説明

力制御装置

【課題】動作中に力制限値とコンプライアンス制御パラメータを切替えることで作業を高速化しながら位置ずれ発生時に過大な力が作用するのを防止した力制御装置を提供する。
【解決手段】切替地点指定手段5からのロボットに行わせる作業動作に従ったロボット先端に作用する力の力制限値およびコンプライアンス制御の力制御パラメータの少なくとも一方を含むパラメータ条件、および上記パラメータ条件に切り替える切替地点を指示する命令に基づいて、パラメータ切替手段6が力制限値および力制御パラメータの少なくとも一方を切り替え、力制限超過判別手段4が力制限値を超える力が作用していると判別した場合に、ロボットに行わせる作業動作に従ってロボットの目標位置を示す位置指令を出力する指令生成手段1にロボットを減速停止させる位置指令を出力させる停止指令を入力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は組立、バリ取り、研磨、基板実装、検査などを行うロボット、自動組立装置、実装機、加工機、検査装置などに適用される力制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば下記特許文献1に記載のこの種の装置では、部品を収納したマガジンから部品を取り出し、所定位置まで移動して部品組み付け作業を行うロボットの先端部に力センサが設けられている。ロボットコントローラは、力センサで検出した力のフィードバックによるコンプライアンス制御を行い、検出した力と予め設定された力の閾値を比較して、その比較結果により次のロボット動作の決定、作業成否の判定を行っている。例えば丸棒状の部品をハンドで把持して下降して挿入を行う場合、挿入中(下降中)に検出した力が閾値を超えた場合は、挿入作業が失敗したとして下降動作を停止することにより、過大な力の発生を防止する。ハンド停止後は再び作業を行うか、あるいは、異常警報を発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−24665号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
コネクタやゴムホースの挿入作業等のように、作業開始時は反力が小さいが作業終了時には反力が大きくなる作業が多くある。こうした作業を1つの動作で行う場合、従来の装置では、コンプライアンス制御のパラメータや力の閾値は、作業終了時に作用する大きな反力に適した値に設定する必要があった。そのため作業開始時に位置ずれがある場合でも、必要以上に大きな力の閾値を設定する必要があるため、位置ずれ時に発生する力を小さくするには作業速度を落としておく必要があり、動作時間が長くなる問題があった。
【0005】
また検出した力が予め設定した閾値を超過するかどうかの判別は行うが、閾値を超過していない方向の力情報を活用していないため、位置ずれ時に作業エラーを発生して停止させることはできるが、その後の復旧動作については何等考慮がなされていなかった。
【0006】
この発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、動作中に力閾値(力制限値)とコンプライアンス制御パラメータを切替えることで、作業を高速化しながら、位置ずれ発生時に過大な力が作用することを防止した力制御装置を提供することを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、切替地点指定手段からのロボットに行わせる作業動作に従ったロボット先端に作用する力の力制限値およびコンプライアンス制御の力制御パラメータの少なくとも一方を含むパラメータを切り替える切替地点を指示する命令に基づいて、パラメータ切替手段が力制限値および力制御パラメータの少なくとも一方を切り替え、力制限超過判別手段が力制限値を超える力が作用していると判別した場合に、ロボットに行わせる作業動作に従ってロボットの目標位置を示す位置指令を出力する指令生成手段にロボットを減速停止させる位置指令を出力させる停止指令を入力することを特徴とする力制御装置にある。
【発明の効果】
【0008】
この発明では、動作中に力閾値(力制限値)とコンプライアンス制御パラメータを切替えることで、作業を高速化しながら、位置ずれ発生時に過大な力が作用することを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】この発明の実施の形態1、2における力制御装置の構成を示すブロック図である。
【図2】図1のロボット制御手段の内部構成の一例を示す図である。
【図3】図2の各軸位置制御手段の内部構成の一例を示す図である。
【図4】図2の力覚考慮補正手段の内部構成の一例を示す図である。
【図5】図2の力覚考慮補正手段の内部構成の別の例を示す図である。
【図6】図2の力覚考慮補正手段の内部構成のさらに別の例を示す図である。
【図7】図2の力覚考慮補正手段の内部構成のさらに別の例を示す図である。
【図8】この発明の実施の形態3における力制御装置の構成を示すブロック図である。
【図9】図8の力覚考慮補正手段の内部構成の一例を示す図である。
【図10】この発明の実施の形態4における力制御装置の構成を示すブロック図である。
【図11】この発明の実施の形態5〜9における力制御装置の構成を示すブロック図である。
【図12】この発明の実施の形態10における力制御装置の構成を示すブロック図である。
【図13】この発明の実施の形態11における力制御装置の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、この発明による力制御装置を各実施の形態に従って図面を用いて説明する。なお、各実施の形態において、同一もしくは相当部分は同一符号で示し、重複する説明は省略する。
【0011】
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1における力制御装置の構成を示すブロック図である。指令生成手段1は例えば記憶手段Mに予め格納されているロボット3に行わせる作業の作業動作プログラムに基づいてロボット制御手段2にロボット3の時々刻々の目標位置を示す位置指令を入力する。ロボット制御手段2は与えられた位置指令および後述する例えばコンプライアンス制御の力制御パラメータ、ロボット3からのフィードバック信号に従ってロボット3を追従制御する。
【0012】
ロボット制御手段2により制御されるロボット3は、1軸もしくは複数軸のモータ(図示省略)を備えるものであり、その一例として産業用ロボットと呼ばれる6軸垂直多関節ロボット、4軸水平多関節ロボット等がある。ロボット3の先端部近辺もしくはロボットが作業する対象には作用する力とモーメントを計測するための力覚センサが取り付けられており(共に図示省略)、力覚センサで測定された力及びモーメントは力検出値としてロボット制御手段2および力制限超過判別手段4に入力される。
【0013】
力検出値は6軸の力覚センサを用いている場合は3軸方向の力と各軸周りのモーメントであり、5軸以下の力覚センサを用いている場合は、3軸方向の力と各軸周りのモーメントのうち、計測できるモーメントであり、各力覚センサがこれらのデータをロボット制御手段2及び力制限超過判別手段4に送信する。またロボット3を駆動する各軸のモータにはエンコーダやレゾルバなどの各軸のモータ位置を測定するセンサが取り付けられており(図示省略)、こうしたセンサで測定した各軸のモータ位置はロボット制御手段2に送信される。
【0014】
力制限超過判別手段4では、パラメータ切替手段6から入力される力閾値(力制限値)とロボット3の力覚センサから送信される力検出値を比較し、少なくとも1つの軸方向の力もしくはモーメントが力閾値を超えた場合に、指令生成手段1に停止指令を入力する。この実施の形態では力制限超過の判別を検出した力とモーメントの各成分に対して実施するが、合成した力やモーメントに対して実施してもよい。指令生成手段1は力制限超過判別手段4から停止指令を受け取ると、現在の位置・速度から減速停止する指令を生成してロボット制御手段2に入力する。
【0015】
切替地点指定手段5は、上記作業動作プログラムの動作に従ってパラメータ切替手段6でパラメータを切替える地点と切替後のパラメータを順次指定する。パラメータ切替手段6で切替えるパラメータが力閾値と力制御パラメータの2種類の場合、例えばロボット3の動作を記述するロボットプログラム内で下記のような命令を実行して指定する。
【0016】
FCNT 30,2
【0017】
ここで、「FCNT」は切替地点を指定するためのロボット言語(命令)で、「30」は動作開始から30%の地点でパラメータの切替を開始することを指定し、「2」は切替後のパラメータ条件番号である。条件番号ごとに力閾値と力制御パラメータの組合せが例えば記憶手段Mに記録されており、パラメータ切替手段6は位置指令が切替地点指定手段5で設定された地点に到達した段階で、指定された条件番号に対応する力閾値と力制御パラメータを読み出す。
【0018】
なお図1において、ロボット3を除く指令生成手段1、ロボット制御手段2、力制限超過判別手段4、切替地点指定手段5、パラメータ切替手段6は例えば1つのコンピュータ(ロボットコントローラ)により構成され、記憶手段Mは各手段で共有する該コンピュータ内のメモリ(ROM、RAM等を含むものとする)を示す。
【0019】
パラメータ切替手段6では、力閾値に関しては、指定された切替地点通過後に直ちに切替える。力制御パラメータに関しては、切替前の力制御パラメータから切替後の力制御パラメータへ例えば2段の移動平均フィルタを介した出力で切替えを行う。切替の開始を指定された切替地点を通過時点とする。力制御パラメータの切替は1段もしくは3段以上の移動平均フィルタを用いてもよいし、移動平均以外の、例えば1次遅れフィルタなどを用いてもよい。また、切替前の力制御パラメータから切替後の力制御パラメータまで切替える関数を内部に備えておき、備えてある関数を用いて徐々に切替えてもよい。また、この実施の形態では動作開始地点からの移動距離の割合で切替開始地点を指定したが、動作終了地点までの移動距離の割合、動作開始地点からの移動距離、動作終了地点までの移動距離、動作開始からの経過時間などで指定してもよい。
【0020】
ロボット制御手段2の内部構成の一例を図2に示す。指令生成手段1で生成した位置指令を力覚考慮補正手段7の出力を加算部K1で加算することで補正する。逆変換手段8は、手先位置姿勢を実現する各軸のモータ位置を算出する逆変換計算を行い、力覚考慮補正手段7の出力を加算することで補正した位置指令をロボットの各軸の位置指令である関節位置指令に変換する。変換した関節位置指令は各軸位置制御手段9に入力される。各軸位置制御手段9は入力された関節位置指令に各軸のモータ位置が追従するように制御を行う。
【0021】
各軸位置制御手段9の内部構成の一例を図3に示す。図3の各軸位置制御手段9のモータ毎に設けられた各軸位置制御ユニット9nでは、各軸の(関節)位置指令と当該軸のモータ位置の差を減算部G1で求めて比例部21に入力する。そして比例部21の出力と微分部23で求めたモータ位置の微分値から減算部G2で算出したモータ速度の差を求め、求めた差を比例積分部22に入力する。上記制御系は位置比例制御系の内部に速度比例積分制御系がある構成になっており、モータの位置制御系としてはよく使われる構成である。
【0022】
なお、この実施の形態では各軸位置制御ユニット9nの構成として、各軸毎にモータ位置制御と速度制御を行うフィードバック制御系の構成としたが、各軸ごとにオブザーバを含む制御系であってもよいし、フィードフォワードを含む制御系であってもよい。また、全て各軸毎に独立した構成ではなく、軸間の干渉トルクをフィードフォワードもしくはフィードバックで補正する構成であってもよい。
【0023】
次に、力覚考慮補正手段7の内部構成の一例を図4に示す。力覚考慮補正手段7の内部では、まず順変換部18において各軸モータ位置からそのときの手先位置姿勢を算出する順変換を行い手先位置姿勢を算出し、指令生成手段1で生成した位置指令(手先位置姿勢の指令)と順変換部18で算出した手先位置姿勢の差を減算部G3で算出し、算出した差をツール座標系にツール系座標変換部10により変換する。ツール座標系とは、ロボット先端に取り付けたツールやハンドに固定された座標系である。
【0024】
ツール系座標変換部10の出力をスティフネス行列部11に入力し、スティフネス行列とツール系座標変換部10の出力であるベクトルの積を求め、その積をスティフネス行列部11の出力とする。さらにツール系座標変換部10の出力の各要素の微分値を微分部15で算出し、算出した微分値から構成されるベクトルとダンピング行列の積をダンピング行列部16の出力とし、スティフネス行列部11とダンピング行列部16の出力を加算部K2で加算する。
【0025】
次に、ロボット3の力覚センサで検出した力検出値をツール系座標変換部17でツール座標系に変換し、変換した力検出値を先ほどの加算部K2の出力結果から減算部G4で減算する。減算した結果の各要素にパラメータ切替手段6で切替えられる可変の比例ゲイン値を可変ゲイン部12で乗じ、その後、直交系座標変換部13で直交座標系への座標変換を行い、積分部14で積分を行ってから位置指令修正量(位置指令補正量)としてロボット制御手段2の加算部K1に入力する。可変ゲイン部12にはパラメータ切替手段6で切替える力制御パラメータが使用される。
【0026】
図4では、力制御系のパラメータとして力検出値との差に対する比例ゲインのみを変更する場合を例に挙げて説明したが、力覚考慮補正手段7は図5に示すように、スティフネス行列部11及びダンピング行列部16にそれぞれパラメータ切替手段6で切替える力制御パラメータを使用して各行列要素値を与え、スティフネス行列及びダンピング行列の各要素も指定された切替地点から切替えるようにしてもよい。
【0027】
また、図6に示すように、スティフネス行列部11及びダンピング行列部16にそれぞれパラメータ切替手段6で切替える力制御パラメータを使用して各行列要素値を与え、スティフネス行列及びダンピング行列の各要素を指定された切替地点から切替、可変ゲイン部12と積分部14の代わりに比例積分部19を設けて力検出値との差に乗じるゲインは切替えない構成にしてもよい。
【0028】
また、ツール座標系にいったん変換してから位置指令修正量(位置指令補正量)を算出するのではなく、図7に示すように、ツール系座標変換部10及び直交系座標変換部13を設けず、ツール系座標変換部17の代わりに直交系座標変換部20を設けることで、直交座標系で位置指令修正量(位置指令補正量)を算出して補正してもよい。
【0029】
またこの実施の形態では動作中の1箇所で力閾値及び力制御パラメータを切替える場合を例に挙げて説明したが、例えば
【0030】
FCNT 30,2,50,3
【0031】
と記載し、移動距離の30%を越えた地点で条件番号2へ切替、移動距離の50%を越えた地点で条件番号3へ切替えるなど、動作中の2箇所以上で切替える構成にしてもよい。また、パラメータ番号ではなく、切替えるパラメータの値を直接記載してもよい。
【0032】
この実施の形態1によれば、動作中の切替地点をロボットを動作させるロボットプログラム中の指令で指定された地点で力閾値と力制御パラメータを切替えることができるため、動作中に指定した地点で力閾値と力制御パラメータの切替が可能となり、位置ずれ時の安全な停止と高速な挿入動作の両立が実現できる。
また、動作途中で力制御系のパラメータを変更するため、接触直後は柔らかくロボットを動作させ、押し込みや挿入の最終段階ではロボットを固く動作させることも可能となり、接触開始直後は柔らかくしてダメージを抑えながら、反力に対抗して押し込み力が必要とうなる作業を高速に実施することが可能となる。
また、プログラムの指令で動作直前に切替地点を指定できるため、動作ごとにきめ細かく設定することができる。
【0033】
実施の形態2.
以下にこの発明の実施の形態2における力制御装置を説明する。装置の構成は基本的には図1に示すものと同じであるが、切替地点指定手段5の作用が異なる。例えば切替地点指定手段5からパラメータ切替手段6に送られる上述の命令のパラメータ(切替地点や条件番号)を、コンピュータに接続された手動操作盤またはパソコンからなる図1に破線で示す入力手段Iから値を書き換えるようにして指定する。
【0034】
例えば上述のFCNTのパラメータ(ファクタ)の値をFCNT(30,1,2)と設定すると、パラメータ切替手段6は動作開始からその動作の移動量の30%を超過するまでは条件番号1で設定されている力閾値と力制御パラメータを力制限超過判別手段4及びロボット制御手段2に入力し、動作開始からその動作の移動量の30%を超過後は、力閾値として条件番号2で設定されている値を力制限超過判別手段4に入力するとともに、ロボット制御手段2へ入力する力制御パラメータの値を徐々に条件番号2の値へ切替える。
【0035】
この実施の形態2によれば、上記に加え、入力手段Iからの入力により動作直前に命令のパラメータを指定できるため、動作ごとにきめ細かく設定することができる。
【0036】
実施の形態3.
図8はこの発明の実施の形態3における力制御装置の構成を示すブロック図である。実施の形態1とは異なり、パラメータ切替手段6では力閾値のみ切替える。したがって実施の形態1の図2に示されているロボット制御手段2の力覚考慮補正手段7の内部も、実施の形態3では図9に示すように可変ゲイン部12の代わりに比例ゲイン部12aが設けられた固定パラメータの制御系となる。
【0037】
この実施の形態3によれば、動作中の切替地点をロボットを動作させる指令ロボットプログラムの指令で指定された地点で力閾値を切替えることができるため、動作中に指定した地点で力閾値の切替が可能となり、位置ずれ時の安全な停止と高速な挿入動作の両立が実現できる。
【0038】
実施の形態4.
図10はこの発明の実施の形態4における力制御装置の構成を示すブロック図である。実施の形態1とは異なり、パラメータ切替手段6では力制御パラメータのみ切替える。
【0039】
この実施の形態4によれば、動作途中で力制御系のパラメータを変更するため、接触直後は柔らかくロボットを動作させ、押し込みや挿入の最終段階ではロボットを固く動作させることも可能となり、接触開始直後は柔らかくしてダメージを抑えながら、反力に対抗して押し込み力が必要となる作業を高速に実施することが可能となる。
【0040】
実施の形態5.
図11はこの発明の実施の形態5における力制御装置の構成を示すブロック図である。実施の形態1では力制限値(力閾値)超過後、停止指令を指令生成手段1に入力していたが、実施の形態5では指令生成手段1に加えて復旧動作決定手段24を設け、復旧動作決定手段24にも停止指令を入力する。なおこの実施の形態では、図11において、ロボット3の力検出値、各軸モータ位置のデータは復旧動作決定手段24へは送られない。
【0041】
復旧動作決定手段24は、停止指令が入力されると、その時実行中の作業動作の動作開始地点までの退避動作を行わせるための指令生成命令を指令生成手段1に入力する。指令生成手段1は指令生成命令を受けると、作業動作プログラムより該動作の動作開始地点を求め、上記退避動作のための位置指令をロボット制御手段2へ入力する。
【0042】
この実施の形態5によれば、力制限値(力閾値)を超過した場合に、ロボットの状態が自動的に、直前の動作開始地点まで戻ることにより、力制限値を超過した状態が継続することを防止できる効果がある。
【0043】
実施の形態6.
この発明の実施の形態6における力制御装置の構成は基本的に図11に示すものと同じである。復旧動作決定手段24では、ロボット3から時々刻々の各軸モータ位置と力検出値を入力し、動作中に力検出値が最後に所定の規定値以下となった地点を各軸モータ位置として記憶しておく(例えば記憶手段Mに記憶)。そして力制限超過判別手段4から停止指令が入力されると、記憶してある最後に規定値以下となった地点まで戻る退避動作を行わせるための、規定値以下となった地点の各軸モータ位置を含む指令生成命令を指令生成手段1に入力する。指令生成手段1は指令生成命令を受けると、受け取った規定値以下となった地点の各軸モータ位置に従って、上記退避動作のための位置指令を、ロボット制御手段2へ入力する。
【0044】
規定値は値そのものを予め設定(例えば記憶手段Mに記憶)しておいてよいし、力閾値との比率(例えば0.8倍)を設定し、常に力制限超過判別手段4で使用する力閾値(力制限値)に設定された比率(例えば記憶手段Mに記憶またはプログラム中に計算式として入れる)を乗じた値を規定値としてもよい。その場合、パラメータ切替手段6は図11に破線で示すように、常に力閾値を復旧動作決定手段24にも入力する。また、この実施の形態では力閾値を復旧動作決定手段24が記憶してある各軸モータ位置に基づいて退避動作を行わせるが、モータ位置を記憶するのではなく、動作中に力検出値が最後に規定値以下となった時の指令生成手段1の出力する位置指令を記憶しておき、記憶してある位置指令の地点まで戻る動作を行わせてもよい。その場合、指令生成手段1は図11に破線で示すように、常に位置指令を復旧動作決定手段24にも入力する。復旧動作決定手段24は規定値以下となった地点の位置指令を含む指令生成命令を指令生成手段1に入力する。
【0045】
この実施の形態6によれば、力制限値(力閾値)を超過した場合に、ロボットの状態が自動的に、力が規定値以下となる地点まで戻ることにより、力制限を超過した状態が継続することを防止できる効果がある。また、動作開始地点までの退避動作に比べて、戻るときの移動量を少なくできるため、退避動作の時間短縮、また予想外の衝突などを防止できる効果もある
【0046】
実施の形態7.
この発明の実施の形態7における力制御装置の構成は基本的に図11に示すものと同じである。実施の形態7では、復旧動作決定手段24が、停止指令が入力されたときの力検出値により、その後の動作を選択する。押し込み方向以外の力検出値が全て規定値以下の場合は、実施の形態6と同様に押し込み方向の力検出値が最後に規定値以下となった地点まで戻る退避動作を行わせる指令生成指令を指令生成手段1に入力する。
【0047】
押し込み方向以外の力の少なくとも1つが規定値以上の場合は、停止した地点で探索動作を行わせる指令発生指令を指令生成手段1に入力し、ロボット3の動作を戻す方向に探索動作を行う退避動作を行わせる。探索動作の途中で押し込み方向の力が規定値以下となればその地点で停止させ、その後、元々の動作を再開する位置指令を発生させる指令発生指令(動作再開指令)を指令生成手段1に入力する。
【0048】
この実施の形態7によれば、力制限値(力閾値)を超過した場合に、探索動作を行うことにより自動的に動作を復旧継続できる効果がある。
【0049】
実施の形態8.
この発明の実施の形態8における力制御装置の構成は基本的に図11に示すものと同じである。実施の形態8では、復旧動作決定手段24は、力制限超過判別手段4から停止指令が入力されると、押し込み方向以外の力の少なくとも1つが規定値以上ある場合に、停止地点からの探索動作を行うのではなく、停止地点から記憶してある最後に押し込み方向の力が規定値以下となった地点までの予め指定されている比率に応じた地点(例えば0.5が指定されていれば、停止地点と記憶してある最後に押し込み方向の力が規定値以下となった地点の中点)まで戻る動作を行う位置指令を発生させる、戻る地点情報を含む指令発生指令を指令生成手段1に入力する。そしてロボット3が上記地点まで戻ると、探索動作を行う位置指令を発生させる指令発生指令を指令生成手段1に送信し、さらに探索動作で押し込み方向の力が規定値以下となればその地点で探索動作を停止させ、その後、元々の動作を再開する位置指令を発生させる指令発生指令(動作再開指令)を指令生成手段1に入力する。
【0050】
この実施の形態8によれば、力制限値(力閾値)を超過した場合に、停止地点から最後に押し込み方向の力が規定値以下となった地点までの予め指定されている比率に応じた地点に戻り、そこから探索動作を行うことにより、効率よく自動的に動作を復旧継続できる効果がある。
【0051】
実施の形態9.
この発明の実施の形態9における力制御装置の構成は基本的に図11に示すものと同じである。実施の形態9では、復旧動作決定手段24が、力制限超過判別手段4から停止指令が入力されると、押し込み方向以外の力の少なくとも1つが規定値以上ある場合に、停止地点で探索動作を行うのではなく、押し込み方向以外の力に関しても最後に規定値以下となった地点を記憶しておき、停止地点から記憶してある最後に押し込み方向以外の力が規定値以下となった地点までの予め指定されている比率に応じた地点(例えば0.5が指定されていれば、停止地点と記憶してある最後に押し込み方向以外の力が規定値以下となった地点の中点)まで戻る動作を行う位置指令を発生させる、戻る地点情報を含む指令発生指令を指令生成手段1に入力する。
【0052】
そしてロボット3が上記地点まで戻ると、探索動作を行う位置指令を発生させる指令発生指令を指令生成手段1に送信し、さらに探索動作で押し込み方向の力が規定値以下となればその地点で探索動作を停止させ、その後、元々の動作を再開する位置指令を発生させる指令発生指令(動作再開指令)を指令生成手段1に入力する。
【0053】
この実施の形態9によれば、力制限値(力閾値)を超過した場合に、停止地点から最後に押し込み方向以外の力が規定値以下となった地点までの予め指定されている比率に応じた地点に戻り、そこから探索動作を行うことにより、効率よく自動的に動作を復旧継続できる効果がある。
【0054】
実施の形態10.
図12はこの発明の実施の形態10における力制御装置の構成を示すブロック図である。実施の形態1とはパラメータ切替手段6a内部の作用が異なる。パラメータ切替手段6aはロボット3から各軸モータ位置と力検出値を入力し、少なくとも1方向の力検出値が規定値(例えば記憶手段Mに記憶)を超えた地点を接触地点とし、接触地点からの移動量が切替地点指定手段5で指定された移動量に到達した地点で力閾値を切替えるとともに、力制御パラメータの切り替えを開始する。
【0055】
この実施の形態10によれば、少なくとも1方向の力検出値が規定値を超えた地点を接触地点とし、接触地点からの移動量が切替地点指定手段で指定された移動量に到達した地点で力閾値を切替え、力制御パラメータの切り替えを開始することで、より正確な力制御が行える。
【0056】
実施の形態11.
図13はこの発明の実施の形態11における力制御装置の構成を示すブロック図である。実施の形態1とは力覚センサにより力およびモーメントを検出するのではなく、力推定オブザーバ部25を用いてロボット先端部に作用する力及びモーメントを推定し、推定した力推定値を用いる点が異なる。
【0057】
力推定オブザーバ部25内部では、各軸のモータ位置と各軸を駆動するモータの電流を入力する。各軸のモータ位置からモータ速度、モータ加速度を算出し、算出したモータ位置、速度、加速度からその動作で必要となる駆動トルクを算出し、モータ電流から算出される駆動トルクとの差を各軸の外乱トルクとして算出する。さらに各軸のモータ位置に基づいて算出されるヤコビ行列を用いて外乱トルクをロボット先端部に作用する力及びモーメントに変換し、変換した力及びモーメントを力推定値として力制限超過判別手段4、ロボット制御手段2へ入力する。力制限超過判別手段4、ロボット制御手段2は力推定値を力検出値の代わりに使用する。
【0058】
この実施の形態11によれば、力覚センサを用いることなく、動作中に指定した地点で力閾値と力制御パラメータの切替が可能となり、位置ずれ時の安全な停止と高速な挿入動作の両立が実現できる。
【0059】
以上、この発明では、力閾値(力制限値)とコンプライアンス制御パラメータを動作中に切替えることができるため、位置ずれ発生時に過大な力の発生しやすい組み付け作業開始時は力閾値を小さく、コンプライアンス制御のパラメータを動作が柔らかくなる設定とし、反力に抗して押し付け力を発生させる必要のある挿入終了近辺区間では、力閾値を大きくし、コンプライアンス制御を動作が硬くなる設定にできるため、作業エラー発生時に過大な力が作用することを防止しながら動作を高速化できる効果がある。また、作業エラー発生時に過大な力が作用することを防止しながら、エラーの誤検知を防止できる効果もある。
【0060】
なおこの発明は上記各実施の形態に限定されるものはなく、これらの可能な組み合わせを全て含むことは云うまでもない。
【符号の説明】
【0061】
1 指令生成手段、2 ロボット制御手段、3 ロボット、4 力制限超過判別手段、5 切替地点指定手段、6,6a パラメータ切替手段、7 力覚考慮補正手段、8 逆変換手段、9 各軸位置制御手段、9n 各軸位置制御ユニット、10 ツール系座標変換部、11 スティフネス行列部、12 可変ゲイン部、12a 比例ゲイン部、13 直交系座標変換部、14 積分部、15 微分部、16 ダンピング行列部、17 ツール系座標変換部、18 順変換部、19 比例積分部、20 直交系座標変換部、21 比例部、22 比例積分部、23 微分部、24 復旧動作決定手段、25 力推定オブザーバ部、G1〜G4 減算部、I 入力手段、K1〜K2 加算部、M 記憶手段。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
切替地点指定手段からのロボットに行わせる作業動作に従ったロボット先端に作用する力の力制限値およびコンプライアンス制御の力制御パラメータの少なくとも一方を含むパラメータを切り替える切替地点を指示する命令に基づいて、パラメータ切替手段が力制限値および力制御パラメータの少なくとも一方を切り替え、力制限超過判別手段が力制限値を超える力が作用していると判別した場合に、ロボットに行わせる作業動作に従ってロボットの目標位置を示す位置指令を出力する指令生成手段にロボットを減速停止させる位置指令を出力させる停止指令を入力することを特徴とする力制御装置。
【請求項2】
モータを設けたロボットに行わせる作業動作に従ったロボットの時々刻々の目標位置を示す位置指令を出力する上記指令生成手段と、
動作中にロボットに行わせる作業動作に従ってロボット先端に作用する力の力制限値およびコンプライアンス制御の力制御パラメータの少なくとも一方を含むパラメータ条件、および上記パラメータ条件に切り替える切替地点を指示する命令を発生する上記切替地点指定手段と、
上記切替地点指定手段からの命令に基づき指定された切替地点で上記力制限値および力制御パラメータの少なくとも一方の切替を開始する上記パラメータ切替手段と、
上記指令生成手段からの位置指令と上記パラメータ切替手段からの力制御パラメータとロボットからの力検出値およびモータ位置を示す信号に従ってロボットを制御するロボット制御手段と、
ロボットからの力検出値が上記パラメータ切替手段からの力制限値を超えた場合に停止指令を出力する上記力制限超過判別手段と、
を備え、
上記指令生成手段が上記力制限超過判別手段から停止指令を受けるとロボットを減速停止させる位置指令を出力する、
ことを特徴とする請求項1に記載の力制御装置。
【請求項3】
上記切替地点指定手段において上記パラメータ条件および切替地点の少なくとも一方を書き変える入力手段をさらに備えたことを特徴とする請求項1または2に記載の力制御装置。
【請求項4】
上記力制限超過判別手段から停止指令を受けた時に、現在実行中の動作の動作開始地点までの退避動作を行わせるための位置指令を出力させる指令生成命令を上記指令生成手段に入力する復旧動作決定手段を備えることを特徴とする請求項2または3に記載の力制御装置。
【請求項5】
ロボットからの上記力検出値およびモータ位置を入力すると共に力検出値が最後に規定値以下になった時のモータ位置を記憶し、上記力制限超過判別手段から停止指令を受けた時に、記憶してある力検出値が最後に規定値以下となった地点まで戻る退避動作を行わせるための位置指令を出力させる指令生成命令を上記指令生成手段に入力する復旧動作決定手段を備えることを特徴とする請求項2または3に記載の力制御装置。
【請求項6】
ロボットに行わせる作業動作が押し込みであり、ロボットが複数のモータを設けロボットからそれぞれ複数の力検出値およびモータ位置を入力すると共に少なくとも押し込み方向の力検出値が最後に規定値以下になった時のモータ位置を記憶し、
押し込み方向の力検出値が上記力制限値を超えて上記力制限超過判別手段から停止指令を受けた時に、押し込み方向以外の方向の力検出値の規定値との関係に従ってそれぞれ定められた地点からの探索動作を行わせるための位置指令を出力させる指令生成命令を上記指令生成手段に入力する復旧動作決定手段を備えることを特徴とする請求項2または3に記載の力制御装置。
【請求項7】
上記復旧動作決定手段が、
上記力制限超過判別手段からの停止指令を受けた時に、
押し込み方向以外の方向の力検出値が全て規定値以下の場合には、記憶してある押し込み方向の力検出値が最後に規定値以下となった地点まで戻る退避動作を行わせるための位置指令を出力させる指令生成命令を上記指令生成手段に入力し、
押し込み方向以外の方向の少なくとも1つの力検出値が規定値以上の場合には、停止地点から探索動作を行わせるための位置指令を出力させる指令生成命令を上記指令生成手段に入力することを特徴とする請求項6に記載の力制御装置。
【請求項8】
上記復旧動作決定手段が、
上記力制限超過判別手段からの停止指令を受けた時に、
押し込み方向以外の方向の少なくとも1つの力検出値が規定値以上の場合に、停止地点から記憶してある押し込み方向の力検出値が最後に規定値以下となった地点までの所定比率の地点まで戻り、その後、探索動作を行わせるための位置指令を出力させる指令生成命令を上記指令生成手段に入力することを特徴とする請求項6に記載の力制御装置。
【請求項9】
上記復旧動作決定手段が、
押し込み方向以外の方向の力検出値が最後に規定値以下になった時のモータ位置も記憶し、上記力制限超過判別手段からの停止指令を受けた時に、
押し込み方向以外の方向の少なくとも1つの力検出値が規定値以上の場合に、停止地点から記憶してある最後に押し込み方向以外の方向の力検出値が規定値以下となった地点までの所定比率の地点まで戻り、その後、探索動作を行わせるための位置指令を出力させる指令生成命令を上記指令生成手段に入力することを特徴とする請求項6に記載の力制御装置。
【請求項10】
上記復旧動作決定手段が、上記探索動作において、押し込み方向の力検出値が規定値以下になった地点で元の動作を再開させるための位置指令を出力させる指令生成命令を上記指令生成手段に入力することを特徴とする請求項7から9までのいずれか1項に記載の力制御装置。
【請求項11】
上記復旧動作決定手段が、上記指令生成手段からの位置指令を入力すると共に力検出値が最後に規定値以下になった時の位置指令を記憶して上記モータ位置の代わりに使用することを特徴とする請求項5から10までのいずれか1項に記載の力制御装置。
【請求項12】
上記復旧動作決定手段が、上記力検出値の規定値を上記パラメータ切替手段の力制限値に従って設定することを特徴とする請求項5から11までのいずれか1項に記載の力制御装置。
【請求項13】
上記パラメータ切替手段が、ロボットからモータ位置と力検出値を入力し、少なくとも1方向の力検出値が規定値を超えた地点を接触地点とし、接触地点からの移動量が上記切替地点指定手段で指定された切替地点に到達した地点で力制限値を切替えるとともに、力制御パラメータの切り替えを開始することを特徴とする請求項2に記載の力制御装置。
【請求項14】
ロボットのモータのモータ位置とモータ電流を入力し、ロボット先端部に作用する力及びモーメントを推定し力推定値として求める力推定オブザーバ部を備え、推定した力推定値を力検出値の代わりに使用することを特徴とする請求項2に記載の力制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−104740(P2011−104740A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−263975(P2009−263975)
【出願日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「戦略的先端ロボット要素技術開発プロジェクト、柔軟物も取扱える生産用ロボットシステム(次世代産業用ロボット分野)、FA機器組立ロボットシステムの研究開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】