説明

列車扉検出装置

【課題】走行中の鉄道列車の各車両に付属する利用客のための乗降用扉の位置を誤りなく検出する装置を提供する。
【解決手段】走行時の列車を検知する車両検知部401と、動画像カメラのレンズ部203に特定波長の光のみを通過させるバンドパスフィルタ202を付加し、車両の側面を撮影する分光部201と、分光部で得た画像データを演算し、扉内の特定部分の画像を抽出し、予め登録しておいたパターンと一致するか否かを判定し、車両の扉部分の検出を行う扉検出部301と、装置全体を制御する制御部103で構成する。扉範囲内に、着目する物質が特定の形状を伴って存在するか否かで判別を行うため、可視光で撮影した画像を利用する場合の汚れや影などの影響を受けにくく、また、本装置と車両側面との距離特性は利用しないため、車両の振動などによる悪影響はなく、信頼性の高い車両扉検出が可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、列車の各車両に付属する乗客の乗降用扉の数および位置を検出する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道列車車両の扉位置を検出する装置としては、特許文献1に記載のように、列車の側面に記載されている車両番号をカメラで撮影し、得られた画像から文字のパターン認識を行い、その文字情報をキーとして列車編成テーブルを検索することで各車両の特徴情報を得る装置や、特許文献2に記載のように、距離測定センサにて、センサから車両側面までの距離を測定することで、車両側面に対し若干内側に位置する扉部分を検出する装置等が開示されている。
【0003】
【特許文献1】特開平6−239237号公報
【特許文献2】特許第3407952号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
列車の各車両に付属する乗客の乗降用扉の位置を高信頼,高精度に検出する場合、特許文献1記載の技術では、人間が認識できる可視光により車両番号画像を取得する。車両番号部分に付着した汚れや影などの影響で車両番号画像が正常に取得できない場合、車両情報を得られない。また、装置内に番号に対応した車両情報テーブルを持つか、またはネットワークを介して他の端末内の車両情報テーブルを参照する必要がある。
【0005】
更に、特許文献2記載の技術では、センサと車両側面の距離特性を検出するため、車両の振動や、貨物列車等の特殊車両に同様な距離特性があった場合、扉部の誤検出が発生してしまう。本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、車両の扉部を構成する物体の材質そのものの光学的特性を検出することで、信頼性の高い扉位置検出を実現するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は、列車の乗降用扉を検出する車両扉検出装置において、自然光または照明光の照射により車両表面で生じる反射光のうち、単一または複数の特定波長域の光量を検出する手段と、光量を基に特定物質を含む物体の有無を検出する手段と、物体の検出により車両における乗降用扉の位置を検出する手段とを備えたことを特徴とするものである。
【0007】
また、本発明は列車扉検出装置において、単一または複数の特定波長域の光量を検出する手段は、少なくとも1つの特定波長域として770nmから1600nmの範囲内の光を検出することを特徴とするものである。
【0008】
また、本発明は列車扉検出装置において、特定物質を含む物体の有無を検出する手段は、ゴム部材を検出することを特徴とするものである。
【0009】
また、本発明は列車扉検出装置において、特定物質を含む物体の有無を検出する手段は、車両表面に貼付または塗布した部材を検出することを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明は列車扉検出装置において、特定物質を含む物体の有無を検出する手段は、第一の物体における特定波長の反射光量と、第二の物体における特定波長の反射光量との比較により扉の検出を行うことを特徴とするものである。
【0011】
また、本発明は列車扉検出装置において、特定物質を含む物体の有無を検出する手段は、扉または扉周辺に位置するゴムまたはカーボンにおける特定波長の反射光量と、扉または扉周辺に位置する金属または塗料における特定波長の反射光量との比較により扉の検出を行うことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の列車扉検出装置によれば各物質特有の光学的特性を利用して、扉範囲内に特定物質が特定の形状を伴って存在するか否かで検出を行うため、可視光による検出面の撮像で問題となる汚れや影,太陽光や照明光の鏡面反射で生じるハレーション、また、検出装置と車両間の距離特性を検出する場合に問題となる、車両の振動,類似特性部の誤検出などの影響はなく、信頼性の高い車両扉検出装置を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を図面を用いて説明する。
【0014】
以下、本発明の実施例を図1〜図11により説明する。
【0015】
図1は本発明の装置全体の一実施例である。列車101は、矢印方向に走行中の3両編成列車を上側から見た図である。車両扉検出部102は、走行中の列車101の通過時に車両側面を撮影し、各車両の乗降用扉位置を検出する機能である。ホームゲート制御部
103は、駅ホームの安全柵のゲートの開閉を制御する機能であり、乗客の乗降時に、車両扉検出部102からの扉位置情報により、安全柵のゲートの開閉位置と開閉幅を制御する。
【0016】
次に図1の装置全体の動作について説明する。車両扉検出部102は、例えば駅のホームの端部に配置してあり、列車がホームに入ってくると、車両検知部401が列車の先頭部を検知する。制御部501は車両検知信号を受け、分光部201,扉検出部301を起動する。分光部201は列車101の側面からの反射光の受光を開始する。扉検出部301は分光部201からの列車画像データを基に扉の検出を実行する。上記一連の動作を、車両検知部401が列車の後端部の検知終了まで連続して実行する。車両後端部までの扉検出が完了すると、制御部501は分光部201および扉検出部301の動作を停止させる。次に制御部501は扉検出部301からの情報より、各車両の扉数と扉の位置を算定し、ホームゲート制御部103に情報を伝達する。ホームゲート制御部103は各車両の扉の位置に応じてホームゲートの開く位置および幅を制御する。
【0017】
図2に分光部201の一実施例を示す。分光部201は走行中の列車101の側面を順次撮影する機能であり、動画像撮影用カメラで実現できる。フィルタ202は特定波長域の光のみ通過する手段であり、ガラス主成分のバンドパスフィルタで実現できる。
【0018】
図3は分光部201のフィルタ202の一特性例である。フィルタ202aは、500nm近傍の波長の光に対し高い透過率を示す例である。またフィルタ202bは、1000nm近傍の波長の光に対し高い透過率を示す例である。レンズ203は被写体からの反射光を集光する機能であり、ガラス素材のレンズで実現できる。画像センサ部204は、一つの光電変換素子を一画素とすると、例えば縦方向400万画素、横方向640万画素の光電変換素子の集合体で構成され、受光した光量を電荷量に変換し出力する機能であり、CCDイメージセンサで実現できる。AD変換部205は、画像センサ部204が出力する全ての光電変換素子のアナログ電圧出力を1素子ずつ順番にデジタル信号に変換する機能であり、半導体のAD変換器で実現できる。光源206は車両撮影用の光源であり、車両扉検出のための反射光を得るために夜間や雨天等、太陽光の得られない場合に点灯する機能であり、ハロゲン電球や、乗降客に眩しくないよう、人間の目では知覚できない近赤外線光源等を用いて実現できる。上記の構成により、分光部201では、車両の側面から太陽光または光源206の反射光をフィルタ202で受光し、特定の波長領域の反射光のみをレンズ203を介して画像センサ部204に集光する。画像センサ部204では光電変換を行い、AD変換器205にてデジタルデータに変換し、扉検出部301に出力する。
【0019】
図4に扉検出部301の一実施例を示す。扉検出部301は分光部201から入力した車両の画像情報を基に車両扉の位置を検出する手段である。画像メモリ302aおよび
302bは、分光部201aおよび201bから入力された画像データを格納する機能であり、半導体メモリで実現できる。画像メモリ302aには、図3のフィルタ特性202aで示される500nmの波長の反射光で取得した画像が格納される。また画像メモリ302bには、図3のフィルタ特性202bで示される1000nmの波長の反射光で取得した画像が格納される。
【0020】
図9の左側の図は、画像メモリ302に格納された画像データの一例で、車両扉の左右の扉の間にゴムのスペーサが露出している例である。また図9の右側の図は、画像メモリ302に格納された別の画像データの例で、扉間にゴムスペーサの露出のない車両扉の左右の扉にカーボン製のラベルを貼付した例である。
【0021】
また、図6は、左から扉の塗装面,アルミ面,ゴムスペーサ,カーボン製ラベルのそれぞれ500nmと1000nmの波長光での反射率特性の例である。以上より、画像メモリ302aと302bに格納される画像は、図9に示すように、形状は同一であるが、図6の特性より各部分の濃度はそれぞれ異なる画像が格納される。
【0022】
図4において、除算部303は画像メモリ302aの各画素のデータを、302bに格納された同一画素位置のデータで除算を行う。出力として、例えば除算結果が1以上であれば“1”を出力し、1未満であれば“0”を出力する機能であり、CPUプログラムである除算命令とその商の整数値を出力することで実現できる。例えば、車両扉の塗装表面,アルミ面,扉間のゴムスペーサ部およびカーボン塗布ラベルのそれぞれ500nmおよび1000nmの光の反射率が図6に示すようであった場合、それぞれの500nmの反射率を1000nmの反射率で除した値は図7のようになる。その結果、除算部303の出力は、塗装表面,アルミ面では“0”を、ゴムスペーサ部およびカーボン塗布ラベルでは“1”を出力する。結果メモリ304は、除算部303で得られた出力を格納する領域であり、半導体メモリで実現できる。
【0023】
図10に、図9の画像を除算部303で処理し、結果メモリ304に格納したデータ出力例を示す。“1”を黒で、“0”を白で示した場合、ゴムスペーサ部分および、カーボンラベル部分のみが“1”として出力される。パターン検出部305は、結果メモリ内のデータから、予め登録しておいたパターンと、結果メモリ内の“1”の集合体の形状を照合し、登録パターンと一致か否かを出力する機能であり、CPUにて、予め基準パターンメモリ306に格納しておいた基準パターンと比較し、一致度を調べるパターンマッチングプログラムを実行することで実現できる。なお基準パターンメモリ306は半導体メモリで実現できる。
【0024】
図5は扉検出部301の別の実施例であり、分光部201bからの入力データを用い検出を行う例である。図中302b,304〜306は図4の実施例と同一機能である。判定しきい値部307は画像メモリ302b内の画像データを一画素ごとに2値化するための基準値を生成する機能であり、例えば画像メモリ内の全データの最大値に、定数(例えば0.5 )を乗じた値を判定しきい値として生成する。例えば、車両扉の塗装表面,アルミ面,扉間のゴムスペーサ部およびカーボンラベルのそれぞれ500nmおよび1000
nmの光の反射率が図6に示すようであった場合、最大値であるアルミ反射率の1/2を判定しきい値とすると図8のようになる。その結果として比較部308の出力は、塗装表面,アルミ面では“0”を、ゴムスペーサ部およびカーボンラベルでは“1”を出力する。そして結果メモリ304の格納されるデータは図4の実施例同様に図10に示す結果と同様になる。
【0025】
図11に車両検知部401の一実施例を示す。車両検知部401は列車の先端部,後端部および車両間の連結部を検出する機能である。図11において、投光部402は検知光を対象物に投射する機能であり、赤色発光ダイオードで実現できる。光検知部403は対象物による反射光を検知する機能であり、光電変換素子であるフォトダイオードで実現できる。車両側面部404は車両を前方向から見た断面図である。車両連結部405は車両の連結部を前方向から見た断面図である。次に動作を説明する。最初に、車両検知部401の前に車両が存在しない場合、投光部402より投射した光S0は直進し、光検知部403で反射光を検出しない。次に、車両連結部405が車両検知部401の前面にある場合、投光部402より投射した光S1は車両連結部405で反射光R1として反射するが光検知部403と異なる位置に到達し、光検知部403で検知しない。そして、車両側面部404が車両検知部401の前にある場合、投光部402より車両側面部404に投射された光S2は車両側面部404で反射し、反射光R2として光検知部403に入射する。この結果、光検知部403は、列車を構成する各車両が前にある期間、反射光R2を検出し、車両検知信号を制御部501に出力することで、車両の存在および各車両の長さを検出できる。
【0026】
また、図1において、制御部501は車両検知部401からの検知信号により、分光部201,扉検出部301に対し動作の開始および停止の指令を出すこと、および扉検出部からの検出信号を受け、ホームゲート制御103に車両扉の位置を通知する機能であり、CPUおよびプログラムの制御動作で実現できる。
【0027】
以上示したように本発明の列車扉検出装置によれば各物質特有の光学的特性を利用して、扉範囲内に特定物質が特定の形状を伴って存在するか否かで検出を行うことが可能なため、可視光による撮像で問題となる汚れや影,ハレーション、また、検出装置と車両間の距離特性を検出する場合に問題となる、車両の振動,類似特性部の誤検出などの影響はなく、信頼性の高い車両扉検出装置を実現できるものである。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明は、列車の各車両に付属する乗客の乗降用扉の数および位置を検出する装置に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】車両扉検出装置の実現方法を示した説明図。
【図2】分光部の実現方法を示した説明図。
【図3】フィルタの光学特性を示した説明図。
【図4】扉検出部の一実現方法を示した説明図。
【図5】扉検出部の別の実現方法を示した説明図。
【図6】扉構成部品の分光特性を示した説明図。
【図7】除算部での処理結果を示した説明図。
【図8】比較部での処理結果を示した説明図。
【図9】画像メモリの格納データを示した説明図。
【図10】結果メモリの格納データを示した説明図。
【図11】車両検知部の一実施例を示した説明図。
【符号の説明】
【0030】
101…列車、102…車両扉検出部、103…ホームゲート制御部、201…分光部、202…フィルタ、203…レンズ、204…画像センサ部、205…AD変換部、
301…扉検出部、302…画像メモリ、303…除算部、304…結果メモリ、305…パターン検出部、306…基準パターンメモリ、307…判定しきい値部、308…比較部、401…車両検知部、402…投光部、403…光検知部、404…車両側面部、405…車両連結部。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
列車の乗降用扉を検出する車両扉検出装置において、
自然光または照明光の照射により車両表面で生じる反射光のうち、単一または複数の特定波長域の光量を検出する手段と、
前記光量を基に特定物質を含む物体の有無を検出する手段と、
前記物体の検出により車両における乗降用扉の位置を検出する手段とを備えたことを特徴とする列車扉検出装置。
【請求項2】
請求項1の列車扉検出装置において、
単一または複数の特定波長域の光量を検出する手段は、少なくとも1つの特定波長域として770nmから1600nmの範囲内の光を検出することを特徴とする列車扉検出装置。
【請求項3】
請求項1の列車扉検出装置において、
特定物質含む物体の有無を検出する手段は、ゴム部材を検出することを特徴とする列車扉検出装置。
【請求項4】
請求項1の列車扉検出装置において、
特定物質含む物体の有無を検出する手段は、車両表面に貼付または塗布した部材を検出することを特徴とする列車扉検出装置。
【請求項5】
請求項1の列車扉検出装置において、
特定物質含む物体の有無を検出する手段は、第一の物体における特定波長の反射光量と、第二の物体における特定波長の反射光量との比較により扉の検出を行うことを特徴とする列車扉検出装置。
【請求項6】
請求項1の列車扉検出装置において、
特定物質含む物体の有無を検出する手段は、扉または扉周辺に位置するゴムまたはカーボンにおける特定波長の反射光量と、扉または扉周辺に位置する金属または塗料における特定波長の反射光量との比較により扉の検出を行うことを特徴とする列車扉検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−45196(P2007−45196A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−229004(P2005−229004)
【出願日】平成17年8月8日(2005.8.8)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】