説明

力率制御装置

【課題】系統運用の推移に対しても、系統連系点における力率が所定の範囲に収まるよう、常に制御効果の高い発電機を制御対象に選択することができ効率的な力率制御を実現することができる力率制御装置を得ることを目的とする。
【解決手段】力率制御期間の終了時に検出器及び記憶器13A〜13Cに記憶されている力率偏差C1〜C3が最大の発電機を制御効果最大発電機と判定する制御効果判定手段15、および力率制御期間の終了時に判定された制御効果最大発電機の重み係数KiをKi=Ki+1に修正する重み係数修正手段16を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、複数の発電機が接続された系統連系点における力率が所定の力率範囲内に収まるよう前記各発電機を制御する力率制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
複数の発電機や発電所が接続された系統連系点における電力量を一定に制御するシステムが、例えば、特許文献1に紹介されている。このシステムでは、系統連系点における電力量を一定に保つために、検出された電力量に応じて各発電機、発電所に電力量を増減させる指令を出力する。この場合、この指令を各発電機に如何に振り分けるかが問題となる。
同文献1では、その一方式として、各発電機毎に予め重み付けを設定し、その重み付けを加味した指令を各発電機に出力することで、各発電機の分担能力に応じた円滑な電力量制御が実現できるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−194415号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、複数の発電機を備えた大口の電力需要家では、電力会社との間の契約によっては、売買する電力の力率を所定の範囲内に収める必要がある。このため、従来の電力量一定制御システムを応用して力率制御装置に適用すると、以下のような問題点が生じ得る。
【0005】
即ち、発電機に有効電力増減の指令を出力すると、その増減がそのまま系統連系点の電力に反映されるが、制御対象の発電機に、例えば、無効電力増の指令を出力しても、その制御対象外の発電機がその無効電力を吸収する形で動作することで、系統連系点での力率が効果的に変化しない場合がある。
【0006】
そこで、各発電機への無効電力増減指令が系統連系点での力率変動に及ぶ割合、換言すると制御効果の割合を予め分析しておき、従来システムに準じて各発電機毎に重み付けを設定してその制御対象の優先順位を決めて運用することが考えられる。しかし、この場合、系統運用の推移により、各発電機に関係する回路条件負荷状態等が逐一変動し、必ずしも、当初設定した重み付けによる力率制御が常に効率的な運用実績をもたらす保証はない。
【0007】
この発明は、以上のような従来装置の課題を解決するためになされたもので、系統運用の推移に対しても、系統連系点における力率が所定の範囲に収まるよう、常に制御効果の高い発電機を制御対象に選択することができ効率的な力率制御を実現することができる力率制御装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明に係る力率制御装置は、複数の発電機が接続された系統連系点における力率が所定の力率範囲内に収まるよう前記各発電機を制御するものであって、
前記系統連系点における力率を検出する力率検出手段、前記検出した力率が前記力率範囲を逸脱したとき当該力率を前記力率範囲に収めるための力率制御の状態への移行を指令する力率制御状態移行指令を発生する状態移行指令手段、および前記力率制御状態移行指令の立ち上がり時点から立ち下がり時点までの力率制御区間において前記力率制御を実行する力率制御手段を備え、
前記力率制御手段は、前記複数の発電機のいずれかをランダムに選択するものであって、前記選択される確率を増減させる重み係数を前記発電機毎に設定可能な乱数発生手段、
所定の区間単位毎に前記発電機への力率制御量の指令を発生する制御量指令発生手段、前記区間単位毎に力率制御の対象を前記乱数発生手段により前記複数の発電機の中から1台を選択する制御対象選択手段、前記区間単位毎に当該区間単位に前記系統連系点で検出された力率変動量の前記指令された力率制御量に対する割合である力率偏差を検出し当該区間単位における前記力率制御対象の発電機を特定して記憶する力率偏差記憶手段、前記力率制御期間の終了時に前記力率偏差記憶手段に記憶されている前記力率偏差の中からその最大値を求め当該最大値に対応する前記発電機を制御効果最大発電機と判定する制御効果判定手段、および前記力率制御期間の終了時に判定された前記制御効果最大発電機が当該力率制御期間の次の力率制御期間において他の発電機に比較して選択される確率が当該力率制御期間の場合より所定量増大するよう前記乱数発生手段で設定する各発電機の重み係数を修正するとともに当該力率制御期間に前記力率偏差記憶手段に記憶された内容をリセットする重み係数修正手段を備えたものである。
【発明の効果】
【0009】
この発明に係る力率制御装置は、以上のように、特に上述の制御効果判定手段を備えたので、その制御結果が系統連系点の力率に最も効果的に及ぶ発電機を確実に判別でき、更に、特に上述の重み係数修正手段を備えたので、系統運用の推移に対して、常に、制御効果の高い発電機を制御対象に選択して効率的な力率制御が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】この発明の実施の形態1における力率制御装置を説明するための図である。
【図2】この発明の実施の形態2における力率制御装置を説明するための図である。
【図3】この発明の実施の形態3における力率制御装置を説明するための図である。
【図4】この発明の実施の形態4における力率制御装置を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1における力率制御装置を説明するための図である。系統連系点に、制御対象となる複数の発電機1A、1B、1Cが接続されている。この例では、この内、発電機1Bは、系統連系点との電圧差を吸収するための主変圧器2Bが挿入されている。系統連系点の電圧を測定する計器用変圧器3、系統連系点の電流を測定する計器用変成器4、および計器用変圧器3と計器用変成器4との出力から系統連系点における電力(有効電力)、無効電力、力率を演算する内部演算器5により力率検出手段を構成する。
【0012】
力率制御開始判定器6が、内部演算器5で演算された力率PFが予め設定された力率範囲の下限(r−Δe)未満、または、上限(r+Δe)を越えたことを判定すると、力率制御状態移行器8が上げ指令または下げ指令9を立ち上げることにより、力率を設定範囲に収めるための力率制御状態への移行が開始(S)される。力率制御が実行された結果、力率制御終了判定器7が、力率が設定範囲内(r−Δe<PF<r+Δe)に収まったことを判定すると、力率制御状態移行器8が上げ指令または下げ指令9を立ち下げ力率制御状態への移行が終了(R)する。
力率制御開始判定器6、力率制御終了判定器7および力率制御状態移行器8により、状態移行指令手段を構成し、ここでは、この力率制御状態への移行指令の立ち上がり時点から立ち下がり時点までを、力率制御期間と定義するものとする。
【0013】
次に、この力率制御期間における制御動作について説明する。先ず、力率制御動作自体の概要を示すと以下の通りである。
即ち、制御演算は所定の区間単位毎に、制御対象となる発電機を選択して力率制御量を指令する。そして、当該区間単位の終了時に系統連系点での力率が設定範囲内に収まっているかを判定し、収まっていなければ、次の区間単位を開始、新たに制御対象の選択、力率制御量の指令、力率判定を行う。これを繰り返し、力率が設定範囲内に収まった区間単位の時点で1回の力率制御期間が終了する。従って、1回の力率制御期間では、通常、十数回〜数十回の区間単位の制御動作を繰り返すことになる。
【0014】
次に、本願発明の特徴とする制御動作について詳細に説明する。乱数発生手段10は、複数の発電機1A、1B、1Cの中から制御対象とする1台を選択するもので、ランダムに選択する乱数発生器に、後段で詳述するように、選択される確率を増減させる重み係数の設定が可能な機能を付加させたものである。制御量指令発生手段11は、区間単位毎に、系統連系点における力率検出値の設定範囲からの逸脱程度に応じて制御対象の発電機に指令する力率制御量を演算して出力する。制御対象選択手段12は、区間単位毎に、力率制御の対象を乱数発生手段10により複数の発電機の中から1台を選択する。
【0015】
力率偏差記憶手段としての検出器及び記憶器13A、13B、13Cは、区間単位毎に当該区間単位に系統連系点で検出された力率変動量の指令された力率制御量に対する割合である力率偏差C1、C2、・・・Ciを検出し当該区間単位における力率制御対象の発電機を特定して、即ち、各発電機毎に記憶する。この力率変動量は複数の発電機が接続された系統連系点で検出されるが、各区間単位では1台の発電機にのみ制御指令を出力しているので、当該区間単位において検出された力率変動量の力率制御量に対する力率偏差は、制御対象として選択された発電機が力率制御動作を実行したことにより、系統連系点における力率の改善に寄与した制御効果として評価できるわけである。
【0016】
重み係数設定器14A、14B、14Cは、乱数発生手段10で設定する重み係数K1、K2、・・・Kiを保持している。重み係数の具体的な数値は、装置の制御特性等により適宜設定した基準に従い決めればよいが、これらの重み係数を設定したときの、各発電機の選択される相対的な確率、制御確率と称してもよいが、この確率は、それぞれP1=K1/ΣKi、P2=K2/ΣKi、・・・Pi=Ki/ΣKiとなる。
従って、乱数発生手段10が、本来の乱数発生器のみを使用した場合は、各発電機はランダムに、即ち、相対的に同一の確率で選択されることになるが、これら重み係数を設定して乱数発生器を動作させることで、比較的大きい重み係数が設定された発電機は、比較的小さい重み係数が設定された発電機に対して当該重み係数の相違に応じて高い確率で選択されることになる。
なお、この実施の形態1では、重み係数の初期値を全て1としている。
【0017】
以上の区間単位での制御動作を、力率制御期間が終了するまで繰り返し、この繰り返す区間単位の数が発電機の数より十分大きければ、この力率制御期間終了時点では、全発電機についての力率偏差C1、C2、・・・Ciが検出器及び記憶器13A、13B、・・・13Cに蓄積されることになる。なお、同一発電機について複数の力率偏差が得られた場合、入力される度に、より大きな値で書き替えるようにしてもよいし、複数のデータを全て記憶するようにしてもよい。
制御効果判定手段15は、力率制御期間の終了時に各検出器及び記憶器13A、13B、・・・13Cに記憶されている力率偏差C1、C2、・・・Ciの中からその最大値Max(Ci)を求め当該最大値に対応する発電機を制御効果最大発電機と判定する。
【0018】
重み係数修正手段16は、力率制御期間の終了時に制御効果判定手段15で判定された制御効果最大発電機の重み係数Kiを1増やしてKi=Ki+1と修正する。同時に、各検出器及び記憶器13A、13B、・・・13Cの記憶内容をリセットする。
【0019】
力率制御期間が終了、即ち、系統連系点における力率が設定範囲内に収まると一連の力率制御が終了する。そして、再び、力率が設定範囲から逸脱するとあらためて力率制御状態移行指令が立ち上がり力率制御が再開され、区間単位毎に制御対象選択手段12で制御対象の発電機を選択することになる。この場合、乱数発生手段10で設定する重み係数は、先の力率制御期間における制御動作の実績から重み係数修正手段16により各発電機の重み係数が修正されている。従って、再開された力率制御期間では、制御効果判定手段15により、先の力率制御期間で制御効果最大発電機と判定された発電機が他の発電機に比較してより高い確率で制御対象に選ばれることになる。
【0020】
以上の結果、この実施の形態1のように、仮に重み係数の初期値を各発電機で同一値に設定していても、力率制御期間を重ねていくことで、制御効果の大きい発電機の重み係数が自律学習的に次第に増大し、従って、制御効果の大きい発電機が制御対象に選択される確率が次第に増し、結果として力率制御の効率を高めていくことができる。
【0021】
実施の形態2.
図2は、この発明の実施の形態2における力率制御装置を説明するための図である。先の実施の形態1の図1と異なるのは、重み係数修正手段17のみである。ここでは、重み係数設定器14で設定する重み係数の初期値として、例えば、一律にKi=5とする。そして、最初の力率制御期間の終了で制御効果判定手段15により制御効果最大発電機が判定されると、重み係数修正手段17により、当該制御効果最大発電機を除く他の発電機の重み係数Kiを1減じてKi=Ki−1と修正する。
【0022】
この結果、最短、5回の力率制御期間を経ることにより、制御効果が最も高い発電機に制御対象が集約され、学習効果の発揮を一層早めて効率の高い力率制御が可能となる。
【0023】
実施の形態3.
図3は、この発明の実施の形態3における力率制御装置を説明するための図である。先の実施の形態1の図1と異なるのは、重み係数の初期値の設定要領のみである。
即ち、実施の形態1では、重み係数の初期値を全ての発電機で同一としたが、例えば、各発電機の容量や運転特性等に差がある場合、扱う電力によって力率への制御効果も異なったものとなる可能性がある。
【0024】
そこで、電力帯域−重み係数初期値関係特性18を備え、電力の帯域毎に各発電機の制御効果を加味して重み係数の初期値を予め設定しておき、系統連系点で検出された電力に応じて、重み係数の初期値を設定する。
以上の構成により、時々の電力に応じた、より効率的な力率制御特性が得られることになる。
【0025】
実施の形態4.
図4は、この発明の実施の形態4における力率制御装置を説明するための図である。先の実施の形態3の図3と異なるのは、重み係数の初期値の設定要領のみである。
即ち、実施の形態3では、重み係数の初期値を系統連系点で検出した電力に応じて設定するようにしたが、季節と運用時間帯が特定されると電力がほぼ決まる場合が多い。
【0026】
そこで、季節・運用時間帯−重み係数初期値関係特性19を備え、季節・運用時間帯毎に各発電機の制御効果を加味して重み係数の初期値を予め設定しておき、別途図示しないタイマーで検出された季節・運用時間帯に応じて、重み係数の初期値を設定する。
この場合、実施の形態3では電力を検出してそれに応じて重み係数の初期値を設定するようにしていたが、この実施の形態4ではそれが不要となり、より簡便に、効率的な力率制御が可能となる。
【符号の説明】
【0027】
1A〜1C 発電機、3 計器用変圧器、4 計器用変成器、5 内部演算器、
6 力率制御開始判定器、7 力率制御終了判定器、8 力率制御状態移行器、
10 乱数発生手段、11 制御量指令発生手段、12 制御対象選択手段、
13A〜13C 検出器及び記憶器、14A〜14C 重み係数設定器、
15 制御効果判定手段、16,17 重み係数修正手段、
18 電力帯域−重み係数初期値関係特性、
19 季節・運用時間帯−重み係数初期値関係特性。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の発電機が接続された系統連系点における力率が所定の力率範囲内に収まるよう前記各発電機を制御するものであって、
前記系統連系点における力率を検出する力率検出手段、前記検出した力率が前記力率範囲を逸脱したとき当該力率を前記力率範囲に収めるための力率制御の状態への移行を指令する力率制御状態移行指令を発生する状態移行指令手段、および前記力率制御状態移行指令の立ち上がり時点から立ち下がり時点までの力率制御区間において前記力率制御を実行する力率制御手段を備え、
前記力率制御手段は、前記複数の発電機のいずれかをランダムに選択するものであって、前記選択される確率を増減させる重み係数を前記発電機毎に設定可能な乱数発生手段、
所定の区間単位毎に前記発電機への力率制御量の指令を発生する制御量指令発生手段、前記区間単位毎に力率制御の対象を前記乱数発生手段により前記複数の発電機の中から1台を選択する制御対象選択手段、前記区間単位毎に当該区間単位に前記系統連系点で検出された力率変動量の前記指令された力率制御量に対する割合である力率偏差を検出し当該区間単位における前記力率制御対象の発電機を特定して記憶する力率偏差記憶手段、前記力率制御期間の終了時に前記力率偏差記憶手段に記憶されている前記力率偏差の中からその最大値を求め当該最大値に対応する前記発電機を制御効果最大発電機と判定する制御効果判定手段、および前記力率制御期間の終了時に判定された前記制御効果最大発電機が当該力率制御期間の次の力率制御期間において他の発電機に比較して選択される確率が当該力率制御期間の場合より所定量増大するよう前記乱数発生手段で設定する各発電機の重み係数を修正するとともに当該力率制御期間に前記力率偏差記憶手段に記憶された内容をリセットする重み係数修正手段を備えたことを特徴とする力率制御装置。
【請求項2】
前記乱数発生手段は、前記重み係数の初期値を、前記各発電機で等しい値に設定するようにしたことを特徴とする請求項1記載の力率制御装置。
【請求項3】
前記系統連系点における電力帯域毎に前記各発電機の重み係数の初期値を予め設定した電力帯域−重み係数初期値関係特性を備え、
前記乱数発生手段は、前記電力帯域−重み係数初期値関係特性に基づき、前記系統連系点における電力検出値に応じて前記各発電機の重み係数の初期値を設定するようにしたことを特徴とする請求項1記載の力率制御装置。
【請求項4】
季節および運用時間帯毎に前記各発電機の重み係数の初期値を予め設定した季節・運用時間帯−重み係数初期値関係特性を備え、
前記乱数発生手段は、前記季節・運用時間帯−重み係数初期値関係特性に基づき、運用時の季節および時間帯に応じて前記各発電機の重み係数の初期値を設定するようにしたことを特徴とする請求項1記載の力率制御装置。
【請求項5】
前記重み係数修正手段は、前記制御効果最大発電機の重み係数を所定量大きくすることにより前記重み係数を修正するようにしたことを特徴とする請求項2ないし4のいずれか1項に記載の力率制御装置。
【請求項6】
前記重み係数修正手段は、前記制御効果最大発電機を除く各発電機の重み係数を所定量小さくすることにより前記重み係数を修正するようにしたことを特徴とする請求項2ないし4のいずれか1項に記載の力率制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−115011(P2011−115011A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−271640(P2009−271640)
【出願日】平成21年11月30日(2009.11.30)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】