説明

加熱体保護管

【課題】 溶湯に浸漬していない保護管の上部では、保護管表面から空気中への放熱や、炉に設けられた保護管を固定するための被固定部材への放熱を抑えることができる。また、溶湯に浸漬される保護管の下部では、加熱エネルギーを高出力できる加熱体の熱効率に優れる加熱体保護管を提供する。
【解決手段】 炉内の溶湯に浸漬させて溶湯を加熱する加熱体の保護管が、溶湯に浸漬され閉塞した底部を有する下部管体と、下部管体の上部に配置され中空管状の上部管体とを焼結により接合してなり、下部管体および上部管体はセラミックスから形成され、下部管体の熱伝導率が上部管体の熱伝導率より大きいことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱炉や溶解炉内のアルミニウムなどの溶湯に浸漬させて、溶湯を加熱する加熱体の保護管に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウムなど非鉄金属の加熱炉や溶解炉には、材料を溶融させるために、中空管体の内部に電気ヒータやガスバーナーなどの加熱体を備えた加熱体保護管が用いられている。その中、耐溶損性等に優れている窒化ケイ素、サイアロン、炭化珪素、窒化硼素などのセラミックス焼結体からなる加熱体保護管が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、セラミック系耐火材より成る有底中空状管体の内部に熱源が配されて成り、管体の上端を加熱炉頂壁に固定し、加熱炉中に保持された非鉄合金溶湯内に浸漬して鉛直に保持される浸漬管ヒータにおいて、管体の軸方向の中間部の、加熱炉中の操業中に変動する溶湯面に接する範囲を含む部分を、気孔率の小さい緻密質セラミックスにしてかつ、溶湯の所定の設定温度以上の高温の溶湯により還元される酸化物に変る物質の含有量が低いセラミックスで形成し、その他の部分を気孔率の大きいセラミックスで形成し、これらを一体に接続した浸漬管ヒータが記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、窒化ケイ素を主成分する窒化ケイ素質焼結体からなる溶湯用加熱体保護管であって、窒化ケイ素質焼結体の常温における熱伝導率が70W/(m・K)以上であり、窒化ケイ素質焼結体の常温における4点曲げ強度が600MPa以上である加熱体保護管が記載されている。
【0005】
【特許文献1】特開平7−43075号公報
【特許文献2】特開2002−249381号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の加熱体保護管のうち、反応焼結法により製造された窒化ケイ素焼結体からなるものは、反応焼結時の収縮が殆どなく寸法精度が高く得られるという利点がある。しかしながら、ケイ素を完全に窒化して得た製品でも、約20%の気孔率をもつ比較的低密度の焼結体であるため、曲げ強度が300MPa程度しかなく、使用中の機械的応力および衝撃に耐えるには不十分である。また、低密度なので焼結体の表面が粗く、溶湯が付着しやすい欠点がある。
【0007】
特許文献1は、管体を炉内の溶湯面に接する中間部のみを設定温度以上の高温の溶湯により変質、破壊しないような材料で作り寿命を向上できる。これは、緻密質セラミックスで形成される中間部と、その上下の従来の材質の原管体とは、耐火性接着剤で接着される。しかしながら、この中間部は溶湯が最も揺動する位置にあるため、常に負荷がかかり耐火性接着剤による接着では接合強度が不十分である。また、保護管を長期間使用中に中間部の接着部分が傷み溶湯が保護管内部に浸入し、管体の破損に至りやすい。
【0008】
特許文献2は、加熱体保護管を形成する窒化ケイ素を主成分する窒化ケイ素質焼結体の熱伝導率が高いため、保護管内部に設けた加熱体が発生する熱を迅速にかつ効率よく保護管の表面を経て溶湯へ伝達させることができ、加熱エネルギーの高出力化が可能となる。しかしながら、保護管全体の熱伝導率が高いため、溶湯に浸漬していない保護管の上部表面から空気中へ熱が逃げやすい。また保護管の上部から、炉に設けられた保護管を固定するための被固定部材を経由して熱が伝わり逃げやすく、結果的に加熱体の熱効率の低下を招く問題があった。
【0009】
したがって、本発明の目的は、セラミックス焼結体からなる加熱体保護管において、溶湯に浸漬していない保護管の上部では、保護管表面から空気中への放熱や、炉に設けられた保護管を固定するための被固定部材への放熱を抑えることができる。また、溶湯に浸漬される保護管の下部では、加熱エネルギーを高出力できる加熱体の熱効率に優れる加熱体保護管を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の加熱体保護管は、炉内の溶湯に浸漬させて溶湯を加熱する加熱体の保護管が、溶湯に浸漬され閉塞した底部を有する下部管体と、下部管体の上部に配置され中空管状の上部管体とを焼結により接合してなり、下部管体および上部管体はセラミックスから形成され、下部管体の熱伝導率が上部管体の熱伝導率より大きいことを特徴とする。
【0011】
本発明の第2の加熱体保護管は、炉内の溶湯に浸漬させて溶湯を加熱する加熱体の保護管が、溶湯に浸漬され閉塞した底部を有する下部管体と、下部管体の上部に配置され中空管状の上部管体と、下部管体と上部管体との間に介在され両者の中間の熱膨張係数を有するセラミックスで形成した中間層とを焼結により接合してなり、下部管体および上部管体はセラミックスから形成され、下部管体の熱伝導率が上部管体の熱伝導率より大きいことを特徴とする。
【0012】
前記本発明において、下部管体の常温における熱伝導率が50W/(m・K)以上であり、上部管体の常温における熱伝導率が20W/(m・K)以下であることが好ましい。
【0013】
下部管体が窒化ケイ素から形成され、上部管体がサイアロンから形成されることが好ましい。
【0014】
上部管体の熱伝導率が、炉に設けられた上部管体を固定するための被固定部材の熱伝導率より小さいことが好ましい。
【0015】
下部管体と上部管体の両者の熱膨張係数差が2.0×10-6/K以下であることが望ましい。
【0016】
下部管体の最上端位置が加熱される溶湯の湯面より下方にあることが望ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明の加熱体保護管は、下部管体と上部管体を焼結一体化した2層構造であり、下部管体として熱伝導率が大きいセラミックスを配置し、上部管体として下部管体より熱伝導率が小さいセラミックスを配置する。この構成により、溶湯に浸漬された下部管体は加熱体から発生する熱を下部管体の表面を経て高出力に溶湯に伝導でき溶湯を所定の温度に維持する。
【0018】
この下部管体の作用に加え、下部管体の上部に熱伝導率が小さい上部管体が配置されているため、下部管体中の加熱体から発生する熱が下部管体から上部管体へ伝わるのを抑制し、溶湯に浸漬される下部管体における加熱エネルギーをロスが少なく安定して大きく出力できる。
【0019】
通常、加熱体保護管の上端部にはフランジ部を設ける。また、溶湯を容れた炉は加熱体保護管を取り付けるための金型等の被固定部材を備える。加熱体保護管はそのフランジ部を被固定部材にボルト等で固定して鉛直方向に吊下固定される。フランジ部と被固定部材は接触するため、加熱体から発生する熱は、保護管上端部のフランジ部およびその周辺部から前記被固定部材へ移動しやすい。
【0020】
本発明の場合、上部管体は熱伝導率が小さいため、上部管体の上端部のフランジ部およびその周辺部から炉側の被固定部材への放熱は少なくなり加熱体から発生する熱の損失を減らせる。また、上部管体の溶湯に浸漬していない部分の表面から炉内の空気中へ逃げる熱量を抑え、加熱体から発生する熱の損失を減らせる。以上のような下部管体および上部管体の効果が重畳されて加熱体の熱効率が向上し得る。
【0021】
また、下部管体と上部管体とを焼結により一体接合するため、高い接合強度を確保できる。焼結による強固な接合部なので接合部から溶湯が保護管体内部に浸入せず、保護管体の破損を防止できる。
【0022】
本発明の第2の加熱体保護管は、下部管体と中間層と上部管体を焼結一体化した3層構造である。中間層は下部管体と上部管体との間に介在され両者の中間の熱膨張係数を有するセラミックスで形成される。中間層はいわゆる傾斜機能材料であり、下部管体と上部管体の両者の熱膨張係数差が比較的大きい場合、十分な接合強度を確保するのに用いる。中間層は熱膨張係数を調整しやすい、材質の異なる2種以上のセラミックスを混合した混合物が望ましい。また、中間層は熱膨張係数を徐々に傾斜させるために2層以上介在させても構わない。
【0023】
本発明の効果を十分に得るためには、下部管体と上部管体とは熱伝導率差が適当にあるのが望ましい。本発明の望ましい熱伝導率の組合せは、下部管体は常温における熱伝導率が50W/(m・K)以上であり、上部管体は常温における熱伝導率が20W/(m・K)以下である。
【0024】
下部管体および上部管体においては、下部管体の熱伝導率が上部管体のそれより大きいという条件を満足すれば各種のセラミックスの組合せが有効である。なかでも下部管体は耐溶損性および耐熱衝撃性に優れる窒化ケイ素で形成し、上部管体は耐溶損性および耐熱性に優れるサイアロンで形成する組合せが望ましい。
【0025】
上部管体の熱伝導率が、炉に設けられた上部管体を固定するための被固定部材の熱伝導率より小さい場合、保温性が高まり、上部管体の上端部のフランジ部およびその周辺部から炉側の被固定部材への放熱は少なくなり加熱体から発生する熱の損失を減らせるので好ましい。
【0026】
下部管体と上部管体の高い接合強度を得るには、両者の熱膨張係数差が2.0×10-6/K以下であることが望ましい。より望ましくは1.0×10-6/K以下である。
【0027】
熱伝度率が高い下部管体は、できる限り加熱エネルギーを溶湯に供給できるように、また炉内の空気中や被固定部材への加熱エネルギーの放出を少なくするために、下部管体全体を加熱される溶湯の湯面より下方に位置させるのが望ましい。言い換えれば、下部管体の最上端位置が加熱される溶湯の湯面より下方にあることが望ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
図1は本発明実施例の加熱体保護管の概略断面図である。図1において、加熱体保護管は鉛直軸方向に分かれ、ほぼ同一の外径および内径をもつ下部管体1と上部管体2を焼結一体化した。
【0029】
下部管体1はその内部にヒータなどの加熱体3が挿入されて収まる中空部11を有し、その下端は閉塞した底部12を有する。下部管体1の最上端位置13は上部管体2の下端面と接合される。
【0030】
下部管体1は窒化ケイ素を主成分とする焼結体で形成した。窒化ケイ素を主成分とする焼結体は、室温で熱膨張係数が3.0×10-6/K、相対密度が99.6%、常温における熱伝導率が51W/(m・K)、常温における4点曲げ強度が900MPaである。
【0031】
上部管体2はヒータなどの加熱体3が挿入されて収まる中空部21を有し、上端部にフランジ部22を設けた。上部管体2のフランジ部22は炉に設けた被固定部材4にボルトなどで取付け固定される。
【0032】
上部管体2はサイアロン焼結体で形成した。サイアロン焼結体は、室温で熱膨張係数が3.0×10-6/K、相対密度が99.6%、常温における熱伝導率が17W/(m・K)、常温における4点曲げ強度が880MPaである。
【0033】
下部管体1と上部管体2を焼結で接合した加熱体保護管の中空部11および21に電気ヒータなどの加熱体3を入れる。そして、アルミニウムなどの溶湯5の中に加熱体保護管を浸漬した。下部管体1の最上端位置13が加熱される溶湯5の湯面51より下方になるように浸漬した。そして、加熱体3を発熱させることによりその熱を加熱体保護管の表面を経て溶湯5へ伝え、溶湯を所定の温度に維持する。
【0034】
矢印Qaは溶湯へ供給される加熱エネルギー、矢印Qbは上部管体2の溶湯に浸漬していない部分の表面から炉内の空気中へ出る熱エネルギー、矢印Qcは上部管体2のフランジ部22およびその周辺部から炉に設けた被固定部材22へ出る熱エネルギー、矢印の大きさは出力の大きさを表わす。本発明の構成により、Qaが大きく、QbおよびQcの損失が小さいことを表わした。
【0035】
次に加熱体保護管の製造方法について説明する。内径60mmのゴム型の中に外径40mmの芯金を配置し、ゴム型と芯金との間で形成された空隙の下層部に下部管体となる前記窒化ケイ素の原料粉末を充填し、次いで上層部に上部管体となる前記サイアロンの原料粉末を充填し、静水圧により冷間静水圧プレス(CIP)を行い、加熱体保護管となる管状の成形体を作製した。この成形体を1800℃、9気圧の窒素ガス雰囲気中で10時間焼成し、本発明の下部管体と上部管体を焼結で接合した加熱体保護管を得た。下部管体と上部管体の境界強度は600MPaであった。
【0036】
図2は本発明第2実施例の加熱体保護管の概略断面図である。図2は、図1の実施例と同様の構成であるが、下部管体1と上部管体2との間に両者の中間の熱膨張係数を有するセラミックスで形成した中間層6が焼結により接合されている点が特徴である。中間層6は窒化ケイ素に別種のセラミックスを混合した混合物である。
【0037】
本発明の加熱体保護管を680℃のアルミニウム溶湯に浸漬し溶湯加熱に供したところ、アルミニウム溶湯による侵食は殆どみられず、使用中の衝撃荷重や熱衝撃による破損、き裂を生じなかった。また、従来の単体構造の窒化ケイ素製加熱体保護管に比べ、溶湯に浸漬していない保護管の上部では、保護管表面から空気中への放熱や、炉に設けられた保護管を固定するための被固定部材への放熱を抑えることができる。また、溶湯に浸漬される保護管の下部では、加熱エネルギーを高出力でき、加熱体の熱効率に優れることを確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明の加熱体保護管によれば、加熱体の熱効率に優れて加熱エネルギーのロスを抑え省エネルギーに寄与できる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明実施例の加熱体保護管の概略断面図である。
【図2】本発明第2実施例の加熱体保護管の概略断面図である。
【符号の説明】
【0040】
1 下部管体、 2 上部管体、 3 加熱体、 4 被固定部材、 5 溶湯、 6 中間層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炉内の溶湯に浸漬させて溶湯を加熱する加熱体の保護管が、溶湯に浸漬され閉塞した底部を有する下部管体と、下部管体の上部に配置され中空管状の上部管体とを焼結により接合してなり、下部管体および上部管体はセラミックスから形成され、下部管体の熱伝導率が上部管体の熱伝導率より大きいことを特徴とする加熱体保護管。
【請求項2】
炉内の溶湯に浸漬させて溶湯を加熱する加熱体の保護管が、溶湯に浸漬され閉塞した底部を有する下部管体と、下部管体の上部に配置され中空管状の上部管体と、下部管体と上部管体との間に介在され両者の中間の熱膨張係数を有するセラミックスで形成した中間層とを焼結により接合してなり、下部管体および上部管体はセラミックスから形成され、下部管体の熱伝導率が上部管体の熱伝導率より大きいことを特徴とする加熱体保護管。
【請求項3】
前記下部管体の常温における熱伝導率が50W/(m・K)以上であり、上部管体の常温における熱伝導率が20W/(m・K)以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の加熱体保護管。
【請求項4】
前記下部管体が窒化ケイ素から形成され、上部管体がサイアロンから形成されることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の加熱体保護管。
【請求項5】
前記上部管体の熱伝導率が、炉に設けられた上部管体を固定するための被固定部材の熱伝導率より小さいことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の加熱体保護管。
【請求項6】
前記下部管体と上部管体の両者の熱膨張係数差が2.0×10-6/K以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の加熱体保護管。
【請求項7】
前記下部管体の最上端位置が加熱される溶湯の湯面より下方にあることを特徴とする請求項1または2に記載の加熱体保護管。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−309412(P2008−309412A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−158434(P2007−158434)
【出願日】平成19年6月15日(2007.6.15)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【Fターム(参考)】