説明

加熱炉のスキッドパイプ冷却方法およびそれを用いた金属板の製造方法

【課題】加熱炉内の冷却水の温度の高さからくる、ランゲリア指数の調整不良を防止し、スキッドパイプの閉塞を確実に防止できる、加熱炉のスキッドパイプ冷却方法およびそれを用いた金属板の製造方法を提供する。
【解決手段】加熱炉10の固定スキッド103,移動スキッド104のスキッドパイプに熱電対105を埋め込み、スキッドパイプ内の冷却水の温度を測定する(203)。また、測定した冷却水の温度と、給水位置222での冷却水の温度との差から、重炭酸イオンの平衡移動による、Mアルカリ度とpHの補正値を演算する(204)。このようにして求めた温度、Mアルカリ度、pHの補正値から、スキッドパイプ内の冷却水のランゲリア指数を演算し(201)、アルカリ剤投入量を演算する(219)。その結果に基づいて、投入装置214からアルカリ剤を投入する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属片を加熱する加熱炉のスキッドパイプ冷却方法に関し、特にウォーキングビーム式連続加熱炉のスキッドパイプが閉塞してしまうのを防止する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一例として、図2に示すような帯鋼の熱間圧延ライン100の加熱炉10の場合を例にとる。
【0003】
熱間圧延とは、一般的に、連続鋳造または造塊、分塊によって製造されたスラブ状の金属材料を加熱炉にて数百〜千数百℃に加熱した後、熱間圧延ライン上に抽出し、一対または複数対のロールで挟圧しつつそのロールを回転させることで、薄く延ばし、コイル状に巻き取る一連のプロセスである。
【0004】
加熱炉10により数百〜千数百℃に加熱された厚み150〜300mmの金属材料(以下、被圧延材)8は、粗圧延機12、仕上圧延機18により厚み0.8〜25mmまで圧延されて金属板(金属帯)状に薄く延ばされ、冷却関連設備26により冷却されたのち、コイラー24によりコイル状に巻き取られる。
【0005】
7はテーブルロール、23はランナウトテーブル、14はクロップシャー、16はデスケーリング装置である。このほか、被圧延材8の温度、寸法(厚さ、幅)、形状などを測定する各種センサが、熱間圧延ライン100の随所に設置されている。
【0006】
50は制御装置、70はプロセスコンピュータ、90はビジネスコンピュータである。
【0007】
加熱炉10の一例として、図3に示すようなウォーキングビーム式連続加熱炉の場合を例にとって説明する。
【0008】
101はバーナ、102は炉壁であり、103が固定スキッド、104が移動スキッドである。
【0009】
加熱炉10内の温度は多くの場合1100℃以上、被圧延材8の材質によっては1300℃にも達する場合があるため、加熱炉10内で鋼片を下から支える固定スキッド103,移動スキッド104は、内部が水冷される。
【0010】
この水冷のための冷却水の通る経路がスキッドパイプであるが、スキッドパイプは、循環式の冷却水によって内部が冷却される。
【0011】
このような条件でスキッドパイプの内部が水冷されると、冷却水中の溶存酸素とスキッドパイプ内面の鉄との間で酸化反応が起こり、継時的に腐食が進行する。
【0012】
特に、循環式の冷却水を循環させる系の様式が開放循環系の場合、大気中の酸素が吸収されるため、前述の酸化反応とそれに伴う腐食は一層促進される。
【0013】
また、循環式の冷却水の場合、放冷による水分の蒸発に伴って、冷却水中の塩素イオンや硫酸イオンなどの物質が濃縮されやすく、その分、腐食が助長されやすい。
【0014】
腐食によって生じた酸化生成物は、冷却水を循環させる系のいたるところに堆積したり、層状になったりするが、放置しておくと、先述のスキッドパイプの場合は特に顕著であるが、冷却水の通る経路の閉塞と、それに伴う伝熱障害を引き起こし、重大な設備トラブルにつながる場合がある。
【0015】
一方、冷却水中のカルシウム硬度やpHが高い場合、冷却水の温度が上昇すると、冷却水中の炭酸イオンとカルシウムイオンが飽和して、炭酸カルシウムとして冷却水の通る経路および経路上にある各機器の表面に析出する。
【0016】
炭酸カルシウムが過剰に析出すると、腐食によって生じた酸化生成物と同様に、冷却水の通る経路の閉塞と、それに伴う伝熱障害を引き起こし、重大な設備トラブルにつながる場合がある。
【0017】
上記のような、冷却水の水質に起因した、冷却水の通る経路および経路上にある各機器の腐食や閉塞の問題に対し、冷却水の腐食性、炭酸カルシウム析出性をあらわす指標である、ランゲリア指数を用いて、水質管理を行う方法がある。
【0018】
すなわち、ランゲリア指数を適切な値の範囲に入るよう調整する目的で、アルカリ剤などの薬剤を冷却水中に投入することにより、腐食性の低い、あるいは炭酸カルシウム析出性の低い水質に改善し、これを冷却水として使用する方法である。
【0019】
ランゲリア指数を腐食性の指標とした方法として、冷却水に対し、アルカリ剤に代表されるpH調整剤を投入する方法がある。
【0020】
特許文献1に記載の方法は、各種用水または排水の管路の腐食防止のために、水の腐食性を低下させようとするものであり、ランゲリア指数が小さく、腐食性の高い水にカルシウム塩及びアルカリ剤の片方あるいは両方を注入して、用水の腐食性を低下させる方法である。
【0021】
また、特許文献2に記載の方法は、淡水の腐食性を低下させる方法として、pHを7以下にした上で、塩化カルシウムおよび炭酸水素ナトリウムを注入することで、pHとランゲリア指数を調整し、腐食性を低下させる方法である。
【0022】
これらの方法はいずれも、冷却水の腐食性をランゲリア指数によって数値化し、アルカリ剤投入を行うことで水質を改善しようとするものである。
【0023】
特許文献3に記載の方法は、図4に示すように、砂濾過池212の後や浄水池215など大気に開放された、これから供給しようとする水のある位置(給水位置)で、水のpH,温度,濁度,色度,導電率を測定し、Mアルカリ度,カルシウム硬度を推定するとともに、ランゲリア指数を求めようとするものである。
【0024】
従来の加熱炉のスキッドパイプ冷却方法も特許文献3のものと考え方は大体同じである。
【0025】
図5に示すごとく、沈殿池(特許文献3では砂濾過池)212にて不純物を除去された冷却水は、特許文献3にはない冷却塔220にて温度を低下させられた後、特許文献3にはない高架水槽221にくみ上げられ、加熱炉10のスキッド104,105に向け供給されるが、給水位置222でpH,温度,Mアルカリ度が測定され(特許文献3では水質計器202による)、それを基にランゲリア指数を求め(特許文献3ではL1測定,演算装置201による)、求めたランゲリア指数を基にアルカリ剤投入量を演算し(特許文献3ではpH制御装置219による)、投入装置(特許文献3では後アルカリ注入)214から冷却水中にアルカリ剤を投入する点で、特許文献3のものと共通する。。
【特許文献1】特開平06−287777号公報
【特許文献2】特開2004−034001号公報
【特許文献3】特許第3385767号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0026】
しかしながら、加熱炉内のような1300℃もの高温に達する環境下では、冷却水の温度も相当に上昇するため、温度で決定される炭酸化学種の第一解離定数および第二解離定数が変化し、化学平衡が重炭酸イオン濃度減小および炭酸イオン濃度上昇の方向に移動するとともに、水素イオン濃度が上昇し、pHが低下する。
【0027】
一方、温度上昇によって、炭酸イオンとカルシウムイオンの溶解度積は低下する。
【0028】
このような変化により、総合的には、高温になるほど炭酸カルシウムの許容飽和度は低下し、炭酸カルシウムが析出しやすい。
【0029】
それゆえ、従来のように、給水位置での冷却水の温度測定結果を基に、ランゲリア指数を求め、さらにそれを基にアルカリ剤を投入してその調整を行うと、加熱炉スキッドパイプの内部ではもっと冷却水の温度が上昇し、炭酸カルシウムが析出しやすいため、スキッドパイプの閉塞が生じやすい、という問題がある。
【0030】
本発明は、従来技術のかような問題を解決するべくなされたものであり、加熱炉内の冷却水の温度の高さからくる、ランゲリア指数の調整不良を防止し、スキッドパイプの閉塞を確実に防止できる、加熱炉のスキッドパイプ冷却方法およびそれを用いた金属板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0031】
すなわち、本発明は、加熱炉のスキッドパイプ内の冷却水の温度を測定して、該温度測定結果に基づいて前記冷却水のMアルカリ度とpHを演算し、該Mアルカリ度と該pHの演算結果を用いてスキッドパイプ内のランゲリア指数を演算し、該ランゲリア指数の演算結果に基づいてアルカリ剤投入量を決定する。
【0032】
好適な形態としては、加熱炉のスキッドパイプに熱電対を埋め込み、スキッドパイプ内の冷却水の温度を測定して、給水位置で測定した冷却水の温度との差から、重炭酸イオンの平衡移動による、Mアルカリ度の補正値、pHの補正値を演算し、前記スキッドパイプ内の冷却水の温度、前記Mアルカリ度の補正値、前記pHの補正値から、前記スキッドパイプ内の冷却水のランゲリア指数を演算し、該ランゲリア指数に基づいてアルカリ剤投入量を演算し、該アルカリ剤投入量の演算結果に基づいて、投入装置からアルカリ剤を投入する。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、加熱炉内の冷却水の温度の高さからくる、ランゲリア指数の調整不良を防止し、スキッドパイプの閉塞を確実に防止できる、加熱炉のスキッドパイプ冷却方法およびそれを用いた金属板の製造方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
発明者らは、加熱炉のスキッドパイプ内の冷却水の温度を測定して、該温度測定結果に基づいて前記冷却水のMアルカリ度とpHを演算し、該Mアルカリ度と該pHの演算結果を用いてスキッドパイプ内のランゲリア指数を演算し、該ランゲリア指数の演算結果に基づいてアルカリ剤投入量を決定することで、炭酸カルシウムの析出と、それによるスキッドパイプの閉塞を防止できることを見出した。
【0035】
図1に、本発明の実施の形態の一例を示す。
【0036】
スキッドパイプ内に熱電対105を埋め込み、スキッドパイプ内の冷却水の温度を測定するユニット(203)を新たに設置する。
【0037】
また、測定した冷却水の温度と、給水位置での冷却水の温度との差から、重炭酸イオンの平衡移動による、Mアルカリ度とpHの補正値を演算する(204)。
【0038】
このようにして求めた温度、Mアルカリ度、pHの補正後の値から、スキッドパイプ内の冷却水のランゲリア指数を演算し(201)、該ランゲリア指数に基づいてアルカリ剤投入量を演算する(219)。
【0039】
その結果に基づいて、投入装置214からアルカリ剤を投入する。
【0040】
熱電対105には、耐熱性と防水性を兼ね備えたものを使用する。熱電対105は、スキッドパイプ内面に沿って配線するが、配線は、十分に断熱、防水することが必要である。熱電対105は、信頼性を確保したい観点から、3箇所以上に取り付け、それらの平均電圧を以て温度に換算するのが好ましい。
【0041】
また、スキッドパイプの外部には断熱材を配するものの、断熱材の効果は定量的に把握することは困難であり、しかも、断熱材が部分的に脱落したり、減肉したりする場合もある。
【0042】
しかるに、本発明のように、スキッドパイプ内の冷却水の温度測定結果を基に、ランゲリア指数を求め、さらにそれを基にアルカリ剤を投入してその調整を行えば、ランゲリア指数の調整不良を解消し、スキッドパイプの閉塞を確実に防止できる。
【0043】
給水位置222での冷却水の温度と、スキッドパイプ内の冷却水の温度との差による、Mアルカリ度と、pHの各補正値を演算し、出力するユニット(204)も新たに設置する。
【0044】
さらに、給水位置222での冷却水の温度は、従来と同様に測定されるが、スキッドパイプ内の冷却水の温度との差を演算し、出力するためのユニット(205)も新たに設置する。
【0045】
演算は、別途あらかじめ実験によって得たデータに基づいて作成した、テーブルを参照することによって行われ、演算された、Mアルカリ度と、pHの各補正値を出力する。
【0046】
給水位置222でのMアルカリ度とpHとは、従来と同様に測定されるが、これらの値に、上記演算された補正値を反映し、スキッドパイプ内の冷却水のMアルカリ度とpHとして出力する。
【0047】
以上のように演算され、出力されたスキッドパイプ内のMアルカリ度、pH、温度を入力として、スキッドパイプ内の冷却水のランゲリア指数を演算する(201)。演算はノーデル法によるランゲリア指数簡易演算法による。
【0048】
ノーデル法とはランゲリア指数を簡便に計算するために一般的に用いられるもので、
ランゲリア指数=水のpH値−pHs値
=水のpH値−{(9.3+A値+B値)−(C値+D値)}
・・・ 式(1)
で与えられる式(1)により、ランゲリア指数を計算できる。
【0049】
ここに、A値〜D値は、試液である水を蒸発させたところに残る蒸発残留物の量、水温、カルシウム硬度、Mアルカリ度の実測値を基に、別表1,2,3,4の対応関係より求まる値である。
【0050】
【表1】

【0051】
【表2】

【0052】
【表3】

【0053】
【表4】

【0054】
求められたランゲリア指数から、アルカリ剤の投入量を演算する(219)。演算は、別途あらかじめ実験によって得たデータに基づいて作成した、テーブルを参照することによって行う。
【0055】
これらの測定および演算は、アルカリ剤の投入量を決定するために行われるが、各測定値および演算結果は、保守性を確保するために、コンピュータの端末などで常時モニタリングできるようにしておくことが望ましい。
【実施例】
【0056】
表5に示すごとく、本発明を1年間、帯鋼の熱間圧延ライン100の操業に適用すると(本発明例)、ランゲリア指数の調整を全く行わない場合(水質調整なし)や、特許文献3のような方法をそのまま加熱炉のスキッドパイプ冷却に適用した場合(従来例)と比べ、ランゲリア指数の調整不良を防止でき、スキッドパイプの閉塞を確実に防止できることがわかる。
【0057】
【表5】

【0058】
アルカリ剤は、水酸化ナトリウムや水酸化カルシウムなどでよいが、ここでは、水酸化ナトリウムを用いている。
【0059】
なお、本発明は、帯鋼の熱間圧延ライン100のみならず、同じように加熱炉を備えた厚板の圧延ラインのほか、鋼以外の各種の金属板の製造ラインの加熱炉に適用可能であることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の実施の形態の一例について説明するための線図
【図2】熱間圧延ラインの一例を説明するための線図
【図3】加熱炉の一例を説明するための線図
【図4】従来技術について説明するための線図
【図5】従来技術について説明するための線図
【符号の説明】
【0061】
7 テーブルロール
8 被圧延材
9 幅プレス
10 加熱炉
12 粗圧延機
135 エッジャーロール
14 クロップシャー
15 仕上入側温度計
16 デスケーリング装置
18 仕上圧延機
19 ワークロール
19A バックアップロール
20 ルーパ
21 仕上出側温度計
22 仕上出側板厚計
23 ランナウトテーブル
24 コイラー
25 コイラー入側温度計
50 制御装置
70 プロセスコンピュータ
90 ビジネスコンピュータ
100 熱間圧延ライン
101 バーナ
102 炉壁
103 固定スキッド
104 移動スキッド
105 熱電対
201 L1測定,演算装置
202 水質計器
203 スキッドパイプ内冷却水温度測定ユニット
204 補正値演算ユニット
205 演算ユニット
211 沈殿水
212 沈殿池(砂濾過池)
213 濾過水
214 後アルカリ注入
215 浄水池
216 浄水
217 配水池
219 pH制御装置
220 冷却塔
221 高架水槽
222 給水位置
A 搬送方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱炉のスキッドパイプ内の冷却水の温度を測定して、該温度測定結果に基づいて前記冷却水のMアルカリ度とpHを演算し、該Mアルカリ度と該pHの演算結果を用いてスキッドパイプ内のランゲリア指数を演算し、該ランゲリア指数の演算結果に基づいてアルカリ剤投入量を決定することを特徴とする加熱炉のスキッドパイプ冷却方法。
【請求項2】
加熱炉のスキッドパイプに熱電対を埋め込み、スキッドパイプ内の冷却水の温度を測定して、給水位置で測定した冷却水の温度との差から、重炭酸イオンの平衡移動による、Mアルカリ度の補正値、pHの補正値を演算し、前記スキッドパイプ内の冷却水の温度、前記Mアルカリ度の補正値、前記pHの補正値から、前記スキッドパイプ内の冷却水のランゲリア指数を演算し、該ランゲリア指数に基づいてアルカリ剤投入量を演算し、該アルカリ剤投入量の演算結果に基づいて、投入装置からアルカリ剤を投入することを特徴とする加熱炉のスキッドパイプ冷却方法。
【請求項3】
前記請求項1または2の加熱炉のスキッドパイプ冷却方法を用いた金属板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−74116(P2009−74116A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−242250(P2007−242250)
【出願日】平成19年9月19日(2007.9.19)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】