説明

列車制御装置、列車制御システム

【課題】開発コストを抑えるとともにシステムの柔軟性の高い列車制御装置、列車制御システムを提供すること。
【解決手段】実施形態の制御装置は、第1の制御区域および該第1の制御区域に隣接する第2の制御区域を有する路線上を走行する車両および該車両の位置を含む列車情報を格納したデータベースと、前記第1および第2の制御区域の境界を挟む区域を走行する前記車両と通信可能な基地局が接続された拠点ネットワークを介して、前記第1の制御区域を走行する対象車両が送信した該対象車両の位置情報を受信する受信部とを有している。そして、この制御装置は、前記データベースの列車情報と前記対象車両の位置情報とに基づいて前記対象車両の停止限界を含む制御指令情報を生成する指令生成部と、前記拠点ネットワークと接続された前記基地局を介して前記対象車両に前記制御指令情報を送信する送信部とを有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、列車制御装置、列車制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地上と車上との間で安全に関する制御情報を無線伝送する列車制御システムの開発が進められている。従来の列車制御システムは、中央の指令所装置、路線沿線を分割して管理する複数の拠点装置、および列車に設けられる車上制御装置などから構成されている。そして、指令所装置および各拠点装置は、地上ネットワークにより接続され、各拠点装置および車上制御装置間は、拠点装置に設けられた無線基地局および車上制御装置に設けられた無線移動局による無線回線で接続される。すなわち、拠点装置は、対応する無線基地局および車上の無線移動局を介して車上制御装置と通信を行っている。
【0003】
一般に、このような列車制御システムでは、路線全域をカバーするため、一つの拠点装置に複数の無線基地局を設けている。単一の拠点装置がカバーする路線区域内においては、列車の移動に伴い無線移動局が無線通信する無線基地局は刻々と変わっていくが、車上制御装置の通信相手である拠点装置は共通する。したがって、列車の移動に応じて無線基地局間をハンドオーバー処理すれば、列車が移動しても車上制御装置と拠点装置の間の通信が確保される。
【0004】
一方、複数の拠点装置がカバーする路線区域内においては、各拠点装置がカバーする異なる路線区域をまたいで列車が移動する場合、無線移動局が無線通信する無線基地局が変わるだけでなく、車上制御装置の通信相手である拠点装置も変わることになる。従来の列車制御システムでは、車上制御装置が列車の位置に対応した拠点装置と正しく通信するため、無線移動局は、列車の位置に応じて無線通信する無線基地局を選択する必要がある。これを実現するには、列車の位置に応じて拠点装置が無線基地局を特定する等の制御が必要となり、拠点装置および無線基地局の相互依存性が強くなり、開発コストの増加やシステムの柔軟性を低下させる問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3451543号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、従来の列車制御装置、列車制御システムでは、拠点装置および無線基地局の相互依存性が強くなり、開発コストの増加やシステムの柔軟性を低下させるという問題がある。本発明はかかる問題を解決するためになされたもので、開発コストを抑えるとともにシステムの柔軟性の高い列車制御装置、列車制御システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態の制御装置は、第1の制御区域および該第1の制御区域に隣接する第2の制御区域を有する路線上を走行する車両および該車両の位置を含む列車情報を格納したデータベースと、前記路線に沿って配設され前記第1および第2の制御区域の境界を挟む区域を走行する前記車両と通信可能な基地局が接続された拠点ネットワークを介して、前記第1の制御区域を走行する対象車両が送信した該対象車両の位置情報を受信する受信部とを有している。そして、この制御装置は、前記データベースの列車情報と前記対象車両の位置情報とに基づいて前記対象車両の停止限界を含む制御指令情報を生成する指令生成部と、前記拠点ネットワークと接続された前記基地局を介して前記対象車両に前記制御指令情報を送信する送信部とを有している。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】第1の実施形態に係る列車制御システムの構成を示すブロック図である。
【図2】時系列1におけるこの実施形態の列車制御システムの動作を示す図である。
【図3】時系列2におけるこの実施形態の列車制御システムの動作を示す図である。
【図4】時系列3におけるこの実施形態の列車制御システムの動作を示す図である。
【図5】時系列4におけるこの実施形態の列車制御システムの動作を示す図である。
【図6】時系列5におけるこの実施形態の列車制御システムの動作を示す図である。
【図7】この実施形態の列車制御システムにおける拠点装置の通信圏を示す図である。
【図8】この実施形態の列車制御システムにおける伝送シーケンスを示す図である。
【図9】第2の実施形態に係る列車制御システムの構成および動作(時系列1)を示す図である。
【図10】この実施形態に係る列車制御システムの動作(時系列2)を示す図である。
【図11】この実施形態に係る列車制御システムの動作(時系列3)を示す図である。
【図12】この実施形態の列車制御システムにおける伝送シーケンスを示す図である。
【図13】第3の実施形態に係る列車制御システムの構成および動作を示す図である。
【図14】この実施形態に係る列車制御システムの動作を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(第1の実施形態)
図1ないし8を参照して、第1の実施形態に係る列車制御システムについて詳細に説明する。この実施形態の列車制御システムでは、路線を管理する拠点装置間の境界領域をまたぐように、拠点ネットワークを配設し、当該拠点ネットワークに複数の無線基地局を接続する。そして、一つの拠点ネットワークに複数の拠点装置が接続されるように構成している。
【0010】
図1に示すように、実施形態の列車制御システムでは、車両20が走行する路線Lを複数の制御区域に区切った制御区域それぞれを管理する拠点装置11〜13を有している。拠点装置11〜13は、地上ネットワークNW(地上NW)に接続されている。地上NWには、拠点装置11〜13を統括する指令所装置40が接続されている。拠点装置11〜13は、それぞれ路線L上に制御対象たる制御区域を有しており、制御区域内を走行する車両20は、当該制御区域に対応する拠点装置によって管理されている。
【0011】
拠点装置11〜13は、自己の制御区域内にある車両20(例えば車両20の先端位置が自己の制限区域内にあるもの)を制御対象列車として認識して管理する。それぞれの制御区域は、拠点装置ごとに互いに重なりがなく独立しており、かつ、制御区域の和によって列車制御システムの対象路線全域をカバーするように予め設定されている。拠点装置は、自己の制御区域内の全ての車両20の在線位置を「在線把握情報」として管理し、また、当該制限区域内の転てつ器の状態などを示す進路機構情報や各種支障要因に基づく列車のルート情報を把握する。そして、拠点装置は、これらの情報に基づき衝突や脱線をせずに安全に走行が可能な限界位置(以下「停止限界」と称する。)を算出する。
【0012】
すなわち、拠点装置11〜13は、指令所装置から受信したルート要求に基づき転てつ器の状態や自己制御区域内での在線状態などを確認の上で各列車のルートを設定し、車上制御装置から得た列車位置情報などを基に列車の停止限界位置を算出して無線により車上制御装置へ送信すると共に、地上側にて転てつ器の転換指令などを行う。具体的には、実施形態の拠点装置11は、通信制御部110、識別部111、制御指令生成部112、記憶部113、データベース114を有している。
【0013】
通信制御部110は、通信インタフェースの機能を有しており、データベース114に格納された基地局情報114cや拠点情報114dなどを用いて、拠点NW11および基地局31や拠点NW12および基地局32を介して車両20とデータを送受信する。識別部111は、通信制御部110が受信したデータの発信車両をデータベース114に格納された列車情報114aに基づいて識別する。制御指令生成部112は、データベース114に格納された列車情報114a、区域情報114b、ルート情報114eなどに基づいて、停止限界などを示す制御指令情報などを生成する演算部である。記憶部113は、処理データなどを展開する例えばメモリである。データベース114は、例えば列車情報114a、区域情報114b、基地局情報114c、拠点情報114dおよびルート情報114eなどを格納するデータベースである。列車情報114aは、例えば「在線把握情報」など主として管理対象となる車両およびその位置を管理する情報である。区域情報114bは、拠点装置11が管理を担う制御区域の位置などを管理する情報である。基地局情報114cは、拠点装置11が使用することのできる複数の基地局の位置などを管理する情報である。拠点情報114dは、路線Lに関する他の拠点装置の稼働状況などを管理する情報である。ルート情報114eは、路線Lに沿って配置された保安装置などを管理する情報である。
【0014】
拠点装置12および13も同様であり、通信制御部120および130、識別部121および131、制御指令生成部122および132、記憶部123および133、データベース124および134を備え、共通の構成を有している。
【0015】
車両20は、路線L上を走行する車両であり、送受信部22、位置取得部24、速度制御部26および拠点データベース28などを備えている。車両20は、自己の位置情報などを無線回線を用いて拠点装置へ無線伝送する。
【0016】
送受信部22は、複数の基地局31〜34のうちいずれかと通信可能な無線インタフェースであり、車両20の位置情報などを送信し、拠点装置11〜13が複数の基地局31〜34のうち少なくともいずれか1つを介して送信した制御指令情報などを受信する。位置取得部24は、車両20の位置情報を取得する。位置取得部24は、例えば速度発電機による速度の積算や、その積算値と地上子検知装置を用いた絶対位置の補正値とを併用することにより実現することができる。速度制御部26は、拠点装置11〜13から送られる制御指令情報に基づき、停止限界を超過しないよう車両20の速度制御を行う。拠点データベース28は、拠点装置11〜13やその制御区域などの情報を格納したデータベースである。車両20のうち、送受信部22が無線移動局に対応し、位置取得部24、速度制御部26および拠点データベース28が車上制御装置に対応する。
【0017】
指令所装置40は、予め定められた運行計画や指令員の操作に基づいて決定された列車の走行ルートを、各拠点装置に対してルート要求情報として適時送信する機能を有する。
【0018】
具体的には、指令所装置40は、送受信部42、ルート管理部44、ルートデータベース46などを有している。送受信部42は、拠点装置11〜13と通信するためのインタフェースである。ルート管理部44は、車両の走行ルートなどのルート情報を生成し、管理する。ルートデータベース46は、ルート管理部44が生成したルート情報を保管する。
【0019】
路線L上の制御区域が隣接する拠点装置11および12は、互いに共通する拠点ネットワークNW12(拠点NW12)に接続されている。同様に、路線L上の制御区域が隣接する拠点装置12および13は、互いに共通する拠点NW13に接続されている。拠点NW11や拠点NW14も同様であり、拠点装置11や拠点装置13と路線L上の制御区域が隣接する他の拠点装置がさらに接続されている。なお、拠点装置11〜13は、停止限界などを示す制御指令情報を生成するにあたって、他の拠点装置の制御区域内に停止限界を設定するため、隣接する拠点装置と拠点NWを介して補助情報(補助停止限界)を交換することができる。
【0020】
路線Lの沿線には、複数の基地局が配設されており、路線L上を走行する車両20は、常にいずれかの基地局と通信可能とされている。路線Lの沿線に配設された基地局のうち、複数の基地局31は、拠点NW11に接続され、複数の基地局32は、拠点NW12に接続されている。同様に、複数の基地局33は、拠点NW13に接続され、複数の基地局34は、拠点NW14に接続されている。なお、この実施形態では、一つの拠点NWに複数の基地局が接続されているが、これには限定されない。一つの拠点NWに一つの基地局が接続される構成であってもよい。
【0021】
複数の基地局32は、路線L上における拠点装置11および12それぞれの制御区域の境界線をまたぐように配設されている。同様に、複数の基地局33は、路線L上における拠点装置12および13それぞれの制御区域の境界線をまたぐように配設されている。複数の基地局31や34も同様である。すなわち、複数の基地局31〜34は、拠点装置それぞれの制御区域の境界線をまたぎ、隣接する他の拠点NWに属する複数の基地局と路線Lに対して重複しないように配設されている。図1に示す例では、路線L上を走行する車両20は、初めに拠点NW11に属する複数の基地局31と通信し、次いで拠点NW12に属する複数の基地局32、さらに拠点NW13に属する複数の基地局33と通信し、最終的に拠点NW14に属する複数の基地局34と通信することになる。基地局は、路線Lに沿って概ね等間隔に配設される。
【0022】
複数の基地局31〜34と車両20の送受信部22とは、共通の無線システムにより実現される。複数の基地局31〜34および車両20の送受信部22としては、例えば、通信相手を指定せずとも最も受信強度の強い相手局に対して接続するシステム、所定の受信強度を下回ると他の相手局に接続を試みるシステムなどを用いることができる。
【0023】
(第1の実施形態の動作)
続いて、図1ないし8を参照して、第1の実施形態の列車制御システムの動作を説明する。以下の説明では、車両20が路線L上を走行し、「時系列1」〜「時系列5」の順に時間が経過するものとする。
【0024】
[時系列1]
図2に示すように、車両20が拠点装置11の制御区域内を走行しているものとする。車両20の位置取得部24は、車両20の位置を所定の時間間隔で取得しており、送受信部22は、位置取得部24が取得した位置情報(例えば起点からの距離等)に自己のID、路線L上の走行の向き、シーケンス番号等の情報を付加して、宛先を不特定多数の拠点装置として送信する。送受信部22による不特定多数宛の送信は、例えばTCP/IPシステムなどにおけるブロードキャストパケットなどにより実現できる。ここで、拠点装置11は、車両20が自己の制限区域内を走行中であり管理対象であることを既に認識しているものとする。
【0025】
複数の基地局31〜34は、送受信部22からの電波を受信する。図2に示す例では、基地局31aが送受信部22からの電波を受信している。基地局31aは、受信した信号を拠点NW11に接続された全ての拠点装置へ転送する。図2に示す例では、拠点装置11が当該受信信号を受け取る。
【0026】
拠点装置11の通信制御部110が受信信号を受け取ると、識別部111は、データベース114にアクセスして列車情報114aと受信信号に含まれるIDとを比較するとともに、区域情報114bと受信信号に含まれる位置情報とを比較する。列車情報114aは、拠点装置11が管理する車両のIDが登録されているから、この比較処理により、自己が当該受信信号を処理すべきか判定することができる。また、区域情報114bは、拠点装置11が管理する制御区域の位置や範囲が登録されているから、この比較処理により、自己が車両20への制御指令情報を生成すべきか判定することができる。
【0027】
受信信号に含まれるIDが列車情報114aに含まれる場合、制御指令生成部112は、受信信号から位置情報を抽出して列車情報114aを更新する。抽出した位置情報の示す位置が拠点装置11の制御区域内に該当する場合(すなわち、制御指令情報を生成する対象である場合)、制御指令生成部112は、列車情報114aから先行する他の車両の位置情報等を読出し、車両20に対する停止限界などの制御指令情報を生成する。
【0028】
通信制御部110は、受信信号から抽出した位置情報と、基地局情報114cとに基づいて適切な基地局(例えば基地局31a)を選択し、車両20のIDを宛先として制御指令情報を送信する。基地局31aは、拠点NW11から制御指令情報を受け取って無線回線で送信する。なお、通信制御部110は、基地局を選択する代わりに、拠点装置11配下の拠点NW11・NW12に接続された全ての基地局31〜32を介して制御指令情報を送信してもよい。この場合、車両20は確実に制御指令情報を受信することができる。
【0029】
車両20の送受信部22は、最も受信状態のよい基地局(例えば基地局31a)から制御指令情報を受け取る。送受信部22は、受け取った信号に含まれる宛先IDから自己宛の制御指令情報であることを確認し、速度制御部26に当該制御指令情報を渡す。速度制御部26は、制御指令情報を解析して、車両20の前方を走行する他の車両の位置等を取得し、必要に応じて車両20の速度を制御する。
【0030】
図8中「時系列1」に示す伝送シーケンスは、拠点装置11と車両20との通信のやり取りを示している。図8に示すように、車両20からの情報は拠点装置12には届いていない。
【0031】
[時系列2]
図3は、車両20が拠点NW11に接続された複数の基地局31の通信圏から離れ、拠点NW12に接続された複数の基地局32の通信圏に入った様子を示している。車両20の位置取得部24は、車両20の位置を所定の時間間隔で取得しており、送受信部22は、位置取得部24が取得した位置情報(例えば起点からの距離等)に自己のID、路線L上の走行の向き、シーケンス番号等の情報を付加して、宛先を不特定多数として送信する。
【0032】
図3に示す時系列2の状態では、基地局32aが送受信部22からの電波を受信している。基地局32aは、受信した信号を拠点NW12に接続された全ての拠点装置へ転送する。図3に示す例では、拠点装置11および拠点装置12が当該受信信号を受け取る。
【0033】
拠点装置11の通信制御部110が受信信号を受け取ると、識別部111は、データベース114にアクセスして列車情報114aと受信信号に含まれるIDとを比較するとともに、区域情報114bと受信信号に含まれる位置情報とを比較する。同様に、拠点装置12の通信制御部120が受信信号を受け取ると、識別部121は、データベース124にアクセスして列車情報124aと受信信号に含まれるIDとを比較するとともに、区域情報124bと受信信号に含まれる位置情報とを比較する。すなわち、拠点NW12に接続された2つの拠点装置が並行して受信信号を解析する。
【0034】
図3に示す時系列2の状態では、車両20は、拠点装置11の制御区域に存在している。したがって、受信信号に含まれるIDが列車情報114aに含まれるとともに、受信信号に含まれる位置情報が拠点装置11の制御区域に属している。そこで、制御指令生成部112は、受信信号から位置情報を抽出して列車情報114aを更新するとともに、列車情報114aから先行する他の車両の位置情報等を読出し、車両20に対する停止限界などの制御指令情報を生成する。生成した制御指令情報は、時系列1と同様に、拠点NW12および基地局32aを介して車両20に送られる。以後、車両20の動作は時系列1と同様である。
【0035】
一方、拠点装置12の識別部121は、車両20が自己の制御区域に存在せず、かつ管理対象でもないことを認識する。その場合、拠点装置12は、車両20から受け取った情報をそのまま破棄する。
【0036】
図8中「時系列2」に示す伝送シーケンスは、拠点装置11および12と車両20との通信のやり取りを示している。図8に示すように、車両20からの情報は拠点装置12に届いているが、拠点装置12は制御指令情報を生成していない。
【0037】
[時系列3]
図4は、車両20(の先頭位置等)が拠点NW12に接続された複数の基地局32の通信圏に属した状態で拠点装置12の制御区域に進入した様子を示している。車両20の位置取得部24は、車両20の位置を所定の時間間隔で取得しており、送受信部22は、位置取得部24が取得した位置情報(例えば起点からの距離等)に自己のID、路線L上の走行の向き、シーケンス番号等の情報を付加して、宛先を不特定多数として送信する。
【0038】
図4に示す時系列3の状態では、基地局32bが送受信部22からの電波を受信している。基地局32bは、受信した信号を拠点NW12に接続された全ての拠点装置へ転送する。図4に示す例では、拠点装置11および拠点装置12が当該受信信号を受け取る。
【0039】
拠点装置11の通信制御部110が受信信号を受け取ると、識別部111は、データベース114にアクセスして列車情報114aと受信信号に含まれるIDとを比較するとともに、区域情報114bと受信信号に含まれる位置情報とを比較する。同様に、拠点装置12の通信制御部120が受信信号を受け取ると、識別部121は、データベース124にアクセスして列車情報124aと受信信号に含まれるIDとを比較するとともに、区域情報124bと受信信号に含まれる位置情報とを比較する。すなわち、時系列2と同様に、拠点NW12に接続された2つの拠点装置が並行して受信信号を解析する。
【0040】
図4に示す時系列3の状態では、車両20は、拠点装置12の制限区域に存在している。したがって、受信信号に含まれるIDは列車情報114aに含まれているものの、受信信号に含まれる位置情報は拠点装置12の制御区域に属している。そのため、制御指令生成部112は、車両20に対する停止限界などの制御指令情報を生成しない。この時点で、車両20は拠点装置11の管理対象から外れているが、隣接する拠点装置12と連携するため、列車情報114aの更新(車両20の管理対象からの削除)は、直ちに行わなくてもよい。例えば、拠点装置12が車両20の管理を開始したことが確認された時点で、拠点装置11が列車情報114aを更新してもよい。
【0041】
一方、拠点装置12の識別部121は、車両20が自己の列車情報124aに存在しないにもかかわらず自己の制御区域に存在していることを認識する。その場合、拠点装置12の制御指令生成部122は、受信信号から位置情報を抽出して列車情報124aを更新する。併せて、制御指令生成部122は、列車情報124aから先行する他の車両の位置情報等を読出し、車両20に対する停止限界などの制御指令情報を生成する。
【0042】
通信制御部120は、受信信号から抽出した位置情報と、基地局情報124cとに基づいて適切な基地局(例えば基地局32b)を選択し、車両20のIDを宛先として制御指令情報を送信する。基地局32bは、拠点NW12から制御指令情報を受け取って無線回線で送信する。以下の動作は時系列2・3と同様である。
【0043】
[時系列4]
図5は、車両20がさらに拠点装置12の制御区域内を走行する様子を示している。時系列3と同様に、拠点装置11の識別部111は、車両20が自己の制御区域を既に離れたことを認識している。この例では、一つの拠点NWには隣接する2つの拠点装置のみが接続されているから、車両20が送信する位置情報が拠点装置12の制御区域に属して一定時間が経過すれば、拠点装置12は自動的に車両20を自己の管理下に置くことになる。
【0044】
そこで、拠点装置11の制御指令生成部112は、車両20から送られる位置情報が自己の制御区域から離脱して一定時間が経過すると、列車情報114aから車両20の在線登録を削除する。具体的には、制御指令生成部112は、「車両20が拠点装置11の制御区域内に在線していない」かつ「拠点装置11以外の拠点装置(この場合拠点装置12)が車両20を認識している」ことをトリガとして、列車情報114aの車両20の状態を「進出済」と設定する。
【0045】
なお、車両20から送信される位置情報に、車両20がどの拠点装置の管理下に属するかを示す情報を付加してもよい。この場合、拠点装置の制御指令生成部は、車両20から送信される信号に基づいて、他の拠点装置が当該列車を認識しているかどうかを判定することができる。
【0046】
図8中「時系列3・4」に示す伝送シーケンスは、拠点装置11および12と車両20との通信のやり取りを示している。図8に示すように、車両20からの情報は拠点装置11に届いているが、拠点装置11は制御指令情報を生成していない。一方、車両20からの情報は拠点装置12に届いており、拠点装置12は制御指令情報を生成している。
【0047】
[時系列5]
図6は、車両20が拠点NW12に接続された複数の基地局32の通信圏から離れ、拠点NW13に接続された複数の基地局33の通信圏に入った様子を示している。車両20の位置取得部24は、車両20の位置を所定の時間間隔で取得しており、送受信部22は、位置取得部24が取得した位置情報(例えば起点からの距離等)に自己のID、路線L上の走行の向き、シーケンス番号等の情報を付加して、宛先を不特定多数として送信する。
【0048】
図6に示す時系列5の状態では、基地局33aが送受信部22からの電波を受信している。基地局33aは、受信した信号を拠点NW13に接続された全ての拠点装置へ転送する。図6に示す例では、拠点装置12および拠点装置13が当該受信信号を受け取る。
【0049】
拠点装置12の通信制御部120が受信信号を受け取ると、識別部121は、データベース124にアクセスして列車情報124aと受信信号に含まれるIDとを比較するとともに、区域情報124bと受信信号に含まれる位置情報とを比較する。同様に、拠点装置13の通信制御部130が受信信号を受け取ると、識別部131は、データベース134にアクセスして列車情報134aと受信信号に含まれるIDとを比較するとともに、区域情報134bと受信信号に含まれる位置情報とを比較する。すなわち、拠点NW13に接続された2つの拠点装置が並行して受信信号を解析する。
【0050】
図6に示す時系列5の状態では、車両20は、拠点装置12の制御区域に存在している。したがって、受信信号に含まれるIDが列車情報124aに含まれるとともに、受信信号に含まれる位置情報が拠点装置12の制御区域に属している。そこで、制御指令生成部122は、受信信号から位置情報を抽出して列車情報124aを更新するとともに、列車情報124aから先行する他の車両の位置情報等を読出し、車両20に対する停止限界などの制御指令情報を生成する。生成した制御指令情報は、拠点NW13および基地局33aを介して車両20に送られる。以後、車両20の動作は時系列1〜4と同様である。
【0051】
一方、拠点装置13の識別部131は、車両20が自己の制御区域に存在せず、かつ管理対象でもないことを認識する。その場合、拠点装置13は、車両20から受け取った情報をそのまま破棄する。
【0052】
さらに、この時点においては、拠点装置11は、拠点NW13とは接続されていないから、車両20からの信号を受信することができなくなっている。そこで、拠点装置11の制御指令生成部112は、車両20が自己の制御区域を離脱して一定時間経過し、かつ車両20からの信号を受信できなくなったことから、列車情報114aの車両20の登録を更新する。すなわち、制御指令生成部112は、列車情報114aの「在線把握情報」から車両20の登録を削除する。
【0053】
図8中「時系列5」に示す伝送シーケンスは、拠点装置12と車両20との通信のやり取りを示している。図8に示すように、車両20からの情報は拠点装置11に届いていない。一方、車両20からの情報は拠点装置12に届いており、拠点装置12は制御指令情報を生成している。
【0054】
このように、この実施形態の列車制御システムでは、拠点装置間での情報転送を行う必要がないので、伝送遅延の発生を解消することができ、拠点装置の負荷を軽減することができる。また、車両からの情報を受ける基地局のハンドオーバー制御を必要としないので、路線Lの周囲状況や電波環境が不安定であったとしても、拠点装置と車上制御装置との間の無線伝送路を確保することができる。これは、拠点装置や車上制御装置による無線装置の制御が不要となることを意味しており、汎用の無線伝送システムを組み合わせたシステム構築が可能となり、開発コストを削減することができる。
【0055】
また、図7に示すように、拠点装置が車両と通信可能な通信圏は、基地局そのものの通信範囲ではなく、拠点NWの配置構成に依存するので、例えばLCXアンテナ(Leaky Coaxial cable antenna:漏洩同軸ケーブルアンテナ)のように無線システム自体の通信領域が限定されていても、拠点装置の通信圏を柔軟に設定することができる。
【0056】
(第2の実施形態)
続いて、図1,9〜12を参照して、第2の実施形態に係る列車制御システムについて詳細に説明する。第2の実施形態の列車制御システムは、第1の実施形態のシステムにおける拠点装置の制御区域をオーバラップさせ、当該オーバラップ領域(制御オーバラップ区域)においては車両20が複数の拠点装置と通信可能としたものである。以下の説明において、第1の実施形態の列車制御システムと共通する要素には共通の符号を付して示し、重複する説明は省略する。
【0057】
(第2の実施形態の動作)
車両20が路線L上を走行し、「時系列1」〜「時系列3」の順に時間が経過するものとして、この実施形態の列車制御システムの動作を説明する。この実施形態における「時系列1」は、車両20が拠点装置11の制御区域内に存在する場合(図9)、「時系列2」は、車両20が拠点装置11〜12の制御オーバラップ区域に存在する場合(図10)、「時系列3」は、車両20が拠点装置12の制御区域内に存在する場合(図11)である。
【0058】
[時系列1]
第1の実施形態の時系列2と同様に、車両20の位置取得部24は、車両20の位置を所定の時間間隔で取得しており、送受信部22は、位置取得部24が取得した位置情報に自己のID、路線L上の走行の向き、シーケンス番号等の情報を付加して、宛先を不特定多数として送信する。図9に示す例では、基地局32bは、送受信部22からの電波を受信している。基地局32bは、受信した信号を拠点NW12に接続された拠点装置11および12へ転送し、拠点装置11および12は当該受信信号を受け取る。
【0059】
拠点装置11の通信制御部110が受信信号を受け取ると、識別部111は、データベース114にアクセスして列車情報114aと受信信号に含まれるIDとを比較するとともに、区域情報114bと受信信号に含まれる位置情報とを比較する。同様に、拠点装置12の通信制御部120が受信信号を受け取ると、識別部121は、データベース124にアクセスして列車情報124aと受信信号に含まれるIDとを比較するとともに、区域情報124bと受信信号に含まれる位置情報とを比較する。すなわち、拠点NW12に接続された2つの拠点装置が並行して受信信号を解析する。
【0060】
拠点装置11の通信制御部110が受信信号を受け取ると、識別部111は、データベース114にアクセスして列車情報114aと受信信号に含まれるIDとを比較するとともに、区域情報114bと受信信号に含まれる位置情報とを比較する。図9に示す例では、受信信号に含まれるIDが列車情報114aに含まれており(車両20は拠点装置11の管理下にあり)、位置情報の示す位置が拠点装置11の制御区域内に該当するから、制御指令生成部112は、受信信号から位置情報を抽出して列車情報114aを更新するとともに、車両20に対する停止限界などの制御指令情報を生成する。
【0061】
通信制御部110は、受信信号から抽出した位置情報と、基地局情報114cとに基づいて適切な基地局(例えば基地局32b)を選択し、宛先として車両20、発信元として拠点装置11のID、生成した制御指令情報、拠点装置11および12の切替位置情報を送信する。基地局32bは、拠点NW12から制御指令情報を受け取って無線回線で送信する。
【0062】
拠点装置11および12の切替位置情報は、車両20の前方に前方車両などの支障が存在する場合は図9中p2の位置となり、支障が存在しない場合は同p1の位置となる。すなわち、車両20の前方に支障がある場合、拠点装置11から拠点装置12への切替処理を行わず、拠点装置11が引き続き車両20の管理を続行する。不測の事態が生じうる状況下で拠点装置を切り替えるのは危険だからである。なお、拠点装置11の制御指令生成部112が停止限界を設定できるのは、制御オーバラップ区域の後端であるp2の位置となる。
【0063】
一方、拠点装置12の識別部121は、車両20が自己の制御区域に存在せず、かつ管理対象でもないことを認識する。その場合、拠点装置12は、車両20から受け取った情報をそのまま破棄する。
【0064】
車両20の送受信部22は、最も受信状態のよい基地局(例えば基地局31a)から制御指令情報を受け取る。送受信部22は、受け取った制御指令情報とともに受信した宛先IDから自己宛の情報であることを確認し、速度制御部26に制御指令情報を渡す。速度制御部26は、制御指令情報を解析して、車両20の前方を走行する他の車両の位置等を取得し、必要に応じて車両20の速度を制御する。
【0065】
図12中「時系列1」に示す伝送シーケンスは、第2の実施形態に係る拠点装置11および12と車両20との通信のやり取りを示している。図12に示すように、車両20からの情報は拠点装置12に届いているが、拠点装置12は制御指令情報を生成していない。
【0066】
[時系列2]
図10は、拠点装置11および12それぞれの制御区域がオーバラップした制御オーバラップ区域を車両20が走行している状態である。車両20の位置取得部24は、車両20の位置を所定の時間間隔で取得しており、送受信部22は、位置取得部24が取得した位置情報に自己のID、路線L上の走行の向き、シーケンス番号等の情報を付加して、宛先を不特定多数として送信する。
【0067】
図10に示す時系列2の状態においても、基地局32bが送受信部22からの電波を受信している。基地局32bは、受信した信号を拠点NW12に接続された拠点装置11および12へ転送し、拠点装置11および拠点装置12は当該受信信号を受け取る。
【0068】
拠点装置11の通信制御部110が受信信号を受け取ると、識別部111は、データベース114にアクセスして列車情報114aと受信信号に含まれるIDとを比較するとともに、区域情報114bと受信信号に含まれる位置情報とを比較する。同様に、拠点装置12の通信制御部120が受信信号を受け取ると、識別部121は、データベース124にアクセスして列車情報124aと受信信号に含まれるIDとを比較するとともに、区域情報124bと受信信号に含まれる位置情報とを比較する。
【0069】
第2の実施形態の列車制御システムでは、車両20が制御オーバラップ区域に存在する場合、拠点装置11および12の双方が車両20の制御指令情報を生成する。すなわち、拠点装置11および12の制御指令生成部112および122は、車両20から受信した信号に含まれるIDおよび位置情報を用いて列車情報114a・124aを更新するとともに、それぞれが制御指令情報を生成する。
【0070】
通信制御部110および120は、受信信号から抽出した位置情報と、基地局情報114c・または124cとに基づいて適切な基地局(例えば基地局32b)を選択し、宛先として車両20、発信元として拠点装置11または拠点装置12のID、生成した制御指令情報、拠点装置11および12の切替位置情報を送信する。基地局32bは、拠点NW12から制御指令情報を受け取って無線回線で送信する。
【0071】
車両20の送受信部22は、最も受信状態のよい基地局(例えば基地局32b)から制御指令情報を受け取る。送受信部22は、受け取った制御指令情報とともに受信した宛先IDから自己宛の情報であることを確認し、速度制御部26に制御指令情報を渡す。第2の実施形態では、送受信部22は、拠点装置11および12それぞれから送られる信号を両方とも受信し、宛先IDを確認してそれぞれを速度制御部26に渡す。
【0072】
速度制御部26は、拠点装置11および12それぞれの制御指令情報を解析して、停車限界と切替位置情報を取得する。次いで、速度制御部26は、位置取得部24が取得した車両20の位置と解析した切替位置情報の内容とを比較し、車両20が切替位置情報が示す位置に到達しているか否か判定する。車両20が切替位置情報の示す位置に到達していない場合、速度制御部26は、手前側の拠点装置である拠点装置11からの制御指令情報に含まれた停止限界を優先して適用し、必要に応じて車両20の速度を制御する。車両20が切替位置情報の示す位置を越えている場合、速度制御部26は、拠点装置12からの制御指令情報に含まれた停止限界を適用することができる。
【0073】
すなわち、この実施形態の列車制御システムでは、車両20は、制御オーバラップ区域においては手前側の拠点装置が算出した停止限界を優先するので、車両20を管理する拠点装置が切り替わるタイムラグによる生じる危険性を抑えることができる。
【0074】
図12中「時系列2」に示す伝送シーケンスは、第2の実施形態に係る拠点装置11および12と車両20との通信のやり取りを示している。図12に示すように、車両20からの情報は拠点装置11および12に届いており、拠点装置11および12は、ともに制御指令情報を生成している。
【0075】
[時系列3]
図11は、車両20(の先頭位置等)が拠点NW12に接続された複数の基地局32の通信圏に属した状態で拠点装置12の制御区域に進入した様子を示している。車両20の位置取得部24は、車両20の位置を所定の時間間隔で取得しており、送受信部22は、位置取得部24が取得した位置情報に自己のID、路線L上の走行の向き、シーケンス番号等の情報を付加して、宛先を不特定多数として送信する。
【0076】
図11に示す時系列3の状態では、基地局32dが送受信部22からの電波を受信している。基地局32dは、受信した信号を拠点NW12に接続された拠点装置11および12へ転送し、拠点装置11および拠点装置12は、当該受信信号を受け取る。
【0077】
拠点装置11の通信制御部110が受信信号を受け取ると、識別部111は、データベース114にアクセスして列車情報114aと受信信号に含まれるIDとを比較するとともに、区域情報114bと受信信号に含まれる位置情報とを比較する。同様に、拠点装置12の通信制御部120が受信信号を受け取ると、識別部121は、データベース124にアクセスして列車情報124aと受信信号に含まれるIDとを比較するとともに、区域情報124bと受信信号に含まれる位置情報とを比較する。
【0078】
図11に示す時系列3の状態では、車両20は、拠点装置12の制限区域に存在している。したがって、受信信号に含まれるIDは列車情報114aに含まれているものの、受信信号に含まれる位置情報は拠点装置12の制御区域に属している。そのため、制御指令生成部112は、車両20に対する停止限界などの制御指令情報を生成しない。
【0079】
一方、拠点装置12の識別部121は、車両20が自己の列車情報124aに存在し、かつ自己の制御区域に存在していることを認識する。その場合、拠点装置12の制御指令生成部122は、受信信号から位置情報を抽出して列車情報124aを更新する。併せて、制御指令生成部122は、列車情報124aから先行する他の車両の位置情報等を読出し、車両20に対する停止限界などの制御指令情報を生成する。
【0080】
通信制御部120は、受信信号から抽出した位置情報と、基地局情報124cとに基づいて適切な基地局(例えば基地局32d)を選択し、車両20のIDを宛先として制御指令情報を送信する。基地局32dは、拠点NW12から制御指令情報を受け取って無線回線で送信する。以下の動作は時系列1・2と同様である。
【0081】
なお、車両20の送受信部22は、速度制御部26が実際に速度制御等に用いた制御指令情報を送信した拠点装置のIDを、制御指令情報のACK信号として送信してもよい。この場合、拠点装置11の制御指令生成部112は、車両20が拠点装置12の管理下に入ったことを知ることができるから、識別部111が車両20の位置情報と区域情報114bの比較をするまでもなく、制御指令情報の生成停止や列車情報114aからの登録削除を進めることができる。
【0082】
このように、この実施形態の列車制御システムによれば、車両の後方側の拠点装置が、その制御区域内を走行する列車の順番通りに列車の前方側の拠点装置に列車の制御を引き渡す。加えて、当該前方側の拠点装置が当該列車を制御対象とみなすまでは、列車の後方側の拠点装置は当該列車に対して前方側への進出を許可しない。したがって、列車が複数の制御区域間を走行する場合でも安全を確保することができる。さらに、拠点装置間で補助停止限界の伝送を行う必要がないので、拠点装置間の伝送の負荷が軽減される。さらに、車上制御装置は、拠点装置から制御区域の切替位置情報を受け取るので、制御区域に関する拠点DB28を保持する必要もなくなり、車上側の処理やデータの管理が容易になる。
【0083】
(第3の実施形態)
続いて、図1,13〜14を参照して、第3の実施形態に係る列車制御システムについて詳細に説明する。第3の実施形態の列車制御システムは、第1の実施形態のシステムにおける拠点装置が、路線L周辺に設けられた周辺保安装置を制御可能としたものである。以下の説明において、第1の実施形態の列車制御システムと共通する要素には共通の符号を付して示し、重複する説明は省略する。
【0084】
図13に示すように、この実施形態の列車制御システムは、周辺保安装置51〜54をさらに具備している。周辺保安装置51〜54は、路線Lを走行する車両20の安全を確保するために当該路線L沿線や駅舎などに設けられた装置である。周辺保安装置51〜54は、例えば、転てつ装置、踏切制御装置、列車接近警報装置、列車防護スイッチ、転落検知装置、地上子などの装置からなる。周辺保安装置51〜54は、遠隔的に制御可能に構成されており、それぞれ拠点NW11〜NW14に接続されている。拠点装置11〜13は、拠点NW11〜NW14を介して配下の周辺保安装置51〜54を制御することができる。同様に、拠点装置11〜13は、拠点NW11〜NW14を介して配下の周辺保安装置51〜54の動作状態を監視することができる。
【0085】
拠点装置11〜13は、指令所装置40から送られるルート情報114e〜134eに基づき、周辺保安装置51〜54を制御することで車両20を安全に運行させることができる。すなわち、拠点装置11〜13は、各々の制御区域内を走行する車両20に制御指令情報を提供するとともに、ルート情報114e〜134eに基づき周辺保安装置51〜54を制御する機能を有している。また、拠点装置11〜13は、地上NWを介して拠点装置ごとの稼働状況を示す情報を受信し、拠点情報114dとして記憶している。拠点情報114dは、指令所装置40により拠点装置11〜13に配信されるように構成してもよい。さらに、この実施形態では、列車情報114a〜134aは、その拠点装置が管理する車両20の安全の情報だけでなく、路線Lを走行する全車両の情報も管理可能とされている。
【0086】
図14を参照して、この実施形態の列車制御システムにおける拠点装置12が動作を停止した場合の全体動作を説明する。
【0087】
動作を停止した拠点装置12に隣接する拠点装置11および13が当該拠点装置12の動作停止を検知すると、制御指令生成部112および132は、拠点装置12の制御区域のうち拠点装置11および13それぞれが臨時に制御を担当する臨時制御区域を設定し、区域情報114bおよび134bとしてデータベース114および134に記憶する。臨時制御区域の範囲は、予め拠点NW11〜拠点NW14の配置状況等に基づき設定され、テンプレートがデータベース114および134に格納されている。ただし、臨時制御区域を設定したこの段階では、拠点装置12の制御区域内における車両の状況が明らかではないから、拠点装置11および13は、臨時制御区域内の列車20や臨時制御区域内に停止限界が設定されている列車20に対して、制御指令情報の生成を行わない。
【0088】
続いて、拠点装置11および13の識別部111および131は、データベース114および134の列車情報114aおよび134aを参照して、拠点装置11および13それぞれの臨時制御区域内を走行する車両20および臨時制御区域内に停止限界が設定されている車両20のIDとその位置情報を「要在線確認車両リスト」として抽出する。
【0089】
拠点装置11および13の識別部111および131は、通信制御部110および130を介して車両20から送られる信号を受信し、「要在線確認車両リスト」に抽出された車両と照合する。例えば、拠点装置11の識別部111は、拠点NW12を介して受信される臨時制御区域内を走行する車両20からの信号を受信して当該車両20を管理下に置き、制御指令生成部112は、当該車両についての制御指令情報の生成準備を行う。拠点装置11および13がこの要在線確認車両リスト内の全列車の所在を確認できれば、臨時制御区域内の在線把握が漏れなく適切に行われていることになる。拠点装置11が自身の要在線確認車両リストから車両情報を削除できる条件は、「当該車両が自身の列車情報114aに管理下の車両として含まれている」か、あるいは「当該車両が拠点装置13へ「進出済」として含まれている」かのいずれかとなる。拠点装置11および13は、地上NWを介して「進出済」として管理されている車両の情報を交換する。
【0090】
拠点装置11および13は、それぞれ抽出した「要在線確認車両リスト」の全車両の所在を確認できた場合、地上NWを介して確認結果を交換する。この時点で、拠点装置11および13は、自身の臨時制御区域内の在線把握を完了したことになる。
【0091】
指令所装置40の送受信部42が拠点装置12の動作停止を検知すると、ルート管理部44は、拠点装置12が管理していた周辺保安装置52および53について、拠点装置11および13それぞれに管理を移した状態でのルート設定指示を拠点装置11および13に行う。指示を受けた拠点装置11および13の制御指令生成部112および132は、それぞれが臨時に制御する臨時制御区域に対応する周辺保安装置52および53を加味したルートを設定し、データベース114および134のルート情報114eおよび134eを更新する。
【0092】
この時点で、拠点装置11および13は、それぞれの臨時制御区域内を走行する車両20からの受信信号についても制御対象として、制御指令情報の生成および送信を開始する。このとき、通信制御部110および130は、車両20に制御指令情報を送信する際、自己のIDを拠点装置12のIDに置き換えて送信する。これにより、車両20は、拠点装置12の動作の有無に影響されることなく走行を続けることができる。
【0093】
なお、拠点装置12が復旧した場合は、拠点装置11および13が臨時制御区域を解消した後、拠点装置12が拠点NW12およびNW13を介して車両20から受信する情報に基づいて暫定的に列車情報124aを生成し、その後、拠点装置11および13から「進出済」として登録された車両20の情報を転送することで、正常に復帰することができる。なお、地上NWに接続した在線管理装置をさらに設けて全ての拠点装置が把握する情報を収集し、拠点装置の動作停止時に隣接する拠点装置に当該情報を提供するように構成してもよい。
【0094】
このように、第3の実施形態の列車制御システムでは、特定の拠点装置の動作が停止したとしても、拠点NWや地上NWを用いることで動作停止した拠点装置の機能を維持することができる。
【0095】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが,これらの実施形態は,例として提示したものであり,発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は,その他の様々な形態で実施されることが可能であり,発明の要旨を逸脱しない範囲で,種々の省略,置き換え,変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は,発明の範囲や要旨に含まれるとともに,特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0096】
1…列車制御システム、11〜13…拠点装置、20…車両、22…送受信部、24…位置取得部、26…速度制御部、28…拠点データベース、31〜34…複数の基地局、40…指令所装置、42…送受信部、44…ルート管理部、46…ルートデータベース、110・121・131…通信制御部、111・121・131…識別部、112・122・132…制御指令生成部、113・123・133…記憶部、114…データベース。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の制御区域および該第1の制御区域に隣接する第2の制御区域を有する路線上を走行する車両および該車両の位置を含む列車情報を格納したデータベースと、
前記第1および第2の制御区域の境界を挟む区域を走行する前記車両と通信可能な基地局が接続された拠点ネットワークを介して、前記第1の制御区域を走行する対象車両が送信した該対象車両の位置情報を受信する受信部と、
前記データベースの列車情報と前記対象車両の位置情報とに基づいて前記対象車両の停止限界を含む制御指令情報を生成する指令生成部と、
前記拠点ネットワークと接続された前記基地局を介して前記対象車両に前記制御指令情報を送信する送信部と
を具備する制御装置。
【請求項2】
前記受信部は、前記対象車両のIDまたは前記位置情報の少なくともいずれかに基づいて前記受信の要否を判定することを特徴とする請求項1記載の制御装置。
【請求項3】
前記指令生成部は、前記対象車両のIDまたは前記位置情報の少なくともいずれかに基づいて前記生成の要否を判定することを特徴とする請求項1記載の制御装置。
【請求項4】
前記拠点ネットワークは、前記第1および第2の制御区域の境界を挟む区域を走行する前記車両と通信可能な複数の基地局が接続され、
前記送信部は、前記複数の基地局全てを介して前記対象車両に前記制御指令情報を送信することを特徴とする請求項1記載の制御装置。
【請求項5】
第1の制御区域および該第1の制御区域と隣接する第2の制御区域を有する路線上を走行する車両を制御する制御システムであって、
前記第1および第2の制御区域の境界を挟む区域を走行する対象車両と無線通信可能な基地局と、
前記基地局が接続された拠点ネットワークと、
前記拠点ネットワークと接続された前記基地局を介して前記第1の制御区域を走行中の前記対象車両を制御する第1の拠点装置と、
前記拠点ネットワークと接続された前記基地局を介して前記第2の制御区域を走行中の前記対象車両を制御する第2の拠点装置と
を具備する制御システム。
【請求項6】
前記拠点ネットワークは、複数の前記基地局が接続され、
前記第1の拠点装置は、複数の前記基地局全てを介して前記第1の制御区域を走行中の前記対象車両に制御信号を送信することを特徴とする請求項5記載の制御システム。
【請求項7】
前記第1の拠点装置は、複数の前記拠点ネットワークと接続され、該複数の前記拠点ネットワークのうち特定の拠点ネットワークに接続された前記基地局を介して前記第1の制御区域を走行中の前記対象車両を制御することを特徴とする請求項5記載の制御システム。
【請求項8】
前記第1の拠点装置は、前記第2の拠点装置が動作を停止した場合に、前記拠点ネットワークと接続された前記基地局を介して前記第2の制御区域を走行中の前記対象車両を制御することを特徴とする請求項5記載の制御システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2013−52782(P2013−52782A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−192883(P2011−192883)
【出願日】平成23年9月5日(2011.9.5)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】