説明

加熱された表面への粒子状材料の供給

粒子状材料(10)を気化させる方法は、1つ以上の容器(15)を用意し、それぞれの容器には少なくとも1種類の成分を含むできれば異なる粒子状材料(10)を収容するステップと、少なくとも1つの容器(15)の中でその粒子状材料(10)を流動化するステップと、少なくとも1つの容器(15)からは断熱されている気化領域(50)を用意するステップを含んでいる。この方法はさらに、それぞれの容器(15)からの粒子状材料をその気化領域(50)に供給するステップと、供給された粒子状材料(10)にその気化領域(50)で熱を加えて気化させるステップを含んでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機発光ダイオード(OLED)デバイスの製造に関するものであり、より詳細には、加熱された表面に粒子状有機材料を制御可能な方法で供給することに関する。
【背景技術】
【0002】
OLEDデバイスは、基板と、アノードと、有機化合物からなる正孔輸送層と、適切なドーパントを含む有機発光層と、有機電子輸送層と、カソードを備えている。OLEDデバイスが魅力的なのは、駆動電圧が低く、高輝度で、視角が広く、フル-カラーのフラット発光ディスプレイが可能だからである。Tangらは、この多層OLEDデバイスをアメリカ合衆国特許第4,769,292号と第4,885,211号に記載している。
【0003】
真空環境中での物理的気相蒸着は、小分子OLEDデバイスで用いられているような有機材料の薄膜を堆積させる主要な方法である。このような方法はよく知られており、例えばBarrのアメリカ合衆国特許第2,447,789号とTanabeらのヨーロッパ特許第0 982 411号に記載されている。OLEDデバイスの製造に用いられる有機材料は、速度に依存した望ましい気化温度またはそれに近い温度に長時間にわたって維持したとき、分解することがしばしばある。感受性のある有機材料をより高温に曝露すると、分子構造が変化し、それに伴って材料の性質が変化する可能性がある。
【0004】
このような材料の熱感受性という問題を解決するため、ほんの少量の有機材料を蒸発源に供給し、その少量をできるだけ少なく加熱するということが行なわれてきた。このようにすると、材料は、顕著な分解を引き起こす温度曝露閾値に到達する前に消費される。この方法の欠点は、ヒーターの温度に制約があるために利用できる気化速度が非常に小さいことと、蒸発源の中に存在する材料が少量であるために蒸発源の動作時間が非常に短いことである。従来技術では、蒸着チェンバーに通気口を設け、蒸発源を分解清掃し、蒸発源に材料を再装填し、蒸着チェンバーの中を再び真空にし、導入したばかりの有機材料を数時間にわたって脱ガスした後に操作を再開する必要がある。小さな蒸着速度と、蒸発源への頻繁な材料供給に時間のかかることが、OLED製造設備のスループットに関する実質的な制約となっている。
【0005】
装填する有機材料全体をほぼ同じ温度に加熱することの二次的な結果として、追加の有機材料(例えばドーパント)をホスト材料と混合することが実際上できなくなる。ただし例外は、ドーパントが気化するときの挙動および蒸気圧が、ホスト材料が気化するときの挙動および蒸気圧と非常に近い場合である。このようなことは一般にないため、その結果として、従来の装置は、ホスト材料とドーパント材料を同時に堆積させるのに別々の蒸発源を必要とすることがしばしばある。
【0006】
単一成分の蒸発源を用いることの1つの帰結は、1種類のホストと複数種類のドーパントを含む膜を形成するのに多数の蒸発源が必要とされることである。これらの蒸発源は隣り合わせに配置されるため、同時蒸着条件をほぼ満たそうとすると外側の蒸発源ほど中心に向けて傾けることになる。実際上は、異なる材料を同時に蒸着するのに用いられる直線配列の蒸発源の数は、3つまでに制限されてきた。この制約があるため、OLEDデバイスの構造が実質的に制限されていた。そのため真空蒸着チェンバーに必要なサイズが大きくなり、真空蒸着チェンバーに必要とされるコストが上昇し、システムの信頼性が低下する。
【0007】
さらに、別々の蒸発源を使用すると、堆積される膜に勾配効果が生じる。すなわち、移動している基板に最も近い蒸発源内の材料がその基板に直接接する最初の膜において過剰になるのに対し、最後の蒸発源内の材料は、最終的な膜の表面において過剰になる。勾配のあるこの同時堆積は、単一の材料が複数ある蒸発源のそれぞれから気化する従来の蒸発源では不可避である。共同ホストを用いるときなどに堆積される膜に勾配があることは、両端部いずれかの蒸発源の寄与が中央の蒸発源からの寄与の数%を超える場合に特に明らかである。
【0008】
従来の蒸発源のさらに別の制約は、装填した有機材料が消費されるにつれて蒸気用マニホールドの内部の形状が変化することである。この変化があるため、気化速度を一定に維持するにはヒーターの温度を変化させねばならない。実際、オリフィスから出てくる蒸気の気柱の全体的な形状は、蒸発源の内部における有機材料の厚さおよび分布の関数として変化することが観察されている。特に、材料を十分に装填した蒸発源の中での蒸気流に対するコンダクタンスが十分に小さくてその蒸発源の内部で不均一な気化による圧力勾配が維持されるときにそうなる。この場合、装填された材料が消費されるにつれてコンダクタンスが大きくなるため、圧力分布が、したがって気柱の全体的な形状が、改善される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって本発明の1つの目的は、粉末を気化させる効果的な方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的は、粒子状材料を気化させる方法であって、
(a)1つ以上の容器を用意し、それぞれの容器には少なくとも1種類の成分を含むできれば異なる粒子状材料を収容するステップと;
(b)少なくとも1つの容器の中で上記粒子状材料を流動化するステップと;
(c)少なくとも1つの容器からは断熱されている気化領域を用意するステップと;
(d)それぞれの容器からの粒子状材料をその気化領域に供給するステップと;
(e)供給された粒子状材料にその気化領域で熱を加えて気化させるステップを含む方法によって達成される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1を参照すると、粒子状材料10の気化を正確に制御する装置5を示してある。この装置は容器15を備えており、その中には、少なくとも1つの成分を含む粒子状材料10(例えば有機材料)が収容されている。輸送装置(ここでは回転円板40として実現されている)が容器15から粒子状材料10を受け取る。粒子状材料10は、回転円板40によって輸送され、気化領域50に到達する。気化領域50では、熱源55が、輸送されてきた粒子状材料を瞬間的に気化させる。熱源55と容器15の間の熱伝導路をなくすことにより、気化領域50は容器15から孤立した状態にされている。OLEDに応用するには、対流による熱の輸送もない真空中に装置5を配置することになろう。熱質量が小さく、比熱が小さく、熱伝導率が小さな材料を用いて回転円板40を作ることにより、さらなる断熱が達成される。輻射による容器15の加熱を減らすかなくすには、熱源55を適切に設計するか、熱源55と容器15の間に接地された熱シールドを配置するとよい。
【0012】
回転円板40は、この回転円板40の一部が容器15の中で回転できるように配置する。回転円板40には静電荷を帯電させてあるため、粒子状材料10の中を回転すると粒子状材料10が回転円板40に引き付けられる。回転円板40が回転すると、静電的に引付けられた粒子状材料10は、一対の熱源55に挟まれた加熱領域50まで運ばれる。回転円板40は、粒子状材料10の気化温度よりも低い温度に維持される。回転円板40は、熱伝導率が小さく、比熱が小さく、熱質量が小さな材料でできていることが好ましい。
【0013】
ここで図2を参照すると、本発明の別の一実施態様が示してある。装置5は容器15を備えており、その中には、気化させる少なくとも1つの成分を含む粒子状材料10が収容されている。撹拌用スクリュー75を容器15の中に配置し、粒子状材料10を流動化させることができる。さらに、1つ以上の振動性アクチュエータ80を(容器15によって形成されている)じょうご85の上に配置し、流動化した粒子状材料10が容器15からスクリュー収容部22へとよりスムーズに流れるようにすることができる。ここに、流動化した粒子状材料とは、流体のように流れることができる材料である。この実施態様では、この輸送装置に、第1の輸送メカニズムと第2の輸送メカニズムが含まれている。第1の輸送メカニズムはここでは回転可能なスクリュー20として実現されていて、スクリュー収容部22の中に配置されている。このスクリュー収容部22は、容器15から材料を受け取る位置に配置されている。スクリュー収容部22は、容器15から粒子状材料10を受け取るための開口部24を有する。回転可能なスクリュー20は粒子状材料10を供給路25に沿って供給領域30まで移動させる。モータ45によって回転可能なスクリュー20が回転すると、供給領域30において粒子状材料10が圧力を受ける。この圧力により、部材36に形成された1つ以上の開口部35を粒子状材料10が通過する。部材36はスクリュー収容部22の一部になっていてもよく、粒子状材料10を第2の輸送メカニズムと接触させる。第2の輸送メカニズムは、ここでは回転円板40として実現されている。粒子状材料10は回転円板40によって加熱領域50に運ばれ、そこで熱源55が、第2の輸送メカニズムによって運ばれてきた粒子状材料10を瞬間的に気化させる。
【0014】
回転円板40は、粒子状材料10の成分の有効気化温度よりも低い温度に維持され、回転円板40が回転すると、制御可能な量の粒子状材料10が制御可能な速度で回転可能なスクリュー20から熱を加える位置へと運ばれる。そしてその位置で、回転円板40の非常に限られた一部に存在する運ばれてきた粒子状材料10の一成分が急速に気化する。熱伝導率が小さく、比熱が小さく、熱質量が小さな回転円板40を選択すると熱が局所に集中して大きな熱勾配が発生するため、瞬間的な気化が可能になる。前の実施態様と同様、粒子状材料10は、熱伝導と対流の経路をなくすことによって熱源55から熱的に孤立している。あるいは輻射熱を阻止するシールドを配置するという選択肢もある。
【0015】
図3に、回転円板40の詳細図を示してある。この視点からは複数の凹部60が見える。それぞれの凹部60は、回転円板40が回転したとき、所定量の粒子状材料10を供給領域30から加熱領域50に運ぶ。ドクター・ブレード90を用い、回転円板40の表面にあるそれぞれの凹部60に粒子状材料10が繰り返して装填されるようにするとともに、回転円板40上の凹部60間の領域に付着する粒子状材料10を除去する。回転円板40の凹部60は、粒子状材料10を熱源55から運ぶことのできる唯一の方法ではない。回転円板40の表面は、グラビア・ロールと同様、所定量の粉末を保持できるようにすることが可能である。回転円板40は、可撓性のある材料、または堅固な多孔性材料で構成することができる。それは例えば電鋳材料、焼結材料、スクリーンであり、そのどれも、粒子状材料10を保持する設計の開口部または凹部を備えることができる。あるいは薄い回転円板40を非多孔性構造にし、その少なくとも1つの面にエンボス加工、切断作業、エッチングを行なって多数の空隙に粒子状材料10が捕獲・保持されるようにする。静電引力を利用すると、押し出された粒子状材料10が削られるときの粒子状材料10をほぼすべて回転円板40に有効に付着させることができる。回転円板40をスクリーンで覆うと複数の凹部を提供できるため、供給領域30においてその凹部に粒子状材料10を受け取り、加熱領域50まで運ぶことができる。凹部60は実質的にどれも同じサイズに描いてあるが、異なるサイズの凹部にすることが望ましい場合もある。輸送メカニズムは一段で構成されていても複数段で構成されていてもよく、粒子状材料の輸送の分野で知られている多数の形態のうちの任意の形態にすることができる。
【0016】
図4に、本発明の別の実施態様の断面図が示してある。この実施態様では、ベルト65として実現された並進移動メカニズムが供給路25のスクリューに置き換わっている。供給路25の端部にある供給領域30では、粒子状材料10が重力によってベルト65から水平に配置された回転円板40に供給される。回転円板40は、供給領域30からの粒子状材料10を加熱領域50に取り込み、その領域で瞬間的に気化させる。ベルト65は、粒子状材料10を受け入れる個別の凹部を備えること、または滑らかなベルトにすること、または図3に関して説明した任意の粉末保持メカニズムを備えることができる。
【0017】
図5には、2つの容器95を備えた本発明の別の実施態様が示してある。それぞれの容器95には、同じ粒子状材料10が収容されていても、異なる粒子状材料10が収容されていてもよい。回転円板40は凹部60を備えている。この図では凹部60のサイズが異なっているため、図2と同様のスクリュー収容部の中に配置された別々のスクリューから、制御された異なる量の粒子状材料10を供給することが可能である。
【0018】
図6には、一段の輸送メカニズムを利用した本発明の別の実施態様が示してある。装置5は、流動化した粒子状材料10が収容された容器15を備えている。ベルト65の形態にされた並進移動メカニズムが容器15から粒子状材料10を受け取る。粒子状材料10はベルトの上に落ちて凹部60に入る。ドクター・ブレード90により、それぞれの凹部60に一定量の粒子状材料10が入ることと、過剰量の粒子状材料10がベルト65の表面と凹部の周囲および凹部間から除去されることが保証される。この特別な実施態様では、熱源55は、ベルト65のための支持ローラーの1つの形態を取る。ヒート・シンク100がアイドラー・ローラーとして配置されていて、熱源55と、流動化した粒子状材料10が収容された容器15との間を断熱している。
【0019】
粒子状材料10には、単一の成分が含まれていても、気化温度の異なる2種類以上の気化可能な成分(例えば有機材料成分)が含まれていてもよい。
【0020】
本発明を、特にいくつかの好ましい実施態様、すなわち粒子状有機材料を気化領域に供給する実施態様を参照して詳細に説明してきた。しかし本発明はより広く粒子状材料(その中には有機粒子状材料と他のタイプの粒子状材料が含まれる)に適用されることが理解できよう。“粒子状材料”という用語には、粒子の形態になった広範囲の物質が含まれる。例えば、結晶、ナノチューブ、粉末、ニードル、フレークや、不連続な材料に分類できる他の固体材料などが挙げられる。さらに、粒子状材料は、目的とする成分の担体として機能するある量の不活性な材料を含む混合物として提供することもできる。不活性な担体としては、他のタイプの固体材料のほか、ペースト、液体(特に粘性率がより大きな液体材料)などが挙げられよう。選択したどの不活性な材料も、気化プロセスと整合性がなければならない。そのため不活性な担体は、目的とする粒子状材料成分の気化前または気化中に適切に廃棄される。例えば不活性な担体は、望む粒子状材料成分よりも気化温度がはるかに高い材料の中から選択することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第1の実施態様の図である。
【図2】本発明の第2の実施態様の内部が見えるようにした図である。
【図3】図2に示した実施態様の一部を異なる方向から見た詳細図である。
【図4】本発明の別の実施態様の断面図である。
【図5】図2に示した実施態様の変形例の詳細図である。
【図6】本発明の別の実施態様を示している。
【符号の説明】
【0022】
5 装置
10 粒子状材料
15 容器
20 回転可能なスクリュー
22 スクリュー収容部
24 スクリュー収容部の開口部
25 供給路
30 供給領域
35 開口部
36 部材
40 回転円板
45 モータ
50 気化領域
55 熱源
60 凹部
65 ベルト
75 撹拌用スクリュー
80 振動性アクチュエータ
85 じょうご
90 ドクター・ブレード
95 容器
100 ヒート・シンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子状材料を気化させる方法であって、
(a)1つ以上の容器を用意し、それぞれの容器には少なくとも1種類の成分を含むできれば異なる粒子状材料を収容するステップと;
(b)少なくとも1つの容器の中で上記粒子状材料を流動化するステップと;
(c)少なくとも1つの容器からは断熱されている気化領域を用意するステップと;
(d)それぞれの容器からの粒子状材料をその気化領域に供給するステップと;
(e)供給された粒子状材料にその気化領域で熱を加えて気化させるステップを含む方法。
【請求項2】
上記供給ステップに、第1段と第2段に分かれた輸送手段を設ける、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
上記第1段の輸送手段に、スクリュー・メカニズムまたは並進移動部材が含まれる、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
上記第2段の輸送手段に、回転円板または並進移動部材が含まれる、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
上記供給ステップが一段であり、その供給ステップに回転円板または並進移動部材が含まれる、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
複数のセルを設けるステップをさらに含んでおり、それぞれのセルに所定量の粒子状材料を収容する、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
上記セルが、第1の所定量の粒子状材料を収容する少なくとも1つの第1のサイズと、第2の所定量の粒子状材料を収容する少なくとも1つの第2のサイズを持つ、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
粒子状材料を収容した第1の容器から第1のサイズのセルに入る粒子状材料を供給し、粒子状材料を収容した第2の容器から第2のサイズのセルに入る粒子状材料を供給し、第1の容器の粒子状材料は、第2の容器の粒子状材料とは異なっている、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
開口部を有するスクリーンを用意するステップをさらに含んでおり、その開口部が、粒子状材料を捕獲するサイズにされている、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
上記セルと、そのセル間の領域とから過剰な粒子状材料を除去するステップをさらに含む、請求項6に記載の方法。
【請求項11】
上記供給ステップに、移動可能な部材を設けて上記容器からその移動可能な部材へと粒子状材料を静電的に移動させるステップがさらに含まれる、請求項1に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2008−530734(P2008−530734A)
【公表日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−554148(P2007−554148)
【出願日】平成18年1月30日(2006.1.30)
【国際出願番号】PCT/US2006/003042
【国際公開番号】WO2006/083735
【国際公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【出願人】(590000846)イーストマン コダック カンパニー (1,594)
【Fターム(参考)】