説明

前立腺がんの診断のためのポリペプチドマーカー

試料が尿試料または精液試料である、分子量および泳動時間について下記の値によって特徴づけられるポリペプチドマーカーがマーカー1ないし44および52ないし78(頻度マーカー)から選択される、試料中の少なくとも3種類のポリペプチドマーカーの存在または非存在を測定する段階を含み、またはマーカー45ないし51および79ないし115(振幅マーカー)から選択される少なくとも一つのポリペプチドマーカーの振幅を測定する段階を含む、前立腺がんの診断のための方法:






【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前立腺がん(PCA)の診断のための被験者由来の試料中の一種類以上のペプチドマーカーの存在または非存在の使用および、一または複数のペプチドマーカーの存在または非存在が前立腺がんの存在を示す前立腺がんの診断のための方法に関する。
【0002】
前立腺のがんは男性において最も一般的ながんの一つである。愁訴は疾患の進行した段階でのみ起こるため、前立腺がんは早期段階では、早期発見のための定期スクリーニング検査(デジタル直腸検査および血中PSA(前立腺特異的抗原)値)によってのみ診断されうる。疑い診断を確認するために、組織標本が細針生検によって採取される。
【0003】
治療のためには、腫瘍の種類および段階に応じた、および患者の個別の必要性に応じたいくつかの可能性がある。初期段階では、小線源挿入(ヨウ素−125放射線源の前立腺内への、侵襲が最小限の導入)または腫瘍の外科的除去および体外からの照射が利用可能である。
【0004】
診断時に、他臓器への転移が患者の三分の一で既に起こっている;この時、本疾患はもはや治癒困難である。しかし、放射線療法、化学療法またはホルモン療法(併用が可能である)は、がんのさらなる拡散を遅らせることができる。前立腺が単独で冒されている、すなわち、転移がまだ起こっていない場合、予後は良好である。
【0005】
前立腺の良性腫瘍(腺腫)である良性前立腺過形成(BPH)は、前立腺がんよりもはるかに高頻度で起こる。先行技術によると、PSA値を用いて悪性がんからBPHは非常に低い信頼性でしか識別できない。この場合にもまた、明確な診断を行うことができるためには生検を実施しなければならない。
【0006】
上記の通り、前立腺がんの非侵襲的なおよび信頼性の高い早期検出法は存在しない。現在まで、明確な診断は、生検のような侵襲的操作を伴っている。したがって、可能な限り侵襲性が低く、迅速でおよび安価な前立腺がんの診断のための過程および方法を見出す必要性がある。
【0007】
WO 03/072710は、前立腺がん細胞とBPHを識別するためのタンパク質バイオマーカーを記載する。該出願は高い不確実性((0.5%を上回る範囲の)を有するマーカーを記載する。不正確な情報のために、この範囲内の多数の分子から個々のマーカーへの割り当ては事実上不可能である。前立腺上皮細胞の細胞溶解物が好ましくは試料材料として用いられ、これは複雑な試料採取手順を必要とする。定義に含まれるタンパク質の数が多いことおよび試料採取の困難のため、その方法はほとんど適切でない。
【0008】
WO 01/25791は、マーカーを用いる前立腺がんの診断のための方法を記載する。前述のマーカーはタンパク質セミノジェリンIに由来する。示される質量は(0.5%だけの確実性で定義される。試験は上記のマーカー画布適当であることを示す。
【0009】
驚くべきことに、被験者に由来する試料中の特定のペプチドマーカーが、前立腺がんの診断に、および前立腺がんと良性前立腺過形成(BPH)を識別するための鑑別診断に使用されうることが現在見出されている。特に、試料は、非侵襲的に採取される、尿または精液試料でありうる。
【0010】
そのため、本発明は、被験者に由来する試料中の少なくとも3種類のポリペプチドマーカーの存在または非存在の、前立腺がんの診断のための使用に関し、前記ポリペプチドマーカーは表1に示す通り分子量および泳動時間によって特徴づけられるポリペプチドマーカー1ないし115から選択される。
【表1】




【0011】
本発明を用いて、前立腺がんを非常に早期に診断することが可能である。したがって、本疾患は公知の方法によって早期に治療されうる。本発明はさらに、一部非侵襲的な、または最小限に侵襲的な操作だけで、低い費用で迅速なおよび信頼性の高い診断を可能にする。
【0012】
本発明はさらに、前立腺がんとBPHを識別するための鑑別診断に関する。鑑別診断は、被験者に由来する試料中の少なくとも3種類のポリペプチドマーカーの存在または非存在を用いることによって達成でき、前記ポリペプチドマーカーは表2に示す通り分子量および泳動時間によって特徴づけられるポリペプチドマーカー52ないし78から選択される。好ましくは、より多数のマーカーが用いられる。
【表2】


【0013】
泳動時間は、たとえば、実施例に項目2として示される通り、キャピラリー電気泳動(CE)によって測定される。この実施例では、長さ90cmおよび内径(ID)50μmおよび外径(OD)360μmのガラスキャピラリーが付加電圧30kVにて操作される。移動相溶媒として30%メタノール、0.5%ギ酸を含む水が使用される。
【0014】
CE泳動時間は変動しうることが知られている。にもかかわらず、ポリペプチドマーカーが溶出される順序は典型的には使用される任意のCE系について記載の条件下で同一である。泳動時間にそれにもかかわらず起こりうる何らかの差のバランスを取るために、系は泳動時間が正確に知られている標準物質を用いて正規化されうる。これらの標準物質は、たとえば、実施例に記載されるポリペプチドでありうる(実施例の項目3を参照)。
【0015】
表1から2に示されるポリペプチドの特徴づけは、たとえばノイホフ(Neuhoff)ら(Rapid communications in mass spectrometry,2004,Vol.20,pages 149−156)によって詳細に記載されている方法である、キャピラリー電気泳動−質量分析(CE−MS)を用いて測定された。各測定間または異なる質量分析計間の分子量の変動は、較正が正確である場合には相対的に小さく、典型的には(0.03%の範囲内、好ましくは(0.01%の範囲内である。
【0016】
本発明に記載のポリペプチドマーカーは、タンパク質またはペプチド、またはタンパク質またはペプチドの分解産物である。それらは、たとえば、グリコシル化、リン酸化、アルキル化またはジスルフィド架橋といった翻訳後修飾によって、または、たとえば分解の範囲内の他の反応によって、化学的に修飾されうる。加えて、ポリペプチドマーカーはまた、試料の精製中に化学的に変化、たとえば、酸化されうる。
【0017】
ポリペプチドマーカーを決定するパラメーター(分子量および泳動時間)から進んで、対応するポリペプチドの配列を同定することが先行技術で公知の方法によって可能である。
【0018】
本発明に記載のポリペプチド(表1から5を参照)が、前立腺がんを診断するのに用いられる。「診断」とは、症状または現象を疾患または傷害に割り当てることによって知識を得る過程を意味する。この場合には、前立腺がんの存在が特定のポリペプチドマーカーの存在または非存在から結論される。このように、本発明に記載のポリペプチドマーカーが被験者由来の試料において測定され、頻度マーカーの場合にはその存在または非存在が、前立腺がんの存在を結論することを可能にする。ポリペプチドマーカーの存在または非存在は、先行技術で公知である任意の方法によって測定されうる。使用されうる方法が下記に例示される。
【0019】
ポリペプチドマーカーは、その測定値が少なくともその閾値と同じ高さであるならば、存在するとみなされる。測定値がより低いならば、ポリペプチドマーカーは存在しないとみなされる。閾値は測定法の感度(検出限界)によって決定されうるかまたは経験的に定義されうる。
【0020】
本発明に関連して、好ましくはある分子量について試料の測定値がブランク試料(たとえば、緩衝液または溶媒のみ)の測定値より少なくとも2倍高いならば、閾値を超えるとみなされる。
【0021】
一または複数のポリペプチドマーカーが、その存在または非存在が測定される方法で用いられ、存在または非存在が前立腺がんを示す(頻度マーカー)。このように、ポリペプチドマーカー番号1から11といった、典型的には前立腺がんを有する患者(疾患)に存在するが、前立腺がんの無い被験者(対照)には存在しないポリペプチドマーカーがある。加えて、前立腺がんの無い被験者に存在するが、前立腺がんを有する被験者にはより低頻度に存在するかまたは全く存在しない、たとえば、番号12から44(表3)のようなポリペプチドマーカーがある。
【表3】

【0022】
頻度マーカー(存在または非存在の測定)に加えてまたは代替的に、表4に記載の振幅マーカーもまた前立腺がんの診断に使用されうる(番号45−51、79−115)。振幅マーカーは、存在または非存在が決定的でなく、シグナルの高さ(振幅)がそのシグナルが両方の群で存在するかどうかを決定するような方法で使用される。表5では、対応するシグナル(質量および泳動時間によって特徴づけられる)の、測定されたすべての試料にわたって平均された平均振幅が示される。別々に濃縮された試料または異なる測定方法間の適合性を達成するために、試料のすべてのペプチドシグナルは総振幅100万カウントに対して正規化される。したがって、各マーカーそれぞれの平均振幅は百万分率(ppm)として示される。使用したすべての群は、信頼性のある平均振幅を得るために、少なくとも20の個別の患者または対照試料から成る。診断についての決定(PCAまたはそうでない)は、PCA群の対照群における平均振幅と比較して患者試料中の各ポリペプチドマーカーの振幅がどのくらい高いかの関数として行われる。振幅がPCA群の平均振幅により対応すれば、PCAの存在が考慮されるべきであり、および振幅が対照群の平均振幅により対応すれば、PCAの非存在が考慮されるべきである。より正確な定義は、マーカー番号48(表4)によって与えられる。本マーカーの平均振幅はPCAにおいて顕著に上昇する(2600ppmに対し対照群では1600ppm)。ここで、患者試料中のこのマーカーについての値が0ないし1600ppmであるかまたはこの範囲を最大20%超える、すなわち、0ないし1920ppmであるならば、この試料は対照群に属する。その値が2600ppmまたは最大20%下回るまたはより高い、すなわち、2080ないし非常に高値であるならば、PCAの存在が考慮されるべきである。
【0023】
対照群とPCA群の振幅間の隔たりが小さいほど、その二つの参照値の間にある値は参照値のうちの一方に近くなければならない。
【0024】
一つの可能性は、平均振幅間の範囲を3つの部分へさらに分割することである。値が下側3分の1内にあるならば、これは低値を示す;値が上側3分の1内にあるならば、これは高値を示す。値が中央3分の1内にあるならば、このマーカーについて明確な陳述は不可能である。
【表4】



【0025】
PCAとBPHの鑑別診断について、表5はマーカー番号52から58といった、前立腺がんを有する患者に典型的には存在するがBPHを有する被験者には存在しないかまたはほとんど存在しないポリペプチドマーカーを示す。さらに、たとえばポリペプチドマーカー番号59から78のような、BPHを有する被験者に存在するがPCAを有する被験者ではより低頻度に存在するかまたは全く存在しないポリペプチドマーカーがある。
【表5】


【0026】
一種類以上のポリペプチドマーカーの存在または非存在または振幅が測定される試料が由来する被験者は、前立腺がんにかかることのできる任意の対象、たとえば、動物またはヒトでありうる。好ましくは、被験者はイヌまたはウマといった哺乳類であり、および非常に好ましくは、被験者はヒトである。
【0027】
本発明の適用のために、一つのポリペプチドマーカーだけでなく、マーカーの組み合わせが前立腺がんを診断するのに用いられ、前立腺がんの存在がそれらの存在または非存在および/または振幅の高さから結論される。複数のポリペプチドマーカーを比較することによって、患者または対照における典型的な存在確率からのいくつかの個別の変動から生じる全体結果の偏りが低減または回避されうる。
【0028】
本発明に記載の一または複数のポリペプチドマーカーの存在または非存在が測定される試料は、被験者の体から得られる任意の試料でありうる。試料は、被験者の状態についての情報(前立腺がんまたはそうでない)を提供するのに適したポリペプチド組成を有する試料である。たとえば、試料は尿、精子、精液(精虫を含まない精液)でありうる。好ましくは、試料は液体試料である。
【0029】
好ましい一実施形態では、試料は尿試料である。
【0030】
尿試料は先行技術で公知の通り採取されうる。好ましくは、中間尿試料が本発明に関連して用いられる。たとえば、尿試料はカテーテルによって、またはWO 01/74275に記載の排尿器具によってもまた、採取されうる。
【0031】
試料中のポリペプチドマーカーの存在または非存在は、ポリペプチドマーカーの測定に適した先行技術で公知の任意の方法によって測定されうる。そのような方法は当業者に公知である。原則的に、ポリペプチドマーカーの存在または非存在は、質量分析のような直接的方法、または、たとえばリガンドを用いるような間接的方法によって測定されうる。
【0032】
必要であればまたは望ましければ、被験者由来の試料、たとえば尿試料は、任意の適当な方法で前処理することができ、および、一または複数のポリペプチドマーカーの存在または非存在が測定される前にたとえば精製または分離されうる。処理は、たとえば、精製、分離、希釈または濃縮を含みうる。方法は、たとえば、遠心分離、ろ過、限外ろ過、透析、沈澱、または、アフィニティ分離またはイオン交換クロマトグラフィーによる分離といったクロマトグラフィー法、または電気泳動分離でありうる。その具体例は、ゲル電気泳動、二次元ポリアクリルアミドゲル電気泳動(2D−PAGE)、キャピラリー電気泳動、金属アフィニティクロマトグラフィー、固定化金属アフィニティクロマトグラフィー(IMAC)、レクチンを用いるアフィニティクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、順相および逆相HPLC、陽イオン交換クロマトグラフィーおよび表面への選択的結合である。これらの方法のすべてが当業者に公知であり、および当業者はその方法を、使用する試料および一または複数のポリペプチドマーカーの存在または非存在を測定するための方法の関数として選択することができる。
【0033】
本発明の一実施形態では、試料は、測定される前に、キャピラリー電気泳動によって分離され、超遠心分離によって精製されおよび/または限外ろ過によって特定の分子サイズのポリペプチドマーカーを含む画分へと分割される。
【0034】
好ましくは、ポリペプチドマーカーの存在または非存在を測定するために質量分析法が用いられ、試料の精製または分離がその方法の上流で実施されうる。現在用いられている方法と比較して、質量分析は、試料の多数の(>100)ポリペプチドが単一の分析によって測定されうるという長所を有する。任意の種類の質量分析計が使用されうる。質量分析によって、10fmolのポリペプチドマーカー、すなわち、0.1ngの10kDaタンパク質を、複雑な混合物中で約(0.01%の測定精度でルーチンとして測定することが可能である。質量分析計では、イオン生成部が適当な分析装置と連結されている。たとえば、エレクトロスプレーイオン化(ESI)インターフェイスは主に液体試料中のイオンを測定するのに用いられ、一方、マトリクス支援レーザー脱離/イオン化(MALDI)法はマトリクスと結晶化した試料由来のイオンを測定するのに用いられる。生成したイオンを分析するためには、四重極、イオントラップまたは飛行時間(TOF)分析器が使用されうる。
【0035】
エレクトロスプレーイオン化(ESI)では、溶液中に存在する分子は、特に高電圧(たとえば、1〜8kV)の影響下で噴霧され、荷電した小滴を形成し、小滴は溶媒の蒸発からさらに小さくなる。最後に、いわゆるクーロン爆発が遊離イオンの形成を引き起こし、遊離イオンはその後分析および検出されうる。
【0036】
TOFによるイオンの分析では、イオンに等量の運動エネルギーを与える一定の加速電圧が加えられる。その後、各イオンが肥厚チューブを通じて特定の漂流距離を移動するのに要する時間が非常に正確に測定される。等量の運動エネルギーでは、イオンの速度は質量に依存するため、したがって質量が測定されうる。TOF分析器は非常に高いスキャン速度を有し、およびしたがって非常に高い分解能に達する。
【0037】
ポリペプチドマーカーの存在および非存在の測定のための好ましい方法は、気相イオンスペクトル法、たとえばレーザー脱離/イオン化質量分析、MALDI−TOF MS、SELDI−TOF MS(表面増強レーザー脱離/イオン化)、LC−MS(液体クロマトグラフィー/質量分析)、2D−PAGE/MSおよびキャピラリー電気泳動−質量分析(CE−MS)を含む。上記のすべての方法が当業者に公知である。
【0038】
特に好ましい方法が、キャピラリー電気泳動が質量分析と組み合わされるCE−MSである。この方法は、たとえば、独国特許出願DE 10021737に、Kaiserら(J Chromatogr A,2003,Vol.1013: 157−171,および Electrophoresis,2004,25: 2044−2055)に、およびウィトケ(Wittke)ら(Journal of Chromatography A,2003,1013: 173−181)にある程度詳細に記載されている。CE−MS技術は、試料の数百のポリペプチドマーカーの存在を同時に短時間内におよび少量で高感度で測定することを可能にする。試料が測定された後、測定されたポリペプチドマーカーのパターンが作成される。このパターンは、患者または健常者の参照パターンと比較されうる。大部分の場合で、限られた数のポリペプチドマーカーを使用するのが前立腺がんの診断および前立腺がんとBPHの鑑別診断には十分である。ESI−TOF MS装置にオンラインで連結されたCEを含むCE−MS法がさらに好ましい。
【0039】
CE−MSのためには、揮発性溶媒の使用が好ましく、および本質的に塩を含まない条件下で最も良く働く。適した溶媒の例は、アセトニトリル、メタノールなどを含む。溶媒は、水で希釈されうるかまたは、分析物、好ましくはポリペプチドをプロトン化するために弱酸(たとえば、0.1%ないし1%ギ酸)と混合されうる。
【0040】
キャピラリー電気泳動を用いて、分子を電荷およびサイズによって分離することが可能である。中性粒子は電流を加える際に電気浸透流動の速度で泳動し、一方で陽イオンは正極に向かって加速し、および陰イオンは遅延する。電気泳動におけるキャピラリーの長所は、体積に対する表面の比が有利なことにあり、これは電流フローの間に生じるジュール熱の良好な損失を可能にする。これは今度は高電圧(通常は最大30kV)の適用を可能にし、およびそのようにして高い分離性能および短い分析時間を可能にする。
【0041】
キャピラリー電気泳動では、典型的には50ないし75μmの内径を有するシリカガラスキャピラリーが通常用いられる。使用される長さは30ないし100cmである。加えて、キャピラリーは通常はプラスチック被覆シリカガラス製である。キャピラリーは、未処理、すなわち内表面上の親水基を曝露しているか、または内表面が被覆されているかの両方でありうる。疎水性コーティングは分解能を改善するために使用されうる。電圧に加えて、圧力もまた加えることができ、圧力は典型的には0ないし1psiの範囲内である。圧力もまた、実施中にのみ加えることができるか、または途中で変化させることができる。
【0042】
ポリペプチドマーカーの測定のための好ましい方法では、試料のマーカーはキャピラリー電気泳動を用いて分離され、次いで直接にイオン化され、および検出のために連結された質量分析計へオンラインで移送される。
【0043】
本発明に記載の方法では、前立腺がんの診断のためにいくつかのポリペプチドマーカーを使用することが有利である。特に、たとえば、マーカー1、2および3;1、2および4;などといった、少なくとも3種類のポリペプチドマーカーが使用されうる。
【0044】
より好ましいのは、少なくとも4、5または6種類のマーカーの使用である。
【0045】
さらにより好ましいのは、少なくとも11種類のマーカー、たとえば、マーカー1から11の使用である。
【0046】
非常に好ましいのは、表1または3に列記されたすべてのマーカーの使用である。
【0047】
いくつかのマーカーはまた、PCAとBPHの鑑別診断に使用されうる。特に、たとえば、マーカー45、46および47;45、46および48;などといった、少なくとも3種類のポリペプチドマーカーが使用されうる。
【0048】
より好ましいのは、少なくとも4、5または6種類のマーカーの使用である。
【0049】
さらにより好ましいのは、少なくとも7種類のマーカー、たとえば、マーカー1から7の使用である。
【0050】
非常に好ましいのは、表2または4に列記された27マーカーすべての使用である。
【0051】
いくつかのマーカーが用いられる場合に前立腺がんの存在の確率を測定するためには、当業者に公知である統計的手法が使用されうる。たとえば、ワイシンガー(Weissinger)らによって記載されたランダムフォレスト法(Kidney Int.,2004,65: 2426−2434)が、S−プラスといったコンピュータープログラムを用いることによって使用されうる。
【実施例】
【0052】
1.試料調製
前立腺がんに関するポリペプチドマーカーを検出するために、尿を用いた。尿は健常者(対照群)から、および前立腺がんまたはBPHに罹患した患者から採取された。
【0053】
以降のCE−MS測定のために、アルブミンおよび免疫グロブリンといった、より高濃度で患者の尿に含まれるタンパク質は限外ろ過によって分離除去されなければならなかった。したがって、尿500μlを取り、および2mlのろ過緩衝液(4M 尿素、0.1M NaCl、0.01% アンモニア)と混合した。この2.5mlの試料量を限外ろ過した(アミコン(Amicon)30kDa、ミリポア社(Millipore)米国ベッドフォード(Bedford))。限外ろ過は3000rpmにて遠心分離機中で、限外ろ液2mlが得られるまで実施された。
【0054】
得られたろ液2mlを、尿素、塩類および他の妨害成分を除去するためにファルマシアC−2カラム(ファルマシア社(Pharmacia)、スウェーデン、ウプサラ)に加えた。結合したポリペプチドを次いでC−2カラムから、50%アセトニトリル、0.5%ギ酸を含む水で溶出し、および凍結乾燥した。CE−MS測定のために、ポリペプチドを次いで水20μlの水(HPLCグレード、メルク社(Merck))に再懸濁した。
【0055】
2.CE−MS 測定
CE−MS測定は、ベックマン・コールター社のキャピラリー電気泳動システム(P/ACE MDQシステム;Beckman Coulter Inc.,米国フラートン(Fullerton))およびブルカーESI−TOF質量分析計(micro−TOFMS、ブルカー・ダルトニクス社(Bruker Daltonik)、ドイツ、ブレーメン)を用いて実施された。
【0056】
CEキャピラリーはベックマン・コールター社から調達され、およびID/OD50/360μmおよび長さ90cmであった。CE分離のための移動相は、30%メタノールおよび0.5%ギ酸を含む水から成った。MSでの「シース流」用には、0.5%ギ酸を含む30%イソプロパノールが流速2μl/分にて用いられた。CEおよびMSの連結はCE−ESI−MSスプレイヤー・キット(アジレント・テクノロジーズ社(Agilent Technologies)、ドイツ、ワルドブロン(Waldbronn))によって実現された。
【0057】
試料を注入するには、1ないし最大6psiの圧力が加えられ、および注入の持続時間は99秒であった。これらのパラメーターを用いて、試料約150nlがキャピラリーに注入され、これは、キャピラリー体積の約10%に相当する。キャピラリー中の試料を濃縮するためにスタッキング法が用いられた。このように、試料が注入される前に、1MNH3溶液が7秒間(1psiにて)注入され、および試料が注入された後に、2Mギ酸溶液が5秒間注入された。分離電圧(30kV)が加えられた後、分析物はこれらの溶液の間で自動的に濃縮された。
【0058】
以降のCE分離は圧力法を用いて実施された:0psiにて40分、次いで0.1psiにて2分、0.2psiにて2分、0.3psiにて2分、0.4psiにて2分、および最後に0.5psiにて32分。分離実行の合計時間はしたがって80分であった。
【0059】
MSの側で可能な限り良好なシグナル強度を得るために、ネブライザーガスは可能な最低値に設定された。エレクトロスプレーを生じるためにスプレーニードルに加えられた電圧は3700〜4100Vであった。質量分析計でのその他の設定は、取扱説明書に従ってペプチド検出用に最適化された。スペクトルは質量範囲m/z400からm/z3000に渡って記録され、および3秒毎に蓄積された。
【0060】
3.CE測定用標準
CE測定を点検および較正するために、選択された条件下での記載のCE泳動時間によって特徴づけられる下記のタンパク質またはポリペプチドが用いられた:

【0061】
タンパク質/ポリペプチドはそれぞれ10pmol/μl水の濃度にて使用された。"REV"、"ELM、"KINCON"および"GIVLY"は合成ペプチドである。
【0062】
ペプチドの分子量およびMSで見られる各荷電状態のm/z比を下記の表に列記する:

【0063】
実施例4.WO 01/25791に記載のマーカーの性能
WO 01/25791は11種類のマーカーに言及し(その請求項2を参照)、および質量測定の精度は0.5%と述べられている。これらがセミノジェリンIの断片だけと考えるならば、セミノジェリンの可能な断片の下記の数が得られる:

【0064】
さらに、WO 01/25791は前立腺がんの存在を否定するマーカーを開示する。可能な断片の数が下記の表に含まれる:

【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1A】図1は、例証的に一つの質量について、この重量範囲で可能な多数の配列を示す。 次の段階で、前立腺がんまたはBPHを有する患者に由来する尿試料中の対応するタンパク質を分析することが試みられた。6種類のマーカーだけを見つけることができた。
【図1B】図1は、例証的に一つの質量について、この重量範囲で可能な多数の配列を示す。 次の段階で、前立腺がんまたはBPHを有する患者に由来する尿試料中の対応するタンパク質を分析することが試みられた。6種類のマーカーだけを見つけることができた。
【図2】図2はこの方法で見出された6種類のマーカーの振幅の測定を示す。前立腺がん患者と対照群との間に有意差は無いことが見出された。その後、バイオマーカーの識別値はROC(受診者動作特性曲線)分析によって試験された。
【図3A】図3AはWO 01/25791に記載されおよび尿試料中に見出すことのできた6種類のマーカーについて対応する分析を示す。
【図3B】図3Bは本特許明細書の番号1から78の本発明に記載のバイオマーカーの対応するROC試験を示す。
【図3C】図3Cは本発明に記載のマーカーの部分群(16マーカー)のROC分析を示す。
【図3D】図3Dはその有意性は本発明に記載の3種類のバイオマーカーすなわちマーカー24、41および46のみが使用された場合でさえWO 01/25791 の有意性よりも明らかに高いことを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリペプチドマーカーがマーカー1ないし44および52ないし78(頻度マーカー)から選択される、試料中の少なくとも3種類のポリペプチドマーカーの存在または非存在を測定する段階を含み、またはマーカー45ないし51および79ないし115(振幅マーカー)から選択される少なくとも一つのポリペプチドマーカーの振幅を測定する段階を含み、分子量および泳動時間について下記の値によって特徴づけられ、試料が尿試料または精液試料である、前立腺がんの診断のための方法:



【請求項2】
マーカー1から44および52から78の測定された存在または非存在の評価が下記の参照値を用いて実施される、請求項1に記載の方法:


【請求項3】
マーカー45から51および79から115の振幅の評価が下記の参照値を用い て実施される、請求項1に記載の方法:


【請求項4】
少なくとも4種類または5種類の、請求項1で定義されるポリペプチドマーカーが用いられる、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
少なくとも10種類またはすべての、請求項1で定義されるポリペプチドマーカーが用いられる、請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
試料中の少なくとも3種類のポリペプチドマーカーの存在または非存在を測定する段階を含み、前記ポリペプチドマーカーが分子量および泳動時間について下記の値によって特徴づけられるマーカー52ないし78から選択され、前記試料が尿試料または精液試料である、前立腺がんと良性前立腺過形成(BPH)の鑑別診断のための方法:

【請求項7】
測定された存在または非存在の評価が下記の参照値を用いることによって実施される、請求項6に記載の方法:

【請求項8】
請求項6で定義される少なくとも3種類または少なくとも4種類または少なくとも5種類または少なくとも10種類またはすべてのポリペプチドマーカーが使用される、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
キャピラリー電気泳動、HPLC、気相イオンスペクトル法および/または質量分析が、一または複数のポリペプチドマーカーの存在または非存在を検出するのに用いられる、請求項1から8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
キャピラリー電気泳動が、ポリペプチドマーカーの分子量が測定される前に実施される、請求項1から9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
質量分析が、一または複数のポリペプチドマーカーの存在または非存在を検出するのに用いられる、請求項1から10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前立腺がんの診断のための、マーカー番号1ないし115から選択されおよび分子量および泳動時間について下記の値によって特徴づけられる少なくとも一つのポリペプチドマーカーの使用:



【請求項13】
前立腺がんと良性前立腺過形成(BPH)の鑑別診断のための、マーカー番号52ないし78から選択されおよび分子量および泳動時間について下記の値によって特徴づけられる少なくとも一つのポリペプチドマーカーの使用:

【請求項14】
少なくとも3種類のマーカーが診断に用いられる、請求項12または13のいずれかに記載の使用。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【公表番号】特表2008−537112(P2008−537112A)
【公表日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−504769(P2008−504769)
【出願日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際出願番号】PCT/EP2006/061374
【国際公開番号】WO2006/106129
【国際公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【出願人】(506074808)モザイクヴェス ディアグノシュティクス アンド テラポイティクス アクチェン ゲゼルシャフト (6)
【Fターム(参考)】