説明

制御器の構成方法、システム及びプログラム

【課題】スケジューリング・パラメータ・ベクトルの各候補について、制御器を自動的に構成するための技法を提供する。
【解決手段】プラントのLPVモデルを記述し、スケジューリング・パラメータ数を与え、複数の要素からなるスケジューリング・パラメータ・ベクトルの各要素には、制約条件の上位要求から出てくる最大値と最小値が与えられ、その各候補について、Min、Max、それらの中間値の各々の間について、νギャップを計算し、νギャップ間の差が大きいものから順番にスケジューリング・パラメータ候補とし、最初に与えられたパラメータ数を選び、LMIに変換し、選定したスケジューリング・パラメータの最大値と最小値に関する全ての組み合わせ端点についてH基準によって制御器を求め、パラメータ選定時に計算したνギャップによって重み付けした双一次補間によって一般化プラントへの制御器を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動車のプラントなどの制御器を構成する技法に関し、より詳しくは、線形パラメータ変動モデルによってプラントを記述し、それを線形行列不等式に変換することでゲインスケジュール制御を行うための技法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、動作中に構成パラメータが変化するプラントに対する制御として、多くの場合、データマップによりオブザーバのゲインを調整して状態変数を推定しながら制御を行う、可変構造制御の方法が取られている。
【0003】
しかし、データマップに全ての可能性を盛り込むことは多大な労力を要し、また、実験的にマップを作成する場合には、プラントのパラメータ変更への対応が難しい。
【0004】
そこで、線形パラメータ変動(LPV: Linear Parameter-Varying)モデルによってプラントを記述し、変動範囲制約を線形行列不等式(LMI: Linear Matrix Inequalities)に変換することで全ての場合を網羅するゲインスケジューリング制御が一つの解として検討されてきた。
【0005】
特開平10−220475号公報は、強いジャイロ効果が作用するLPVシステムに対し、全ての回転数に渡り連続して最適に安定な制御の可能な磁気軸受装置を提供するために、LMIベースで設計され、凸最適化を満足する、異なる回転数を対象とした2台のH補償器K(θmax)とK(θmin)を配設し、この各H補償器は、それぞれ内挿補間により求めた係数α1 及びα2 を乗じ、並列に接続する。両H補償器の出力は加算し、係数α1 及びα2 はその総和が1となるように、また回転速度センサ16で計測した回転数ωz に依存しつつ連続的に変化させ、半径方向位置センサ8により計測した半径方向位置と指令値r間の誤差を算出し、その誤差に基づきLMIゲインスケジュールH演算を行う技法を開示する。
【0006】
特開平11−110003号公報は、パラメータ変動の上限値、下限値により定まる範囲の中において、目標応答を入力(指定)することにより、コントローラを導出し、目標応答を満足できる制御性能を得るビークル制御系の設計方法を提供することを目的とし、(A)ビークルの諸元と、外乱条件と、パラメータ変動範囲と、目標応答を設定し、(B)ビークル1の力学モデルを作成し、(C)ビークル1の力学モデルに基づきLPVモデル化を行い、(D)前記設定条件を逆LMI問題として定式化して、LMI設計法によりコントローラを導出し、(E)目標応答の標準であるステップ応答を制約条件とする制御系設計アルゴリズムをLMIステップ制約サーボ系の構成で作成し、(F)シミュレータによるコントローラ制御性能の検証を行い、(G)検証結果が不十分であれば、目標応答設定の調整に戻り、検証結果が十分であれば、制御系を完成させることを開示する。
【0007】
しかし、上記従来技術においては、十分な性能を得るためのスケジューリング・パラメータ候補の選択が難しく、その選択は、特別な計測をしたり、ボード線図を眺めながら主観的に決定するなど、人手に頼っていたので、時間がかかるとともに、なかなか、最適なパラメータ候補の選択の選択に至らなかった。
【0008】
ところで、S.Aubouet et al.,”H-infinity/LPV observer for an industrial semi-active suspension,” IEEE Proc. Conf. on Control Applications, pp.756-763, 2009には、LPVモデルと各制約条件を考慮したパラメータの変動幅を表現し、LMIに変換してH基準に基づく制御則を各パラメータの最大値・最小値の組合せ端点において求める技法が記述されている。
【0009】
また、G.Vinnicombe, “Frequency Domain Uncertainty and the Graph Topology,” IEEE Trans. Automatic Control, Vol.38, No.9, pp.1371-1383, 1993には、プラントパラメータベクトルの各候補について、νギャップを計算する技法が記述されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平10−220475号公報
【特許文献2】特開平11−110003号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】S.Aubouet et al.,”H-infinity/LPV observer for an industrial semi-active suspension,” IEEE Proc. Conf. on Control Applications, pp.756-763, 2009
【非特許文献2】G.Vinnicombe, “Frequency Domain Uncertainty and the Graph Topology,” IEEE Trans. Automatic Control, Vol.38, No.9, pp.1371-1383, 1993
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
この発明の目的は、スケジューリング・パラメータ・ベクトルの各候補について計算されたνギャップに基づき、制御器を自動的に構成するための技法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明によれば、ユーザーが先ず、プラントのLPVモデルを記述し、スケジューリング・パラメータ(θの要素)とその数を与える。複数の要素からなるスケジューリング・パラメータ・ベクトルの各々の要素には、制約条件の上位要求から出てくる最大値と最小値が与えられる。記述されたLPVモデルと、スケジューリング・パラメータ・ベクトル、及びその要素の最大値と最小値は、本発明の処理を実行するシステムに保存される。
【0014】
システムは、スケジューリングパラメータベクトルの各候補について、そのMin, Max、さらにそれらの中間値の各々の間について、νギャップを計算する。
【0015】
システムは次に、各候補についてνギャップ間の差が大きいものから順番にスケジューリング・パラメータ候補とし、最初に与えられたパラメータ数を選ぶ。
【0016】
システムは次に、LPVモデルをLMIに変換し、選定したスケジューリング・パラメータの最大値と最小値に関する全ての組み合わせ端点についてH基準によって制御器を求める。
【0017】
システムは次に、パラメータ選定時に計算したνギャップによって重み付けした双一次補間によって一般化プラントへの制御器を構成する。
【発明の効果】
【0018】
この発明によれば、多くの制約条件が存在する場合に、モデル設計者に依存してきたスケジューリングパラメータを客観的基準で自動選定し、かつ、それを利用した従来よりも適切な制御器設計が可能となるため、変動範囲が漠然としか捉えられない場合にもマップ作成の労力を低減することが可能となる。
【0019】
また、νギャップによるパラメータ空間特性の把握は、SysML等による要求分析との対応付けを容易にする可能性があり、事後的に制約を追加する際に制御ストラテジーを見直すべきか否かの自動判別を可能とするためモデリング設計の柔軟性を向上するために用いることができる。
【0020】
さらに、線形補間でなく、双一次補間を用いることは、非ユークリッド幾何的測地距離を考慮することになり、これにより、フィードバック制御の誤差を小さくすることにつながる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明で使用される一例の制御コンピュータの概要ブロック図である。
【図2】本発明に従い制御器を決定する処理を実行するためのプログラム等の機能ブロック図である。
【図3】本発明に従い制御器を決定する処理を実行するためのフローチャートを示す図である。
【図4】LMIへの変換によるH基準制御器導出を説明するための図である。
【図5】一般プラントからLMI問題への変換を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面に従って、本発明の実施例を説明する。これらの実施例は、本発明の好適な態様を説明するためのものであり、発明の範囲をここで示すものに限定する意図はないことを理解されたい。また、以下の図を通して、特に断わらない限り、同一符号は、同一の対象を指すものとする。
【0023】
図1を参照すると、本発明に従い制御器118を制御するための制御コンピュータのハードウェアのブロック図が示されている。図1において、システム・バス102には、CPU104と、主記憶(RAM)106と、ハードディスク・ドライブ(HDD)108と、キーボード110と、マウス112と、ディスプレイ114が接続されている。CPU104は、好適には、32ビットまたは64ビットのアーキテクチャに基づくものであり、例えば、インテル社のPentium(商標)4、インテル社のCore(商標) 2 DUO、AMD社のAthlon(商標)などを使用することができる。主記憶106は、好適には、2GB以上の容量、より好ましくは、4GB以上の容量をもつものである。
【0024】
ハードディスク・ドライブ108には、個々に図示しないが、オペレーティング・システム及び本発明に係る処理プログラムなどが、予め格納されている。オペレーティング・システムは、Linux(商標)、マイクロソフト社のWindows Vista、Windows XP(商標)、Windows(商標)2000、アップルコンピュータのMac OS(商標)などの、CPU104に適合する任意のものでよい。
【0025】
キーボード110及びマウス112は、オペレーティング・システムが提供するグラフィック・ユーザ・インターフェースに従い、ディスプレイ114に表示されたアイコン、タスクバー、ウインドウなどのグラフィック・オブジェクトを操作するために使用される。キーボード110及びマウス112はまた、後述するデータは記録用プログラムを操作するためにも使用される。
【0026】
ディスプレイ114は、これには限定されないが、好適には、1024×768以上の解像度をもち、32ビットtrue colorのLCDモニタである。ディスプレイ114は、制御器118によるプラントの動作の波形などを表示するために使用される。
【0027】
ハードディスク・ドライブ108にはさらに、後述するLPVモデル204、LPVモデル204のためのスケジューリング・パラメータ206、νギャップ計算モジュール208、LMI変換モジュール210、制御器構成モジュール212及び、全体の処理を統合するメイン・プログラム202が格納されている。メイン・プログラム202、νギャップ計算モジュール208、LMI変換モジュール210、及び制御器構成モジュール212は、C、C++、C#、Java(R)などの既存の任意のプログラミング言語で作成することができる。これらのモジュールは、オペレーティング・システムの働きで適宜主記憶106にロードされて実行される。図示しないが、メイン・プログラム202は、適当なGUIにより、オペレータが操作するためのウィンドウをディスプレイ114に表示し、オペレータがキーボード110及びマウス112などを使って処理を開始し、あるいは停止することができる。
【0028】
バス102にはさらに、PCI、USBなどの適当なインターフェース・ボード116を介して、図4に示すプラント402を制御するための制御器118が接続されている。制御器118は、インターフェース・ボード116を通じて、計算の結果得られた制御行列Kを格納するレジスタをもつ。
【0029】
プラント402は例えば、エンジン、ブレーキ、エアコンなど制御対象の機構装置である。
【0030】
プラント402は、実機であってもよいし、Simulink(R)、Modelicaなどのシミュレーション・モデリング・ツールで作成されたソフトウェア的なモデルであってもよい。プラント402がソフトウェア的なモデルである場合、ハードディスク・ドライブ108に格納されたモジュールとなり、すると、制御器118もハードディスク・ドライブ108に格納されたモジュールとなるので、インターフェース・ボード116を介したインターフェースは不要である。
【0031】
次に、図2の機能ブロック図を参照して、本発明に従い制御器を決定する処理を実行するためのプログラム等の論理的構成について説明する。
【0032】
メイン・プログラム202は、ユーザとのインターフェースを含め、全体の動作を制御する機能を果たす。
【0033】
線形パラメータ変動(LPV)モデル204は、下記のような線形方程式により、プラント402を記述するモデルであり、力学方程式などを考慮して、予めユーザにより記述される。
【数1】


ここで、A、B、C、Dは、状態空間モデルの係数行列である。
【0034】
スケジューリング・パラメータ206は、LPVモデル204で使用される時変パラメータθ(t)であり、次の式で示すように、r次元のベクトルである。
【数2】


θ(t)の各要素θj(t) (j = 1,2,...,r)は、システム要件に従い、予めユーザにより記述される。
【0035】
また、θ(t)の各要素θj(t) (j = 1,2,...,r)には、下記の式に示すように、制約条件の上位要求から出てくる最大値θimaxと、最小値θiminが予めユーザにより決定され、スケジューリング・パラメータ206としてハードティスク・ドライブ108に保存されている。
【数3】

【0036】
νギャップ計算モジュール208は、スケジューリング・パラメータ206の最大値θjmax、最小値θjmin及びそれらの間の中間値θjmidとから、G.Vinnicombe, “Frequency Domain Uncertainty and the Graph Topology,” IEEE Trans. Automatic Control, Vol.38, No.9, pp.1371-1383, 1993に記述されているような方法でνギャップを計算する機能をもつ。なお、中間値θjmidは、次のようにして計算される。
【数4】

【0037】
線形行列不等式(LMI)変換モジュール210は、LPVモデル204をLMIに変換し、選定されたスケジューリング・パラメータの最大値と最小値を用いて、H基準により、制御器を求める機能をもつ。
【0038】
制御器構成モジュール212は、パラメータ選定時に計算したνギャップによって重み付けした双一次補間によって、一般化プラントへの制御器118を構成する。この際、制御器118の構成は、図1に示すインターフェース・ボード116を介して行われる。
【0039】
次に、図3のフローチャートを参照して、本発明に従い制御器を決定する処理について説明する。図3において、ステップ302では、ユーザが、LPVモデルを記述し、またスケジューリング・パラメータとその要素数を与える。その際、スケジューリング・パラメータの各要素の最大値と最小値も、仕様に従い入力される。それらはそれぞれ、メイン・プログラム202によって、図2のLPVモデル204及びスケジューリング・パラメータ206として、ハードディスク・ドライブ108に保存される。
【0040】
ステップ304では、メイン・プログラム202がνギャップ計算モジュール206を呼び出して、制約条件の上位要求から出てくるスケジューリング・パラメータ・ベクトルの各候補に関して、Min、Max、さらにその中間値の各々について、例えば、G.Vinnicombe, “Frequency Domain Uncertainty and the Graph Topology,” IEEE Trans. Automatic Control, Vol.38, No.9, pp.1371-1383, 1993に記述されている技法により、νギャップが計算される。
【0041】
先ず、一般的なνギャップの計算について説明する。2つのプラント・モデルの伝達関数をP1(jω)、P2(jω)とすると、その2つの伝達関数の間のνギャップは、次の式で定義される。ここで、ωは角周波数である。
【数5】

【0042】
ここで、κ(X,Y)は次のように定義されている。
【数6】


また、
【数7】


は、最大特異値をあらわす。
【0043】
1入力1出力系であれば、νギャップは次のようになる。
【数8】

【0044】
ここで、θのi番目(i = 1,...,r)の要素について最大値を代入した場合の伝達関数をTimax、最小値を代入した場合の伝達関数をTiminとする。また、その中間値を代入した場合の伝達関数をTimidとする。
【0045】
そこで、メイン・プログラム202は、上記νギャップの計算式を用いて、νギャップ計算モジュール206を呼び出して、次値を計算する。
νi_mid_max = δν(Timid,Timax)
νi_min_mid = δν(Timin,Timid)
νi_min_max = δν(Timin,Timax)
【0046】
メイン・プログラム202は、ステップ306で、
(|νi_min_mid - νi_mid_max| + νi_min_max) (ただしi = 1,...,r)の値が大きいiから順番にスケジューリング・パラメータ候補とし、最初に与えられたパラメータ数を選ぶ。
【0047】
このとき、第1の実施例では、最初に与えられたパラメータのみが選ばれ、第2の実施例では、次に与えられたパラメータも選ばれる。この第1の実施例と第2の実施例について、後で説明する。
【0048】
ステップ308では、メイン・プログラム202は、LMI変換モジュール210を呼び出して、LPVモデル204をLMIに変換し、H基準制御器を導出する。
【0049】
そこでまず、その一般論を説明する。すなわち、LPVモデル204の変動部分を外生信号として捉え、さらにそれを大きなプラントを考え、それを図4に示すように、一般化プラント404と定義する。外生信号の内部フィルタや外生信号そのものは、LPVモデル204の、どのパラメータをスケジューリング・パラメータとして選ぶかが決定されれば、その周波数特性から自動的に決定することができる。
【0050】
そこで、
【数9】


と表現できる一般化プラント404において、外生信号wに対して制御量zをなるべく小さく抑えることが制御目的なので、この間の伝達関数Gzwを小さくする制御器Kを設計することになる。ここで、
【数10】


である。
【0051】
このGzwの大きさの尺度としてHノルムを使い、これがH基準となる。その定義は、次のとおりである。
【数11】

【0052】
ここで
【数12】


は、最大特異値をあらわし、ωは角周波数をあらわす。この定義により、H制御問題は、一般化プラントGに対し、u = Kyのフィードバック制御により、閉ループ系を内部安定化し、かつ、与えられた正数γに大して、
【数13】


を満たす制御器Kを求めることと定式化できる。γは任意に与えてもよいが、自動決定する方法も従来技術として存在する。これを解くための一つのアプローチが、LMIによるものである。
【0053】
すなわち、zとwの部分だけを取り出して
【数14】


としたとき、ある定理によれば、次の2つの条件は等価となる。
(i) 行列Aは安定で、図5に示すブロックにおいて、
【数15】


が成立する。
(ii) 次式を満たすX > 0が存在する。
【数16】

【0054】
つまり、条件(i)は、上記H基準であり、それを満たす行列Xが制御器であり、条件(ii)のXについての線形行列不等式(LMI)を満たすものを求めると、H基準の制御器が求められるという次第である。
【0055】
一般に、フィードバック制御の場合、そのまま代入していくと、Xについて線形にならないので、変数変換などして上記の形式にもっていくことになる。この技術的詳細に関しては、適宜S.Aubouet et al.,”H-infinity/LPV observer for an industrial semi-active suspension,” IEEE Proc. Conf. on Control Applications, pp.756-763, 2009も参照されたい。
【0056】
しかし、全てのスケジューリング・パラメータについてwを入力することはできないので、メイン・プログラム202は、ステップ308で、LMI変換モジュール210によって、端点において上記LMIを用いたH基準による制御器を計算し、次にステップ310で、パラメータ選定時に計算したνギャップによって重み付けした双一次補間によって、一般化プラントへの制御器を構成する。
【0057】
なお、従来技術では、一般化プラントへの制御器Kは、下記のように、アフィン変換で表現できると暗黙的に仮定されていた。
【数17】


ここで、K(i)は、i番目の制御器である。
【0058】
これを、次の式のような、パラメータ選定時に計算したνギャップによって重み付けした双一次補間に置き換えたのが、本発明の1つの特徴である。
【数18】

【0059】
ここで、Nとして何個を選ぶのかで、実施例が分かれる。第1の実施例では、最初に与えられたパラメータのみが選ばれ、すなわち、そのパラメータについて、K(1)をminに固定されたときの制御器、K(2)を、maxに固定されたときの制御器とし、minとmidのそれぞれに固定したときの伝達関数間のνギャップをν1、midとmaxのそれぞれに固定したときの伝達関数間のνギャップをν2とし、p1とp2を下記の式で与えることによって、双一次補間により、制御器が構成される。
【数19】

【0060】
第2の実施例では、最初に与えられたパラメータと、その次のパラメータの2つが選ばれ、すなわち、それらのパラメータについて、{p1_min, p2_min}の端点で設計された制御器をK(1)、{p1_min, p2_max}の端点で設計された制御器をK(2)、{p1_max, p2_min}の端点で設計された制御器をK(3)、{p1_max, p2_max}の端点で設計された制御器をK(4)とし、p1_minとp2_minのそれぞれに固定したときの伝達関数間のνギャップをν1、p1_minとp2_maxのそれぞれに固定したときの伝達関数間のνギャップをν2、p1_maxとp2_minのそれぞれに固定したときの伝達関数間のνギャップをν3、p1_maxとp2_maxのそれぞれに固定したときの伝達関数間のνギャップをν4とし、p1、p2、p3、p4を下記の式で与えることによって、双一次補間により、制御器が構成される。
【数20】

【0061】
本発明の特徴に従い、線形補間でなく、νギャップによる重み付けを用いることは、非ユークリッド幾何的測地距離を考慮することになり、これにより、フィードバック制御の誤差を小さくすることにつながる。
【0062】
なお、3つ以上のパラメータを選んで制御器を構成する実施例も考えられるが、あまり選ぶパラメータの数を増やすと、制御器が複雑になって機能しない場合も生じるので、妥当な数に留めることが望ましい。
【0063】
以上本発明の実施例を説明してきたが、本発明は、特定のハードウェア、ソフトウェアなどのプラット・フォームに限定されず、任意のプラット・フォーム上で実現可能であることを、この分野の当業者は理解するであろう。
【符号の説明】
【0064】
102 システム・バス
104 CPU
106 主記憶
108 ハードティスク
108 ハードディスク・ドライブ
114 ディスプレイ
116 インターフェース・ボード
118 制御器
202 メイン・プログラム
204 LPVモデル
206 ギャップ計算モジュール
206 スケジューリング・パラメータ
208 ギャップ計算モジュール
210 変換モジュール
212 制御器構成モジュール
402 プラント
404 一般化プラント

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータの処理により、スケジューリング・パラメータが与えられた、LPVモデルで記述されたプラントから、制御器を構成する方法であって、
制約条件の要求に基づく、前記LPVモデルのプラント・パラメータ・ベクトルの各候補のMin、Max及び中間値の各々について、νギャップを計算するステップと、
前記νギャップ間の差の大きさに基づき、前記プラント・パラメータ・ベクトルの候補を選定するステップと、
前記LPVモデルをLMIに変換し、前記選定したプラント・パラメータ・ベクトルの最大値と最小値に関する全ての組み合わせ端点についてH基準により、制御器を求めるステップと、
前記選定されたプラント・パラメータ・ベクトルにより計算された前記νギャップによって重み付けした双一次補間によって、前記プラントへの制御器を構成するステップを有する、
制御器の構成方法。
【請求項2】
前記νギャップを計算するステップが、スケジューリング・パラメータのi番目の要素の最大値を代入した場合の伝達関数をTimax、最小値を代入した場合の伝達関数をTimin、その中間値を代入した場合の伝達関数をTimidとし、δν()をνギャップを計算する関数であるとしたとき、
νi_mid_max = δν(Timid,Timax)
νi_min_mid = δν(Timin,Timid)
νi_min_max = δν(Timin,Timax)
を計算し、
前記プラント・パラメータ・ベクトルの候補を選定するステップが、
(|νi_min_mid - νi_mid_max| + νi_min_max)の値に基づき、前記プラント・パラメータ・ベクトルの候補を選定する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記プラント・パラメータ・ベクトルの候補を選定するステップが、
(|νi_min_mid - νi_mid_max| + νi_min_max)の値が最大の候補のみ1つを選定し、前記双一次補間は、選定されたパラメータのminとmaxを固定した2点で行われる、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記プラント・パラメータ・ベクトルの候補を選定するステップが、
(|νi_min_mid - νi_mid_max| + νi_min_max)の値が最大の候補と、その次に最大の候補の2つを選定し、前記双一次補間は、最大の候補をp1、次に最大の候補をp2としたとき、p1_minとp2_min、p1_minとp2_max、p1_maxとp2_min、p1_maxとp2_maxをそれぞれ固定した4点で行われる、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
コンピュータの処理により、スケジューリング・パラメータが与えられた、LPVモデルで記述されたプラントから、制御器を構成するプログラムであって、
前記コンピュータに、
制約条件の要求に基づく、前記LPVモデルのプラント・パラメータ・ベクトルの各候補のMin、Max及び中間値の各々について、νギャップを計算するステップと、
前記νギャップ間の差の大きさに基づき、前記プラント・パラメータ・ベクトルの候補を選定するステップと、
前記LPVモデルをLMIに変換し、前記選定したプラント・パラメータ・ベクトルの最大値と最小値に関する全ての組み合わせ端点についてH基準により、制御器を求めるステップと、
前記選定されたプラント・パラメータ・ベクトルにより計算された前記νギャップによって重み付けした双一次補間によって、前記プラントへの制御器を構成するステップを実行させる、
制御器の構成プログラム。
【請求項6】
前記νギャップを計算するステップが、スケジューリング・パラメータのi番目の要素の最大値を代入した場合の伝達関数をTimax、最小値を代入した場合の伝達関数をTimin、その中間値を代入した場合の伝達関数をTimidとし、δν()をνギャップを計算する関数であるとしたとき、
νi_mid_max = δν(Timid,Timax)
νi_min_mid = δν(Timin,Timid)
νi_min_max = δν(Timin,Timax)
を計算し、
前記プラント・パラメータ・ベクトルの候補を選定するステップが、
(|νi_min_mid - νi_mid_max| + νi_min_max)の値に基づき、前記プラント・パラメータ・ベクトルの候補を選定する、請求項5に記載のプログラム。
【請求項7】
前記プラント・パラメータ・ベクトルの候補を選定するステップが、
(|νi_min_mid - νi_mid_max| + νi_min_max)の値が最大の候補のみ1つを選定し、前記双一次補間は、選定されたパラメータのminとmaxを固定した2点で行われる、請求項6に記載のプログラム。
【請求項8】
前記プラント・パラメータ・ベクトルの候補を選定するステップが、
(|νi_min_mid - νi_mid_max| + νi_min_max)の値が最大の候補と、その次に最大の候補の2つを選定し、前記双一次補間は、最大の候補をp1、次に最大の候補をp2としたとき、p1_minとp2_min、p1_minとp2_max、p1_maxとp2_min、p1_maxとp2_maxをそれぞれ固定した4点で行われる、請求項6に記載のプログラム。
【請求項9】
コンピュータの処理により、スケジューリング・パラメータが与えられた、LPVモデルで記述されたプラントから、制御器を構成するシステムであって、
記憶手段と、
前記記憶手段に格納された前記LPVモデル及びそのスケジューリング・パラメータと、
制約条件の要求に基づく、前記LPVモデルのプラント・パラメータ・ベクトルの各候補のMin、Max及び中間値の各々について、νギャップを計算する手段と、
前記νギャップ間の差の大きさに基づき、前記プラント・パラメータ・ベクトルの候補を選定する手段と、
前記LPVモデルをLMIに変換し、前記選定したプラント・パラメータ・ベクトルの最大値と最小値に関する全ての組み合わせ端点についてH基準により、制御器を求める手段と、
前記選定されたプラント・パラメータ・ベクトルにより計算された前記νギャップによって重み付けした双一次補間によって、前記プラントへの制御器を構成する手段を有する、
制御器の構成システム。
【請求項10】
前記νギャップを計算する手段が、スケジューリング・パラメータのi番目の要素の最大値を代入した場合の伝達関数をTimax、最小値を代入した場合の伝達関数をTimin、その中間値を代入した場合の伝達関数をTimidとし、δν()をνギャップを計算する関数であるとしたとき、
νi_mid_max = δν(Timid,Timax)
νi_min_mid = δν(Timin,Timid)
νi_min_max = δν(Timin,Timax)
を計算し、
前記プラント・パラメータ・ベクトルの候補を選定する手段が、
(|νi_min_mid - νi_mid_max| + νi_min_max)の値に基づき、前記プラント・パラメータ・ベクトルの候補を選定する、請求項9に記載の制御器の構成システム。
【請求項11】
前記プラント・パラメータ・ベクトルの候補を選定する手段が、
(|νi_min_mid - νi_mid_max| + νi_min_max)の値が最大の候補のみ1つを選定し、前記双一次補間は、選定されたパラメータのminとmaxを固定した2点で行われる、請求項10に記載の制御器の構成システム。
【請求項12】
前記プラント・パラメータ・ベクトルの候補を選定する手段が、
(|νi_min_mid - νi_mid_max| + νi_min_max)の値が最大の候補と、その次に最大の候補の2つを選定し、前記双一次補間は、最大の候補をp1、次に最大の候補をp2としたとき、p1_minとp2_min、p1_minとp2_max、p1_maxとp2_min、p1_maxとp2_maxをそれぞれ固定した4点で行われる、請求項10に記載の制御器の構成システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−113676(P2012−113676A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−264660(P2010−264660)
【出願日】平成22年11月29日(2010.11.29)
【出願人】(390009531)インターナショナル・ビジネス・マシーンズ・コーポレーション (4,084)
【氏名又は名称原語表記】INTERNATIONAL BUSINESS MASCHINES CORPORATION
【Fターム(参考)】