説明

制御システム及び制御プログラム更新方法

【課題】複数の制御装置を含む制御システムにて、制御装置が実行するコンピュータプログラムを更新するに際し、制御用のデータを送受信するための既存の通信媒体を利用しつつ、更新の効率化、高速化を図ることができる制御システム、制御プログラム更新方法を提供する。
【解決手段】ECUのコンピュータプログラムを更新するために、ダイアグ端末が直接的に、又はダイアグ端末とECUとの間の中継装置が中継して、通信線を介して更新対象のコンピュータプログラムを送信する。この場合、ECU、ダイアグ端末及び中継装置間の通信のプロトコルがCANであるとき、データフレームの拡張フォーマットを用い、更に拡張フォーマット中のデータフィールドのみならず、拡張ID、コントロールフィールドにもデータを載せて更新用のコンピュータプログラムを送信する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記憶しているコンピュータプログラムに基づきアクチュエータなどの制御対象に対する処理を実行し、且つ所定の通信プロトコルに基づいて通信を行なう複数の制御装置を含む制御システムに関する。特に、一部又は全部の制御装置が記憶しているコンピュータプログラムの更新の効率化、高速化を図ることができる制御システム、制御プログラム更新方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンピュータプログラムに基づき制御対象に対する処理を実行する制御装置を複数用いて装置の制御を実行する制御システムが各分野で利用されている。この場合、各制御装置に各々役割を振り分け、制御装置が相互にデータを交換して連携して処理を実行することによって多様な機能を実現させる。
【0003】
車両制御の分野では、機械的制御から電気的制御へ移行し、車両内に制御装置として多数のECU(Electronic Control Unit)が配され、各ECUが車載LANを介して情報を相互に交換し、強調・連携して多様な処理を行なう構成が一般的となっている。
【0004】
制御システムにて制御機能が追加される場合、又はプログラムの不具合を解消すべき場合など、制御装置のプロセッサが実行するコンピュータプログラムの更新が必要となるときがある。また、システムの物理的接続構成に応じて各制御装置に役割を割り振る場合などは、制御システム構築の過程で各々の制御装置に役割に対応するコンピュータプログラムを記憶させることもある。
【0005】
このような場合、対象となる制御装置のみをシステムから切り離し、コンピュータプログラムを記憶させ直すことにより、確実に更新が可能である。しかしながら、更新時など、物理的に接続させたシステムから切り離すことが困難な場合があると共に、切り離し作業は煩雑である。
【0006】
そこで、制御装置が相互にデータを交換するための既存の通信手段を利用して、特定の装置からコンピュータプログラムを対象の制御装置に受信させ、記憶させるシステムも提案されている(特許文献1参照)。このときコンピュータプログラムの送受信専用の通信手段、通信線などの通信媒体を制御システムに追加する構成では、冗長である。特に車両における制御システムの場合、通信線を追加することは省線化、即ち軽量化に反する。
【0007】
しかしながら、既存の通信手段を利用してコンピュータプログラムを送受信させる場合、既存の通信手段における通信プロトコルが、制御用の情報、例えばオン/オフ、測定値などの数値情報などの数〜数十ビットで表わせる情報量が少ないデータの交換用に規定されているときには、コンピュータプログラムなど、数キロバイトで表わされる比較的情報量が多いデータの送受信には不適である。
【0008】
そこで、特許文献2及び3では、データ通信用の通信線を介してコンピュータプログラムを送信して書き換える際に、確実にコンピュータプログラムを送受信できる状態に設定し、正しくプログラムが書き換えられたかを確認するように構成したシステムが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2001−123874号公報
【特許文献2】特開2006−82649号公報
【特許文献3】特開2006−331185号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、従来のシステムでは、制御用のデータのための通信プロトコルに準じた通信方法に工夫をすることなく送受信することを前提とし、更に確実性を担保するための確認処理などを行なうことから、コンピュータプログラムの更新には無視できない長さの時間を要するという問題がある。
【0011】
本発明は斯かる事情に鑑みてなされたものであり、制御用のデータを送受信するための既存の通信媒体を利用しつつ、当該通信媒体における通信プロトコルに準じる範囲内で、コンピュータプログラムの送信方法を改良することにより、プログラム更新の効率化、高速化を図ることができる制御システム、制御プログラム更新方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
第1発明に係る制御システムは、制御対象を制御するための処理を実行させるコンピュータプログラムを記憶する手段、前記コンピュータプログラムを読み出して実行するプロセッサ、及び、制御データ又は要求を含む制御用の情報を送受信するための所定のプロトコルに基づきデジタル信号により通信を行なう通信手段を備え、通信線に接続されている複数の制御装置と、更新対象のコンピュータプログラムを前記複数の制御装置のいずれかへ送信するプログラム送信手段とを含む制御システムにおいて、更新対象のコンピュータプログラムは、前記所定のプロトコルにおける制御データ用のビット列以外のビットにも載せられて送信されるようにしてあり、前記制御装置は、受信した信号における前記制御データ用のビット以外のビットからも前記コンピュータプログラムを抽出する手段を備えることを特徴とする。
【0013】
第2発明に係る制御システムは、前記プログラム送信手段は、更新対象のコンピュータプログラムの送信前に更新要求を送信するようにしてあり、前記更新要求を受信する受信手段と、該受信手段により前記更新要求を受信した場合、前記コンピュータプログラムの送信先である1又は複数の制御装置を特定する送信先特定手段と、該送信先特定手段が特定した送信先の制御装置以外の制御装置へ、信号の送信禁止を指示する指示手段とを更に備えることを特徴とする。
【0014】
第3発明に係る制御システムは、前記プログラム送信手段は、更新対象のコンピュータプログラムの送信完了通知を送信するようにしてあり、前記受信手段は、前記送信完了通知を受信するようにしてあり、前記指示手段は、前記受信手段により送信完了通知を受信した場合、前記送信禁止が指示された制御装置へ、信号の送信許可を指示するようにしてあることを特徴とする。
【0015】
第4発明に係る制御システムは、各制御装置と、夫々に記憶してあるコンピュータプログラムとの対応テーブルを備え、前記送信先特定手段は、前記対応テーブルに基づき送信先の制御装置を特定するようにしてあることを特徴とする。
【0016】
第5発明に係る制御システムは、前記プログラム送信手段は、送信先を指示する情報を送信するようにしてあり、前記情報に基づき、送信先の制御装置と更新対象のコンピュータプログラムとの対応を前記対応テーブルに加える手段を更に備えることを特徴とする。
【0017】
第6発明に係る制御システムは、前記複数の制御装置、又は前記プログラム送信手段は、異なる通信線に夫々接続されており、前記異なる通信線のいずれにも接続され、デジタル信号の送受信を中継する中継装置を更に含み、該中継装置が前記受信手段、送信先特定手段及び指示手段を備え、前記プログラム送信手段から送信される更新対象のコンピュータプログラムを、送信先である1又は複数の制御装置が接続されている通信線へ中継するようにしてあることを特徴とする。
【0018】
第7発明に係る制御システムは、前記所定のプロトコルはCAN(Controller Area Network)であり、前記送信手段は、更新対象のコンピュータプログラムを、CANにおけるデータフレームの拡張フォーマット中、拡張アンデンティファイアフィールドのビット列、コントロールフィールドのビット列、及びデータフィールドのビット列に載せて送信するようにしてあることを特徴とする。
【0019】
第8発明に係るプログラム更新方法は、制御対象を制御するための処理を実行させるコンピュータプログラムを記憶する手段、前記コンピュータプログラムを読み出して実行するプロセッサ、及び、制御データ又は要求を含む制御用の情報を送受信するための所定のプロトコルに基づきデジタル信号により通信を行なう通信手段を備え、通信線に接続されている複数の制御装置の内のいずれかへ、更新対象のコンピュータプログラムを送信するプログラム送信手段が送信し、前記制御装置にてコンピュータプログラムを更新する方法において、前記複数の制御装置に接続され、前記プログラム送信手段及び制御装置間の情報の送受信を中継する中継装置、又は前記プログラム送信手段が、更新対象のコンピュータプログラムを、前記所定のプロトコルにおける制御データ用のビット以外のビットにも載せて送信し、前記制御装置は、受信した信号における前記制御データ用のビット以外のビットからも前記コンピュータプログラムを抽出し、記憶してあるコンピュータプログラムを、抽出したコンピュータプログラムで更新することを特徴とする。
【0020】
第1及び第8発明では、更新対象のコンピュータプログラムは、制御装置間の制御データの送受信のための所定のプロトコルに基づく範囲内で、制御データ用のビット以外のビットにもデータが載せられて送信される。なお、プログラム送信手段から直接的に送信されるか、又は、制御装置とプログラム送信手段との間に中継装置が存在する場合には、中継装置から送信される。デジタル信号にて装置間でデータを送受信する場合、各種プロトコルでは大抵、データの内容の識別、データの送信先の識別、又は信号の正しさの確認のために、データのみならずヘッダ、冗長信号などが含まれている。そこで本発明では、所定のプロトコルでの通信に破綻をきたさない範囲で、より多くの量のデータを送受信させる。制御データの送受信のためのプロトコルのように大容量のデータの送受信にあまり適さない所定のプロトコルでも、できるだけ多くのデータ量を送信することが可能である。
【0021】
なお本発明では、更新対象のコンピュータプログラムを受信する制御装置側では、データ用のビット以外のビットにデータが載せられていても当該ビットからコンピュータプログラムを抽出するようにしてある。これにより、所定のプロトコルにて本来送受信できるデータ量よりも多く送受信できるので、更新対象のコンピュータプログラムをより早く送信することが可能となる。
【0022】
第2発明では、プログラム送信手段が更新対象のコンピュータプログラムを送信する前にプログラムの更新要求が送信され、これを契機に当該コンピュータプログラムの送信先でない制御装置では、応答なども含めて信号の送信が禁止される。したがって、更新対象のコンピュータプログラムの送受信に通信線が占有されるので、効率的に送受信が可能となる。受信側でも、他の信号を受信することがないから、コンピュータプログラムが分割されて送信されても一連のデータとして受信でき、分割されたコンピュータプログラムを再構築する際に誤る可能性が低くなる。
【0023】
第3発明では、第2発明にて更新対象のコンピュータプログラムの送受信に関しない他の制御装置が信号の送信を禁止された後、コンピュータプログラムの送受信が完了した後は、信号の送信許可が明確に指示される。これにより、停止されていた制御用のデータ、相互の応答の送受信が可能となり、確実にシステムが復旧する。
【0024】
第4発明では、プログラム送信手段から送信される更新対象のコンピュータプログラムの種類、又は内容に応じて、送信先の制御装置が特定される。これにより、コンピュータプログラムの更新に関与しない制御装置は確実に信号の送信が禁止され、関与する制御装置にて効率的に更新対象のコンピュータプログラムを受信でき、更新が効率的となる。
【0025】
第5発明では、予め対応テーブルに含まれていなかった新たな更新対象のコンピュータプログラムがプログラム送信手段により送信された場合でも、送信先の指定を行なうことで以後は確実に送信先の制御装置へコンピュータプログラムが送信され、効率的な更新と更新履歴の管理が行なわれる。
【0026】
第6発明では、複数の異なる通信線に接続されている制御装置、又はプログラム送信手段といずれも通信が可能な中継装置がシステムに含まれ、各制御装置が中継装置経由で通信するときには、中継装置が更新対象のコンピュータプログラムを受信して対象の制御装置へ中継する。中継装置は、いずれの制御装置とも通信が可能であり、中継装置にて中継の要否を判断して、必要のない通信線へ更新対象のコンピュータプログラムが送信されないようにすることができる。また、プログラム送信手段の通信プロトコルが所定のプロトコルと異なる場合でも、中継装置が中継することによってプロトコルの変換も可能である。これにより、コンピュータプログラムの送受信が効率化されるほか、送受信方法の利便性が向上する。
【0027】
第7発明では、所定のプロトコルとはCANである。CANでは制御データを送受信する際にはデータフレームが使用され、基本的にデータ用のビット列(データフィールド)は最大64ビットである。CANにおけるデータフレームには拡張形式が存在し、その場合、拡張アイデンティファイアフィールドのビット列及びコントロールフィールドのビット列は25ビットである。これらのビットをもコンピュータプログラムの送信に使用することで、1つのデータフレームで89ビット(64+25)を使用でき、約1.4倍の情報量を送信することが可能となり、高速化を図ることができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明による場合、情報量が少ない制御用のデータを送受信するための所定のプロトコルの範囲内でも、より多くのデータ量にてデータを送受信できるから、更新対象のコンピュータプログラムをより早く送信することができ、制御装置でのコンピュータプログラムの更新の効率化、高速化、及び利便性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】実施の形態1における車載制御システムの構成を示す構成図である。
【図2】CANプロトコルのデータフレームのフォーマットを示す説明図である。
【図3】実施の形態1における車載制御システムにおいてECUの制御プログラムが更新される処理手順の一例を示すフローチャートである。
【図4】実施の形態2における車載制御システムの構成を示す構成図である。
【図5】実施の形態2における車載制御システムにおいて制御プログラムが更新される処理手順の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明をその実施の形態を示す図面に基づいて具体的に説明する。なお、以下に示す実施の形態では、車両に搭載されている車載制御システムにおけるコンピュータプログラムの更新を例に挙げて説明する。
【0031】
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1における車載制御システムの構成を示す構成図である。実施の形態1における車載制御システムは、複数のECU1a,1b,1c,1dと、ECU1a,1b,1cが接続している通信線21と、ECU1dが接続している通信線22と、外部装置の通信線21への接続を可能とする外部コネクタ31と、通信線21及び通信線22の両者に接続している中継装置4とを含む。外部コネクタ31には、ダイアグ端末3を接続することが可能である。また、通信線22には、イグニッションスイッチと接続されているECU(図1中、及び以下IGECUと表わす)5が接続されている。
【0032】
通信線21には、ECU1a,1b,1c及び中継装置4がいずれもバス型に接続されている。通信線21を介した通信のプロトコルはCANである。通信線21に接続されるECU1a,1b,1c、中継装置4、及び外部コネクタ31に接続するダイアグ端末3はCSMA方式により情報を送受信する。通信線21に送信される信号は、ECU1a,1b,1c、中継装置4、及び外部コネクタ31に接続しているダイアグ端末3のいずれも受信することが可能である。通信線22には、ECU1d、中継装置4及びIGECU5がいずれもバス型に接続されている。通信線22を介した通信のプロトコルもCANである。制御用のデータ、データの送信要求、エラー通知などがCANフレームにて夫々送信される。
【0033】
ECU1aは、記憶部11aに記憶されているコンピュータプログラムに基づき処理を行なうプロセッサにより動作する装置である。ECU1aは、制御部10aと、記憶部11aと、一時記憶部13aと、通信部14aとを備える。
【0034】
制御部10aには、CPU(Central Processing Unit)を利用する。記憶部11aには、フラッシュメモリ、EEPROM(Electrically Erasable and Programmable Read Only Memory)などの不揮発性メモリであって書き換えが可能な記憶媒体が用いられ、制御部10aが読み出して実行する制御プログラム12aが記憶されている。なお、車載制御システムに搭載されるECU1aにおける記憶部11aの記憶容量は、ECU1aを簡易な、安価な構成とするために比較的小さい。制御プログラム12aと、他の制御用の条件、固定値などの各種情報を記憶する程度で、余分な記憶容量は用意されていない。
【0035】
一時記憶部13aには、SRAM(Static Random Access Memory)、DRAM(Dynamic Random Access Memory)などが用いられ、制御部10aの動作により発生した情報、記憶部11aから読み出された各種情報、制御プログラム12aなどが一時的に記憶される。
【0036】
通信部14aは、通信線21を介した通信を実現する。即ち実施の形態1では通信部14aはCANプロトコルに準じ、CANコントローラ及びCANトランシーバを含む。制御部10aは、通信部14aにより通信線21を介して他のECU1b,1c、ダイアグ端末3、又は中継装置4とのデータの送受信が可能である。
【0037】
なお、ECU1aにおける制御部10a、記憶部11a、一時記憶部13a及び通信部14aの一部(コントローラ)は、マイクロコンピュータとして構成されてもよい。
【0038】
ECU1b,1c,1dの構成は、夫々機能に応じた動作内容が異なるものの、ECU1aと基本的な構成は同様であるので詳細な説明を省略する。
【0039】
車載制御システムは、車両の組み立て完了後は、ECU1a,1b,1c,1dなどの装置は車体の床、ボンネットの中などに配されて、ECU1a,1b,1c,1d間の通信線21,22、信号線などを含むワイヤーが、車両の車体枠の中などに張り巡らされて配されている。外部コネクタ31は、車両の組み立て後にECU1a,1b,1c,1dなどへのデータを記憶、又は各ECU1a,1b,1c,1dからのデータの読み出しがダイアグ端末3から可能なように、車外からアクセスすることが容易な位置に配置されている。
【0040】
ダイアグ端末3は、検査員などのオペレータが操作することにより、特定のECU、例えばECU1aの制御プログラム12aの更新要求と共に、更新対象の新たなコンピュータプログラムを出力するように構成されている。
【0041】
ダイアグ端末3は、外部コネクタ31を介してコンピュータプログラムの更新要求、及び新たなコンピュータプログラムを通信線21へ送信する。このときダイアグ端末3は、IGECU5から送信されるデータに基づき、車両のイグニッションスイッチがオン又はエンジンがスタートしていない場合に更新要求を送信する。もしもイグニッションスイッチがオンである場合には、更新要求を出力しない。ダイアグ端末3は、更新要求を通信線21へ送信した後、内蔵する記録媒体に記録されている更新対象のコンピュータプログラムを、当該更新対象のコンピュータプログラムに関する特定のECU、例えばECU1aへ送信する。更新対象のコンピュータプログラムの送信方法については、詳細を後述にて説明する。
【0042】
中継装置4は、中継処理部41と、通信部42と、記憶部43と、更新処理部45とを備える。実施の形態1における中継装置4では、中継処理部41及び更新処理部45は各機能を発揮すべく設計された特定の回路にて構成される。
【0043】
通信部42には、通信線21及び通信線22が接続されている。通信部42は、通信線21,22を介したCANプロトコルに準じた通信を実現する。中継処理部41は、通信部42により通信線21を介してECU1a,1b,1c,1d及びIGECU5、並びにダイアグ端末3との間におけるデータの送受信を中継する。
【0044】
記憶部43には、SRAM、DRAMなどのメモリが用いられる。記憶部43には、データベース(DB:Data Base)44としての記憶領域が確保されている。
【0045】
中継処理部41は、中継装置4としての基本的な機能を発揮するための構成部である。中継処理部41は、ECU1a,1b,1cから通信線21にデータ等が送信された場合これを通信部42にて検知し、ECU1d、IGECU5への中継の要否を判断し、要と判断した場合は通信部42から他の通信線22へデータ等を送信する中継機能を発揮する。なお、中継処理部41は、ECU1a,1b,1c,1d、IGECU5から送信されて通信部42にて受信したデータを、一旦記憶部43のデータベース44に記憶する。
【0046】
更新処理部45は、詳細には送信先特定部46及び指示部47を備える。更新処理部45は、ダイアグ端末3からコンピュータプログラムの更新要求が送信された場合に処理を行なうように構成されている。更新処理部45は、通信部42で受信した更新要求の情報から、送信先特定部46により更新対象のコンピュータプログラムに関するECUを特定し、そのIDを抽出する。更新処理部45は、送信特定部46により特定された送信先以外のECUに対し、指示部47により、リッスンオンリーモードへの移行、すなわち応答を含む一切の送信を禁止する指示を示すメッセージを通信部42により送信する。そして、コンピュータプログラムの送受信が完了した場合は、送信を許可する指示を示すメッセージを通信部42により送信する。
【0047】
なお中継装置4もECU1aのように、マイクロコンピュータを備える構成としてもよい。
【0048】
IGECU5は、図示しないイグニッションスイッチと接続されており、イグニッションスイッチのオフ(ロック)、アクセサリー、イグニッションスイッチオン、スタートなどの状態を検知する。そしてIGECU5は、検知した情報をデータとして通信線22へ送信する。これにより、通信線22へ送信されたイグニッションスイッチの状態は、同じ通信線22に接続されているECU1dでデータが受信されることによって認識されると共に、中継装置4でも当該データが受信されて認識される。通信線22に送信されたイグニッションスイッチの状態を示すデータは、中継装置4の中継処理部41により通信部42にて通信部21へも中継される。これにより、ECU1a,1b,1c及び外部コネクタ31に接続されているダイアグ端末3でもイグニッションスイッチの状態を認識する。
【0049】
このように構成される車載制御システムにおけるダイアグ端末3が、更新対象のコンピュータプログラムを送信する際の方法について詳細を説明する。
【0050】
実施の形態1では、通信線21における通信プロトコルは、CANプロトコルである。更新対象のコンピュータプログラムを送信するには、CANにおけるデータフレームのデータ用のビットにコンピュータプログラムのデータを載せて送信する。データフレームのデータフィールドのビットは、最大64ビットであり、即ち1回のデータフレームの送信で8バイトまでしか送信できない。しかしながら、コンピュータプログラムの実行ファイルのデータ量は様々ではあるが、数〜数十キロバイト程度であることが考えられる。したがって、コンピュータプログラムをデータフレームで送信する場合、コンピュータプログラムを数十〜数百個に分割して夫々データフレームのデータフィールドに載せて、何回にも分けて送信することになる。
【0051】
そこで、実施の形態1における更新対象のコンピュータプログラムの送受信では、より高速にコンピュータプログラムの送受信を完了させるために、データフレームにおけるデータフィールド以外のビットにもコンピュータプログラムを載せて送信する。
【0052】
図2は、CANプロトコルのデータフレームのフォーマットを示す説明図である。図2の(a)に標準フォーマットのデータフレームを、(b)に拡張フォーマットのデータフレームを示す。
【0053】
CANのデータフレームは、標準及び拡張のいずれでもSOF(Start Of Frame)ビットから始まり、データの内容を識別するために用いられるアイデンティファイア(ID)が11ビット続く。
【0054】
標準フォーマットでは、その後、データ要求なのかデータが載せられているのかを区別するためのRTR(Remote Transmission Request)ビットが続き、IDとRTRビットとで、送信の優先度を決めるアービトレーションフィールドとして使用される。標準フォーマットではその後、標準/拡張を区別するためのIDE(IDentifier Extension)ビット、r0ビット、データ長を示すDLCビットからなるコントロールフィールドが続く。コントロールフィールドは6ビットである。コントロールフィールドの後ろには、数値情報又は真偽情報などを含むデータを載せるデータフィールドが続く。データフィールド、即ちデータを載せるためのビット数は可変である。データフィールドの後ろに誤り検出のためのCRC(Cyclic Redundancy Check)フィールドが15ビット、受信確認のためのACK(Acknowledge)フィールドが2ビット、そして7ビットのEOFが続く。
【0055】
拡張フォーマットでは、標準フォーマットにおけるRTRビット以降が異なり、IDの後ろはSRR(Substitute Remote Request)ビット及びIDEビットが夫々1ビットで続き、その後ろに拡張用のIDが18ビット、そしてRTRビットが続く。拡張フォーマットでは、ID、SRR、IDE、拡張ID及びRTRでアービトレーションフィールドとして使用される。RTRビットの後ろには、r0ビット及びr1ビット、DLCからなるコントロールフィールドが続く。その後のデータ、CRC、ACK、及びEOFは標準フォーマットと同様である。
【0056】
実施の形態1におけるダイアグ端末3は、更新対象のコンピュータプログラムをデータフレームで送信するに際し、拡張フォーマットを用いる。更にダイアグ端末3は、拡張ID及びRTRビット、並びにコントロールフィールドのr0ビット、r1ビット及びDLCをもデータフィールドとして用い、当該プログラム送信用のデータフィールドに更新対象のコンピュータプログラムを分割して載せて送信する。
【0057】
これにより、従来はデータフレームでは最大64ビットしかデータを送信できなかったが、拡張IDの18ビット、RTRビットの1ビット、r0ビットの1ビット、r1ビットの1ビット及びDLCの4ビットの合計25ビットを加えた89ビットをデータ送信に使用できる。したがって、1回のデータフレームの送信にて1.39倍(89/64)の効率化を図ることができる。
【0058】
このようなCANフレームのフォーマットは通常は認められていないため、フォーマットエラーとなる。したがって、ダイアグ端末3が更新対象のコンピュータプログラムを送信するにあたっては、これをエラーと識別されないようにすべく、従来のCANコントローラに変更が必要となる。しかしながら、各ECUのCANコントローラを全て変更するとすれば、従来のシステムを利用できずに無駄となる。そこで、CANコントローラの変更を回避するため、データフレーム中におけるRTR、r0、r1、DLCビットについては、フォーマットエラーとならないように固定値として使用してもよい。この場合、RTR、r0、r1、DLCビットを含むフィールドは更新対象のコンピュータプログラムを載せる領域として使用できないから、上述の構成では1.39倍効率化を図ることができたところ、1.28倍(82/64)となる。
【0059】
このように、コンピュータプログラムの送信方法を標準のCANプロトコルに変更を加えて利用することにより、約1.4倍の効率化を図ることはできる。実施の形態1ではこれに加えて、中継装置4の更新処理部45が、送信先以外のECU1a,1b,1c,1dのいずれかへリッスンオンリーモードへの移行を指示する処理を行なうことにより、以下のとおり、更に効率化させることができる。
【0060】
以下、実施の形態1におけるコンピュータプログラムの送信方法のみならず、更新の際の各装置の動作によって、コンピュータプログラムの更新が効率化、高速化されることを説明する。具体的例として、ECU1aの制御プログラム12aが更新される過程を、フローチャートを参照して説明する。
【0061】
図3は、実施の形態1における車載制御システムにおいてECU1aの制御プログラム12aが更新される処理手順の一例を示すフローチャートである。オペレータがダイアグ端末3を操作して、制御プログラム12aの更新要求を入力し、制御プログラム12aの更新対象の新しいコンピュータプログラムも共に入力した場合、以下の処理が中継装置4、及びECU1aにより実行される。
【0062】
まず、ダイアグ端末3は、プログラムの更新要求を外部コネクタ31から通信線21を介して各ECU1a,1b,1c、及び中継装置4へ通知する(ステップS1)。ステップS1は具体的には、プログラムの更新要求というメッセージに割り振られたIDを含むデータフレーム(標準)をダイアグ端末3が送信する。このとき、ダイアグ端末3は、該データフレームのデータフィールドを用いて、更新対象のコンピュータプログラムの内容を示す情報、又は送信先を示す情報を共に送信することが望ましい。
【0063】
ECU1a,1b,1c及び中継装置4はいずれもほぼ同時にプログラムの更新要求の通知を受信するが、特に中継装置4は、プログラムの更新要求の通知を受信すると(ステップS2)、更新処理部45の動作を開始して、送信先特定部46により、当該更新要求の対象であるコンピュータプログラムの送信先のECU1aを特定する(ステップS3)。ステップS3は具体的には、送信先特定部46は、受信した前記プログラム更新要求から、更新対象のコンピュータプログラムの送信先のECUを、記憶部43、又は送信先特定部46にて内臓する図示しない不揮発性のメモリ内に記憶しておき、当該情報に基づき特定する。
【0064】
次に中継装置4は、更新処理部45の指示部47が、送信先特定部46にて特定した送信先のECU1a以外のECU1b,1c,1dを識別する情報を得、指示部47は、通信部42を通じて、送信先以外のECU1b,1c,1dへAck信号さえも送信しないように、送信禁止を指示、即ちリッスンオンリーモードへの移行を指示する(ステップS4)。ステップS4は具体的には、リッスンオンリーモードへの移行指示というメッセージに割り振られたIDを表わすデータフレーム(標準)を通信部42により送信する。このとき、該データフレームのデータフィールドを用いて、送信先を示す情報を共に送信することが望ましい。
【0065】
ステップS6のリッスンオンリーモードへの移行の指示(送信禁止の指示)により、ECU1a以外のECU1b,1cは、リッスンオンリーモードへ移行する。この後、ECU1b,1cでは、コンピュータプログラムの送信完了の通知がされるまで、リッスンオンリーモードへ移行したまま待機する。リッスンオンリーモードとは、通信部が通信線21に送信されている信号を監視し続けるのみで、応答をも返さない状態である。
【0066】
ECU1aは、中継装置4が送信禁止を指示した後、ダイアグ端末3が更新対象のコンピュータプログラムを89ビット分ずつ読み出してデータフレームにて送信し(ステップS5)、ECU1aは、各データフレームを受信する(ステップS6)。このときECU1aはリッスンオンリーモードでないから、データフレームの受信に応答を返し、ダイアグ端末3では、応答により正常に送信ができたことを通知する。
【0067】
そしてECU1aは、制御部10aの処理により、ステップS6で受信したフレームのIDに基づき、コンピュータプログラムが含まれるフレームであると認識する。そして制御部10aの処理により、本来のデータフィールド以外のコントロールフィールドをも含むプログラム送信用のデータフィールド(89ビット)から分割されたコンピュータプログラムの一部を抽出する(ステップS7)。このとき制御部10aは、抽出したコンピュータプログラムの一部を順に一時記憶部13aに記憶していく。ECU1aは、ダイアグ端末3からコンピュータプログラムが含まれるデータフレームを受信する都度、ステップS6及びS7を繰り返して更新対象のコンピュータプログラムを完全に受信するまで処理を継続する。
【0068】
ダイアグ端末3は、更新対象のコンピュータプログラムを読み出してデータフレームを送信しているが、分割されたコンピュータプログラムの全ての送信は完了したか否かを判断する(ステップS8)。ダイアグ端末3は、送信は未完了であると判断した場合(S8:NO)、残りの分割されたコンピュータプログラムの送信(S5)を継続し、送信は完了したと判断した場合(S8:YES)、送信完了通知を送信する(ステップS9)。ステップS9ではダイアグ端末3は、具体的には、プログラム送信完了通知というメッセージを表わすデータフレーム(標準)を送信する。
【0069】
中継装置4では、更新処理部45が送信禁止の指示をした後(S4)、通信部42により受信するフレームを監視して、プログラム送信完了通知を受信したか否かを判断する(ステップS10)。更新処理部45は、プログラム送信完了通知を受信していないと判断した場合(S10:NO)、処理をステップS10へ戻し、プログラム送信完了通知を受信するまで待機する。更新処理部45は、プログラム送信完了通知を受信したと判断した場合(S10:YES)、送信禁止を指示していた送信先以外のECU1b,1cへ送信許可を指示、即ちリッスンオンリーモードから通常モードへの移行を指示する(ステップS11)。
【0070】
一方、このときECU1aは、更新対象のコンピュータプログラムのフレームを全て受信し、各フレームからのコンピュータプログラムの抽出を完了させている。ECU1aは、更新対象のコンピュータプログラムのフレームを受信して抽出した際には、上述のように一時記憶部13aに順に記憶している。したがって、一時記憶部13aには更新対象のコンピュータプログラムが完成しているはずである。制御部10aは、一時記憶部13aから更新対象のコンピュータプログラムを読み出し、既存の制御プログラム12aに書き換えて更新し(ステップS12)、更新処理を終了する。
【0071】
このように、更新対象のコンピュータプログラムの送受信の際に、CANのデータフレーム(拡張)の拡張ID、RTRビット及びコントロールフィールドにもコンピュータプログラムが載せられて送信されることにより、送信完了までの高速化が図れる。このときの効果は上述のように1.39倍である。また、CANコントローラの変更を回避するためにRTR、r0、f1、DLCビットには更新対象のコンピュータプログラムを載せず固定値とする場合には、1.28倍の高速化が図れる。
【0072】
更に、ダイアグ端末3と送信先のECU1aとの間で更新対象のコンピュータプログラムの送受信が実行されている間、中継装置4が事前にECU1b,1cへ送信禁止を指示していることとからECU1b,1cはリッスンオンリーモードに移行している。ECU1b,1cの状態がリッスンオンリーモードでないときには、ECU1b,1cが応答、定期的なメッセージの送信などを行ない、相当するネットワークの帯域を占有する。このため、更新対象のコンピュータプログラムの送信と、定期的なメッセージの送信が競合し、更新対象のコンピュータプログラムの送信に要する時間が延びる。例えば、定期的なメッセージの送信によりネットワークの帯域を半分占有している場合と比較すると、リッスンオンリーモードへ移行させることで2倍の高速化を図ることができる。
【0073】
なお、図3のフローチャートに示した処理手順の過程で、例えばステップS5、S6、S7を繰り返して処理している間に、IGECU5からイグニッションスイッチの状態がオンとなったことを示すデータが中継装置4にて受信された場合は、以下のようにしてコンピュータプログラムの送信を中断させ、元の状態に復帰することが考えられる。中継装置4は、送信禁止を指示(S4)した後、イグニッションスイッチの状態がオンとなったことを示す当該データを通信線21へも中継する。当該データのIDは、優先度が高い。このときダイアグ端末3は、イグニッションスイッチがオンとなったことを通信線21からの情報を受信することにより検知する。ダイアグ端末3は、更新後のコンピュータプログラムの送信を中断する。中継装置4は、イグニッションスイッチがオンとなったことを示すデータを中継した後、ECU1b,1cへも送信許可を指示する。ECU1aは、イグニッションスイッチがオンとなったことを示すデータを受信した場合、更新が中断されたことを検知し、一時記憶部13aに記憶していた更新対象のコンピュータプログラムを消去してもよいし、再度受信することを考慮し、更新対象のコンピュータプログラムの一部が記憶されている領域をロックして保持しておくようにしてもよい。また、送信を禁止されていた各ECU1b,1cに、一定の周期で優先度が低いデータフレームを送信させ、そのデータフレームに対する応答を各ECU1b,1cで確認させることにより、ネットワークの状態の監視を各自で監視させておいてもよい。これにより、ECU1aにおける制御プログラム1aの更新中でも、車両の機能が不具合を生じることはない。
【0074】
(実施の形態2)
実施の形態1では、ダイアグ端末3、ECU1a,1b,1c、及び中継装置4がいずれも同一の通信線21に接続されている構成であった。これに対し実施の形態2では、ダイアグECU31は、通信線21ではなく独自の通信線(信号線でもよい)に接続されており、中継装置4のみと通信することが可能な構成とする。
【0075】
図4は、実施の形態2における車載制御システムの構成を示す構成図である。実施の形態2の車載制御システムの構成は、ダイアグ端末3が中継装置4のみに、通信線21と異なる通信線6を介して接続していること、中継装置4の構成が一部異なること、通信線22に新たなECU1eが接続されていること以外は、実施の形態1における構成と同様である。したがって、以下、実施の形態1と共通する構成については同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0076】
ECU1eの構成は、ECU1aと同様であるので各構成部の詳細な説明は省略する。なおECU1eは、ECU1aと共通する機能を発揮するように構成されており、制御プログラム12aと同じ内容の制御プログラムを記憶する。
【0077】
そして実施の形態2では、ダイアグ端末3は、通信線6に接続されている。実施の形態1では、ダイアグ端末3はCANに基づく通信を行なう構成とした。したがって、ダイアグ端末3が更新対象のコンピュータプログラムを送信するに際し、図2の拡張データフレームのプログラム送信用のデータフィールドを使用する構成とした。これに対し、実施の形態2では、通信線6を介した通信は、CANプロトコルに準じないとする。通信線6は、ダイアグ端末3及び中継装置4との間の専用線であるとし、より高速にEthernet(登録商標)などを用いて送信することもできる。この場合、ダイアグ端末3は、CANにおける拡張データフレームにこだわらず、更新対象のコンピュータプログラムをまとめて送信することができる。
【0078】
これに応じて実施の形態2における中継装置4は、通信部42に加えて通信線6用の第2通信部48を備える。第2通信部48は、ダイアグ端末3との通信線6を介した通信を実現する。そして、中継装置4の更新処理部45が、ダイアグ端末3から受信した更新対象のコンピュータプログラムを対象のECU、例えばECU1aへ中継するに際し、CANにおける拡張フォーマットのデータフレームを用いて送信する。更新処理部45は、受信した更新対象のコンピュータプログラムを分割し、プログラム送信用のデータフィールドとした89ビットに載せてECU1aへ送信する。
【0079】
また、実施の形態2における中継装置4は、更新対象のコンピュータプログラムと、その送信先との対応を記憶した対応テーブル49を備える。更新処理部45の送信先特定部46は、第2通信部48により受信した更新対象のコンピュータプログラムについて、対応テーブル49を参照し、対応関係に基づいて送信先を特定する。この場合、ダイアグ端末3から更新対象となるECUを識別情報が特に無くとも、更新対象となるコンピュータプログラムを識別する情報から、対応テーブルにより更新対象のECUを識別することが可能である。
【0080】
また、実施の形態2では、ダイアグ端末3から中継装置4へ送信される更新要求には、送信先のECUを指示する情報が付加されている場合があるとする。例えば、車載制御システムに新たなECU1eがオプションなどにより追加で接続された場合、当該ECU1eに読み出させるべきコンピュータプログラムの内容、識別情報は、中継装置4の送信先特定部46では未だ未知であるはずである。したがって、更新要求に送信先のECU1eを指示する情報を付加することにより、中継装置4の送信先特定部46が送信先を特定することが容易となる。送信先特定部46は、新たなコンピュータプログラムの更新要求に、送信先のECUを指示する情報が付加されている場合、対応テーブル49に対応関係を追加する。
【0081】
次に、実施の形態2の構成にて、ECU1aの制御プログラム12a及びECU1eにおける制御プログラムが更新される過程をフローチャートを参照して説明する。図5は、実施の形態2における車載制御システムにおいて制御プログラムが更新される処理手順の一例を示すフローチャートである。図5のフローチャートに示す処理手順では、実施の形態1の図3に示した処理手順と同一の手順には同一のステップ番号を付して詳細な説明を省略する。
【0082】
オペレータがダイアグ端末3を操作して、制御プログラム12a及び新たに追加されたECU1eの制御プログラムの更新要求を入力した場合に、以下の処理がダイアグ端末3、及び中継装置4により実行される。なお、ECU1aにおける処理はコンピュータプログラムをダイアグ端末3から直接的に受信するのではなく中継装置4から中継されて受信すること以外、処理手順自体は実施の形態1と同様であるので、フローチャートの図示及び詳細な説明を省略する。ECU1eによる処理もECU1aにおける処理と同様であるので詳細な説明を省略する。
【0083】
ダイアグ端末3は、プログラム更新要求と送信先指示情報とを外部コネクタ31を介して中継装置4へ通知する(ステップS21)。
【0084】
中継装置4は第2通信部48により、プログラム更新要求の通知を受信し(ステップS22)、プログラム更新要求の通知に応じて動作する更新処理部45は、送信先特定部46により対応テーブル49を参照し(ステップS23)、共に受信した送信先指示情報に基づく新たな更新対象のコンピュータプログラムと送信先との対応を対応テーブル49に追加する(ステップS24)。送信先特定部46は、新たに追加された対応をも考慮してプログラム更新要求に対応する送信先を特定する(ステップS25)。そして、指示部47は、ECU1a,1e以外のECUへ送信禁止を指示、即ちリッスンオンリーモードへの移行を指示する(ステップS26)。これにより通信線21,22に夫々接続されている他のECU1b,1c,1d及びIGECU5は一時的にリッスンオンリーモードへ移行する。なおIGECU5は、イグニッションスイッチがオンとなったときには、送信禁止に反して優先的にデータを送信する。
【0085】
そして、ダイアグ端末3が更新対象のコンピュータプログラムを送信すると(S5)、これを第2通信部48により受信する中継装置4が、ステップ25にて特定された送信先へ更新処理部45の処理により通信部42により中継する(ステップS27)。これに対し、送信先のECU1a,1eは、夫々中継されて送信される拡張フォーマットのデータフレームを受信することにより更新対象のコンピュータプログラムを受信してデータフレームから抽出する。このとき、通信線6の伝送速度が通信線21又は通信線22と比較して高速である場合には、中継装置4の更新処理部45は、送信するコンピュータプログラムのデータを記憶部43に一時的に記憶してもよい。これにより、コンピュータプログラムのデータがECU1a,1eへ送信されている間であっても、ダイアグ端末3を外部コネクタ31から取り外すことが可能である。
【0086】
ダイアグ端末3は、更新対象のコンピュータプログラムの送信が未完了と判断した場合は(S8:NO)、処理をステップS5へ戻すが、送信を完了したと判断した場合は(S8:YES)、プログラム送信完了通知を送信する(S9)。
【0087】
このとき、中継装置4の更新処理部45は、ダイアグ端末3からプログラム送信完了通知を受信してプログラムの中継を完了したか否かを判断する(ステップS28)。更新処理部45は、中継を完了していないと判断した場合(S28:NO)、処理をステップS27へ戻し、更新対象のコンピュータプログラムが送信されない場合はステップS28へ進み、プログラムの中継を完了したと判断するまで待機する。このとき、送信先のECU1a、及びECU1eでは、受信した拡張フォーマットのデータフレームから夫々、分割された更新対象のコンピュータプログラムを抽出し、全データフレームから抽出した部分を順に組み合わせて更新対象のコンピュータプログラムを既存の制御プログラムに更新している。
【0088】
そして中継装置4の更新処理部45は、コンピュータプログラムの中継を完了したと判断した場合(S28:YES)、信号の送信禁止を指示していたECU1b,1c,1dへ送信許可を指示し(ステップS29)、処理を終了する。
【0089】
このように、プログラム送信手段としてのダイアグ端末3と中継装置4との間の通信線6の通信プロトコルと、更新対象のコンピュータプログラムを受信すべきECU1a,1eが接続されている通信線21,22の通信プロトコルとが異なる場合であっても、中継装置4がプロトコル変換をすると共に、CANの通信線21,22においてもより多くのデータ量で送信できるから、コンピュータプログラムの送受信における利便性の向上と効率化が図れる。
【0090】
実施の形態2で、ECU1aへ更新対象のコンピュータプログラムを中継する必要がない場合は、中継装置4が要否を判断して、通信線21へコンピュータプログラムを送信せずに済む。したがって、中継装置4は、通信線21に接続するECU1a,1b,1cへ送信禁止の指示を出さないから、通信線21ではそれまでの動作を継続できる。
【0091】
また、実施の形態2では、予め対応テーブル49に対応が記憶されていなかった新たな更新対象のコンピュータプログラム、又は新たな送信先(ECU1e)へのコンピュータプログラムが送信された場合であっても、対応テーブル49に対応が追加される。したがって、以後は、確実に送信先のECU1eへコンピュータプログラムが送信され、効率的に更新が行なわれる。
【0092】
なお、実施の形態2では、ダイアグ端末3と中継装置4との間の通信は、通信線21,22を介した通信とは異なり、CANプロトコルに基づかない構成とした。しかしながら、ダイアグ端末3と中継装置4とは、CANプロトコルに基づき通信を行なう構成でもよい。この場合も、中継装置4がコンピュータプログラムの中継の要否を判断することができ、ECU1aが送信先でなくECU1eのみが送信先である場合に、通信線21は更新対象のコンピュータプログラムの送受信に占有されることがなく、支障がない。
【0093】
実施の形態1及び2では、中継装置4が中継処理部41を有する構成について例示し、中継処理部41がリッスンオンリーモードへの移行もしくは送信禁止の指示を含む信号を発するとしたが、中継処理部41が存在しない構成でもよい。この場合、リッスンオンリーモードへの移行もしくは送信禁止の指示を含む信号は、ダイアグ端末3が直接発する構成としてもよいし、ダイアグ端末3からの指示を受けて、ECU1a,1b,1c,1d,1eのいずれかが発する構成としてもよい。
またイグニッションスイッチのオンなどの状態を示すデータが、共通の通信線21,222にて送信される構成としたが、既存のシステムのようにIG電源線として別途設けた配線から、各ECU1a,1b,1c,1d,1e、中継装置4などが検知する方法でもよい。
さらに、書き換え前後のプログラムのチェックのために、例えばECU1aからダイアグ端末3へプログラムを送信する際にも、データの送信方向を入れ替えることで同様の構成と方法を用いることができ、同様の効果が得られる。
【0094】
実施の形態1及び2では、車載制御システムにおけるECU1a,1b,1c,1d,1e間の通信プロトコルはCANとし、更新対象のコンピュータプログラムの送受信の際には、CANプロトコルにおけるデータ送受信用のデータフレームの拡張フォーマットを工夫して送信する構成とした。しかしながら本発明にて適用できる通信プロトコルは、CANに限らない。データを送受信する際に用いるフォーマットに付加されているヘッダ情報などの一部のビット列を更新対象のコンピュータプログラムを載せるために使用することにより、できるだけ多くの量のデータを送信する構成は、他のプロトコルにも適用可能である。
【0095】
なお、開示された実施の形態は、全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上述の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0096】
1a,1b,1c,1d,1e ECU
11a 記憶部
12a 制御プログラム
14a 通信部(通信手段)
3 ダイアグ端末(プログラム送信手段)
4 中継装置
45 更新処理部(プログラム送信手段)
46 送信先特定部
47 指示部
49 対応テーブル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御対象を制御するための処理を実行させるコンピュータプログラムを記憶する手段、前記コンピュータプログラムを読み出して実行するプロセッサ、及び、制御データ又は要求を含む制御用の情報を送受信するための所定のプロトコルに基づきデジタル信号により通信を行なう通信手段を備え、通信線に接続されている複数の制御装置と、更新対象のコンピュータプログラムを前記複数の制御装置のいずれかへ送信するプログラム送信手段とを含む制御システムにおいて、
更新対象のコンピュータプログラムは、前記所定のプロトコルにおける制御データ用のビット列以外のビットにも載せられて送信されるようにしてあり、
前記制御装置は、受信した信号における前記制御データ用のビット以外のビットからも前記コンピュータプログラムを抽出する手段を備えること
を特徴とする制御システム。
【請求項2】
前記プログラム送信手段は、更新対象のコンピュータプログラムの送信前に更新要求を送信するようにしてあり、
前記更新要求を受信する受信手段と、
該受信手段により前記更新要求を受信した場合、前記コンピュータプログラムの送信先である1又は複数の制御装置を特定する送信先特定手段と、
該送信先特定手段が特定した送信先の制御装置以外の制御装置へ、信号の送信禁止を指示する指示手段と
を更に備えることを特徴とする請求項1に記載の制御システム。
【請求項3】
前記プログラム送信手段は、更新対象のコンピュータプログラムの送信完了通知を送信するようにしてあり、
前記受信手段は、前記送信完了通知を受信するようにしてあり、
前記指示手段は、前記受信手段により送信完了通知を受信した場合、前記送信禁止が指示された制御装置へ、信号の送信許可を指示するようにしてあること
を特徴とする請求項2に記載の制御システム。
【請求項4】
各制御装置と、夫々に記憶してあるコンピュータプログラムとの対応テーブルを備え、
前記送信先特定手段は、前記対応テーブルに基づき送信先の制御装置を特定するようにしてあること
を特徴とする請求項2又は3に記載の制御システム。
【請求項5】
前記プログラム送信手段は、送信先を指示する情報を送信するようにしてあり、
前記情報に基づき、送信先の制御装置と更新対象のコンピュータプログラムとの対応を前記対応テーブルに加える手段
を更に備えることを特徴とする請求項4に記載の制御システム。
【請求項6】
前記複数の制御装置、又は前記プログラム送信手段は、異なる通信線に夫々接続されており、
前記異なる通信線のいずれにも接続され、デジタル信号の送受信を中継する中継装置を更に含み、
該中継装置が前記受信手段、送信先特定手段及び指示手段を備え、前記プログラム送信手段から送信される更新対象のコンピュータプログラムを、送信先である1又は複数の制御装置が接続されている通信線へ中継するようにしてあること
を特徴とする請求項2乃至5のいずれかに記載の制御システム。
【請求項7】
前記所定のプロトコルはCAN(Controller Area Network)であり、
前記送信手段は、
更新対象のコンピュータプログラムを、CANにおけるデータフレームの拡張フォーマット中、拡張アンデンティファイアフィールドのビット列、コントロールフィールドのビット列、及びデータフィールドのビット列に載せて送信するようにしてあること
を特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の制御システム。
【請求項8】
制御対象を制御するための処理を実行させるコンピュータプログラムを記憶する手段、前記コンピュータプログラムを読み出して実行するプロセッサ、及び、制御データ又は要求を含む制御用の情報を送受信するための所定のプロトコルに基づきデジタル信号により通信を行なう通信手段を備え、通信線に接続されている複数の制御装置の内のいずれかへ、更新対象のコンピュータプログラムを送信するプログラム送信手段が送信し、前記制御装置にてコンピュータプログラムを更新する方法において、
前記複数の制御装置に接続され、前記プログラム送信手段及び制御装置間の情報の送受信を中継する中継装置、又は前記プログラム送信手段が、更新対象のコンピュータプログラムを、前記所定のプロトコルにおける制御データ用のビット以外のビットにも載せて送信し、
前記制御装置は、受信した信号における前記制御データ用のビット以外のビットからも前記コンピュータプログラムを抽出し、
記憶してあるコンピュータプログラムを、抽出したコンピュータプログラムで更新する
ことを特徴とする制御プログラム更新方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2010−258990(P2010−258990A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−109738(P2009−109738)
【出願日】平成21年4月28日(2009.4.28)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】