説明

分級方法及び分級装置

【課題】拡散以外の外力を利用して分級する場合であっても、閉塞が抑制できる分級装置を提供すること。
【解決手段】粒子を含有する分散液を導入するための分散液導入路と、前記粒子を分級するための分級路と、分級した前記粒子を放出するための放出路と、を有し、前記分級路は、重力方向に対して傾斜を有して設けられていることを特徴とする分級装置。前記分級路は、分散液の進行方向に対して、その断面積が大きくなるように設けられていることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分級方法及び分級装置に関する。
【背景技術】
【0002】
微粒子を分級する方法としては、乾式法と湿式法がある。乾式法は流体と微粒子との比重差が大きくなるため、高精度のものがある。湿式法は液体と微粒子の比重差は小さくなるが、液体中で微粒子が容易に分散するため、微粉域に対して高い分級精度が得られる。分級装置は通常、回転部のローターと静止部のステーターからなり、遠心力と慣性力のバランスで分級する。また、乾式法では回転部を有しない「コアンダ効果」利用の分級器が商品化されている。一方、近年マイクロ領域で化学反応、単位操作などを行う方法が種々研究されており、コンタミなどが生じずに、効率よく微粒子の分級を行う方法・装置が検討されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、所望の粒子を、該所望の粒子を含有する試料ストリームから抽出するための、微細製造された抽出デバイスであって、a.試料ストリーム入口と、b.抽出ストリーム入口と、c.該試料ストリーム入口及び該抽出ストリーム入口と流体的に連通しており、該抽出ストリーム入口からの抽出ストリームとの平行層流フローとして、該試料ストリーム入口から試料ストリームを受ける、50未満のアスペクト比(w/d)を有する抽出チャネルと、d.該抽出チャネルと流体的に連通しており、所望の粒子が抽出された後の該試料ストリームの少なくとも一部を有する副産物ストリームを受ける、副産物ストリーム出口と、e.該抽出チャネルと流体的に連通しており、該抽出ストリームの少なくとも一部及び該試料ストリームから抽出された所望の粒子を有する生産物ストリームを受ける、生産物ストリーム出口とを有するデバイスが開示されている。特許文献1に記載の装置は、試料ストリームと抽出ストリームを層流下で送液し、試料ストリームへ拡散する速度の差を利用して不要な粗大粒子を試料ストリームから取り除くことができる。この系ではきわめて微量な試料(1pL)でも粗大粒子を取り除くことが可能である。粗大粒子は数〜数十μmオーダーの血球であり、所望の粒子は大分子(細胞、たんぱく質)、小分子(数個の原子で構成)である。
このようにマイクロメーターオーダー同士の粒子の分級を拡散を利用して行う場合、拡散の原動力は、例えば熱運動など、粒子の自発的な運動である。そのため、流路内で粒子を分離するためには、粒子が拡散する時間を考慮して流路の長さを設計する。従って、必然的に長い流路が必要となる。
【0004】
特許文献2には、微粒子分散液中の微粒子をマイクロ流路を用いて分級する微粒子の分級方法であって、微粒子分散液をマイクロ流路の導入部から回収部に層流で送液させ、前記微粒子分散液中での微粒子の沈降速度差により、微粒子を分級することを特徴とする微粒子の分級方法が開示されている。特許文献2に記載の装置は、拡散を用いず、重力を利用して分級を行うものである。
【0005】
特許文献3には、粒子を含む溶液が流れることができる流路と上記流路の所定領域において上記流路を横断する方向に電界或いは磁界を生じさせ上記粒子を偏向させる偏向手段と、上記流路内において上記偏向手段により上記粒子が寄せられる偏向側に配置され、該粒子を捕らえることができる粒子捕捉部とを備えたことを特徴とする粒子分離機構が開示されている。特許文献3の方法では、拡散を用いず、電界を利用しているため流路はさほど長くする必要はない。また、使用される粒子は帯電するものであり、流路内に分離した微粒子の補足や、流路の閉塞を避けるために、電界の切・入を切り替える。
【0006】
特許文献4には、所定の方向に延長される流路Aと、流路Aの側面における1つ以上の分岐点と、前記分岐点において前記流路Aに接続され、長さ、幅、深さ、径などのスケールのうちいずれか1つ以上が適当に調節された分岐流路を1つ以上有する流路構造を用い、前記流路Aの一端から、流体を連続的に導入する際、粒子を含む流体の部分と粒子を含まない流体の部分に分かれるように導入することにより、前記分岐点において、ある一定の大きさ以上の粒子は前記分岐点において前記分岐流路に導入されないようにすることができ、ある一定の大きさ以下の粒子は前記流路Aの下流へと導入されないようにすることができるため、導入した全てのある一定の大きさ以下の粒子を含む流体、もしくはある一定の大きさ以上の粒子を全く含まない流体を前記分岐流路から回収することができ、ある大きさ以上の粒子の濃度が高くなった流体を前記流路Aの下流から回収することができる、微粒子の濃縮・分級のための流路構造及びその方法が開示されている。特許文献4に記載の装置は、流路の閉塞を引き起こすため流体力を利用することができないマイクロメーターオーダーの粒子よりも大きな粒子に対して、流体力を利用するものである。
【0007】
【特許文献1】特表平11−508182号公報
【特許文献2】特開2006−116520号公報
【特許文献3】特開2006−187770号公報
【特許文献4】特開2007−175684号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
拡散以外の力を利用してマイクロメーターオーダー同士の粒子の分級を行う場合、粒子を強制的に移動させることができるため、長い流路を必ずしも必要としない。しかし、流路の閉塞を避けるために、一旦拡散以外の外力を解放したり、制御したりする操作が必要である。(なお、上述した通り、特許文献4に記載の技術をマイクロメーターオーダー同士の粒子の分級に適用することは困難である。)
【0009】
本発明は、拡散以外の外力を利用して分級する場合であっても、閉塞が抑制できる分級装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の上記課題は下記の<1>及び<5>に記載の手段により解決された。好ましい実施態様である<2>から<4>及び<6>とともに以下に記載する。
<1> 粒子を含有する分散液を導入するための分散液導入路と、前記粒子を分級するための分級路と、分級した前記粒子を放出するための放出路と、を有し、前記分級路は、重力方向に対して傾斜を有して設けられていることを特徴とする分級装置、
<2> 前記分級路が、分散液の進行方向に対して、その断面積が大きくなるように設けられている、上記<1>に記載の分級装置、
<3> 前記分級路がコーン型である、上記<1>又は上記<2>に記載の分級装置、
<4> 前記分散液を輸送する輸送液を導入する輸送液導入路をさらに有する、上記<1>〜上記<3>いずれか1つに記載の分級装置、
<5> 分散液導入路に粒子を含有する分散液を導入する分散液導入工程と、前記分散液を重力方向に対して傾斜を有する分級路を通過させて分級する分級工程と、前記粒子の分級物を放出路から放出する放出工程と、を含むことを特徴とする分級方法、
<6> 輸送液導入路に分散液を輸送する輸送液を導入する輸送液導入工程を含み、前記輸送液を重力方向の逆方向に輸送する、上記<5>に記載の分級方法。
【発明の効果】
【0011】
<1>に記載の発明によれば、拡散以外の外力を利用して分級する場合であっても、本構成を有していない場合に比して、閉塞が抑制できる。
<2>に記載の発明によれば、本構成を有していない場合に比して、送液量を増大させることができる。
<3>に記載の発明によれば、本構成を有していない場合に比して、確実に送液量を増大させることができる。
<4>に記載の発明によれば、本構成を有していない場合に比して、より分級能力が向上する。
<5>に記載の発明によれば、拡散以外の外力を利用して分級する場合であっても、本構成を有していない場合に比して、閉塞が抑制できる。
<6>に記載の発明によれば、本構成を有していない場合に比して、より分級能力が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本実施形態の分級装置は、粒子を含有する分散液を導入するための分散液導入路と、前記粒子を分級するための分級路と、分級した前記粒子を放出するための放出路と、を有し、前記分級路は、重力方向に対して傾斜を有して設けられていることを特徴とする。
また、本実施形態の分級方法は、分散液導入路に粒子を含有する分散液を導入する分散液導入工程と、前記分散液を重力方向に対して傾斜を有する分級路を通過させて分級する分級工程と、前記粒子の分級物を放出路から放出する放出工程と、を含むことを特徴とする。
以下、本実施形態において、粒子を含有する分散液の分散媒を、単に分散媒ともいうこととする。
【0013】
<分級路>
本実施形態の分級装置は、分級路が重力方向に対して傾斜を有して設けられている。また、本実施形態の分級装置は、分散液を重力方向に対して傾斜を有する分級路を通過させて分級する分級工程を有する。
粒子を含有する分散液の分散媒に対して、粒子の比重が大きい場合、粒子は粒径の2乗に比例した速度で沈降する。粒径の大きい粒子は早く沈降し、分級路の斜面(底面)に衝突する。層流下では壁面付近の速度はほぼゼロであるので、底面に衝突した粒子は斜面に沿って重力により落下し、分級路下部に設置された放出路より放出される。粒径が小さい粒子は斜面に衝突することもなく、そのまま分級路上部に設置された放出路より放出される。なお、本実施形態において、1つ以上の放出路が設けられていればよく、分級路下部の放出路の代わりに、粒子溜めを使用することもできる。
【0014】
本実施形態において、分級路の傾斜角度は、0°より大きい角度で、適宜選択することができるが、粒子が斜面に沿って落下するという観点から、15°以上であることが好ましい。また、十分な分級効率を得るという観点から、75°以下であることが好ましい。
分級路の傾斜角度は、20°以上70°以下であることがより好ましく、30°以上60°以下であることがさらに好ましい。
ここで、分級路の傾斜とは、分級路底面の重力方向の傾斜をいい、例えば、水平な流路は傾斜が0°である。なお、分級路の上面の傾斜角度は、本実施形態では特に限定されない。
【0015】
本実施形態において、分級路はマイクロ流路であることが好ましい。分級路がマイクロ流路であると、沈降距離が短く、傾斜壁に沈降する時間が劇的に減少し効率が増大する。また、流速が速い場合においても層流を維持でき、乱流による分級能力の低下を防ぐことが可能となる。さらに、層流下では分級路の壁面において、粒子の流速がほぼゼロとなり、分級効率が向上するので好ましい。
マイクロ流路としては、数〜数千μmの幅の流路を有するものが好ましく用いられる。なお、本実施形態の分級装置は、マイクロスケールの複数の分級路を有する反応装置であってもよい。
【0016】
マイクロ流路は、マイクロスケールであるので、寸法(代表長さ)及び流速がいずれも小さく、レイノルズ数は2,300以下である。従って、マイクロスケールの流路を有する分級装置は、通常の反応装置のような乱流支配ではなく層流支配の装置である。
ここで、レイノルズ数(Re)は、以下のようにして求められ、2,300以下のとき層流支配となる。
レイノルズ数(Re)は流速(u(m/s))と代表長さ(L(m))に比例する。
【0017】
【数1】

【0018】
ここで、νは流体の動粘性係数(m2/s)である。
代表長さ(L(m))は、流路が矩形断面の場合は以下の式で規定される。
【0019】
【数2】

【0020】
ここで、Sは断面積(m2)、lpは周長さ(m)である。
矩形流路断面の幅をx(m)、高さをt(m)とすると、以下の式(3)が成立する。
【0021】
【数3】

【0022】
流体の流量をa(m3/s)とすると、以下の式(4)が成立する。
【0023】
【数4】

【0024】
式(1)に、式(2)、式(3)及び式(4)を代入すると、以下の式(5)が導かれる。
【0025】
【数5】

【0026】
ここで、純水を一定の流速(例えば、10ml/h)で矩形流路に送液する場合を考える。なお、25℃における純水の動粘係数νは、0.893×10-72/sである。
流路高さtを一定とし、流路幅xを変数としたとき、レイノルズ数は、流路幅に対して反比例する。
このようにして、レイノルズ数が2,300以下となる流路を設計することができ、高さtが十分小さければ流路幅xが大きくなっても層流を維持できる。
【0027】
本実施形態の分級装置の分級原理について以下に説明する。
<分級原理>
分散液から、所望の粒子径以下の粒子を回収する際、分散液が下部から上部へと、重力方向の逆向きに分級路を送流される場合、上昇流速度より終末速度が小さい粒子は上昇流に乗り、分級路上部へと送液される。一方、上昇流速度より終末速度が大きい粒子は重力方向に沈降する。分級路の上部に放出路を設けることによって、所定の粒径以下の粒子を回収することができる。また、分級路の下部に放出路を設けることにより、所定の粒径以下の粒子を回収することができる。また、分級路に重力方向に対して傾斜を設けることで上昇流速度を低下させることが可能となり、効率よく分級することが可能となる。
【0028】
本実施形態の分級装置及び分級方法は、分散液中の粒子を分級路(好ましくはマイクロ流路)を用い、粒子の沈降速度差を用いて分級する微粒子の分級装置及び分級方法である。分級装置は、分散液導入路、分級路、放出路を含み、必要に応じて、輸送液導入路を有する。本実施形態において、すべての流路で層流にて送液することが好ましい。
【0029】
本実施形態においては、沈降により斜面に接した粒子は、分級路の底面が傾斜を有しているため、分級路の底面、すなわち傾斜壁面に沿って沈降していく。前述のように、層流下において、壁面における流速はほぼゼロであるため、分級路底面に接した粒子は、上昇流の影響をほとんど受けず、分散媒との比重差により、重力に従って沈降する。従って、従来の沈降分級装置に比して短い流路長で分級が可能であり、また、短時間で粒子を分級することができる。
【0030】
粒子の比重が分散媒より重い場合、粒子は沈降し、その際の沈降速度は、粒子の比重或いは粒径によって異なる。この沈降速度差を利用して粒子を分級するものであり、粒径が異なる場合、沈降速度は粒径の2乗に比例し、粒径が大きい粒子ほど急速に沈降する。
なお、本実施形態において、沈降速度差以外にも、粒子の粒径に比例する外力を与えることで、この分級方法を適用できる粒子の幅が広がる。このような外力としては、電界や磁界が挙げられる。
【0031】
<置換流体>
粒子が沈降する際、それまで粒子が存在した位置に流体が流れ込むため微視的な上昇流が発生する。この現象をボイコット効果と呼び、層流下でも粒子は撹拌され分級効率が低下する原因となる。
これに対し、本実施形態の分級装置では、上昇流下で粒子を分離するためボイコット効果の影響を受けず、分離を極めて効率的に行うことができる。
【0032】
<粒子>
本実施形態において、分級する粒子の大きさは特に限定されないが、粒子の粒子径(直径又は最大粒径)は、0.1μm以上1,000μm以下であることが好ましい。本実施形態の分級装置及び分級方法は、粒子径が1μm以上100μm以下の粒子の分級により好適であり、粒子径が5μm以上20μm以下の粒子の分級にさらに好適である。
粒子の粒子径が1,000μm以下であると、流路の詰まりの発生を抑制することができるので好ましい。一方、粒子の粒子径が0.1μm以上であると、壁面への付着を生じにくいので好ましい。
【0033】
分級する粒子の種類は特に限定されず、樹脂微粒子、無機微粒子、金属微粒子、セラミック微粒子、細胞(例えば、リンパ球、白血球、赤血球等)等、特に限定されない。また、生体試料(全血)や、これを適宜希釈したものを分散液として用いることもできる。
さらに、高分子微粒子、顔料のごとき有機物の結晶又は凝集体、無機物の結晶又は凝集体、金属酸化物、金属窒化物、金属窒化物等の金属化合物の微粒子及びトナー粒子等を分級することもできる。
【0034】
また、粒子の形状は特に限定されず、球状、回転楕円状、不定形、針状等、いずれの形状であってもよい。これらの中でも、流路詰まりを生じにくいことから、球状及び/又は回転楕円状であることが好ましく、長軸長と短軸長との比(長軸長/短軸長)は、1以上50以下であることが好ましく、より好ましくは1以上20以下である。
【0035】
前記高分子微粒子としては、具体的には、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、フェノキシ樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、スチレン−アクリル樹脂、スチレン−メタクリル樹脂、ポリアクリルアミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリビニルピリジン樹脂、セルロース系樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、カゼイン、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、変性塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、塩化ビニリデン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−アルキッド樹脂、フェノール−ホルムアルデヒド樹脂等の微粒子が挙げられる。
【0036】
また、前記金属あるいは金属化合物の微粒子としては、カーボンブラック、亜鉛、アルミニウム、銅、鉄、ニッケル、クロム、チタニウム等の金属、あるいはその合金、TiO2、SnO2、Sb23、In23、ZnO、MgO、酸化鉄等の金属酸化物やこれらの化合物、窒化ケイ素などの金属窒化物などやそれらを組合せた微粒子が挙げられる。
【0037】
これら微粒子の製法は多岐にわたるが、合成により媒体液体(分散媒)中で微粒子を作製し、そのまま微粒子の分級を行う場合が多い。塊状物を機械的に解砕して作製した微粒子を媒体液体中に分散し分級する場合もある。この場合は、媒体液体(分散媒)中で解砕することが多く、この場合はそのまま分級される。
【0038】
一方、乾式で作製された粉体(微粒子)を分級する場合には、予め、媒体液体に分散しておく必要がある。媒体液体中に乾燥粉体を分散させる方法としては、サンドミル、コロイドミル、アトライター、ボールミル、ダイノーミル、高圧ホモジナイザー、超音波分散機、コボールミル、ロールミル等が挙げられるが、この際、分散によって1次粒子が粉砕されない条件で行なうことが好ましい。
【0039】
<分散媒及び輸送液>
粒子を含有する分散液の分散媒及び輸送液としては、いずれの溶媒を使用することができ、特に限定されないが、分散液中の少なくとも1種の粒子よりも、比重の小さな溶媒を使用する。分散液中の全ての粒子よりも比重の小さな溶媒を使用することも好ましい。なお、輸送液とは、粒子を含まない溶媒であって、分級路に送液されるものを指す。
粒子の比重から前記分散媒又は輸送液の比重を引いた差が、それぞれ0.01以上であることが好ましい。比重差は大きい方が、粒子の沈降速度が速いため好ましいが、20以下であることが好ましい。比重差は、0.05〜11であることがより好ましく、0.05〜4であることがさらに好ましい。粒子の比重から前記分散媒又は輸送液の比重を引いた差が0.01以上であると、粒子が沈降するので好ましい。一方、20以下であると、沈降速度が適切であり、詰まりを生じにくいので好ましい。
なお、分散媒と輸送液は同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0040】
分散媒及び輸送液としては、上述のように、粒子の比重から分散媒の比重を引いた差が0.01〜20のものであれば好ましく用いることができ、例えば、水、あるいは水系媒体、有機溶剤系媒体などが挙げられる。
【0041】
前記水としては、イオン交換水、蒸留水、電解イオン水などが挙げられる。また、前記有機溶剤系媒体としては、具体的には、メタノール、エタノール、n−プロパノール、n−ブタノール、ベンジルアルコール、メチルセルソルブ、エチルセルソルブ、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、酢酸n−ブチル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、メチレンクロライド、クロロホルム、クロルベンゼン、トルエン、キシレンなど、及びこれらの2種以上の混合物が挙げられる。
【0042】
本実施形態においては、好ましい分散媒及び輸送液は分級する粒子の種類によって異なる。粒子の種類別の好ましい分散媒及び輸送液としては、高分子粒子(一般的に比重が1.05〜1.6程度である。)と組み合わされる分散媒及び輸送液として、粒子を溶解させない水系、アルコール類、キシレンなどの有機溶媒、酸あるいはアルカリ水などが好ましく挙げられる。
また、金属あるいは金属化合物の粒子(一般的に比重が2〜10程度である。)と組み合わされる分散媒及び輸送液としては、金属などを酸化、還元などで侵さない水、アルコール類、キシレンなどの有機溶媒、あるいは油類が好ましく挙げられる。
【0043】
以下、図面を参照しながら、本実施形態について説明する。
なお、以下の説明において、同一の符号は同一の対象を意味するものである。
(第1の実施形態)
図1を参照しながら、本実施形態の第1の実施形態について説明する。
本実施形態に好適に使用可能な分級装置の第1の実施形態を示す断面概略図である。
分級装置1は、粒子を含有する溶液(分散液)Aを導入するための分散液導入路2と、分散液導入路2から連続し、重力方向に対して傾斜θ(図1においては、45°である。)を有する分級路3と、分級路3から連続し、分級した粒子を放出するための放出路4とを有する。
図1は、板状体に紙面の奥行き方向に500μmの深さを有するマイクロ流路が形成されている。また、図1に示す矢印が重力方向を示す。
【0044】
図1に示す分級装置1では、分散液Aは、分級装置1の下方に設けられた分散液導入口2’から分散液導入路2を介して、重力方向(鉛直方向)の逆方向の送液されている。なお、分散液Aの導入方法は特に限定されず、公知の方法から適宜選択することができるが、マイクロシリンジ、ロータリーポンプ、スクリューポンプ、遠心ポンプ、ピエゾポンプ等で圧入することが好ましい。
また、図1では、分散液Aは鉛直方向の逆向きに送液されているが、分散液導入路2が分級装置1の下方に設けられていれば、これに限定されるものではなく、分散液導入路2は、分級路3の下部と水平に設けられていてもよいし、分散液導入路2が分級路3から延伸されており、傾斜を有するものであってもよい。特に重力方向に送液すると導入路における粒子の沈降を抑制でき、好ましい。すなわち、分級路3の下方から分散液Aが送液されていれば、特に限定されない。
【0045】
分散液Aに、粒子径の小・中・大の三種類の粒子(粒子a(小)、粒子b(中)、粒子c(大))が含まれている場合を例示して、第1の実施形態の分級装置1について説明する。
図1に示す分級装置1においては、分散液Aに含まれる粒子のうち、微小な粒子aに注目すれば、分散液Aの上昇速度が、微小な粒子aの終末速度よりも大きいため、微小な粒子aは、分級路3の上部に設けられた放出路4から放出液Bとして放出される。
ここで、終末速度とは、単一粒子が静止流体中を外力によって運動するとき、粒子に作用する外力と、流体から受ける抵抗とがつりあった状態にある粒子の運動速度である。図1において、粒子に与えられる外力は重力であり、終末速度よりも大きい流速で分散液を送液すれば粒子は上昇し、これとは逆に、終末速度より小さな流速で送液すれば、粒子は沈降する。
【0046】
一方、粗大な粒子cの終末速度は、分散液Aの流速よりも大きいため、重力によって沈降し、分級路3の底面5に接する。マイクロ流路においては、壁面における流速がほぼゼロであるため、粗大な粒子cが沈降によって分級路3の底面5に接すると、流体内を沈降する場合に比べ、壁面を沈降する速度が速くなる。このため、図1のマイクロ流路装置においては、傾斜する分級路を設けていない場合に比して、迅速に分級を行うことができ、効率が向上する。
図1において、分級路3の底面5に沿って沈降した粗大な粒子cは、粒子溜まり7に回収される。分散液の送流圧力を高く保つためには、放出路のような外部に解放される流路を少なくすることが好ましい。従って、一定量の分散液を処理する場合には、分散液の送流圧力の低下を防止するために粒子溜まり7に粗大な粒子cを回収する方法も好ましく使用できる。
なお、本実施形態はこれに限定されるものではなく粒子溜まりの代わりに第2の放出路を設けることもできる。連続的に分散液を処理する場合には、粒子溜まりの代わりに第2の放出路を設けることが好ましい。
【0047】
また、図1において、微小な粒子aと粗大な粒子cの間の粒径を有する粒子bに着目すれば、分散液の流速が、粒子bの終末速度よりもわずかに小さく設定されている。粒子bは次第に沈降し、分級路3の下流側(より上方)で底面5に接し、分級路3の底面5に沿って沈降し、粒子溜まり7に回収される。
なお、図1では、分散液の流速を、粒子bの終末速度よりも小さく設定したが、本実施形態はこれに限定されるものではなく、粒子bの終末速度よりも、分散液の流速を大きく(速く)することによって、粒子bを放出路4から放出させ、放出液B中に回収することもできる。
【0048】
また、図1においては、放出路4から放出される粒子と、粒子溜まり7に回収される粒子の2つに分級しているが、分級路3の途中にさらに放出路を設け、3つ以上に分級することもできる。
【0049】
次に、本実施形態の分級装置の製造方法について述べる。
本実施形態の分級装置は、固体基板上に微細加工技術により作製することもできる。
固体基板として使用される材料の例としては、金属、シリコン、テフロン(登録商標)、ガラス、セラミックス及びプラスチックなどが挙げられる。中でも、金属、シリコン、テフロン(登録商標)、ガラス及びセラミックスが、耐熱、耐圧、耐溶剤性及び光透過性の観点から好ましく、特に好ましくはガラスである。
【0050】
流路を作製するための微細加工技術は、例えば、「マイクロリアクタ−新時代の合成技術−」(2003年、シーエムシー刊、監修:吉田潤一)、「微細加工技術 応用編−フォトニクス・エレクトロニクス・メカトロニクスへの応用−」(2003年、エヌ・ティー・エス刊、高分子学会 行事委員会編)等に記載されている。
【0051】
代表的な方法を挙げれば、X線リソグラフィを用いるLIGA技術、EPON SU−8を用いた高アスペクト比フォトリソグラフィ法、マイクロ放電加工法(μ−EDM)、Deep RIEによるシリコンの高アスペクト比加工法、Hot Emboss加工法、光造形法、レーザ加工法、イオンビーム加工法、及びダイアモンドのような硬い材料で作られたマイクロ工具を用いる機械的マイクロ切削加工法などがある。これらの技術を単独で用いてもよいし、組み合わせて用いてもよい。好ましい微細加工技術は、X線リソグラフィを用いるLIGA技術、EPON SU−8を用いた高アスペクト比フォトリソグラフィ法、マイクロ放電加工法(μ−EDM)、及び機械的マイクロ切削加工法である。
【0052】
本実施形態に用いられる流路は、シリコンウエハ上にフォトレジストを用いて形成したパターンを鋳型とし、これに樹脂を流し込み固化させる(モールディング法)ことによっても作製することができる。モールディング法には、ポリジメチルシロキサン(PDMS)又はその誘導体に代表されるシリコン樹脂を使用することができる。
【0053】
本実施形態の分級装置を製造する際、接合技術を用いることができる。通常の接合技術は大きく固相接合と液相接合に分けられ、一般的に用いられている接合方法としては、固相接合として圧接や拡散接合、液相接合として溶接、共晶接合、はんだ付け、接着等が代表的な接合方法である。
【0054】
さらに、接合に際しては高温加熱による材料の変質や変形による流路等の微小構造体の破壊を伴わない寸法精度を保った高度に精密な接合方法が望ましく、その技術としてはシリコン直接接合、陽極接合、表面活性化接合、水素結合を用いた直接接合、HF水溶液を用いた接合、Au−Si共晶接合、ボイドフリー接合、拡散接合などが挙げられる。
【0055】
本実施形態の分級装置はパターン部材(薄膜パターン部材)を積層して形成することができる。なお、パターン部材の厚さは5〜50μmであることが好ましく、10〜30μmであることがより好ましい。本実施形態の分級装置は、所定の二次元パターンが形成されたパターン部材が積層されて形成された分級装置とすることができ、パターン部材の面同士が直接接触して接合された状態で積層されていることが好ましい。具体的には特開2006−187684号公報に記載の製造方法を参照することができる。
【0056】
図1に示す分級装置1において、流路断面は矩形であり、分散液導入路2の幅は500μmであり、分級路3の幅は1,000μmであり、放出路4の幅は500μmである。また、これらの全ての流路の奥行き(深さ)は500μmである。
また、分散液導入路2の流路長は20mmであり、分級路3は50mmであり、放出路4は10mmである。
【0057】
なお、第1の実施形態において、分散液に含まれる粒子の比重、粒子径、分散媒の比重、分散液の送液速度等を適宜選択することによって、所望の粒子径の粒子を分級することができる。また、分級路の流路長は、長い方が分級能は高くなるが、流路長を大きくすると、分級装置に必要とされる体積が増加する。目的に応じて、適宜選択することが好ましい。
【0058】
(第2の実施形態)
次に、図2を用いて、本実施形態の第2の実施形態を説明する。
図2は、本実施形態に好適に使用可能な分級装置の第2の実施形態を示す断面概略図である。図2に示す分級装置1は、板状体に紙面の奥行き方向に500μmの深さを有するマイクロ流路が形成されている。また、図2に示す矢印が重力方向を示す。
図2において、分級装置1は、粒子を含有する溶液(分散液)Aを導入するための分散液導入路2と、分散液導入路2から連続し、重力方向に対して傾斜θを有する分級路3と、分級路3から連続し、分級した粒子を放出するための放出路4a、4b及び4cと、を有する。また、第2の実施形態では、分級装置1は輸送液導入路6を有する。
【0059】
第2の実施形態では、分散液導入口2’は、分級装置1の上部に設けられており、分散液Aは、重力方向に送液される。
また、第2の実施形態では、分級路3は、分散液Aの進行方向に対して、その断面が大きくなるように設けられている。
【0060】
分級路が分散液の進行方向に対して、その断面が大きくなると、以下のような利点を有する。すなわち、分散液の送液速度が遅いと、分散液導入路及び/又は分級路に詰まりを生じる場合があるので、分散液の送液速度は詰まりを生じない速度とすることが求められる。一方、送液速度を速くしすぎると、粒子の終末速度を超えてしまい、粒子の十分な分級を行うことができない。
分散液の進行方向に対して、その断面積が大きくなると、下流に送液されるにつれて流速が遅くなる。従って、分散液の上流での送液速度を速くしても、十分な分級を行うことができ、詰まりを抑制しつつ、分級効率を向上させることが可能となる。
【0061】
第2の実施形態においては、分散液Aは、分級装置1の上方に設けられた分散液導入口2’から分散液導入路2を重力方向に送液され、輸送液Cが分級装置1の下方に設けられた輸送液導入口6’から、輸送液導入路6を重力方向の逆方向に送液されている。なお、分散液A及び輸送液Cの導入方法は特に限定されず、第1の実施形態と同様に、公知の方法から適宜選択することができる。また、分散液導入路2及び輸送液導入路6は、それぞれ分級路3の上方及び下方から送液されていればよく、図2に示す態様に限定されるものではない。
図2に示すように、分散液Aを分級装置1の上方に設けられた分散液導入路2において重力方向に送液することにより、分散液Aの詰まりを抑制することができる。また、輸送液Cを分級装置1の下方に設けられた輸送液導入路6において重力方向の逆向きに送液することにより、分級路3の下方から上方へと送液される層流が生じる。
上方から送液された分散液Aと下方から送液された輸送液Cは、分級路3で合流し、界面を形成して層流となる。
【0062】
分散液Aに、粒子径の小・中・大の三種類の粒子(粒子a(小)、粒子b(中)、粒子c(大))が含まれている場合を例示して、第2の実施形態の分級装置1について説明する。
図2に示す分級装置1においては、分散液Aに含まれる粒子のうち、微小な粒子aに注目すれば、微小な粒子aは、沈降速度が遅いため、そのほとんどが分散液A中にとどまり、放出路4aから放出される、放出液B1中に存在する。
【0063】
一方、粗大な粒子cは、重力により下方に沈降する。分級路3の底面5に接すると、壁面での液体の流速はほぼゼロであるため、底面に沿って、速やかに下方へと沈降し、放出路4cから放出される、放出液B3中に検出される。
また、微小な粒子aと粗大な粒子cの間の粒径を有する粒子bは、重力により沈降するが、分級路3の底面5に接するまでに放出路4bへと送液され、放出液B2中に検出される。
【0064】
なお、図2においては、放出路4a、4b、及び4cの合計3つの放出路を設けたが、本実施形態はこれに限定されるものではなく、任意の数の放出路を設けることができる。また、放出路を設ける位置を適宜変更することによって、所望の粒子径の粒子を分級することができる。さらに、分散媒、輸送液、流速、流路幅、流路長等を適宜変更することができることはいうまでもない。
【0065】
図3は、第2の実施形態の分級装置において、大小の粒子を送液した場合の模式図である。
図3(a)〜図3(d)において、分級装置1の上部から送液された分散液Aと、下部から送液された輸送液Cは分級路3において界面10(図3において、実線で示す。)を形成する。分散液Aは、微小な粒子a及び粗大な粒子cを含有する。
粗大な粒子cは、重力の影響を大きく受けるため、次第に沈降し(図3(b)及び(c))、分級路3の底面5に接すると、底面5に沿って下方へと沈降する(図3(d))。粗大な粒子cは、分級路3の下部に設けられた放出路4cから、放出液B3として放出される。
一方、微小な粒子aは、分散液Aの層流に従って送流され、分級路3の上部に設けられた放出路4aから、放出液B1として放出される。
【0066】
なお、第2の実施態様の分級装置は、第1の実施態様の分級装置と同様の材質で作製することができる。また、第1の実施態様の分級装置と同様の方法で作製することができる。
【0067】
(第3の実施例)
図4は、本実施形態に好適に使用可能な分級装置の第3の実施態様を示す模式斜視図である。図4に示す分級装置1は、コーン型である。
図4において、分級装置1は、粒子を含有する溶液(分散液)Aを導入するための分散液導入路2と、分散液導入路2から連続し、重力方向に対して傾斜θを有する分級路3と、分級路3から連続し、分級した粒子を放出するための放出路(付図示)とを有する。なお、図4では、分級路3に設けられ、放出路へと連続する貫通口8a及び8bのみを示している。
【0068】
第3の実施態様では、分散液導入口2’は、分級装置1の下部に設けられており、分散液Aは、重力方向(鉛直方向)の逆向きに分散液導入路2に送液される。なお、分散液Aの導入方法は特に限定されず、第1の実施形態と同様に適宜選択することができる。
また、図4では、分散液Aは鉛直方向の逆向きに送液されているが、分散液導入路2が分級装置1の下方に設けられていれば、これに限定されるものではなく、分散液導入路2は、分級路3の下部から水平に設けられていてもよく、分級路3の下部から分散液Aが送液されていれば、特に限定されない。
【0069】
また、第3の実施形態では、分級路3は、分散液Aの進行方向に対して、その断面(断面積)が大きくなるように設けられている。分級路3が分散液Aの進行方向に対して、その断面(断面積)が大きくなるので、上述の通り、詰まりを抑制しつつ、分級効率を向上させることが可能となる。
なお、図4(a)に示すように、分級路3の流路厚みを一定とすることもできるし、図4(b)に示すように、分級路3を円錐形とすることもできる。なお、図4(b)に示す分級路3の方が、分散液Aの進行方向に対して、より断面積の増加量が大きい。
【0070】
第3の実施態様では、分散液Aに含まれる粒子のうち、微小な粒子は、分散液Aの送液速度(上昇速度)が微小な粒子の終末速度よりも大きいため、分級路3の上部に設けられた貫通口8aから放出路(付図示)へと放出される。
一方、分散液Aに含まれる粒子のうち、粗大な粒子は、分散液Aの送液速度(上昇速度)が粗大な粒子の終末速度よりも小さいため、重力によって沈降する。粗大な粒子が分級路3の底面5に接すると、壁面に沿って沈降し、分級路3の下部に設けられた貫通口8bから、放出路(不図示)へと放出される。
【0071】
第3の実施形態の分級装置を製造する際、接合技術を用いることができる。通常の接合技術は大きく固相接合と液相接合に分けられ、一般的に用いられている接合方法としては、固相接合として圧接や拡散接合、液相接合として溶接、共晶接合、はんだ付け、接着等が代表的な接合方法として挙げられる。
【0072】
さらに、接合に際しては高温加熱による材料の変質や変形による流路等の微小構造体の破壊を伴わない寸法精度を保った高度に精密な接合方法が望ましく、その技術としてはシリコン直接接合、陽極接合、表面活性化接合、水素結合を用いた直接接合、HF水溶液を用いた接合、Au−Si共晶接合、ボイドフリー接合、拡散接合などが挙げられる。
【0073】
本実施形態の分級装置は流路が三次元形状を有するため、パターン部材(薄膜パターン部材)を積層して形成することが好ましい。なお、パターン部材の厚さは5〜50μmであることが好ましく、10〜30μmであることがより好ましい。
本実施形態の分級装置は、所定の二次元パターンが形成されたパターン部材が積層されて形成された分級装置であることが好ましく、パターン部材の面同士が直接接触して接合された状態で積層されていることがより好ましい。
分級装置の水平方向の各断面形状に対応した複数のパターン部材を積層して分級装置を形成することにより、簡便に分級装置を形成することができるので好ましい。
【0074】
本実施形態の分級装置の好ましい製造方法としては、(i)第1の基板上に目的とする分級装置の各断面形状に対応した複数のパターン部材を形成する工程(ドナー基板作製工程)、及び、(ii)前記複数のパターン部材が形成された前記第1の基板と第2の基板との接合及び離間を繰り返すことにより前記第1の基板上の前記複数のパターン部材を前記第2の基板上に転写する工程(接合工程)、を含むことを特徴とする分級装置の製造方法が例示でき、例えば、特開2006−187684号公報に記載の製造方法を参照できる。
【0075】
本実施形態の分級装置の製造方法についてさらに詳述する。
〔ドナー基板作製工程〕
本実施形態において、ドナー基板は電鋳法を用いて作製することが好ましい。ここで、ドナー基板とは、第1の基板上に目的とする分級装置の各断面形状に対応した複数のパターン部材が形成された基板である。第1の基板は、金属、セラミックス又はシリコンから形成されていることが好ましく、ステンレス等の金属が好適に使用できる。
まず、第1の基板を準備し、第1の基板上に厚膜フォトレジストを塗布し、作製する分級装置の各断面形状に対応したフォトマスクにより露光し、フォトレジストを現像して各断面形状のポジネガ反転したレジストパターンを形成する。次に、このレジストパターンを有する基板をめっき浴に浸漬し、フォトレジストに覆われていない金属基板の表面に例えばニッケルめっきを成長させる。パターン部材は電鋳法を用いて、銅又はニッケルにより形成されていることが好ましい。
次に、レジストパターンを除去することにより、第1の基板上に分級装置の各断面形状に対応したパターン部材を形成する。
【0076】
〔接合工程〕
接合工程とは、複数のパターン部材が形成された前記第1の基板(ドナー基板)と第2の基板(ターゲット基板)との接合及び離間を繰り返すことにより前記ドナー基板上の前記複数のパターン部材を前記ターゲット基板上に転写する工程である。接合は、常温接合又は表面活性化接合により行われることが好ましい。
図5(a)から(f)は、第3の実施形態に好適に使用できる分級装置の製造方法の一実施態様を示す製造工程図である。
図5(a)に示すように、ドナー基板405には、第1の基板上である金属基板400に、目的とする分級装置の各断面形状に対応した複数のパターン部材(401)が形成されている。上記ドナー基板405を真空槽内の図示しない下部ステージ上に配置し、ターゲット基板410を真空層内の図示しない上部ステージ上に配置する。続いて、真空槽内を排気して高真空状態あるいは超高真空状態にする。次に、下部ステージを上部ステージに対して相対的に移動させてターゲット基板410の直下にドナー基板405の1層目のパターン部材401Aを位置させる。次に、ターゲット基板410の表面、及び1層目のパターン部材401Aの表面にアルゴン原子ビームを照射して清浄化する。
【0077】
次に、図5(b)に示すように、上部ステージを下降させ、所定の荷重力(例えば、10kgf/cm2)でターゲット基板410とドナー基板405とを所定の時間(例えば、5分間)押圧し、ターゲット基板410と1層目のパターン部材401Aとを常温接合(表面活性化接合)する。本実施の形態では、パターン部材401A、401B・・・の順に積層する。
【0078】
次に、図5(c)に示すように、上部ステージを上昇させて、ドナー基板とターゲット基板を離間させると、1層目のパターン部材401Aが金属基板(第1の基板)400から剥離し、ターゲット基板410側に転写される。これは、パターン部材401Aとターゲット基板410との密着力がパターン部材401Aと金属基板(第1の基板)400との密着力よりも大きいからである。
【0079】
次に、図5(d)に示すように、下部ステージを移動させ、ターゲット基板410の直下にドナー基板405上の2層目のパターン部材401Bを位置させる。次に、ターゲット基板410側に転写された1層目のパターン部材401Aの表面(金属基板400に接触していた面)、及び2層目のパターン部材401Bの表面を前述したように清浄化する。
【0080】
次に、図5(e)に示すように、上部ステージを下降させ、1層目のパターン部材401Aと2層目のパターン部材401Bを接合させ、図5(f)に示すように、上部ステージを上昇させると、2層目のパターン部材401Bが金属基板(第1の基板)400から剥離し、ターゲット基板410側に転写される。
【0081】
他のパターン部材も同様に、ドナー基板405とターゲット基板410との位置決め、接合及び離間を繰り返すことにより、分級装置の各断面形状に対応した複数のパターン部材がターゲット基板上に転写される。ターゲット基板410上に転写された積層体を上部ステージから取り外し、ターゲット基板410を除去すると、分級装置が得られる。
【0082】
上記の実施形態では、ドナー基板を電鋳法を用いて作製したが、半導体プロセスを用いて作製してもよい。例えば、Siウエハからなる基板を準備し、この基板上にポリイミドからなる離型層をスピンコーティング法により着膜し、この離型層の表面に分級装置の構成材料となるAl薄膜をスパッタ法により着膜し、Al薄膜をフォトリソグラフィ法によりパターニングすることにより、ドナー基板を作製することもできる。
【実施例】
【0083】
以下に、実施例を用いて本実施形態についてさらに詳述するが、本実施形態は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
本実施例においては、図2に示す分級装置1を用いて、分級を行った。
【0084】
図2において、マイクロ流路(分散液導入路、輸送液導入路、分級路、及び、放出路)は、全て板状体に設けられており、深さは0.5mmである。
分散液導入路2、輸送液導入路6及び放出路4(4a、4b、及び、4c)は、全て幅が0.5mmとした。なお、分級路3から放出路4aへの接続部には、適宜丸みを持たせ、詰まりにくい形状とすることも好ましい。ここで、分散液A及び輸送液Cの導入には、マイクロシリンジを使用した。
また、分級路3は、一辺が50mmの二等辺三角形である。
図2において、重力は矢印の下方向である。
【0085】
分散液Aとしては、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)真球粒子(積水化学工業(株)製、テクポリマー)の水分散液(10wt%)を使用した。また、輸送液Cとして、純水を使用した。
分散液A及び輸送液Cをともに10ml/hにて送液した。
【0086】
分散液Aに含まれる粒子は、分級路3の途中まで下降する。このとき、粒径が大きい粒子は、沈降速度が速いため、そのまま放出路4cより放出されるか、又は、分級路3の底面5に接すると、そのまま壁面に沿って沈降し、放出路4cより放出された。
一方、粒径が小さい粒子は、底面(斜面)5に衝突することなく、放出路4aから放出された。
図6に、分散液A及び放出路4a及び4cから放出された分散液(B1及びB3)の粒度分布を示す。なお、図6の棒グラフにおいて、例えば5μmのバーは、3μmを越え、5μm以下の粒子の頻度を示している。
分級された分散液B1からは、粒径が15μmを超える粒子は検出されず、マイクロメーターオーダーの粒子の分級が行われていることが確認された。
また、8時間連続処理を行っても、分級効率は低下せず、分散液B1からは、粒径が15μmを超える粒子は検出されなかった。さらに、8時間の連続処理を行っても、流路詰まりを生じることはなかった。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】本実施形態に好適に使用可能な分級装置の第1の実施態様を示す断面概略図である。
【図2】本実施形態に好適に使用可能な分級装置の第2の実施態様を示す断面模式図である。
【図3】第2の実施形態の分級装置において、大小の粒子を送液した場合の模式図である。
【図4】本実施形態に好適に使用可能な分級装置の第3の実施態様を示す模式斜視図である。
【図5】第3の実施形態に好適に使用できる分級装置の製造方法の一実施態様を示す製造工程図である。
【図6】分散液A及び放出路4a及び4cから放出された分散液(B1及びB3)の粒度分布を示す。
【符号の説明】
【0088】
1 分級装置
2 分散液導入路
2’ 分散液導入口
3 分級路
4 放出路
5 底面
6 輸送液導入路
6’ 輸送液導入口
7 粒子溜まり
8a、8b 貫通口
10 界面
A 分散液
B 放出液
C 輸送液
400 金属基板
401A 1層目のパターン部材
401B 2層目のパターン部材
405 ドナー基板
410 ターゲット基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子を含有する分散液を導入するための分散液導入路と、
前記粒子を分級するための分級路と、
分級した前記粒子を放出するための放出路と、を有し、
前記分級路は、重力方向に対して傾斜を有して設けられていることを特徴とする
分級装置。
【請求項2】
前記分級路が、分散液の進行方向に対して、その断面積が大きくなるように設けられている、請求項1に記載の分級装置。
【請求項3】
前記分級路がコーン型である、請求項1又は2に記載の分級装置。
【請求項4】
前記分散液を輸送する輸送液を導入する輸送液導入路をさらに有する、請求項1〜3いずれか1つに記載の分級装置。
【請求項5】
分散液導入路に粒子を含有する分散液を導入する分散液導入工程と、
前記分散液を重力方向に対して傾斜を有する分級路を通過させて分級する分級工程と、
前記粒子の分級物を放出路から放出する放出工程と、を含むことを特徴とする
分級方法。
【請求項6】
輸送液導入路に分散液を輸送する輸送液を導入する輸送液導入工程を含み、
前記輸送液を重力方向の逆方向に輸送する、請求項5に記載の分級方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−226296(P2009−226296A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−73773(P2008−73773)
【出願日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】