説明

剪断ブロックダンパ

【課題】 剪断座屈による歪み硬化がなく、座屈による二次的変形による応力集中が発生せず、それによって、脆性的な破壊に至ってしまうということをなくし、塑性変型時に鉛直支持力が損なわれてしまうことを防止することが可能な剪断ブロックダンパを提供すること。
【解決手段】 ブロック形状をなし構造物の任意の場所に設置されてダンパ機能を発揮する剪断ブロックダンパにおいて、アルミ合金製としたもの。
又、幅(La)、奥行き(Lb)、高さ(H)の間に次の式(I)、(II)に示す関係が成立しているもの
La≧H―――(I)
Lb≧H―――(II)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブロック形状をなし構造物の任意の箇所に設置されてダンパ機能を発揮する剪断ブロックダンパに係り、特に、アルミ合金製(Al−Mg−Si系合金等)とすることにより高いダンパ機能を発揮することができるように工夫したものに関する。
【背景技術】
【0002】
金属の塑性特性を利用した金属ダンパを開示するものとして、例えば、特許文献1、特許文献2等がある。
【0003】
【特許文献1】特開2001−140965号公報
【特許文献2】特開2003−27766号公報
【0004】
上記特許文献1、特許文献2に開示されている金属ダンパは、例えば、上側構造体と下側構造体の間に、支持体を介して塑性を有する金属体を配置したものである。そして、上記塑性を有する金属体の塑性変形を利用して振動エネルギを吸収しようとするものである。
【0005】
又、そのような金属ダンパの中には、ブロック状に形成された剪断ブロックダンパと称されるものがある。この種の剪断ブロックダンパは、ブロック形状をなしていて、構造物の任意の場所に設置され、地震発生時において剪断変型することにより地震による振動エネルギを吸収して構造物の健全性を維持するものである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来の構成によると次のような問題があった。
すなわち、従来の剪断ブロックダンパの場合には、まず、剪断座屈による歪み硬化が発生してしまうという問題があった。
又、座屈による二次的変形による応力集中が発生し、脆性的な破壊に至ってしまうという問題があった。
さらに、ブロックのアスペクト比(縦横比率)が大きく、且つ、断面積が十分ではないので、塑性変型時に鉛直支持力が損なわれてしまうという問題があった。
【0007】
本発明はこのような点に基づいてなされたものでその目的とするところは、剪断座屈による歪み硬化がなく、又、座屈による二次的変形による応力集中が発生せず、それによって、脆性的な破壊に至ってしまうということをなくし、さらに、塑性変型時に鉛直支持力が損なわれてしまうことを防止することが可能な剪断ブロックダンパを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するべく本願発明の請求項1による剪断ブロックダンパは、ブロック形状をなし構造物の任意の場所に設置されてダンパ機能を発揮する剪断ブロックダンパにおいて、アルミ合金製としたことを特徴とするものである。
又、請求項2による剪断ブロックダンパは、請求項1記載の剪断ブロックダンパにおいて、幅(La)、奥行き(Lb)、高さ(H)の間に次の式(I)、(II)に示す関係が成立していることを特徴とするものである。
La≧H―――(I)
Lb≧H―――(II)
又、請求項3による剪断ブロックダンパは、請求項1又は請求項2記載の剪断ブロックダンパにおいて、梁部材と斜めに設置されるブレース部材との間に設置されることを特徴とするものである。
又、請求項4による剪断ブロックダンパは、請求項1又は請求項2記載の剪断ブロックダンパにおいて、斜めに設置されるブレース部材相互間に設置されることを特徴とするものである。
又、請求項5による剪断ブロックダンパは、請求項1又は請求項2記載の剪断ブロックダンパにおいて、柱部材の途中に介挿されることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
以上述べたように本願発明による剪断ブロックダンパによると、ブロック形状をなし構造物の任意の場所に設置されてダンパ機能を発揮する剪断ブロックダンパにおいて、アルミ合金製としたものであり、それによって、金属ダンパとして必要な十分な塑性特性を有することができると共に、加工性も良好であるので、所望形状の剪断ブロックダンパを容易に得ることができる。
又、幅(La)、奥行き(Lb)、高さ(Lh)の間に次の式(I)、(II)に示す関係が成立するように構成した場合には、まず、剪断座屈による歪み硬化の発生を防止することができ、又、座屈による二次的変形による応力集中の発生を抑制して脆性的な破壊に至ってしまうことを防止することができ、さらに、剪断ブロックダンパのアスペクト比が大きく、且つ、断面積が十分な構成になっているので、塑性変型時に鉛直支持力が損なわれてしまうことを防止することができる。その結果、金属ダンパとして優れた機能を備えることとなり、地震発生時においても高いダンパ機能を発揮して、建築物の健全性を確実に維持することができるものである。
La≧H―――(I)
Lb≧H―――(II)
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図1乃至図4を参照して本発明の一実施の形態を説明する。本実施の形態による剪断ブロックダンパ1は、図1に示すような構成になっている。まず、本実施の形態による剪断ブロックダンパ1は、アルミ合金製(Al−Mg−Si系合金等)であり、必要なダンパ機能を発揮するための十分な塑性特性を備えている共に、加工容易性も備えているものである。
【0011】
又、上記剪断ブロックダンパ1の幅(La)、奥行き(Lb)、高さ(H)の間には、次の式(I)、(II)に示す関係が成立するように構成されている。
La≧H―――(I)
Lb≧H―――(II)
このような条件を満足するような形状とすることにより、ダンパとして優れた履歴特性を備えることができるものである。
尚、図1中符号Qは作用する荷重を示しており、又、塑性変形した状態を破線で示している。
【0012】
上記履歴特性について説明する。図2は比較例としての板状剪断ブロックダンパの履歴特性を示している。図2は横軸に変位量(δcm)をとり、縦軸に荷重(QkN)をとり、その関係を示す図である。この図2に示すように、ある一定の地点を境にして剪断座屈によるハードニング(歪み硬化)が発生してしまっている。
【0013】
これに対して、本実施の形態による剪断ブロックダンパ1の場合は、図3に示すように、そのような剪断座屈によるハードニング(歪み硬化)は発生しておらず、安定した履歴特性を呈しており、ダンパとして優れた特性を備えた構成になっている。図3も図2と同様に横軸に変位量(δcm)をとり、縦軸に荷重(QkN)をとり、その関係を示す図である。
【0014】
次に、図4を参照して、剪断ブロックダンパ1の実際の適用例を示す。図4は建築物3を模式的に示した図であり、まず、複数本(図では3本のみ示している)の柱5が立設されている。これら柱5の上下には梁7、7が設置されている。又、上記梁7、7相互間にはブレース9が斜め方向に延長された状態で設置されている。
【0015】
上記構成をなす建築物3において、その適所に本実施の形態による剪断ブロックダンパ1が設置されている。具体的には、梁7とブレース9、9との間、ブレース9、9相互間、柱5の途中に夫々剪断ブロックダンパ1が設置されている。
【0016】
そして、地震発生時には、地震による振動エネルギによって発生する剪断力、引張力、圧縮力によって、各剪断ブロックダンパ1が剪断変形することになり、それによって、上記地震により発生した振動エネルギを吸収して、建築物1の健全性を維持するものである。
【0017】
以上本実施の形態によると次のような効果を奏することができる。
すなわち、剪断ブロックダンパ1をアルミ合金製(Al−Mg−Si系合金等)とし、且つ、剪断ブロックダンパ1の幅(La)、奥行き(Lb)、高さ(H)の間に、式(I)、(II)に示す関係が成立するように構成したので、まず、剪断座屈による歪み硬化の発生を防止することができる。又、座屈による二次的変形による応力集中の発生を抑制して脆性的な破壊に至ってしまうことを防止することができる。さらに、剪断ブロックダンパ1のアスペクト比が大きく、且つ、断面積が十分な構成になっているので、塑性変型時に鉛直支持力が損なわれてしまうことを防止することができる。その結果、金属ダンパとして優れた機能を備えることとなり、地震発生時においても高いダンパ機能を発揮して、建築物3の健全性を確実に維持することができるものである。
又、上記したように、本実施の形態による剪断ブロックダンパ1はアルミ合金製(Al−Mg−Si系合金等)であるので、加工が容易であり、よって、所望形状・大きさの剪断ブロックダンパ1を容易に得ることができる。
【0018】
尚、本発明は前記一実施の形態に限定されるものではない。
まず、アルミ合金としてはAl−Mg−Si系合金に限定されるものではなく、様々なものが考えられる。
又、剪断ブロックダンパの適用場所としては、図示したものに限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明は、ブロック形状をなし構造物の任意の箇所に設置されてダンパ機能を発揮する剪断ブロックダンパに係り、特に、アルミ合金製(Al−Mg−Si系合金等)とすることにより高いダンパ機能を発揮することができるように工夫したものに関し、例えば、各種建築物に組み込まれる金属ダンパとして好適である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施の形態を示す図で、剪断ブロックダンパの構成を示す斜視図である。
【図2】比較例を示す図で、板状要素の履歴特性を示す特性図である。
【図3】本発明の一実施の形態を示す図で、剪断ブロックダンパの履歴特性を示す特性図である。
【図4】本発明の一実施の形態を示す図で、剪断ブロックダンパの適用例を示す正面図である。
【符号の説明】
【0021】
1 剪断ブロックダンパ
3 建築物
5 柱
7 梁
9 ブレース











【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブロック形状をなし構造物の任意の場所に設置されてダンパ機能を発揮する剪断ブロックダンパにおいて、
アルミ合金製としたことを特徴とする剪断ブロックダンパ。
【請求項2】
請求項1記載の剪断ブロックダンパにおいて、
幅(La)、奥行き(Lb)、高さ(H)の間に次の式(I)、(II)に示す関係が成立していることを特徴とする剪断ブロックダンパ。
La≧H―――(I)
Lb≧H―――(II)
【請求項3】
請求項1又は請求項2記載の剪断ブロックダンパにおいて、
梁部材と斜めに設置されるブレース部材との間に設置されることを特徴とする剪断ブロックダンパ。
【請求項4】
請求項1又は請求項2記載の剪断ブロックダンパにおいて、
斜めに設置されるブレース部材相互間に設置されることを特徴とする剪断ブロックダンパ。
【請求項5】
請求項1又は請求項2記載の剪断ブロックダンパにおいて、
柱部材の途中に介挿されることを特徴とする剪断ブロックダンパ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−249790(P2006−249790A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−68303(P2005−68303)
【出願日】平成17年3月11日(2005.3.11)
【出願人】(595034204)SUS株式会社 (40)
【出願人】(505090676)株式会社飯島建築事務所 (9)
【出願人】(304021277)国立大学法人 名古屋工業大学 (784)
【Fターム(参考)】