説明

制動装置

【課題】ピン導入孔と対向する位置で前記ピン導入孔の軸線に対して交差する方向に障害壁があった場合であっても、連結ピンを容易に取り出すこと。
【解決手段】初動装置A1は、リザーバ3を連結するスプリングピン3fが挿入されるピン導入孔30が形成された連結部13cと、マスタシリンダに一体的に隣接して前記マスタシリンダの基体10に取り付けられる部品が装着されるハウジング取付部14に設けられて、ピン導入孔30の軸線に対して直交(交差)する方向に延在する対向部14aとを有し、前記対向部14aには、前記ピン導入孔30の軸方向に逃げ部38が設けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、車両用ブレーキシステム等に組み込むことが可能な制動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術として、例えば、特許文献1には、ブレーキ液を貯溜するリザーバをマスタシリンダに対して取り付けるための構造が開示されている。この特許文献1に開示された取付構造では、リザーバ本体の下方に設けられた2つの横方向取付ラグに対して同軸状の穴を形成し、マスタシリンダの中央取付ラグ及びこの同軸状の穴に対して取付ピンを貫通させることで、マスタシリンダに対してリザーバを取り付けている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−153328号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、マスタシリンダの中央取付ラグの近傍部位において、例えば、同軸状の穴を通る軸線と直交する方向に邪魔となる障害壁(対向部)がある場合、同軸状の穴に対して取り付けられた取付ピンを押し出したときに前記取付ピンと障害壁とが干渉し、同軸状の穴から取付ピンを取り出すことが困難となる。
【0005】
この場合、同軸状の穴に対して取り付けられた取付ピンを入れた方向から引き抜くことも可能であるが、押し出し作業と比較して取付ピンの引き抜き作業が煩雑となる。
【0006】
本発明は、前記の点に鑑みてなされたものであり、ピン導入孔と対向する位置で前記ピン導入孔の軸線に対して交差する方向に障害壁があった場合であっても、連結ピンを容易に取り出すことが可能な制動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の目的を達成するために、本発明は、ブレーキ液を貯溜するリザーバと、ブレーキ操作子の操作によってブレーキ液圧を発生させるマスタシリンダとを備える制動装置において、前記マスタシリンダの基体は、前記リザーバを連結する連結ピンが挿入されるピン導入孔が形成された連結部と、前記マスタシリンダに一体的に隣接して前記マスタシリンダの基体に取り付けられる部品が装着される取付部に設けられて、前記ピン導入孔の軸線に対して交差する方向に延在する対向部とを有し、前記対向部には、前記ピン導入孔の軸方向に逃げ部が設けられることを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、例えば、治具等によって連結ピンを対向部側に取り出そうとしたとき、前記対向部にピン導入孔の軸方向に逃げ部が設けられているため、連結ピンが対向部と干渉することがなく前記連結ピンをピン導入孔から容易に取り出すことができる。
【0009】
また、取付部は、部品を覆うハウジングを取り付けるためのハウジング取付部であるとよい。
【0010】
このように構成することにより、マスタシリンダの基体に設けられたハウジング取付部を連結部の近くに配置し、基体の小型化を図ったような場合であっても、逃げ部を介して容易に連結ピンを取り出すことができる。すなわち、マスタシリンダの基体にハウジング取付部を設けた場合であっても、制動装置全体の小型・軽量化を図りつつも連結ピンの取り外し作業を容易に行うことができる。
【0011】
さらに、ピン導入孔の対向部側の開口端から逃げ部の底部までの離間距離を、連結ピンの軸方向に沿った全長よりも大きく設定するとよい。
【0012】
このように構成することにより、ピン導入孔から押し出された連結ピンが逃げ部と干渉することがなく、容易に連結ピンを取り出すことができる。
【0013】
さらにまた、連結部の対向部に対向する側面は、連結部の先端側に向かうにしたがって対向部から離れるように傾斜して形成されるとよい。
【0014】
このように構成することにより、連結ピンを取り出すためには、連結部の先端側におけるピン導入孔の開口端から逃げ部までの離間距離を確保しておけばよく、連結部の対向部に対向する側面を傾斜させることで、離間距離を確保しやすくすることができる。
【0015】
さらにまた、対向部と反対側のピン導入孔の開口部に、対向部側の開口に向かうにしたがって徐々に縮径するテーパ面が設けられるとよい。
【0016】
このように構成することにより、連結部のピン導入孔に対して連結ピンをガイドしながら容易に導入することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明では、ピン導入孔と対向する位置で前記ピン導入孔の軸線に対して交差する方向に障害壁があった場合であっても、連結ピンを容易に取り出すことが可能な制動装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態に係る制動装置が組み込まれた車両用ブレーキシステムの概略構成図である。
【図2】図1の制動装置を後方側から見た分解斜視図
【図3】図1の制動装置を前方側から見た斜視図である。
【図4】(a)は、連結部のピン導入孔内にスプリングピンが挿入されてリザーバが固定された状態を示す部分拡大縦断面図、(b)は、(a)の状態からスプリングピンが逃げ部側に押し出された状態を示す部分拡大縦断面図、(c)は、連結部の拡大縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、本発明の実施形態に係る制動装置が組み込まれた車両用ブレーキシステムの概略構成図、図2は、図1の制動装置を後方側から見た分解斜視図、図3は、図1の制動装置を前方側から見た斜視図である。
【0020】
図1に示す車両用ブレーキシステムAは、原動機(エンジンやモータ等)の起動時に作動するバイ・ワイヤ(By Wire)式のブレーキシステムと、非常時や原動機の停止時などに作動する油圧式のブレーキシステムの双方を備えるものであり、ブレーキペダル(ブレーキ操作子)Pの踏力によってブレーキ液圧を発生させる初動装置(制動装置)A1と、電動モータ(図示略)を利用してブレーキ液圧を発生させるモータシリンダ装置A2と、車両挙動の安定化を支援するビークルスタビリティアシスト装置A3(以下「液圧制御装置A3」という。)とを備えている。初動装置A1、モータシリンダ装置A2および液圧制御装置A3は、別ユニットとして構成されており、外部配管を介して連通している。
【0021】
車両用ブレーキシステムAは、エンジン(内燃機関)のみを動力源とする自動車のほか、モータを併用するハイブリッド自動車やモータのみを動力源とする電気自動車・燃料電池自動車などにも搭載することができる。
【0022】
初動装置A1は、タンデム式のマスタシリンダ1と、ストロークシミュレータ2と、リザーバ3と、常開型遮断弁4、5と、常閉型遮断弁6と、圧力センサ7、8と、メイン液圧路9a、9bと、連絡液圧路9c、9dと、分岐液圧路9eとを備えている。
【0023】
マスタシリンダ1は、ブレーキペダルPの踏力をブレーキ液圧に変換するものであり、第一シリンダ穴11aの底壁側に配置された第一ピストン1aと、プッシュロッドに接続された第二ピストン1bと、第一ピストン1aと第一シリンダ穴11aの底壁との間に配置された第一リターンスプリング1cと両ピストン1a、1bの間に配置された第二リターンスプリング1dとを備えている。第二ピストン1bは、プッシュロッドを介してブレーキペダルPに連結されている。両ピストン1a、1bは、ブレーキペダルPの踏力を受けて摺動し、圧力室1e、1f内のブレーキ液を加圧する。圧力室1e、1fは、メイン液圧路9a、9bに通じている。
【0024】
ストロークシミュレータ2は、擬似的な操作反力を発生させるものであり、第二シリンダ11b内を摺動するピストン2aと、ピストン2aを付勢する大小二つのリターンスプリング2b、2cとを備えている。ストロークシミュレータ2は、メイン液圧路9a及び分岐液圧路9eを介して圧力室1eに通じており、圧力室1eで発生したブレーキ液圧によって作動する。
【0025】
リザーバ3は、ブレーキ液を貯溜する、例えば、樹脂製の容器であり、マスタシリンダ1に接続される給油口3a、3bと、メインリザーバ(図示略)から延びるホースが接続される管接続口3cとを備えている。
【0026】
常開型遮断弁4、5は、メイン液圧路9a、9bを開閉するものであり、いずれもノーマルオープンタイプの電磁弁からなる。一方の常開型遮断弁4は、メイン液圧路9aと分岐液圧路9eとの交差点からメイン液圧路9aと連絡液圧路9cとの交差点に至る区間においてメイン液圧路9aを開閉する。他方の常開型遮断弁5は、メイン液圧路9bと連絡液圧路9dとの交差点よりも上流側においてメイン液圧路9bを開閉する。
【0027】
常閉型遮断弁6は、分岐液圧路9eを開閉するものであり、ノーマルクローズタイプの電磁弁からなる。
【0028】
圧力センサ7、8は、ブレーキ液圧の大きさを検知するものであり、メイン液圧路9a、9bに通じるセンサ装着穴(図示略)に装着されている。一方の圧力センサ7は、常開型遮断弁4よりも下流側に配置されており、常開型遮断弁4が閉じられた状態(=メイン液圧路9aが遮断された状態)にあるときに、モータシリンダ装置A2で発生したブレーキ液圧を検知する。他方の圧力センサ8は、常開型遮断弁5よりも上流側に配置されており、常開型遮断弁5が閉じられた状態(=メイン液圧路9bが遮断された状態)にあるときに、マスタシリンダ1で発生したブレーキ液圧を検知する。圧力センサ7、8で取得された情報は、図示せぬ電子制御ユニット(ECU)に出力される。
【0029】
メイン液圧路9a、9bは、マスタシリンダ1を起点とする液圧路である。メイン液圧路9a、9bの終点である出力ポート15a、15bには、液圧制御装置A3に至る管材Ha、Hbが接続されている。
【0030】
連絡液圧路9c、9dは、入力ポート15c、15dからメイン液圧路9a、9bに至る液圧路である。入力ポート15c、15dには、モータシリンダ装置A2に至る管材Hc、Hdが接続されている。
【0031】
分岐液圧路9eは、一方のメイン液圧路9aから分岐し、ストロークシミュレータ2に至る液圧路である。
【0032】
初動装置A1は、管材Ha、Hbを介して液圧制御装置A3に連通しており、常開型遮断弁4、5が開弁状態にあるときにマスタシリンダ1で発生したブレーキ液圧は、メイン液圧路9a、9b及び管材Ha、Hbを介して液圧制御装置A3に入力される。
【0033】
モータシリンダ装置A2は、ブレーキペダル(ブレーキ操作子)Pの操作量に対応して駆動される電動モータ(電動機)によってスレーブピストンを変位させてブレーキ液圧を発生させるものであり、スレーブシリンダ内を摺動するスレーブピストンと、電動モータ及び駆動力伝達部を有するアクチュエータ機構と、スレーブシリンダ内にブレーキ液を貯溜するリザーバとを備えている。電動モータは、図示せぬ電子制御ユニットからの信号に基づいて作動する。駆動力伝達部は、電動モータの回転駆動力を進退運動に変換したうえでスレーブピストンに伝達する。スレーブピストンは、電動モータの駆動力を受けてスレーブシリンダ内を摺動し、スレーブシリンダ内のブレーキ液を加圧する。モータシリンダ装置A2で発生したブレーキ液圧は、管材Hc、Hdを介して初動装置A1に一旦、入力され、連絡液圧路9c、9d及び管材Ha、Hbを介して液圧制御装置A3に対して出力される。リザーバには、メインリザーバ(図示略)から延びるホースが接続される。
【0034】
液圧制御装置A3は、車輪のスリップを抑制するアンチロックブレーキ制御(ABS制御)、車両の挙動を安定化させる横滑り制御やトラクション制御などを実行し得るような構成を具備しており、管材を介してホイールシリンダW、W、…に接続されている。なお、図示は省略するが、液圧制御装置A3は、電磁弁やポンプ等が設けられた液圧ユニット、ポンプを駆動するためのモータ、電磁弁やモータ等を制御するための電子制御ユニットなどを備えている。
【0035】
次に車両用ブレーキシステムAの動作について概略説明する。
車両用ブレーキシステムAが正常に機能する正常時には、常開型遮断弁4、5が弁閉状態となり、常閉型遮断弁6が弁開状態となる。かかる状態でブレーキペダルPを操作すると、マスタシリンダ1で発生したブレーキ液圧は、ホイールシリンダWに伝達されずにストロークシミュレータ2に伝達され、ピストン2aが変位することにより、ブレーキペダルPのストロークが許容されると共に、擬似的な操作反力がブレーキペダルPに付与される。
【0036】
また、図示しないストロークセンサ等によってブレーキペダルPの踏み込み量(ストローク量)が検知されると、モータシリンダ装置A2の電動モータが駆動され、スレーブピストンが変位することによりスレーブシリンダ内のブレーキ液が加圧される。図示せぬ電子制御ユニットは、モータシリンダ装置A2から出力されたブレーキ液圧(圧力センサ7で検知されたブレーキ液圧)とマスタシリンダ1から出力されたブレーキ液圧(圧力センサ8で検知されたブレーキ液圧)とを対比し、その対比結果に基づいて電動モータの回転速度等を制御する。
【0037】
モータシリンダ装置A2で発生したブレーキ液圧は、液圧制御装置A3を介してホイールシリンダW、W、…に伝達され、各ホイールシリンダWが作動することにより各車輪に制動力が付与される。
【0038】
なお、モータシリンダ装置A2が作動しない状況(例えば、電力が得られない場合や非常時など)においては、常開型遮断弁4、5がいずれも弁開状態となり、常閉型遮断弁6が弁閉状態となるので、マスタシリンダ1で発生したブレーキ液圧は、ホイールシリンダW、W、…に伝達されるようになる。
【0039】
次に、初動装置A1の具体的な構造を説明する。
本実施形態の初動装置A1は、前記の各種部品を図2の基体10の内部あるいは外部に組み付けると共に、電気によって作動する電気部品(部品)(常開型遮断弁4、5、常閉型遮断弁6及び圧力センサ7、8)をハウジング20で覆うことによって形成されている。
【0040】
基体10は、アルミニウム合金製の鋳造品であり、シリンダ部11と、車体固定部12と、リザーバ取付部13と、ハウジング取付部(取付部)14と、配管接続部15とを備えている。また、基体10の内部には、メイン液圧路9a、9bや分岐液圧路9eとなる孔(図示略)などが形成されている。
【0041】
シリンダ部11には、マスタシリンダ1用の第一シリンダ穴11aと、ストロークシミュレータ2用の第二シリンダ穴11bとが形成されている。両シリンダ穴11a、11bは、いずれも有底円筒状であり、車体固定部12に開口すると共に、配管接続部15に向けて延在している。第一シリンダ穴11aには、マスタシリンダ1(図1参照)を構成する部品(第一ピストン1a、第二ピストン1b、第一リターンスプリング1c及び第二リターンスプリング1d)が挿入され、第二シリンダ穴11bには、ストロークシミュレータ2を構成する部品(ピストン2a及びリターンスプリング2b、2c)が挿入される。
【0042】
車体固定部12は、例えば、トーボードなどの車体構成要素に固定される部位であり、基体10の後面部に形成されている。車体固定部12は、フランジ状を呈している。車体固定部12の周縁部(シリンダ部11から張り出した部分)には、ボルト挿通孔12a、12a、…が形成されている。
【0043】
リザーバ取付部13は、リザーバ3の取付座となる部位であり、基体10の上面部に形成されている。リザーバ取付部13には、二つのリザーバユニオンポート13a、13bと、連結部13cとが形成されている。リザーバユニオンポート13a、13bは、いずれも円筒状を呈しており、シリンダ部11の上面に突設されている。リザーバユニオンポート13a、13bは、その底面から第一シリンダ穴11aに向かって延びる孔を介して第一シリンダ穴11aと連通している。
【0044】
リザーバユニオンポート13a、13bには、図示しないシール部材を介して、リザーバ3の給油口3a、3b(図1参照)が接続され、リザーバユニオンポート13a、13bの上端には、リザーバ3の容器本体が載置される。連結部13cは、リザーバユニオンポート13a、13bの間に形成されている。
【0045】
連結部13cは、シリンダ部11の上面に突設されており、ハウジング取付部14の上端部と対向している。連結部13cには、リザーバユニオンポート13a、13bの直列配置方向と略直交する方向に貫通するピン導入孔30が形成されている。ピン導入孔30には、基体10の上面に対してリザーバ3を固定するためのスプリングピン(連結ピン)3fが圧入される。なお、スプリングピン3fは、後記で詳細に説明する。さらに、連結部13cの対向部14aに対向する側面42は、連結部13cの先端側に向かうにしたがって対向部14aから離れるように傾斜して形成される(図4(c)参照)。
【0046】
リザーバ3は、給油口3a、3b(図1参照)のほか、図2に示すように、管接続口3cと、一対の連結用脚部3dとを備えている。管接続口3cは、ブレーキ液(ブレーキフルード)を貯溜する容器本体3eから前方に向けて突出している。管接続口3cには、メインリザーバ(図示略)から延びるホースが接続される。
【0047】
一対の連結用脚部3dは、容器本体3eの下面に所定間隔離間して突設され、スプリングピン3fが圧入されるピン取付孔32がそれぞれ形成されている。一対の連結用脚部3dは、リザーバ取付部13の連結部13cの両側に跨って装着され(図4(a)参照)、連結部13cを間に挟んで対向する。スプリングピン3fがピン取付孔32及びピン導入孔30をそれぞれ貫通することによって、リザーバ3(一対の連結用脚部3d)が連結部13cに固定される。
【0048】
このスプリングピン3fは、平板状の金属製部材を断面略C字状に曲げ加工された略中空円筒状部材によって構成される。スプリングピン3fは、軸方向に沿って延在するスリット34と、軸方向に沿った両端面の外径稜線部を面取りして形成された面取り部36とを有する。スプリングピン3fがピン取付孔32及びピン導入孔30に対して挿入された際、スリット34が閉じて縮径することにより原形状に復帰(拡径)しようとするばね力が作用し、基体10に対するリザーバ3の固定力を増大させることができる。また、面取り部36を形成することにより、ピン取付孔32及びピン導入孔30に対して容易に挿入することができる。なお、スプリングピン3fを、中実円柱状部材からなるピンによって構成してもよい。
【0049】
基体10の上面で連結部13cに近接する部位には、ハウジング取付部14の一部(上端部;対向部14a)が配置されている。対向部14aは、マスタシリンダ1に一体的に隣接してマスタシリンダ1の基体10に取り付けられる電気部品(常開型遮断弁4、5、常閉型遮断弁6及び圧力センサ7、8)が装着されるハウジング取付部(取付部)14に設けられて、連結部13cまでの離間距離(D)がスプリングピン3fの軸方向の全長Tよりも短い位置(D<T)においてピン導入孔30の軸線X(図4(a)参照)に対して直交(交差)する方向に延在するように設けられる(図4(b)参照)。また、対向部14aは、ピン導入孔30と対向する位置に設けられる。この対向部14aは、例えば、比較的厚肉に形成されたフランジ部からなり、対向部14aのピン導入孔30と対向する部位には、ピン導入孔30から押し出されるスプリングピン3fを、ピン導入孔30から取り出すための逃げ部38が設けられる。逃げ部38は、ピン導入孔30の軸方向(軸線X方向)に設けられ、対向部14aの一部を上面側から切り欠いて形成された窪み状の切欠部(凹部)である。逃げ部38には、ピン導入孔30から押し出されるスプリングピン3fの先端部が一時的に収容される。
【0050】
なお、本実施形態では、逃げ部38として切欠部を例示しているが、これに限定されるものではなく、例えば、逃げ部38の底部38aを残存させることがなく、ピン導入孔30の軸線に沿って貫通する凹部によって形成してもよいし、又は、対向部14aの側壁間をピン導入孔30の軸線に沿って貫通する貫通孔によって形成してもよい。また、逃げ部38として機能する切欠部は、例えば、鋳造成形の鋳型や切削加工等によって形成される。
【0051】
また、図4(b)に示すように、スプリングピン3fが押し出されるピン導入孔30の対向部14a側の開口端から逃げ部38の底部38a(連結部13cに対向する面)までの離間距離Dは、スプリングピン3fの軸方向に沿った全長Tよりも大きく設定される(D>T)。
【0052】
スプリングピン3fが導入される側のピン導入孔30の開口部には、図4(c)に示すように、ピン押し出し側に向かって徐々に縮径するテーパ面40が設けられる。本実施形態では、対向部14aが、ハウジング20を取り付けるためのハウジング取付部14の上端部として形成されているが、これに限定されるものではなく、ピン導入孔30と対向する位置に設けられピン導入孔30の軸線に対して交差する方向に延在する壁部等の障害部(邪魔部材)であればよい。
【0053】
ハウジング取付部14は、電気部品(常開型遮断弁4、5、常閉型遮断弁6及び圧力センサ7、8)を覆うハウジング20を取り付けるための取付座となる部位であり、基体10の側面部に形成されている。ハウジング取付部14は、図3に示すように、フランジ状を呈している。ハウジング取付部14の上端部(対向部14a)及び下端部は、シリンダ部11の上下に張り出している。ハウジング取付部14の上端部及び下端部(シリンダ部11から張り出した部分)には、雌ネジが形成されている。図示は省略するが、ハウジング取付部14には、三つの弁装着穴と二つのセンサ装着穴とが形成されている。三つの弁装着穴には、常開型遮断弁4、5及び常閉型遮断弁6(図1参照)が組み付けられ、二つのセンサ装着穴には、圧力センサ7、8(図1参照)が組み付けられる。
【0054】
配管接続部15は、管取付座となる部位であり、基体10の前面部に形成されている。配管接続部15には、二つの出力ポート15a、15bと、二つの入力ポート15c、15dが形成されている。出力ポート15a、15bには、液圧制御装置A3に至る管材Ha、Hb(図1参照)が接続され、入力ポート15c、15dには、モータシリンダ装置A2に至る管材Hc、Hd(図1参照)が接続される。
【0055】
ハウジング20は、基体10のハウジング取付部14に組み付けられた電気部品(常開型遮断弁4、5、常閉型遮断弁6及び圧力センサ7、8)を液密に覆うハウジング本体21と、ハウジング本体21の周囲に形成されたフランジ部22と、ハウジング本体21に突設された二つのコネクタ23、24とを備えている。
【0056】
ハウジング本体21の内部には、図示は省略するが、常開型遮断弁4、5及び常閉型遮断弁6を駆動するための電磁コイルが収容されているほか、電磁コイルや圧力センサ7、8に至るバスバーなどが収容されている。
【0057】
フランジ部22は、ハウジング取付部14に圧着される部位である。フランジ部22には、ハウジング取付部14の雌ネジに合わせてネジ挿通孔が形成されている。
【0058】
コネクタ23、24は、いずれも筒状であり、ハウジング本体21の前面に突設されている。コネクタ23、24には、電磁コイルに通じるケーブルと、圧力センサ7、8に通じるケーブルとが接続される。
【0059】
図4(a)は、連結部のピン導入孔内にスプリングピンが挿入されてリザーバが固定された状態を示す部分拡大縦断面図、図4(b)は、図4(a)の状態からスプリングピンが逃げ部側に押し出された状態を示す部分拡大縦断面図、図4(c)は、連結部の拡大縦断面図である。
【0060】
連結部13cのピン導入孔30内にスプリングピン3fが圧入されてリザーバ3が固定された状態(図4(a)参照)において、リザーバ3を交換する場合には、先ず、例えば、図示しない治具等を用いてスプリングピン3fを逃げ部38側に水平方向に沿って押圧する。治具の押圧力によってピン導入孔30から押し出されたスプリングピン3fは、ピン導入孔30と対向する位置に設けられた対向部(ハウジング取付部)14に逃げ部38が設けられているためスプリングピン3fの先端部が逃げ部38内に一時的に収容される。この結果、スプリングピン3fが対向部(ハウジング取付部)14と干渉することがなく、スプリングピン3fをピン導入孔30から容易に取り出すことができる(図4(b)参照)。
【0061】
また、本実施形態では、ハウジング20を取り付けるためのハウジング取付部14の一部(上端部)を対向部14aとしているので、ハウジング取付部14がピン導入孔30の軸線に対して直交する方向に障害壁となるような場合であっても、逃げ部38を介して容易にスプリングピン3fを取り出すことができる。また、マスタシリンダ1にハウジング取付部14を一体的に設けることが可能となり、ハウジング20をマスタシリンダ1と別体で構成した場合と比較して、初動装置A1全体を小型・軽量化することができる。
【0062】
さらに、本実施形態では、ピン導入孔30の対向部14a側の開口端から逃げ部38の底部38aまでの離間距離Dを、スプリングピン3fの軸方向に沿った全長Tよりも大きく設定することにより(図4(b)参照)、ピン導入孔30から押し出された連結ピン3fが逃げ部38と干渉することがなく、容易にスプリングピン3fを取り出すことができる。
【0063】
さらにまた、本実施形態では、連結部13cの対向部14aに対向する側面42が、連結部13cの先端側に向かうにしたがって対向部14aから離れるように傾斜して形成される(図4(c)参照)。すなわち、スプリングピン3fをピン導入孔30から取り出すためには、連結部13cの先端側におけるピン導入孔30の開口端から逃げ部38までの離間距離Dを確保しておけばよく、連結部13cの対向部14aに対向する側面42を傾斜させることで、離間距離Dを確保しやすくすることができる。なお、本実施形態では、図4(b)に示すように、連結部13cの側面42と対向する逃げ部38の底面38aも同様に傾斜して形成されることで、より一層、スプリングピン3fの取り出し容易性を増大させることができる。
【0064】
さらにまた、本実施形態では、スプリングピン3fが挿入される側のピン導入孔30の開口部に、反対側の開口(ピン押し出し側)に向かうにしたがって徐々に縮径するテーパ面40が設けられることにより(図4(c)参照)、連結部13cのピン導入孔30に対してスプリングピン3fをガイドしながら容易且つ円滑に導入することができる。
【0065】
さらにまた、本実施形態では、スプリングピン3fを押し出すことでリザーバ3を基体10から取り外すことが可能となり、例えば、樹脂製のリザーバ3が何らかの原因で破損等した場合、初動装置A1全体を交換することがなくリザーバ3のみを新たなリザーバ3と交換することができ、コストダウンを達成することができる。
【0066】
なお、車両用ブレーキシステムAが適用される車両には、例えば、四輪駆動自動車(4WD)、前輪駆動自動車(FF)、後輪駆動自動車(FR)、自動二輪車、自動三輪車等が含まれる。
【符号の説明】
【0067】
A 車両用ブレーキシステム
A1 初動装置(制動装置)
A2 モータシリンダ装置
A3 液圧制御装置
D、D 離間距離
P ブレーキペダル(ブレーキ操作子)
T スプリングピンの全長
W ホイールシリンダ
【0068】
1 マスタシリンダ
2 ストロークシミュレータ
3 リザーバ
3a、3b 給油口
3c 連結用脚部
3d 管接続口
3e 容器本体
3f スプリングピン(連結ピン)
4、5 常開型遮断弁
6 常閉型遮断弁
7、8 圧力センサ
9a、9b メイン液圧路
9c 分岐液圧路
10 基体
11 シリンダ部
11a 第一シリンダ穴
11b 第二シリンダ穴
12 車体固定部
13 リザーバ取付部
13a、13b リザーバユニオンポート
13c 連結部
14 ハウジング取付部(取付部)
14a 対向部
15 配管接続部
15a、15b 出力ポート
15c、15d 入力ポート
20 ハウジング
30 ピン導入孔
38 逃げ部
38a 底部
40 テーパ面
42 側面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキ液を貯溜するリザーバと、ブレーキ操作子の操作によってブレーキ液圧を発生させるマスタシリンダとを備える制動装置において、
前記マスタシリンダの基体は、前記リザーバを連結する連結ピンが挿入されるピン導入孔が形成された連結部と、前記マスタシリンダに一体的に隣接して前記マスタシリンダの基体に取り付けられる部品が装着される取付部に設けられて、前記ピン導入孔の軸線に対して交差する方向に延在する対向部とを有し、
前記対向部には、前記ピン導入孔の軸方向に逃げ部が設けられることを特徴とする制動装置。
【請求項2】
前記取付部は、前記部品を覆うハウジングを取り付けるためのハウジング取付部であることを特徴とする請求項1記載の制動装置。
【請求項3】
前記ピン導入孔の前記対向部側の開口端から前記逃げ部の底部までの離間距離は、前記連結ピンの軸方向に沿った全長よりも大きく設定されることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の制動装置。
【請求項4】
前記連結部の前記対向部に対向する側面は、前記連結部の先端側に向かうにしたがって前記対向部から離れるように傾斜していることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の制動装置。
【請求項5】
前記対向部と反対側の前記ピン導入孔の開口部には、前記対向部側の開口に向かうにしたがって徐々に縮径するテーパ面が設けられることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項記載の制動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−112081(P2013−112081A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−258334(P2011−258334)
【出願日】平成23年11月25日(2011.11.25)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【出願人】(000226677)日信工業株式会社 (840)
【Fターム(参考)】