説明

制振ダンパ

【課題】本発明はピストンストロークを記録する記録装置の取付作業を短時間で行えることを課題とする。
【解決手段】制振ダンパ10は、シリンダ20と、ピストンロッド30と、カバー部材40と、第1取付部50と、第2取付部60と、記録装置70とを有する。記録装置70は、記録板72とマーキング部材74とを有し、地震発生時のピストン往復動に伴うカバー部材40とシリンダ20との相対変位による変位量を記録する。記録装置70のマーキング部材74は、軸方向に延在する棒状の支持部材80のほぼ中間部分に支持されている。支持部材80は、一端にカバー部材40の縁部に締結部材90により固定される固定部82が設けられ、他端にシリンダ20の外周に締結されたガイド部材100に摺動可能に支持される摺動部84が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は構造物の振動を抑制する制振ダンパに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、高層建築物などの構造物においては、地震による振動エネルギを吸収するように構成された制振ダンパが取り付けられている。この種の制振ダンパでは、地震による構造物の振幅を抑制するように減衰力を発生させることで構造物の振動を抑える構成になっている。
【0003】
また、地震による制振ダンパの制振動作が機能したかを確認するため、地震発生時のシリンダとピストンとの相対変位を記録する記録装置を取り付けることが検討されている。この種の記録装置としては、けがき針をけがき板に押圧し、けがき板に対してけがき針が相対変位することで振動が入力された際の振幅を記録するものがある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−227544号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
構造物の内部に設置された制振ダンパにおいては、設置後に記録装置を取り付ける作業が簡単且つ短時間で行えることが要望されている。
【0006】
そこで、本発明は上記事情に鑑み、上記課題を解決した制振ダンパの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明は以下のような手段を有する。
【0008】
本発明は、作動油が充填されたシリンダ室を有するシリンダと、
該シリンダ室内を摺動するピストンに連結されたピストンロッドと、
該ピストンロッドに取り付けられ、前記シリンダ及び前記ピストンロッドを覆うカバー部材と、
前記シリンダの端部に設けられた第1取付部と、
前記ピストンロッドの端部に設けられた第2取付部と、
を備えた制振ダンパにおいて、
前記ピストンの往復動に伴う前記カバー部材と前記シリンダとの相対変位に伴う変位量を記録する記録装置を設け、
前記記録装置は、
前記カバー部材の外周又は前記シリンダの外周の何れか一方に取り付けられた記録板と、
前記記録板に対向するようにカバー部材又は前記シリンダの何れか他方に取り付けられ、前記カバー部材と前記シリンダとの相対変位量を前記記録板に記録するマーキング部材と、
を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、カバー部材の外周又はシリンダの外周の何れか一方に記録板を取り付け、記録板に対向するようにカバー部材又はシリンダの何れか他方にマーキング部材を取り付けるため、記録装置の取付作業が容易且つ短時間に行える。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明による制振ダンパの一実施例を示す正面図である。
【図2】制振ダンパに取り付けられた記録装置を拡大して示す図であり、(A)は正面図、(B)は支持部材を左側からみた左側面図、(C)はC−C断面図、(D)は支持部材を右側からみた右側面図である。
【図3】変形例1を軸方向からみた縦断面図である。
【図4】変形例1を拡大して示す正面図である。
【図5】変形例2を拡大して示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明を実施するための形態について説明する。
〔本発明による制振ダンパの構成〕
図1は本発明による制振ダンパの一実施例を示す正面図である。図1に示されるように、制振ダンパ10は、シリンダ20と、ピストンロッド30と、カバー部材40と、第1取付部50と、第2取付部60と、記録装置70とを有する。
【0012】
シリンダ20は、内部に作動油が充填されたシリンダ室を有し、左端側にピストンロッド30が突出する。ピストンロッド30は、右端がシリンダ20の内部に形成されたシリンダ室内を摺動するピストンに連結され、左端が第2取付部60に結合される。
【0013】
カバー部材40は、ピストンロッド30左端に結合された第2取付部60のフランジ62の外周にビスなどの締結部材64により固定され、シリンダ20及びピストンロッド30の外周を覆うように形成されている。
【0014】
第1取付部50は、中空ロッド52を介してシリンダ20の右端に結合され、構造物の柱又は梁に連結される。尚、中空ロッド52は、取付場所に応じた長さに加工されており、第1取付部50と第2取付部60との離間距離を調整するものである。
【0015】
第2取付部60は、ピストンロッド30の左端に結合され、第1取付部50と180度反対側に設置された構造物の柱又は梁に連結される。また、ピストンは、第1取付部50及び第2取付部60に入力された振動に伴って生じるシリンダ20との相対変位に応じた作動油の流動抵抗による減衰力を発生させる減衰力発生部を有する。
【0016】
記録装置70は、記録板72及びマーキング部材74を有し、地震発生時のピストン往復動に伴うカバー部材40とシリンダ20との相対変位量を記録する。
【0017】
記録板72は、ステンレスなどの金属板又は押圧部分が記録される感圧紙からなり、シリンダ20の外周に取付ネジなどの締結部材により着脱可能に取り付けられる。マーキング部材74は、先端が針のよう尖った金属製のけがきピンからなり、記録板72に対向するように支持部材80に支持されており、カバー部材40とシリンダ20との相対変位量を記録板72に記録する。なお、マーキング部材74は、けがきピンに限らず、チョークやクレヨンなど記録板72に記録できるものであれば、何でも良い。
【0018】
地震発生により、シリンダ20に対してピストン及びピストンロッド30が軸方向(長手方向)に相対変位すると、マーキング部材74の先端の尖った部分が記録板72の表面を擦りながらピストン動作方向に往復動するため、記録板72にはマーキング部材74の移動軌跡が残される。このマーキング部材74の移動軌跡のピストン移動方向(軸方向)の長さを測ることで、地震発生時の最大ストロークが分かる。
【0019】
図2(A)〜図2(D)は制振ダンパ10に取り付けられた記録装置70を拡大して示す図である。図2(A)〜図2(D)に示されるように、記録装置70のマーキング部材74は、軸方向に延在する棒状の支持部材80のほぼ中間部分に支持されている。支持部材80は、左端(一端)にカバー部材40の縁部に締結部材90により固定される固定部82が設けられ、右端(他端)にシリンダ20の外周に締結されたガイド部材100のガイド孔102に摺動可能に支持される摺動部84が設けられている。
【0020】
尚、固定部82は、水平方向に延在する溝83が設けられ、この溝83にカバー部材40の縁部に嵌合された状態で締結部材90により固定される。また、ガイド部材100は、シリンダ20のネジ孔22に螺入される雄ねじ部104を有する。このネジ孔22は、当該制振ダンパ10を設置する際にクレーンで吊り下げる際にワイヤなどを掛止させるための吊り下げ用アイボルトが螺入される。従って、記録装置70を取付ける際は、既存の制振ダンパ10のネジ孔22に螺入された吊り下げ用アイボルトを外してガイド部材100の雄ねじ部104を螺入させることで容易にガイド部材100をシリンダ20に取り付けられる。このように、既存のネジ孔22を利用するので、制振ダンパ10の設置場所で孔あけ加工やネジ切り加工せずに済む。
【0021】
また、マーキング部材74は、円錐形状に尖った先端部74aと、先端部74aの上方に連続する軸部74bに雄ねじ74cが設けられている。そして、マーキング部材74は、支持部材80の上側に突出する頭部74dを回して雄ねじ74cを支持部材80のネジ孔86に螺入されることにより、先端部74aが記録板72に押圧された状態に保持される。
【0022】
地震発生時においては、支持部材80の摺動部84がガイド部材100を水平方向に貫通するガイド孔102を摺動すると共に、マーキング部材74の先端部74aが記録板72の表面にピストン往復動に応じた移動軌跡を残すことになる。このように、記録装置70は、記録板72がシリンダ20の外周に固定され、マーキング部材74が支持部材80のネジ孔86に螺入され、且つ支持部材80の両端を締結部材90、ガイド部材100に支持させることにより、既に設置された制振ダンパ10にも簡単且つ短時間で取り付けることができる。また、工場で制振ダンパ10を組立てる工程で記録装置70を組み付ける場合も、上記と同様に簡単且つ短時間で記録装置70を取り付けることができる。
【0023】
上記構成以外にも、例えば記録板72をカバー部材40の外周に取付け、支持部材80の右端(一端)をシリンダ20の外周に固定し、支持部材80の左端(他端)をカバー部材40の外周に固定されたガイド部材100のガイド孔102に摺動可能に挿通させるように構成しても良い。
〔変形例1〕
図3は変形例1を軸方向からみた縦断面図である。図4は変形例1を拡大して示す正面図である。図3及び図4に示されるように、変形例1の記録装置70Aは、カバー部材40の内径をシリンダ20の外径よりも大きく形成され、カバー部材40とシリンダ20との半径方向の隙間Sを大きく設けられると共に、この隙間Sの3箇所のそれぞれにマーキング部材74が取り付けられる。
【0024】
シリンダ20の外周には、3枚の記録板72が周方向に120度間隔で取り付けられている。さらに、各マーキング部材74は、各記録板72に対向する位置のカバー部材40の内周に取り付けられている。また、各マーキング部材74は、記録板72に接触する円錐形状の先端部74aと、先端部74aに結合された軸74bとを有する。各マーキング部材74の先端部74aは、コイルバネ110によりシリンダ20の中心に向かって押圧されており、コイルバネ110のばね力により記録板72に対する接触圧が所定圧に設定される。従って、マーキング部材74は、コイルバネ110のバネ力により先端部74aが記録板72の表面に対して所定の接触圧で押圧される。
【0025】
カバー部材40の外周の3箇所には、マーキング部材74の軸74bを摺動可能にガイドするガイド部材130が取り付けられている。従って、各マーキング部材74の軸74bは、カバー部材40を貫通してガイド部材130のガイド孔に挿通されている。
【0026】
変形例1では、シリンダ20の外周の周方向に120度間隔に記録装置70Aが設けられているため、例えばカバー部材40とシリンダ20との軸芯(センタ)が組み立て誤差により半径方向にずれた場合でも、3箇所の何れかのマーキング部材74がコイルバネ110に押圧されて記録板72の表面にピストン往復動に応じた移動軌跡を残すことが可能になる。
【0027】
このように変形例1では、カバー部材40とシリンダ20との周方向の隙間Sに記録板72及びマーキング部材74を取り付ける構成であるので、既に構造物に設置されている制振ダンパ10に簡単且つ端時間で取り付けることができる。
〔変形例2〕
図5は変形例2を拡大して示す正面図である。図5に示されるように、変形例2の記録装置70Bは、支持部材140の左端(一端)に締結部材150により第2取付部60のフランジ62に固定される固定部142が設けられ、右端(他端)にシリンダ20の外周に締結されたガイド部材100に摺動可能に支持される摺動部144が設けられている。
【0028】
締結部材150は、支持部材140の固定端142を貫通する貫通孔141に上方から挿通され、且つ雄ねじ部152がフランジ62の外周に設けられたネジ孔66に螺入される。さらに、締結部材150の雄ねじ部152を第2取付部60のフランジ62の外周に設けられたネジ孔66に螺入させることにより、支持部材140及びカバー部材40を同時に締結することができる。ネジ孔66は、カバー部材40を固定するためのものであるので、制振ダンパ10の設置現場で孔あけ加工せずに済む。従って、支持部材140の取り付け作業は、容易且つ短時間に行える。
【0029】
また、ガイド部材100は、前述したように雄ねじ部104を吊り下げ用アイボルトが螺入されるシリンダ20のネジ孔22に螺入させるため、シリンダ20に対してネジ孔加工する必要がなく、既存の制振ダンパ10に容易に取り付けられ、制振ダンパ10の設置現場で孔あけ加工せずに済む。
【0030】
さらに、シリンダ20の外周には、記録板72が取り付けられている。そして、支持部材140の記録板72に対向する部分には、マーキング部材74が取り付けられている。マーキング部材74は、先端部74aが支持部材140の下側に開口する凹部146に挿入されたコイルバネ110により下方に押圧され、且つ軸部74bが凹部146を上下方向に貫通する貫通孔148に摺動可能に挿通されている。従って、マーキング部材74は、コイルバネ110のバネ力により先端部74aが記録板72の表面に対して所定の接触圧で押圧される。
【0031】
地震発生時においては、支持部材140の摺動部144がガイド部材100を水平方向に貫通するガイド孔102を摺動すると共に、コイルバネ110に押圧されたマーキング部材74が記録板72の表面にピストン往復動に応じた移動軌跡を残すことになる。このように、記録装置70Bは、記録板72をシリンダ20の外周に取付け、マーキング部材74が支持部材140の凹部146及び貫通孔148に摺動可能に支持され、且つ支持部材140の両端を締結部材150、ガイド部材100に支持させることにより、既に設置された制振ダンパ10にも簡単且つ短時間で取り付けることができる。また、工場において、制振ダンパ10の組立工程で記録装置70を組み付ける場合も上記と同様に簡単且つ短時間で記録装置70Bを取り付けることができる。
【0032】
上記構成以外にも、例えば記録板72をカバー部材40の外周に取付け、支持部材140の右端(一端)をシリンダ20の外周に固定し、支持部材140の左端(他端)をカバー部材40の外周に固定されたガイド部材100に摺動可能に挿通させるように構成しても良い。
【符号の説明】
【0033】
10 制振ダンパ
20 シリンダ
22 ネジ孔
30 ピストンロッド
40 カバー部材
50 第1取付部
60 第2取付部
64 締結部材
70、70A、70B 記録装置
72 記録板
74 マーキング部材
74a 先端部
74b 軸部
74c 雄ねじ
74d 頭部
80、140 支持部材
82、142 固定部
84、144 摺動部
86 ネジ孔
90、150 締結部材
100 ガイド部材
102 ガイド孔
104 雄ねじ部
110 コイルバネ
146 凹部
148 貫通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作動油が充填されたシリンダ室を有するシリンダと、
該シリンダ室内を摺動するピストンに連結されたピストンロッドと、
該ピストンロッドに取り付けられ、前記シリンダ及び前記ピストンロッドを覆うカバー部材と、
前記シリンダの端部に設けられた第1取付部と、
前記ピストンロッドの端部に設けられた第2取付部と、
を備えた制振ダンパにおいて、
前記ピストンの往復動に伴う前記カバー部材と前記シリンダとの相対変位に伴う変位量を記録する記録装置を設け、
前記記録装置は、
前記カバー部材の外周又は前記シリンダの外周の何れか一方に取り付けられた記録板と、
前記記録板に対向するようにカバー部材又は前記シリンダの何れか他方に取り付けられ、前記カバー部材と前記シリンダとの相対変位量を前記記録板に記録するマーキング部材と、
を備えたことを特徴とする制振ダンパ。
【請求項2】
前記マーキング部材は、前記カバー部材又は前記シリンダの延在方向と平行に配された支持部材に支持され、
前記支持部材は、一端が前記カバー部材に固定された締結部材又は前記シリンダに固定されたガイド部材に支持され、他端が前記締結部材又は前記ガイド部材の何れかに対して支持されることを特徴とする請求項1に記載の制振ダンパ。
【請求項3】
前記記録板は、前記カバー部材に覆われた前記シリンダの外周に取り付けられ、
前記マーキング部材は、前記記録板に対向する前記カバー部材の内側に支持されることを特徴とする請求項1に記載の制振ダンパ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−64475(P2013−64475A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−204513(P2011−204513)
【出願日】平成23年9月20日(2011.9.20)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】