説明

加熱調理器

【課題】マグネトロンを異常発振することなくその寿命を推測し、マグネトロンが設定寿命に達した場合はその旨をユーザーに報知することができる加熱調理器を提供する。
【解決手段】加熱室内にマイクロ波を供給するマグネトロン8と、このマグネトロンの温度を検知するマグネトロン温度検知手段19と、前記マグネトロンの寿命を判断する寿命判断手段18と、この寿命判断手段により判断された寿命を報知する報知手段12とを有し、前記寿命判断手段は、前記マグネトロン温度検知手段による検知温度が所定温度以上に到達した場合に前記マグネトロンの寿命であると判断し、前記報知手段により、ユーザーにこれを報知することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグネトロンに負担をかけることなくその寿命を推定するようにした加熱調理器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、加熱調理器である電子レンジの使用され得る期間、すなわち寿命は、一般ユーザーには判断しにくいものであり、寿命の目安としては、1日の電子レンジの平均使用回数や使用時間からのマグネトロンの効率半減時期などを計算で求めることで設定できるが、使用頻度で個々のケースは大きくばらつくものであり、またユーザーが購入日が記憶されていることも通常はまれであるため、ユーザー宅においては、寿命が尽きたことに気がつかず非効率な状態で使い続けることになるのが現実である。
【0003】
一方、マグネトロンが異常発振するときのフィラメント電圧の比較からマグネトロンの残り寿命を求め、これを表示したり、報知手段を設けたりすることが特許文献1に示されている。
【特許文献1】特開2001−082744号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記特許文献1に記載の構成では、電子レンジの寿命を推測するには、マグネトロンを異常発振させる必要があるが、このように異常発振させると、マグネトロンおよび駆動回路にストレスを与えることになって、電子レンジとしての寿命が短くなってしまい、また、故障し易くなるという不具合があった。
【0005】
本発明は上記の点を考慮してなされたものであり、マグネトロンを異常発振することなくその寿命を推測し、マグネトロンが設定寿命に達した場合はその旨をユーザーに報知することができる加熱調理器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の加熱調理器は、加熱室内にマイクロ波を供給するマグネトロンと、このマグネトロンの温度を検知するマグネトロン温度検知手段と、前記マグネトロンの寿命を判断する寿命判断手段と、この寿命判断手段により判断された寿命を報知する報知手段とを有し、前記寿命判断手段は、前記マグネトロン温度検知手段による検知温度が所定温度以上に到達した場合に前記マグネトロンの寿命であると判断し、前記報知手段により、ユーザーにこれを報知することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、マグネトロンの加熱効率の低下を把握することにより、異常発振させることなく加熱調理器の寿命を的確に判断することができ、ユーザーに報知することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下図面に基づき本発明の1実施形態を説明する。加熱調理器としての電子レンジ(1)はその概略構成を図1に示すように、矩形箱状のキャビネット(2)を備えており、キャビネット(2)内を加熱調理室(3)としている。この加熱調理室(3)は、被加熱物を収容し加熱調理する空間であって、その前面開口には下辺を枢支して回動自在とした扉(4)を設けており、また、加熱調理室(3)内の底面には被加熱物を載置する回転テーブル(5)が設置されている。
【0009】
前記加熱調理室(3)の側方には仕切壁(6)を介して機械室(7)が設置されており、この機械室(7)内には、マイクロ波加熱をおこなう手段としてのマグネトロン(8)、およびこれらの機器に対して送風し冷却する冷却ファン(9)を設けている。また、前記機械室(4)の前面には、全幅に亙って加熱調理時の調理方法や調理時間、調理温度などの調理条件を設定する種々のキー(11)や前記設定された調理条件などをLCDなどで表示する報知手段としての表示器(12)を備えた操作パネル(10)が配設されており、その裏側には、電装品を実装した回路基板が設けられている。
【0010】
また、前記加熱調理室(3)の背面には、加熱調理時に被加熱物に熱風を送風するヒーター(13)やファン(14)を配設しており、被加熱物から発生する蒸気などを排出するために設けた排気ダクト(15)内にはサーミスタを配設し、キャビネット(2)内の加熱調理室(3)の背面上部には、被加熱物である食品の表面温度を検知する赤外線温度センサー(16)を食品温度検知手段として設置している。
【0011】
電気的構成のブロック図である図2に示すように、電子レンジ(1)には、前記マグネトロン(8)とこれを駆動するためのマグネトロン駆動回路(17)を備えており、マイクロコンピュータを主体としてROMやRAMなどのメモリを備えた制御回路(18)により制御されている。制御回路(18)には前記キー(11)から入力され、報知手段としての表示器(12)に表示される。
【0012】
前記マグネトロン(8)は、マグネトロン温度検出素子(19)によりその温度が検出されるものであり、食品温度検知手段である前記赤外線温度センサー(16)による食品温度、およびそれらのデータを記憶する記憶手段(20)とともに制御回路(18)に入力され、この制御回路(18)内に含まれる寿命判断手段としてのマイクロコンピュータによりその寿命が判断される。
【0013】
前記赤外線温度センサー(16)は、例えば、ICチップ上に8個の赤外線検出素子を直線状に配設したものであって、図3に示すように、その検出視野a1〜a8を加熱調理室(3)底面の幅方向に亙って矢印のように往復動させることで被加熱物の載置領域を含む底面温度を計測するものであり、この赤外線検出素子から得られる信号により制御回路(18)は底面上に設置された被加熱物である食品の表面温度を算出し補正することで被加熱物の温度を検出し、検出した温度を前記記憶手段(20)に記憶させるものである。
【0014】
図4は、調理開始からのマグネトロン(8)の温度推移を示すグラフである。x軸は調理開始からの経過時間、y軸はマグネトロン(8)の温度上昇値を示し、実線は、マグネトロン(8)の初期段階における温度上昇曲線を示し、破線は、寿命末期におけるマグネトロン(8)の温度上昇曲線を示す。
【0015】
マグネトロン(8)は、その寿命の終わりが近づくにつれて、加熱調理する食品温度(Tf)に対するマグネトロン温度(T)の比である加熱効率が低下するため、図中の初期段階を示す実線と破線との対比で明らかなように、同じ入力であってもマグネトロンロスにより熱を生じ、立ち上がり時から時間とともに温度差が現れるものであり、加熱調理時におけるマグネトロン(8)の温度を検知すれば、寿命の終わりを推測することができる。
【0016】
また、加熱調理を開始してからマグネトロン(8)の温度が安定するまでには、10〜15分間を要すること、および通常の電子レンジの使用は3分以内の調理時間が多いものであることから、マグネトロン(8)の温度検出は加熱調理開始後の立ち上がり途中でおこなうのが良好であり、本実施例では、上記図4における所定時間(t1)は、加熱調理を開始した後の立ち上がりからの時間として、1分経過したときのマグネトロン温度を検知した。
【0017】
調理時間1分経過後における寿命末期のマグネトロンの温度上昇値(Te)はあらかじめ実験により45Kと求められており、45Kを超えた場合には、その時点が使用している電子レンジの寿命と判断して表示器(12)に寿命である旨の表示をおこない、ユーザーに報知するものである。
【0018】
次に、本発明の第2の実施例について説明する。前記実施例がマグネトロン温度(T)と加熱調理経過時間(t)との関係であるのに対して、本実施例は、マグネトロン温度(T)と前記食品温度(Tf)との関係によりマグネトロン(8)の寿命を推測するものである。
【0019】
図5は、x軸に加熱調理によって上昇する食品温度の当初からの上昇値、y軸にこれにともなうマグネトロン(8)の温度の上昇値の推移を示したグラフであり、マグネトロンの加熱効率の変化を表している。実線はマグネトロン(8)の初期段階の温度上昇傾向を示し、破線は寿命末期における温度上昇傾向を示す。
【0020】
電子レンジにおける自動調理は、食品の「あたため」調理の使用回数が最も多く、その場合は、室温下に置かれた調理物を「あたため」調理するユーザーが多い。そして、食品のあたためなおし温度は、概ね80℃で終了することが多く、また食品が置かれている室温は通常25℃前後であることから、その時点からの温度上昇値である55Kを食品の温度上昇所定値(Tf)とすれば「あたため」調理は80℃で終了することになり、この終了に近いタイミングでマグネトロン(8)の寿命を判断するのが効果的である。
【0021】
食品の加熱開始から前記食品の温度上昇値(Tf)におけるマグネトロン(8)の温度上昇値は、マグネトロン(8)が初期段階にあるときは、食品温度上昇値(Tf)に近い55Kと低い値(To′)であり加熱効率が高いが、マグネトロン(8)の寿命末期には加熱効率が低下して温度上昇値は大きくなるものである。
【0022】
したがって、この食品温度上昇値(Tf)が55Kのときに、マグネトロンの寿命末期の温度上昇値(Te′)としてあらかじめ設定されている85Kを超えた場合には、その時点が使用している電子レンジの寿命と判断して表示器(12)に寿命である旨の表示をおこない、ユーザーに報知するものである。
【0023】
前記のように、マグネトロン(8)の寿命推定の値を食品の温度上昇値に基づいて設定している理由は、食品を加熱して温度上昇させるために費やしたマグネトロン(8)の消費エネルギーと、食品の温度上昇度とを、同じタイミングで測定し対応させることで誤差を少なくするためであるが、温度上昇値でなくとも、測定した食品温度に基づいてマグネトロン(8)の寿命を判断してもよいものであり、その場合は食品温度80℃の時点でマグネトロン温度を計測する。
【0024】
このようにしてマグネトロン(8)の寿命を判断すれば、調理時間のみでは負荷となる食品量のばらつきによる誤差を補正できるため、寿命推定の精度が向上する。
【0025】
上記によるマグネトロン(8)の寿命判断については、加熱調理の都度、検知測定した食品温度(Tf)に対するマグネトロン温度(T)で求められる加熱効率データを、例えば、事前の5回のデータを抽出し、その最大値と最小値とを異常値として削除し、残ったデータの平均値により寿命を判断し、平均値が所定値以上になった場合に寿命であるとの判定をおこない表示するようにしてもよい。
【0026】
続いて、第3の実施例について説明する。マグネトロン駆動回路(17)により駆動されるマグネトロン(8)の駆動時間は、駆動時間測定手段としてカウンターを有しているマイクロコンピュータによって測定されるとともに累積され、図1に示す前記記憶手段(20)に記憶されるものであるが、測定された累積時間が、あらかじめ寿命として設定されている時間、例えば、平均して駆動させた場合の10年間に相当する累積時間としての400時間に満たないときは、未だ寿命に達していないと判断するものであり、これにより、温度センサーの誤検知で特異な値が出た場合や誤判定による寿命報知を抑制することができる。
【0027】
続いて、第4の実施例を説明する。この実施例は、前記各実施例の構成に加えて、マグネトロン(8)の寿命判断を、「牛乳のあたため」など通常多くのユーザーが使用するメニューを特定し、そのメニューの動作時にのみおこなうようにするものである。
【0028】
特定のメニューは、前記「牛乳のあたため」などの専用ボタンを有しており、操作することでマイクロコンピュータのプログラムに基づいてマグネトロン(8)が駆動し、赤外線温度センサー(16)があたため設定温度である60℃を検知した時点で加熱調理動作を終了する。
【0029】
このとき、牛乳の負荷容量は、通常は概ね200ml程度とほぼ同一量であることが多いため、メニューを特定することにより、ほぼ同一負荷の条件下で寿命判断をおこなうことができ、前記食品温度(Tf)に対してのマグネトロン温度(T)による加熱効率の変化に加えて、負荷が変わることによるマグネトロン(8)の温度上昇度合のばらつき誤差を軽減できるので、さらに寿命推定の精度を向上することができる。
【0030】
なお、前記特定のメニューについては、前記のように一例のみで測定すると、希にはこれを使用しないユーザーも存在することから、「牛乳」や「あたため」、「酒かん」などの比較的多用される複数のメニューを設けることにより網羅してもよい。
【0031】
さらに、第5の実施例を説明する。本実施例においては、前記種々の実施例に加えた寿命判断手段として、前記食品温度検知手段である赤外線温度センサー(16)を負荷検知手段とし、加熱調理する食品の負荷量を検知するものであり、赤外線温度センサー(16)における前記赤外線検出素子の検出視野のa1〜a8までの8箇所を幅方向に移動させて検出し、加熱調理室(3)底面における食品量が所定の範囲、例えば、底面積全体のほぼ20〜30%に当たる大きさの範囲である場合にのみ温度測定をおこなうようにするものである。なお、前記図3の構成では、底面の52箇所が計測有効範囲となる。
【0032】
調理加熱をおこなうことにより、被加熱物の温度上昇は加熱調理室(3)底面に比べて大きくなることから、前記52箇所の計測点のうち温度上昇率が高い点の箇所が被加熱物の大きさとなり、この被加熱物の点の数が、10〜16点であるときのみ寿命判定をおこなうようにすれば、被加熱物の大きさがほぼ等しい同一の負荷条件での温度上昇値を得ることができる。
【0033】
これにより、食品の大きさがほぼ同様のもので加熱効率を測定することから同じ量の負荷で判断でき、より精度の高い寿命の推定をおこなうことができる。
【0034】
なお、上記実施例においては、赤外線温度センサー(16)により、加熱調理室(3)内における被加熱物の大きさを検出するようにしたが、重量センサーなどによって被加熱物の重さを検出し、ほぼ同じ重量のもので寿命を推定するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の1実施形態を示す電子レンジの概略横断面図である。
【図2】図1における電子レンジの電気的構成のブロック図である。
【図3】図1の赤外線温度センサーの検出視野を説明する斜視図である。
【図4】本発明の1実施例の加熱調理時間に対するマグネトロンの温度上昇値の初期と寿命末期の状態を示す比較グラフである。
【図5】本発明の他の実施例の食品温度上昇値に対するマグネトロンの初期段階と寿命末期の温度上昇値の推移を示す比較グラフである。
【符号の説明】
【0036】
1 電子レンジ 2 キャビネット 3 加熱調理室
4 扉 7 機械室 8 マグネトロン
9 冷却ファン 10 操作パネル 11 キー
12 表示器 13 ヒーター 14 ファン
16 赤外線ヒーター 17 マグネトロン駆動回路 18 制御回路
19 マグネトロン温度検出素子 20 記憶手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱室内にマイクロ波を供給するマグネトロンと、このマグネトロンの温度を検知するマグネトロン温度検知手段と、前記マグネトロンの寿命を判断する寿命判断手段と、この寿命判断手段により判断された寿命を報知する報知手段とを有し、前記寿命判断手段は、前記マグネトロン温度検知手段による検知温度が所定温度以上に到達した場合に前記マグネトロンの寿命であると判断し、前記報知手段により、ユーザーにこれを報知することを特徴とする加熱調理器。
【請求項2】
寿命判断手段は、調理を開始して所定時間が経過したときのマグネトロンの検知温度に基づいて寿命を判断することを特徴とする請求項1記載の加熱調理器。
【請求項3】
食品の温度を検知する食品温度検知手段を有し、寿命判断手段は、前記食品温度検知手段による食品温度が所定温度のときのマグネトロンの検知温度に基づいて寿命を判断することを特徴とする請求項1または2記載の加熱調理器。
【請求項4】
マグネトロンの累積駆動時間を測定する駆動時間測定手段を有し、寿命判断手段は、所定の累積駆動時間が経過するまでは、寿命の判断をしないことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の加熱調理器。
【請求項5】
寿命判断手段は、マグネトロン温度検知手段が検知した複数の温度データに基づいて、その最大値と最小値を除いた複数の温度データの平均値を演算し、この平均値が所定温度以上になった場合に、マグネトロンが寿命であると判断することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の加熱調理器。
【請求項6】
寿命判断手段は、特定のメニューの動作時にだけ寿命を判断することを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の加熱調理器。
【請求項7】
食品の負荷量を検知する負荷検知手段を有し、寿命判断手段は、前記負荷検知手段による食品の負荷量が所定の範囲内にある場合にのみ、寿命を判断することを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の加熱調理器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−228968(P2009−228968A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−74250(P2008−74250)
【出願日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(502285664)東芝コンシューマエレクトロニクス・ホールディングス株式会社 (2,480)
【出願人】(503376518)東芝ホームアプライアンス株式会社 (2,436)
【Fターム(参考)】