説明

加熱装置

【課題】各加熱機能に対応して効果的な作用を発揮するガラス板を透視窓に配設した加熱装置を提供することを目的とする。
【解決手段】加熱室10の開閉手段17に設けた小孔を有する金属板(透視窓)18には、インジュームとスズとの酸化物膜20とフッ素ドープ酸化スズ膜21を積層して製膜したガラス板19を配設したものである。これによって、透明導電膜の作用と高温下での耐熱性を確保し、ガラス板19を熱輻射体として作用させて均一加熱を促進し省エネルギで信頼性よく被加熱物を加熱することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被加熱物を高周波、蒸気あるいは輻射熱や対流熱を用いて加熱する加熱装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の加熱装置は、加熱室内における被加熱物の加熱の進捗状況を観察できるように開閉手段に透視窓を設けている。また、この透視窓には清掃しやすさの利便性を提供するガラス板が配設されている。そして、このガラス板には可視光領域の波長を透過させる透明導電膜を形成したものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平6−68975号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、前記従来の構成では、透明導電膜であるインジュームとスズとの酸化物膜が高温に曝されると熱劣化を生じ、シート抵抗が低下して導電性能が低下する課題を有していた。このため、例えば、加熱装置の一つであるオーブンレンジの透視窓にこのガラス板を用いた場合、オーブン調理での高温下で生じたシート抵抗の劣化した透明導電膜が電子レンジ調理を行った場合に高温に発熱し、ガラス板が熱破壊してしまう課題を有していた。
【0004】
本発明は、前記従来の課題を解決するもので、高周波加熱機能、蒸気加熱機能あるいは輻射熱や対流熱などを用いた加熱機能に対応して効果的な作用を発揮するガラス板を透視窓に配設した加熱装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記従来の課題を解決するために、本発明の加熱装置は、加熱室の開閉手段に設けた透視窓にはフッ素ドープ酸化スズ膜を製膜したガラス板を配設したものである。
【0006】
これによって、加熱室を高温状態として加熱する場合は、加熱室内から可視光より波長の長い熱線を熱反射させ、熱損失を抑制して加熱時の省エネルギ化を促進できる。また、製膜は耐熱特性にすぐれており、高周波エネルギを用いた加熱においては、高周波損失はほとんど変化することなく初期の特性を維持して電磁波反射膜として作用させることができる。このため、透視窓のガラス板はそれぞれの加熱機能に対応して効果的な作用を発揮し、加熱装置は信頼性よく被加熱物を加熱することができる。
【発明の効果】
【0007】
本発明の加熱装置は、透視窓のガラス板がそれぞれの加熱機能に対応して効果的な作用を発揮し、加熱装置は信頼性よく被加熱物を加熱することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
第1の発明は、被加熱物を収納する加熱室と、前記加熱室に対して被加熱物を出し入れするための開閉手段と、前記開閉手段に設け加熱室内を透視する透視窓とを備え、前記透視窓にはフッ素ドープ酸化スズ膜を製膜したガラス板を配設した加熱装置とすることにより、加熱室を高温状態として加熱する場合は、加熱室内から可視光より波長の長い熱線を熱反射させ、熱損失を抑制して加熱時の省エネルギ化を促進できる。また、製膜は耐熱特性にすぐれており、高周波エネルギを用いた加熱においては、高周波損失はほとんど変化することなく初期の特性を維持して電磁波反射膜として作用させることができる。このため、透視窓のガラス板はそれぞれの加熱機能に対応して効果的な作用を発揮し、加熱装置は信頼性よく被加熱物を加熱することができる。
【0009】
第2の発明は、特に、第1の発明において、ガラス板の製膜は、フッ素ドープ酸化スズ膜と、インジュームとスズとの酸化物膜とを積層して形成したことにより、可視光領域の波長に対する高い透過率を有するインジュームとスズとの酸化物膜の熱劣化をフッ素ドープ酸化スズ膜が抑制できる。したがって、加熱室を高温状態として加熱する場合や高周波エネルギを用いて加熱する場合などのさまざまな加熱機能を複合して有する加熱装置において、高い透視性能を発揮する。
【0010】
第3の発明は、特に、第1または第2の発明において、透視窓は、複数の小孔を有する金属板で構成し、金属板の加熱室内側にガラス板を配設したことにより、高周波エネルギを利用した加熱装置においては金属板が電磁波シールドを確実に確保するとともに、加熱室を高温状態で使用する場合においては、小孔からの熱放散をガラス板に形成した製膜で抑制し被加熱物を効率よく高温加熱できる。
【0011】
第4の発明は、特に、第1〜第3のいずれか1つの発明において、ガラス板への製膜面は加熱室と反対側のガラス板面としたことにより、開閉手段を清掃する際に製膜が傷つくことを解消し製膜の性能を保証するとともに、製膜で反射した熱をガラス板が蓄熱することで加熱室内を高温下で使用する場合に開閉手段からの輻射熱を被加熱物に与えて被加熱物を均一に加熱することができる。
【0012】
第5の発明は、特に、第1〜第4のいずれか1つの発明において、ガラス板への製膜範囲は、開閉手段が閉成状態でのガラス板の上下方向において略上半分としたことにより、高温の熱流が滞留する加熱室上部に対向する透視窓からの熱放散を抑制し、被加熱物を効率よく加熱することができる。また、この種の構成は、加熱室を上下に仕切りその上部を高温化させて被加熱物を加熱する機能を有する加熱装置に適用することで、機能を最大限に発揮できる。
【0013】
第6の発明は、特に、第1〜第4のいずれか1つの発明において、加熱室に供給する高周波を発生させる高周波発生手段を備え、高周波に共振する形状からなる製膜としたことにより、製膜の高周波による発熱を促進し製膜を配設した領域のガラス板の温度を高温化することができ、蒸気を用いた加熱装置に適用することでガラス板の結露を解消し透視性能を確保させることができる。また、製膜配設の有・無による製膜作用を視覚的に報知することができる。
【0014】
第7の発明は、特に、第6の発明において、高周波をガラス板に向けて放射するように制御したことにより、製膜の発熱をさらに促進してガラス板の所定領域を短時間に高温化することができ、蒸気を利用した加熱期間において適宜に高周波を供給してガラス板の結露を解消し透視性能を確保させることができる。
【0015】
第8の発明は、特に、第1〜第6のいずれか1つの発明において、ガラス板は、熱強化処理されたガラスとしたことにより、ガラス板の熱衝撃による破損を解消し使い勝手のよい透視窓を提供できる。
【0016】
第9の発明は、特に、第1〜第6のいずれか1つの発明において、製膜のシート抵抗を10Ω以下としたことにより、高い熱反射特性を有する透視窓を提供できる。
【0017】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、この実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
【0018】
(実施の形態1)
図1、図2は、本発明の実施の形態1における加熱装置を示すものである。
【0019】
図に示すように、加熱装置は、被加熱物を収納する被加熱物収納空間11を形成している加熱室10と、被加熱物収納空間11内に高周波を放射する放射手段14と、被加熱物収納空間11に対して被加熱物を出し入れするための開閉手段17と、被加熱物収納空間11に供給する蒸気を発生する蒸気発生部22と、被加熱物収納空間11に高温熱風を循環供給させる熱風発生手段23とを備えている。
【0020】
前記加熱室10は、供給される高周波を金属材料で形成された各壁面によって電気的に閉じ込めるよう被加熱物収納空間11を形成している。被加熱物収納空間11の底面は、被加熱物を載置する非導電性の材料からなる載置手段12を配している。載置手段12の下方にあって、加熱室10を形成する底壁面13の略中央部に指向性を有する放射手段14を配している。この放射手段14は、高周波を伝送する導波管15の終端側に配置しており、導波管15の他端側には高周波を発生する高周波発生手段であるマグネトロン(図示していない)を設けている。また、放射手段14にはこれを回転駆動するモータ16を配している。
【0021】
また、開閉手段17は、その中央部に透視窓である複数の小孔を有する金属板18を配し、金属板18の加熱室10内側にガラス板19を配している。このガラス板19は、熱強化処理されたガラスを用いている。このガラス板19の加熱室10と反対側のガラス板面には、インジュームとスズとの酸化物膜20とフッ素ドープ酸化スズ膜21とを積層して製膜している。この製膜のシート抵抗は10Ω/□以下としている。そして、ガラス板19はその周囲をシリコンパテによって金属板18に固着封止している。なお、開閉手段17には、透明のガラスあるいは樹脂材料で構成した化粧板30を設けている。
【0022】
また、被加熱物収納空間11に供給する蒸気を発生する蒸気発生部22は、給水された水を溜める水溜部24、水溜部24を下方から加熱する加熱手段25、水溜部24の上方に配し水溜部24を覆う複数の蒸気孔を有する蒸気カバー26などから構成している。また、熱風発生手段23は、発熱手段27、送風手段28、送風手段28を駆動するモータ29などから構成し、高温空気を循環通流させることで被加熱物収納空間11を300℃程度の高温状態にするものである。
【0023】
このような構成からなる加熱装置において、開閉手段17の透視窓の作用について説明する。
【0024】
インジュームとスズとの酸化物膜20は可視光領域の透過率が極めて高い透明導電膜として知られているが、高温下ではシート抵抗が熱劣化する。そのため、高温での熱劣化がほとんどないフッ素ドープ酸化スズ膜21をインジュームとスズとの酸化物膜20の上に積層させたことで透明導電膜の作用と高温下での耐熱性を確保し、高周波加熱機能、蒸気加熱機能あるいは輻射熱や対流熱などを用いたオーブン加熱機能などを備えた複合機能の加熱装置の透視窓として適用することができる。
【0025】
そして、加熱室10を300℃程度の高温状態として被加熱物を加熱する場合において、インジュームとスズとの酸化物膜20とフッ素ドープ酸化スズ膜21を積層した製膜を有するガラス板19は、可視光領域の波長に対する高い透過率を有しつつ可視光より長い波長に対して熱反射膜として作用し、加熱室10外への熱損失を抑制して加熱時の省エネルギ化を促進できる。
【0026】
また、高周波エネルギを用いて加熱する場合においては、製膜の熱劣化がほとんどないので、製膜が高周波に曝されたときの高周波損失は初期特性に対してほとんど変化することがなく、電磁波反射膜として作用させることができる。このため、高周波エネルギを用いた加熱制御を初期と同様に安定に実行させることができる。
【0027】
また、複数の小孔を有する金属板18とガラス板19とで透視窓を構成しているので、高周波エネルギを利用した加熱装置においては、金属板18が電磁波シールドを確実に確保するとともに、加熱室10を高温状態で使用する場合においては、金属板18で熱反射させるとともに小孔からの熱放散をガラス板19に形成した製膜で抑制し被加熱物をさらに効率よく高温加熱できる。
【0028】
また、ガラス板19への製膜面は加熱室10と反対側のガラス板19面としたので、開閉手段17を清掃する際に製膜が傷つくことを解消し製膜の性能を保証するとともに、製膜で反射した熱をガラス板19が蓄熱することで被加熱物収納空間11内を高温下で使用する場合に加熱室10の他の壁面と同様に開閉手段17からも輻射熱を被加熱物に与えて被加熱物を均一に加熱促進し、省エネルギで信頼性よく被加熱物を加熱することができる。
【0029】
なお、製膜のシート抵抗は、透視性に対して可視光領域の透過率として70%以上を確保するとともに、熱反射特性を最大化させることが望ましく、10Ω/□以下としている。
【0030】
また、本実施の形態では、フッ素ドープ酸化スズ膜21とインジュームとスズとの酸化物膜20とを積層して製膜したが、使用条件によっては、透視性が実用上問題ない層厚さを有するフッ素ドープ酸化スズ膜21の単層で製膜するようにしてもよい。
【0031】
(実施の形態2)
図3、図4は、本発明の実施の形態2における加熱装置を示すものである。実施の形態1と同一要素については同一符号を付してその説明を省略する。
【0032】
本実施の形態における加熱装置が実施の形態1と相違する点は、ガラス板19への製膜の配置構成にある。
【0033】
図に示すように、開閉手段17のガラス板19への製膜31の範囲は、開閉手段17が閉成状態でのガラス板19の上下方向において略上半分としている。また加熱室10は、その上壁面32を加熱する加熱手段33を配し、加熱室10内にはオーブン皿34を装着してオーブン皿34に載置した被加熱物を加熱するようにしている。この被加熱物を加熱する場合、高温の熱流が加熱室10の上部に滞留する。ガラス板19に配した製膜31はこの加熱室10の上部に対向する透視窓からの熱放散を抑制し、被加熱物を効率よく加熱することができる。
【0034】
また、この場合、ガラス板19の下半分から加熱室10内を透視することができるので、ガラス板19の上半分に設ける製膜31の特性は熱反射特性を優先させた特性として選択することができる。
【0035】
本実施の形態における製膜31は、実施の形態1におけるインジュームとスズとの酸化物膜20と、フッ素ドープ酸化スズ膜21の積層、あるいはフッ素ドープ酸化スズ膜21の単層によるものであることは言うまでもない。
【0036】
(実施の形態3)
図5〜図7は、本発明の実施の形態3における加熱装置を示すものである。実施の形態1と同一要素については同一符号を付してその説明を省略する。
【0037】
本実施の形態における加熱装置が実施の形態1と相違する点は、ガラス板19に配設した製膜を高周波により発熱させる点にある。
【0038】
図に示すように、開閉手段17のガラス板19への製膜50は、加熱室10内に供給される高周波に共振する形状とし、ガラス板19の略中央に複数個配設している。この製膜50の形状は、略長方形状としその長手寸法を、使用する高周波の波長の略1/2としている。また各製膜50間の寸法は、5mm以上とし、高周波電界によるスパーク発生を解消した配置としている。
【0039】
このような製膜50に対して、加熱室10に高周波を供給すると個々の製膜50が共振状態となり、高周波エネルギをより多く蓄積するため高周波による発熱量が増して製膜領域が高温になる。
【0040】
また、高周波発生手段51が発生する高周波は、指向性を有する放射手段14を回転動作させて加熱室10内に均一に分散させるものであるが、放射手段14の回転位置を制御し、開閉手段17側のガラス板19に指向性をもって(向けて)高周波を放射させるように制御することができる。
【0041】
このような動作をする装置は、蒸気を用いた加熱装置に適用することでガラス板19の結露を解消し透視性能を確保させることができる。また、製膜配設の有・無による製膜作用を視覚的に報知することができる。
【0042】
さらには、図7に示すように、開閉手段17側のガラス板19に向けて高周波を放射させることで、製膜50の発熱をさらに促進してガラス板19の所定領域を短時間に高温化することができる。そして蒸気を利用して被加熱物を加熱する装置にあっては、その加熱動作中に適宜、高周波を供給して製膜50を発熱させてガラス板19の結露を解消することにより、蒸し加熱における被加熱物の加熱進行状況を透視することができる。
【0043】
本実施の形態における製膜50は、実施の形態2と同様、インジュームとスズとの酸化物膜20と、フッ素ドープ酸化スズ膜21の積層、あるいはフッ素ドープ酸化スズ膜21の単層によるものであることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0044】
以上のように、本発明にかかる加熱装置は、透視窓のガラス板がそれぞれの加熱機能に対応して効果的な作用を発揮し、加熱装置は信頼性よく被加熱物を加熱することができるので、食品加熱はもとより、半導体装置、洗浄装置などの工業分野での加熱装置にも展開することができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の実施の形態1における加熱装置の断面図
【図2】同加熱装置のガラス板の断面図
【図3】本発明の実施の形態2における加熱装置の断面図
【図4】同加熱装置のガラス板の正面図
【図5】本発明の実施の形態3における加熱装置の断面図
【図6】同加熱装置のガラス板の正面図
【図7】同加熱装置の一部を切り欠いて示す平断面図
【符号の説明】
【0046】
10 加熱室
11 被加熱物収納空間
14 放射手段
17 開閉手段
18 小孔を有する金属板(透視窓)
19 ガラス板
20 インジュームとスズとの酸化物膜
21 フッ素ドープ酸化スズ膜
31、50 製膜
51 高周波発生手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加熱物を収納する加熱室と、前記加熱室に対して被加熱物を出し入れするための開閉手段と、前記開閉手段に設け加熱室内を透視する透視窓とを備え、前記透視窓にはフッ素ドープ酸化スズ膜を製膜したガラス板を配設した加熱装置。
【請求項2】
ガラス板の製膜は、フッ素ドープ酸化スズ膜と、インジュームとスズとの酸化物膜とを積層して形成した請求項1に記載の加熱装置。
【請求項3】
透視窓は、複数の小孔を有する金属板で構成し、金属板の加熱室内側にガラス板を配設した請求項1または2に記載の加熱装置。
【請求項4】
ガラス板への製膜面は加熱室と反対側のガラス板面とした請求項1〜3のいずれか1項に記載の加熱装置。
【請求項5】
ガラス板への製膜範囲は、開閉手段が閉成状態でのガラス板の上下方向において略上半分とした請求項1〜4のいずれか1項に記載の加熱装置。
【請求項6】
加熱室に供給する高周波を発生させる高周波発生手段を備え、高周波に共振する形状からなる製膜とした請求項1〜4のいずれか1項に記載の加熱装置。
【請求項7】
高周波をガラス板に向けて放射するように制御した請求項6に記載の加熱装置。
【請求項8】
ガラス板は、熱強化処理されたガラスとした請求項1〜6のいずれか1項に記載の加熱装置。
【請求項9】
製膜のシート抵抗を10Ω以下とした請求項1〜6のいずれか1項に記載の加熱装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2006−214662(P2006−214662A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−28742(P2005−28742)
【出願日】平成17年2月4日(2005.2.4)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】