用いた場合の実施例を示すことにより、本発明を更に具体的に説明するが、本発明は下記実施例に何ら限定されるものではない。
【0051】
(光重合性組成物の調整)
平均分子量200のポリエチレングリコールとモノアクリレートとの共重合体であるポリエチレングリコールジアクリレート(アロニックスM)に対して光重合開始剤であるDAROCUR1173(チバケミカルズ株式会社)を30wt%の割合で混合して光重合性組成物を得る。
【0052】
(膵島の調整)
マウスの膵島(TGP52(DSファーマバイオメディカル))を0.1〜0.25%
トリプシンンで処理し、接着した膵島を剥離し、D-MEM培地、F-12培地、グルタミン酸、血清を含む培養液(液相)に分散させる。
【0053】
(W/Oエマルションの形成)
上記光重合性組成物にマウスの膵島を内部に含む培養液を5:1の割合で分散させW/Oエマルションを形成させる。図2は光重合性組成物の中に膵島を内部に含む液相が分散してW/Oエマルションを形成している写真であり、(A)で示したものが分泌細胞を含有する培養液の液相の一つである。
【0054】
(細胞シートの形成)
図1で示すように、顕微鏡のステージ上にスライドグラスを設置する。二本のポリフッ化ビニリデン製の細線(1)、(2)(東レ BAWO)を用意して、1本(1)をスライドグラスに固定する。もう一本(2)は固定せず、固定した細線と一定の間隔を有して配置する。二本の細線(1)、(2)の間にW/Oエマルションを滴下する。
固定していない細線(2)を二本の細線の間隔を広げるように図1中の矢印(a)の方向へスライドさせて膜を形成する。前記スライド時に形状、大きさを調整する。
薄く引き延ばした膜の全体に紫外線LED照射装置にて365nmの紫外線を1秒間、4Wで照射する。
紫外線照射後、D-MEM培地、F-12培地、グルタミン酸、血清を含む培養液に浸したシートを二酸化炭素インキュベーター中で10分間放置し、重合を完了させる(図3のBは作製された細胞シートを示している。)
【0055】
このような方法で細胞シートを作製することにより、非抗原性で無毒であり、選択的透過性を有し、水に不溶性で膵島を内部に含む培養液の液相を包埋する細胞シートが得られ、これを糖尿病患者の移植に用いると、拒絶反応が起こらず、長期に渡って膵島の活性を維持できるため、糖尿病の治療に有効であると同時に頻繁に移植を繰り返す必要がなくなり、患者の負担を軽減することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体適合性のある疎水性(メタ)アクリレート共重合体、光重合性化合物、及び光重合開始剤を含有する光重合性組成物が光重合されてなり、分泌細胞を内部に含む液相が包埋された細胞シート。
【請求項2】
前記疎水性(メタ)アクリレート共重合体が、前記液相との混合により、前記液相の周囲に界面を形成する性質を有する共重合体であることを特徴とする請求項1に記載の細胞シート。
【請求項3】
前記疎水性(メタ)アクリレート共重合体がアルキル(メタ)アクリレート単位及びメトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート単位を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の細胞シート。
【請求項4】
前記光重合性化合物が、少なくとも一つの不飽和二重結合を持つ光重合性モノマーであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の細胞シート。
【請求項5】
前記分泌細胞が、膵島である請求項1乃至4のいずれかに記載の細胞シート。
【請求項6】
前記膵島が、ヒト膵島である請求項5に記載の細胞シート。
【請求項7】
以下の(a)〜(c)を順に行うことを特徴とする細胞シートの作製方法。
(a) 生体適合性のある疎水性(メタ)アクリレート共重合体、光重合性化合物及び光重合開始剤からなる光重合性組成物に、分泌細胞を内部に含む液相を分散させる工程
(b) 前記液相を分散した液を用いて膜を形成する工程
(c) 前記膜に光を照射し重合させる工程
【請求項8】
前記(b)の工程が以下の(1)〜(2)を順に行うことを特徴とする請求項7に記載の細胞シートの作製方法。
(1)基盤の上に二本の細線状の物質を一定の間隔を有して配置し、該細線状物質の間に前記液相を分散した液を滴下する工程
(2)前記二本の細線状物質の間隔を広げるように前記細線状物質をスライドさせることにより、二本の細線状物質の間に膜を形成する工程
【請求項9】
前記細線状物質への前記光重合性組成物の濡れ性が良好で且つ、5mm以下の線径を有することを特徴とする請求項8に記載の細胞シートの作製方法。
【請求項10】
前記(メタ)アクリレート共重合体がアルキル(メタ)アクリレート単位及びメトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート単位を有することを特徴とする共重合体である請求項7乃至9のいずれかに記載の細胞シートの作製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−183974(P2010−183974A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−28852(P2009−28852)
【出願日】平成21年2月10日(2009.2.10)
【出願人】(509093026)公立大学法人高知工科大学 (95)
【Fターム(参考)】