説明

切削工具

【課題】 切刃においても耐欠損性を損なうことなく耐摩耗性が向上できる切削工具を提供する。
【解決手段】 基体15の表面がTiとAlとを含む窒化物または炭窒化物からなる被覆層16で被覆され、すくい面22、28と逃げ面23、29との交差稜線部を切刃5、6として、被覆層16の層厚が3〜10μmであり、かつ被覆層16のすくい面22、28および逃げ面23、29におけるCu−Kα線のX線回折ピークについての(400)面の回折強度I(400)と(331)面の回折強度I(331)との比率I(400)/I(331)をそれぞれp、pとするとき、pおよびpがともに0.15〜0.50であり、かつp/pが0.75〜3.0としたスローアウェイチップ3を具備するドリル1等の切削工具である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は基体の表面に被覆層を成膜してなる切削工具に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、切削工具では耐摩耗性や摺動性、耐欠損性が必要とされるため、WC基超硬合金やTiCN基サーメット等の硬質基体の表面に様々な被覆層を成膜して切削工具の耐摩耗性、耐欠損性を向上させる手法が使われている。
【0003】
かかる被覆層として、TiCN層やTiAlN層が一般的に広く採用されているが、より高い耐摩耗性と耐欠損性の向上を目的として種々な被覆層が開発されつつある。
【0004】
例えば、特許文献1では、基体の表面を被覆するTiAl複合化合物層のX線回折について、(111)面の回折強度I(111)と(200)面の回折強度I(200)との比率I(200)/I(111)の値を1以上に制御したスローアウェイインサートが開示されている。また、特許文献2では、被覆層の耐酸化性、耐剥離性を高めるために、TiAl複合化合物層のX線回折における回折強度をIb(220)/Ia(111)の値が1.0<Ib/Ia≦5.0の範囲としたスローアウェイインサートが開示されている。
【0005】
さらに、特許文献3では、TiAlCr系複合窒化物または炭窒化物被覆層において、X線回折にて測定される(111)、(200)、(220)結晶面のピーク強度比率を制御することが記載されている。なお、この文献に図6として記載されたX線回折チャートでは(400)面の回折ピークがほとんど存在していない。また、特許文献4では、TiAl窒化物層において(200)結晶面が最大高さの第1層と、(111)結晶面が最大高さの第2層との積層構造としたことが記載されている。
【0006】
上記特許文献1〜4のように、TiAl複合窒化物層においてX線回折における回折強度を制御して被覆層の特性を制御すること、特に、回折強度の強い(111)、(200)および(220)結晶面の回折強度を制御すれば、被覆層の硬度や耐酸化性を高めるとともに基体との密着性を高めることが知られている。
【特許文献1】特開平9−295204号公報
【特許文献2】特開平9−300106号公報
【特許文献3】特開2002−3284号公報
【特許文献4】特開平10−330914号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、フライス切削やドリル加工、エンドミル加工等の断続的な衝撃がかかる回転工具の加工に用いる切削工具では、特許文献1〜4のように、被覆層のX線回折における(111)、(200)、(220)結晶面の回折ピークのような回折強度の強いピークのピーク強度比を制御した被覆層では、被覆層の硬度や耐酸化性を高めることはできるものの、切刃において被覆層のチッピングや剥離が生じやすいという問題があった。そのため、このような被覆層の剥離を予防するために、被覆層の厚みを薄くして被覆層のチッピングや剥離を抑制していた。その結果、被覆層の耐摩耗性が充分とは言えなかった。
【0008】
本発明は、回転工具の切削加工のように切刃に断続的に衝撃がかかる切削条件においても工具寿命が長い切削工具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の切削工具は、基体の表面がTiとAlとを含む窒化物または炭窒化物からなる被覆層で被覆され、すくい面と逃げ面との交差稜線部を切刃とする切削工具であって、前記被覆層の層厚が3〜10μmであり、かつ前記被覆層の前記すくい面および前記逃げ面におけるCu−Kα線のX線回折ピークについての(400)面の回折強度I(400)と(331)面の回折強度I(331)との比率I(400)/I(331)をそれぞれp、pとするとき、pおよびpがともに0.15〜0.50であり、かつp/pが0.75〜3.0であることを特徴とする。
【0010】
ここで、上記構成において、pが0.15〜0.45であり、pが0.20〜0.50であることが望ましい。
【0011】
また、上記構成において、前記(400)面の面間隔d(400)と前記(331)面の面間隔d(331)との差が0.090〜0.095Åであることが望ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の切削工具は、基体の表面がTiとAlとを含む窒化物または炭窒化物からなる被覆層で被覆され、すくい面と逃げ面との交差稜線部を切刃とする切削工具であって、前記被覆層の層厚が3〜10μmであり、かつ前記被覆層の前記すくい面および前記逃げ面におけるCu−Kα線のX線回折ピークについての(400)面の回折強度I(400)と(331)面の回折強度I(331)との比率I(400)/I(331)をそれぞれp、pとするとき、pおよびpがともに0.15〜0.50であり、かつp/p=0.75〜3.0であることが大きな特徴である。これによって、回転工具の切削加工においても、被覆層が剥離することなくかつ耐摩耗性が高い工具寿命の長い切削工具とするができる。なお、(331)面の回折ピークと(400)面の回折ピークとのピーク強度比pのすくい面と逃げ面における比が切削性能に連動する理由は不明であるが、すくい面と逃げ面との交差稜線部に位置する切刃における被覆層の内部応力が関連しているものと推定される。すなわち、すくい面と逃げ面との交差稜線部に位置する切刃の結晶の配列を最適化することによって、切刃における被覆層のチッピングや剥離が低減されるものと思われる。
【0013】
すくい面及び逃げ面共に高い耐摩耗性が必要となるが、切削開始時や断続加工時においては衝撃付加となるため、特にすくい面においては耐チッピング性、耐欠損性が失われないことが重要となる。そこで、上記構成において、pが0.15〜0.45であり、pが0.20〜0.50であることによって、刃先の耐欠損性を低下させることなく、すくい面及び逃げ面の耐摩耗性と耐欠損性のバランスが保たれた切削性能とすることが可能となる。
【0014】
また、前記(400)面の面間隔d(400)と前記(331)面の面間隔d(331)との差が0.090〜0.095Åであることによって、より高い耐摩耗性を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の切削工具について、その好適例であるスローアウェイドリルの一例を基に説明する。図1は、本実施形態にかかるドリルを示す概略側面図である。図2は、図1のドリルを先端から見た概略正面図である。図3は、図1のドリルを用いて切削した際の外刃と内刃の配置を説明するための模式図である。なお、図3中、破線で示すインサートは、実線で示すインサートが180度回転したときの位置を示している。
【0016】
図1〜3に示すように、本実施形態にかかるドリル1は、中心が回転軸Oとなる工具本体2の先端部に、後述する2つのスローアウェイインサート(以下、単にインサートと略す)3をそれぞれ装着したものである。一方のインサート3aは工具本体2の先端に内刃5が突出するようにネジ4によって装着され、他方のインサート3bは、工具本体2の先端のインサート3aよりも径方向外側であって工具本体2の外周方向から工具本体2の先端にわたって外刃6が突出するようにネジ4によって装着されている。すなわち、内刃5が工具本体2から突出するインサート3aは、外刃6が工具本体2から突出するインサート3bよりも径方向内側に設けられている。
【0017】
ここで、工具本体2は略円柱状をなして、ドリル1の回転軸(図1〜3の線O)を有し、後端側に自身を工作機械に固定するためのシャンク部8を有するとともに、シャンク部8よりも先端側には切屑を工具本体2の先端から後端へと排出するための切屑排出溝9が螺旋状に形成されている。また、工具本体2の先端部には、インサート3を取り付けるためのインサートポケット10(10a、10b)が2つの位置に設けられ、内側のインサートポケット10aは工具本体2の軸線方向先端側に開放されてインサート3aが装着され、外側のインサートポケット10bには工具本体2の軸線方向先端側から外刃にかけて開放されてインサート3bが装着される。
【0018】
そして、ドリル1は、内刃5が被削材(図示せず。)の穴底面内周側を切削し、外刃6が被削材(図示せず。)の穴底面外側および外周面を切削するが、図2、図3に示すように、内刃5と外刃6との回転軌跡が互いに交叉して両方の切刃でドリル1の先端から外周までをカバーするように配置されている。
【0019】
ドリル1に装着されるインサート3の詳細について説明する。図4は、本実施形態のインサートを示す平面図である。図5は、図4のインサートを(a)矢印A側から見た側面図であり、(b)矢印B側から見た側面図である。図6は、図4のインサートについて(a)I−I線の断面を示す拡大図であり、(b)II−II線の断面を示す拡大図である。
【0020】
図4〜6に示す実施形態にかかるインサート3は、上面視が略多角形の板状をなし、上面11の中央部には貫通穴14が形成されている。また、インサート3は、図6に示すように、基体15の表面に被覆層16が被着形成されており、インサート3の上面11と側面12との交差稜辺部18には互いに隣接して内刃5および外刃6が形成されている。
【0021】
ここで、本発明によれば、図6に示すように、TiとAlとを含む窒化物または炭窒化物からなり層厚3〜10μmの被覆層16が被覆されている。そして、被覆層16のすくい面(内刃すくい面22、外刃すくい面28)および逃げ面(内刃逃げ面23、外刃逃げ面29)におけるCu−Kα線のX線回折ピークについての(400)面の回折強度I(400)と(331)面の回折強度I(331)との比率I(400)/I(331)をそれぞれp、pとするとき、pおよびpがともに0.15〜0.50であり、かつp/pが0.75〜3.0であることが大きな特徴である。
【0022】
これによって、切削加工において耐摩耗性が高く、また被覆層16が剥離することなく耐欠損性に優れた工具寿命の長いインサート3とすることができる。特に、被覆層16の厚みを3〜10μmと厚くした場合でも、切刃(内刃5、外刃6)の被覆層16において内部応力が増大して成膜した時点で欠けが発生したり、被覆層16内に残存した欠陥によって切削加工の初期に切刃にチッピングが発生することを防止する。
【0023】
すなわち、被覆層16の層厚が3μm未満では耐摩耗性が急激に低下して境界損傷等により摩耗が進行して工具寿命に達してしまう。逆に、被覆層16の層厚が10μmを越えると被覆層16の剥離が部分的に生じやすく、剥離から摩耗が進行して早期に工具寿命に至る場合がある。被覆層16の層厚の望ましい範囲は4〜8μmである。また、p/pが0.75より小さいとインサート3の耐摩耗性が低下し、逆に、p/pが3.0を越えるとインサート3が欠損しやすくなる。p/pの望ましい範囲は0.9〜2.0である。
【0024】
ここで、上記構成において、pが0.15〜0.45であり、pが0.20〜0.50であることが、耐摩耗性と耐欠損性の両立の点で望ましい。pのさらに望ましい範囲は0.20〜0.38であり、pのさらに望ましい範囲は0.25〜0.45である。
【0025】
また、上記構成において、前記(400)面の面間隔d(400)と前記(331)面の面間隔d(331)との差が0.090〜0.095Åである場合には、インサート3の耐摩耗性がさらに向上する。面間隔d(400)と面間隔d(331)との差のより望ましい範囲は、0.090〜0.093Åである。
【0026】
また、被覆層16は物理蒸着(PVD)法にて形成されたものであることが望ましく、中でもアークイオンプレーティング法により形成されたものであることが、硬度及び付着力を得る上でより望ましい。さらに、後述する組成の被覆層であれば、被覆層16を厚く形成しても自己破壊することなく被覆層16のチッピングや自己破壊の発生を抑制することが可能となる。
【0027】
被覆層16の組成は、単純なTi1−aAlNにて構成されていても良いが、例えば、Ti1−a−bAl(C1−x)(ただし、MはTiを除く周期表第4、5、6族元素、希土類元素およびSiから選ばれる1種以上であり、0≦a<1、0<b≦1、0≦x≦1である。)にて構成されていてもよい。特に、Ti1−a−b−cAl(C1−y)(ただし、MはTiおよびWを除く周期表4、5、6族元素、希土類元素およびSiから選ばれる1種以上であり、0.4≦a≦0.65、0≦b≦0.5、0.01≦c≦0.3、0≦y≦0.8である。)からなる場合には、被覆層16を厚く形成することができる。なお、被覆層16の組成はエネルギー分散型X線分光(EDS)分析法またはX線光電子分光分析法(XPS)にて測定できる。
【0028】
また、図6(a)に示すように、内刃5は、インサート3の上面11(内刃すくい面22)と側面12(内刃逃げ面23)との交差稜線部18に形成されているが、図6(a)に示すように、この内刃5から順に0.05〜0.15mmの内刃ランド21と、内刃すくい角α1(内刃すくい面22の仮想延長線L2と、下面17に平行な線L3とがなす角度)が5°〜25°で下向きに傾斜している内刃すくい面22とが続いて形成されている。さらに、内刃5の側面12には内刃逃げ面23が形成されている。
【0029】
一方、外刃6は、図6(b)に示すように、上面11(外刃すくい面28)と側面12(外刃逃げ面29)との交差稜線部18に形成されており、図4に示すように、その一端側に上面視でインサート3から外方に突出した突出部25を有している。そして、図6(b)に示すように、この外刃6から順に、0.05〜0.15mmの外刃ランド26と、幅1.2〜2mmで深さ0.03〜0.15mmの外刃ブレーカ溝27と、外刃陸部24とが続いて形成されている。また、外刃6の側面12には外刃逃げ面29が形成されている。
【0030】
外刃ブレーカ溝27は、すくい角α2(外刃すくい面28の仮想延長線L4と、下面17に平行な線L3とがなす角度)が5°〜25°の下向きに傾斜した外刃すくい面28と、この外刃すくい面28からインサート3の中央側(貫通穴14側)に向かって立ち上がり角γ(外刃立ち上がり面30の仮想延長線L5と、下面17に平行な線L3とのなす角度)20°〜45°で立ち上がる外刃立ち上がり面30とからなる。
【0031】
なお、インサート3を構成する基体15は、例えば超硬合金、サーメット、セラミックス、ダイヤモンド、cBN等の硬質焼結体からなる。
【0032】
そして、焼成後の基体15に被覆層16の成膜方法としてはイオンプレーティング法等の物理蒸着(PVD)法が好適に適応可能である。詳細な成膜方法の一例について、アークイオンプレーティング成膜装置(以下、AIP装置と略す。)50の模式図である図7を参照して説明する。
【0033】
図7のAIP装置50は、真空チャンバ51の中にNやAr等のガスをガス導入口52から導入し、カソード電極53とアノード電極54とを配置して、両者間に高電圧を印加してプラズマを発生させ、このプラズマによってターゲット55から所望の金属あるいはセラミックスを蒸発させるとともにイオン化させて高エネルギー状態とし、このイオン化した金属を試料(基体15)の表面に付着させて、基体15の表面に被覆層16を被覆する構造となっている。
【0034】
また、図7によれば、基体15は試料支持治具56に設けられた複数の試料支持部58それぞれにすくい面がターゲット55に対向するように載置されてタワー57が複数(図7では試料支持治具56が8セット、タワー57が2セット図示されている。)配置された構成となっている。なお、タワー57および試料支持治具56はそれぞれ回転しており、各試料が順にターゲット55に対向して被覆層の厚みは均一となるように配慮されている。
【0035】
そして、本発明によれば、成膜の途中で試料の向きをすくい面と逃げ面とを90度回転させて後半の成膜を行う。この条件で成膜することによって、被覆層16の結晶成長方向を制御することができる。また、各試料の切刃全周の厚みばらつきを小さくできるので、全体の厚みが厚くなっても部分的に欠損しやすい部分ができにくい。
【0036】
さらに、図7によれば、基体15を加熱するためのヒータ59と、ガスを系外に排出するためのガス排出口60と、基体15にバイアス電圧を印加するためのバイアス電源61が配置されている。そして、ターゲット55を用いて、アーク放電やグロー放電などにより金属源を蒸発させイオン化すると同時に、窒素源の窒素(N)ガスや炭素源のメタン(CH)/アセチレン(C)ガスと反応させることにより、基体15の表面に被覆層16が堆積する。
【0037】
なお、ターゲット55としては、例えば、金属チタン(Ti)、金属アルミニウム(Al)、金属M(ただし、MはTiを除く周期表第4、5、6族元素、希土類元素およびSiから選ばれる1種以上)をそれぞれ独立に含有する金属ターゲット、これらを複合化した合金ターゲット、これらの化合物粉末または焼結体からなる混合物ターゲットを用いることができる。
【0038】
また、プラズマを発生するためにはアーク放電やグロー放電などを用い、導入ガスとしては窒素源の窒素(N)ガスや炭素源のメタン(CH)/アセチレン(C)ガスを用いることができる。そして、窒素(N)ガスやアルゴン(Ar)ガスを流した状態で成膜する。また、成膜時のバイアス電圧は被覆層16の内部応力を小さくするために30〜125Vに設定することが望ましい。
【実施例】
【0039】
平均粒径1.5μmの炭化タングステン(WC)粉末を主成分として、平均粒径1.2μmの金属コバルト(Co)粉末を10質量%、1.5μmの炭化チタン(TiC)粉末3質量%、平均粒径1.0μmの炭化タンタル(TaC)を7質量%)の割合で添加し混合して、プレス成形により刃先交換式穴あけドリル用切削工具形状(ZCMT06T204)に成形した後、脱バインダ処理を施し、0.01Paの真空中、1450℃で1時間焼成して超硬合金を作製した。また、各試料のすくい面表面をブラスト加工、ブラシ加工等によって研磨加工した。さらに、作製した超硬合金にブラシ加工を施し、ホーニング量Rを、0.02≦R≦0.04mmとなるように刃先処理(ホーニング)を行なった。このようにして作製した基体に対して図7の状態で試料を成膜装置内に載置して、アークイオンプレーティング法により窒素(N)ガスをチャンバ内に導入してバイアス電圧50Vの条件でPVD法によって表1に示す厚みのTiAlN被覆層を成膜してインサートを作製した。なお、試料No.1〜7については、試料固定冶具を用いて、成膜の中間段階で試料の向きをすくい面と逃げ面が90°回転させるように動かした。
【0040】
得られたサンプルのすくい面および逃げ面に対して、切刃と垂直になるように精密切断して断面観察を行い、走査型電子顕微鏡SEM写真から被覆層の膜厚を測定した。また、微小部X線回折分析を行い、ピーク強度比I(400)/I(331)の測定を行った。コリメータ径は0.3mmφとし、それぞれの面の平坦部中央において測定した。なお、線源はCu−Kα線であり、出力は45kV、110mA、入射角度2.0°、Cu−Kα線、Step・0.02°、Time・2secとした。X線回折分析で得られえた回折ピークからp、pを算出した。
【0041】
さらに、得られた試料を用いて下記条件で切削試験を行った。
【0042】
【表1】

【0043】
そして、このインサートを図1の工具本体(京セラ製スローアウェイドリルホルダS25−DRZ1734−06)に装着して以下の切削試験を行い、切削性能を評価した。
切削方法:穴あけ(ドリル加工)
被削材 :SCM440H
切削速度:150m/min
送り :0.25mm/tooth
切り込み:穴径20mm、穴深さ20mm
切削状態:湿式
評価方法:700穴加工を上限として切削を行い、内刃(あるいは外刃)に欠損が生じるまでの加工数を記録した。また、外刃については400穴加工後における逃げ面摩耗量を計測し、耐摩耗性の比較も行った。結果は表2に示した。
【0044】
【表2】

【0045】
表1、2の結果から明らかなように、被覆層の厚みが3μmより薄く、かつp、pが0.15より小さい試料No.8ではインサートの摩耗量が大きいものであった。また、被覆層の厚みが10μmを越え、かつpが0.50を越える試料No.10では耐欠損性が悪いものであった。さらに、p/pが0.75より小さい試料No.11では耐摩耗性が悪く、p/pが3.0を越える試料No.9では内刃で早期に欠損した。
【0046】
これに対して、本発明に従い、被覆層の層厚が3〜10μmであり、かつpおよびpがともに0.15〜0.50であり、かつp/pが0.75〜3.0の試料No.1〜7では、いずれも耐欠損性および耐摩耗性に優れたものであった。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の回転工具の一実施形態にかかるドリルを示す概略側面図である。
【図2】図1のドリルを先端から見た概略正面図である。
【図3】図1のドリルによって切削した際の外刃と内刃の配置を説明するための模式図である。
【図4】図1のドリルに装着されるスローアウェイインサート(インサート)を示す平面図である。
【図5】図4のインサートを(a)矢印A側から見た側面図であり、(b)矢印B側から見た側面図である。
【図6】図4のインサートについて(a)I−I線の断面を示す拡大図であり、(b)II−II線の断面を示す拡大図である。
【図7】図6のインサートの被覆層の成膜方法の一例であるアークイオンプレーティング成膜装置の模式図である。
【符号の説明】
【0048】
1 ドリル
2 工具本体
3 スローアウェイインサート(インサート)
3a 一方のインサート
3b 他方のインサート
4 ネジ
5 内刃
6 外刃
8 シャンク部
9 切屑排出溝
10 インサートポケット
10a 内側のインサートポケット
10b 外側のインサートポケット
11 上面
12 側面
14 貫通穴
15 基体
16 被覆層
17 下面(着座面)
18 交差稜線部
19、20 ストレート
21 内刃ランド
22 内刃すくい面
23 内刃逃げ面
24 外刃陸部
25 突出部
26 外刃ランド
27 外刃ブレーカ溝
28 外刃すくい面
29 外刃逃げ面
30 外刃立ち上がり面
50 アークイオンプレーティング成膜装置(AIP装置)
51 真空チャンバ
52 ガス導入口
53 カソード電極
54 アノード電極
55 ターゲット
56 試料支持治具
57 タワー
58 試料支持部
59 ヒータ
60 ガス排出口
61 バイアス電源
O ドリルの回転軸
L1 下面(着座面)に垂直な線
L2 内刃すくい面の仮想延長線
L3 下面(着座面)に平行な線
L4 外刃すくい面の仮想延長線
L5 外刃立ち上がり面の仮想延長線
α1 内刃すくい角
α2 外刃すくい角
β1 内刃逃げ角
β2 外刃逃げ角
γ 立ち上がり角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体の表面がTiとAlとを含む窒化物または炭窒化物からなる被覆層で被覆され、すくい面と逃げ面との交差稜線部を切刃とする切削工具であって、前記被覆層の層厚が3〜10μmであり、かつ前記被覆層のCu−Kα線のX線回折ピークについての(400)面の回折強度I(400)と(331)面の回折強度I(331)との比率I(400)/I(331)のすくい面側における比率をp、逃げ面側における比率をpとするとき、pおよびpがともに0.15〜0.50であり、かつp/pが0.75〜3.0であることを特徴とする切削工具。
【請求項2】
が0.15〜0.45であり、pが0.20〜0.50であることを特徴とする請求項1記載の切削工具。
【請求項3】
前記(400)面の面間隔d(400)と前記(331)面の面間隔d(331)との差が0.090〜0.095Åであることを特徴とする請求項1または2記載の切削工具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−285760(P2009−285760A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−139324(P2008−139324)
【出願日】平成20年5月28日(2008.5.28)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】