説明

加熱調理用食品及びその製造方法

【課題】冷蔵・冷凍食品について有効にゼラチンを活用しながら、菌の繁殖という課題を解決する。
【解決手段】水分の沸騰温度において形状を保持できる上部開口容器と、この容器の底部に収納したゼラチン層と、このゼラチン層の上部に収納した調理用食材からなる。さらに、ゼラチン層と、調理用食材との間にゼラチン層と調理用食材とを分離するシートを設けた。 シートは減菌シート又は滅菌シートである

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、そのまま加熱調理に利用できる容器に食品を収容し、電子レンジにて簡単に調理をすることができる冷蔵・冷凍食品の構成及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、冷凍技術が飛躍的に進歩した結果、冷凍食品は広範囲に普及している。その中でも、家庭における消費を見た場合には、より簡単に食事ができる食品が普及しつつあり、たとえばコンビニエンスストアには電子レンジで加熱して調理する食品が増加している。
【0003】
ところで、冷蔵・冷凍食品の場合には、食材として調理済みの食材を内容物とする場合や、未調理の食材を内容物とする場合など、さまざまであるが、調理済みの食材を用いた冷凍食品の場合には、たとえば電子レンジで調理する実態は解凍・加熱である。
【0004】
【特許文献1】特開2001−37434
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記公知技術は、調理した麺類等とソース、スープ等の調味液にゼラチンを添加してゲル状としたゼラチン添加調味液が用いられている。しかしながら、上記公知技術は基本的には調理済みの主食材とゼラチン添加調味料の双方を同時に冷凍することを主目的としたものであり、食事のためには単に解凍するだけで足りるという点に着目したものである。
【0006】
ところで、ゼラチンはブドウ糖などを混合したものを菌の培地に利用されることが知られている。これは、適当な温度や酸素条件が整えば、養分を含んだゼラチンが菌の繁殖に絶好の培地になるからである。言い換えれば、ゼラチンを食品として使用する場合には衛生管理面で注意を払う必要があるということになる。即ち、ゼラチンと食材を直接接触させたときには、加工時から搬送時、さらには食事に供するまで菌の繁殖を防止することが要請される。これは、製品がたとえ冷凍食品であっても基本的な条件は同じである。
【0007】
本発明は、上述した公知技術から一歩進んだ製品を提供すると同時に、食品衛生の面における課題をも解決するもので、冷蔵・冷凍食品について有効にゼラチンを活用しながら、菌の繁殖という課題を同時に解決した構成を開示することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明では、水分の沸騰温度において形状を保持できる上部開口容器と、この容器の底部に収納したゼラチン層と、このゼラチン層の上部に収納した調理用食材からなる加熱調理用食品を開発した。容器は、電子レンジにて加熱調理を行う場合に内容物の水分が沸騰するので、少なくとも調理時間中は沸騰温度に耐えて変形しないことが求められる。好適な素材としては、ポリプロピレン、ポリエチレン等のシート成形物や、セラミックスなどである。金属は、電子レンジにおける調理には適さないので、本発明の範囲としては想定していない。ゼラチン層は予めスープ成分に対してゼラチンを混合し低温にて煮こごり状態にする。このゼラチン層は加熱によって液体に溶解し、加熱調理時のスープとして機能する一方、比較的低温ではゲル状を維持するので、底部にこれを収納した場合には食材が浸漬することなく、生鮮状態を維持する作用を行う。
【0009】
また、本発明ではゼラチン層と調理用食材との間に、ゼラチン層と調理用食材とを分離するシートを設けるという特徴的な手段を採用した。上述したように、ゼラチンは実験や検査時における菌の培地として好適な条件を備えている。一方、本発明の構成要件の一つである調理用食材は、生鮮食材などであればたとえ念入りに洗浄しても雑菌を完全に除去することはできない。また、食材自体が菌を保有している場合がある。したがって、このような食材とゼラチン層が直接接触している状態は条件によって菌の爆発的な繁殖を助長することになる。本発明では、これを回避するために分離シートを採用している。シートに求められる性質は、第一に食材が有している菌をゼラチン層に移さないことであるが、シート自体も減菌あるいは滅菌したものを採用することで、より衛生管理面に好ましい結果を与える。また、二次的にシートに求められる性質としては、加熱調理前にシートを取り除く場合にはゼラチン層からの剥離が容易であることである。一般的にゼラチンは粘性が高いので、ゼラチン層にシートが密に接触した場合にはこれを取り除く際にゼラチンが付着する。多くのゼラチンが付着したままのシートを取り除けば、製造時に適切に計算されたスープ量が減量してしまう。したがって、これを回避するために、シートはゼラチンから容易かつ単独で剥離できるものが好ましい。これらの条件を満たすシートの素材としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリオレフィンなどを列挙することができる。なお、シートが沸騰温度で一定時間当初の状態を維持するものであれば、上記二次的な条件は問わない。
【0010】
さらに、このようにして構成された食品は、保存および運搬の便宜のために冷蔵加工を施す手段を採用する。冷蔵加工はいわゆるチルドであり、10℃にて維持される。チルドの場合には食材の組織を壊すことがないので、加熱調理をした場合でも生鮮食品をそのまま調理したと同様の味を実現することができる。なお、本発明にいう冷蔵とは、厳格に食品衛生法で規定する温度条件が求められるのではなく、短期的に低温保存が可能な温度域であれば十分である。また、冷蔵加工の温度域であればゼラチン層は液化あるいは軟化することはなく、加工時そのままの形態を維持する。
【0011】
さらにまた、冷蔵加工よりさらに低温の冷凍加工を施す手段も選択的に採用する。冷凍加工の場合には、零下25℃程度まで急速冷凍することになる。このようにすれば、長期保存および長距離運搬が可能であることは周知である。容器およびシートは、冷凍加工時の温度においても破壊されない素材を選択することになる。
【0012】
製造方法としては、先ず最初の工程では水分の沸騰温度において形状を保持できる上部開口容器を用い、これに対して次の工程では底部に加熱後にはスープ状になるゼラチン層を設ける。続いてゼラチン層を被うように減菌シート又は滅菌シートを設ける。そして最終工程にてシートの上部に加熱調理用食材を載置するという手段を採用する。この状態で冷蔵加工あるいは冷凍加工を選択的に行う。このような一連の手段では、ゼラチン層は容器の底部に比較的均一に設けることになり、その上にシートが被せられるので、食材を載置する工程ではゼラチン層あるいはシート表面があたかも容器の底面のように平坦になり、食材の載置工程も容易になる。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、上述した構成を採用したので、食材は保存中あるいは運搬中に液体に浸漬することがなく、当初の水分量をそのまま保持して消費者に供給されることになり、加熱調理したときでも味を損なうことがない。
【0014】
また、ゼラチン層と調理用食材とはシートによって分離されるので、シートで遮蔽した後は外部からの菌の着床を防止することができる。即ち、たとえ食材に菌が付着していた場合でも食材とゼラチンは直接接触していないので、食材の菌がゼラチンに移行することはなく、冷蔵、冷凍状態から解凍状態になった場合でも食中毒に寄与する雑菌の繁殖を忌避することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の好ましい実施の形態を添付した図面に従って説明する。図1は本発明方法を実現するための工程図を示したもので、製造工程Aで上面が開口した容器1を準備する。容器は食品衛生法に準拠して衛生管理が行われたものを採用する。続く工程Bでは、容器の底部にゼラチンを投入し、適宜平坦化させてゼラチン層2を設ける。工程Cは、ゼラチン層の表面を被って滅菌あるいは減菌シート3を被覆する。工程Dでは、前記工程Cで設けたシートの上に、食材4を配置する。そして、最終的な工程Eで、冷蔵加工あるいは冷凍加工を施して、一連の工程が終了する。
【0016】
なお、本発明の製造方法では、工程Dまでで一応の製造が完了し、工程Eについては食品の性質や運搬距離、調理までの時間などを考慮して、冷蔵、冷凍を選択的に採用することになる。工程Cにおいてシートを被覆する目的は、食材に付着した菌がゼラチン層に移行して繁殖することを回避するためであるが、さらに菌に対する有効な手段として、ゼラチン層の全表面を確実に被ってゼラチン層を外気から遮断することもある。この場合には、空気中に浮遊する菌がゼラチン層に付着することまで防止することができる。
【0017】
次に、図2は本発明品の一実施形態の縦断面図を示したものであり、図中に示した番号は、図1において示した部材と同一である。ここで、容器1は電子レンジ内において水が沸騰する温度でも変形や穴あきが生じないものであることが必要である。例えば樹脂成形品であればポリプロピレンのシート成形品、リサイクルを考慮した場合にはセラミックスの焼成品などを例示することができる。ゼラチン層2を構成するゼラチンは、溶解したときに調理用スープとなるように調整し、コラーゲンなどのゲル状化成分を混合して製造する。ゼラチン層2に必要なことは、電子レンジで加熱した場合には容易に溶解して調理用スープとして機能する一方、冷蔵時や20℃程度までの低温時にはゲル状を維持する物性を付与することである。
【0018】
続いて、本実施形態に適用するシート3は、ゼラチン層2の表面を被うものであり、その後に上から食材を配置した場合でも食材が直接ゼラチン層2に接触しない構成が求められる。これを充足するために、シート3は本実施形態では合成樹脂薄膜や合成樹脂フィルムが適用される。なお、シート3は電子レンジによる調理前に容易に取り除くことができる構成が好ましく、例えばシート3の周囲を図3のように容器1の外側まで延長した構造や、図4に示すようにシート3の一部に一体で舌部5を形成し、この舌部5を引き抜くように構成する。ただし、シート3の素材が一定時間は沸騰温度に曝しても変形や化学変化、あるいは溶解しない性質のものであれば、必ずしも調理前に取り除くことを強制するものではない。その際には、シート3はゼラチン層2と食材4を遮断する構成のみで足りるであろう。
【0019】
シート3のさらなる変形例としては、シート3によってゼラチン層2を外気から確実に遮断するために、ゼラチン層2をシート3で被った後に、シート3の周囲をホットシールなどによって容器1に溶着させることも可能である。そして、この状態で食材4を配置することも可能である。このようにすれば、ゼラチン層2は菌の付着から確実に防御することができる。いずれにしても、シート3に最重要で求められる機能は、シート3によってゼラチン層2を被うことにより、食材4から雑菌がゼラチン層2に転移することを防止するという点であり、これを充足する限りにおいて、その他の付加的な機能を排除する必要はない。
【0020】
本実施形態では、容器の底部にゼラチン層を構成し、さらにシートでゼラチン層を被って食材を配置するようにしたが、食材が雑菌を含まない性質の場合にはシートを省略することもある。ただし、食品衛生面を考慮すると、シートでゼラチン層を被うことが好ましいことはいうまでもない。
【0021】
上述のように構成した調理用食品は、そのままの状態、冷蔵状態、あるいは冷凍状態で消費者に提供されるが、消費者はこれをそのまま電子レンジに投入し、一定時間電子レンジを作動させれば、ゼラチン層が加熱されて溶解し、その溶解スープ中で食材が調理されるので、新鮮な状態から調理を行って食事をすることができる。そして、シートが介在する場合には、調理前、あるいは調理後にシートを取り除くだけで足り、きわめて簡易に生から調理した料理を食することができる。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明製品は、食材として生あるいは生鮮食材を用いることができるので、容易に良好な味の食事を取ることが可能となる。したがって、通常の冷蔵、冷凍食品としての利用のみならず、病院食や介護食にも好適である。なお、本発明は食材として調理済み食材を用いることを排除するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の製造工程を示す工程図
【図2】本発明品の一例を示す縦断面図
【図3】シートの一形態を示す断面図
【図4】シートの変形例を示す斜視図
【符号の説明】
【0024】
1 容器
2 ゼラチン層
3 シート
4 食材
5 舌部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水分の沸騰温度において形状を保持できる上部開口容器と、この容器の底部に収納したゼラチン層と、このゼラチン層の上部に収納した調理用食材からなる加熱調理用食品。
【請求項2】
ゼラチン層と、調理用食材との間に、さらに前記ゼラチン層と調理用食材とを分離するシートを設けた請求項1記載の加熱調理用食品。
【請求項3】
シートは、減菌シート又は滅菌シートである請求項2記載の加熱調理用食品。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか記載の加熱調理用食品は、容器に収納後に冷蔵加工したものである加熱調理用食品。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか記載の加熱調理用食品は、容器に収納後に冷凍加工したものである加熱調理用食品。
【請求項6】
調理用食材は、主に生鮮食材である請求項1〜5のいずれか記載の加熱調理用食品。
【請求項7】
水分の沸騰温度において形状を保持できる上部開口容器に対して、この底部に加熱後にはスープ状になるゼラチン層を設け、さらに前記ゼラチン層を被って減菌シート又は滅菌シートを設け、その後前記シートの上部に加熱調理用食材を載置してなる加熱調理用食材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−312735(P2007−312735A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−148536(P2006−148536)
【出願日】平成18年5月29日(2006.5.29)
【出願人】(501104247)株式会社実能利産業 (4)
【Fターム(参考)】