説明

列車制御装置

【課題】路線に沿って使用されている地上子の共振周波数の種類によらず送信信号を生成して複数の共振周波数を持つ地上子を検出することができるとともに送信する信号を簡単に生成する。
【解決手段】車上装置2の送信部6で単位インパルス信号を生成して地上子3に向けて送信し、受信部7は地上子3からの応答を受信し、受信信号をフーリエ変換して地上子3の有無を判定するとともに受信信号の共振周波数を特定して制御信号を出力して、使用している地上子3の共振周波数に関係なく送信信号を生成することができ、送信信号を簡単に生成することができるとともに異なる共振周波数を有する地上子3を安定して検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、列車の停止位置や踏切制御等の各種制御に使用する地上子を利用した列車制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
地上と列車間で情報を授受するため、特許文献1に示すように、車上装置として車上子の2つのコイルを帰還回路とした増幅器により常時発振周波数をもつ発振回路を設け、走行している列車の車上子がL−C共振回路からなる地上子の上を通り電磁結合したときに、発振回路の常時発振周波数が地上子に設定された共振周波数に変周することを利用して地上子を検出する変周式が使用されている。
【0003】
また、車上装置から地上子の共振周波数に対応した信号を送信し、送信した信号と同期したタイミングで位相検波する位相検波式が従来から実用されている。
【0004】
さらに、特許文献2に示すように、車上装置から複数の地上子の異なる共振周波数に対応した複数の周波数の信号を加算した信号を送信し、車上子が地上子と電磁結合したときに受信した信号をフーリエ変換して地上子の周波数を検出している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記変周式では、異なる共振周波数を有する複数の地上子を検出することはできず、このため既設設備への影響を避けるために特定の区間のみ送信信号を変更するような運用においては情報量の増加に限度があった。
【0006】
また、車上装置から特定の周波数の信号を送信する位相検波式では、地上子の共振周波数のばらつきによる影響を除くことはできないという短所がある。
【0007】
また、車上装置から複数の周波数を加算して送信する構成では、線形性の良好な電力増幅器が必要になりコストが増加するという短所がある。
【0008】
この発明は、このような短所を改善し、路線に沿って使用されている地上子の共振周波数の種類によらず送信信号を生成して複数の共振周波数を持つ地上子を検出することができるとともに送信する信号を簡単に生成して安価なシステムとすることができる列車制御装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明の列車制御装置は、地上装置と列車に搭載された車上装置と車上子を有し、前記地上装置は、異なる共振周波数の共振回路からなり、路線に沿って設けられた複数の地上子を有し、前記車上装置は、送信部と受信部を有し、前記送信部は単位インパルス信号を生成して前記車上子を介して地上に向けて送信し、前記受信部は前記車上子を介して前記地上子からの応答を受信し、受信信号をフーリエ変換して前記地上子の有無を判定するとともに受信信号の共振周波数を特定して制御信号を出力することを特徴とする。
【0010】
前記車上装置の送信部は、繰り返し周期生成部と単位インパルス生成部を有し、前記繰り返し周期生成部は所定周期の繰り返し周期信号を生成し、前記単位インパルス生成部は、前記繰り返し周期生成部から入力する繰り返し周期信号により単位インパルス信号を生成して前記車上子に出力し、前記受信部は、地上子データ記憶部とフーリエ変換部及び相関検出部を有し、前記地上子データ記憶部は前記複数の地上子の設置位置と共振周波数を示す情報が格納され、前記フーリエ変換部は前記地上子からの受信信号を前記繰り返し周期生成部から入力する繰り返し信号により単位インパルス信号と同期してフーリエ変換して周波数スペクトルを算出し、前記相関検出部は前記フーリエ変換部から入力する周波数スペクトルにより前記地上子の有無を判定するとともに入力した周波数スペクトルと前記地上子データ記憶部に記憶した前記地上子の共振周波数との相関をとって地上子を特定し、特定した地上子の共振周波数とその地上子の設置位置を示す情報を前記地上子データ記憶部から抽出して出力することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
この発明は、車上装置で単位インパルス信号を生成して地上子に向けて送信し、地上子からの応答を受信し、受信信号をフーリエ変換して地上子の有無を判定するとともに受信信号の共振周波数を特定して制御信号を出力することにより、使用している地上子の共振周波数に関係なく送信信号を生成することができ、送信信号を簡単に生成することができる。また、異なる共振周波数を有する地上子を安定して検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】この発明の列車制御装置の構成を示すブロック図である。
【図2】車上装置と地上子の構成を示すブロック図である。
【図3】繰り返し周期信号と送信信号及び受信信号を示す波形図である。
【図4】第2の車上装置の構成を示すブロック図である。
【図5】異なる共振周波数の地上子を検出する場合の車上装置と地上子の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は、この発明の列車制御装置の構成を示すブロック図である。図に示すように、列車制御装置は、列車1に搭載した車上装置2と車上子3と、レール4に沿って設けられた複数の地上子5a〜5cを有する。地上子5a〜5cは、図2のブロック図に示すように、異なる共振周波数のL−C共振回路からなり、地上子5aは共振周波数f1を有し、地上子5bは共振周波数f2を有し、地上子5cは共振周波数f3を有する。
【0014】
車上装置2は、図2のブロック図に示すように、送信部6と受信部7及び制御部8を有する。送信部6は繰り返し周期生成部9と単位インパルス生成部10を有する。繰り返し周期生成部9は周期Tの繰り返し周期信号を生成して単位インパルス生成部10と受信部7に出力する。単位インパルス生成部10はトランジスタなどのスイッチング素子を有し、繰り返し周期生成部9から入力する繰り返し周期信号により高出力の単位インパルス信号を生成して送信信号として車上子3の一方のコイル3aに出力する。
【0015】
受信部7は地上子データ記憶部11と増幅器12とフーリエ変換部13及び相関検出部14を有する。地上子データ記憶部11には各地上子5a〜5cの設置位置と共振周波数を示す情報が格納されている。増幅器12は車上子3の他方のコイル3bからの受信信号を入力して増幅してフーリエ変換部13に出力する。フーリエ変換部13は増幅器12から入力する受信信号を繰り返し周期生成部9から入力する繰り返し信号により単位インパルス信号と同期してフーリエ変換して周波数スペクトルを算出して相関検出部14に出力する。相関検出部14はフーリエ変換部13から入力する周波数スペクトルにより地上子5a〜5cの有無を判定するとともに入力した周波数スペクトルと地上子データ記憶部11に記憶した各地上子5a〜5cの共振周波数との相関をとって地上子5a〜5cのいずれかを特定し、特定した地上子5の共振周波数とその地上子5の設置位置を示す情報を地上子データ記憶部11から抽出して制御部8に出力する。
【0016】
制御部8は相関検出部14から入力する共振周波数と地上子5a〜5cの設置位置を示す情報に基づいて列車制御信号を出力する。
【0017】
車上子3の2つのコイル3aとコイル3bの結合を疎にして一方のコイル3から送信する単位インパルス信号が他方のコイル3bに対する影響を低減するようにしている。
【0018】
この車上装置2で列車1が走行しているときに例えば地上子5bを検出する動作を説明する。
【0019】
車上装置2の繰り返し周期生成部9は、図3の波形図に示すように、周期Tの繰り返し周期信号を生成して単位インパルス生成部10とフーリエ変換部13に出力する。この繰り返し周期信号の周期Tは列車1の速度と地上子5bの大きさから求められる地上子5bとの結合時間T0より短い必要があり、繰り返し周期信号の周期Tは地上子5bとの結合時間T0に対して2T<T0が望ましい。
【0020】
単位インパルス生成部10は繰り返し周期生成部9から入力する繰り返し周期信号により高出力の単位インパルス信号を生成して送信信号として車上子3の一方のコイル3aに出力して繰り返し周期Tごとに地上に送信する。
【0021】
列車1が走行して地上子5bの位置に達して車上子3と地上子5aが結合して車上子3のコイル3aから送信している送信信号の単位インパルス信号が地上子5bに送信すると、L−C共振回路からなる地上子5bが共振周波数f2で共振する。この地上子5bの共振による信号を車上子3の他方のコイル3bで受信し、受信信号を増幅器12に出力する。増幅器12は入力した受信信号を増幅してフーリエ変換部13に出力する。フーリエ変換部13は入力した受信信号を繰り返し周期生成部9から入力する周期Tの繰り返し周期信号により単位インパルス信号と同期してフーリエ変換して周波数スペクトルを算出して相関検出部14に出力する。このフーリエ変換するときのサンプリング周波数fs(=1/T)は、検出する地上子5a〜5cのうち最も高い共振周波数の2倍以上とする必要がある。また、フーリエ変換の点数は(サンプリング周波数fs)/(検出する地上子5の周波数分解能)で求められる。相関検出部14は入力した周波数スペクトルにより地上子5bの有無を判定するとともに入力した周波数スペクトルと地上子データ記憶部11に記憶した各地上子5a〜5cの共振周波数との相関をとって地上子5bを特定し、地上子5bの共振周波数f2と地上子5bの設置位置を示す情報を地上子データ記憶部11から抽出して制御部8に出力する。制御部8は入力した地上子5bの情報に基づいて列車制御信号を出力する。
【0022】
このように単位インパルス信号を生成して、使用している地上子5a〜5cの共振周波数に関係なく送信信号を生成するから、送信信号を簡単に生成することができる。また、異なる共振周波数を有する地上子5a〜5cを安定して検出することができる。
【0023】
この車上装置2により地上子5a〜5cを検出する列車制御装置を使用した場合、既存の設備に対する干渉が特に懸念される区間においては、その区間を列車1が通過する間の送信信号の帯域を変更して既存設備の誤動作を防止する。その際には、変更した送信信号によって検出可能な地上子の周波数範囲が制限される。
【0024】
この送信信号の帯域を制限する場合は、図4のブロック図に示すように、送信部6にあらかじめ帯域制限波形データを格納した帯域制限波形データ記憶部15とデータ再生部16と増幅器17及び繰り返し周期生成部9から出力する繰り返し周期信号を単位インパルス生成部10からデータ再生部16に切り換える切換部18を設ける。そして既存の設備に対する干渉が特に懸念される区間では切換部18を単位インパルス生成部10からデータ再生部16に切り換え、データ再生部16で帯域制限波形データ記憶部15に記憶した帯域制限波形データにより繰り返し周期生成部9から出力する周期Tの繰り返し周期信号の帯域を制限した信号を生成し、生成した信号を増幅器17で増幅して送信信号を車上子のコイル3aから地上に送信する。この帯域制限波形データ記憶部15に記憶する帯域制限波形データは車上子3やケーブル等の周波数特性を補正したデータを用いる。また帯域制限波形データは地上子データ記憶部11に記憶した地上子の情報や外部からの条件入力により切り換えると良い。さらに、車上装置2の再起動を行った場合は制限された状態から動作を開始するので、列車制御にかかわる情報は、その制限された範囲の周波数の地上子に割り当てると良い。
【0025】
また、図5のブロック図に示すように、同一位置に設置された複数の共振周波数f2a〜f2nの地上子5ba〜5bnを検出する場合、フーリエ変換部13でフーリエ変換した周波数スペクトルのグラフを複数回微分してグラフの正・負のピークを求めて地上子5ba〜5bnを判定する処理や、地上子5ba〜5bnとの結合時の周波数スペクトルを事前に求めておき、そのデータとの相関を評価する処理を用いると良い。
【0026】
前記説明では車上子3に疎結合した2つのコイル3aとコイル3bを設けた場合について示したが、1つのコイルとハイブリッド回路を組み合わせたり、あるいは受信処理において送信信号の単位インパルス信号を程度に応じて減算して受信信号に対する送信信号の影響を軽減しても良い。
【符号の説明】
【0027】
1;列車、2;車上装置、3;車上子、4;レール、5;地上子、
6;送信部、7;受信部、8;制御部、9;繰り返し周期生成部、
10;単位インパルス生成部、11;地上子データ記憶部、12;増幅器、
13;フーリエ変換部、14;相関検出部、15;帯域制限波形データ記憶部、
16;データ再生部、17;増幅器、18;切換部。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0028】
【特許文献1】特許第29899601号公報
【特許文献2】特開2005−229789号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地上装置と列車に搭載された車上装置と車上子を有し、
前記地上装置は、異なる共振周波数の共振回路からなり、路線に沿って設けられた複数の地上子を有し、
前記車上装置は、送信部と受信部を有し、前記送信部は単位インパルス信号を生成して前記車上子を介して地上に向けて送信し、前記受信部は前記車上子を介して前記地上子からの応答を受信し、受信信号をフーリエ変換して前記地上子の有無を判定するとともに受信信号の共振周波数を特定して制御信号を出力することを特徴とする列車制御装置。
【請求項2】
前記車上装置の送信部は、繰り返し周期生成部と単位インパルス生成部を有し、前記繰り返し周期生成部は所定周期の繰り返し周期信号を生成し、前記単位インパルス生成部は、前記繰り返し周期生成部から入力する繰り返し周期信号により単位インパルス信号を生成して前記車上子に出力し、
前記受信部は、地上子データ記憶部とフーリエ変換部及び相関検出部を有し、前記地上子データ記憶部は前記複数の地上子の設置位置と共振周波数を示す情報が格納され、前記フーリエ変換部は前記地上子からの受信信号を前記繰り返し周期生成部から入力する繰り返し信号により単位インパルス信号と同期してフーリエ変換して周波数スペクトルを算出し、前記相関検出部は前記フーリエ変換部から入力する周波数スペクトルにより前記地上子の有無を判定するとともに入力した周波数スペクトルと前記地上子データ記憶部に記憶した前記地上子の共振周波数との相関をとって地上子を特定し、特定した地上子の共振周波数とその地上子の設置位置を示す情報を前記地上子データ記憶部から抽出して出力することを特徴とする請求項1記載の列車制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−97715(P2011−97715A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−248410(P2009−248410)
【出願日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【出願人】(000001292)株式会社京三製作所 (324)
【Fターム(参考)】