説明

刺繍ロボット

ミシンヘッド(1)の上部に配設した複数個のボビン(21)が収容できるボビン収容部(22)と、このボビン収容部(22)に収容可能なボビン(21)の個数に対応して設けた糸張力調節機構(25)及び糸送出機構(28)を備えた糸調節機構(24)と、所要のボビン(21)に対応する糸送出機構(28)を所定の針(10)に糸通しを行う糸通し装置(5)の上方に選択的に位置させる糸選択機構(29)とからなる刺繍ロボットにおいて、糸(10)を糸通し装置(5)に導くように糸送出機構(28)に糸送出管(28a)を配設するとともに、この糸送出管(28a)の下端部に、糸送出管(28a)から垂下された糸(11)を横方向に払って仮保持し、糸通し装置(5)の糸挟持部材(31)によって挟持できるようにする糸払い・保持機構(28b)を配設する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、刺繍ロボットに関し、特に、色糸等の糸(本明細書において、単に「糸」又は「上糸」という場合がある。)の供給及び糸通しを人手を介さずに自動的に行うことができるようにした刺繍ロボットに関するものである。
【背景技術】
従来、例えば、刺繍用ミシンおいて、色糸の供給及び糸通しは人手を介して行っていた。
ところで、この色糸の供給及び糸通しは、ミシンを停止しなければならず、特に、色糸の交換作業は、1台の刺繍用ミシンに通常数頭程度から多い場合には30頭程度備えられるミシンヘッドの各々について色糸の掛け替え作業を行う必要があることから、ミシンの停止時間が数時間にも及ぶこととなる。したがって、ミシンの稼働率及び生産性を向上するため、ミシンの稼働中に色糸の交換作業を行うようにできるようにすることが要請されていた。
また、従来の刺繍用ミシンにおいては、糸が切れたときの処理については、ミシンヘッド毎に糸に係る処理を手作業で行う必要があり、ミシンの稼働率及び生産性が低下するという問題があった。
ところで、この要請に鑑み、本件発明者は、先に、色糸の供給及び糸通しを人手を介さずに自動的に行うことができる刺繍用ミシンを提案した(PCT/JP97/02601、PCT/JP97/02602、PCT/JP01/01763参照)。
この刺繍用ミシンは、色糸の供給及び糸通しを人手を介さずに自動的に行うことができるため、これらの作業に要する時間自体を短縮することができ、ミシンの稼働率及び生産性を向上することができる利点を有するものであった。
しかしながら、この刺繍用ミシンは、駆動機構及びその制御機構が複雑で、製造コストが上昇するだけでなく、色糸の種類等の条件によっては、色糸の供給及び糸通しの動作の確実性が低下するという問題があった。
【発明の開示】
本発明は、上記の刺繍用ミシンの有する問題点に鑑み、糸の供給及び糸通しを人手を介さずに自動的に行うことができるようにするとともに、ミシンの稼働中に色糸の交換作業を行うようにできるようにして、ミシンの稼働率及び生産性を向上させるとともに、駆動機構及びその制御機構を簡略化して、製造コストの低減を図るとともに、色糸の種類等の条件に影響されず、確実に色糸の供給及び糸通しを行うことができるようにした刺繍ロボットを提供することを第1の目的とする。
さらに、本発明は、糸が切れたときの処理を含むすべての糸に係る処理を自動で行うことができるようにして、ミシンの稼働率及び生産性を一層向上することができるようにした刺繍ロボットを提供することを第2の目的とする。
上記第1の目的を達成するため、本発明の刺繍ロボットは、ミシンヘッドの上部に配設した複数個のボビンが収容できるボビン収容部と、該ボビン収容部に収容可能なボビンの個数に対応して設けた糸張力調節機構及び糸送出機構を備えた糸調節機構と、所要のボビンに対応する糸送出機構を所定の針に糸通しを行う糸通し装置の上方に選択的に位置させる糸選択機構とからなる刺繍ロボットにおいて、糸を糸通し装置に導くように糸送出機構に糸送出管を配設するとともに、該糸送出管の下端部に、糸送出管から垂下された糸を横方向に払って仮保持し、糸通し装置の糸挟持部材によって挟持できるようにする糸払い・保持機構を配設したことを特徴とする。
この刺繍ロボットによれば、糸の供給及び糸通しを人手を介さずに自動的に行うことができ、また、それに要する時間自体を短縮することができ、これによって、ミシンの稼働率及び生産性を向上することができる。
また、この刺繍ロボットは、1頭のミシンヘッドに20〜30色、さらに必要に応じて、それ以上の色糸を選択して使用できるように搭載することが可能であり、従来の刺繍用ミシン(1頭のミシンヘッドに15色程度)と比較して、常時使用可能な色糸の種類が多くなり、色糸の選択の自由度を大きくすることができる。
さらに、この刺繍ロボットは、従来の刺繍用ミシンにおいて、色糸の数だけ(1頭のミシンヘッドで、例えば、15色の色糸を選択して使用できるようにする場合には、15個ずつ)配設することが必要であった、天秤、針棒、糸押さえ等の構成部品を、天秤(天秤及び副天秤)については1個、針棒については2個、糸押さえについては2個というように少なくすることが可能で、構造を簡略化することができる。
そして、特に、糸払い・保持機構を配設することにより、糸送出管の下端から導出された糸を、糸挟持部材を昇降させることによって、所定精度の挟持状態の下で正確に挟持することができ、以降の糸通しを確実に行うことができる。
この場合において、糸払い・保持機構を、糸送出管によって押し開かれる開口部に通じる縦孔を形成する板ばね部材で構成し、糸送出管から導出された糸を前記縦孔に挿通した状態で仮保持するようすることができる。
これにより、糸払い・保持機構によって、糸送出管から導出された糸の仮保持を確実に行うことができる。
また、糸払い・保持機構の縦孔を形成する板ばね部材の内周面に、ループ状又は起毛状の繊維からなる滑り止め部材を配設するようにすることができる。
これにより、糸払い・保持機構によって仮保持している糸が滑って糸払い・保持機構から脱離することを確実に防止することができる。
また、天秤機構を、天秤と、副天秤とで構成するとともに、前記副天秤を2段階に揺動可能に構成し、糸張力調節機構に吸収される糸長さを確保するようにすることができる。
これにより、糸張力調節機構の糸にテンションをかけるばね機構等によって吸収される糸長さを確保し、糸通しを行うときに糸長さが不足することを確実に防止することができる。
また、ボビン収容部に収容したボビンからの余分な糸の繰り出しを防止する糸仮保持機構を配設することができる。
これにより、例えば、色糸の交換作業を行う際に切断した糸を回収したり、除去する必要があるが、このとき、ボビン収容部に収容したボビンから余分な糸が繰り出されるのを防止することができる。
また、糸の交換時等に切断した不要な糸を排除する糸切断・排除機構を配設することができる。
これにより、糸の交換時等に切断した不要な糸を、刺繍経路から確実に排除することができる。
また、糸切断・排除機構を、カッターと、第1操作片及び第2操作片によって押し開かれる開口部に通じる縦孔を形成する板ばね部材とで構成し、第1操作片によって開口部を押し開いて糸送出管から導出された糸を前記縦孔に挿通し、この状態で刺繍を行い、糸の排除時、糸を前記縦孔に挿通した状態で板ばね部材を後退させ、カッターにより糸送出管から導出された糸を所定長さに切断するとともに、第2操作片によって開口部を押し開いて切断した不要な糸を落下させるようにすることができる。
これにより、糸の交換時等に切断した不要な糸の排除を迅速に行うことができ、刺繍作業を効率化することができる。
さらに、上記第2の目的を達成するため、ミシンヘッドの各種駆動機構を、各ミシンヘッド間で独立して駆動可能に構成することができる。
各ミシンヘッドで共通の駆動源の場合には、各ミシンヘッドとの間にクラッチを介在したり、各ミシンヘッド毎に独立した駆動源を配設することによって、ミシンヘッドの各種駆動機構を、各ミシンヘッド間で独立して駆動可能に構成することより、糸が切れたときの処理を含むすべての糸に係る処理を自動で行うことができ、ミシンの稼働率及び生産性を一層向上することができる。
【図面の簡単な説明】
第1図は、本発明の刺繍ロボットの一実施例を示す刺繍ロボットの全体正面図である。
第2図は、同側面図である。
第3図は、同要部を示し、(A)は正面図、(B)は側面図である。
第4図は、糸払い・保持機構を示し、(A)は正面図、(B)は側面図、(C)は要部の斜視図である。
第5図は、糸送出機構及び糸張設機構を示し、(A)は平面断面図、(B)は正面図である。
第6図は、刺繍ロボットの動作を示す説明図(1)である。
第7図は、刺繍ロボットの動作を示す説明図(2)である。
第8図は、刺繍ロボットの動作(糸払い・保持機構の動作)を示す説明図(1)で、上段図は正面図、下段図は平面図である。
第9図は、刺繍ロボットの動作(糸払い・保持機構の動作)を示す説明図(2)で、上段図は正面図、下段図は平面図である。
第10図は、糸仮保持機構を示し、(A)は正面図、(B)は側面図、(C)は要部の斜視図である。
第11図は、糸切断・排除機構を示す側面図である。
第12図は、同要部を示し、(A)は側面図、(B)は第1操作片の斜視図である。
第13図は、糸切断・排除機構の駆動機構を示し、(A)は正面図、(B)は要部の側面図である。
第14図は、糸切断・排除機構の板ばね部材を示し、(A)は斜視図、(B)は正面図、(C)は平面図、(D)は一方の板ばねの斜視図、(E)は他方の板ばねの斜視図である。
第15図は、糸切断・排除機構の動作を示す説明図である。
第16図は、糸切断・排除機構のカッターを示し、(A)は側面図、(B)は背面図である。
第17図は、糸張力調節具を示し、(A)は正面図、(B)は側面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明の刺繍ロボットの実施の形態を図面に基づいて説明する。
第1図〜第2図に示すように、この刺繍ロボットは、複数のミシンヘッド1、糸供給装置2、天秤機構4、糸通し装置5、糸切断・排除機構7、針棒支持機構8等からその主要部が構成される。
なお、この実施例の図は、1台の刺繍ロボットに数頭程度から多い場合には30頭程度備えられるミシンヘッドのうちの一部を例示的に示したものである(ただし、1頭の刺繍ロボットを排除するものでない。)。
そして、図示した以外の他のミシンヘッドにも実施例のものと同様の構成を採用するとともに、各ミシンヘッドを共通の各種の駆動源により同期して駆動することができるようにし、また、必要に応じて、共通の駆動源と各ミシンヘッドとの間にクラッチを介在したり、各ミシンヘッド毎に独立した駆動源を配設することによって、各ミシンヘッドを独立して駆動することができるようにするが、これらの機構は、従来公知の刺繍用ミシンと基本的な相違はない。
また、本実施例の刺繍ロボットのミシンヘッドが備えている糸供給装置2、糸通し装置5、糸切断・排除機構7、針棒支持機構8等は、もちろんそのすべてを備えることが好ましいが、場合によっては、その一部の装置を同様の作用を奏する他の機構に置換したり、また、省略することもできる。
また、本実施例において、各種駆動機構の駆動源としては、パルスモータ等の電動モータ、エアーモータ、エアーシリンダ、ソレノイド等の駆動源を用いることができるが、その都度記載しないが必要に応じて適宜の駆動源を選択的に用いることができる。
また、本実施例において、各種駆動機構と駆動源との接続は、リンク機構、レバー機構、ワイヤー機構等の接続機構により行っているが、この接続機構は、その都度記載しないが、必要に応じて実施例以外の他の適宜の接続機構に置換することができる。
第1図〜第17図に、刺繍ロボットのミシンヘッド1の上部に配設する糸供給装置2の一実施例を示す。
この糸供給装置2は、第1図〜第2図に示すように、刺繍ロボットのミシンヘッド1の上部に配設した複数個のボビン21が収容できるボビン収容部22と、このボビン収容部22に収容可能なボビン21の個数に対応して設けた糸張力調節機構25及び糸送出機構28を備えた糸調節機構24と、所要のボビン21に対応する糸送出機構28を所定の針10に糸通しを行う糸通し装置5の上方に選択的に位置させる糸選択機構29と、糸調節機構24の糸張力調節機構25と糸送出機構28の間に配設した針10に向けて送り出される糸11を仮保持し、必要とされる以上の糸11が送り出されることを防止する糸仮保持機構26とからなる。
そして、本実施例においては、ボビン収容部22をユニット化して構成し、これをミシンヘッド1に着脱自在に取り付けるようにしているが、必要に応じで、ミシンヘッド1に固定するようにしたり、さらに、糸選択機構29によって糸送出機構28等と一体に摺動するように構成することもできる。
ボビン収容部22は、例えば、1つのミシンヘッド1に、それぞれ10個のボビン21が収容できる2組のボビン収容部ユニット22A、22Bを装着することにより、合計20個のボビン21を収容することができるようにしたもので、ボビン収容部ユニット22A、22Bには、その底面にボビン21を挿入、支持するスピンドル22aを立設するとともに、糸調節機構24の本体24aの上方に各ボビン21の糸11をもつれないように引き出すための糸保持体23を固定して設け、合計20本の糸11を糸保持体23から間隔をあけて引き出し、糸調節機構24の糸張力調節機構25に送り込むようにする。
そして、各ボビン21の糸11をもつれないように引き出すために、糸保持体23から糸調節機構24の本体24aの上部位置まで、透明の合成樹脂パイプからなる管路23aを配設し、この管路23a内に糸11を1本ずつ挿通させるようにすることができる。
糸張力調節機構25は、糸調節機構24の本体24aの表面に設けられた、各ボビン21からの糸11毎に2個の糸張力調節部材25a、25bを有する。
このうち1つの糸張力調節部材25bには、糸11の張力を測定する張力センサー(図示省略)を配設し、糸11の糸切れ等を検知できるようにする。
この張力センサーからの信号は、電気信号として、糸調節機構24に配設した電気接点(図示省略)からミシンヘッド1に配設した電気接点を備えた電気回路(図示省略)を介して刺繍ロボットの制御部に送られ、刺繍ロボットの駆動を制御するとともに、ミシンヘッド1等に配設した上糸及び下糸の状態を表示する表示ランプ(図示省略)を点灯することにより作業者に糸11の糸切れを知らせるようにする。
なお、表示ランプのほか、刺繍ロボットの適宜位置には、作業者に刺繍ロボットの状態を表示するための液晶表示盤等の表示装置と、ブザー等の警報装置を設けることができる。
また、糸調節機構24の糸張力調節機構25と糸送出機構28の間には、針10に向けて送り出される糸11を仮保持し、必要とされる以上の糸11が送り出されることを防止する糸仮保持機構26を配設するようにしている。
この仮保持機構26は、特に限定されるものではないが、本実施例においては、糸送出機構28の上面との間で糸11を押圧することにより仮保持するロータリーソレノイド24aによって駆動させる可動押圧片24bで構成するようにしている。
この糸仮保持機構26により、糸11を仮保持するようにして、糸調節機構24が摺動する場合等に、必要とされる以上の糸11が糸送出機構28に向けて送り出されることを防止し、所定長さの糸11を針10に向けて安定して送り出すことができるようにしている。
糸調節機構24の本体24aの下部に設けられた糸送出機構28は、隣接する糸11同士が絡まるのを防止し、針10に向けて糸11を円滑に送り出すためのもので、第5図〜第6図に示すように、糸11を糸通し装置5に導く糸送出管28aと、糸送出管28aから垂下された糸を横方向に払って仮保持する糸払い・保持機構28bとを有する。
糸払い・保持機構28bは、第4図及び第8図〜第9図に示すように、糸送出管28aの下端部に配設し、糸送出管28aから垂下された糸11を横方向に払って仮保持するためのもので、糸送出管28aによって押し開かれる開口部28cに通じる縦孔28dを形成する2つの板ばね部材28e、28fと、板ばね部材28e、28fを揺動駆動する駆動機構28gとで構成する。
このうち、板ばね部材28eは、先端に鋭角状に折り曲げた小幅(例えば、全体の略1/3)のガイド片28hを備え、これにより、糸送出管28aを板ばね部材28e、28f間に形成した開口部28cに円滑に導いた後、糸送出管28aが、板ばね部材28e、28f間に形成した開口部28cを押し開いて縦孔28d内に入り込むことができるようにする。
また、板ばね部材28fは、上端縁に切り欠き部28iを備えることにより、板ばね部材28e、28f間に形成した開口部28cを押し開いて縦孔28d内に入り込んだ糸送出管28aが、この切り欠き部28iから縦孔28d外に出ることができるようにし、これにより、糸送出管28aから導出された糸11のみを、縦孔28d内に残留させて、糸11を糸払い・保持機構28bに確実に保持できるようにする。
さらに、糸払い・保持機構28bの縦孔28dを形成する板ばね部材28e、28fの内周面に、ループ状又は起毛状の繊維からなる滑り止め部材28jを配設するようにすることができる。
そして、このように、糸送出管28aから垂下された糸を横方向に払って仮保持する糸払い・保持機構28bを配設することにより、糸送出管28aから導出された糸11を、糸挟持部材31によって、所定精度の挟持状態の下で正確に挟持することができ、以降の糸通しを確実に行うことができるものとなる。
そして、特に、板ばね部材28e、28fの内周面に、ループ状又は起毛状の繊維からなる滑り止め部材28jを配設することによって、糸払い・保持機構28bによって仮保持している糸11が滑って糸払い・保持機構28bから脱離することを確実に防止することができる。
この場合におい5、糸送出管28aは、糸通し装置5の糸張設機構3の糸挟持部材31の可動挟持片31aと固定挟持片31bの直上に位置できるようにし、糸送出管28aから垂下した糸11を、糸張設機構3の糸挟持部材31の可動挟持片31aの、例えば、ソレノイド等からなる駆動機構を駆動することにより、可動挟持片31aと固定挟持片31bにより確実に保持することができるようにする。
そして、この糸挟持部材31の可動挟持片31a及び固定挟持片31bは、糸11を確実に保持するとともに、長期間の使用によっても摩耗しないように、金属板等の耐摩耗性のある材料で形成するようにする。
なお、後述のように、糸通し装置5の糸張設機構3の糸挟持部材31は、糸送出管28aから導出され、糸払い・保持機構28bに仮保持された糸11を確実に挟持することができるように、糸11を挟持する場合、糸挟持部材31の可動挟持片31aと固定挟持片31bを開いた状態で、一旦、糸送出管28aの下端より上方に上昇した後、糸挟持部材31の可動挟持片31aと固定挟持片31bを降下させるとともに閉じて、糸11を挟持するようにする。
糸選択機構29は、所要のボビン21に対応する糸送出機構28の糸送出管28aを所定の針10に糸通しを行う糸通し装置5の上方に選択的に位置させるもので、本実施例においては、糸調節機構24を摺動させることにより、1台の刺繍ロボットに数頭程度から多い場合には30頭程度備えられるミシンヘッド1の各々について、同時に色糸の掛け替え作業を行うことができるようにする。
この場合、糸選択機構29は刺繍ロボットの制御部によって制御されるようにし、制御部にボビン収容部22に収容された各ボビン21の種類(色)を予め記憶させておくことにより、多数の色糸の選択を自動的に行うことができるようにする。
また、糸調節機構24を構成する、糸張力調節機構25及び糸送出機構28は、それぞれボビン収容部22に収容可能なボビン21の個数に対応して、すなわち、本実施例においては20組を、糸調節機構24の本体24aに設けるようにしている。
ところで、本実施例においては、糸の交換時等に切断した不要な糸を排除する糸切断・排除機構7を、糸送出機構28の糸送出管28aの下方に配設するようにしている。
この糸切断・排除機構7は、第11図及び第16図に示すカッター71と、第11図〜第15図に示す第1操作片75及び第2操作片76によって押し開かれる開口部72fに通じる縦孔72cを形成する板ばね部材72とで構成し、第1操作片75によって開口部72fを押し開いて糸送出管28aから導出された糸11を縦孔72cに挿通し、この状態で刺繍を行い、糸11の排除時、糸11を縦孔72cに挿通した状態で板ばね部材72を後退させ、カッター71により糸送出機構28の糸送出管28aから導出された糸11を所定長さに切断するとともに、第2操作片76によって開口部72fを押し開いて切断した不要な糸を落下させるように構成している。
この場合において、カッター71は、ロータリーソレノイド71aによって駆動させる可動刃71bと、固定刃71cとで構成し、板ばね部材72を後退させることによって可動刃71bと固定刃71cの間に位置することとなる糸送出機構28の糸送出管28aから導出された糸11を、所定長さに切断するようにしている。
また、このカッター71には、可動刃71bと略平行に糸押さえ片71dを配設し、糸11を切断する際に、ロータリーソレノイド71aによって糸押さえ片71dを可動刃71bと共に揺動させることによって、糸押さえ片71dによって可動刃71bに先だって糸11を押し下げるようにし、これにより、糸11の撚り影響によって糸11が跳ね上がることを防止することができるようにしている。
板ばね部材72は、2枚の板ばね72X、72Yを重ね合わせて構成したもので、一方の板ばね72Xは、先端に第1操作片75に操作されるガイド片72aを備え、これにより、第1操作片75を2枚の板ばね72X、72Y間に形成した開口部72fに円滑に導いた後、この第1操作片75と共に糸送出管28aから導出された糸11が、板ばね72X、72Y間に形成した縦孔72c内に入り込むことができるようにする。
また、一方の板ばね72Xは、下端縁に切り欠き部72bを備えることにより、板ばね72X、72Y間に形成した縦孔72c内に入り込んだ第1操作片75が、この切り欠き部72bから縦孔72c外に出ることができるようにし、これにより、糸送出管28aから導出された糸11のみを、縦孔72c内に残留させるようにする。
さらに、板ばね72X、72Yは、後端に第2操作片76に操作されるガイド片72d、72eを備え、これにより、糸11の排除時、糸11を縦孔72cに挿通した状態で板ばね部材72を後退させることで、第2操作片76によって開口部72fを押し開いて、カッター71により切断した不要な糸を落下させることができるようにする。
板ばね部材72の前進及び後退動作は、駆動機構74により、リンク機構73を介して行うようにする。
この場合、駆動機構74は、第13図に示すように、駆動源としてのモータ74aにより駆動される回転軸74bの回転力を、直流ソレノイド74c及びクラッチ盤74d、74eからなるクラッチ機構を介在することにより、刺繍ロボットのミシンヘッド1毎に独立して駆動可能に構成することができ、これにより、糸11が切れたときの処理を含むすべての糸11に係る処理を自動で行うことができ、ミシンの稼働率及び生産性を一層向上することができるものとなる。
なお、糸の交換時等に切断した不要な糸を排除する糸切断・排除機構7は、上記のものに限定されず、例えば、切断した不要な糸を排除する吸引機構を備えた任意の構成のものを採用することができる。
また、糸切断・排除機構7に代えて、針10に向けて送り出された糸11を回収、保持する糸長さ調節機構(図示省略)を配設することにより、廃棄する糸11の無駄をなくするようにすることもできる。
さらに、本実施例のものにおいては、天秤機構4を、天秤41と、副天秤42と、ブレーキモータ又はエアーモータからなる副天秤42の駆動機構43とで構成するとともに、副天秤42を、上死点の位置42Xから、2段階、すなわち、下死点の位置42Y及び定位置42Zに揺動可能なように、各位置にストッパ42x、42y、42zを配設し、糸張力調節機構25に吸収される糸長さを確保するようにしている。
この場合、定位置42Zを規定するストッパ42zは、直流ソレノイド等の駆動機構を備え、これにより、ストッパ42zを没することにより、副天秤42をストッパ42zの位置を一旦通過させた後、ストッパ42zを突出することにより、副天秤42をストッパ42zに当接させ、正確に刺繍を行う定位置42Zに位置させることができるようにしている。
また、副天秤42の駆動機構43は、本実施例においては、各ミシンヘッド毎に独立した駆動源を配設するようにしているが、共通の駆動源の場合には、各ミシンヘッドとの間にクラッチを介在するようにする。
上記のように構成することにより、糸11を張設する際に、糸張力調節機構25の糸11にテンションをかけるばね機構等によって吸収される糸長さを確保し、糸通しを行うときに糸長さが不足することを確実に防止することができるようにしている。
なお、ミシンヘッド1にボビン収容部ユニット22A、22Bを着脱自在に取り付けるようにする場合には、ボビン収容部ユニット22A、22Bを、望ましくは、ミシンヘッド1の頭数の複数倍個用意しておく。これにより、色糸の交換を行う場合には、ボビン収容部ユニット22A、22Bごと交換して色糸の交換に要する時間を短縮することができる。例えば、本実施例のボビン収容部ユニット22A、22Bをミシンヘッドの頭数の2倍の個数用意しておけば、最大40色の色糸の交換を短時間で行うことができる。この場合、刺繍ロボットの制御部にボビン収容部22に収容された各ボビン21の種類(色)を予め記憶させておくことにより、ボビン収容部ユニット22A、22Bを交換するだけで、多数の色糸の交換を簡易に行うことができる。
また、本実施例においては、所要のボビン21に対応する糸送出機構28の糸送出管28aを所定の針10に糸通しを行う糸通し装置5の上方に選択的に位置させるため、糸選択機構29により糸調節機構24を摺動させるようにしているが、糸選択機構として、糸調節機構24を支軸を揺動軸として揺動駆動する機構を採用することもできる。
また、糸調節機構24の本体24aの近傍のミシンヘッド1には、第17図に示すように、2個の糸張力調節部材25a、25bにより加えられる糸11の張力の大きさを調整するための糸張力調節具25cを配設するようにする。
この糸張力調節具25cは、後述の糸供給装置2より下方に位置する天秤41及び副天秤42からなる天秤機構4、針10等を介して糸11にかかる張力と同等の張力を糸11にかけることができるもので、これにより、糸11を天秤41、副天秤42、針10等に掛け渡すことなく、2個の糸張力調節部材25a、25bにより加えられる各ボビン21からの糸11の張力の大きさを均一に調整することができるようにする。そして、この糸張力調節具25cは、基部に磁石を配設して、ミシンヘッド1の適宜位置、より具体的には、針10に向けて各ボビン21からの糸11を送り出すために設けられる糸送出機構28の糸送出管28aの下方位置に選択的に着脱可能に設置することができるようにする。
ミシンヘッド1の糸供給装置2の下部には、本件発明者が先に提案した(PCT/JP97/02601、PCT/JP97/02602、PCT/JP01/01763参照)ような糸張設機構3及び糸通し機構6からなる糸通し装置5並びに針棒支持機構8を配設する。
この糸通し装置5は、糸供給装置2の糸送出管28aから所定長さ垂下された糸11の端部を針10の近傍位置まで導くとともに、糸11を天秤機構4の天秤41及び副天秤42に掛け渡し、さらに、針10の近傍位置まで導かれた糸11を針10の針孔10aに糸通しするものである。
また、針棒支持機構8は、糸通し機構6の糸引き抜き機構の先端を鉤形に形成したフック部材61を針10の針孔に挿通する際に、針棒のぶれを修正し、針棒を所定位置に位置決めするものである。
次に、本実施例の刺繍ロボットの操作方法について説明する。
まず、刺繍の前段階の操作方法について説明する。
刺繍を開始するときには、刺繍ロボットのミシンヘッド1の糸供給装置2のボビン収容部22に、各々色糸のボビン21を収容し、ボビン21から繰り出した糸11を糸保持体23を介、して、糸調節機構24を構成する、糸張力調節機構25、糸長さ調節機構26及び糸送出機構28に掛け渡し、糸11の端部を糸送出機構28の糸送出管28aから所定長さ垂下するようにする。
次に、本実施例の刺繍ロボットについて、刺繍を開始するときの操作方法について、第6図〜第9図に基づいて説明する。
糸供給装置2の糸選択機構29を駆動することにより、糸調節機構24を摺動させ、所要のボビン21に対応する糸送出機構28の糸送出管28aを糸通しを行う糸通し装置5の上方に選択的に、かつ、正確に位置させる。
この時、合わせて、糸通し機構6及び針棒支持機構8の駆動機構を駆動することにより、針10に糸11を挿通する準備をするようにする。
その後、糸仮保持機構26により糸11を仮保持することにより、糸11が送り出されることを防止する。
この状態で、待機位置にある糸払い・保持機構28bの駆動機構28g(第8図▲1▼)を駆動することによって、糸送出管28aを板ばね部材28e、28f間に形成した開口部28cに向けて導くようにし(第8図▲2▼)、さらに、糸払い・保持機構28bの駆動機構28gを駆動することによって、糸送出管28aを板ばね部材28e、28f間に形成した開口部28cに向けて導き(第8図▲2▼)、糸送出管28aを縦孔28d内に入り込むようにした後、縦孔28d外に出るようにして(第8図▲3▼)、糸送出管28aから導出された糸11のみが、縦孔28d内に残留されるようにする(第9図▲4▼)。
そして、糸張設機構3の駆動機構32を駆動することによって、糸張設機構3の糸挟持部材31を略中間部(天秤機構4の副天秤42の定位置42Z近傍)の待機位置(第6図▲1▼)から、糸送出機構28の糸送出管28aから垂下された糸11の端部を挟持する最上昇位置(糸送出管28aの下端より上方位置)まで移動させる(第6図▲2▼)。
その後、駆動機構28gを逆方向に駆動することによって、糸送出管28aから導出された糸11を、横方向に払って糸払い・保持機構28bの縦孔28d内に挿通した状態で、糸払い・保持機構28bによって確実に仮保持するようにする(第9図▲5▼)。
なお、駆動機構28gを逆方向に駆動すると、糸払い・保持機構28bの板ばね部材28f(28e)が糸送出管28aの先端部に接触することになるが、このとき、板ばね部材28f(28e)が撓むことによって、糸送出管28aの位置を通過することができる。
そして、糸送出管28aから導出された糸11を、横方向に払って仮保持した状態で、糸張設機構3の糸挟持部材31の可動挟持片31aと固定挟持片31bを降下させるとともに閉じて、糸11を挟持するようにする(第6図▲3▼)。
このとき、糸送出管28aから導出された糸11は、横方向に払って仮保持した状態にあるため、糸11を、糸張設機構3の糸挟持部材31の可動挟持片31aと固定挟持片31bの間で、所定精度の挟持状態の下に正確に挟持することができる。
この状態で、糸仮保持機構26による糸11の仮保持を一旦解除し、これにより、ボビン収容部22に収容したボビン21から糸11が自由に繰り出されるようにして、糸張設機構3の糸挟持部材31を、略中間部(天秤機構4の副天秤42の定位置42Z近傍)の待機位置まで降下させる(第6図▲4▼)。
次に、糸仮保持機構26による糸11の仮保持を解除したまま、糸供給装置2の糸選択機構29を駆動することにより、糸張設機構3の糸挟持部材31との間で糸11が掛け渡された状態の糸送出管28aを1段階側方(右側)に移動させる(第6図▲5▼)。
そして、糸仮保持機構26による糸11の仮保持を解除したまま、ボビン収容部22に収容したボビン21から糸11が自由に繰り出されるようにして、ブレーキモータ又はエアーモータからなる副天秤42の駆動機構43を駆動することによって、副天秤42を上死点の位置42Xから下死点の位置42Yまで一旦移動させる。その後、定位置42Zに移動させることにより、糸11を天秤41及び副天秤42に掛け渡すようにしながら、糸張力調節機構25の糸11にテンションをかけるばね機構や後述の糸挟持部材31と糸張架機構33との間に張架することによって吸収される糸長さを確保し、糸通しを行うときに糸長さが不足することを防止するようにする。そして、さらに、糸張設機構3の駆動機構32を駆動することによって、糸張設機構3の糸挟持部材31を降下させる(第6図▲6▼)。
この場合、副天秤42の定位置42Zを規定するストッパ42zは、直流ソレノイド等の駆動機構を備え、これにより、ストッパ42zを没することにより、副天秤42をストッパ42zの位置を一旦通過させた後、ストッパ42zを突出することにより、副天秤42をストッパ42zに当接させ、正確に刺繍を行う定位置42Zに位置させることができるようにしている。
また、糸挟持部材31に挟持された糸11を、糸挟持部材31と糸張架機構33との間に張架することにより、張架した糸11を、前もって針10の針孔10aに挿通された糸通し機構6のフック部材61上に載置するようにする。
なお、副天秤42及び糸挟持部材31の移動の開始順序は、糸11が天秤41及び副天秤42に確実に掛け渡されるように、適宜時間差を持たせるようにする。
この状態で、針棒支持機構8の駆動機構を駆動することにより、針棒の支持を解除し、糸通し機構6の駆動機構を駆動することにより、糸通し機構6のフック部材61を針10の針孔10aから引き抜くようにして、針10の針孔10aに糸11を挿通するとともに、糸挟持部材31の可動挟持片31aと固定挟持片31bを開いて糸11の挟持を解除するようにする(第6図▲7▼)。
その後、糸張設機構3の駆動機構32を駆動することによって、糸張設機構3の糸挟持部材31を略中間部(天秤機構4の副天秤42の定位置42Z近傍)の待機位置まで上昇させながら、糸張架機構33を復帰させ、待機させるようにする(第6図▲8▼)。
なお、糸張設機構3の糸挟持部材31を降下中の適宜段階で、第15図(A)〜(D)に示すように、糸切断・排除機構7の駆動機構74を駆動することにより、板ばね部材72を前進させ、第1操作片75によって板ばね部材72の開口部72fを押し開いて糸送出管28aから導出された糸11を縦孔72cに挿通しておくようにする。
そして、刺繍を開始するようにする。なお、これは、自動的に行うことができる。
一方、上記のようにして糸通しを行う際に、針10に前に刺繍を行った糸11が挿通されている場合(色糸11の交換作業を行う場合)には、糸仮保持機構26により糸11を仮保持することにより、糸11(新旧両方の糸)が送り出されることを防止した状態で、第6図▲1▼〜▲4▼の適宜段階で、糸11を針板(図示省略)の下方に配設した自動糸切り装置により切断するとともに、第15図(E)に示すように、糸切断・排除機構7の駆動機構74を駆動することにより、糸11を縦孔72cに挿通した状態で板ばね部材72を後退させ、カッター71により糸送出機構28の糸送出管28aから導出された糸11を所定長さに切断するとともに、第2操作片76によって開口部72fを押し開いて切断した不要な糸を落下させるようにする。
以下、糸供給装置2の糸選択機構29を駆動することにより、糸送出機構28の糸送出管28aを1段階ずつ側方(右側)に移動させながら、複数の糸(複数種類の色糸)11を用いて、ボビン収容部22に収容されたボビン(色糸)21の順に、刺繍を行うようにする。
そして、刺繍が完了し、次の対象物品に対して刺繍を行う場合には、糸11を針板(図示省略)の下方に配設した自動糸切り装置により切断するとともに、糸切断・排除機構7によって切断、排除した後、糸供給装置2の糸選択機構29を駆動することにより糸調節機構24を摺動させ、所要のボビン21に対応する糸送出機構28の糸送出管28aを糸通しを行う糸通し装置5の上方に選択的に、かつ、正確に位置させるようにして、糸張設機構3、糸通し装置5等により、糸11を張設するとともに、針10に糸通しを行って、刺繍を行うようにする。
また、ボビン収容部22に収容されたボビン(色糸)21のうち、任意のボビン(色糸)を選択する場合にも、同様にして、糸11を切断、排除した後、新たな糸11を張設するとともに、針10に糸通しを行って、刺繍を行うようにする。これにより、ボビン収容部22に収容されたボビン(色糸)21のうち、任意のボビン(色糸)を選択して、刺繍を行うことができる。
次に、刺繍を行っている途中で糸11が切れた場合の処理方法について説明する。
本実施例においては、少なくとも、糸仮保持機構26、糸払い・保持機構28b、副天秤42、副天秤42のストッパ42z及び糸切断・排除機構7の駆動機構を、刺繍ロボットのミシンヘッド1毎に独立して駆動可能に構成するようにしているため、糸11が切れた場合の処理を自動で行うことができる。
刺繍を行っている途中で糸11が切れた場合、刺繍ロボットのミシンヘッド1のすべてを停止する。
次に、糸11が切れたミシンヘッド1のみ、糸仮保持機構26により糸11を仮保持することにより、糸11(新旧両方の糸)が送り出されることを防止した状態で、糸11を針板(図示省略)の下方に配設した自動糸切り装置により切断するとともに、第15図(E)に示すように、糸切断・排除機構7の駆動機構74を駆動することにより、糸11を縦孔72cに挿通した状態で板ばね部材72を後退させ、カッター71により糸送出機構28の糸送出管28aから導出された糸11を所定長さに切断するとともに、第2操作片76によって開口部72fを押し開いて切断した不要な糸を落下させるようにする。
次に、糸送出管28aを1段階側方(左側)に移動させる。
この時、合わせて、副天秤42、糸通し機構6及び針棒支持機構8の駆動機構を駆動することにより、針10に糸11を挿通する準備をするようにする。
この場合、副天秤42の定位置42Zを規定するストッパ42zを没することにより、副天秤42を上死点の位置42Xまで上昇させるようにする。
その後、糸仮保持機構26により糸11を仮保持したままで、待機位置にある糸払い・保持機構28bの駆動機構28g(第8図▲1▼)を駆動することによって、糸送出管28aを板ばね部材28e、28f間に形成した開口部28cに向けて導くようにし(第8図▲2▼)、さらに、糸払い・保持機構28bの駆動機構28gを駆動することによって、糸送出管28aを板ばね部材28e、28f間に形成した開口部28cに向けて導き(第8図▲2▼)、糸送出管28aを縦孔28d内に入り込むようにした後、縦孔28d外に出るようにして(第8図▲3▼)、糸送出管28aから導出された糸11のみが、縦孔28d内に残留されるようにする(第9図▲4▼)。
そして、糸張設機構3の駆動機構32を駆動することによって、糸張設機構3の糸挟持部材31を略中間部(天秤機構4の副天秤42の定位置42Z近傍)の待機位置(第6図▲1▼)から、糸送出機構28の糸送出管28aから垂下された糸11の端部を挟持する最上昇位置(糸送出管28aの下端より上方位置)まで移動させる(第6図▲2▼)。
その後、駆動機構28gを逆方向に駆動することによって、糸送出管28aから導出された糸11を、横方向に払って糸払い・保持機構28bの縦孔28d内に挿通した状態で、糸払い・保持機構28bによって確実に仮保持するようにする(第9図▲5▼)。
なお、駆動機構28gを逆方向に駆動すると、糸払い・保持機構28bの板ばね部材28f(28e)が糸送出管28aの先端部に接触することになるが、このとき、板ばね部材28f(28e)が撓むことによって、糸送出管28aの位置を通過することができる。
そして、糸送出管28aから導出された糸11を、横方向に払って仮保持した状態で、糸張設機構3の糸挟持部材31の可動挟持片31aと固定挟持片31bを降下させるとともに閉じて、糸11を挟持するようにする(第6図▲3▼)。
このとき、糸送出管28aから導出された糸11は、横方向に払って仮保持した状態にあるため、糸11を、糸張設機構3の糸挟持部材31の可動挟持片31aと固定挟持片31bの間で、所定精度の挟持状態の下に正確に挟持することができる。
この状態で、糸仮保持機構26による糸11の仮保持を一旦解除し、これにより、ボビン収容部22に収容したボビン21から糸11が自由に繰り出されるようにして、糸張設機構3の糸挟持部材31を、略中間部(天秤機構4の副天秤42の定位置42Z近傍)の待機位置まで降下させる(第6図▲4▼)。
次に、糸仮保持機構26による糸11の仮保持を解除したまま、糸供給装置2の糸選択機構29を駆動することにより、糸張設機構3の糸挟持部材31との間で糸11が掛け渡された状態の糸送出管28aを1段階側方(右側)に移動させる(第6図▲5▼)。
そして、糸仮保持機構26による糸11の仮保持を解除したまま、ボビン収容部22に収容したボビン21から糸11が自由に繰り出されるようにして、ブレーキモータ又はエアーモータからなる副天秤42の駆動機構43を駆動することによって、副天秤42を上死点の位置42Xから下死点の位置42Yまで一旦移動させる。その後、定位置42Zに移動させることにより、糸11を天秤41及び副天秤42に掛け渡すようにしながら、糸張力調節機構25の糸11にテンションをかけるばね機構や後述の糸挟持部材31と糸張架機構33との間に張架することによって吸収される糸長さを確保し、糸通しを行うときに糸長さが不足することを防止するようにする。そして、さらに、糸張設機構3の駆動機構32を駆動することによって、糸張設機構3の糸挟持部材31を降下させる(第6図▲6▼)。
この場合、副天秤42の定位置42Zを規定するストッパ42zは、直流ソレノイド等の駆動機構を備え、これにより、ストッパ42zを没することにより、副天秤42をストッパ42zの位置を一旦通過させた後、ストッパ42zを突出することにより、副天秤42をストッパ42zに当接させ、正確に刺繍を行う定位置42Zに位置させることができるようにしている。
また、糸挟持部材31に挟持された糸11を、糸挟持部材31と糸張架機構33との間に張架することにより、張架した糸11を、前もって針10の針孔10aに挿通された糸通し機構6のフック部材61上に載置するようにする。
なお、副天秤42及び糸挟持部材31の移動の開始順序は、糸11が天秤41及び副天秤42に確実に掛け渡されるように、適宜時間差を持たせるようにする。
この状態で、針棒支持機構8の駆動機構を駆動することにより、針棒の支持を解除し、糸通し機構6の駆動機構を駆動することにより、糸通し機構6のフック部材61を針10の針孔10aから引き抜くようにして、針10の針孔10aに糸11を挿通するとともに、糸挟持部材31の可動挟持片31aと固定挟持片31bを開いて糸11の挟持を解除するようにする(第6図▲7▼)。
その後、糸張設機構3の駆動機構32を駆動することによって、糸張設機構3の糸挟持部材31を略中間部(天秤機構4の副天秤42の定位置42Z近傍)の待機位置まで上昇させながら、糸張架機構33を復帰させ、待機させるようにする(第6図▲8▼)。
なお、糸張設機構3の糸挟持部材31を降下中の適宜段階で、第15図(A)〜(D)に示すように、糸切断・排除機構7の駆動機構74を駆動することにより、板ばね部材72を前進させ、第1操作片75によって板ばね部材72の開口部72fを押し開いて糸送出管28aから導出された糸11を縦孔72cに挿通しておくようにする。
なお、上記動作は、糸11が切れたミシンヘッド1のみについて行い、糸11が切れていないミシンヘッド1については、少なくとも、糸仮保持機構26、糸払い・保持機構28b、副天秤42、副天秤42のストッパ42z及び糸切断・排除機構7の駆動機構をクラッチを切ること等によって動作しない(そのままの状態で保持される)ようにし、糸11が切れたミシンヘッド1の上記動作が完了した時点で、通常状態に復帰させるようにする。
一方、本実施例の刺繍ロボットにおいて、糸選択機構29、糸張設機構3、糸通し機構6、針棒支持機構8等は、ミシンヘッド1に糸11が張設されている状態で空運転しても支障がないため、必ずしもミシンヘッド1毎に独立して駆動可能に構成する必要はない(これにより、駆動機構の構成を簡略化することができる。)。
そして、ここでは、独立して駆動可能に構成していない糸選択機構29、糸張設機構3、糸通し機構6、針棒支持機構8等は、刺繍ロボットのすべてのミシンヘッド1について、糸11が切れたミシンヘッド1と同様に動作し、空運転する(具体的には、例えば、糸張設機構3は、糸挟持部材31の可動挟持片31aと固定挟持片31bを開いた状態で、一旦、糸送出管28aの下端より上方に上昇させ、糸送出管28aが1段階側方(右側)に移動した後、糸挟持部材31の可動挟持片31aと固定挟持片31bを閉じるとともに降下、上昇させて、略中間部(天秤機構4の副天秤42の定位置42Z近傍)の待機位置に待機させるようにする。なお、この場合、糸挟持部材31の可動挟持片31aの駆動機構は、ミシンヘッド1毎に独立して駆動可能に構成するようにする。)ことになる。
そして、糸11が切れたミシンヘッド1の上記動作が完了した時点で、刺繍を再開するようにする。なお、これは、自動的に行うことができる。
以上、本発明の刺繍ロボットについて、その実施例に基づいて説明したが、本発明は上記実施例に記載した構成に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において適宜その構成を変更することができるものである。
【産業上の利用可能性】
本発明の刺繍ロボットは、色糸等の糸の供給及び糸通しを人手を介さずに自動的に行うことができることから、ミシンの稼働率及び生産性を向上することができる。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】

【図14】

【図15】

【図16】

【図17】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミシンヘッドの上部に配設した複数個のボビンが収容できるボビン収容部と、該ボビン収容部に収容可能なボビンの個数に対応して設けた糸張力調節機構及び糸送出機構を備えた糸調節機構と、所要のボビンに対応する糸送出機構を所定の針に糸通しを行う糸通し装置の上方に選択的に位置させる糸選択機構とからなる刺繍ロボットにおいて、糸を糸通し装置に導くように糸送出機構に糸送出管を配設するとともに、該糸送出管の下端部に、糸送出管から垂下された糸を横方向に払って仮保持し、糸通し装置の糸挟持部材によって挟持できるようにする糸払い・保持機構を配設したことを特徴とする刺繍ロボット。
【請求項2】
糸払い・保持機構を、糸送出管によって押し開かれる開口部に通じる縦孔を形成する板ばね部材で構成し、糸送出管から導出された糸を前記縦孔に挿通した状態で仮保持するようにしたことを特徴とする請求項1記載の刺繍ロボット。
【請求項3】
糸払い・保持機構の縦孔を形成する板ばね部材の内周面に、ループ状又は起毛状の繊維からなる滑り止め部材を配設するようにしたことを特徴とする請求項2記載の刺繍ロボット。
【請求項4】
天秤機構を、天秤と、副天秤とで構成するとともに、前記副天秤を2段階に揺動可能に構成し、糸張力調節機構に吸収される糸長さを確保するようにしたことを特徴とする請求項1、2又は3記載の刺繍ロボット。
【請求項5】
ボビン収容部に収容したボビンからの余分な糸の繰り出しを防止する糸仮保持機構を配設したことを特徴とする請求項1、2、3又は4記載の刺繍ロボット。
【請求項6】
糸の交換時等に切断した不要な糸を排除する糸切断・排除機構を配設したことを特徴とする請求項1、2、3、4又は5記載の刺繍ロボット。
【請求項7】
糸切断・排除機構を、カッターと、第1操作片及び第2操作片によって押し開かれる開口部に通じる縦孔を形成する板ばね部材とで構成し、第1操作片によって開口部を押し開いて糸送出管から導出された糸を前記縦孔に挿通し、この状態で刺繍を行い、糸の排除時、糸を前記縦孔に挿通した状態で板ばね部材を後退させ、カッターにより糸送出管から導出された糸を所定長さに切断するとともに、第2操作片によって開口部を押し開いて切断した不要な糸を落下させるようにしたことを特徴とする請求項6記載の刺繍ロボット。
【請求項8】
ミシンヘッドの各種駆動機構を、各ミシンヘッド間で独立して駆動可能に構成したことを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6又は7記載の刺繍ロボット。

【国際公開番号】WO2004/048668
【国際公開日】平成16年6月10日(2004.6.10)
【発行日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−554969(P2004−554969)
【国際出願番号】PCT/JP2003/014175
【国際出願日】平成15年11月6日(2003.11.6)
【出願人】(000161574)宮本株式会社 (2)
【Fターム(参考)】