説明

加工ロボットの軌道追従装置と方法

【課題】従来の倣い制御または力制御による加工速度を超える高速で、ロボットアームの追従遅れなしに、高精度の加工をすることができる加工ロボットの軌道追従装置と方法を提供する。
【解決手段】(A)ワークのCADモデルから軌道データを生成して記憶装置に記憶し、(B)加工前に、軌道データに沿って、加工速度より低速の倣い速度で、ワークを加工することなくワークを倣い、その動作位置から軌道データを修正して目標軌道を設定し、(C)次いで、目標軌道に基づき、ワークと接触させることなく加工速度で加工工具を位置制御して、軌道データを再修正する学習を繰返して加工に使用する目標軌道データとして記憶し、(D)加工時に、学習後の軌道データに基づき、加工速度で加工工具を位置制御してワークを加工する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークを加工する加工ロボットの軌道追従装置と方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ロボットアームの手先に工具を取り付け、加工経路に沿って動作させてワークを加工する加工ロボットにおいて、位置決め精度が低いロボットアームを使って、高精度な加工を実現するための技術として、例えば特許文献1〜4、及び非特許文献1が既に提案されている。
【0003】
特許文献1の「研磨方法」は、工具の押付力を一定にするように制御しながら加工することで、目標軌道とワークとのずれを補償するものである。
特許文献2の「ならい制御装置」は、スタイラスでモデル面を倣うと同時に,スタイラスと連動して動作する加工軸でワークを加工し,モデルの形状をワークに転写する倣い制御装置である。
【0004】
特許文献3の「マニピュレータ用追従装置及び追従制御方法」は、教示した軌道を目標軌道として繰返し学習することで、ロボットの目標軌道への追従誤差を補償するものである。なお、繰返し学習によるロボットの追従精度改善技術は、非特許文献1に開示されている。
特許文献4の「ワーク加工装置とその制御方法」は、衝撃的な加工反力が発生しても加工精度を維持しかつ工具の破損を防止するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第2852828号公報、「力覚センサを有するロボットによる研磨方法」
【特許文献2】特開平2−274457号公報、「ならい制御装置」
【特許文献3】特開平7−266267号公報、「マニピュレータ用追従装置及び追従制御方法」
【特許文献4】特開2010−253613号公報、「ワーク加工装置とその制御方法」
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】南條義人、有本卓、「ロボット軌道追従のための学習制御系の設計指針」、日本ロボット学会誌 Vol.11 No.7,pp.1047〜1055,1993
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の手段は、倣い制御の性質上、押付力の目標値への追従性と工具の送り速度とがトレードオフの関係にある。速度を上げ過ぎると押付力の目標値への追従性が低くなり、加工精度が低下するため、加工精度を高くするには、送り速度を低く設定しなければならない。さらに、送り速度は加工寸法に影響する(例えばC面取り加工では、送り速度を低くすると、加工で得られるC面の寸法は大きくなる)ため、煩雑な試行錯誤によって、要求される加工寸法等を満たす制御パラメータと加工条件パラメータを探索しなければならないという問題があった。
【0008】
特許文献2の手段は、この問題に対し、送り速度によって加工寸法が影響を受けなくなる点で、加工条件探索を容易にする効果があるが、押付力の目標値への追従性と工具の送り速度とのトレードオフは同様に存在し、高速化できないという問題があった。
【0009】
特許文献3の手段は、高精度加工のロボット目標軌道を教示するのは困難であるという問題があった。
特許文献4の手段は、倣い治具を用いて倣い加工を行うため高速化できるが、ワークの加工部分の周囲形状によっては、倣い治具が干渉したり、適用できないケースがあるという問題があった。
【0010】
言い換えれば、従来の倣い加工は、倣い速度を低く設定しなければならないため、高速での加工ができない。
また、ロボットアームの手先に工具を取り付け、加工経路に沿って動作させて加工する加工ロボットの場合、高速で位置制御しても、ロボットアームの追従遅れがあるため、目標軌道に高速で追従することが困難であった。
【0011】
本発明は、上述した問題点を解決するために創案されたものである。すなわち、本発明の目的は、従来の倣い制御または力制御による加工速度を超える高速で、ロボットアームの追従遅れの影響なしに、高精度の加工をすることができる加工ロボットの軌道追従装置と方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によれば、ロボットアームの手先に加工工具を取り付け、加工経路に沿って動作させてワークを加工する加工ロボットの軌道追従装置であって、
加工工具が受ける外力を計測する力覚センサと、
加工工具の位置、姿勢、及び押付け方向を含む軌道データを記憶する記憶装置と、
力覚センサによる計測値に基づき前記軌道データの目標値を演算しロボットコントローラに出力する軌道制御装置とを備え、該軌道制御装置により、
(A)ワークのCADモデルから前記軌道データを生成して記憶装置に記憶し、
(B)加工前に、前記軌道データに沿って、ワークを加工することなくワークを倣い、その動作位置から前記軌道データを修正して目標軌道を設定し、
(C)次いで、目標軌道に基づき、ワークと接触させることなく前記加工速度で加工工具を位置制御して、前記軌道データを再修正する学習を繰返し、
(D)加工時に、学習後の前記軌道データに基づき、前記加工速度で加工工具を位置制御してワークを加工する、ことを特徴とする加工ロボットの軌道追従装置が提供される。
【0013】
また本発明によれば、ロボットアームの手先に加工工具を取り付け、加工経路に沿って動作させてワークを加工する加工ロボットの軌道追従方法であって、
(A)ワークのCADモデルから前記軌道データを生成して記憶装置に記憶し、
(B)加工前に、前記軌道データに沿って、ワークを加工することなくワークを倣い、その動作位置から前記軌道データを修正して目標軌道を設定し、
(C)次いで、目標軌道に基づき、ワークと接触させることなく前記加工速度で加工工具を位置制御して、前記軌道データを再修正する学習を繰返し、
(D)加工時に、学習後の前記軌道データに基づき、前記加工速度で加工工具を位置制御してワークを加工する、ことを特徴とする加工ロボットの軌道追従方法が提供される。
【発明の効果】
【0014】
上記本発明の装置と方法によれば、加工前に、加工速度より低速の倣い速度で、ワークを加工することなくワークを倣い、その動作位置から軌道データを修正して目標軌道を設定するので、ロボットの絶対位置精度を補償することができる。かつ、低速で倣うことで、高精度にワークに追従することができる。
また、次いで、目標軌道に基づき、ワークと接触させることなく加工速度で加工工具を位置制御して、軌道データを再修正する学習を繰返すことで、加工速度が高速であっても、ロボットアームの追従遅れの影響を軽減し、ロボットの目標軌道への追従精度を高めることができる。このようにして、目標軌道をさらに修正し、記憶しておく。
加工時に、修正後の目標軌道データに基づき、前記高速の加工速度で加工工具を(力制御ではなく)位置制御してワークを加工するので、高精度の加工を高速で実施することができる。

【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の軌道追従装置を備えた加工ロボットの構成図である。
【図2】本発明の軌道追従方法の全体フロー図である。
【図3】図2のステップS2の説明図である。
【図4】図2のステップS3の説明図である。
【図5】ステップS3の学習動作のブロック図である。
【図6】図2のステップS4の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好ましい実施形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0017】
図1は、本発明の軌道追従装置を備えた加工ロボットの構成図である。
この図において、1はワーク(被加工部材)、2はワーク保持装置、3は加工工具、10は加工ロボット、20は本発明の軌道制御装置である。
【0018】
ワーク1は、加工工具3により、バリ取り、C面取り、又はラウンドエッジ加工される被加工部材であり、例えば鋳鉄等の硬い材質からなる。
【0019】
ワーク保持装置2は、ワーク1及びマスターワーク(図示せず)を所定位置に固定する。押し当て治具などを使って、正確に位置決めするのが望ましいが、設置誤差が問題となるときは、設置したマスターワークに工具やスタイラスを接触させてマスターワークの設置位置と姿勢を計測し、ロボットとマスターワークとの相対位置と姿勢を算出し、ワーク座標系(ワークに固定された座標系)を補正するキャリブレーションを実施する。
マスターワークは、好ましくは加工前マスターワークであるが、加工後マスターワークでもよい。
加工前マスターワークとは、加工ロボット10による加工位置にバリ等がなく、かつワーク1と同一形状のものを意味する。また、加工後マスターワークとは、ワーク1に対し所望の加工を実施した形状のものを意味する。
【0020】
すなわち、加工後マスターワークの加工面は、後述する「目標軌道A」に沿って加工工具3を移動した場合の加工面であり、ワーク1と同一形状の加工前マスターワークの加工面から所定の加工代分を加工除去した面である。
なお、本願において、「加工面」は、加工する面に限定されず、バリやエッジを含むものとする。
以下、マスターワークに加工前マスターワークを用いる場合を説明する。
【0021】
加工ロボット10は、ロボットアーム12の手先側フランジ面14に加工工具3を取り付け、加工経路に沿って動作させてワーク1を加工する。
なお加工ロボット10は、この例では、多関節ロボットであるが、本発明はこれに限定されず、その他のロボットであってもよい。
このような加工ロボット10は通常追従遅れがあり、目標軌道に高速かつ高精度で追従することが通常困難である。
【0022】
加工工具3は、ロボットアームの先端に取り付けられ、ワーク1を加工する。
この例において、加工工具3は、ワーク1を加工する工具3aとこれを回転駆動する駆動装置3b(この例では電動スピンドルモータ)とからなる。
工具3aは、砥石、超硬カッター、等である。
また、駆動装置3bは、往復駆動する駆動装置でも代替可能であり、電動スピンドルモータはエアモータでも代替可能である。
【0023】
加工ロボット10は、ロボットコントローラ16を備える。ロボットコントローラ16は、例えば数値制御装置であり、指令信号によりロボットアーム12の手先側フランジ面14を6自由度(3次元位置と3軸まわりの回転)に制御する。
【0024】
図1において、本発明の軌道制御装置20は、力覚センサ22、記憶装置24、及び軌道制御PC26を備える。
【0025】
力覚センサ22は、例えばロードセルであり、3次元的に移動可能なロボットアーム12の手先側フランジ面14に取り付けられ、これに作用する外力を検出するようになっている。
この力覚センサ22で検出される外力は、好ましくは6自由度の外力(3方向の力と、3軸まわりのトルク)であるが、本発明はこれに限定されず、ワーク1に対する押付力が検出できる限りで、その他の力センサであってもよい。
【0026】
記憶装置24は、加工工具3の位置、姿勢、及び押付け方向を含む軌道データDを記憶する。
軌道データDは、例えば、ワーク座標系における加工工具3の3次元位置(x,y,z)と姿勢(a,b,c)で表され、姿勢パラメータa,b,cは、例えばオイラー角などである。また、加工工具3の押付け方向は、ワーク座標系における単位ベクトル(vx,vy,vz)で表される。
なお、本発明は、加工工具3の位置、姿勢、及び押付け方向を設定できる限りで、これらの座標系と姿勢パラメータの定義(一般に、姿勢表現には多種の定義のパラメータが使用されている)に限定されない。
【0027】
軌道制御PC26は、例えば、制御PCであり、力覚センサ22による計測値と工具位置姿勢の計測値と軌道データDとに基づき、ロボットアームの指令値を制御周期毎に演算し、ロボットコントローラ16に出力する。
軌道制御PC26は、この例では、ロボットコントローラ16と別個に設けられているが、ロボットコントローラ16と軌道制御PC26を同一の制御PCで構成してもよい。
【0028】
図2は、本発明の軌道追従方法の全体フロー図である。
上述した装置を用い、本発明の軌道追従方法は、S1〜S4の各ステップ(工程)からなる。
(A)ステップS1(軌道データ生成ステップ)では、ワーク1のCADモデルから軌道データDを生成して記憶装置24に記憶する。
【0029】
(B)ステップS2(低速倣いステップ)では、加工前に、軌道データDに沿って、加工速度より低速の倣い速度で、ワーク1を加工することなくワーク1を倣い、その動作位置から軌道データDを修正して目標軌道A(後述する)を設定する。
【0030】
ステップS2で使用するワーク1は、加工位置にバリ等がないものを使用する。またワーク1の代わりに、加工位置にバリ等がなくかつワーク1と同一形状の加工前マスターワークを用いてもよい。さらに、ワーク1に対し所望の加工を実施した形状の加工後マスターワークを用いてもよい。
【0031】
また、ステップS2では、加工工具3の代わりに、加工工具3と同一形状の倣い治具4を、ロボットアーム12の手先側フランジ面14に取り付けて行うのがよい。なお、ワーク1を加工しない限りで、加工工具3をそのまま倣い治具4として用いてもよい。
【0032】
また、ワーク1に対し押付け力一定の力制御によりステップS2の倣いを実施する。すなわち、軌道データDを目標軌道として加工工具3の移動を位置制御し、同時に加工工具3の押付け力を力制御する。以下、この制御を「ハイブリッド制御」又は「位置−力ハイブリッド制御」と呼ぶ。
このハイブリッド制御では、加工工具3の押付け方向の力が目標値となるように力制御しながら、押付け方向に直交する方向は、軌道データDに追従するように位置制御する。従って、力制御と位置制御とが干渉しない。
【0033】
図3は、図2のステップS2の説明図である。この図において、(A)はワークの倣い中、(B)は倣い後の目標軌道の生成を示している。
【0034】
図3(A)において、1aはワーク1(又は加工前マスターワーク)の加工面、6はCADモデルから生成した軌道データD、7はワーク1(又は加工前マスターワーク)を倣って計測した倣い治具4の中心軌跡である。
加工面1aは、加工ロボット10によるワーク1の加工前の加工面に相当する。
【0035】
図3(B)において、8はワーク1に対し所望の加工を実施した後の加工面であり、上述した加工後マスターワークの加工面と一致する。この所望の加工は、加工前マスターワークの加工面1aから所定の加工代分(切込み分)を加工除去した面である。また、9は、加工面8を得るための加工工具3の中心軌跡である。以下、この中心軌跡9を「目標軌道A」と呼ぶ。
加工工具3の中心をこの目標軌道Aに合わせて移動することにより、加工工具3の回転により所望の加工を実施した後の加工面8を得ることができる。
なお、この目標軌道Aの生成は、軌道7と所定の加工代分(切込み分)から演算により求め、記憶装置24に記憶する。
【0036】
ステップS2において、ワーク1の代わりに、加工後マスターワークを用いた場合、倣い治具4の中心軌跡7は、目標軌道Aと一致する。従って、この場合は、軌道7を目標軌道Aとしてそのまま記憶装置24に記憶する。
【0037】
(C)次いで、ステップS3(高速移動ステップ)では、修正した軌道データD(目標軌道A)に基づき、ワーク1と接触させることなく所定の加工速度で加工工具3を位置制御して、軌道データDを再修正する学習を繰返す。所定の加工速度は、倣い速度より高速の所望の速度である。
ステップS3は、再修正した軌道データと目標軌道との差が、所定の閾値以下になるまで、学習を繰返す。
【0038】
図4は、図2のステップS3の説明図である。この図において、(A)は1回目の学習動作、(B)は1回目の学習動作後の目標軌道の補正、(C)は2回目の学習動作を模式的に示している。
【0039】
図4(A)において、目標軌道A(軌跡9)を目標値として、ワーク1と接触させることなく所定の加工速度(倣い速度より高速)で加工工具3を位置制御すると、実際に動作する軌道は、ロボットアーム12の追従遅れのため、目標軌道Aから外れた軌道9−1となる。
図4(B)において、軌跡9と軌道9−1の偏差を無くすように目標値を修正して、目標軌道9−2とする。
さらに図4(C)において、目標軌道9−2を使用して、再度、所定の加工速度で加工工具3を位置制御すると、実際に動作する軌道は、軌道9−1よりは目標軌道Aに近い軌道9−3となる。
【0040】
従って、図4(A)(B)(C)のように、軌道データDを再修正する学習を繰返すことにより、ロボットアーム12の追従遅れがある場合でも、実際に動作する軌道を目標軌道A(軌跡9)に高い精度で一致させることができる。
【0041】
図5は、ステップS3の学習動作のブロック図である。この図において(A)は、短期メモリとログデータの関係、(B)はログデータに基づく学習動作を示している。
【0042】
図5(A)において、短期メモリには、k回目の学習動作における目標軌道が記憶されており、この目標軌道に沿ってロボットが作動し、k回目の動作結果がログデータとして記憶される。ここでkは1以上の整数である。
【0043】
図5(B)において、φはP学習ゲイン、ψはI学習ゲインであり、φ>0、ψ=0の場合がP形学習、φ>0、ψ>0の場合がPI形学習である。
【0044】
ログデータのk回目の動作結果yと目標軌道Aの位置yとの位置誤差eが求められる。位置誤差eは目標軌道Aとの差を意味する。
次いで、P形学習では、差eにP学習ゲインφを積算する。また、PI形学習では差eを積分したものにI学習ゲインψを積算したものを更に加算したものを軌道の補正量Δu=φe+ψ∫edtとする。
【0045】
一方、短期メモリのk回目の目標軌道uと長期メモリの目標軌道uθから忘却係数αを加味して、k+1回目の目標軌道uk+1=u(1−α)+uθ・α+Δuが求められる。長期メモリの目標軌道uθは、低頻度で更新される目標軌道であり、例えば50回に1回、長期メモリuθに短期メモリuをコピーする。また忘却係数αは0〜1の値(例えば0.1)であり、目標軌道uの繰返し学習を安定化させる機能を有する。
【0046】
k+1回目の目標軌道uk+1を短期メモリに入力して、k+1回目の目標軌道とする。
ロボットはこのk+1回目の目標軌道uk+1に沿ってロボットが作動し、k+1回目の動作結果がログデータとして記憶される。
【0047】
上記学習動作の詳細は、非特許文献1に開示されている。
この繰返し学習によって、修正された目標軌道に位置するように加工工具3を位置制御することにより、加工速度が倣い速度を超える高速であっても、ロボットアーム12の追従遅れの影響をなくし、加工工具3の位置を目標軌道Aに近づけることができる。
なお、学習動作はこの例に限定されず、その他の学習制御系、例えば、神経回路モデルを利用した学習制御系であってもよい。
【0048】
(D)次いで、ステップS4(高速加工ステップ)では、学習後の軌道データDに基づき、高速の加工速度で加工工具3を位置制御してワーク1を加工する。このとき、ワークを正確に位置決め可能で、ワークのばらつきも小さい場合は、(前記の繰返し学習をせずに)同一の軌道データDを使用して、複数のワークに対して再現性の高い加工が得られる。設置誤差やワークのばらつきが問題となるときは、ワークを設置する度にワークの設置位置と姿勢を計測し、ロボットとワークとの相対位置と姿勢が、マスターワークを倣い計測したときの相対位置と姿勢と同一になるように、軌道データDやワーク座標系をシフトすることで、(前記の繰返し学習をせずに)ワークを加工することができる。
【0049】
図6は、図2のステップS4の説明図である。
ステップS3の学習後の軌道データDを使って位置制御したときの工具の軌跡は、目標軌道A(軌跡9)に高い精度で一致している。
従って、ロボットアーム12の追従遅れがある場合でも、ステップS4において、学習後の軌道データDに基づき、高速の加工速度で加工工具3を位置制御してワーク1を加工することにより、高精度の加工を高速で実施することができる。
【0050】
上述した本発明の装置と方法によれば、加工前に、加工速度より低速の倣い速度で、ワーク1を加工することなくワーク1を倣い、その動作位置から軌道データDを修正して目標軌道Aを設定するので、ロボットの絶対位置精度を補償することができる。
また、次いで、目標軌道Aに基づき、ワーク1と接触させることなく加工速度で加工工具を位置制御して、軌道データDを再修正する学習を繰返すので、加工速度が倣い速度を超える高速であっても、ロボットアーム12の追従遅れの影響をなくし、ロボット10の追従誤差を補償することができる。
次いで、学習後の軌道データDに基づき、高速の加工速度で加工工具3を(力制御ではなく)位置制御してワーク1を加工するので、高精度の加工を高速で実施することができる。
【0051】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されず、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むものである。
【符号の説明】
【0052】
1 ワーク(被加工部材)、2 ワーク保持装置、
3 加工工具、4 倣い治具、9 目標軌道A、
10 加工ロボット、12 ロボットアーム、
14 ロボットアームの手先側フランジ面、
16 ロボットコントローラ、
20 軌道制御装置、22 力覚センサ、
24 記憶装置、26 軌道制御PC(制御PC)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロボットアームの手先に加工工具を取り付け、加工経路に沿って動作させてワークを加工する加工ロボットの軌道追従装置であって、
加工工具が受ける外力を計測する力覚センサと、
加工工具の位置、姿勢、及び押付け方向を含む軌道データを記憶する記憶装置と、
力覚センサによる計測値に基づき前記軌道データの目標値を演算しロボットコントローラに出力する軌道制御装置とを備え、該軌道制御装置により、
(A)ワークのCADモデルから前記軌道データを生成して記憶装置に記憶し、
(B)加工前に、前記軌道データに沿って、ワークを加工することなくワークを倣い、その動作位置から前記軌道データを修正して目標軌道を設定し、
(C)次いで、目標軌道に基づき、ワークと接触させることなく前記加工速度で加工工具を位置制御して、前記軌道データを再修正する学習を繰返し、
(D)加工時に、学習後の前記軌道データに基づき、前記加工速度で加工工具を位置制御してワークを加工する、ことを特徴とする加工ロボットの軌道追従装置。
【請求項2】
ロボットアームの手先に加工工具を取り付け、加工経路に沿って動作させてワークを加工する加工ロボットの軌道追従方法であって、
(A)ワークのCADモデルから前記軌道データを生成して記憶装置に記憶し、
(B)加工前に、前記軌道データに沿って、ワークを加工することなくワークを倣い、その動作位置から前記軌道データを修正して目標軌道を設定し、
(C)次いで、目標軌道に基づき、ワークと接触させることなく前記加工速度で加工工具を位置制御して、前記軌道データを再修正する学習を繰返し、
(D)加工時に、学習後の前記軌道データに基づき、前記加工速度で加工工具を位置制御してワークを加工する、ことを特徴とする加工ロボットの軌道追従方法。
【請求項3】
前記(B)において、ワークの代わりに、加工位置にバリ等がなくかつワークと同一形状の加工前マスターワーク、又はワークに対し所望の加工を実施した形状の加工後マスターワークを使用する、ことを特徴とする請求項2に記載の軌道追従方法。
【請求項4】
前記(B)において、加工工具の代わりに、加工工具と同一形状の倣い治具を、ロボットアームの手先側フランジ面に取り付けてワークを倣う、ことを特徴とする請求項2に記載の軌道追従方法。
【請求項5】
前記(B)において、前記軌道データを目標軌道として加工工具の移動を位置制御しかつワークに対する加工工具の押付け力を力制御するハイブリッド制御を実施する、ことを特徴とする請求項2に記載の軌道追従方法。
【請求項6】
前記(C)において、再修正した軌道データと目標軌道との差が、所定の閾値以下になるまで、学習を繰返す、ことを特徴とする請求項2に記載の軌道追従方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate