説明

制震装置及び制震装置の施工方法

【課題】制震装置を低コストで導入する。
【解決手段】制震装置100は、亀壁の原理によって、可動壁部102が入力変位によって枠部30と逆方向に回転すると共に、減衰材82,84が大きく変形することで地震のエネルギーを吸収する。また、ワイヤーロープ42,44を利用することで、例えば、従来のように、可動壁とブラケットとを回転可能に支持部材で連結するなどの必要がないので、施工が簡単である。このように、制震装置100は、従来よりも構造が単純であり、工数が少なく施工が容易である。したがって、従来よりも低コストで導入が可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制震装置及び制震装置の施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄筋コンクリートの耐震壁は耐震力を大きくすることができるが、大きな外力が入力されると脆性的な破壊を起こし易い。一方、既存建物の耐震改修には、社会的なニーズがあるが、従来の耐震壁は施工が大掛りになるため、耐震壁に替わって建物を地震等の外力から守る構造技術が求められている。
そこで、本発明者らは、柱と梁あるいは床とで構成された架構内に、剛体壁を支持部材で遥動可能(面内で回転運動する)に支持すると共に、柱と剛体壁との間にゴム等の弾性部材を装着する制震装置を提案している。(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このような制震装置は、架構に地震等の外力が作用して変形すると、架構と剛体壁とが相対移動すると共に、弾性部材が変形して減衰力を発揮して、エネルギーを吸収する。したがって、支持部材で剛体の荷重を支え、弾性部材を下方へ引っ張るような余計なストレスを弾性部材に与えないので、弾性部材が充分な制振効果を発揮することができる。また、架構で区画された空間部を耐震壁で閉塞する構造と比較すると、施工が簡単であり設計の自由度も大きくなる。
【0004】
更に、このような制震装置は、外観(意匠)に大きな影響を与えずに制震効果を得ることができるので、木造建造物、特に寺社建造物に導入されている。また、このような制震装置を、”亀壁”と呼んでいる。
【0005】
しかし、例えば、一般の木造建築物(例えば、戸建住宅)に導入するために、更に低コストで導入できる制震装置が求められている。
【特許文献1】特開2003−56200号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記問題を解決すべく成されたもので、制震装置を低コストで導入することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために請求項1に記載の制震装置は、構造物の矩形状の枠部に設けられる制震装置であって、前記枠部の四隅部に連結され、該枠部内の空間に交差するように張られた一対の線状部材と、一方と他方の前記線状部材の交点の上部と下部の一方と他方の該線状部材の間隔を、それぞれ広げる又は狭めると共に、該線状部材によって面内回転可能に支持される可動壁部と、前記可動壁部と前記枠部との間を連結する減衰部材と、を備えることを特徴としている。
【0008】
請求項1に記載の制震装置では、構造物の、例えば、柱と梁・床等とで区画される矩形状の枠部内の空間に、交差するように一対の線状部材が張られている。更に、一方と他方の線状部材の交点の上部と下部の一方と他方の線状部材の間隔を、それぞれ広げる、又は狭めると共に、線状部材によって面内回転可能に可動壁部が支持されている。よって、線状部材には張力が付与されると共に途中で屈曲している。また、可動壁部と枠部との間を減衰部材が連結している。
【0009】
さて、構造物に、例えば、地震などで外力が加わると、矩形状の枠部が変形し平行四辺形状になる。枠部が平行四辺形状になると、枠部の一方の対角線の長さは長くなり、他方の対角線は短くなる。このため、一方の線状部材は伸長し更に張力が付与されるが、他方の線状部材は縮んで張力が少なくなる。よって、一方の線状部材は屈曲が少なくなり、他方の線状部材は屈曲が大きくなる。このため、可動壁部が面内回転する。
【0010】
そして、可動壁が面内回転すると枠部と連結している減衰部材が大きく変形し減衰力を発揮して、エネルギーを吸収し制震作用を発揮する。
【0011】
このような非常に単純な構成であっても、亀壁の原理によって、可動壁部が入力変位によって回転すると共に、減衰部材が大きく変形することでエネルギーを吸収し制震作用をえることができる。
【0012】
また、線状部材を利用することで、例えば、従来のように可動壁とブラケットとを回転可能に支持部材で連結するなどの必要がないので、施工が簡単である。
【0013】
このように、従来よりも構造が単純であり、工数が少なく施工が容易である。したがって、従来よりも低コストで導入が可能である。
【0014】
更に、交点の上部と下部の一方と他方の線状部材の間隔を広げる幅、又は狭める幅によって増幅率を自在に調整できる。
【0015】
また、線状部材を利用することで、従来よりも部材断面を小さくすることができる。
【0016】
なお、矩形は、一般的に長方形をさすことが多いが、本明細書では正方形も含む表現とする。
【0017】
請求項2に記載の制震装置は、請求項1に記載の構成において、前記可動壁部は、一方と他方の前記線状部材の交点の上部と下部の一方と他方の該線状部材のそれぞれ内側、又は外側に配置された一対の引掛部を備え、一対の前記引掛部に前記線状部材を引っ掛け、一方の前記線状部材と他方の前記線状部材との交点の上部と下部の一方と他方の線状部材の間隔を、それぞれ広げる又は狭めることを特徴としている。
【0018】
請求項2に記載の制震装置では、可動壁部の、一方と他方の線状部材の交点の上部と下部の一方の他方の線状部材のそれぞれ内側、又は外側に配置された一対の引掛部に線状部材を引っ掛けるという、非常に簡単な構成及び方法で、一方と他方の線状部材の交点の上部と下部の一方と他方の線状部材の間隔を、それぞれ広げている、又は狭めている。
【0019】
請求項3に記載の制震装置は、請求項2に記載の構成において、前記可動壁部は、前記引掛部を有する一対の平行部材と、前記平行部材に取り付けられ、該平行部材の間隔を維持させる間隔維持部材と、を備えることを特徴としている。
【0020】
請求項3に記載の制震装置では、引掛部を有する一対の平行部材の所定の間隔とし、間隔維持部材でこの間隔を維持することで、容易に、一方と他方の線状部材の交点の上部と下部の一方と他方の線状部材の間隔を、それぞれ広げている、又は狭めている。
【0021】
請求項4に記載の制震装置は、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の構成において、前記線状部材は、前記枠部の四隅部と長さ調整機構を介して連結されていることを特徴としている。
【0022】
請求項4に記載の制震装置では、線状部材が枠部の四隅部と長さ調整機構を介して連結されている。よって、長さ調整部材で長さ調整することで、線状部材に付与する張力を自在に調整できる。
【0023】
請求項5に記載の制震装置は、請求項4に記載の構成において、前記長さ調整機構は、ターンバックルであることを特徴としている。
【0024】
請求項5に記載の制震装置では、線状部材が枠部の四隅部とターンバックルを介して連結されている。ターンバックルは長さ調整を容易に行なえる、すなわち、線状部材に付与する張力を容易に自在に調整できる。
【0025】
請求項6に記載の制震装置は、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の構成において、前記線状部材は、ワイヤーロープであることを特徴としている。
【0026】
請求項6に記載の制震装置では、線状部材はワイヤーロープである。ワイヤーロープは、引っ張り強度が強く、大きな張力を付与できるので好適である。
【0027】
請求項7に記載の制震装置の施工方法は、構造物の矩形状の枠部に設けられる制震装置の施工方法であって、前記枠部の四隅部に連結し、該枠部内の空間に交差するように一対の線状部材を張る第一工程と、前記線状部材に可動壁部を面内回転可能に取り付けると共に、前記可動壁部が一方と他方の前記線状部材の交点の上部と下部の一方と他方の該線状部材の間隔を、それぞれ広げる又は狭め、該線状部材に張力を付与する第二工程と、前記可動壁部と前記枠部との間を減衰部材で連結する第三工程と、を有することを特徴としている。
【0028】
請求項7に記載の制震装置の施工方法では、第一工程で一対の線状部材を枠部の四隅部に連結し枠部内の空間に交差するように張る。第二工程で線状部材に可動壁部を面内回転可能に取り付けると共に、可動壁部が一方と他方の線状部材の交点の上部と下部の一方と他方の線状部材の間隔を、それぞれ広げ又は狭め、線状部材に張力を付与する。そして、第三工程で、可動壁部と枠部との間を減衰部材で連結する。
【0029】
このような非常に単純な構成の制震装置であっても、亀壁の原理によって、可動壁部が入力変位によって回転すると共に、減衰部材が大きく変形することでエネルギーを吸収し制震作用を得ることができる。
【0030】
そして、線状部材を利用することで、例えば、従来のように可動壁とブラケットとを回転可能に支持部材で連結するなどの必要がないので、施工が簡単である。
【0031】
このように、従来よりも構造が単純であり、工数が少なく施工が容易である。したがって、従来よりも低コストで導入が可能である。更に、線状部材を広げる幅、又は狭める幅によって増幅率を自在に調整できる。
【0032】
請求項8に記載の制震装置の施工方法は、請求項7に記載の施工方法において、前記可動壁部は、前記線状部材が引っ掛けられる一対の引掛部を有する一対の平行部材と、前記平行部材に取り付けられ該平行部材の間隔を維持させる間隔維持部材と、を備え、前記第二工程は、前記平行部材の一対の引掛部が、一方と他方の前記線状部材の交点の上部と下部の一方と他方の該線状部材のそれぞれ内側、又は外側になるように該平行部材を配置し、前記平行部材の間隔を広げ、又は狭め、該線状部材に張力に付与したのち、前記平行部材の間隔を維持させる間隔維持部材を、該平行部材に取り付けることを特徴としている。
【0033】
請求項8に記載の制震装置の施工方法では、平行部材の一対の引掛部が、一方と他方の線状部材の交点の上部と下部の一方と他方の線状部材のそれぞれ内側、又は外側になるように平行部材を配置し、平行部材の間隔を広げる、又は狭めることで、一方と他方の線状部材の交点の上部と下部の一方と他方の線状部材の間隔が、それぞれ広がる、又は狭まるので、容易に線状部材に張力を付与できる。また、平行部材の間隔を維持させる間隔維持部材を平行部材に取り付けることで、張力を付与した状態を容易に維持できる。
【0034】
請求項9に記載の制震装置の施工方法は、請求項7に記載の施工方法において、前記線状部材は、前記枠部の四隅部と長さ調整機構を介して連結され、前記第二工程では前記線状部材には張力を付与せずに、前記第三工程の前、又は該第三工程の後に、前記長さ調整機構によって前記線状部材に張力を付与することを特徴としている。
【0035】
請求項9に記載の制震装置の施工方法では、線状部材は枠部の四隅部と長さ調整機構を介して連結されている。第二工程では線状部材には張力を付与せずに緩く張った状態で可動壁部を取り付ける。そして、第三工程の前、又は第三工程の後に、長さ調整機構によって線状部材の長さを調整することで、容易に線状部材に張力を付与している。
【0036】
請求項10に記載の制震装置の施工方法は、請求項9に記載の施工方法において、前記長さ調整機構は、ターンバックルであることを特徴としている。
【0037】
請求項10に記載の制震装置の施工方法では、線状部材が枠部の四隅部とターンバックルを介して連結されている。ターンバックルは長さ調整を容易に行なえる、すなわち、線状部材に付与する張力を容易に自在に調整できる。
【0038】
請求項11に記載の制震装置の施工方法は、請求項7から請求項10のいずれか1項に記載の施工方法において、前記線状部材は、ワイヤーロープであることを特徴としている。
【0039】
請求項11に記載の制震装置の施工方法では、線状部材はワイヤーロープである。ワイヤーロープは、引っ張り強度が強く、大きな張力を付与できるので好適である。
【発明の効果】
【0040】
以上説明したように本発明によれば、線状部材を利用することで、従来よりも構造が単純であり、工数が少なく施工が容易である。したがって、従来よりも低コストで、制震装置の導入が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
図面を参照しながら第一実施形態の制震装置100について説明する。なお、制震装置100の施工方法を説明しつつ制震装置100の構成を説明していく。
【0042】
図1に示すように、制震装置100は、主として戸建住宅などの建物の壁10内に設けられる。
【0043】
まず、図2に示すように、壁10を構成する上部の主梁12と下部の主梁14との間に、二本の増設梁22,24を、主梁12,14と平行となるように、壁10を構成する柱16,18に取り付ける。そして、この二本の増設梁22,24と柱16,18とで区画された矩形状の枠部30の四隅部分にブラケット32,34,36,38を設ける。
【0044】
これらの四隅部分のブラケット32,34,36,38に、枠部30内の空間を交差するように一対のワイヤーロープ42,44を取り付ける。
【0045】
なお、ワイヤーロープ42,44は、複数本の金属素線が撚り合わされて構成されている。また、両端を引っ張ると弾性変形して長さが伸長し、引っ張りを解除すると元の長さにほぼ戻る。
【0046】
つぎに、硬い木材などからなる四角柱状の一対の平行部材52,54を枠部30の空間内に柱16,18と平行に配置する。一方の平行部材52には所定の間隔を持った一対のドリフトピン61,62、ドリフトピン63,64が貫通している。同様に他方の平行部材54には所定の間隔を持った一対のドリフトピン65,66、ドリフトピン67,68が貫通している。
【0047】
そして、一方の平行部材52の上方のドリフトピン61,62と他方の平行部材54の下方のドリフトピン67,68との間に一方のワイヤーロープ42を通す(図1に示すように、ドリフトピン61,62,67,68は図2では手前側に大きく突出している)。また、他方の平行部材54の上方のドリフトピン65,66と一方の平行部材52の下方のドリフトピン63,64との間に他方のワイヤーロープ44を通す(図1に示すように、ドリフトピン63,64,65,66は図2では奥側に大きく突出している)。よって、平行部材52,54が一方のワイヤーロープ42と他方のワイヤーロープ44とで挟まれることになる。
【0048】
また、一対のワイヤーロープ42,44の交点Xの上部のワイヤーロープ42,44間の内側にドリフトピン61,65があり、交点Xの下部のワイヤーロープ42,44間の内側にドリフトピン64,68がある構成となる。
【0049】
つぎに、図3に示すように、平行部材52,54の上部と下部との間隔をそれぞれ、ターンバックル152,154で左右に広げる。すなわち、ドリフトピン61とドリフトピン65との間隔、及びドリフトピン64とドリフトピン68との間隔を左右に広げる。すると、ワイヤーロープ42,44はドリフトピン61,65,64,68に引っ掛かり、一方のワイヤーロープ42と他方のワイヤーロープ44の交点Xの上部と下部のワイヤーロープ42,44の間隔が、それぞれ広がる。(図10(A)も参照)。
【0050】
なお、このときワイヤーロープ42,44は伸長し張力が付与される。また、ワイヤーロープ42,44はドリフトピン61,64,66,68に引っ掛かって屈曲している。
【0051】
すなわち、一方のワイヤーロープ42は、ブラケット32からドリフトピン61までの軸線と、ドリフトピン61とドリフトピン68と間の軸線とが角度を持っている。同様に、ドリフトピン61とドリフトピン68と間の軸線とドリフトピン68からブラケット38までの軸線とが角度を持っている。(図10(A)も参照)。
【0052】
更に、同様に、他方のワイヤーロープ44も、ブラケット34からドリフトピン65までの軸線とドリフトピン65とドリフトピン64と間の軸線とが角度を持ち、ドリフトピン65とドリフトピン64と間の軸線とドリフトピン64からブラケット36までの軸線とが角度を持っている。(図10(A)も参照)。
【0053】
つぎに、図4に示すように、平行部材52,54からドリフトピン62,63,66,67を取り除き、矩形状の積層合板からなる第一合板壁70を平行部材52,54に接合する。なお、第一合板壁70はドリフトピン61,64,65,68で囲まれた内側に収まっている。そして、ターンバックル152,154を取り除く。
【0054】
更に、図5に示すように、第一合板壁70の上方と下方とに、すなわち、平行部材52,54のドリフトピン61,65の上部とドリフトピン64,68の下部とに、第二合板壁72と第三合板壁74とを接合する。なお、一対の平行部材52,54、第一合板壁70、第二合板壁72、第三合板壁74を合わせて可動壁部102とする。
【0055】
そして、可動壁部102の上端部と下端部(第二合板壁72と第三合板壁74)と、増設梁22,24との間を、板状の減衰部材82,84で連結する。減衰部材82,84はゴムやポリマーシートなどの弾性部材からなる。なお、本実施形態では、釘打ちによって減衰部材82,84を接続している。
【0056】
以上のようにして枠部30への制震装置100の施工が終了する。
【0057】
なお、更に、上方の増設梁22と主梁12との間に上部合板壁92を貼り付け、下方の増設梁24と主梁14との間に下部合板壁94を貼り付ける。そして、図示は省略するが、増設梁22,24との間に合板板を貼り付け制震装置100を覆い隠すと壁10が完成する。
【0058】
つぎに、制震装置100の制震作用について説明する。
【0059】
図5と図6、及び図10(A)と図10(B)とに示すように、地震によって、柱16,18と主梁12,14とが右方向に水平方向に変位すると、増設梁22,24も水平方向に変位する。つまり、柱16,18と増設梁22,24とで区画する矩形状の枠部30が平行四辺形状に変形する。枠部30が平行四辺形状に変形することに伴い、一方の対角線は長くなり他方の対角線は短くなる。よって、一方のワイヤーロープ42は伸びて張力が更に付与される。他方のワイヤーロープ44は縮んで張力が少なくなる。このため、一方のワイヤーロープ42は屈曲が少なくなり直線(一方の対角線)に近づき、他方のワイヤーロープ44は逆により屈曲する。
【0060】
したがって、可動壁部102の、ドリフトピン61とドリフトピン68は枠部30の一方の対角線に近づくように移動し、ドリフトピン65とドリフトピン64は枠部30の他方の対角線から離れるように移動する。このため、可動壁部102は、枠部30の変形と逆方向(図中の矢印C参照)に面内回転する。なお、図10はわかり易くするため、変形等を実際よりも極端に大きく図示している。
【0061】
さて、このとき、ワイヤーロープ42の張力によって、枠部30の変形を元に戻すような力が加わる。
【0062】
更に、図6に示すように、可動壁部102は減衰材82,84で増設梁22,24と連結されており、可動壁部102の回転に伴い減衰材82,84が弾性変形する。なお、可動壁部102の回転によって変形量が増幅される。特に、本実施形態では、枠部30と可動壁部102とは逆方向に回転するため、矢印A1と矢印B1、及び矢印A2と矢印B2とで示すように、可動壁部102の上端部と増設梁22、及び、下端部と増設梁24とが逆方向に移動する。よって、減衰材82,84は非常に大きく変化する。そして、このように減衰材82,84に大きな変形が加えられることで、地震のエネルギーが吸収される。したがって、制震装置100を備えることで、建物の揺れを抑えることができる。
【0063】
つぎに、本実施形態の作用について説明する。
【0064】
今まで説明したように、制震装置100は、亀壁の原理によって、可動壁部102が入力変位によって枠部30と逆方向に回転すると共に、減衰材82,84が大きく変形することで地震のエネルギーを吸収する。(図6及び図10参照)。
【0065】
また、ワイヤーロープ42,44を利用することで、例えば、従来のように可動壁とブラケットとを回転可能に支持部材で連結するなどの必要がないので、施工が簡単である。また、ワイヤーロープ42,44に付与した張力を利用するので、ダンパーなども必要ない。
【0066】
このように、本実施形態の制震装置100は、従来よりも構造が単純であり、工数が少なく施工が容易である。したがって、従来よりも低コストで導入が可能である。
【0067】
更に、ワイヤーロープ42,44の上部と下部の間を広げる幅によって、換言すると、平行部材52,54(のドリフトピン61,64とドリフトピン66,68)の間を広げる幅によって、増幅率を自在に調整できる。
【0068】
また、ワイヤーロープ42,44を利用することで、従来よりも部材断面を小さくすることができるので、壁10の厚みが薄い場合でも、制震装置100を壁10の中に納めることができる。
【0069】
つぎに、第二実施形態の制震装置200について説明する。第一実施形態と同様に、制震装置200の施工方法を説明しつつ制震装置200の構成を説明していく。また、第一実施形態と同様の部分の説明は省略する。
【0070】
図7に示すように、上部の主梁212と下部の主梁214との間に、二本の増設梁222,224を、主梁212,214と平行となるように、柱216,218に取り付ける。そして、この二本の増設梁222,224と柱16,18とで区画された矩形状の枠部230の四隅部分にリング232,234,236,238を取り付ける。
これらの四隅部分のリング232,234,236,238に、枠部230内の空間を交差するように一対のワイヤーロープ242,244を張る。なお、ワイヤーロープ242,244の端部にはターンバックル302,304が取り付けられている。つまり、ターンバックル302,304を介して、ワイヤーロープ242,244をリング236,238に取り付けている。したがって、ターンバックル302,304で長さを調整することによって、容易にワイヤーロープ242,244を撓ませることなく張ることができる。
【0071】
つぎに、硬い木材などからなる板状の一対の平行部材252,254を枠部230内の空間に増設梁222,224と平行になるように配置する。平行部材252,254の両端部は金属部材で補強されている。また、上方の平行部材252にはドリフトピン261,265が貫通している。同様に、下方の平行部材254にはドリフトピン264,268が貫通している。
【0072】
なお、平行部材252,254は一方のワイヤーロープ242と他方のワイヤーロープ244とで挟まれている。また、一対のワイヤーロープ242,244の交点Xの上部のワイヤーロープ242,244間の内側にドリフトピン261,265があり、交点Xの下部のワイヤーロープ242,244間の内側にドリフトピン264,268がある構成となる。
【0073】
つぎに、図8に示すように、上下の平行部材252,254の間隔を、ターンバックル402,404で狭くする。すなわち、ドリフトピン261とドリフトピン264との間隔、及びドリフトピン65とドリフトピン268との間隔を狭くする。すると、ワイヤーロープ242,244がドリフトピン261,265,264,268に引っ掛かって、一方のワイヤーロープ242と他方のワイヤーロープ244との交点Xの上部と下部とのワイヤーロープ242,244の間隔がそれぞれ広がる。
【0074】
なお、このときワイヤーロープ242,244は伸長し張力が付与される。また、ワイヤーロープ242,244はドリフトピン261,264,266,268に引っ掛かって屈曲している。
【0075】
すなわち、一方のワイヤーロープ242は、リング232からドリフトピン261までの軸線と、ドリフトピン261とドリフトピン268と間の軸線とが角度を持っている。同様に、ドリフトピン261とドリフトピン268と間の軸線とドリフトピン268からリング238までの軸線とが角度を持っている。
【0076】
更に、同様に、他方のワイヤーロープ244も、リング234からドリフトピン265までの軸線とドリフトピン265とドリフトピン264と間の軸線とが角度を持ち、ドリフトピン265とドリフトピン264と間の軸線とドリフトピン264からリング236までの軸線とが角度を持っている。
【0077】
そして、矩形状の積層合板からなる可動壁270を平行部材252,254に接合する。可動壁270はドリフトピン261,264,265,268で囲まれた内側に収まっている。
【0078】
更に、平行部材252,254と、増設梁222,224との間を、板状の減衰部材282,284で連結する。減衰部材282,284はゴムやポリマーシートなどの弾性変形する部材からなる。
【0079】
そして、最後に図9に示すように、ターンバックル402,404を取り除き、制震装置200の施工が終了する。
【0080】
つぎに、本実施形態の作用について説明する。
【0081】
本実施形態も第一実施形態と同様の作用を奏すが、前述したように、ワイヤーロープ242,244の端部に取り付けられたターンバックル302,304によって、容易に十字状にワイヤーロープ242,244を撓ませることなく張ることができる。また、経年の影響でワイヤーロープ242,244に弛みが生じても、ターンバックル302,304で長さを調整することで、再度張力を付与することが可能である。更に、メンテナンスや解体などの際、ターンバックル302,304で長さを調整して張力を解除した後、作業を行なうことができる。
【0082】
さて、本実施形態のように、ターンバックル302,304を介してワイヤーロープ242,244を枠部230の四隅部に取り付けることで、以下のような施工方法とすることもできる。
【0083】
最初は、ワイヤーロープ242,244を緩く張った状態とする。
【0084】
つぎに、平行部材252,254をワイヤーロープ242,244に取り付け、ターンバックル402,404で平行部材252の間隔を狭め可動壁270を取り付ける。あるいは、すでに平行部材252,254の間隔を狭めた状態(図8参照)として、平行部材252,254と可動壁270を取り付ける。なお、ワイヤーロープ242,244を緩く張っているので、このときはワイヤーロープ242,244には張力は付与されていない。
【0085】
そして、ワイヤーロープ242,244の端部に取り付けられたターンバックル302,304でワイヤーロープ242,244を引っ張って張力を付与する。
【0086】
あるいは、平行部材252,254を減衰部材282,284で増設梁222,224に連結したのち、ターンバックル302,304によってワイヤーロープ242,244を引っ張って張力を付与しても良い。
【0087】
なお、第一実施形態と第二実施形態では、いずれも一方と他方のワイヤーロープの交点の上部と下部の一対のワイヤーロープ間隔を、それぞれ広げたが、逆に狭めても良い。なお、この場合の可動壁部の回転を、図11の変形例を用いて詳しく説明する。
【0088】
図11(A)に示すように、変形例の制震装置300は、梁322,324と柱316,318とで区画された矩形状の枠部330内の空間を交差するように一対のワイヤーロープ342,344が枠部330の四隅と連結されている。
【0089】
そして、図10とは逆に、一対のワイヤーロープ342,344の交点Xの上部のイヤーロープ342,344間の外側に可動壁部360のドリフトピン362,366があり、交点Xの下部のイヤーロープ342,344間の外側に可動壁部360のドリフトピン363,367がある。ワイヤーロープ342,344はドリフトピン362,363,366,367に引っ掛かり、一方のワイヤーロープ342と他方のワイヤーロープ344の交点Xの上部と下部のイヤーロープ342,344の間隔がそれぞれ狭くなっている。
【0090】
図11(B)に示すように、地震によって矩形状の枠部330が平行四辺形状に変形すると、枠部330の一方の対角線は長くなり他方の対角線は短くなる。このため、一方のワイヤーロープ342は屈曲が少なくなり直線(一方の対角線)に近づき、他方のワイヤーロープ344は逆により屈曲する。
【0091】
したがって、可動壁部360の、ドリフトピン362とドリフトピン367は枠部330の一方の対角線に近づくように移動し、ドリフトピン366とドリフトピン363は枠部30の他方の対角線から離れるように移動する。このため、可動壁部360は、枠部330の変形と同方向に面内回転する。なお、図11はわかり易くするため、変形等を実際よりも極端に大きく図示している。
【0092】
尚、本発明は上記の実施形態に限定されない。
【0093】
例えば、第一実施形態の可動壁部102及び第二実施形態の平行部材252,254は、いずれも増設梁22,24,222,224と減衰部材82,84,282,284で連結したが、これに限定されない。(図7及び図9を参照)。例えば、柱16,18,216,218と減衰部材で連結しても良いし、増設梁と柱との両方を減衰部材で連結しても良い。
【0094】
また、例えば、ワイヤーロープ以外の線状部材であっても良い。例えば、一本のワイヤーであっても良いし、樹脂製のロープであっても良い。
【0095】
また、本発明の制震装置は、壁以外の場所にも適用できるし、梁でなく床と柱とで区画された矩形状の枠部にも適用できる。
【0096】
もちろん、戸建住宅以外の木造建造物にも適用できるし、木造建造物以外、例えば、鉄筋コンクリート製等の構造物など、幅広く本発明を適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】第一実施形態の制震装置の斜視図である。
【図2】第一実施形態の制震装置の施工工程の最初の段階を示す正面図である。
【図3】第一実施形態の制震装置の施工工程の図1の次の段階を示す正面図である。
【図4】第一実施形態の制震装置の施工工程の図2の次の段階を示す正面図である。
【図5】第一実施形態の制震装置の施工が完了した状態を示す正面図である。
【図6】枠部の平行四辺形状の変形に伴い、制震装置の制震壁部が回転した状態を示す。
【図7】第二実施形態の制震装置の施工工程の最初の段階を示す正面図である。
【図8】第二実施形態の制震装置の施工工程の図1の次の段階を示す正面図である。
【図9】第二実施形態の制震装置の施工が完了した状態を示す正面図である。
【図10】(A)は、一方と他方の線状部材の交点の上部と下部の線状部材の間隔をそれぞれ広げると共に、線状部材によって面内回転可能に可動壁部が支持された状態を示す模式図であり、(B)は、枠部の平行四辺形状の変形に伴い、制震壁部が枠部の変形と逆方向に回転した状態を示す模式図である。
【図11】(A)は、一方と他方の線状部材の交点の上部と下部の線状部材の間隔をそれぞれ狭めると共に、線状部材によって面内回転可能に可動壁部が支持された状態を示す模式図であり、(B)は、枠部の平行四辺形状の変形に伴い、制震壁部が枠部の変形と同方向に回転した状態を示す模式図である。
【符号の説明】
【0098】
30 枠部
42 ワイヤーロープ
44 ワイヤーロープ
52 平行部材
54 平行部材
61 ドリフトピン(引掛部)
64 ドリフトピン(引掛部)
65 ドリフトピン(引掛部)
68 ドリフトピン(引掛部)
70 第一合板壁(間隔維持部材)
82 減衰部材
84 減衰部材
100 制震装置
102 可動壁部
200 制震装置
302 ターンバックル
304 ターンバックル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物の矩形状の枠部に設けられる制震装置であって、
前記枠部の四隅部に連結され、該枠部内の空間に交差するように張られた一対の線状部材と、
一方と他方の前記線状部材の交点の上部と下部の一方の他方の該線状部材の間隔を、それぞれ広げる又は狭めると共に、該線状部材によって面内回転可能に支持される可動壁部と、
前記可動壁部と前記枠部との間を連結する減衰部材と、
を備えることを特徴とする制震装置。
【請求項2】
前記可動壁部は、一方と他方の前記線状部材の交点の上部と下部の一方と他方の該線状部材のそれぞれ内側、又は外側に配置された一対の引掛部を備え、
一対の前記引掛部に前記線状部材を引っ掛け、一方と他方の前記線状部材の交点の上部と下部の一方と他方の該線状部材の間隔をそれぞれ広げる又は狭めることを特徴とすることを請求項1に記載の制震装置。
【請求項3】
前記可動壁部は、
前記引掛部を有する一対の平行部材と、
前記平行部材に取り付けられ、該平行部材の間隔を維持させる間隔維持部材と、
を備えることを特徴とする請求項2に記載の制震装置。
【請求項4】
前記線状部材は、前記枠部の四隅部と長さ調整機構を介して連結されていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の制震装置。
【請求項5】
前記長さ調整機構は、ターンバックルであることを特徴とする請求項4に記載の制震装置。
【請求項6】
前記線状部材は、ワイヤーロープであることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の制震装置。
【請求項7】
構造物の矩形状の枠部に設けられる制震装置の施工方法であって、
前記枠部の四隅部に連結し、該枠部内の空間に交差するように一対の線状部材を張る第一工程と、
前記線状部材に可動壁部を面内回転可能に取り付けると共に、前記可動壁部が一方と他方の前記線状部材の交点の上部と下部の一方と他方の該線状部材の間隔を、それぞれ広げる又は狭め、該線状部材に張力を付与する第二工程と、
前記可動壁部と前記枠部との間を減衰部材で連結する第三工程と、
を有することを特徴とする制震装置の施工方法。
【請求項8】
前記可動壁部は、
前記線状部材が引っ掛けられる一対の引掛部を有する一対の平行部材と、
前記平行部材に取り付けられ該平行部材の間隔を維持させる間隔維持部材と、
を備え、
前記第二工程は、
前記平行部材の一対の引掛部が、一方と他方の前記線状部材の交点の上部と下部の一方と他方の該線状部材のそれぞれ内側、又は外側になるように該平行部材を配置し、
前記平行部材の間隔を広げ又は狭め、該線状部材に張力に付与したのち、
前記平行部材の間隔を維持させる間隔維持部材を、該平行部材に取り付けることを特徴とする請求項7に記載の制震装置の施工方法。
【請求項9】
前記線状部材は、前記枠部の四隅部と長さ調整機構を介して連結され、
前記第二工程では前記線状部材には張力を付与せずに、
前記第三工程の前、又は該第三工程の後に、前記長さ調整機構によって前記線状部材に張力を付与することを特徴とする請求項7に記載の制震装置の施工方法。
【請求項10】
前記長さ調整機構は、ターンバックルであることを特徴とする請求項9に記載の制震装置の施工方法。
【請求項11】
前記線状部材は、ワイヤーロープであることを特徴とする請求項7から請求項10のいずれか1項に記載の制震装置の施工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−167717(P2009−167717A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−7924(P2008−7924)
【出願日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【出願人】(899000057)学校法人日本大学 (650)
【出願人】(504004083)株式会社i2S2 (28)
【Fターム(参考)】