説明

制御装置及び液体噴射装置

【課題】印刷開始までの待機時間を短縮すると共に印刷品質のばらつきを抑制することができる制御装置及び液体噴射装置を提供する。
【解決手段】液体噴射ヘッド1の流路内に充填された加熱された液体をノズル開口から吐出することで被噴射媒体に印刷を行う印刷開始前に、前記液体噴射ヘッド1の前記流路内の液体を前記ノズル開口から排出させて、加熱された液体によって前記液体噴射ヘッド1が印刷温度に達するまで加熱し、当該液体噴射ヘッド1が印刷温度に達した後に前記ノズル開口からの液体の排出を停止するように制御する排出制御手段55を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノズル開口から液体を噴射する液体噴射ヘッドを制御する制御装置及び制御装置を具備する液体噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液滴を吐出する液体噴射ヘッドの代表例としては、インク滴を噴射するインクジェット式記録ヘッドが挙げられる。インクジェット式記録ヘッドとしては、例えば、ノズルが穿設されたノズルプレートと、ノズルに連通する複数の圧力発生室を含む液体流路が形成された流路形成基板と、この流路形成基板の一方面側に形成される圧力発生手段とを具備するものがある。
【0003】
最近では、紙だけでなく、プラスチックやガラス等の印刷対象に印刷する需要も増加している。このような印刷対象はインクの吸収性が低いため、印刷対象にインクを確実に定着させるべく高粘度のインクが用いられている。高粘度のインクは、常温においては粘度が高すぎるため、インクジェット式記録ヘッドでは、液体流路内のインクを加熱してインクの粘度を低下させている。インクの粘度を低下させることにより、インクは液体流路を安定して流通するため、良好なインクの吐出特性が得られるようになっている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−19790号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、記録ヘッドの内部の全ての流路を温めるヒーター等の加熱手段を設けることはできず、加熱手段が記録ヘッドを加熱したとしても、記録ヘッド全体の温度に偏りが生じ、記録ヘッド全体を所望の温度に偏りなく加熱するためには、長時間の加熱時間が必要になり、印刷開始までの待機時間が長くなってしまうという問題がある。
【0006】
また、記録ヘッド全体の温度に偏りがあると、十分に温められていないインクが吐出されるため、高粘度なインクを所望の吐出特性で吐出させることができず、印刷品質にばらつきが生じ、印刷品質が低下してしまうという問題がある。
【0007】
なお、このような問題は、インクジェット式記録ヘッドを制御する制御装置だけではなく、インク以外の液体を噴射する液体噴射ヘッドの制御装置においても同様に存在する。
【0008】
本発明はこのような事情に鑑み、印刷開始までの待機時間を短縮すると共に印刷品質のばらつきを抑制することができる制御装置及び液体噴射装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する本発明の態様は、液体噴射ヘッドの流路内に充填された加熱された液体をノズル開口から吐出することで被噴射媒体に印刷を行う印刷開始前に、前記液体噴射ヘッドの前記流路内の液体を前記ノズル開口から排出させて、加熱された液体によって前記液体噴射ヘッドが印刷温度に達するまで加熱し、当該液体噴射ヘッドが印刷温度に達した後に前記ノズル開口からの液体の排出を停止するように制御する排出制御手段を有することを特徴とする制御装置にある。
【0010】
かかる態様では、排出制御手段によって液体噴射ヘッド内の液体をノズル開口から排出することで、ヘッド全体を加熱された液体を用いて短時間で加熱することができる。また、ヘッド全体を加熱する加熱手段を設ける必要がなく、一部の液体を加熱する加熱手段を設ければよいため、小型化することができる。
【0011】
ここで、前記排出制御手段が、前記液体噴射ヘッド内に設けられて、前記流路内に圧力変化を生じさせて前記ノズル開口から液体を吐出させる圧力発生手段を駆動することで、当該流路内の液体を前記ノズル開口から排出させることが好ましい。これによれば、ノズル開口から液体を排出する手段を別途設ける必要がなく、コストを低減することができる。
【0012】
また、前記排出制御手段は、前記圧力発生手段に前記被噴射媒体への印刷時よりも単位時間当たりの液体の消費量が少ない駆動波形で駆動させることが好ましい。これによれば、ノズル開口の液体のメニスカスが破壊されるのを抑制して、印刷時の液体の吐出を正常に行わせることができる。
【0013】
また、前記排出制御手段が、前記液体噴射ヘッドの前記流路に接続されて液体を供給する供給ポンプを制御することで、前記流路内の液体を前記ノズル開口から排出させることが好ましい。これによれば、供給ポンプによってノズル開口から液体を確実に排出させることができる。
【0014】
また、前記排出制御手段が、前記液体噴射ヘッドの前記ノズル開口から液体を吸引する吸引手段を制御することにより、前記流路内の液体を前記ノズル開口から排出させることが好ましい。これによれば、吸引手段によってノズル開口から液体を確実に排出させることができる。
【0015】
さらに、本発明の他の態様は、上記態様の制御装置と、ノズル開口から液体を噴射する液体噴射ヘッドと、当該液体噴射ヘッドの流路内を流れる液体を加熱する加熱手段と、を具備することを特徴とする液体噴射装置にある。
かかる態様では、ヘッド全体が印刷温度に達するまでの待機時間を短縮して、速やかに印刷を開始することができる液体噴射装置を実現できる。
【0016】
ここで、前記加熱手段が、前記液体噴射ヘッドに設けられていることが好ましい。これによれば、加熱手段によって液体噴射ヘッドを直接加熱することができると共に、液体噴射ヘッド内の液体を加熱することができる。
【0017】
また、前記加熱手段が、前記液体噴射ヘッドに供給する液体が貯留された液体貯留部に設けられていてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施形態1に係る記録装置の概略構成を示す斜視図である。
【図2】実施形態1に係る記録ヘッドの断面図である。
【図3】実施形態1に係る記録装置の制御系を示すブロック図である。
【図4】実施形態2に係る記録装置の制御系を示すブロック図である。
【図5】実施形態3に係る記録装置の制御系を示すブロック図である。
【図6】実施形態3に係る駆動波形を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係る液体噴射装置の一例であるインクジェット式記録装置の概略構成を示す斜視図である。
【0020】
図1に示すように、液体噴射装置の一例であるインクジェット式記録装置Iは、インクジェット式記録ヘッド1を具備する。
【0021】
インクジェット式記録ヘッド1(以下、記録ヘッド1とも言う)は、キャリッジ3に搭載され、キャリッジ3は装置本体4に取り付けられたキャリッジ軸5に軸方向移動自在に設けられている。
【0022】
そして、駆動モーター6の駆動力が図示しない複数の歯車およびタイミングベルト7を介してキャリッジ3に伝達されることで、インクジェット式記録ヘッド1を搭載したキャリッジ3はキャリッジ軸5に沿って移動される。一方、装置本体4にはキャリッジ軸5に沿ってプラテン8が設けられており、図示しない給紙ローラーなどにより給紙された紙等の記録媒体である記録シートSがプラテン8に巻き掛けられて搬送されるようになっている。
【0023】
また、記録ヘッド1には、装置本体4に固定されてインクを貯留する液体貯留部100がフレキシブルチューブ等の供給管101を介して接続されている。また、供給管101の途中には、供給ポンプ102が取り付けられており、液体貯留部100からのインクは、供給ポンプ102の圧力によって各記録ヘッド1に供給される。なお、液体貯留部100は、記録ヘッド1よりも鉛直方向下に配置されており、水頭差によって液体貯留部100から記録ヘッド1にインクを供給することができない。このため、供給ポンプ102によって液体貯留部100のインクを記録ヘッド1に供給している。
【0024】
また、液体貯留部100には、ヒーター等の第1の加熱手段103が設けられており、液体貯留部100のインクは、第1の加熱手段103によって加熱されて記録ヘッドに供給される。
【0025】
さらに、インクジェット式記録装置Iの非印刷領域には、詳しくは後述する記録ヘッド1のノズル開口13から流路内のインクや気泡等を吸引する吸引手段110が設けられている。
【0026】
吸引手段110は、記録ヘッド1のノズル開口13を覆うキャップ部材111と、キャップ部材111にチューブ112を介して接続された例えば真空ポンプ等の吸引装置113とを具備する。
【0027】
このような構成の吸引手段110は、キャップ部材111を記録ヘッド1の吐出面に当接させて、吸引装置113に吸引動作を行わせることでキャップ部材111の内部を負圧として、ノズル開口13から流路内のインクを気泡と共に吸引してクリーニングを行う。また、印刷休止中には、キャップ部材111によってノズル開口13を封止することによりノズル開口13の乾燥を抑制するようにしてもよい。
【0028】
また、インクジェット式記録装置Iには、詳しくは後述するが、当該インクジェット式記録装置Iの動作を制御する制御装置50が設けられている。
【0029】
ここで、このようなインクジェット式記録装置Iに搭載されたインクジェット式記録ヘッド1について説明する。図2は、本発明の実施形態1に係る液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記録ヘッドを示す断面図である。
【0030】
図2に示すインクジェット式記録ヘッド1は、縦振動型の圧電素子が圧力発生手段として設けられたものであり、流路基板11には、複数の圧力発生室12が並設され、流路基板11の両側は、各圧力発生室12に対応してノズル開口13を有するノズルプレート14と、振動板15とにより封止されている。また、流路基板11には、各圧力発生室12毎にそれぞれインク供給口16を介して連通されて複数の圧力発生室12の共通のインク室となるマニホールド17が形成されており、マニホールド17には、液体貯留部が接続される。
【0031】
一方、振動板15の圧力発生室12とは反対側には、各圧力発生室12に対応する領域にそれぞれ圧電素子18の先端が当接されて設けられている。これらの圧電素子18は、圧電材料19と、電極形成材料20及び21とを縦に交互にサンドイッチ状に挟んで積層され、振動に寄与しない不活性領域が固定基板22に固着されている。なお、固定基板22と、振動板15、流路基板11及びノズルプレート14とは、ヘッドケース23を介して一体的に固定されている。
【0032】
また、ヘッドケース23には、液体貯留部100に接続された供給管101が接続されると共にマニホールド17に接続された液体供給路24が設けられている。液体貯留部100からのインクは、液体供給路24を介してマニホールド17に供給され、インク供給口16を介して各圧力発生室12に分配される。実際には、圧電素子18に電圧を印加することにより圧電素子18を収縮させる。これにより、振動板15が圧電素子18と共に変形されて(図中上方向に引き上げられて)圧力発生室12の容積が広げられ、圧力発生室12内にインクが引き込まれる。そして、ノズル開口13に至るまで内部をインクで満たした後、記録ヘッド駆動回路からの記録信号に従い、圧電素子18の電極形成材料20及び21に印加していた電圧を解除すると、圧電素子18が伸張されて元の状態に戻る。これにより、振動板15も変位して元の状態に戻るため圧力発生室12が収縮され、内部圧力が高まりノズル開口13からインク滴が吐出される。すなわち、本実施形態では、圧力発生室12に圧力変化を生じさせる圧力発生手段として縦振動型の圧電素子18が設けられている。
【0033】
また、ヘッドケース23の外周側には、ヘッドケース23内に設けられた液体供給路24を通過するインクを加熱する電熱ヒーター等の第2の加熱手段25が設けられている。第2の加熱手段25は、ヘッドケース23の液体供給路24内を通過するインクを加熱して、加熱されたインクをマニホールド17に供給する。なお、本実施形態では、液体貯留部100にも第1の加熱手段103が設けられており、液体貯留部100に貯留されたインクが加熱されているが、液体貯留部100から記録ヘッド1に供給管101を介してインクを供給する間に、加熱されたインクが冷めてしまい記録ヘッド1から吐出されるインクの温度が低下してしまう虞がある。このため、本実施形態では、液体貯留部100で加熱されたインクを、記録ヘッド1の第2の加熱手段25によって再度加熱して保温することで、記録ヘッド1から常に一定に加熱されたインクが吐出されるようにしている。
【0034】
このように本実施形態では、加熱手段(第1の加熱手段103及び第2の加熱手段25)を液体貯留部100と記録ヘッド1との両方に設けるようにしたが、特にこれに限定されず、例えば、加熱手段を液体貯留部100及び記録ヘッド1の何れか一方に設けるようにしてもよい。特に、本実施形態では、液体貯留部100に第1の加熱手段103を設けただけとしても、印刷開始前に記録ヘッド1の流路内のインクをノズル開口13から排出するため、液体貯留部100で加熱されたインクによって記録ヘッド1全体を所望の温度に短時間で加熱することができる。
【0035】
ここで、このようなインクジェット式記録装置を制御する制御装置50について説明する。なお、図3は、本発明の実施形態1に係る記録装置の制御系を示すブロック図である。
【0036】
図3に示すように、インクジェット式記録装置Iでは、実際の印刷を行う機構部となる記録ヘッド1と、記録ヘッド1のノズル開口13からインクを吸引する吸引手段110(図1参照)と、記録ヘッド1及び吸引手段110の動作を制御する制御装置50と、を具備する。
【0037】
制御装置50は、印刷制御手段51、記録ヘッド駆動回路52、印刷位置制御手段53、吸引制御手段54及び排出制御手段55を具備する。
【0038】
印刷制御手段51は、記録ヘッド1の印刷動作を制御し、例えば、印刷信号の入力に伴って記録ヘッド駆動回路52を介して圧電素子18に駆動パルスを印加して、記録ヘッド1からインクを吐出させる。
【0039】
印刷位置制御手段53は、記録ヘッド1の印刷時、キャッピング時、排出動作時の主走査方向及び副走査方向の位置決めを行う。詳しくは、印刷位置制御手段53は、駆動モーター6を駆動してキャリッジ3を主走査方向に移動することで記録ヘッド1の主走査方向の位置決めを行い、図示しない紙送りモーターを駆動してプラテン8を回転し記録シートSを副走査方向に移動することで記録シートSに対する記録ヘッド1の副走査方向の位置決めを行っている。そして、印刷位置制御手段53は、印刷時には記録ヘッド1が搭載されたキャリッジ3を主走査方向に移動させながら、記録シートSを副走査方向に移動させる。また、印刷停止時やクリーニング動作時などのキャッピング時には、記録ヘッド1が搭載されたキャリッジ3を非印刷領域に設けられた吸引手段110側に移動させる。
【0040】
吸引制御手段54は、吸引手段110の吸引動作を制御する。すなわち、吸引制御手段54は、所定のタイミングで吸引手段110の吸引装置113を動作させて、吸引手段110による記録ヘッド1のノズル開口13近傍のインクを吸引する吸引動作を行わせる。詳しくは、吸引制御手段54は、印刷位置制御手段53を介して記録ヘッド1をキャップ部材111に対向する位置に移動し、記録ヘッド1をキャップ部材111でキャッピングさせて吸引装置113を駆動することで吸引動作を行わせる。
【0041】
排出制御手段55は、所定のタイミングで記録ヘッド1の流路内のインクをノズル開口13から排出させるように制御する。本実施形態では、排出制御手段55は、液体貯留部100から記録ヘッド1にインクを供給する供給ポンプ102の動作を制御して、流路内のインクをノズル開口13から排出させる。
【0042】
具体的には、排出制御手段55は、インクジェット式記録装置Iの電源投入時や印刷開始時などに、供給ポンプ102を駆動させて液体貯留部100からのインクを記録ヘッド1に供給する。また、排出制御手段55は、電源切断時や印刷停止時などに供給ポンプ102を停止させて液体貯留部100から記録ヘッド1へのインクの供給を停止する。
【0043】
そして、排出制御手段55は、所定のタイミングで供給ポンプ102によるインクの供給量を変更させる制御を行う。すなわち、排出制御手段55は、インクジェット式記録装置Iの電源投入時や印刷開始時などに、供給ポンプ102によるインクを供給する圧力を通常の印刷時よりも高くして、ノズル開口13のインクのメニスカスを破壊して、ノズル開口13からインクを排出させる。
【0044】
ここで、インクジェット式記録装置Iの電源投入時や印刷開始時などは、第1の加熱手段103及び第2の加熱手段25による加熱が行われる。このとき、第1の加熱手段103は液体貯留部100に設けられていることから記録ヘッド1を直接加熱することができず、また、第2の加熱手段25はヘッドケース23に設けられていることから、記録ヘッド1全体の温度に偏りが生じ、記録ヘッド全体を所望の温度に偏りなく加熱するためには、長時間の加熱時間が必要になり、印刷開始までの待機時間が長くなってしまう。また、記録ヘッド1全体の温度に偏りがあると、十分に温められていないインクが吐出されるため、高粘度なインクを所望の吐出特性で吐出させることができず、印刷品質にばらつきが生じ、印刷品質が低下してしまう。
【0045】
このため、排出制御手段55は、インクジェット式記録装置Iの電源投入時や印刷開始時などの記録ヘッド1全体の温度に偏りが生じる際に、供給ポンプ102を制御することで、記録ヘッド1の流路内のインクをノズル開口13から排出させる。すなわち、第2の加熱手段25はヘッドケース23に設けられているため、第2の加熱手段25に近い流路である液体供給路24内のインクは比較的早く暖まる。このため、記録ヘッド1の流路内のインクをノズル開口13から排出することで、液体供給路24よりも下流側のマニホールド17や圧力発生室12内に液体供給路24で暖まったインクを充填し、記録ヘッド1の第2の加熱手段25が設けられていない構成部材(例えば、流路基板11やノズルプレート14等)を温めることで、記録ヘッド1全体を短時間で所望の温度に加熱することができる。そして、記録ヘッド1全体を所望の温度に加熱することで、記録ヘッド1の流路内のインクが所望の温度に加熱された状態で印刷を開始することができるため、所望の温度のインクを好適な吐出特性で吐出させることができ、高精度な印刷物を得ることができる。すなわち、ノズル開口13からインクを排出しながら加熱することで、電源投入時や印刷開始時などに記録ヘッド1全体が所望の温度に達するまでの時間(実際に印刷を開始するまでの待機時間)を短縮することができる。
【0046】
ちなみに、第2の加熱手段25によって液体供給路24内のインクを加熱し、この加熱されたインクを圧力発生室12内に充填して印刷を行うことも考えられるものの、記録ヘッド1を構成する流路基板11やノズルプレート14等の温度がインクの温度よりも低いと、加熱されたインクが圧力発生室12に充填された時点で熱交換が行われてインクの温度が低下するため、印刷を開始することができない。したがって、所望の温度のインクを吐出させる場合には、記録ヘッド1全体を所望の温度に加熱する必要がある。
【0047】
なお、供給ポンプ102によってノズル開口13から排出されたインクは、例えば、キャップ部材111が受け止めるようにすればよい。したがって、排出制御手段55は、吸引装置113を制御して排出動作を行わせると共に、印刷位置制御手段53や吸引制御手段54等を同時に制御するようにすればよい。また、ノズル開口13から排出されたインクは、液体貯留部100に戻すようにすれば、インクの無駄な消費を抑制することができると共に、第1の加熱手段103によって加熱して記録ヘッド1に供給することができる。
【0048】
なお、本実施形態では、記録ヘッド1に第2の加熱手段25を設け、第2の加熱手段25によって記録ヘッド1全体を加熱するようにしたが、記録ヘッド1の流路内のインクをノズル開口13から排出するため、液体貯留部100に設けられた第1の加熱手段103のみによっても、記録ヘッド1全体を加熱することができる。
【0049】
また、排出制御手段55によって、ノズル開口13から流路内の液体を排出させる時間(インク量)は、特に限定されないが、例えば、記録ヘッド1の第2の加熱手段25から離れた位置に温度センサーを設け、記録ヘッド1が所望の温度に達するまで、ノズル開口13からインクの排出を行っても良い。もちろん、ノズル開口13からインクを排出させる時間(インク量)は、この方法に限定されず、例えば、インクジェット式記録装置Iの外気温を取得する温度センサーを設け、温度センサーが取得した外気温と、前回の印刷を停止してからの経過時間とから記録ヘッド1の温度を推定してノズル開口13から排出するインク量を決定してもよい。ちなみに、ノズル開口13からインクを排出する量は、供給ポンプ102によるインクの供給量や、記録ヘッド1の流路内のインク量等によって供給ポンプ102を排出用に駆動する時間で規定することができる。
【0050】
さらに、排出制御手段55によって、ノズル開口13から記録ヘッド1内のインクを排出させるタイミングは、特に限定されないが、例えば、電源投入時や印刷開始時などの一定期間以上印刷が実行されなかった場合などである。このため、例えば、印刷停止時間を測定する計時手段を設け、計時手段の測定した印刷停止時間が一定以上となった場合に、排出制御手段55によってノズル開口13から記録ヘッド1内のインクを排出させるようにしてもよい。
【0051】
排出制御手段55と第1及び第2の加熱手段103、25とによって記録ヘッド1全体が印刷温度に加熱されたら、排出制御手段55によるノズル開口13からのインクの排出を停止させた後、印刷制御手段51からの信号によって印刷が開始される。ここで、印刷温度とは、圧力発生室12に供給された加熱されたインクの温度が低下せずに、所望の温度のインクを吐出できる温度のことである。例えば、加熱されたインクの温度と同じ温度を印刷温度として、印刷温度に記録ヘッド1全体が加熱されれば、加熱されたインクを記録ヘッド1を構成する部材が冷却することがないが、記録ヘッド1の温度は、外部の環境温度に依存するため、実質的には記録ヘッド1の液体流路近傍がインク温度と同じ温度となっていればよい。
【0052】
以上説明したように、電源投入時や印刷開始時など排出制御手段55によって、供給ポンプ102を制御することで、ノズル開口13から流路内のインクを排出させることで、記録ヘッド1全体を所望の温度に短時間で加熱することができ、印刷を開始するまでの待機時間を短縮することができる。
【0053】
(実施形態2)
図4は、本発明の実施形態2に係る制御装置の概略構成を示すブロック図である。なお、上述した実施形態1と同様の部材には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
【0054】
図4に示すように、本実施形態の制御装置50Aは、印刷制御手段51、記録ヘッド駆動回路52、印刷位置制御手段53、吸引制御手段54、排出制御手段55Aを具備する。
【0055】
排出制御手段55Aは、所定のタイミングで、吸引制御手段54に吸引動作を行わせる制御を行う。すなわち、排出制御手段55Aは、所定のタイミングで吸引制御手段54に吸引装置113の制御を行わせて、ノズル開口13からインクを吸引することで、流路内のインクを排出させる。
【0056】
このような排出制御手段55Aが排出動作を行わせるタイミングについても、上述した実施形態1と同様に、電源投入時や印刷開始時などである。
【0057】
このように、本実施形態のように、排出制御手段55Aが、吸引制御手段54を制御して、吸引制御手段54による吸引装置113の制御によって記録ヘッド1の流路内のインクをノズル開口13から排出させるようにしてもよい。もちろん、上述した実施形態1の排出制御手段55による制御、すなわち、供給ポンプ102によるインクの排出と、本実施形態の吸引手段110によるインクの排出とを同時に行うようにしてもよい。なお、本実施形態では、排出制御手段55Aと、吸引制御手段54とを例示したが、これらの機能は実質的に同じであるため、排出制御手段55Aとしての機能を有する吸引制御手段54のみを設けてもよい。
【0058】
(実施形態3)
図5は、本発明の実施形態3に係る制御装置の概略構成を示すブロック図である。なお、上述した実施形態1と同様の部材には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
【0059】
図5に示すように、本実施形態の制御装置50Bは、印刷制御手段51、記録ヘッド駆動回路52、印刷位置制御手段53、吸引制御手段54及び排出制御手段55Bを具備する。
【0060】
本実施形態の排出制御手段55Bは、記録ヘッド1の圧力発生手段である圧電素子18を駆動して、ノズル開口13から流路内のインクを排出させる。ここで、ノズル開口13から流路内のインクを排出させるとは、印刷のように記録シートSに向かってインクを吐出するのとは異なり、ホームポジションに設けられた、例えば、キャップ部材111に向かってインクを吐出(排出)することを言う。
【0061】
また、排出制御手段55Bによって圧電素子18を駆動して、ノズル開口13からインクを排出させる際には、圧力発生室12内のインクの温度が低く、粘度が高いことから、インク吐出不良が発生して、ノズル開口13のインクのメニスカスが破壊されてしまう虞がある。このため、排出制御手段55Bによってノズル開口13からインクを排出させる際には、通常の印刷時(記録シートSへのインクの吐出)に比べて、単位時間当たりのインク消費量が少ない駆動波形で圧電素子18を駆動するのが好ましい。
【0062】
ここで、本実施形態の記録ヘッド駆動回路から出力される駆動波形について説明する。なお、図6は、駆動信号の駆動波形を示す図である。
【0063】
圧電素子18に入力される駆動波形は、共通電極を基準電位(本実施形態では0V)として、個別電極に印加されるものである。
【0064】
通常の印刷時に圧電素子18を駆動する駆動信号の駆動波形120は、図6(a)に示すように、中間電位Vmを維持した状態から第1電位V1まで上昇させる第1膨張要素P01と、第1電位V1を一定時間維持する第1ホールド要素P02と、第1電位V1から中間電位Vmまで降下させる第1収縮要素P03と、を具備する。そして、このような駆動波形120が圧電素子18に供給されると、第1膨張要素P01によって、圧電素子18が圧力発生室12の容積を膨張させる方向に変形して、ノズル開口13内のメニスカスが圧力発生室12側に引き込まれると共に、圧力発生室12にはマニホールド17側からインクが供給される。そして、圧力発生室12の膨張状態は、第1ホールド要素P02で維持される。次に、第1収縮要素P03が供給されて圧電素子18が伸長する。これにより、圧力発生室12は膨張容積から中間電位Vmに対応する容積まで急激に収縮され、圧力発生室12内のインクが加圧されてノズル開口13からインク滴が吐出される。なお、このような第1膨張要素P01、第1ホールド要素P02及び第1収縮要素P03からなる駆動波形が、一定周期tで繰り返し発生され、所定のタイミングで圧電素子18に選択的に印加される。
【0065】
これに対して、排出制御手段55Bによって圧電素子18に印加する駆動波形121は、例えば、図6(b)に示すように、第1膨張要素P01、第1ホールド要素P02及び第1収縮要素P03を有する駆動波形121が、印刷動作時の駆動波形120の周期tの倍の周期である周期tで圧電素子18に繰り返し印加される。このような駆動波形121で圧電素子18を駆動すると、インク滴を吐出した後、次のインク滴を吐出するまでの時間が長くなるため、インクの粘度が高くても、マニホールド17から各圧力発生室12までインクを十分に充填することができる。ちなみに、駆動波形120のように周期tが短いと次のインク滴を吐出するまでの時間が短く、高粘度インクの場合にはマニホールド17から圧力発生室12までのインクの供給不足が発生する。インクの供給不足が発生した状態で圧電素子18を駆動すると、ノズル開口13のメニスカスが圧力発生室12内に引き込まれる方向に強く働き、ノズル開口13のインクのメニスカスが破壊されてしまう。したがって、図6(b)に示す、比較的長い周期tの駆動波形121で圧電素子18を駆動することで、ノズル開口13のインクのメニスカスが破壊されるのを抑制して、実際の印刷動作時にインク吐出不良によるドット抜けを抑制することができる。
【0066】
また、排出制御手段55Bによって圧電素子18に印加する駆動波形122は、例えば、図6(c)に示すように、中間電位Vmから第1電位V1よりも低い第2電位V2まで上昇させる第2膨張要素P11と、第2電位V2を一定時間維持する第2ホールド要素P12と、第2電位V2から中間電位Vmまで降下させる第2収縮要素P13と、を具備する。
【0067】
このような駆動波形122では、通常の印刷時に圧電素子18に印加する電圧(第1電位V1−中間電位Vm)に比べて、低い電圧を圧電素子18に印加するため、圧力発生室12を膨張・収縮させる容積変化を小さくすることができる。これにより、高粘度のインクであっても圧力発生室12への供給不良が発生するのを抑制して、ノズル開口13のメニスカスが破壊されるのを抑制することができる。
【0068】
印刷制御手段51は、このような駆動波形121や122を用いて、圧電素子18を駆動して、流路内のインクをノズル開口13から排出することで、第1及び第2の加熱手段103、25によって加熱されたインクをノズル開口13に至るまで充填させて、記録ヘッド1全体を短時間で加熱することができる。そして、上述した実施形態1と同様に、記録ヘッド1全体を加熱した後、印刷を開始することで、所望の温度に加熱したインクを所望の吐出特性で吐出させて、印刷することができる。
【0069】
このように、本実施形態では、排出制御手段55Bが、圧電素子18を駆動して、流路内のインクをノズル開口13から排出する。これにより、第1及び第2の加熱手段103、25によって加熱されたインクによって記録ヘッド1全体を所望の温度に短時間で加熱することができ、印刷開始までの待機時間を短縮することができる。もちろん、本実施形態であっても、加熱手段103、25は、液体貯留部100及び記録ヘッド1の少なくとも一方に設ければよい。
【0070】
なお、本実施形態では、排出制御手段55Bは、圧電素子18を駆動することで、ノズル開口13からインクを排出させるようにしたが、特にこれに限定されず、上述した実施形態1の供給ポンプ102の制御及び実施形態2の吸引手段110の制御の何れか一方又は両方と組み合わせるようにしてもよい。
【0071】
(他の実施形態)
以上、本発明の各実施形態について説明したが、本発明の基本的な構成は上述したものに限定されるものではない。
【0072】
例えば、上述した各実施形態では、流路(圧力発生室)に圧力変化を生じさせる圧力発生手段として、圧電材料19と電極形成材料20、21とを交互に積層させて軸方向に伸縮させる縦振動型の圧電素子18を例示したが、圧力発生手段は、特にこれに限定されるものではなく、圧電材料19と電極形成材料20、21とを交互に積層させて積層方向の一端部を振動板15に当接させる横振動型の圧電素子を用いるようにしてもよい。
【0073】
また、圧力発生手段としては、例えば、下電極、圧電材料からなる圧電体層及び上電極を成膜及びリソグラフィ法によって形成した薄膜型の圧電素子を用いてもよく、また、グリーンシートを貼付する等の方法により形成される厚膜型の圧電素子を使用することもできる。また、圧力発生手段として、圧力発生室内に発熱素子を配置して、発熱素子の発熱で発生するバブルによってノズル開口から液滴を吐出するものや、振動板と電極との間に静電気を発生させて、静電気力によって振動板を変形させてノズル開口から液滴を吐出させるものなども使用することができる。
【0074】
また、上述したインクジェット式記録装置Iでは、インクジェット式記録ヘッド1がキャリッジ3に搭載されて主走査方向に移動するものを例示したが、特にこれに限定されず、例えば、インクジェット式記録ヘッド1が固定されて、紙等の記録シートSを副走査方向に移動させるだけで印刷を行う、所謂ライン式記録装置にも本発明を適用することができる。
【0075】
なお、上記各実施形態においては、液体噴射ヘッドの一例としてインクジェット式記録ヘッドを、また液体噴射装置の一例としてインクジェット式記録装置を挙げて説明したが、本発明は、広く液体噴射ヘッド及び液体噴射装置全般を対象としたものであり、インク以外の液体を噴射する液体噴射ヘッドや液体噴射装置にも勿論適用することができる。その他の液体噴射ヘッドとしては、例えば、プリンター等の画像記録装置に用いられる各種の記録ヘッド、液晶ディスプレイ等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレイ、FED(電界放出ディスプレイ)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等が挙げられ、かかる液体噴射ヘッドを備えた液体噴射装置にも適用できる。
【符号の説明】
【0076】
I インクジェット式記録装置(液体噴射装置)、 1 インクジェット式記録ヘッド(液体噴射ヘッド)、 11 流路基板、 13 ノズル開口、 17 マニホールド、 18 圧電素子、 25 第2の加熱手段、 100 液体貯留部、 102 供給ポンプ、 103 第1の加熱手段、 110 吸引手段、 113 吸引装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体噴射ヘッドの流路内に充填された加熱された液体をノズル開口から吐出することで被噴射媒体に印刷を行う印刷開始前に、前記液体噴射ヘッドの前記流路内の液体を前記ノズル開口から排出させて、加熱された液体によって前記液体噴射ヘッドが印刷温度に達するまで加熱し、当該液体噴射ヘッドが印刷温度に達した後に前記ノズル開口からの液体の排出を停止するように制御する排出制御手段を有することを特徴とする制御装置。
【請求項2】
前記排出制御手段が、前記液体噴射ヘッド内に設けられて、前記流路内に圧力変化を生じさせて前記ノズル開口から液体を吐出させる圧力発生手段を駆動することで、当該流路内の液体を前記ノズル開口から排出させることを特徴とする請求項1記載の制御装置。
【請求項3】
前記排出制御手段は、前記圧力発生手段に前記被噴射媒体への印刷時よりも単位時間当たりの液体の消費量が少ない駆動波形で駆動させることを特徴とする請求項2記載の制御装置。
【請求項4】
前記排出制御手段が、前記液体噴射ヘッドの前記流路に接続されて液体を供給する供給ポンプを制御することで、前記流路内の液体を前記ノズル開口から排出させることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の制御装置。
【請求項5】
前記排出制御手段が、前記液体噴射ヘッドの前記ノズル開口から液体を吸引する吸引手段を制御することにより、前記流路内の液体を前記ノズル開口から排出させることを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載の制御装置。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか一項に記載の制御装置と、ノズル開口から液体を噴射する液体噴射ヘッドと、当該液体噴射ヘッドの流路内を流れる液体を加熱する加熱手段と、を具備することを特徴とする液体噴射装置。
【請求項7】
前記加熱手段が、前記液体噴射ヘッドに設けられていることを特徴とする請求項6記載の液体噴射装置。
【請求項8】
前記加熱手段が、前記液体噴射ヘッドに供給する液体が貯留された液体貯留部に設けられていることを特徴とする請求項6又は7記載の液体噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−178041(P2011−178041A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−44791(P2010−44791)
【出願日】平成22年3月1日(2010.3.1)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】