説明

前立腺状態の治療のための光線力学療法

本発明は、BPHなどの前立腺障害を治療する光線力学的方法に関する。この方法は、前立腺障害に罹患した又は罹患した疑いのある被験者の前立腺組織に、光線感作物質を直接投与するステップと、光線感作物質を活性化するのに適した波長のエネルギーを、前立腺組織に照射するステップとを含み、注射器具及び照射装置を位置決めするのにガイドワイヤを利用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光線力学療法(PDT)で前立腺疾患を治療する方法に関する。前立腺状態、特に良性前立腺肥大症(BPH)を治療するための、PDT及び適切な光線感作物質の使用が企図され、開示される。
【背景技術】
【0002】
前立腺は、中年を過ぎた男性において、最も頻繁に疾患に冒される身体の器官である。前立腺を冒す最も一般的な状態は、良性前立腺肥大症(BPH)である。BPHであることの組織学的証拠は、60才以上の男性の80%に見られる。BPHは、前立腺の腺及び線維筋性組織が徐々に増加することによって特徴付けられる。BPHに伴う前立腺組織の増殖は、尿道の狭窄又は閉塞をもたらす可能性があり、それが、尿流出障害を引き起こす可能性がある。この疾患は、一般に非常にゆっくりと進行し、症状はしばしば、注意深く見守ることを行動方針として推奨するのに十分軽度なものである。しかしこの状態は、水腎症、腎不全などの重篤な結果になる可能性がある。
【0003】
BPHの治療には、薬学的選択肢と外科的選択肢との両方がある。現行の療法は、投薬又は手術のいずれかによって尿道狭窄を軽減するように計画されている。
【0004】
投薬には、5−αレダクターゼ阻害剤(フィナステリドなど)とアドレノセプター遮断剤(プラゾシンやテラゾシン、ドキサゾシン、タムスロシンなど)が含まれる。どちらの種類の薬物も症候性BPHの軽減をもたらすが、その効果は長期間にわたって弱まっていく。さらに投薬は、毎日行わなければならず、浮動性めまいや体位性低血圧、射精障害、リビドー減退、インポテンスなどの副作用が生ずる可能性がある。
【0005】
BPHの外科的療法には、前立腺組織内レーザ凝固法(ILC)、過剰な組織を加熱し破壊するためにマイクロ波を使用する経尿道的マイクロ波温熱療法(TUMT)、前立腺の画定領域を焼灼するために低レベルの高周波エネルギーを使用する経尿道的ニードルアブレーション(TUNA)、及びBPHに最も一般的に使用されている外科治療である経尿道的前立腺切除術(TURP)が含まれる。TURPは、尿道を取り囲む前立腺組織を除去するのに、尿道内を通過する機器の使用を伴う。現行の外科治療はすべて、妥当な結果をもたらすが、そのような治療にも欠点はある。例えば現行の療法は、しばしば侵襲的であり、標的組織以外の組織に損傷を与える可能性がある。また外科処置は、長時間にわたり、痛みがあり、回復期間が長く、長期のカテーテル留置が必要であり、直腸プローブの使用を含めた注意深いモニタリングを必要とする可能性がある。
【0006】
前立腺組織を治療するための1つの代替例として、光線力学療法(PDT)が提案されている。米国特許第5514669号(Selman)は、BPH又は前立腺炎に伴う症状を治療する方法であって、前立腺組織を、組織中に蓄積する有効な量の光線感作組成物で感作するステップと、感作された組織を光エネルギー源に曝露するステップとを含み、それによって光線感作組成物が光を吸収し又は光化学反応を受ける方法を記載している。Selman他の"Studies of Tin Ethyl Etiopurpurin Photodynamic Therapy of the Canine Prostate" Journal of Urology, Vol.165, 1795-1801 (2001年5月)という名称の論文は、0.5〜1.0mg/kgのSnET2を低速ボーラス静脈内注射した後の、イヌ前立腺のPDTについて述べている。別のイヌに関する研究は、"Photodynamic Therapy in the Canine Prostate Using Motexafin Lutetium" Clinical Cancer Research, Vol.7, 651-660(2001年3月), His他に詳述されている。この研究では、モテキサフィンルテチウムを静脈内注射することによって、イヌに投与した。
【0007】
【特許文献1】米国特許第5514669号
【非特許文献1】Selman et al.; “Studies of tin Ethyl Etiopurpurin Photodynamic Therapy of the Canine Prostate” Journal of Urology, Vol.165, 1795-1801 (May 2001)
【非特許文献2】His et al.; "Photodynamic Therapy in the Canine Prostate Using Motexafin Lutetium" Clinical Cancer Research, Vol.7, 651-660(March 2001)
【発明の開示】
【0008】
本発明の開示は、BPHや前立腺炎などの非癌性前立腺障害を治療する光線力学方法に関する。一実施形態では、この方法は、良性前立腺肥大症に罹患しており又は罹患している疑いのある患者の前立腺組織に、光線感作物質を直接送達するステップと、この前立腺組織に、光線感作物質を活性化するのに適した波長の光を照射するステップとを含む。しばしば光線感作物質は、前立腺内の光線感作物質のピーク濃度が尿道壁から少なくとも3mmの所になるように、前立腺に直接送達される。
【0009】
本発明の方法は、非癌性前立腺障害に有用であることが見出されたが、この方法は、前立腺上皮細胞内新生物(PIN)や前立腺癌などの癌性又は前癌性前立腺障害にも有用であると考えられる。しばしば本発明の方法は、手術の影響を受け難い癌性又は前癌性前立腺障害を治療するのに使用することができる。本発明の方法は、単独で又はその他の療法を併せて使用することができる。しばしば包含される実施形態では、本発明の方法は、癌性又は前癌性前立腺障害の治療を以前受けたが再発の徴候を示す(例えば、PSAレベルの上昇や前立腺生検の悪化など)被験者を治療するのに使用することができる。
【0010】
よくある実施形態では、本発明による癌性又は前癌性前立腺障害の治療方法は、癌性又は前癌性障害に罹患しており又は罹患している疑いのある被験者の前立腺組織に、光線感作物質を直接送達するステップと、この前立腺組織に、光線感作物質を活性化するのに適した波長の光を照射するステップとを含む。しばしば光線感作物質は、前立腺内の光線感作物質のピーク濃度が尿道壁から少なくとも3mmの所になるように、前立腺に直接送達される。
【0011】
別のよくある実施形態では、本発明の開示は、前立腺内の光線感作物質のピーク濃度が尿道壁から少なくとも3mmの所になるように、前立腺に光線感作物質を直接送達する方法にも関する。またしばしば、本発明の開示は、尿道壁から少なくとも3mmの所で前立腺に光線感作物質を注射することによって、前立腺に光線感作物質を直接送達する方法にも関する。例えば、尿道壁から約3mmから約25mmの間である。
【0012】
よくある実施形態では、尿道に向かう光線感作物質の拡散によって、尿道のすぐ隣りの組織中濃度が不利な光線力学反応を引き起こすのに不十分なものとなるように、光線感作物質を、前立腺内のピーク濃度が尿道から十分な距離になるように投与する。またしばしば、光線感作物質に吸収された光が前立腺嚢胞(prostatic capsule)を越えて前立腺周囲組織に到達しないように、前立腺内の光線感作物質のピーク濃度は前立腺嚢胞から十分な距離の所にある。
【0013】
また本発明の開示は、しばしば、前立腺内の光線感作物質のピーク濃度が尿道壁から少なくとも3mmの所になるように、前立腺に光線感作物質を直接送達するための装置と、尿道壁から少なくとも3mmの所で前立腺に光線感作物質を注射するための装置にも関する。しばしば光線感作物質は、そのピーク濃度が約3mmから約25mmの間、及び/又は約5mmから約20mmの間、及び/又は約7mmから約15mmの間になるように送達される。
【0014】
本発明の記述は、BPHや前立腺炎などの前立腺障害を治療するのに有用な、方法及びキットに関する。よくある実施形態では、前立腺障害に罹患した又は罹患した疑いのある被験者の前立腺組織に、好ましくは直接注射によって、光線感作物質を直接投与するステップと、この前立腺組織に、光線感作物質を活性化するのに適した波長のエネルギーを照射するステップとを含み、光線感作物質送達装置及び照射装置を位置決めするのにガイドワイヤを利用する、前立腺障害を治療するための方法が提供される。よくある態様では、光線感作物質は、内部にガイドワイヤを挿入可能に受け入れるためのチャネルを含んだ送達装置を利用して投与する。送達装置は、注射器具にすることができる。注射器具は、注射部品と、内部にガイドワイヤを挿入可能に受け入れるためのチャネルとをしばしば含む。活性化エネルギーは、エネルギー源と、内部にガイドワイヤを挿入可能に受け入れるためのチャネルとを含んだ照射装置を利用して送達する。しばしばガイドワイヤは、注射器具又は照射装置の前に、被験者に挿入され又は導入される。またしばしば、ガイドワイヤは、照射ステップの前に被験者から除去される。
【0015】
よくある実施形態では、照射装置は、可膨張性アンカチャンバ及び/又は可膨張性治療チャンバを含む。しばしば可膨張性アンカチャンバ及び可膨張性治療チャンバは、別々の要素を含む。
【0016】
別のよくある実施形態では、光線感作物質送達装置は、膀胱鏡に対して適合性があり、被験者の尿道内及び前立腺組織に隣接して送達装置を挿入可能に位置決めすることが可能になる。またしばしば、ガイドワイヤは、近位端及び遠位端を含み、遠位端は、ガイドワイヤ表面に可膨張性部材を滑動可能に挿入する前に、被験者の膀胱内に事前に位置決めされる。しばしば膀胱鏡及びガイドワイヤは、照射ステップの前に被験者から除去される。
【0017】
しばしば包含される実施形態では、活性化エネルギー源が、近位端及び遠位端を含み、さらに、発光ディフューザ(light emitting diffuser)が遠位端に据えられた状態の光ファイバ部材をさらに含む。しばしば発光ディフューザは、治療領域を照射する前に、治療チャンバと位置合わせする。しばしば活性化エネルギーは、レーザ、光ファイバ照明器具、及び/又はこれらの組合せを用いて送達する。よくある実施形態では、活性化エネルギーを経尿道的に送達する。
【0018】
よくある実施形態では、光線感作物質を、前立腺への経尿道的注射によって送達する。さらに、しばしば光線感作物質は、プロポルフィリン、ポルフィリン、及び/又はこれらの混合物から選択される。しばしば光線感作物質は、緑色ポルフィリンを含む。
【0019】
別のしばしば包含される実施形態では、PDTを利用して被験者の前立腺障害を治療するタイプのカテーテル装置が提供され、その改善点には、PDTを実施するために、被験者に対してカテーテル装置を位置決めするためのガイドワイヤが含まれ、このカテーテルは、ガイドワイヤに沿って、且つこのガイドワイヤを被験者に対して事前に位置決めした後に、被験者の前立腺組織にエネルギーを送達するため滑動可能に位置決めされる。しばしばカテーテルは、バルーンタイプのカテーテルを含む。またしばしば、エネルギーは、光線感作物質を活性化することが可能な活性化エネルギーを含む。しばしば光線感作物質は、例えば前立腺への直接的な注射によって被験者の前立腺組織に蓄積されるように被験者に投与される。
【0020】
本発明の記述はさらに、キットを提供する。よくある実施形態では、前立腺障害を治療するためのキット、即ちガイドワイヤと、治療領域を形成するように被験者の前立腺組織に光線感作剤を局所導入する手段と、光線感作剤を活性化するのに適した波長のエネルギーで治療領域を照射する照射部材であって、ガイドワイヤを滑動可能に受け入れる中心管腔を有する照射部材と、ガイドワイヤ及び/又はその内部に光線感作剤を局所導入する手段を、滑動可能に受け入れる中心管腔を有する膀胱鏡とを含むキットが提供される。時には、現在考えられているキットが、これら態様のうちの、特定の組合せも含めた1つ又は複数を含んでよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
他に指定しない限り、本明細書で使用されるすべての専門用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解されるものと同じ意味を有する。本明細書で言及されるすべての特許、出願、公開出願、及びその他の刊行物は、その全体を参照により援用する。このセクションで記述される定義が、参照により本明細書に援用される特許、出願、公開出願、及びその他の刊行物で述べた定義に反し又は別の理由で矛盾している場合、このセクションで記述される定義が、参照により本明細書に援用される定義よりも優先する。
【0022】
本明細書で使用する「a」又は「an」は、「少なくとも1つ」又は「1つ又は複数」を意味する。
【0023】
本明細書で使用する「治療」は、状態、障害、又は疾患の症状を、寛解させ又は他の方法で有利に変化させる任意の手法を意味する。治療は、本明細書の組成物の任意の薬事利用も包含する。
【0024】
本明細書で使用する「疾患又は障害」は、例えば感染又は遺伝的欠陥からもたらされ、確認できない症状によって特徴付けられる、器官の病的状態を指す。
【0025】
本明細書で使用する、疾患又は障害に関するところの「罹患(afflicted)」は、指定された疾患又は障害を有し、或いは指定された疾患又は障害により直接影響を受ける被験者を指す。
【0026】
本明細書で使用する「被験者(subject)」という用語は、特定の種又はサンプルタイプに限定されない。例えば、「被験者」という用語は、患者を指すことができ、しばしばヒトの患者を指す。しかし、この用語はヒトに限定されず、したがって様々な哺乳動物の種を包含する。
【0027】
本明細書で使用する「直接送達された」という用語は、標的組織に光線感作物質を投与する非全身的方法を指す。
【0028】
本明細書で使用する「前立腺障害」という用語は、被験者の前立腺組織に影響を及ぼす様々な障害又は疾患のいずれかを指す。ある態様で、前立腺障害は、急性又は慢性前立腺炎、良性前立腺肥大症(BPH)、前立腺上皮細胞内新生物、及び/又は前立腺癌を指す。しばしば前立腺障害は、BPHを含む。
【0029】
本明細書で使用する「膀胱鏡」という用語は、尿道及び/又は膀胱の内部を検査するための管状装置を指す。しばしば本発明の開示の膀胱鏡は、本明細書で述べる本発明の様々な態様と一緒に作用するように構成された改良型膀胱鏡を含む。
【0030】
本明細書で使用する「可膨張性チャンバ(inflatable chamber)」又は「可膨張性バルーン(inflatable balloon)」という用語は、本明細書でさらに述べるように、バルーンタイプの装置又はカテーテルを指す。
【0031】
本明細書で使用する「前立腺組織に隣接した」という句は、前立腺組織に近く又は隣接する領域を指す。しばしば前立腺組織は、被験者の中にある。ある態様では、この句は、前立腺組織と境を接する被験者の尿道内の領域を指す。
【0032】
本明細書で使用する「アンカチャンバ(anchor chamber)」又は「アンカバルーン(anchor balloon)」という用語は、治療剤の送達を可能にする位置に装置を固着するチャンバを指す。しばしばアンカチャンバは、被験者の膀胱内に滑動可能に位置決めされる。また、しばしばアンカチャンバは可膨張性であり、被験者の膀胱内で膨張すると、このチャンバが膀胱から外れないようになる。膨張したとき、アンカチャンバはしばしば、この可膨張性チャンバが膀胱に入るように通過する尿道口よりも、大きい直径を含む。アンカチャンバを膨張させるとき、このチャンバは、気体又は流体で膨張させることができる。
【0033】
本明細書で使用する「治療チャンバ(treatment chamber)」という用語は、少なくとも一部が透明又は半透明の材料からなるチャンバを指す。しばしばチャンバは、可膨張性チャンバを構成する。しかし治療チャンバは、本発明の方法及びキットに従い機能するのに、可膨張性である必要はない。また、しばしば治療チャンバは、そこから活性化エネルギーが生成/放出されるチャンバを指す。治療チャンバを膨張させる場合、このチャンバは、気体又は流体で膨張させることができる。
【0034】
本明細書で使用する「光線感作物質(photosensitizer)」又は「光線感作剤(photosensitizing agent)」は、放射線に触れると前立腺組織に変化又は破壊を引き起こす化合物を意味する。化合物は、ヒトに無毒性であること、又は無毒性組成物に配合可能であることが好ましい。化合物は、それが光分解した形であるものも、無毒性であることが好ましい。光感受性化学物質を列挙したものを、Kreimer-Birnbaum, Sem. Hematol. 26:157-73, 1989(参照により本明細書に援用する)と、Redmond及びGamlin, Photochem. Photbiol. 70(4): 391-475 (1999)に見ることができる。本発明は、様々な合成光線感作物質及び天然に生ずる光線感作物質を用いて実施することができ、そのような物質には、プロドラッグ、例えばプロポルフィリン5−アミノレブリン酸(ALA)及びその誘導体、ポルフィリン及びプロフィリン誘導体、例えばクロリン、バクテリオクロリン、イソバクテリオクロリン、フタロシアニン及びナフタロシアニン、及びその他のテトラ−及びポリ−大環状化合物及び関連する化合物(例えばピロフェオホルビド、サフィリン、及びテクサフィリン)及び金属錯体(スズ、アルミニウム、亜鉛、ルテチウムなどのよるものであるが、これらに限定するものではない)などが含まれるが、これらに限定するものではない。テトラヒドロクロリン、プルプリン、ポルフィセン、及びフェノチアジニウムも本発明の範囲内である。その他の適切な光線感作物質には、WO−A−97/19081、WO−A−99/45382、及びWO−A−01/40232に記載されているようなバクテリオクロロフィル誘導体が含まれる。好ましいバクテリオクロロフィルは、パラジウム−バクテリオフェオホルビドWST09(Tookad(商標))である。光線感作物質は、プロポルフィリン、ポルフィリン、及びこれらの混合物から選択することが好ましい。プロドラッグのいくつかの例には、Levulan(商標)などのアミノレブリン酸と、WO−A−02/10120に記載されているような、Metvix(商標)、Hexvix(商標)、及びBenzvix(商標)として入手可能なアミノレブリン酸エステルが含まれる。ジヒドロ又はテトラヒドロポルフィリンのいくつかの例は、EP−A−337601又はWO−A−01/66550に記載されており、Foscan(商標)(テモポルフィン)として入手可能である。
【0035】
特定の実施形態では、光線感作物質は、活性化エネルギーへの暴露によって光退色するものから選択することが好ましい。
【0036】
本開示のよくある実施形態では、光線感作物質は、米国特許第5171749号(参照により本明細書に援用する)に詳細に記載されている、緑色ポルフィリンとして知られる光線感作物質の特に強力な群から選択される。「緑色ポルフィリン」という用語は、モノヒドロベンゾポルフィリンが得られるように、ディールス−アルダータイプの反応においてポルフィリン核とアルキンとを反応させることにより得られたポルフィリン誘導体を指す。得られたこのようなマクロピロール化合物(macropyrrolic compound)を、ベンゾポルフィリン誘導体(BPD)と呼ぶが、これは、米国特許第5171749号に示されるように、様々な構造類似体を有する合成クロリン様ポルフィリンである。典型的な場合、緑色ポルフィリンは、プロトポルフィリン−IX環系に存在する2つの利用可能な共役非芳香族ジエン構造(環A及びB)の一方のみで反応を促進させる条件下、アセチレン誘導体とプロトポルフィリンとのディールス−アルダー反応によって得られたテトラピロールポルフィリン誘導体の群から選択される。金属陽イオンが、環系の中心の1個又は2個の水素に取って代わる、Gpの金属化した形も、本発明の実施の際に使用することができる。本発明で有用な緑色ポルフィリン化合物の調製については、米国特許第5095030号(参照により本明細書に援用する)に詳細に記載されている。
【0037】
しばしばBPDは、ベンゾポルフィリン誘導体ジエステル二酸(BPD−DA)、一酸環A(BPD−MA)、一酸環B(BPD−MB)、又はこれらの混合物を含む。これらの化合物は、約692nmの波長で光を吸収し、改善された組織浸透性を有する。式BPD−MA及びBPD−MBの化合物は、均質で、C環カルバルコキシエチルのみ又はD環カルバルコキシエチルのみが加水分解され、或いはC及びD環置換基の加水分解物でよい。いくつかのその他のBPD B環誘導体も、本発明の方法に使用することができる。これらの誘導体は、以下の一般式を有する。
【化1】

【0038】
上式で、Rはビニルであり、R及びRはメチルであり、nは2である。X、X、及びXは、下記の表に列挙する。
【0039】

【0040】

【0041】
好ましい光線感作物質は、ベンゾポルフィリン誘導体一酸(BPD−MA)、レムテポルフィン(lemuteporfin)(QLT0074、及び米国特許第5929105号に記載されるようにA−EA6とも呼ばれる)、及びB3(米国特許第5990149号に記載されるように)である。最も高い頻度で、光線感作物質は、下記の構造を有するQLT0074を含む。
【化2】

【0042】
さらに、本発明で使用される光線感作物質は、標的化が促進されるように様々なリガンドに結合することができる。これらのリガンドは、レセプター特異的ペプチド及び/又はリガンド、並びに免疫グロブリン、及びこれらの断片を含む。好ましいリガンドは、一般に抗体、及びモノクローナル抗体、並びに双方の免疫反応のある断片を含む。
【0043】
二量体形態の緑色ポルフィリンと、二量体又は多量体形態の緑色ポルフィリン/ポリフィリンの組合せを使用することができる。本発明の二量体及びオリゴマー化合物は、ポルフィリン自体の二量体化及びオリゴマー化に関する反応に類似した反応を使用して調製することができる。緑色ポルフィリン又は緑色ポルフィリン/ポルフィリン結合は、直接作製することができ、或いはポリフィリンを結合した後に、末端ポルフィリンのどちらか又は両方のディールス−アルダー反応を行って、それらを、対応する緑色ポルフィリンに変換することができる。当然ながら、2種以上の光線感作物質を、本発明の実施の際に使用することができる。
【0044】
上述の好ましい光線感作剤の他、本発明の方法、装置、及びキットに有用な光線感作物質のその他の例には、米国特許第5283255号、第4920143号、第4883790号、第5095030号、及び第5171749号に開示されている緑色ポルフィリンと、米国特許第5880145号及び第5990149号に論じられている緑色ポルフィリン誘導体とが含まれるが、これらに限定するものではない。典型的な緑色ポルフィリンのいくつかの構造が、上記引用した特許に示されており、またこれらは、化合物の生成の詳細についても示している。
【0045】
本発明の方法は、しばしば、前立腺障害の光線力学的治療を含む。本発明の方法は、前立腺障害の治療、しばしば非癌性の前立腺障害の治療に使用することが好ましい。本発明の方法は、BPHを治療するのに特に有用である。例えばCA2418937を参照されたい。
【0046】
一実施形態では、この方法は、前立腺障害に罹患した、又は罹患した疑いのある患者の前立腺組織に、光線感作物質を投与することを含む。例えば患者は、BPHに罹患した者でよい。光線感作物質は、光線感作物質のピーク濃度が尿道壁から少なくとも3mmの所にあるように、前立腺に直接送達される。
【0047】
現在考えられる光線感作物質は、しばしば、尿道に向かう光線感作物質の拡散によって尿道のすぐ隣り又は尿道そのものの内部の組織中濃度が不利なPDT反応をもたらすのに不十分となるように、光線感作物質のピーク濃度が尿道から十分な距離に位置付けられるように、前立腺に直接送達される。しばしば光線感作物質のピーク濃度は、膀胱頚部や尿道括約筋などのその他の組織から少なくとも約5mm離れた所にあり、より好ましくは少なくとも約7mm、さらに好ましくは少なくとも約10mm離れている。さらに、しばしば光線感作物質のピーク濃度は、光線感作物質により吸収された光が前立腺嚢胞を越えて前立腺周囲組織まで到達しないように、前立腺嚢胞から十分な距離の所にも位置付けられる。
【0048】
そのような手法で光線感作物質を送達することにより、尿道管腔や健康な前立腺組織などの非標的組織に対する光線力学的損傷の発生率が、低下することがわかった。
【0049】
理論に拘泥するものではないが、BPH治療のために光線力学療法を使用することは、光線感作物質が過剰増殖組織内に選択的に蓄積され、その結果、より良好に過形成前立腺細胞を狙うことができるので、有利であると考えられる。また、光と薬物の両方が光線力学効果に必要であるという事実により、より精度良く過形成組織を狙うことが可能になる。本発明の方法は、単独で、又はその他の療法と併せて使用することができる。
【0050】
本発明の方法のある実施形態では、光線感作物質が、比較的均一に送達部位から離れて拡散し、そのため医師は、焼灼される前立腺組織の量をより良好に制御できることもわかった。
【0051】
いくつかの実施形態では、本発明の方法は「影」を生成し、そこでは送達部位の高濃度の光線感作物質が活性化エネルギーのほとんどを吸収し、その結果、前立腺の向こう側の組織を光線力学的損傷から保護することが、さらにわかった。
【0052】
さらに、本発明の方法及び装置は、患者の米国泌尿器学会/国際前立腺症状スコア(AUA/IPSS)が7よりも大きいときに、特に有用であることがわかった("Management of BPH", American Urological Association (2003)参照)。
【0053】
よくある実施形態では、光線感作物質は、光線感作物質のピーク濃度が尿道壁から少なくとも3mmの所に確実にあるような方法で、送達する。しばしば光線感作物質のピーク濃度は、尿道壁から3mmから約25mmにある。より高い頻度で、光線感作物質のピーク濃度は、尿道壁から約5mmから約20mmの所にある。さらに高い頻度で、光線感作物質のピーク濃度は、尿道壁から約7mmから約15mmの所にある。
【0054】
光線感作物質のピーク濃度の部位は、通常、送達部位である。したがって光線感作物質は、しばしば、尿道壁から少なくとも3mmの所で前立腺に直接送達される。より高い頻度で、光線感作物質は、尿道壁から3mmから約25mmにある前立腺に、直接送達される。また、しばしば光線感作物質は、尿道壁から約5mmから約20mmにある前立腺に、直接送達される。しばしば光線感作物質は、尿道壁から約7mmから約15mmにある前立腺に、直接送達される。しばしば光線感作物質は、尿道壁から約10mmにある前立腺に、直接送達される。
【0055】
しばしば前立腺注射は、膀胱頚部や尿道括約筋などのその他の組織から、少なくとも約5mm、より好ましくは少なくとも約7mm、さらに好ましくは少なくとも約10mm離れた所で行う。
【0056】
任意の適切な光線感作剤又はこの薬剤の混合物を本明細書で使用することができる。しばしば、これらは、400nmから800nm、典型的な場合には600nmから750nmの範囲内の放射線又は活性化エネルギーを吸収することになる。
【0057】
光線感作物質は、任意の適切な投与経路によって送達することができる。例えば、経腹的、経動脈的、経直腸的、経会陰的、又は経尿道的アプローチを使用することができる。光線感作物質は、最も高い頻度で、経尿道的又は経直腸的アピローチを介して送達される。より高い頻度で、光線感作物質は、経尿道的アプローチを介して送達される。
【0058】
光線感作物質を送達する好ましい一方法は、注射によるものである。任意の適切な注射器具を使用することができる。例えば、針を備えた従来の膀胱鏡である。適切な膀胱鏡は、当業者に馴染みのあるものになり、とりわけKarl Storz Endoskope GmbH社(Konigin-Elisabeth-Str.60、Berlin、独国)、Olympus America社(2 Corporate Center Drive、Melville、NY、米国)、ACM1社(136 Turnpike Road、Southborough、MA、米国)、Richard Wolf GmbH社(Postfach 1164、Knittlingen、独国)から入手可能なものが含まれる。
【0059】
光線感作物質の良好な拡散をもたらすため、しばしば前立腺組織に2回以上注射をし、またより高い頻度で3回以上、またしばしば4回注射する。注射は、直腸を避けるように置くことが好ましい。しばしば、前立腺葉ごとに少なくとも1回の注射を行う。またしばしば、各葉ごとに2回の注射を行う。注射は、しばしば南北方向ではなく東西方向に置く。
【0060】
よくある注射器具には、経尿道的注射器具(TID)が含まれる。現在考えられるTID器具は、しばしば従来の膀胱鏡と併せて使用できるものを含む。しばしばTIDは、前立腺組織に光線感作物質を注射するのに適した針を有する。例えば針は、より容易な注射が可能になるように角度を付けることができ、又は先端を膀胱鏡と共に動かすことが可能になるように、可撓性あるものにすることができる。針に角度を付ける場合、その針は、しばしば約30°よりも大きい方向角を有し、よりしばしば約40°よりも大きく、さらにしばしば約50°よりも大きい。特に高い頻度で、針は60°の偏角(angle of deflection)を有する。TIDはしばしば、20gの中空針も有する。適切なTIDは、InjecTx(商標)(San Jose、CA、米国)から入手可能である。
【0061】
注射器具は、1つ又は複数の画定特性を有することができる。随時の実施形態では、注射器具は、この注射器具を適切に又は予め指定された位置に置いたときに、針が注射器から延びて標的組織、例えば前立腺組織に挿入されるように、引込み可能な針を有する装置を含む。しばしば針は、注射器具の遠位端を越えて延びないように、引き延ばされている。よくある実施形態では、針は、標的組織に光線感作物質を送達した後に、注射器具の本体に引き込まれる。しばしば針は、標的組織に1回以上注射した後、注射器具の本体に引き込まれる。よくある実施形態では、注射器具の針態様は、被験者に対する注射器具の位置決めの間及び/又はそこから取り外す間、引き込まれている。
【0062】
さらに随時の実施形態では、注射器具は、注射器具と標的組織とが接触したときに露出するようになる、標的組織に光線感作物質を送達する手段を含む。
【0063】
しばしば針は、光線感作物質送達用の1つの開口を有する中空である。時として、針は、光線感作物質を送達するための1つ又は複数の開口を有する。随時の実施形態では、針が注射器具から引き出されたときに、その注射器具から指定された角度だけ針を反らす手段が提供される。他の随時の実施形態では、針は、注射器具から引き出されたときに、プレストレス型針の応力が解放され、それによって針が湾曲構成を示すように、「プレストレス」形態で提供される。よくある注射器具は、一般に、穿刺し又はその他の方法で標的組織に挿入することが可能な針タイプの装置を組み込んでいる。当業者に理解されるように、他に特に指定しない限り、現在考えられている針は、遠位開口を有する中空針に特に限定することなく多くの形をとることができる。
【0064】
光線感作物質は、前立腺組織に送達された後、任意の適切なエネルギー源によって任意の適切な手法で活性化することができる。活性化エネルギーは、しばしば前立腺に直接送達される。
【0065】
光線感作物質を標的組織内に分布させるため、光線感作物質の送達と活性化エネルギーの投与との間に、十分な時間をとる。その正確な時間は、光線感作物質のタイプ及び標的組織に応じて様々に変えることができるが、光線感作物質の送達と活性化エネルギーの投与との間の経過時間は、好ましくは少なくとも5分であり、より好ましくは少なくとも10分である。
【0066】
しばしば活性化エネルギーは、光線感作物質の吸収ピークの少なくとも1つに近い波長を含む。この波長は、種々の光線感作物質ごとに異なる。例えばBPD−MAは、689nmに吸収ピークを有し、したがってBPD−MAが、使用される光線感作物質である場合、活性化エネルギーの波長はしばしば689nmであり又はこれに近い。光線感作物質ALA−メチルエステル(Metvixという商標で入手可能)は、635nmに吸収ピークを有し、したがってこの光線感作物質を使用する場合、活性化エネルギーはしばしば635nmであり又はこれに近い。ALA(Levulanという商標で入手可能)は、417nm及び630nmに吸収ピークを有し、したがってこの光線感作物質を使用する場合、活性化エネルギーは、しばしば417nm及び/又は630nmであるかこれに近い。
【0067】
治療の持続時間は、しばしば十分に短く、したがって、光線感作物質が前立腺から洗い出される前に、所望の効果が達成される。また、治療の持続時間は、患者に対する大きな不快感が回避されるのに十分に短いことも好ましい。しばしば治療の持続時間は、約60分未満であり、より高い頻度で約30分未満であり、さらに高い頻度で約15分未満である。それほど頻繁にではないが、治療の持続時間を60分より長くすることができる。
【0068】
活性化エネルギーは、標的組織で光線感作物質を活性化するのに十分な深さまで、その組織に浸透することが可能であるべきである。一般に、活性化エネルギーの波長が長くなるほど、その浸透は大きくなる。しばしば活性化エネルギーは、前立腺組織を少なくとも1mm浸透し、より高い頻度で少なくとも2mm、さらに高い頻度で少なくとも3mm浸透する。またしばしば、活性化エネルギーは、光線感作物質のピーク濃度を含む領域にも浸透する。
【0069】
本明細書の活性化エネルギーは、任意の適切な手法によって供給することができる。一般に活性化エネルギーは、光源から供給されるが、x線源及び/又は超音波源を使用できることも考えられる。活性化エネルギー源には、しばしば、レーザ、フィルターフルスペクトラムアークランプ(filtered full spectrum arc lamp)、発光ダイオード、及び/又はこれらの組合せが含まれる。より高い頻度で、本明細書で使用されるエネルギー源は、レーザ、発光ダイオード、及びこれらの組合せから選択される。さらに高い頻度で、エネルギー源はレーザである。適切なレーザの例には、630 PDT(Diomed社製、Andover、MA、米国)、Ceralas(商標)(Biolitec AG社製、Winzerlaer Str.2a、Jena、独国)、及びKTP/532(商標)又はKTP/YAG(商標)(Laserscope社製、San Jose、CA、米国)が含まれる。
【0070】
活性化エネルギーは、任意の適切な手段によって、前立腺に送達することができる。上述のように、活性化エネルギーは、最も高い頻度で前立腺まで直接送達される。したがって、前立腺に直接活性化エネルギーが送達されるよう、送達装置が一般に適用され、又は適用可能である。活性化エネルギーは、一般に、経尿道的又は経直腸的なアプローチを介して送達される。より高い頻度で、活性化エネルギーは経尿道的アプローチを介して送達される。最もよくある送達装置は、医師がこの装置を管腔に、特に尿道に挿通して前立腺に到達させることができるように柔軟である。しばしば活性化エネルギーは、エネルギー源から標的まで、光ファイバ装置によって伝達される。適切な光ファイバには、Optiguide(商標)光ファイバ(Diomed社製、Andover、MA、米国)及びRD光ディフューザ(Medlight社製、Ecublens、スイス)が含まれる。
【0071】
よくある実施形態では、活性化エネルギーは、バルーンカテーテルを用いて前立腺に送達される。いくつかの適切なカテーテルは、CA−A−2255058(参照により本明細書に援用する)に記載されている。バルーンカテーテルはしばしば、前立腺への活性化エネルギーの通過を可能にする治療窓を含む。また、しばしばバルーンカテーテルは、アンカバルーンをさらに含む。しばしば治療窓を有するバルーンは、反射性エンドキャップを含む。
【0072】
よくある実施形態では、1つ又は複数のステップの組合せを含む方法が、提供される。膀胱鏡又は改良された膀胱鏡を、被験者の尿道に挿通する。しばしば膀胱鏡の遠位端を、被験者の膀胱内に位置決めする。しばしば膀胱鏡の遠位端を、前立腺に隣接した被験者の尿道内に位置決めする。また、しばしば膀胱鏡の遠位端は、注射器具を利用して前立腺組織に治療薬を投与することができるように位置決めする。示されるように、注射器具は、膀胱鏡の挿入前に、又は挿入と同時に、又は挿入後に、膀胱鏡内に入れられ、又は膀胱鏡内に挿入可能に位置決めされる。次いで前立腺の1つ又は複数の部位で、被験者の前立腺組織に治療組成物が投与されるように、注射器具を位置決めする。多数回の注射を行うことができる。次いで注射器具を膀胱鏡から引き出し、膀胱鏡内にチャネルを残す。しばしばガイドワイヤをこのチャネルに挿通し、したがってガイドワイヤの一部が、被験者の膀胱内に位置決めされる。次いで膀胱鏡を、任意選択で被験者から取り外す。照射装置又はカテーテルを、ガイドワイヤに反って軸方向に挿入し、活性化エネルギーが前立腺組織に供給されるように位置決めする。理論に拘泥するものではないが、照射装置はしばしば、アンカバルーン及び治療バルーンを有するカテーテルを含むが、このカテーテルは、ガイドワイヤに沿って軸方向に挿入され、且つアンカバルーンが被験者の膀胱内に位置決めされるように、被験者内に位置決めされたものである。よくある実施形態では、ガイドワイヤに沿った装置の挿入は、このワイヤの近位(手近)端がカテーテルの内部管腔内を通り抜け、カテーテルが、ガイドワイヤの近位端がカテーテルシャフトの近位端から出て来るまでワイヤに沿って患者に達するまで前進することを意味する。しばしばアンカチャンバ又はバルーンは、被験者の膀胱内に位置決めされることになり、次いでガイドワイヤが被験者から取り外され、アンカチャンバが膨張するタイプである場合には、アンカチャンバ又はバルーンを膨張させる。アンカチャンバ又はバルーンの膨張後、カテーテルが膀胱頚部に接触するように静かに位置決めする。アンカチャンバ又はバルーンは、しばしば、膨張したときに尿道前立腺部に進入するには大きすぎるようなサイズのものである。しばしば包含される実施形態では、治療チャンバ又はバルーンを膨張させてもよい。
【0073】
随時の実施形態では、撮像技法によって、注射器具、照射装置、光源、及び/又はガイドワイヤの留置をモニタし且つ/又はガイドする。しばしば撮像技法は、数ある形態の中でも、MRI、X線、超音波、CTスキャン、蛍光透視法から選択される。そのような撮像技法は、最適な治療送達のために現在考えられる装置の正確な配置が行われるように、提供することができる。随時の実施形態では、正確な撮像を確実に行う手段が、注射器具、照射装置、光源、及び/又はガイドワイヤに提供される。
【0074】
投与される光線感作物質の量は、様々でよい。しばしば、光線感作物質のタイプ及び濃度は、適切な投与量を決定する際の根拠となる。さらに、光線感作物質が投与される組織の状態及びタイプは、しばしば光線感作物質の投与量及び/又はタイプを決定する際の根拠となる。
【0075】
照射装置が、被験者に位置決めされたときに膨張可能なタイプである場合、しばしば治療バルーンは、アンカバルーンの膨張及び/又は位置決めの後に、膨張する。時として、治療バルーンは、アンカバルーンと同時に膨張する。治療バルーンとアンカバルーンとは共に、気体又は流体を用いて膨張させることができる。理論に拘泥するものではないが、本明細書で使用される、本発明の装置のバルーンを膨張させるのに利用される気体は、流体であると考えられる。時として、アンカバルーン及び治療バルーンは、バルーンごとに異なる気体又は流体媒体を利用して膨張させる。治療バルーンに利用される、よくある媒体では、反射又は屈折と共に、或いは反射又は屈折なしで、その内部に活性化エネルギーを通すことが可能になる。照射装置から放出された活性化エネルギーのレベルを、フィルタリングし、高め、又は低下させる媒体を、利用することができる。
【0076】
随時の実施形態では、アンカチャンバ又はバルーンと、治療チャンバ又はバルーンとの間の距離は、しばしば治療バルーン窓が尿道前立腺部内に位置決めされるようなものである。しばしば治療窓は、尿道前立腺部の中央に位置決めされる。光ファイバを、カテーテルの内部管腔に挿入し、光ファイバの放出方向が治療バルーンと一直線になるように位置決めし、その後、活性化エネルギーが伝達される。
【0077】
ガイドワイヤは、被験者の尿道及び/又は膀胱内にカテーテルを正確に位置決めすることができる手段を含む。よくある実施形態では、ガイドワイヤは、一部には治療組成物、例えば光線感作物質の局所注射が可能になるように、利用される膀胱鏡又は改良型膀胱鏡に適合している。ガイドワイヤは、膀胱鏡の内部管腔又はチャネル内に、滑動可能に挿入でき又は取り外し可能に位置決めできる点が、「適合(compatible)」している。しばしばガイドワイヤは、最小限の修正又は調節で、膀胱鏡の内部管腔又はチャネル内を完全に通過することが可能である。そのような実施形態では、ガイドワイヤは、膀胱鏡内を縫って進み、膀胱鏡の遠位端から出て行き、被験者の膀胱に進入することができる。しばしばガイドワイヤは、数あるガイドワイヤ装置の製造業者の中でも、Lake Region Manufacturing社(Chaska、MN)、Olympus社によって製造されたタイプのものである。
【0078】
照射装置は一般に、この装置をガイドワイヤに沿って挿入することが可能であり、且つ被験者の尿道内に滑動可能に位置決めできる点が、ガイドワイヤに適合している。したがってこの装置は、ガイドワイヤの周りに軸方向に適合することができ、且つガイドワイヤに沿って側面方向に滑らせることができる、管腔又はチャネルを含む。
【0079】
本発明の記述のバルーンカテーテルは、しばしば治療バルーンを含む。治療バルーンは、膨張によって様々な形状のいずれかをとるバルーンを含むが、しばしばカテーテルの中央チャネルの周りを軸方向に延びるシリンダを含む。治療バルーンは、しばしば治療窓を含んでおり、即ちそこを通過して光エネルギーがカテーテルから逃げ、且つ治療バルーンの周囲の組織に接触するような、治療窓を組み込んでいる。治療窓は、治療バルーンの正式に設計され又は定められた態様であってもなくてもよい。よくある実施形態では、治療窓が、治療バルーンの定められた態様を含む。時として治療窓は、光エネルギーを逃がすことが可能な、バルーンの特定のセクションを構成することができる。しばしば治療窓は、バルーンの円筒状のセクションを構成し、その結果、治療窓を含まないバルーンのその部分は、治療バルーンの端部を含むようになる。しばしば治療バルーンは、光エネルギーが被験者の膀胱の方向に治療バルーンから逃げて行くのを妨げるように、反射性又は屈折性のエンドキャップを組み込んでいる。しばしば治療バルーンは、円筒状の治療バルーンの各端部に、反射性又は屈折性のエンドキャップを組み込んでいる。別の態様では、治療バルーンは、この治療バルーンから逃げて行く光エネルギーの散乱を可能にし又は高める手段を、組み込むことができる。しばしばそのような手段は、当技術分野で知られている光散乱材料を含むことができる。光散乱材料は、治療バルーンを膨張させるのに利用される手段(即ち流体)も含め、光エネルギーが通過しようとする治療バルーンの様々な態様のいずれかに、組み込むことができる。
【0080】
本明細書で他に示さない限り、照射装置は、1つ又は複数の可膨張性チャンバを必ずしも含む必要がない。しばしばそのような実施形態では、照射装置のその他の態様及び品質のそれぞれは、可膨張性タイプの装置の場合と同様に定められる。
【0081】
本発明の開示は、さらに、前立腺障害をモニタし且つ/又は治療するのに使用されるキットについても検討している。そのようなキットは、本明細書に記述される態様及び構成要素の、いずれか又はすべてを組み込むことができる。一般にこのようなキットの使用は、本明細書で述べる方法に従うが、本発明の方法の変形例も考えられる。さらに、本発明の開示のキットには、しばしばこれを使用するための取扱い説明書が入っている。
【0082】
活性化エネルギーを送達するためのよくある装置を、図1に示す。この装置は、柔軟な先端(1)と、アンカバルーン(2)とを有する。前立腺への活性化エネルギーの送達を可能にする、治療窓(3)もある。この装置は、光ファイバディフューザ(4)と、反射性エンドキャップ(5)と、光ファイバストッパ(6)も含む。
【0083】
図2は、経尿道的アプローチで使用される、図1の装置を示す。装置(11)は、アンカバルーン(2)が膀胱脛部(6)を通過するまで、柔軟なチップ(1)を使用して、尿道(10)及び尿道括約筋(9)を介してガイドされる。膀胱(5)内に入ったら、バルーン(2)を膨張させる。図2では、アンカバルーン(2)と治療窓(3)との間の距離が、約1cmである。これにより、通常は、治療窓が前立腺(7)に沿って配置される。この図では、前立腺に、尿道から約1cm離れた各葉部(lobe)に2回注射がなされており(8)、注射部位も、約1cmだけ離れている。装置(11)が所定位置についたら、活性化エネルギーが治療窓を介して出て行くことができるように位置決めされた光ファイバディフューザ(4)を介して、活性化エネルギーを送達することができる。
【0084】
本発明の開示に従いしばしば利用される処方計画は、第1に、経尿道的注射によって、前立腺に光線感作物質を直接投与するステップを含む。被験者は、1回の注射を、尿道のどちらかの側の前立腺に受けることが好ましい。好ましい注射の深さは10mmであり、注射は、膀胱頚部や尿道括約筋などのその他の組織から少なくとも10mm離れていることが好ましい。好ましい光線感作物質は、QLT0074であり、好ましい全用量は0.4mgである。さらに第2に、経尿道的バルーンカテーテル及び光ファイバディフューザを介して、活性化エネルギーを投与するステップを含む。活性化エネルギーは、注射後、約30分で投与することが好ましい。光ファイバディフューザは、反射性エンドキャップを有する。光が、使用される活性化エネルギーである場合、15から200J/cmの間の線量を送達することが好ましい。より好ましい光の線量には、25、20、80、120、又は150J/cmが含まれる。
【実施例】
【0085】
本発明の以下の実施形態は、可能な適用例又は原理のいくつかを例示するものであることが理解されよう。当業者なら、本発明の真の趣旨及び範囲から逸脱することなく、様々な変更を行うことができる。
【0086】
8匹の無傷の雑種犬に、ブトルファノール(体重1kg当たり0.4mg)、アセプロマジン(0.1mg/kg)、及びアトロピン(0.4mg/kg)を、すべて筋肉内注射によって、術前投与する。麻酔を、静脈内チオペンタールナトリウム(体重0.4536kg当たり8mg)により導入し、吸入したイソフルラン及び酸素(麻酔効果に必要とされる投与量)により維持する。
【0087】
注射用レムテポルフィン(米国特許第5929105号のA−EA6)を、注射用の水で元に戻して、保存濃度2.0mg/mlにし、水に溶かした5%デキストロースで0.2mg/mlの濃度に希釈する。標準的な膀胱鏡を尿道に挿入する。次いで薬物の注射液を、膀胱鏡に適合した市販の経尿道的注射器具(InjecTx(商標)、San Jose、CA、米国)を使用して、前立腺に送達する。0.5mlの注射を2回、前立腺の各左葉に行い、1.0mpの注射を2回、前立腺の各右葉に行う。次いで経尿道注射器具を取り外し、ガイドワイヤを膀胱鏡の作動チャネルに挿通する。
【0088】
活性化エネルギー送達装置は、直径200μmのコア、長さ25mmのディフューザ、及び電力定格175mW/cm(最大電力負荷、437.5mW)を有する円筒形光ファイバと、尿道内に装置を位置決めするためにガイドワイヤで供給された、20mmの治療窓を有する反射性キャップファイバセンタリングバルーンカテーテルと、3Wの690nm赤色ダイオードレーザ(AOC社製、South Plainfield、NJ、米国)とを含む。このカテーテルを、カテーテルの内部チャネルを通して送られたガイドワイヤを使用して、挿入し且つ位置決めする。カテーテルを位置決めしたら、バルーンを、所定位置に固定されるように膨張させる。ガイドワイヤをカテーテルから取り外し、光ファイバディフューザをカテーテルに挿入し、所定位置に固定する。
【0089】
治療アセンブリを、超音波ガイダンスを使用して尿道内に位置決めする。超音波は、4回の経皮的前立腺内注射の針を位置決めするのにも使用する(1cmだけ縦方向に離れている、葉部1つ当たり2回)。各注射は、前立腺内に8から12mmの間の深さで行う。活性化エネルギーは、最後の注射の15分後に送達する。25J/cm、50J/cm、又は100J/cmの用量を送達する。
【0090】
7日後、イヌを安楽死させ、前立腺を収集した。腸、膀胱、及び前立腺のサイズは、正常範囲内であることが見出される。前立腺は、すべて、標的組織にPDTに関連した組織損傷があるという証拠を示している。しかし、尿道には、著しいPDT関連の損傷が見られない。
【0091】
当業者なら、本発明は、上述の好ましい特徴の多くを組み込むことができることを理解することができる。
【0092】
上記実施例は、単なる例示を目的として包含され、本発明の範囲を限定しようとするものではない。上記内容に関する多くの変形形態が、可能である。上述の実施例に対する修正形態及び変形形態は、当業者に明らかにされるので、本発明は、添付の特許請求の範囲によってのみ限定されるものとする。
【0093】
上記刊行物又は文献の引用は、前述のいずれかが、関係する従来技術であることを認めるものではなく、これら刊行物又は文献の内容又は日付に関していかなる許可も構成するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】活性化エネルギー送達装置を示す図である。
【図2】生体内での活性化エネルギー送達装置を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)前立腺障害に罹患した又は罹患の疑いのある被験者の前立腺組織に、光線感作物質を直接投与するステップと、
b)前記光線感作物質を活性化するのに適した波長のエネルギーを、前記前立腺組織に照射するステップと
を含み、前記光線感作物質は、その内部にガイドワイヤを挿入可能に受け入れるチャネルを含んだ送達装置を利用して投与され、活性化エネルギーは、エネルギー源と、その内部にガイドワイヤを挿入可能に受け入れるチャネルとを含んだ照射装置を利用して送達され、ガイドワイヤは、前記送達装置及び/又は前記照射装置を位置決めするのに利用される、前立腺障害を治療する方法。
【請求項2】
光線感作物質を注射によって投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ガイドワイヤを、送達装置及び照射装置の両方を位置決めするのに使用する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
照射装置が、可膨張性アンカチャンバと、可膨張性治療チャンバとを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
被験者の尿道内且つ前立腺組織に隣接して、送達装置を挿入可能に位置決めすることを可能にするように、送達装置が膀胱鏡と適合性がある、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
ガイドワイヤを、照射ステップの前に被験者から取り外す、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前立腺障害が、良性前立腺肥大症である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
ガイドワイヤが近位端及び遠位端を含み、前記遠位端が、ガイドワイヤに沿って可膨張性部材を滑動可能に挿入する前に、被験者の膀胱に予め位置決めされる、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
膀胱鏡及びガイドワイヤを、照射前に被験者から取り外す、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
光源が、近位端及び遠位端を含み、さらに、ファイバ部材の遠位端に位置する発光ディフューザを有する光ファイバ部材を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
発光ディフューザを、治療領域の照射前に治療チャンバと一直線に並べる、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
光線感作物質のピーク濃度が、尿道壁から3mmから約25mmにある、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
光線感作物質のピーク濃度が、尿道壁から約5mmから約20mmにある、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
光線感作物質のピーク濃度が、尿道壁から約7mmから約15mmにある、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
光線感作物質を、経尿道的注射によって前立腺に送達する、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
光線感作物質を、プロポルフィリン、ポルフィリン、及びこれらの混合物から選択する、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
光線感作物質を、緑色ポルフィリンから選択する、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
光エネルギーを、レーザ、光ファイバ照明装置、又はこれらの組合せによって送達する、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
光エネルギーを、経尿道的に送達する、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
前立腺内の光線感作物質のピーク濃度が尿道壁から少なくとも3mmの所となるように、光線感作物質を前立腺組織に直接注射する、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
光線感作物質を、尿道壁から少なくとも3mmの所で前立腺組織に注射する、請求項1に記載の方法。
【請求項22】
尿道に向かう光線感作物質の拡散によって、尿道のすぐ隣りに接する組織内濃度が有害な光線力学反応を引き起こすのに不十分になるように、前立腺内のピーク濃度が尿道から十分な距離にあるように光線感作物質を投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項23】
光線感作物質が吸収する光が、前立腺嚢胞を越えて前立腺周囲組織に到達することを防ぐように、前立腺内の光線感作物質のピーク濃度が前立腺嚢胞から十分な距離にある、請求項1に記載の方法。
【請求項24】
a)前立腺障害に罹患した又は罹患の疑いのある被験者の前立腺組織に、光線感作物質を経尿道的に投与するステップと、
b)前記光線感作物質を活性化するのに適した波長のエネルギーを、前記前立腺組織に照射するステップと
を含み、経尿道的注射器具は、その内部にガイドワイヤを挿入可能に受け入れるチャネルを含み、活性化エネルギーは、エネルギー源と、その内部にガイドワイヤを挿入可能に受け入れるチャネルとを含んだ照射装置を利用して、経尿道的に送達され、経尿道的照射装置は、ガイドワイヤを利用して位置決めされる、前立腺障害を治療する方法。
【請求項25】
a)ガイドワイヤと、
b)治療領域を形成するように、被験者の前立腺組織に光線感作剤を局所導入する手段と、
c)光線感作剤を活性化するのに適した波長のエネルギーで治療領域を照射する照射部材であって、ガイドワイヤを滑動可能に受け入れる中心管腔を有する照明部材と、
d)ガイドワイヤ及び/又は内部を通して光線感作剤を局所導入する手段とを滑動可能に受け入れる、中心管腔を有する膀胱鏡と
を含む、前立腺障害を治療用キット。
【請求項26】
光線力学療法(PDT)を利用して、被験者の前立腺障害を治療するタイプのバルーンカテーテル装置において、
PDTを実施するために、被験者に対してバルーンカテーテル装置を位置決めするガイドワイヤを含み、前記バルーンカテーテルは、ガイドワイヤに沿って、且つガイドワイヤを被験者に対して予め位置決めした後に、前立腺組織に光エネルギーを送達するため滑動可能に位置決めする点で改良された装置。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2007−521890(P2007−521890A)
【公表日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−552430(P2006−552430)
【出願日】平成16年2月13日(2004.2.13)
【国際出願番号】PCT/CA2004/000205
【国際公開番号】WO2005/077457
【国際公開日】平成17年8月25日(2005.8.25)
【出願人】(502254176)キュー エル ティー インク. (13)
【氏名又は名称原語表記】QLT Inc.
【住所又は居所原語表記】887 Great Northern Way, Vancouver,British Columbia, Canada V5T 4T5
【Fターム(参考)】