説明

前庭動眼反射の原理を用いる眼球運動制御装置

【課題】並進運動に対する前庭動眼反射の原理を用いて画像のぶれを防止するための眼球運動制御装置を提供する。
【解決手段】眼球運動制御装置は、眼球装置として用いられる撮像手段20と、撮像手段を回転運動させる眼球駆動手段30と、撮像手段20から視標1までの距離に関係する情報を取得する距離情報取得手段40と、運動物体の並進運動による変動を計測する並進運動センサ50と、眼球駆動手段による回転運動により並進運動を補正する補正手段60とからなる。補正手段60は、並進運動センサ50により計測される並進運動による変動をキャンセルして視標1の撮像位置が固定されるように、取得される視標1までの距離情報と並進運動による変動情報とを用いて眼球駆動手段30による回転運動を補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は運動物体に設けられる眼球装置の画像のぶれを防止するための眼球運動制御装置に関し、特に、前庭動眼反射の原理を用いて画像のぶれを防止する眼球運動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
運動物体、例えば自律型ロボット等に眼球装置として撮像装置が設けられるものが種々存在する。これらには、生物の眼球運動神経システムを模擬した高精度な眼球運動システムも存在する。これらの装置の問題点としては、眼球装置により撮像される画像のぶれが挙げられる。運動物体が移動すると例えば運動物体自体が上下左右に振動する。このため、運動物体に固定された眼球装置も上下左右に振動する。これが主なぶれの原因である。
【0003】
画像のぶれの防止方法としては主に2通りあり、1つは画像処理によりぶれを除去するものである。これは、ぶれた画像に対してフレームごとに視標が同じ位置となるように画像を移動させて、連続したぶれのない画像に作り直す視覚フィードバック手法である。他方は運動物体の回転運動や並進運動をジャイロスコープや加速度センサ等で測定し、運動物体の移動をキャンセルするように眼球装置を制御することによりぶれを補償するものである(特許文献1)。
【0004】
【特許文献1】特表2006−502675号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、並進運動が画像に与える影響は視標までの距離に影響されるが、視標までの距離を考慮して並進運動の情報を直接利用して画像ぶれを防止する装置は存在していなかった。このため、従来の眼球装置では、確実に画像のぶれを防止できなかった。
【0006】
並進運動に対して前庭動眼反射の原理を用いて、並進運動の情報を基に眼球運動を制御できれば、視覚フィードバックに比べても非常に高速に画像のぶれを防止できるようになるため、このような装置の開発が望まれていた。
【0007】
本発明は、斯かる実情に鑑み、前庭動眼反射の原理を用いて画像のぶれを防止するための眼球運動制御装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した本発明の目的を達成するために、本発明による眼球運動制御装置は、眼球装置として用いられる撮像手段と、撮像手段により撮像される画像に視標が含まれるように、撮像手段を回転運動させる眼球駆動手段と、撮像手段から視標までの距離に関係する情報を取得する距離情報取得手段と、運動物体の並進運動による変動を計測する並進運動センサと、並進運動センサにより計測される並進運動による変動をキャンセルして視標の撮像位置が固定されるように、取得される視標までの距離情報と並進運動による変動とを用いて眼球駆動手段による回転運動により並進運動を補正する補正手段と、を具備するものである。
【0009】
ここで、眼球駆動手段は、少なくともロール回転を含む1自由度以上の自由度で撮像手段を回転運動させ、並進運動センサは、撮像手段のピッチ回転軸方向(y軸方向)の変動を計測し、補正手段は、計測されるy軸方向の変動を用いて眼球駆動手段によるロール回転の回転運動を補正するものであれば良い。
【0010】
また、眼球駆動手段は、少なくともピッチ回転を含む1自由度以上の自由度で撮像手段を回転運動させ、並進運動センサは、撮像手段のロール回転軸方向(z軸方向)の変動を計測し、補正手段は、計測されるz軸方向の変動を用いて眼球駆動手段によるピッチ回転の回転運動を補正するものであっても良い。
【0011】
また、並進運動センサは、y軸方向及びz軸方向に垂直な方向(x軸方向)の変動を計測し、補正手段は、x軸方向の変動を用いて眼球駆動手段によるロール回転及びピッチ回転の回転運動を補正するものであっても良い。
【0012】
さらに、撮像手段は、一対の撮像装置からなり、眼球駆動手段は、一対の撮像装置により撮像されるそれぞれの画像の同じ位置に視標が含まれるように、一対の撮像装置のそれぞれを回転運動させ、距離情報取得手段は、一対の撮像装置の回転角をそれぞれ計測する回転角計測手段からなり、一対の撮像装置間の距離とそれぞれの回転角を用いても良い。
【0013】
また、並進運動センサは、一対の3軸加速度センサを含むものであっても良い。
【0014】
さらに、並進運動センサは、一対の3軸加速度センサの差分信号を用いて運動物体の回転運動による変動を計測し、補正手段は、並進運動センサにより計測される回転運動による変動をキャンセルして視標の撮像位置が固定されるように、回転運動による変動を用いて眼球駆動手段を制御するものであっても良い。
【0015】
またさらに、運動物体の回転運動による変動を計測するジャイロスコープを含み、補正手段は、ジャイロスコープにより計測される回転運動による変動をキャンセルして視標の撮像位置が固定されるように、回転運動による変動を用いて眼球駆動手段を制御するものであっても良い。
【0016】
さらに、撮像手段により撮像される画像を用いて、動く視標の動きに撮像手段が追従するように眼球駆動手段を制御する視覚フィードバック手段を具備するものであっても良い。
【発明の効果】
【0017】
本発明の前庭動眼反射の原理を用いる眼球運動制御装置には、高速に画像のぶれを防止できるという利点がある。また、眼球運動の生理学・解剖学的な見地から、眼球運動の補正を必要により簡略化することで、単純なアナログ回路等により安価に補正部を構成可能であるという利点もある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図示例と共に説明する。図1は、本発明の眼球運動制御装置の構成を説明するための概略ブロック図である。図示の通り、本発明の眼球運動制御装置は、運動物体10に設けられる眼球装置20と、眼球駆動部30と、測距部40と並進運動センサ50と補正部60とから主に構成されるものである。なお、図示例ではこれらの構成要素すべてが運動物体10内に設けられているが、本発明はこれに限定されず、補正部60等は、必ずしも運動物体10内に設けられる必要はなく、外部接続により構成されるものであっても勿論構わない。
【0019】
運動物体10は、車両や人間型ロボット等、移動可能な種々の物体を含むものである。また、眼球装置20は、撮像装置から主に構成されるものであり、視標1を撮像し画像を出力可能なものである。より具体的にはデジタルビデオカメラ等のように、例えばCCDやCMOSセンサからなる撮像素子を有し、センサで受けた光を電気信号に変換し、画像を得るものである。なお、本発明の眼球運動制御装置では、眼球装置20は単眼でも2眼でもどちらの方式においても適用可能である。また、さらに多くの撮像装置を設けても勿論構わない。
【0020】
眼球駆動部30は、眼球装置20により撮像される画像に視標1が含まれるように、眼球装置20を駆動させるものである。より具体的には、眼球駆動部30は、複数のモータ等を組み合わせたアクチュエータ等からなり、ロール回転やピッチ回転、ヨー回転等、3自由度で眼球装置20を任意に回転運動させることが可能なものである。なお、回転運動は、具体的には眼球装置20の撮像面の中心を中心に回転させるのが計算上最も都合が良い。このような眼球駆動部30を用いて、例えば眼球装置20により撮像される画像の中心に視標1が位置するように、視覚フィードバック等を用いて制御するものである。
【0021】
視標1が移動しない場合には、撮像される画像の中心に視標1が撮像されるように、一旦眼球装置20を駆動させれば、運動物体10が動かない限りこの状態が保たれ画像は安定する。しかしながら、眼球装置20は、移動する物体である運動物体10へ設けられることが前提となっているため、移動した場合の画像のぶれが問題となり得る。そこで、この移動、特に並進運動による移動を考慮して、眼球駆動部30の運動を補正するのが本願発明の主な目的である。
【0022】
上述の目的を達成するために、本発明の眼球運動制御装置には、測距部40と並進運動センサ50と補正部60とが設けられている。測距部40は、眼球装置20の撮像面から視標1までの距離を計測するものである。これは、具体的にはレーザセンサや超音波センサ等を利用可能である。また、後述するように、眼球装置20が2眼である場合には、各眼球装置の回転角から三角測量の原理で距離を測定するものであっても良い。さらに、測距部40は、最終的に距離を計測しなくても、視標までの距離に関係する情報を取得するものであれば、眼球装置の回転角の情報を取得するものも含まれるものである。
【0023】
また、並進運動センサ50は、運動物体10の並進運動による変動を計測するものである。並進運動による変動を計測することで、並進運動に対する前庭動眼反射の原理を用いることが可能となる。並進運動センサ50は、具体的には例えば加速度センサからなるものである。加速度センサにはMEMSセンサや動電式センサ、歪みゲージ式センサ、圧電式センサ等、種々の方式のものがあるが、何れを用いても良い。なお、本明細書中において、運動物体の並進運動による変動とは加速度や速度、移動距離を含むものである。すなわち、加速度が測定できれば、時間で1回積分することで速度が求まり、さらにもう1回積分することで距離が求まるからである。したがって、並進運動センサ50は、加速度センサ以外に速度センサや移動距離センサであっても良い。また、並進運動センサ50は、3軸加速度センサを用いるのが好ましいが、後述のように、1軸のみの加速度を測定して簡略することも可能である。そして、並進運動センサ50は、眼球駆動部の補正を行うのに用いられるため、眼球に近い位置の並進運動を計測できることが好ましい。
【0024】
また、補正部60は、並進運動センサ50により計測される並進運動による変動をキャンセルして視標1の画像の位置が固定されるように、視標1までの距離と並進運動による変動とを用いて眼球駆動部30による回転運動により並進運動を補正するものである。
【0025】
さて、以下、図2を用いて、視標までの距離と並進運動による変動を用いた回転運動の補正を行う補正部について、より詳細に説明する。図2は、本発明の眼球運動制御装置の各パラメータを定義する座標を説明するための図である。なお、図2の例は、2眼式の眼球装置を用いた場合であり、各眼球装置の回転角から視標までの距離を測定するものである。しかしながら、本発明はこれに限定されず、上述のように単眼で別途距離計を用いたものであっても良い。
【0026】
なお、本明細書中では、眼球装置20の基準位置におけるピッチ回転軸方向をy軸方向とし、ロール回転軸方向をz軸方向とし、y軸方向及びz軸方向に垂直な方向、すなわちヨー回転軸方向をx軸方向とする。
【0027】
眼球駆動部30は、それぞれの眼球装置20、20により撮像される画像の同じ位置に視標1が含まれるように、それぞれの眼球装置20、20を回転運動させる。このときの眼球装置のそれぞれの回転角から、視標までの距離が計測できる。すなわち、各回転角と眼球装置間の距離との関係には、図2の関係から、正弦定理により以下の関係式が成り立つ。
【数1】

この関係式から、眼球装置20、20の各撮像面から視標1までの距離は、それぞれ以下の式で表される。
【数2】

【0028】
ここで、視標1が移動せず固定されているとした場合に、運動物体10がx軸方向に速度dx/dtで移動する場合、y軸方向に速度dy/dtで移動する場合、z軸方向に速度dz/dtで移動する場合に、この変動をキャンセルするためのθ方向(ピッチ回転)、φ方向(ロール回転)の眼球装置の変動分はそれぞれ以下の関係となる。なお、ロール回転とはz軸方向を中心とした回転をいい、ピッチ回転とはy軸方向を中心とした回転をいう。
・x軸方向に速度dx/dtで移動する場合
【数3】


・y軸方向に速度dy/dtで移動する場合
【数4】


・z軸方向に速度dz/dtで移動する場合
【数5】


したがって、数3〜数5の関係式から、運動物体の並進運動による眼球駆動部による回転運動のθ方向(ピッチ回転)、φ方向(ロール回転)の補正のための変動分はそれぞれ以下の関係式で表される。
【数6】


【0029】
上記の関係式を用いれば、並進運動による変動をキャンセルするように回転運動を補正することが可能となる。すなわち、補正部は、眼球駆動部に対して、水平方向の眼球運動制御系に数6のφ方向の補正式を与えてやり、垂直方向の眼球運動制御系に数6のθ方向の補正式を与えてやれば良い。
【0030】
より具体的に、例えば本願の発明者の1人による特表2006−502675号公報に開示の視線運動制御システムに本発明の眼球運動制御装置を適用した場合について、図3及び図4を用いて説明する。図3は本発明の眼球運動制御装置を適用した視線運動制御システムの水平方向(ロール回転)の運動制御ブロック図であり、図4は垂直方向(ピッチ回転)の運動制御ブロック図である。
【0031】
図3に示されるように、ロール回転(φ方向)の制御については、左右のロールエンコーダから現在の眼球装置のロール角度を、左右のピッチエンコーダから現在の眼球装置のピッチ角度を、左右のφ方向の補正式にそれぞれ入力する。なお、エンコーダは眼球装置の回転角を計測するものである。さらに、x軸方向及びy軸方向への並進加速度を左右のφ方向の補正式にそれぞれ入力する。そして、これらの補正式の出力を2眼の眼球駆動部V、Vの制御パラメータk、kxrとして入力することで、並進運動による変動をキャンセルできるため、画像のぶれを防止することが可能となる。
【0032】
また、図4に示されるように、ピッチ回転(θ方向)の制御については、左右のピッチエンコーダから現在の眼球装置のピッチ角度を、左右のロールエンコーダから現在の眼球装置のロール角度を、左右のθ方向の補正式にそれぞれ入力する。さらに、x軸方向、y軸方向及びz軸方向への並進加速度を左右のθ方向の補正式にそれぞれ入力する。そして、これらの補正式の出力を2眼の眼球駆動部に入力することで、並進運動による変動をキャンセルできるため、画像のぶれを防止することが可能となる。
【0033】
このように、本発明の眼球運動制御装置では、2眼式の場合にはその回転角を用いることで視標までの距離が分かるため、これを利用して視標までの距離と並進運動による変動(並進加速度)とを用いて、回転運動を補正することが可能となる。
【0034】
なお、視線運動制御システム自体のより詳細な説明は、特表2006−502675号公報に記載されているため省略する。また、具体的な視線運動制御システムについては図示例のものには限定されず、上述のように視線までの距離と並進運動による変動に関する情報を用いて眼球装置の回転運動の制御が可能なものであれば、如何なる視線運動制御システムに対しても本発明は適用可能である。
【0035】
次に、上述の補正部を簡略化したものについて説明する。上述の数6の補正式は、x軸、y軸、z軸すべての方向に対する並進運動による変動を考慮して補正するものであるが、以下のような条件下では、補正式を簡略化することが可能となる。
【0036】
眼球装置が視標を注視している状態では、運動物体は視標を略正面で捕らえていると考えられる。より具体的には、運動物体の例えば頭部に当たるところに配置された眼球装置により視標を捕らえようとした場合、まず眼球装置を先に視標の方向へ向け、その後、頭部を視標に向けて回転させる。そして、視標を注視した状態となったときには、頭部は視標に向いており略正面で視標を捕らえていることになる。一般的に眼球装置が撮像する画像のぶれが問題となるのは、視標を捕らえる最中の段階ではなく、視標に対して頭部を向け、視標を注視した安定状態となった段階である。したがって、このように運動物体の略正面で視標を注視している状態では、以下の条件が成り立つ。
【数7】


【0037】
また、視標が十分に遠くに位置しているとした場合、すなわち、l,l≫Lであるとすると、左右の眼球装置の回転角は以下のように近似することができる。
【数8】

したがって、数7及び数8を用いて数6の補正式を近似すると、以下のようになる。
【数9】


【0038】
上記をまとめると、十分遠くにある視標を運動物体の正面で捉えた場合という条件下では、運動物体の並進運動による眼球駆動部による回転運動のθ方向(ピッチ回転)、φ方向(ロール回転)の変動分は以下の関係式で表される。
【数10】


【0039】
上記の簡略化した関係式を用いても、数6による補正式と同様に、並進運動による変動をキャンセルするように回転運動を補正することが可能となる。すなわち、補正部は、眼球駆動部に対して、水平方向の眼球運動制御系に数10のφ方向の補正式を与えてやり、垂直方向の眼球運動制御系に数6のθ方向の補正式を与えてやれば良い。
【0040】
また、数10から分かる通り、眼球装置のロール角度(φoe)のみを測定するだけで良く、φ方向の補正については、ロール角と並進運動センサにおいてy軸方向の変動(dy/dt)のみを計測したデータを用いれば良いため、1軸加速度センサで足りる。また、θ方向の補正については、並進運動センサにおいてz軸方向の変動(dz/dt)のみを計測したデータを用いれば良いため、1軸加速度センサで足りる。
【0041】
したがって、例えば水平方向(xy平面上)にのみ移動可能な運動物体の場合では、眼球駆動部によるロール方向の回転運動を補正するだけで足りるため、並進運動センサはy軸方向の変動のみを計測すれば良い。また、垂直方向(xz平面上)にのみ移動可能な運動物体の場合では、眼球駆動部によるピッチ方向の回転運動を補正するだけで足りるため、並進運動センサはz軸方向の変動のみを計測すれば良い。そして、ロール方向及びピッチ方向の両方の回転運動を補正するなら、並進運動センサはy軸方向及びz軸方向の変動を測定すれば良いことになる。
【0042】
図3及び図4と同じように、特表2006−502675号公報に開示の視線運動制御システムに本発明の簡略化した眼球運動制御装置を適用した場合について、図5及び図6を用いて説明する。図5は本発明の簡略化した眼球運動制御装置を適用した視線運動制御システムの水平方向(ロール回転)の運動制御ブロック図であり、図6は垂直方向(ピッチ回転)の運動制御ブロック図である。
【0043】
図5に示されるように、ロール回転(φ方向)の制御については、左右のロールエンコーダにより現在の眼球装置のロール角度の差を取り、これとy方向への並進加速度とを乗算したものを眼球駆動部に入力することで、並進運動による変動をキャンセルできるため、画像のぶれを防止することが可能となる。
【0044】
また、図6に示されるように、ピッチ回転(θ方向)の制御については、左右のロールエンコーダにより現在の眼球装置のロール角度の差を取り、これとz方向への並進加速度とを乗算したものを眼球駆動部に入力することで、並進運動による変動をキャンセルできるため、画像のぶれを防止することが可能となる。
【0045】
このように、簡略化した眼球運動制御装置では、補正部は加算器と乗算器だけで足りるため、簡単なアナログ回路で構築することが可能となる。したがって、反応速度も速いだけでなく、安価に製造することも可能となる。
【0046】
以上説明したように、本発明の眼球運動制御装置は、x軸方向、y軸方向、z軸方向のすべての並進運動による変動を計測し、ロール回転とピッチ回転の回転運動を補正するようにしても良いし、簡易的にはy軸方向とz軸方向の並進運動による変動を計測し、ロール回転とピッチ回転の回転運動を補正するようにしても良い。さらに、運動物体が水平方向又は垂直方向にのみしか移動しない場合には、y軸方向のみ又はz軸方向のみの並進運動による変動を計測し、ロール回転のみ又はピッチ回転のみの回転運動を補正するようにしても良い。
【0047】
なお、並進運動センサ50として一対の3軸加速度センサを用いた場合、距離を置いてこれらを運動物体10に配置すれば、運動物体の回転運動を計測することも可能となる。すなわち、一対の3軸加速度センサのそれぞれからの信号の差分信号を用いれば運動物体の回転角が分かる。したがって、補正部60は、この運動物体回転角を用いて運動物体の並進運動だけでなく回転運動もキャンセルして視標の撮像位置が固定されるように、眼球駆動部による回転運動を補正することも可能となる。なお、一対の3軸加速度センサの場合、それぞれからの信号の和信号が並進加速度となる。
【0048】
また、運動物体10の回転運動を計測するために、別途ジャイロスコープを運動物体10に配置し、ジャイロスコープを用いて運動物体の回転運動による運動物体回転角を計測するようにしても良い。この場合には、補正部60は、ジャイロスコープにより計測される運動物体の回転運動による変動をキャンセルして視標の撮像位置が固定されるように、運動物体の回転角を用いて眼球駆動部による回転運動を補正することが可能となる。
【0049】
なお、これまで説明した例では、視標が固定されているものを前提に説明してきたが、本発明の眼球運動制御装置は、視標が動くものであっても勿論適用可能である。視標が動く場合には、撮像される画像を用いて視覚フィードバックを行えば良い。すなわち、視標1が動く場合、眼球装置20により撮像される画像を用いて、動く視標の動きに眼球装置20が追従するように眼球駆動部30を制御する。これにより、視標の動きに対しては視覚フィードバックにより常に画像の同じ位置にくるように撮像することが可能となり、また同時に、運動物体が並進運動した場合であっても、眼球運動制御装置により画像がぶれないように補正することが可能となる。
【0050】
なお、本発明の眼球運動制御装置は、上述の図示例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】図1は、本発明の眼球運動制御装置の構成を説明するための概略ブロック図である。
【図2】図2は、本発明の眼球運動制御装置の各パラメータを定義する座標を説明するための図である。
【図3】図3は、本発明の眼球運動制御装置を適用した視線運動制御システムの水平方向の運動制御ブロック図である。
【図4】図4は、本発明の眼球運動制御装置を適用した視線運動制御システムの垂直方向の運動制御ブロック図である。
【図5】図5は、本発明の簡略化した眼球運動制御装置を適用した視線運動制御システムの水平方向の運動制御ブロック図である。
【図6】図6は、本発明の簡略化した眼球運動制御装置を適用した視線運動制御システムの垂直方向の運動制御ブロック図である。
【符号の説明】
【0052】
1 視標
10 運動物体
20 眼球装置
30 眼球駆動部
40 測距部
50 並進運動センサ
60 補正部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
運動物体に設けられる眼球装置の画像のぶれを防止するための眼球運動制御装置であって、該眼球運動制御装置は、
眼球装置として用いられる撮像手段と、
前記撮像手段により撮像される画像に視標が含まれるように、前記撮像手段を回転運動させる眼球駆動手段と、
前記撮像手段から視標までの距離に関係する情報を取得する距離情報取得手段と、
運動物体の並進運動による変動を計測する並進運動センサと、
前記並進運動センサにより計測される並進運動による変動をキャンセルして視標の撮像位置が固定されるように、取得される視標までの距離情報と並進運動による変動とを用いて前記眼球駆動手段による回転運動により並進運動を補正する補正手段と、
を具備することを特徴とする眼球運動制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の眼球運動制御装置において、
前記眼球駆動手段は、少なくともロール回転を含む1自由度以上の自由度で撮像手段を回転運動させ、
前記並進運動センサは、前記撮像手段のピッチ回転軸方向(y軸方向)の変動を計測し、
前記補正手段は、計測されるy軸方向の変動を用いて前記眼球駆動手段によるロール回転の回転運動を補正する、
ことを特徴とする眼球運動制御装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の眼球運動制御装置において、
前記眼球駆動手段は、少なくともピッチ回転を含む1自由度以上の自由度で撮像手段を回転運動させ、
前記並進運動センサは、前記撮像手段のロール回転軸方向(z軸方向)の変動を計測し、
前記補正手段は、計測されるz軸方向の変動を用いて前記眼球駆動手段によるピッチ回転の回転運動を補正する、
ことを特徴とする眼球運動制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載の眼球運動制御装置において、
前記並進運動センサは、前記y軸方向及びz軸方向に垂直な方向(x軸方向)の変動を計測し、
前記補正手段は、x軸方向の変動を用いて前記眼球駆動手段によるロール回転及びピッチ回転の回転運動を補正する、
ことを特徴とする眼球運動制御装置。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4の何れかに記載の眼球運動制御装置において、
前記撮像手段は、一対の撮像装置からなり、
前記眼球駆動手段は、前記一対の撮像装置により撮像されるそれぞれの画像の同じ位置に視標が含まれるように、前記一対の撮像装置のそれぞれを回転運動させ、
前記距離情報取得手段は、前記一対の撮像装置の回転角をそれぞれ計測する回転角計測手段からなり、前記一対の撮像装置間の距離とそれぞれの回転角を用いる、
ことを特徴とする眼球運動制御装置。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5の何れかに記載の眼球運動制御装置において、前記並進運動センサは、一対の3軸加速度センサを含むことを特徴とする眼球運動制御装置。
【請求項7】
請求項6に記載の眼球運動制御装置において、
前記並進運動センサは、一対の3軸加速度センサの差分信号を用いて運動物体の回転運動による変動を計測し、
前記補正手段は、前記並進運動センサにより計測される回転運動による変動をキャンセルして視標の撮像位置が固定されるように、回転運動による変動を用いて前記眼球駆動手段を制御する、
ことを特徴とする眼球運動制御装置。
【請求項8】
請求項1乃至請求項6の何れかに記載の眼球運動制御装置であって、さらに、運動物体の回転運動による変動を計測するジャイロスコープを含み、
前記補正手段は、前記ジャイロスコープにより計測される回転運動による変動をキャンセルして視標の撮像位置が固定されるように、回転運動による変動を用いて前記眼球駆動手段を制御する、
ことを特徴とする眼球運動制御装置。
【請求項9】
請求項1乃至請求項8の何れかに記載の眼球運動制御装置であって、さらに、前記撮像手段により撮像される画像を用いて、動く視標の動きに前記撮像手段が追従するように前記眼球駆動手段を制御する視覚フィードバック手段を具備することを特徴とする眼球運動制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−311690(P2008−311690A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−154612(P2007−154612)
【出願日】平成19年6月12日(2007.6.12)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】