説明

加熱調理器

【課題】狭い調理空間の加熱調理器で、熱伝達バランスを最適化し、加熱むらを抑制すること。
【解決手段】加熱網とその下方の受皿との間に伝熱材を配置し、ヒータによって加熱され送風機で送出される循環気流を伝熱材と受皿の間に流通させることにより、至近距離からの面状体放射加熱が可能となり、狭い空間構成ながら効率的で均一な加熱調理が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、狭い調理庫空間内で効率良く、かつ加熱部位の偏りがない均一な加熱調理が可能な加熱調理器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
シーズヒータやガラス管ヒータ等からの放射熱を用いて調理物を加熱調理する機器は、従来より各種提案され実用されているが、従来この種の加熱調理器では、調理物の上下面を均一に加熱するために、調理物を載置する網状の部材の上下にヒータを設置する方法が用いられている(例えば、特許文献1参照)。また、加熱むらを抑えて部位による調理品質の変化をなくするために、熱風循環を併用する方法(例えば、特許文献2参照)や、ヒータと調理物との間に板材を配置する構成にすることも行われている(例えば、特許文献3参照)。
【特許文献1】特開2001−252200号公報
【特許文献2】特開昭62−280522号公報
【特許文献3】特開平10−38284号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、前記従来の構成では、調理物を収納する調理庫の空間を有効に活用しつつ調理物の均一な加熱を効率的に行うことが困難であった。すなわち、調理物を焼きムラなく均一に加熱するには、網状の部材に載置された調理物の上下両面よりほぼ等しく加熱することが必要であり、かつ受熱面である調理物表面が発熱源であるヒータより略均等に熱供給を受けるよう配置することが求められる。このため従来は、放射エネルギーを供給するヒータを調理物より相当に距離を置いて配置し、適度に分散された放射エネルギーの単位面積当たり受容量がほぼ等しくなるようにしていた。このために、調理庫は収納する調理物に比べて上下方向に十分大きなものとし、調理物を載置する調理網とヒータとの距離を確保する必要があった。
【0004】
こうした棒状のヒータによる加熱むらを緩和するために、加熱気流を循環させたり、ヒータと調理物の間に板材を配置するものもあるが、こうした間接加熱を主とする方法ではエネルギーの利用効率が損なわれたり、あるいは循環気流や被加熱板材等から周囲へ放散される熱の抑制処理のために、十分な断熱空間や断熱材の配置を必要とするなど、必ずしも加熱調理器全体を小容量化(特に薄型化)できるものではないという課題を有していた。
【0005】
一方、魚類等の調理物を加熱した場合、調理物の温度上昇に伴って油脂分を含む液体が滲出して滴下する。この液体は、下面のヒータのさらに下方に備えられた受皿で捕集されるが、受皿は調理物を載置する調理網の下面に配置されたヒータで常時放射加熱される位置にあり、捕集された油脂分の温度が次第に上昇して熱分解されることになる。この熱分解成分による発煙は、加熱調理器から排出されて室内空間を汚染するとともに、加熱調理器内では調理物にも付着して異臭を付与し、調理物の風味を損なうことにもなるものであった。受皿内での油脂の熱分解を抑制するめにも、受皿に予め水を貯めておく方法も用いられるが、この場合でもヒータが至近距離にあっては、放射熱による油脂の熱分解は抑制し得ず、受皿とヒータとの間に相当距離を保つことが必要で、このため加熱調理器の薄型には限界があるという課題を有していた。
【0006】
本発明は、前記従来の課題を解決するもので、調理物の均一で高質な加熱を維持しつつ、必要部材の配置を効率化して高密度配置を可能とし、薄型構成の加熱調理器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記従来の課題を解決するために、本発明の加熱調理器は、加熱網とその下方の受皿との間に伝熱材を配置し、ヒータによって加熱され送風機で送出される循環気流を伝熱材と受皿の間に流通させる構成としたものである。
【0008】
これによって、加熱網下部は至近距離からの面状体放射加熱が可能となり、狭い空間構成ながら効率的で均一な加熱調理が可能となる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の加熱調理器は、至近距離からの面状放射加熱で調理物の均一かつ効率的加熱を維持しつつ、その下方にある受皿内を過剰に加熱することは抑制されることで、油脂分の熱分解による発煙もなく、室内汚染や調理物の風味低下も抑制することができる薄型の加熱調理器が実現可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
第1の発明は、調理庫内の調理網とその下方の受皿との間に板状の伝熱材を配置するとともに、ファンによって送出される調理庫内の循環気流を、伝熱材と受皿との間を介して流通させるよう流路を構成することにより、伝熱材からの至近距離放射伝熱で調理物の均一な加熱を確保しつつ、受皿に捕集された調理物から滲出した油脂等の熱分解を抑制し、高質な調理品質を維持できる薄型の加熱調理器を実現できる。
【0011】
第2の発明は、特にヒータを調理物の上面に対向する位置に配置することにより、調理物を収納する十分な空間を確保しつつ下部の伝熱材からの加熱とバランスする放射熱量を提供し、調理物の上下両面の均質加熱をより強めることができる。
【0012】
また、第3の発明は、伝熱材を調理物の周囲全体を包むよう構成し、ヒータおよび循環気流をその外周に配置することにより、調理物の加熱のバランスをより自在に設定でき、調理品質を高めることができる。
【0013】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、この実施の形態により本発明が限定されるものではない。
【0014】
(実施の形態1)
図1(a)は、本発明の実施の形態における加熱調理器の構成の概略を示す図、(b)はその要部部分平面図を示すものである。
【0015】
図1(a)において、調理庫1には調理物を載置する調理網2と、その上方に配置された放射ヒータ3と、側方下部に設置された熱風ヒータ4が備えられ、調理網2の下方には調理庫1内に出入自在に設置された受皿5が備えられている。ここで調理網2と受皿5との間には、金属板で構成された伝熱板6が、調理網2の下面を覆うように備えられており、直下の受皿5の上面を覆う蓋のようになっている。この伝熱板6には、図1(b)に示すように、複数の貫通孔7が開けられているが、貫通孔7は下方の受皿5に向かって開口端を突出させるような構造となっている。また、調理庫1の内壁側面には、調理庫1内の気体を循環させる送風機8が備えられており、伝熱板6と受皿5との間を流れるように構成された送風路9を経由して、その送風路9の片側部分に開口された吸気口10から調理庫1内の気体を吸引し、送風路9を経由した後にその下流側に開口された送気口11から再び調理庫1に環流させるよう、気流の循環流路が構成されている。
【0016】
以上のように構成された加熱調理器について、以下その動作、作用を説明する。
【0017】
まず、魚などの調理物は調理網2の上に載せられて調理庫1内に置かれ、通電されて昇温した放射ヒータ3からの放射熱で上面から加熱調理される。一方、送風機8を動作させるとともに熱風ヒータ4を通電発熱させることにより、調理庫1内の気体(初期では大気に等しい)は、放射ヒータ3および熱風ヒータ4からの熱供給を受けながら吸気口10より流入し、送風路9を経て送気口11から流出される高温の循環気流を形成する。送風路9では、高温気流が伝熱板6と受皿5との間を流れるが、受皿5には水が張られていることもあって断熱され、調理庫1底面の過昇温や放熱によるエネルギー損失は抑制される。一方伝熱板6側は、多数開口された貫通孔7による乱流化作用もあって、高温気流が伝熱板6に密着して流れ、効率的に温度上昇を導く。このため伝熱板6は高温気流に近い温度まで昇温され、ここからの面放射によって直上の調理網2に載せられた調理物を加熱することになる。
【0018】
ここで、上部から放射加熱する放射ヒータ3の表面温度が800℃程度の時、下部から放射加熱する伝熱板6の表面温度は、循環気流の流量や熱風ヒータ4の温度や発熱量にもよるが、実際上は500℃〜600℃程度にしかならず、調理物上下での温度差を生ずる。しかしながら放射熱供給は、放射源の温度の影響は大きいながらも、さらに面積に比例し距離に反比例する特性があり、離れた位置に散在する放射ヒータ3からの熱供給に対し、至近距離でほぼ前面を発熱面とする伝熱板6からの放射熱供給は遜色ないレベルとなり、一見調理ムラを生ずるように思われる熱供給条件の相違も、実際の加熱調理には影響なく利用できる。
【0019】
かくして調理の品質は維持しながら、調理網2の下部では、放射ヒータ3同様の管状熱源が配置された従来の構成とは異なって、大きな空間は必須ではなく、循環気流が流通する扁平な隙間があれば十分となるから、調理庫1内を有効に活用できることとなり、調理物の収納空間と放射ヒータ3からの隔離距離のみを確保するだけの扁平な構成とすることができる。
【0020】
なおここで、加熱された調理物からは調理の進行に伴って水や油脂が滲出して滴下するが、これに対しては伝熱板6を傾斜させて配置し、その最下部から受皿5へ流下させる流路を形成したり、伝熱板5に溝構造を配設してここに滴下物を集め、受皿5へ導くといった各種の方法が利用可能であるが、本実施の形態のように伝熱板6全体に多数の貫通孔7を配置する構成とすることにより、昇温した伝熱板6上を比較的長い時間にわたって油脂等が流動することなく、周辺の貫通孔7から速やかに受皿5へ流下することで、油脂の分解や発煙を軽減することができる。この作用を加速するために、各貫通孔7を最底部にした摺鉢状の構造を分散配置するのもより効果的である。受皿5で集められた油脂等は、至近距離から高温の放射ヒータ3で加熱されるような状況はなくなり、熱分解で発煙したり異臭を発したりすることは回避できる。
【0021】
同時にこの貫通孔7が、その表面に沿って流れる高温気流に対して乱流を生じさせて熱伝達を促進させる効果があり、伝熱板6の全体に分散配置するのが望ましい。さらには、図1(b)に示すように、貫通孔7の周縁部が裏面に突出する壷穴の形状にするなど突起構成を付加することにより、高温気流への乱流化作用を加速することになり、より効果的である。
【0022】
また本実施の形態では、放射ヒータ3を調理庫1上部に露出状態で並べているが、調理物の上面加熱に対して必ずしもこの構成が必要ではなく、側面方向に配置したり、循環気流の流路の一部に遮蔽配置して、高温気流のみで加熱調理する等の方法も可能であるが、放射ヒータ3の発熱を直接用いるのが、エネルギーの効率的利用の面からも有効である。この際、調理物の形状や容積によっては、放射ヒータ3に近接し過ぎる場合もあるが、その時には放射ヒータ3と調理物との間に任意の遮蔽材や反射材(例えばアルミニウム箔など)を利用することも可能である。また循環気流の加熱源として、放射ヒータ3の熱も利用できるが、より高質な加熱調理を行うために、循環気流温度を調整するための熱風ヒータ4を別設置するのが望ましく、(ここでは図示説明していないが)必要部位の温度を計測しつつ適宜通電発熱させるよう制御すれば、より効果的な調理が可能となる。
【0023】
以上のように、本実施の形態においては、調理庫1内の調理網2とその下方の受皿5との間に板状の伝熱板6を配置するとともに、送風機8によって送出される調理庫1内の循環気流を、伝熱板6と受皿5との間を介して流通させるよう送風路9を構成することにより、伝熱板6からの至近距離放射伝熱で調理物の均一な加熱を確保しつつ、受皿5に捕集された調理物から滲出した油脂等の熱分解を抑制し、高質な調理品質を維持できる薄型の加熱調理器を実現できるものである。
【0024】
(実施の形態2)
図2は、本発明の第2の実施の形態の加熱調理器の構成略図である。本実施の形態では、基本の構成および作用は前記第1の実施の形態と同様であるが、放射ヒータ3の配置と気流流路の構成に特徴がある。したがって、その相違点を中心に説明する。なお、実施の形態1と同じ構成要素には同一の番号を付与している。
【0025】
図2において、放射ヒータ3は調理庫1の上方に配置されるが、調理網2に載置された調理物は上面や側部を含む全体を金属製の伝熱板6に包まれる構成となっており、その側壁に吸気口10と送気口11とが開口されている。
【0026】
こうすることにより、放射ヒータ3から発せられた熱は、調理網2上面に対向する伝熱板6を直接放射加熱すると同時に、送風機8の動作で循環される高温気流を介して、調理網2の下面に対応する面を加熱することになる。当然伝熱板6の温度は、上面が下面より高くなるが、ここでも調理物と伝熱板6との距離は上面で大きく下面で著しく小さいから、温度差と距離との効果が相殺して全体にほぼ均一な加熱調理が確保できる。同時にこの構成にすれば、調理物上面においても略均一な面放射による加熱が行われることになり、魚などの不定形状の調理物であっても、部分的な過熱を生ずることなく、高品質の過熱調理ができることになる。調理庫1下部における空間の圧縮作用と油脂等の発煙防止作用に関しては実施の形態1と同様の効果を発揮できるものである。
【0027】
なお、本実施の形態では、放射ヒータ3および熱風ヒータ4を円管状のシーズヒータとしているが、これに限られるものでなく、発熱線外周を耐熱ガラス管で覆ったランプ形状のものや、断面多角形や扁平形状の線ヒータなどでも良く、ヒータの形状で原則的に制約を受けるものではない。また伝熱板6は金属板を使用しているが、これも材質に限定はなく、ホーロー等の表面被覆を施した金属や、セラミック製の板材などでも良いのは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0028】
以上のように、本発明にかかる加熱調理器は、調理庫内の伝熱バランスを改善することにより、調理物より滲出する油脂等の熱分解による汚染物質発生を抑制しつつ、調理庫の空間を圧縮して高品位の加熱調理を実現することが可能となるので、家庭用および業務用のオーブン、グリル、ロースター等の用途にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】(a)本発明の実施の形態1における加熱調理器の構成概略図(b)上記の要部部分平面図
【図2】本発明の実施の形態2における加熱調理器の構成概略図
【符号の説明】
【0030】
1 調理庫
2 調理網
3 放射ヒータ
4 熱風ヒータ
5 受皿
6 伝熱板
7 貫通孔
8 送風機
9 送風路
10 吸気口
11 送気口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
調理物を載置する調理網を内部に備えた調理庫と、前記調理網の下方に配置された貯水可能な受皿と、前記調理庫内を加熱するヒータと、前記調理庫内に気流を循環させるファンとを備え、前記調理網と前記受皿との間には板状の伝熱材を配置するとともに、前記ファンによって送出される循環気流を、前記伝熱材と前記受皿との間を介して流通させるよう流路を構成した加熱調理器。
【請求項2】
前記伝熱材には、前記調理物より滲出した液状物の流通が可能な貫通孔を配設した請求項1に記載の加熱調理器。
【請求項3】
前記ヒータを、前記調理網上面に対向する前記調理庫の上部に配置した請求項1または2に記載の加熱調理器。
【請求項4】
前記ファンにより送出される循環気流の流路で前記伝熱材に覆われる位置に、前記循環気流を追加熱する補助ヒータを備えた請求項1〜3のいずれか1項に記載の加熱調理器。
【請求項5】
前記伝熱材を前記調理網の側方および上方まで包囲するよう延長配置し、前記ヒータを前記伝熱材の外周部に配するとともに、前記循環気流の流路も前記伝熱材の外周に沿って形成させた請求項1に記載の加熱調理器。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−105356(P2007−105356A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−301462(P2005−301462)
【出願日】平成17年10月17日(2005.10.17)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】