説明

加飾プラスチック成形品

【課題】 プラスチック成形品の表面に、凹凸感を有した繊細な模様を容易に形成すること、そしてさらには金属をエッチング加工して凹凸状に模様を形成したような視覚効果付与することを技術的課題とするものであり、もって、より高級感を呈するプラスチック成形品を安価に提供することを目的とする。
【解決手段】 加飾プラスチック成形品において、表面に金属状光沢を有した鏡面層を形成し、この鏡面層上に透明塗膜層を形成し、この透明塗膜層上に所定のパターンで光線透過可能なマット仕上げの印刷層を形成し、マット状の印刷部分と鏡面状の非印刷部分により、立体的な視覚効果を有する模様を現出する構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面全体あるいはその一部がメタリック状に加飾されたプラスチック成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
パケージにおける装飾性が商品力の大きな部分を占める化粧料用等の容器においては、塗装、印刷等によりさまざまな装飾性を発揮させて商品イメージを大きく向上させることが望まれている。たとえば特許文献1には、ホットスタンプ法を用いてメタリック状の加飾が立体的に施された化粧料容器に係る発明が記載があり、金属調の光沢を表面に付与することにより高級なイメージを付与することができるとしている。
【特許文献1】特開平6−286397
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記した従来技術は、成形品表面に凸模様を予め一体形成し、その凸模様の上面にホットスタンプにより金属箔を積層する等の方法であり、加飾のための費用が大きくなり、またその加工方法から細かい、繊細な、あるいは精緻な模様の形成が難しく、高級感という点でも不満が残るものである。
【0004】
そこで、本発明は、プラスチック成形品の表面に、凹凸感を有した繊細な模様を容易に形成すること、そしてさらには金属をエッチング加工して凹凸状に模様を形成したような視覚効果付与することを技術的課題とするものであり、もって、より高級感を呈するプラスチック成形品を安価に提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記技術的課題を解決する本発明の内、請求項1記載の発明の手段は、加飾プラスチック成形品において、
表面に金属状光沢を有した鏡面層を形成し、この鏡面層上に透明塗膜層を形成し、この透明塗膜層上に所定のパターンで光線透過可能なマット仕上げの印刷層を形成し、マット状の印刷部分と鏡面状の非印刷部分により、立体的な視覚効果を有する模様を現出する構成とすること、にある。
【0006】
請求項1記載の上記構成により、非印刷部分は金属状の光沢を有した鏡面状とし、印刷部分はマット状(艶消し状)の印刷層により非印刷部分と同様な金属状の光沢を有しながら、艶消し状態とすることができる。
【0007】
ここで、このような成形品に光線が照射すると、この光線の照射方向と観察する目の位置に応じて、両部分の境界を形成するエッジ部の一定領域が輝いて見え、さらには、この輝いて見えるエッジ部を縁取りするように、印刷部分の一部が細帯状に明るく見える領域(以下、縁取り領域と云う。)が観察される。
【0008】
上記した、縁取り領域は鏡面状の非印刷部分のエッジ部近傍に照射した光線が鏡面で反射し、透明塗膜層を透過し、エッジ部近傍の印刷層に至ることにより形成されるものと考えられる。この縁取り領域の見え方は、透明塗膜層の厚さ、光線の照射角度、観察位置、印刷層の厚さおよびこのマット状の印刷層における光の散乱態様によってその明るさ、幅が異なるが、特にこの縁取り領域の幅はいわば、透明塗膜層の厚さ方向の寸法が印刷層に映し出されたようなものである。
【0009】
そして、上記の輝いて見えるエッジ部と、縁取り領域による作用が相俟って、実際には印刷層の厚さ分凹状に形成されている鏡面状の非印刷部分が印刷部分上に浮き上がったように凸状に見えるような視覚効果が発揮される。またマット状の印刷部分が鏡面状の金属をエッチング加工した部分であるかのような視覚効果が付与される。また、印刷層の形成パターンにより文字、図案、絵柄等の模様が形成されるので、ホットスタンプ法等に比較して繊細な模様を容易に現出させることができる。
なお、透明塗膜層の厚さは、厚いほどより深い凹凸感を付与することが可能であるが、厚すぎると塗膜の均一性あるいは塗装工程に関する生産性等が低下するので、これらの要素を考慮しながら決めることができる設計事項である。
【0010】
ここで、表面に金属状の光沢を有した鏡面層を形成する方法としては、蒸着やスパッタリングにより金属薄膜を形成する方法、あるいはアクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂などの透明な合成樹脂をビヒクルとし、これにアルミニウム粉末、銀粉末などの金属粉末を配合、分散した印刷インクで印刷する方法等がある。また、本発明の透明塗膜層、および印刷層は無色に限られず加飾硬化を考慮して着色して使用することもできる。
【0011】
透明塗膜層の形成に使用される塗料としては、鏡面層の保護、そして鏡面層の印刷層に対する密着性を確保するための機能等を考慮して選択する。主としてアクリル樹脂系の塗料を紫外線(UV)硬化させて使用するが、熱乾燥タイプのウレタン樹脂系あるいはエポキシ樹脂系の塗料を使用することもできる。
【0012】
マット仕上げの印刷層の形成に使用される印刷インクとしては、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂などの透明合成樹脂をビヒクルとし、これにシリカ粉末、アルミナ粉末、あるいは合成樹脂粉末などの艶消し用の粉末を配合、分散した蒸発乾燥型あるいは紫外線硬化型の印刷インクが好ましい。
【0013】
また、このような印刷インクの印刷方法としては、スクリーン印刷、オフセット印刷、グラビア印刷、フレキソ印刷等の印刷法が用いられるが、なかでもスクリーン印刷がこの用途に好適である。
【0014】
なお、本請求項1記載の加飾プラスッチク成形品では、上記した作用効果が発揮できる範囲で、さらに、たとえば成形品表面と鏡面層の間にアンカー層を付加したり、透明塗膜層を2層で形成したり、通常の印刷層を付加するように他の層を必要に応じて付加することができる。
【0015】
請求項2記載の発明の手段は、請求項1記載の発明において、透明塗膜層の厚さを5ミクロン以上とすること、にある。
【0016】
請求項2記載の上記構成により、透明塗膜層の厚さを5ミクロン以上とすることにより
縁取り領域をより明確にして、より明確に凹凸に係る視覚効果を発揮させることができる。
【0017】
請求項3記載の発明の手段は、請求項1または2記載の発明において、薄膜層を金属蒸着膜とすることにある。
【0018】
請求項3記載の上記構成により、成形品の広い範囲に金属薄膜を均一、そして鏡面状に形成することができる。なお、蒸着には各種の金属、合金化合物が適応でき、その色調や、材料コスト、蒸着工程のし易さ等を考慮して選択することができる。
【0019】
請求項4記載の発明の手段は、請求項1、2または3記載の発明において、印刷層をべた印刷状に形成し、非印刷部分により模様を現出する構成とすること、にある。
【0020】
請求項4記載の上記構成により、鏡面光沢を有する文字、図案、絵柄等の模様をマット状の領域に浮き上がらせるような、金属のエッチング加工よる装飾効果を容易に現出することができる。そして模様はスクリーン印刷等の印刷により形成されるものであり、細かい、繊細な、あるいは精緻な模様を現出させることができる。
【0021】
請求項5記載の発明の手段は、請求項1、2、3または4記載の発明において、印刷層を形成する印刷インクを微粉状のシリカを分散させたマット状インクとすること、にある。
【0022】
請求項5記載の上記構成により、マトリックスとなる成分中に微粉状のシリカを分散させたマット状インクにより、よりソフトな感じのマット状にすることができ、より効果的に凹凸に係る視覚効果を発揮させることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明は上記した構成であり、以下に示す効果を奏する。
請求項1記載の発明にあっては、光線の照射により印刷部分と非印刷部分の境界におけるエッジ部が輝いて見え、さらには縁取り領域による作用が相俟って、実際には印刷層の厚さ分、凹状に形成されている鏡面状の非印刷部分が印刷部分上に浮き上がったように凸状に見えるような視覚効果が発揮される。
【0024】
また、印刷層の形成パターンにより文字、図案、絵柄等の模様が形成されるので、ホットスタンプ法等に比較して繊細な模様を容易に現出させることができ、鏡面状にした金属材料をエッチング加工したような視覚効果が付与される。
【0025】
請求項2記載の発明にあっては、透明塗膜層の厚さを5ミクロン以上とすることにより明確に凹凸に係る視覚効果を発揮させることができる。
【0026】
請求項3記載の発明にあっては、成形品の広い範囲に金属薄膜を均一、かつ鏡面状に容易に形成することができる。
【0027】
請求項4記載の発明にあっては、鏡面光沢を有する模様をマット状の領域に浮き上がらせるような、金属のエッチングよる装飾効果を容易に現出することができる。またこの模様はスクリーン印刷等の印刷により形成されるものであり、細かく、繊細で、精緻な模様を容易に形成することができる。
【0028】
請求項5記載の発明にあっては、マトリックスとなる成分中に微粉状のシリカを分散させたマット状インクにより、よりソフトな感じのマット状にすることができ、より効果的に凹凸に係る視覚効果を発揮させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。図1は本発明の加飾プラスチック成形品の一実施例を示すものであり、コンパクト容器の蓋体の平面図である。この蓋体はABS樹脂製であり、図2はその縦断面図で、成形品1の上に加飾のため、アンカー層6、鏡面層2である金属の蒸着膜層2a、透明塗膜層3、マット仕上げの印刷層4の順に各層が積層されている。
【0030】
アンカー層6はアクリル樹脂系の塗料をUV硬化させて形成した層であり、蒸着膜層2aの成形品表面への密着性を向上させる機能を有する。また、蒸着膜層3は金属としてアルミニウムを使用し、真空蒸着機で形成した層であり、透明塗膜層3はアクリル樹脂系の塗料をUV硬化させて形成した無色透明な層であり、膜厚は10ミクロン程度である。
【0031】
また、印刷層4はアクリル樹脂をビヒクルとし、これに艶消し用の微粉末としてシリカの微粉末を配合、分散した紫外線硬化型の印刷インクを用いてスクリーン印刷により形成された半透明状の層であり、膜厚は15ミクロン程度である。また、印刷層4は図1で見られる、スター状、雪の結晶状の模様7の部分と周縁部を除いた部分に、スクリーン印刷によりべた状に印刷形成されたものである。
【0032】
この加飾プラスチック成形品を見ると、略平面全体に広がる印刷層4が形成された印刷部分5aはマット状ではあるが鏡面層2の金属の色調が観察され、また
この印刷部分5aの中に、鏡面状の光沢を有したスター状、および雪の結晶状の模様7を現出する非印刷部分5bが配設されている。
ここで、この模様7を現出する非印刷部分5bは、実際には印刷層4の厚さ分だけ凹んでいるのであるが、あたかも印刷部分5a上に浮き上がって凸状に形成されたような視覚効果が発揮され、さらに表面を鏡面状にした金属材料をエッチング加工したような視覚効果が付与され、今までにない高級感を呈する。
【0033】
図3は上記した視覚効果に係るメカニズムを概略説明するためのものであり、図3(a)は、図1中の一つのスター状の模様7を取り出して斜視図で描いたものである。たとえば図中に示されるように左斜め上方から光線Lが照射された場合には、印刷部分5aと非印刷部分5bの境界であるエッジ部8のS2〜S3〜S4の範囲に亘る部分が輝いて見え、また図中このエッジ部8の輝いて見える部分に沿ってハッチングで示した印刷部分5aに、エッジ部8を縁取りするように、他の印刷部分5aとは異なる明るさを有する領域である縁取り領域9が観察される。
【0034】
図3(b)はエッジ部8近傍の縦断面図であり、エッジ部8近傍での鏡面層2による光線Lの反射に係る態様を示したものである。左斜め上方から非印刷部分5bに照射する光線Lのうち、エッジ部8近傍に入照射した光線Lは、鏡面層2で反射して透明塗膜層3を透過して印刷層4に至り、その結果エッジ部8を縁取るようにして細帯状の、他の印刷部分5aに比較して明るく見える部分、すなわち縁取り領域9が観察される。
そして、エッジ部8の輝いて見え部分と、この縁取り領域9によって実際には印刷層4の厚さ分だけ凹状に形成されている模様7がマット状の印刷部分5a上に浮き上がったように凸状に見えるような視覚効果が発揮される。
【0035】
なお、この縁取り領域9の見え方は、透明塗膜層3の厚さ、光線Lの照射角度、観察位置、印刷層4の厚さおよびこのマット状の印刷層4における光の散乱態様等によってその明るさ、幅がことなるが、この縁取り領域9はいわば透明塗膜層3の厚さ方向が印刷層4に映し出されるようなものであり、この透明塗膜層3の厚さが薄すぎると、模様7が浮き上げて見えるような視覚効果が十分発揮されないが、本実施例のように、この膜厚を5ミクロン以上の厚さとすることにより、明確に視覚効果が発揮される。
【0036】
なお、本発明の作用効果は上記実施例に限定されるものではなく、本願の作用効果が発揮される範囲で、さまざまなバリーションを採用することができる。たとえば透明塗膜層および印刷層は無色に限定されるものではなく加飾目的に応じて着色することもできる。また、必要に応じて他の層を付加することができ、通常の印刷インクを用いた印刷による加飾も併用することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明による加飾プラスチック成形品は、金属材料をエッチング加工したような視覚効果により高級感を呈することができ、化粧品容器等の分野での幅広い展開が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の加飾プラスチック成形品の一実施例を示す平面図である。
【図2】図1の成形品において、加飾層の積層状態を示す縦断面図である。
【図3】(a)は図1の成形品における模様近傍を斜視して示す、(b)はエッジ部近傍での光線の反射に係る態様を縦断面で示す概略説明図である。
【符号の説明】
【0039】
1 ;成形品
2 ;鏡面層
2a;蒸着膜層
3 ;透明塗膜層
4 ;印刷層
5a;印刷部分
5b;非印刷部分
6 ;アンカー層
7 ;模様
8 ;エッジ部
9 ;縁取り領域
L ;光線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に金属状光沢を有した鏡面層(2)を形成し、該鏡面層(2)上に透明塗膜層(3)を形成し、該透明塗膜層(3)上に所定のパターンで光線透過可能なマット仕上げの印刷層(4)を形成し、マット状の印刷部分(5a)と鏡面状の非印刷部分(5b)により、立体的な視覚効果を有する模様を現出する構成とした加飾プラスチック成形品。
【請求項2】
透明塗膜層(3)の厚さを5ミクロン以上とした請求項1記載の加飾プラスチック成形品。
【請求項3】
鏡面層(2)を金属蒸着膜とした請求項1または2記載の加飾プラスチック成形品。
【請求項4】
印刷層(4)をべた印刷状に形成し、非印刷部分(5b)により模様を現出する構成とした請求項1、2または3記載の加飾プラスチック成形品。
【請求項5】
印刷層(4)を形成する印刷インクを微粉状のシリカを分散させたマット状インクとした請求項1、2、3または4記載の加飾プラスチック成形品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−144908(P2007−144908A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−345003(P2005−345003)
【出願日】平成17年11月30日(2005.11.30)
【出願人】(000006909)株式会社吉野工業所 (2,913)
【Fターム(参考)】