説明

切断ブレード

【課題】製品の加工品位を十分に確保でき、かつ、工具寿命の延長が期待できる切断ブレードを提供する。
【解決手段】円形薄板状をなす基材2と、前記基材2の外周縁部に形成された切れ刃3と、前記基材2内に分散された砥粒4と、を備える切断ブレード1であって、前記基材2は、レジンボンドからなり、前記基材2の厚さ方向の外側には、該基材2より硬度が高い高硬度層6が形成されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体デバイスの切断加工に用いられる切断ブレードに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体製品などに用いられるSiC、水晶及び石英等の硬脆材料やQFN(Quad Flat Non-leaded package)などの被切断材を切断して個片化したり、溝加工を施したりする加工には、高精度が要求されており、このような切断加工や溝加工等(以下「切断加工」と省略)には、切断ブレードが使用されている。
この種の切断ブレードとしては、例えば下記特許文献1〜3に示されるように、円形薄板状をなす基材と、基材の外周縁部に形成された切れ刃と、基材内に分散され、ダイヤモンドやcBN(立方晶窒化ホウ素)からなる砥粒とを備えたものが知られている。
【0003】
切断ブレードには、基材を構成する材料によって、レジンボンドブレード、メタルボンドブレード、電鋳ブレード等の種類がある。とりわけ、被切断材として、前述した硬脆材料などを精密切断加工する場合には、被切断材に及ぼされる加工負荷の衝撃を緩和するため、基材が弾性のある樹脂相(レジンボンド)からなるレジンボンドブレードを用いて、チッピングを抑制している。
また近年では、半導体製品の製品歩留まりの向上を目的として、このようなレジンボンドブレード(切断ブレード)を極薄刃に形成することが要求されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−49412号公報
【特許文献2】特開2003−300166号公報
【特許文献3】特開平9−117863号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前述した従来の切断ブレードでは、下記の課題があった。
すなわち、基材がレジンボンドからなる切断ブレードを使用した場合、加工品位は高められるものの、ブレード寿命(工具寿命)が短く、また生産性を向上させる目的で切断速度を上げると、製品(被切断材を切断加工してなる切断片等)の切断面に蛇行が生じることがあった。また、切断ブレードを極薄刃に形成した場合には、ブレード剛性が確保できなくなり、前述の蛇行が生じやすかった。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、製品の加工品位を十分に確保でき、かつ、工具寿命の延長が期待できる切断ブレードを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような課題を解決して、前記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提案している。
すなわち、本発明は、円形薄板状をなす基材と、前記基材の外周縁部に形成された切れ刃と、前記基材内に分散された砥粒と、を備える切断ブレードであって、前記基材は、レジンボンドからなり、前記基材の厚さ方向の外側には、該基材より硬度が高い高硬度層が形成されていることを特徴とする。
【0008】
この切断ブレードを用いて被切断材を切断加工する際には、基材をその中心軸回りに回転させつつ、基材の外周縁部をなす切れ刃を被切断材に接触させる。
本発明の切断ブレードによれば、基材が弾性のあるレジンボンドからなるので、切断時に切断ブレードから被切断材に及ぼされる加工負荷の衝撃が十分に緩和されて、チッピング等が抑制されるとともに、加工品位が確保される。そして、この切断ブレードには、基材の厚さ方向の外側に、該基材よりも硬度が高い高硬度層が形成されているので、ブレード全体としての剛性が確保されている。
【0009】
従って、たとえ基材が極薄刃に形成される場合であっても、ブレード剛性が確保されて、製品の切断面に蛇行が生じるようなことを抑制できる。また、このように蛇行が抑制されるから、基材の回転速度を上げて、切断速度を高めることができる。
【0010】
よって、この切断ブレードによれば、製品の加工品位を十分に確保しつつ、生産性を向上することができる。
また、基材の厚さ方向の外側に高硬度層が形成されていることにより、ブレード側面(ブレードの厚さ方向を向く表面)の摩耗が効果的に抑制されるから、工具寿命の延長が期待できる。
【0011】
また、本発明の切断ブレードにおいて、前記高硬度層が、前記基材の厚さ方向を向く外面を被覆する被覆率が、50%以上であることとしてもよい。
【0012】
この場合、ブレード全体としての剛性が十分に確保されて、製品の加工品位が確実に高められる。また、被切断材の切断面に対して高硬度層が接触しやすくなるから、ブレード側面の耐摩耗性が向上する。
【0013】
また、本発明の切断ブレードにおいて、前記高硬度層の厚さが、1μm〜10μmであることとしてもよい。
【0014】
この場合、高硬度層の厚さが十分に確保されて前述の効果を確実に奏しつつ、該高硬度層の厚さが全体に均一に形成されて、被切断材の加工品位が確保される。
詳しくは、高硬度層の厚さが1μm未満である場合は、ブレード剛性を確保しにくくなり、製品の切断面に蛇行が生じるおそれがある。また、高硬度層の厚さが10μmを超える場合は、該高硬度層の厚さが全体に不均一となり、使用に適さなくなるおそれがある。
【0015】
また、本発明の切断ブレードにおいて、前記基材の厚さが、70μm〜200μmであることとしてもよい。
【0016】
本発明によれば、基材の厚さが200μm以下であるとともに、ブレードが極薄刃とされる場合であっても、剛性を十分に確保して加工品位を高めることができる。また、基材の厚さが70μm以上であることにより、単位切断長さあたりのブレード径方向への摩耗量が抑えられて、安定した切断加工が可能となる。
【0017】
詳しくは、基材の厚さが200μmを超える場合は、レジンボンドからなる基材であっても剛性が確保されて、高硬度層による前述の効果が得られにくくなることがある。また、基材の厚さが70μm未満である場合は、切れ刃がブレード径方向に早期に摩耗して、被切断材を安定して切断加工できなくなることがある。
【0018】
また、本発明の切断ブレードにおいて、前記高硬度層は、金属を含むこととしてもよい。
【0019】
この場合、高硬度層の硬度を確保しやすく、また製造が容易であるとともに、前述した効果が顕著に得られることになる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の切断ブレードによれば、製品の加工品位を十分に確保でき、かつ、工具寿命の延長が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施形態に係る切断ブレードを厚さ方向から見た側面図である。
【図2】図1のA−A断面を示す図である。
【図3】図2のB部の拡大図であり、本発明の要部を説明する図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る切断ブレードの(a)高硬度層に用いられる金属薄片を説明する図、(b)高硬度層の構成を説明する図である。
【図5】本発明の実施例における蛇行量を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の一実施形態に係る切断ブレード1について、図1〜図4を参照して説明する。
本実施形態の切断ブレード1は、半導体デバイスの切断加工に用いられるものであって、具体的には、SiC、水晶及び石英等の硬脆材料などの被切断材を精密切断加工することにより、製品であるチップ(切断片)を作製するものである。
【0023】
図1〜図3に示されるように、切断ブレード1は、円形薄板状をなす基材2と、基材2の外周縁部に形成された切れ刃3と、基材2内に分散された砥粒4と、を備えている。また、基材2の中央には、円形状の取付孔5が形成されている。
【0024】
切断ブレード1は、取付孔5を用いて不図示の切断加工装置の主軸に装着され、その中心軸(以下「軸」)O回りに回転されつつ軸Oに垂直な方向に送り出されることにより、基材2外周の環状をなす切れ刃3を被切断材に切り込んで被切断材を切断加工し、例えば矩形状の切断片を複数形成する。
本実施形態の切断ブレード1は、外径が58mm程度、取付孔5の内径が40mm程度となっている。
【0025】
基材2は、レジンボンド(樹脂結合剤)からなる。すなわち、基材2は、弾性のある樹脂相からなり、この樹脂相としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂或いはポリ尿素樹脂等が用いられる。尚、基材2をエポキシ樹脂で作製した場合は、硬化収縮が小さいことから製造時における反りや割れ等が生じにくくなり、寸法精度に優れた切断ブレード1を得ることができる。また、フェノール樹脂で作製した場合は、他の樹脂に比べて耐摩耗性が高められる。
【0026】
図3において、基材2の厚さ(軸O方向に沿う大きさ)T1は、切断する被切断材の種類によって種々に設定される。具体的に、本実施形態の切断ブレード1は、硬脆材料の切断加工に用いられ、その基材2の厚さT1は、70μm〜200μmである。
【0027】
砥粒4は、ダイヤモンド砥粒やcBN砥粒等からなり、本実施形態においては、ダイヤモンド砥粒が用いられている。
尚、基材2内には、前記砥粒4以外に、フィラーが分散配置されていてもよい。
【0028】
そして、この切断ブレード1には、基材2の厚さ方向(図3における左右方向)の外側に、該基材2より硬度が高い高硬度層6が形成されている。詳しくは、本実施形態では、高硬度層6が、基材2の厚さ方向の両外側にそれぞれ形成されている。高硬度層6は、金属を含んでおり、本実施形態においては、前記金属としてステンレスが用いられている。
高硬度層6の厚さT2は、1μm〜10μmである。
また、高硬度層6のロックウェル硬さは、HRC:6〜10である。
【0029】
また、高硬度層6が、基材2の厚さ方向を向く外面2aを被覆する被覆率は、50%以上である。図3に示す例では、前記被覆率が100%となっている。尚、前記被覆率を100%未満に設定する場合は、高硬度層6を、例えば基材2の外面2aの外周端縁(後述する切り込み領域である切れ刃3近傍)において周方向に短い間隔をあけて分散配置したり、基材2の外面2a上に軸Oを中心とした放射状に形成したりして、高硬度層6が外面2a上に周方向に大きく間隔をあけることなく形成されることが好ましい。
【0030】
また、高硬度層6は、基材2の外面2aのうち、少なくとも切れ刃3から径方向内方へ向かって被切断材に切り込まれる領域(切り込み領域)に形成されている。詳しくは、高硬度層6は、基材2の半径Rに対して、基材2の外周縁部(切れ刃3)から径方向内方に向かって少なくとも1/3×Rの切り込み領域に形成されており、この領域における前記被覆率が50%以上となっている。尚、高硬度層6は、基材2の外面2aのうち、前記切り込み領域以外の被切断材に接触しない領域(例えば取付孔5回り)にも形成されていることが好ましい。
【0031】
実際に測定することは難しいが、このような高硬度層6が形成されていることによって、切断ブレード1の機械的強度は、基材2のみの機械的強度よりも大きくなっている。
【0032】
具体的に、このような高硬度層6は、まずドクターブレード法により成形、焼結してなる基材2を用意し、この基材2の外面2aに、金属粉、バインダ及び希釈剤を含む液状材料をスプレー塗布し、100℃〜200℃程度にて低温加熱硬化させることで形成できる。尚、基材2を焼結する前に、外面2aに高硬度層6を塗付した後、これら基材2及び高硬度層6をともに焼結しても構わない。
【0033】
ここで、図4(a)(b)を参照して、本実施形態の高硬度層6の作製について説明する。
図4(a)は、本実施形態の高硬度層6に含まれる金属である金属薄片7を示している。金属薄片7は、例えば、316−Lステンレス箔片からなる。図示の例では、金属薄片7は、長円形薄板状又は楕円形薄板状をなしており、全長が30μm程度、幅が10μm程度、厚さが0.3μm程度となっている。
【0034】
そして、高硬度層6となる前記液状材料として、金属粉には複数の金属薄片7を、バインダには特殊なポリウレタン樹脂やシリコーン樹脂を、希釈剤にはトルエンやキシレンを用いて、該液状材料を、基材2の外面2aにスプレー塗布する。
【0035】
基材2の外面2aに塗布された前記液状材料を加熱乾燥・硬化させることにより、図4(b)に示されるように、外面2a上には、複数の金属薄片7が重なり合って層をなし、あたかも1枚のステンレス板の如く形成された高硬度層6が作製される。すなわち、この高硬度層6は、高密度に集積した金属薄片7同士がバインダにより強固に結合されて、連続する鱗状をなすように一体とされた積層ステンレス被膜となっている。
【0036】
前述した高硬度層6のスプレー塗布には、例えば、株式会社テイクインインターナショナルコーポレーションの商品名:SIL−200A(耐熱用ステンレスコート)等を用いることができる。
また、高硬度層6をパターン形成する場合には、基材2の外面2aにマスキング等を施して、スプレー塗布すればよい。また、それ以外の公知のエッチング等を用いてパターン形成しても構わない。
【0037】
以上説明した本実施形態の切断ブレード1を用いて被切断材を切断加工する際には、基材2をその中心軸O回りに回転させつつ、基材2の外周縁部をなす切れ刃3を被切断材に接触させる。
本実施形態の切断ブレード1によれば、基材2が弾性のあるレジンボンドからなるので、切断時に切断ブレード1から被切断材に及ぼされる加工負荷の衝撃が十分に緩和されて、チッピング等が抑制されるとともに、加工品位が確保される。そして、この切断ブレード1には、基材2の厚さ方向の外側に、該基材2よりも硬度が高い高硬度層6が形成されているので、ブレード全体としての剛性が確保されている。尚、基材2の外面2aに高硬度層6が形成されることによってブレード全体の剛性が高められることは、後述する実施例からも明らかである。
【0038】
従って、たとえ基材2が極薄刃に形成される場合であっても、ブレード剛性が確保されて、製品(切断片)の切断面に蛇行が生じるようなことを抑制できる。また、このように蛇行が抑制されるから、基材2の回転速度を上げて、切断速度を高めることができる。
【0039】
よって、この切断ブレード1によれば、製品の加工品位を十分に確保しつつ、生産性を向上することができる。
また、基材2の厚さ方向の外側に高硬度層6が形成されていることにより、ブレード側面(ブレードの厚さ方向を向く表面)の摩耗が効果的に抑制されるから、工具寿命の延長が期待できる。
【0040】
また、高硬度層6が基材2の厚さ方向を向く外面2aを被覆する被覆率が、50%以上であるので、ブレード全体としての剛性が十分に確保されて、製品の加工品位が確実に高められる。また、被切断材の切断面に対して高硬度層6が接触しやすくなるから、ブレード側面の耐摩耗性が向上する。
【0041】
また、高硬度層6の厚さT2が、1μm〜10μmであるので、高硬度層6の厚さT2が十分に確保されて前述の効果を確実に奏しつつ、該高硬度層6が全体に均一厚さに形成されて、被切断材の加工品位が確保される。
詳しくは、高硬度層6の厚さT2が1μm未満である場合は、ブレード剛性を確保しにくくなり、製品の切断面に蛇行が生じるおそれがある。また、高硬度層6の厚さT2が10μmを超える場合は、該高硬度層6の厚さT2が全体に不均一となり、使用に適さなくなるおそれがある。
【0042】
また、基材2の厚さT1が、70μm〜200μmとなっている。すなわち、本実施形態によれば、基材2の厚さT1が200μm以下であるとともに、ブレードが極薄刃とされる場合であっても、剛性を十分に確保して加工品位を高めることができる。また、基材2の厚さT1が70μm以上であることにより、単位切断長さあたりのブレード径方向への摩耗量が抑えられて、安定した切断加工が可能となる。
【0043】
詳しくは、基材2の厚さT1が200μmを超える場合は、レジンボンドからなる基材2であっても剛性が確保されて、高硬度層6による前述の効果が得られにくくなることがある。また、基材2の厚さT1が70μm未満である場合は、切れ刃3(つまり基材2の外周縁部)がブレード径方向に早期に摩耗して、被切断材を安定して切断加工できなくなることがある。
【0044】
また、高硬度層6は金属を含んでいるので、該高硬度層6の硬度を確保しやすく、また製造が容易であるとともに、前述した効果が顕著に得られることになる。
【0045】
尚、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、例えば下記に示すように、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることができる。
【0046】
前述の実施形態では、高硬度層6が、基材2の厚さ方向の両外側にそれぞれ形成されているとしたが、これに限定されるものではなく、高硬度層6は、基材2の厚さ方向の両外側のうち少なくとも一方に形成されていても構わない。ただし、前述の実施形態のように、高硬度層6が、基材2を厚さ方向から挟むように一対形成されることにより、ブレード剛性が安定して高められることから好ましい。
【0047】
また、高硬度層6は、金属を含んでおり、前記金属としてステンレスが用いられているとしたが、これに限定されるものではない。すなわち、高硬度層6は、ステンレス以外の金属を含んでいてもよい。また、高硬度層6に含まれる金属として、複数の金属薄片7を用いることとしたが、これに限定されるものではなく、例えば、これら金属薄片7の代わりに、薄膜シート状の金属材料を用いて高硬度層6としたり、スパッタリング等により金属膜を形成して高硬度層6としても構わない。
また、高硬度層6の硬度は、基材2の硬度より高ければよいことから、該高硬度層6に金属を用いる代わりに、硬質の樹脂材料等を用いても構わない。
【0048】
また、前述の実施形態では、砥粒4及びフィラーが、基材2内に分散されているとしたが、これら砥粒4及びフィラーは、基材4以外に、高硬度層6内に分散されていても構わない。
【0049】
その他、本発明の前述の実施形態で説明した構成要素を、適宜組み合わせても構わない。また、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、前述の構成要素を周知の構成要素に置き換えることも可能である。
【実施例】
【0050】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。ただし本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0051】
[蛇行量確認試験]
[実施例1]
本発明の実施例1として、フェノール樹脂からなる基材2内に、ダイヤモンド砥粒(砥粒4)及びWCからなるフィラーを含み、基材2の外面2aにステンレスを含む高硬度層6を被覆した切断ブレード1を用意した。この切断ブレード1の組成(基材2内の組成)は、体積比で、フェノール樹脂:61.25%、ダイヤモンド砥粒:12.5%、WCフィラー:26.25%とした。
【0052】
切断ブレード1は、ドクターブレード法により作製して、その仕様をSDC600−50、58D/XT/40H(X=0.07)とした。すなわち、基材2の寸法を、外径:58mm、内径(取付孔5の直径):40mm、厚さT1:70μmとした。また、ダイヤモンド砥粒4には、合成ダイヤモンド粒子にNiコーティングしてなり、粒度が#600であるものを用いた。また、砥粒4は、基材2内の集中度が50となるように分散配置した。
【0053】
そして、高硬度層6を次のように設定した。すなわち、高硬度層6が基材2の外面2aを被覆する被覆率については、被覆率:40%、50%、80%、100%とし、また高硬度層6の厚さT2については、T2:0.2μm、0.3μm、1μm、5μm、10μm、15μmとして、これら被覆率と厚さT2とを組み合わせてなるすべての切断ブレード1を用意した。
【0054】
尚、高硬度層6は、基材2の外面2aに、株式会社テイクインインターナショナルコーポレーションの商品名:SIL−200A(耐熱用ステンレスコート)をスプレー塗布し、1時間ほど放置・乾燥させ、低温(100〜200℃、15〜30分)で加熱硬化させることにより形成した。また、高硬度層6の被覆率が100%未満のものについては、マスキングを用い、高硬度層6が、基材2の外面2aの外周端縁(切り込み領域である切れ刃3近傍)において周方向に短い間隔をあけて分散配置されるようにパターン形成した。詳しくは、前記切り込み領域において、周方向に隣り合う高硬度層6部分同士の間隔、すなわち高硬度層6の形成されていない部位の周方向に沿う長さが、1mm以下となるように、高硬度層6を形成した。
【0055】
次いで、この切断ブレード1を切断加工装置に装着し、被切断材としてアルミナ(Al)96%からなる硬脆材料を用いて切断加工を行い、作製されたチップ(切断片)の蛇行量Lを測定した。尚、試験の条件は、主軸回転数:21000min−1、送り速度:10mm/s、切り込み量:0.055mm、ワーク厚さ:0.5mmとし、図5に示されるように、チップCのカーフ端面(所望の仮想切断面)と、切断加工により形成された実際の切断面とのずれ量を蛇行量Lとした。尚、蛇行量Lが1μm以下のものについては、蛇行量「無し」と評価した。
試験の結果を、表1に示す。
【0056】
[比較例1]
一方、比較例1として、基材2の外面2aに高硬度層6を形成しない以外は、実施例1と同じ条件として、切断ブレードを作製し試験を行った(すなわち、比較例1における被覆率は0%である)。結果を表1に示す。
【0057】
【表1】

【0058】
[実施例2]
また、実施例2として、切断ブレード1の仕様を、SDC600−50、58D/XT/40H(X=0.1)とした。すなわち、基材2の厚さT1を、T1:100μmとし、それ以外は実施例1と同じ条件として、試験を行った。結果を表2に示す。
【0059】
[比較例2]
一方、比較例2として、基材2の外面2aに高硬度層6を形成しない以外は、実施例2と同じ条件として、切断ブレードを作製し試験を行った。結果を表2に示す。
【0060】
【表2】

【0061】
[実施例3]
また、実施例3として、切断ブレード1の仕様を、SDC600−50、58D/XT/40H(X=0.2)とした。すなわち、基材2の厚さT1を、T1:200μmとし、それ以外は実施例1と同じ条件として、試験を行った。結果を表3に示す。
【0062】
[比較例3]
一方、比較例3として、基材2の外面2aに高硬度層6を形成しない以外は、実施例3と同じ条件として、切断ブレードを作製し試験を行った。結果を表3に示す。
【0063】
【表3】

【0064】
[実施例4]
また、実施例4として、切断ブレード1の仕様を、SDC600−50、58D/XT/40H(X=0.21)とした。すなわち、基材2の厚さT1を、T1:210μmとし、それ以外は実施例1と同じ条件として、試験を行った。結果を表4に示す。
【0065】
[比較例4]
一方、比較例4として、基材2の外面2aに高硬度層6を形成しない以外は、実施例4と同じ条件として、切断ブレードを作製し試験を行った。結果を表4に示す。
【0066】
【表4】

【0067】
[評価]
表1〜表4に示す通り、基材2の外面2aに高硬度層6が形成された実施例1〜4については、蛇行量Lがすべて30μm以下となり、切断ブレード1の蛇行が抑制されることが確認された。
また、実施例1〜4のうち、高硬度層6の被覆率が50%以上であるものは、蛇行量Lがすべて22μm以下となり、そのうちさらに、高硬度層6の厚さT2が1μm〜10μmであるものは、蛇行量Lが無し(1μm以下)となり、優れた蛇行抑制効果が得られることがわかった。
尚、実施例1〜4のうち、高硬度層6の厚さT2:15μm(10μmを超えるもの)については、被覆厚さにバラつきが生じて、使用に適さなかった。
【0068】
一方、比較例1〜3においては、それぞれが対応する実施例1〜3に比較して、蛇行量Lが大きくなり、ブレードの蛇行を抑制する効果は得られなかった。
尚、比較例4については、実施例4と同様に蛇行量Lが無しとなっていた。すなわち、基材2の厚さT1が200μmを超えると、レジンボンドからなる基材2であってもブレード剛性が確保されるために、高硬度層6によるブレード剛性向上の効果が得られにくいことがわかった。
【0069】
また、表には示していないが、切断ブレード1の仕様を、SDC600−50、58D/XT/40H(X=0.05)としたもの(すなわち基材2の厚さT1を、T1:50μmとしたもの)を作製し試験したところ、高硬度層6の有無に関わらず、ブレード径方向への摩耗量が大きくなり、切断を完了するまでに至らなかった。
すなわち、本実施例において安定して切断加工を行うには、基材2の厚さT1が70μm以上であることが好ましい。
【符号の説明】
【0070】
1 切断ブレード
2 基材
2a 基材の厚さ方向を向く外面
3 切れ刃
4 砥粒
6 高硬度層
7 金属薄片(金属)
T1 基材の厚さ
T2 高硬度層の厚さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円形薄板状をなす基材と、
前記基材の外周縁部に形成された切れ刃と、
前記基材内に分散された砥粒と、を備える切断ブレードであって、
前記基材は、レジンボンドからなり、
前記基材の厚さ方向の外側には、該基材より硬度が高い高硬度層が形成されていることを特徴とする切断ブレード。
【請求項2】
請求項1に記載の切断ブレードであって、
前記高硬度層が、前記基材の厚さ方向を向く外面を被覆する被覆率が、50%以上であることを特徴とする切断ブレード。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の切断ブレードであって、
前記高硬度層の厚さが、1μm〜10μmであることを特徴とする切断ブレード。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の切断ブレードであって、
前記基材の厚さが、70μm〜200μmであることを特徴とする切断ブレード。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の切断ブレードであって、
前記高硬度層は、金属を含むことを特徴とする切断ブレード。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−223867(P2012−223867A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−94957(P2011−94957)
【出願日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】