説明

動体監視方法及びその装置

【課題】部屋内での人の動静状況を常時把握しながら、動静状況に異常が生じた際には素早く検知して報知することが可能な動体監視方法及びその装置を提供する。
【解決手段】動体監視方法は、広帯域の無線電波を、監視しようとする部屋11内の一定位置からパルスとして順次発信する工程と、発信された無線電波の部屋11内での反射波を受信して、反射波の電力遅延プロファイルをA/D変換して記憶手段16に記憶する工程と、記憶手段16に記憶された各プロファイルと基準となる静止プロファイルとの比較から差分プロファイル1を時系列的に得る工程と、時系列的に得られた差分プロファイル1の推移パターンから部屋11内にいる被検者27の監視を行う工程とを有している。ここで、静止プロファイルは、部屋11内に被検者27がいない場合のデータを用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、部屋内での人の動静状況を常時把握しながら、動静状況に異常が生じた際には素早く検知して報知する動体監視方法及びその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、療養施設又は介護施設では、痴呆性や徘徊性を有する被検者に対しては、被検者の安全を確保するため、被検者が着床状態であるか、離床状態であるか、それとも離床しようとしているのか、部屋内にいるか否か、部屋内に人が入室したか否か等の動体情報を遂次把握する必要がある。このため、部屋内にテレビカメラシステムを設置し、モニタにより部屋内での被検者の状況を観察することが行われている(例えば、特許文献1参照)。また、ベッド(寝床)に人体の圧力を検知して作動する複数の感圧スイッチを備えた検出シートを配置して、被検者の離床を検知する装置(例えば、特許文献2参照)や、ベッドボードに取付けた赤外線センサで被検者がベッド上にいるか否かを判定する装置(例えば、特許文献3参照)が提案されている。
【0003】
更に、微弱なマイクロ波インパルスを被検者に向けて送信し被検者による反射信号を受信する際に、送信アンテナ及び受信アンテナの指向性によるマイクロ波反射面の選択とサンプリング距離ゲートによる検知距離の選択を行って被検者の特定部位からの反射信号のみを受信するようにして、被検者がベッドで寝ている状態での呼吸運動及び体移動、被検者がベッドから離れている状態(離床状態)を検知することが提案されている(例えば、特許文献4参照)。
【0004】
また、特許文献5に示すように、超広帯域無線波を特定の人(被検者)に向けて発信し、反射波の受信信号から反射波毎の信号強度の時間変動を観測し、被検者の呼吸数や異常呼吸を検知する呼吸監視方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−338941号公報
【特許文献2】実開平1−155406号公報
【特許文献3】特許第3389376号公報
【特許文献4】特開2002−58659号公報
【特許文献5】特開2009−60989号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1では、モニタを常時観察していないと部屋内における被検者の状況変化に素早く対応することができないという問題がある。また、モニタの観察だけでは被検者の細かな状態変化を正確に把握することが困難であるという問題も生じる。特許文献2では、使用中に検出シートが移動したり、被検者が検出シートを故意に除去してしまうと、被検者が着床しているか、離床しているかを確実に検出することができなくなるという問題がある。特許文献3では、赤外線の光路が寝具等で遮られると、被検者の検出ができなくなるという問題が生じる。そして、特許文献1〜3では、被検者の呼吸数や異常呼吸等の生体情報を検出するには、別途、専用のセンサを設置しなければならず、ベッド回りに多くのセンサが設置されることになって、介護、看護の妨げになると共に、センサの保守及び管理の負担が増加するという問題が生じる。
【0007】
更に、特許文献4では、外乱の影響を避けて被検者の呼吸運動、体移動、及び離床状態を検知することが可能になるが、被検者が大きく移動した場合、被検者の特定部位からの反射信号が受信できなくなるという問題が生じる。また、被検者がベッドから離れてしまうと、被検者のその後の状況を把握することができないという問題が生じる。
特許文献5記載の技術は、被検者の呼吸数又は異常呼吸を検知するものであって、これによって、被検者が特定の場所にいることは確認可能であるが、被検者が部屋の中を移動する場合には検知が難しいという問題があった。
【0008】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、部屋内での人の動静状況を常時把握しながら、動静状況に異常が生じた際には素早く検知して報知することが可能な動体監視方法及びその装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的に沿う第1の発明に係る動体監視方法は、広帯域の無線電波を、監視しようとする部屋内に一定位置からパルスとして順次発信する工程と、
発信された前記無線電波の前記部屋内での反射波を受信して、該反射波の電力遅延(反射遅延時間とその出力の関係を示す電力強度分布)プロファイル(プロファイルデータ)をA/D変換して記憶手段に記憶する工程と、
前記記憶手段に記憶された各プロファイルと基準となる静止プロファイルとの比較から差分プロファイル1(基準差分プロファイル)を時系列的に得る工程と、
前記時系列的に得られた前記差分プロファイル1の推移パターンから前記部屋内にいる被検者の監視を行う工程とを有する。
【0010】
第1の発明に係る動体監視方法において、前記静止プロファイルは、前記部屋内に前記被検者がいない状態のデータ(基準プロファイルデータ)を用いることが好ましい。
また、前記推移パターンは、時系列的に得られた前記差分プロファイル1の立ち上がり位置の変化によって判定することができる。なお、立ち上がり位置の変化から、被検者の動きと被検者の位置が分かる。
【0011】
第1の発明に係る動体監視方法において、前記差分プロファイル1に時間的な変動がなく、これらに対応する各プロファイルの前後の差分データである差分プロファイル2(即ち、前後差分プロファイル)が予め設定された閾値以下であることを条件として、前記被検者の呼吸判定又は心拍判定を行うことが好ましい。
そして、前記呼吸判定又は前記心拍判定は前記各プロファイルの前記被検者の位置に対応するタイミングの信号強度をフーリエ変換して求めることができる。
【0012】
前記目的に沿う第2の発明に係る動体監視装置は、広帯域の無線電波を、監視しようとする部屋内に一定位置からパルスとして順次発信し、発信された前記無線電波の前記部屋内での反射波の電力遅延プロファイルの時間的変化から前記部屋内の被検者の動きを検知する動体監視装置において、
送信手段から発信された前記無線電波の前記部屋内での反射波を受信手段で受信して、該反射波の電力遅延プロファイルをA/D変換して記憶する記憶手段と、
前記記憶手段に時系列的に記憶された各プロファイルと、前記記憶手段に記憶された、前記部屋内に前記被検者がいない状態の静止プロファイルとの差分を演算する基準差分演算手段と、
前記基準差分演算手段で順次得られた差分プロファイル1を時系列に並べて該差分プロファイル1の立ち上がり位置を求め、該立ち上がり位置が変動するか否かを判定する変動判定手段と、
前記変動判定手段で前記差分プロファイル1の立ち上がり位置が変動すると判定されたことを条件として、前記基準差分演算手段で順次得られた差分プロファイル1の立ち上がり位置の変動範囲と前記部屋内の前記被検者の各種行動パターンに対応して予め求めておいた差分プロファイル1の立ち上がり位置の変動を示す変動範囲とを比較して前記被検者の行動パターンを判別し、判別した行動パターンに対応する判別信号を出力する行動判別手段とを有している。
【0013】
第2の発明に係る動体監視装置において、前記行動判別手段の出力に応じて作動する報知手段を有することが好ましい。
また、前記差分プロファイル1に時間的な変動がない場合に、監視が開始された前記部屋内での反射波を受信して順次得られる前記プロファイルのうち前後のプロファイルの差分を演算して前後の差分データ(差分プロファイル2)を求める前後差分演算手段と、
前記前後差分演算手段で得られた前記前後の差分データが予め設定された閾値以下であることを判定して前記被検者の呼吸測定又は心拍測定を行う動体判別手段とを有することが好ましい。
更に、前記動体判別手段は、フーリエ変換器を備えることが好ましい。
そして、前記無線電波の周波数帯域幅は、100MHz以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
第1の発明に係る動体監視方法及び第2の発明に係る動体監視装置においては、広帯域の無線電波を用いるので、部屋内に遮蔽物が存在しても被検者からの反射波を受信することができ、被検者の動静状態を容易に監視することができる。また、無線電波の電力スペクトル密度は小さく、被検者や部屋内で使用する電子機器に及ぼす影響も低い。
【0015】
第1の発明に係る動体監視方法において、静止プロファイルとして、部屋内に被検者がいない状態のデータを用いる場合、差分プロファイル1を活動している被検者が関与するデータのみで構成することができる。
【0016】
第1の発明に係る動体監視方法において、推移パターンを、時系列的に得られた差分プロファイル1の立ち上がり位置の変化によって判定する場合、部屋内の被検者の各種行動パターンに対応させて差分プロファイル1の立ち上がり位置の変動を示す変動範囲を予め把握しておくだけで、被検者の部屋内における行動パターンを正確かつ迅速に判別することができる。
【0017】
第1の発明に係る動体監視方法において、差分プロファイル1に時間的な変動がなく、これらに対応する各プロファイルの前後の差分データが予め設定された閾値以下であることを条件として、被検者の呼吸判定又は心拍判定を行う場合、前後の差分データの大きさに応じて監視内容を自動的に変更することができる。
【0018】
第1の発明に係る動体監視方法において、呼吸判定又は心拍判定を各プロファイルの被検者の位置に対応するタイミングの信号強度をフーリエ変換して求める場合、新たにセンサを使用する必要が生じないため、安価に呼吸判定又は心拍判定を行うことができる。
【0019】
第2の発明に係る動体監視装置において、行動判別手段の出力に応じて作動する報知手段を有する場合、被検者の動静状態を容易かつ確実に把握することができ、動静状態に変化が生じた際には素早く対応することができる。
【0020】
第2の発明に係る動体監視装置において、差分プロファイル1に時間的な変動がない場合に、監視が開始された部屋内での反射波を受信して順次得られるプロファイルのうち前後のプロファイルの差分を演算して前後の差分データを求める前後差分演算手段と、前後差分演算手段で得られた前後の差分データが予め設定された閾値以下であることを判定して被検者の呼吸測定又は心拍測定を行う動体判別手段とを有する場合、前後の差分データ(差分プロファイル2)の大きさ(動静状況)に応じて監視内容を自動的に変更することができる。
【0021】
第2の発明に係る動体監視装置において、動体判別手段が、フーリエ変換器を備える場合、新たにセンサを使用する必要が生じないため、安価に呼吸判定又は心拍判定を行うことができる。
【0022】
第2の発明に係る動体監視装置において、無線電波の周波数帯域幅が、100MHz以上である場合、無線電波をパルスとして発信することができ、部屋内で反射した反射波の電力遅延プロファイルを容易に求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一実施の形態に係る動体監視装置によって監視される部屋の平面図である。
【図2】同動体監視装置の構成を示すブロック図である。
【図3】部屋内の反射波を受信して得られた電力遅延プロファイルである。
【図4】被検者がベッド上で睡眠状態である場合の電力遅延プロファイルである。
【図5】本発明の一実施の形態に係る動体監視装置の監視動作のフローチャートである。
【図6】実施例における部屋の平面図である。
【図7】(A)は実施例で被検者が部屋内で移動する場合に得られた差分プロファイル1の電力変動のグラフであり、(1)〜(6)の数字はそれぞれ被検者の動作を示している((1):寝ている状態、(2):上体を起こした状態、(3):ベッドに腰掛けた状態、(4):部屋を出て行く状態、(5):部屋に誰もいない状態、(6):部屋に入ってくる状態)。(B)は(1)〜(3)の部分を拡大したグラフである。
【図8】(A)、(B)、(C)は実施例で被検者が部屋内でルート1、ルート2、ルート3の異なる経路を移動する場合に得られた差分プロファイル1の電力変動のグラフである。
【図9】(A)は実施例で被検者がベッドで寝ている場合に対応する計測タイミングで得られたプロファイルの時間的な電力変動のグラフ、(B)はそのスペクトル強度のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
図1に示すように、本発明の一実施の形態に係る動体監視装置10は、例えば、療養施設又は介護施設に収容されている被検者27が生活を行う部屋11に、広帯域の無線電波を部屋11内の一定位置からパルスとして順次発信し、発信された無線電波の部屋11内での反射波の電力遅延プロファイルの時間的変化から部屋11内の被検者27の動きを検知するものである。ここで、部屋11には、例えば、入退室用のドア14と、被検者27が使用するベッド15が設置されている。以下、詳細に説明する。
【0025】
図1、図2に示すように、動体監視装置10は、例えば、部屋11内に被検者27がいない場合に、送信手段12に接続された送信アンテナ21から発射した無線電波の部屋11内における反射波を、受信アンテナ22を介して受信手段13で受信し、その電力遅延プロファイル(プロファイルデータ)をA/D変換して静止プロファイル(静止プロファイルデータ)として記憶すると共に、監視が開始された部屋11、すなわち被検者27がいる部屋11内に向けて無線電波を発射し、部屋11内での反射波を受信して得られる反射波の電力遅延プロファイルをA/D変換して記憶する記憶手段16と、記憶手段16に時系列的に記憶された各プロファイルと、記憶手段16に記憶された静止プロファイルとの差分(差分プロファイル1)を演算する基準差分演算手段17とを有している。
【0026】
また、動体監視装置10は、基準差分演算手段17で順次得られた差分プロファイル1を時系列に並べてその立ち上がり位置を求め、立ち上がり位置が変動するか否かを判定する変動判定手段18と、変動判定手段18で差分プロファイル1の立ち上がり位置が変動すると判定されたことを条件として、基準差分演算手段17で順次得られた差分プロファイル1の立ち上がり位置の変動範囲と部屋11内の被検者27の各種行動パターンに対応して予め求めておいた差分プロファイル1の立ち上がり位置の変動を示す変動範囲とを比較して被検者27の行動パターンを判別し、判別した行動パターンに対応する判別信号を出力する行動判別手段19とを有している。
【0027】
更に、動体監視装置10は、差分プロファイル1に時間的な変動がない場合に、監視が開始された部屋11内での反射波を受信して順次得られるプロファイルのうち前後のプロファイルの差分を演算して前後の差分データ(差分プロファイル2)を求める前後差分演算手段23と、前後差分演算手段23で得られた前後の差分データが予め設定された閾値以下であることを判定して被検者27の呼吸測定を行う動体判別手段24と、行動判別手段19及び動体判別手段24の出力に応じて作動する報知手段20とを有している。ここで、動体判別手段24は、差分プロファイル1の立ち上がり位置でのプロファイルのデータの時間変動の波形を高速フーリエ変換してスペクトル強度分布を求めるフーリエ変換器と、求めたスペクトル強度分布における最大ピークに対応する周波数から被検者27の呼吸回数を求める演算器を備えている。
【0028】
ここで、送信アンテナ21と受信アンテナ22は、例えば、部屋11内に4つあるコーナー部のひとつ(図1では、ドア14に近接したコーナー部)に連接する天井部分に設けられた図示しない取付け部材を介して、部屋11の床面から一定の高さ位置に保持されるように並べて設置されている。これによって、送信アンテナ21から無線電波を部屋11内の多方面に向けて発射することができ、部屋11内の多方面の場所で反射した反射波を受信アンテナ22で受信することができる。
【0029】
送信アンテナ21から発射される無線電波の周波数帯域幅は100MHz以上、好ましくは300MHz以上、より好ましくは500MHz以上、更に好ましくは1GHz以上である。なお、周波数帯域幅の上限は特に指定されない。広帯域の無線電波を使用することで、無線電波の送信出力を小さくすることができ、被検者27や部屋11内に設置されている電子機器に及ぼす無線電波の影響を小さくできる。また、無線電波の周波数帯域幅を100MHz以上とすることで、無線電波をパルスとして順次発信することができると共に、部屋11内で反射した反射波を反射パス長に対応した時間軸上で分離して受信することができる。図3に示すように、電力遅延プロファイルにおいて、動体監視装置10から被検者27までの距離は既知であるため被検者27からの反射波は容易に推定でき、このとき床や壁からの反射波と分離することができる。
【0030】
ここで、送信手段12には、従来の広帯域無線電波用の送信機を使用することができる。一方、受信手段13には、例えば、直接反射波の信号強度を高速に計測することで、反射波の電力遅延プロファイルが容易に得られるもの、また、記憶手段16には、例えば、メモリ(ROM)を使用することができる。
【0031】
基準差分演算手段17は、被検者27がいる部屋11内に向けて無線電波を発射して得られる電力遅延プロファイルと、記憶手段14に記憶されている静止プロファイルとの差分を演算して差分プロファイル1を順次求める機能を発現するプログラムを、例えばCPUに組み込むことで形成することができる。また、変動判定手段18は、基準差分演算手段17で順次得られた差分プロファイル1を時系列に並べて差分プロファイル1の立ち上がり位置を求め、求めた立ち上がり位置が時間的に変動するか否かを判定し、求めた立ち上がり位置が時間的に変動する場合は立ち上がり位置を行動判別手段19に出力する機能を発現するプログラムを、例えばCPUに組み込むことで形成することができる。
【0032】
行動判別手段19は、変動判定手段18で差分プロファイル1の立ち上がり位置が変動すると判定されたことを条件として、基準差分演算手段17で順次得られた差分プロファイル1の立ち上がり位置の変動範囲を求め、求めた変動範囲と部屋11内の被検者27の各種行動パターンに対応して予め求めておいた差分プロファイル1の立ち上がり位置の変動を示す変動範囲とを比較して変動範囲に対応する被検者27の行動パターンを判別し、判別した人の行動パターンに対応する判別信号を報知手段20に向けて出力する機能を発現するプログラムを、例えばCPUに組み込むことで形成することができる。
【0033】
前後差分演算手段23は、差分プロファイル1に時間的な変動がない場合に、監視が開始された部屋11内での反射波を受信して順次得られるプロファイルのうち前後のプロファイルの差分を演算して差分プロファイル2を求める機能を発現するプログラムを、例えばCPUに組み込むことで形成することができる。動体判別手段24は、前後差分演算手段23で得られた差分プロファイル2が予め設定された閾値以下であることを判定して、差分プロファイル1の立ち上がり位置に対応するタイミングのプロファイルのデータをフーリエ変換して被検者27の呼吸測定を行い、呼吸測定信号を出力する機能を発現するプログラムを、例えばCPUに組み込むことで形成することができる。
【0034】
報知手段20は、行動判別手段19からの判別信号及び動体判別手段24からの呼吸測定信号に応じて作動し、例えば、被検者27や被検者27以外の者の行動パターン、及び被検者27の単位時間当たりの呼吸回数を、表示器25に表示させる機能と、判別信号が部屋11内から被検者27が出ようとしている状態である場合、部屋11内に被検者27以外の者が入ろうとしている状態である場合、又は呼吸測定信号が消失した(無動作状態である)場合に、警報器26を作動させる機能をそれぞれ発現させるプログラムを、例えばCPUに組み込むことで形成することができる。
【0035】
ここで、図4に、被検者27がベッド15上で睡眠状態である場合に得られた空気の吸い込み時における電力遅延プロファイル及び吐き出し時における電力遅延プロファイルをそれぞれ示す。なお、図4には、吸い込み時の電力遅延プロファイル及び吐き出し時の電力遅延プロファイルの差分から得られる呼吸波形も示す。
図4に示す吸い込み時又は吐き出し時の電力遅延プロファイルは、被検者27の呼吸運動に伴う胸部や腹部の動きに対応するもので、電力遅延プロファイルの変動は非常に小さいことが分かる。これに対して、被検者27がベッド15上で寝ていても、例えば、手、腕、足を動かす、寝返る、頭を動かす等の動作を行う場合における電力遅延プロファイルは、図4の電力遅延プロファイルより大きく変化することが予測される。また、被検者27が無動作状態(呼吸動作も停止した状態)である場合に得られる電力遅延プロファイルの変動は、ほぼ0となることが予測できる。
【0036】
従って、被検者27が睡眠状態において得られる差分プロファイル2が予め設定した閾値を超えている場合、被検者27は睡眠状態でないと判断でき、変動判定手段18を作動させ、変動判定手段18で差分プロファイル1の立ち上がり位置が変動すると判定されると、行動判別手段19を作動させることができる。また、差分プロファイル1の変動に応じて、例えば、起床から離床状態への推移が判定される。一方、差分プロファイル1に時間的な変動がなく、差分プロファイル2が予め設定した閾値以下である場合、被検者27は睡眠状態と判断でき、前後差分演算手段23及び動体判別手段24を作動させて被検者27の呼吸測定を行うことができる。
【0037】
ここで、行動判別手段19では、部屋11内の被検者27がベッド15で起床して離床しようとしている状態での差分プロファイル1の立ち上がり位置が変動する範囲を離床状態領域として、また、部屋11内の被検者27がベッド15から離れて(離床して)部屋11内で移動している状態での差分プロファイル1の立ち上がり位置が変動する範囲を移動状態領域として、更に、部屋11内の被検者27がドア14を開けて部屋11の外へ出ようとしている状態での差分プロファイル1の立ち上がり位置が変動する範囲を退室状態領域として、そして、新たに人がドア14を開けて部屋11の中に入ろうとしている状態での差分プロファイル1の立ち上がり位置が変動する範囲を入室状態領域としてそれぞれ記憶している。従って、行動判別手段19は、差分プロファイル1の立ち上がり位置の変動範囲が離床状態領域や移動状態領域であると、被検者27の行動パターンを部屋11内での移動と判別し、被検者27がベッド15から離床、又は部屋11内で移動しているという行動パターンに対応する判別信号を出力する。また、差分プロファイル1の立ち上がり位置の変動範囲が退室状態領域であると、部屋11から被検者27が出ようとしている状態の行動パターンと判別し、被検者27が部屋11内から出ようとしているという行動パターンに対応する判別信号を出力する。更に、差分プロファイル1の立ち上がり位置の変動範囲が入室状態領域であると、部屋11に被検者以外の者が入ろうとしている状態の行動パターンと判別し、部屋11内に被検者以外の者が入ろうとしているという行動パターンに対応する判別信号を出力する。
【0038】
続いて、図5に示すフローチャートに基づいて、本発明の一実施の形態に係る動体監視方法及び動体監視装置10の作用について説明する。
被検者27がいる部屋11内に、部屋11内の一定位置から無線電波を発射した際に得られる反射波は、部屋11内の壁、床、ベッド15等の静止物のみが関与した反射波と、被検者27が関与した反射波とが重なり合ったものとなる。
【0039】
このため、無人の部屋11内に向けて送信アンテナ21から無線電波を発射して部屋11内の静止物のみが関与した反射波の電力遅延プロファイルを静止プロファイル(基準プロファイルデータ)として記憶手段16に予め記憶しておき、被検者27がいる部屋11内に無線電波を発射した際に得られる反射波の電力遅延プロファイルと静止プロファイルから基準差分演算手段17で差分プロファイル1(基準差分プロファイル)を求めると、差分プロファイル1は被検者27が関与した反射波のみを含むことになる。この差分プロファイル1の推移パターンから被検者27の行動を判断することができる。
ここで、差分プロファイル1が予め設定した閾値を超えた場合、被検者27は睡眠状態でないとして、変動判定手段18で差分プロファイル1の立ち上がり位置が反射波の受信時刻の経過に伴って変動しているか否かが判定される。そして、差分プロファイル1の立ち上がり位置が変動する場合、部屋11内で被検者27が移動していると判断(行動観測)される。
【0040】
行動判別手段19には、部屋11内の被検者27がベッド15で起床して離床しようとしている状態における差分プロファイル1の立ち上がり位置が変動する範囲が離床状態領域として、また、部屋11内の被検者27がベッド15から離れて(離床して)部屋11内を移動している状態における差分プロファイル1の立ち上がり位置が変動する範囲が移動状態領域として、部屋11内の被検者27がドア15を通過して部屋11の外に出ようとしている状態における差分プロファイル1の立ち上がり位置が変動する範囲が退室状態領域として、更に、ドア15を通って部屋11内へ被検者以外の者が入ろうとしている状態における差分プロファイル1の立ち上がり位置が変動する範囲が入室状態領域としてそれぞれ記憶されている。
【0041】
このため、基準差分演算手段17で得られる差分プロファイル1の立ち上がり位置が離床状態又は移動状態領域で変動する場合、行動判別手段19は被検者27がベッド15から離れようとしているか、又は離れ、部屋11内を移動している状態の行動パターンと判別し、報知手段20を介して被検者27がベッド15から離床又は部屋11内を移動しているという行動パターンを表示器25に表示する(動作軌跡測定)。また、差分プロファイル1の立ち上がり位置が離床又は退室状態領域を変動する場合、行動判別手段19はベッド15から離れ又は部屋11内から被検者27が出ようとしている状態の行動パターンと判別し、報知手段20を介して被検者27がベッド15から離れ又は部屋11内から出ようとしているという行動パターンを表示器25に表示すると共に、警報器26を作動させる(離床警報、退室警報)。これによって、部屋11内にいる被検者27が高齢又は傷病を伴いベッド15から離れようとする際には転倒、転落の防止を、また、徘徊性を有する際には、徘徊防止を図ることが可能になる。更に、差分プロファイル1の立ち上がり位置が入室状態領域を変動する場合、行動判別手段19は部屋11内へ被検者27以外の者が入ろうとしている状態の行動パターンと判別し、報知手段20を介して部屋11内へ被検者27以外の者が入ろうとしているという行動パターンを表示器25に表示すると共に、警報器26を作動させる。これによって、部屋11内に不審者が侵入するのを防止することができる。
【0042】
一方、差分プロファイル1に時間的な変動がない場合であって、差分プロファイル2(前後差分プロファイル)のデータが予め設定された閾値以下である場合、被検者27は睡眠状態であると動体判別手段24において判断され(動作観測)、呼吸判定(即ち、呼吸測定)が行われる。ここで、呼吸判定は、差分プロファイル1の立ち上がり位置に対応するタイミングのプロファイルデータの時間変動(呼吸波形)をフーリエ変換して得られる被検者27の単位時間当たりの呼吸回数である。その結果は呼吸測定信号として報知手段20に入力され、表示器25に表示される。なお、フーリエ変換して得られる被検者27の呼吸回数が予め設定した値以下に下がった場合は、危険状態又は無動作状態(呼吸動作も停止した状態)と判定され、警報器26が作動する。これによって、部屋11内にいる被検者27が呼吸をしていないという異常状況に素早く対応することができる。
【実施例】
【0043】
図6に、監視対象の部屋の平面図を示す。部屋は幅が3.3m、奥行き3.4mでその床面積は11.22mである。送信アンテナ及び受信アンテナはホーン型で、部屋のドアが設置されたコーナー部で床面からの高さが2.2mの位置に0.17mの間隔を設けて並べて設置されている。
【0044】
部屋内には被検者が寝るベッドが設置され、ベッドに寝ている被検者とアンテナ(送信アンテナ又は受信アンテナ)との直線距離は3.2mである。送信アンテナから発射される広帯域の電波無線の中心周波数は3.9GHz、周波数帯域幅は0.5GHzである。また、アンテナの3dBビーム幅はE−plainが50°、H−plainが60°である。なお、実施例ではベクトルネットワークアナライザを用い、タイムドメイン機能を利用して無線伝送路の電力遅延プロファイルを取得した。
【0045】
図7(A)に、ベッド上に寝ている被検者がベッドの上で上体を起こし、ベッドの側部(ドア側)に腰掛け、ドアに向かって移動し、部屋を出て行き(部屋は無人状態になり)、再び部屋に被検者が入っていく一連の動作を行った際に測定した差分プロファイル1の電力変動の状態を示す。なお、図7において、横軸はドア(送信アンテナ、受信アンテナ)からの距離、縦軸は取得した電力遅延プロファイルのフレーム数(経過時間に対応)、紙面に垂直な軸は電力の変動量を示す。また、図7(B)は、(1)〜(3)を拡大したものである。
【0046】
図7(A)、(B)から、被検者が部屋の中にいる場合、電力の変動するポイントは被検者がいる位置に現れることが確認できた。すなわち、被検者がベッド上に寝ている場合は、図7(A)の領域(1)に示されるように、ドアからベッドまでに相当する距離の場所に差分プロファイル1の電力変動が現れた。また、被検者がベッドの上で上体を起こし、ベッドの側部に腰掛けるという一連の動作を行うと、図7(A)の領域(2)、(3)に示されるように、ドアからベッドまでに相当する距離の場所での差分プロファイル1の電力変動のパターンが変化した。これは、図7(B)を見ると顕著に現れていることが分かる。更に、被検者がベッドから立ち上がってドア方向に近づくと、図7(A)の領域(4)に示されるように、差分プロファイル1の電力変動ポイントがドアに近づき、部屋が無人状態になると、図7(A)の領域(5)に示されるように、差分プロファイル1の電力変動ポイントが消滅した。そして、被検者が部屋に入ってベッド方向に移動すると、図7(A)の領域(6)に示されるように、差分プロファイル1の電力変動ポイントもドア側からベッドに近づいていった。
【0047】
また、図8(A)、(B)、(C)には、被検者がベッドからルート1、ルート2、ルート3(図6参照)の異なる経路を通ってそれぞれドアに近づいて部屋から出て行き、再び部屋に入って出た時と同一の経路を通ってそれぞれベッドに戻る場合に求めた差分プロファイル1の電力変動を示す。図7(A)と同様に、被検者がドアの方向に近づくと、差分プロファイル1の電力変動ポイントもドアに近づいていき、再び被検者が部屋に入ってベッド方向に移動すると差分プロファイル1の電力変動ポイントもベッドに近づくことが確認でき、更に、ルートによって差分プロファイルの電力変動ポイントの軌跡が異なることが分かった。
【0048】
図9(A)に、ベッドで被検者が寝ている場合に求めた電力遅延プロファイルの300秒間に亘る(被検者の位置に対応するタイミングの)受信信号強度の時間変動を示す。なお、図9(A)には、従来から使用されているワイヤセンサを用いて測定した呼吸動作の時間変動も併せて示している。また、図9(B)に、図9(A)に示す受信信号強度の時間変動の波形をフーリエ変換して得られた電力スペクトルを示す。図9(B)に示すように、受信信号強度の時間変動、ワイヤセンサで測定した呼吸動作の時間変動はともに、約0.12Hz(7回/分)の位置にピークが観測され、受信信号強度の時間変動から、呼吸判定できることが確認できた。
【0049】
以上、本発明を、実施の形態を参照して説明してきたが、本発明は何ら上記した実施の形態に記載した構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載されている事項の範囲内で考えられるその他の実施の形態や変形例も含むものである。
例えば、送信アンテナ及び受信アンテナとして、それぞれ別のアンテナを設けたが、送信手段から無線電波は一定の時間間隔で発射されるので、無線電波が発射されていない時間範囲で反射波を受信手段で受信する場合は、送信アンテナと受信アンテナをひとつのアンテナで兼用することができる。
更に、動体判別手段では、電力遅延プロファイルを取得するフレーム間隔を、例えば0.1秒又はそれ以下に短くすることにより、心拍数測定を行うこともできる。
なお、本実施の形態では、療養施設又は介護施設に収容されている被検者を対象としたが、被験者を独居老人とすると、その安否の確認を行うことができ、被検者を店舗や美術館等の展示場、駐車場、ATM等の利用者とすると、利用者の中から不審者を発見し警報を出すことができる。更に、動体監視方法及び動体監視装置は、動物園や家庭で飼育されている動物、動物病院に収容されている病気動物の異常行動のモニタリングにも対応できる。
【符号の説明】
【0050】
10:動体監視装置、11:部屋、12:送信手段、13:受信手段、14:ドア、15:ベッド、16:記憶手段、17:基準差分演算手段、18:変動判定手段、19:行動判別手段、20:報知手段、21:送信アンテナ、22:受信アンテナ、23:前後差分演算手段、24:動体判別手段、25:表示器、26:警報器
、27:被検者

【特許請求の範囲】
【請求項1】
広帯域の無線電波を、監視しようとする部屋内に一定位置からパルスとして順次発信する工程と、
発信された前記無線電波の前記部屋内での反射波を受信して、該反射波の電力遅延プロファイルをA/D変換して記憶手段に記憶する工程と、
前記記憶手段に記憶された各プロファイルと基準となる静止プロファイルとの比較から差分プロファイル1を時系列的に得る工程と、
前記時系列的に得られた前記差分プロファイル1の推移パターンから前記部屋内にいる被検者の監視を行う工程とを有することを特徴とする動体監視方法。
【請求項2】
請求項1記載の動体監視方法において、前記静止プロファイルは、前記部屋内に前記被検者がいない状態のデータを用いることを特徴とする動体監視方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の動体監視方法においては、前記推移パターンは、時系列的に得られた前記差分プロファイル1の立ち上がり位置の変化によって判定することを特徴とする動体監視方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1記載の動体監視方法において、前記差分プロファイル1に時間的な変動がなく、これらに対応する各プロファイルの前後の差分データからなる差分プロファイル2が予め設定された閾値以下であることを条件として、前記被検者の呼吸判定又は心拍判定を行うことを特徴とする動体監視方法。
【請求項5】
請求項4記載の動体監視方法において、前記呼吸判定又は前記心拍判定は前記各プロファイルの前記被検者の位置に対応するタイミングの信号強度をフーリエ変換して求めることを特徴とする動体監視方法。
【請求項6】
広帯域の無線電波を、監視しようとする部屋内に一定位置からパルスとして順次発信し、発信された前記無線電波の前記部屋内での反射波の電力遅延プロファイルの時間的変化から前記部屋内の被検者の動きを検知する動体監視装置において、
送信手段から発信された前記無線電波の前記部屋内での反射波を受信手段で受信して、該反射波の電力遅延プロファイルをA/D変換して記憶する記憶手段と、
前記記憶手段に時系列的に記憶された各プロファイルと、前記記憶手段に記憶された、前記部屋内に前記被検者がいない状態の静止プロファイルとの差分を演算する基準差分演算手段と、
前記基準差分演算手段で順次得られた差分プロファイル1を時系列に並べて該差分プロファイル1の立ち上がり位置を求め、該立ち上がり位置が変動するか否かを判定する変動判定手段と、
前記変動判定手段で前記差分プロファイル1の立ち上がり位置が変動すると判定されたことを条件として、前記基準差分演算手段で順次得られた差分プロファイル1の立ち上がり位置の変動範囲と前記部屋内の前記被検者の各種行動パターンに対応して予め求めておいた差分プロファイル1の立ち上がり位置の変動を示す変動範囲とを比較して前記被検者の行動パターンを判別し、判別した行動パターンに対応する判別信号を出力する行動判別手段とを有することを特徴とする動体監視装置。
【請求項7】
請求項6記載の動体監視装置において、前記行動判別手段の出力に応じて作動する報知手段を有することを特徴とする動体監視装置。
【請求項8】
請求項6又は7記載の動体監視装置において、前記差分プロファイル1に時間的な変動がない場合に、監視が開始された前記部屋内での反射波を受信して順次得られる前記プロファイルのうち前後のプロファイルの差分を演算して前後の差分データからなる差分プロファイル2を求める前後差分演算手段と、
前記前後差分演算手段で得られた前記差分プロファイル2が予め設定された閾値以下であることを判定して前記被検者の呼吸測定又は心拍測定を行う動体判別手段とを有することを特徴とする動体監視装置。
【請求項9】
請求項8記載の動体監視装置において、前記動体判別手段は、フーリエ変換器を備えることを特徴とする動体監視装置。
【請求項10】
請求項6〜9のいずれか1項に記載の動体監視装置において、前記無線電波の周波数帯域幅は、100MHz以上であることを特徴とする動体監視装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図9】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−96198(P2011−96198A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−252285(P2009−252285)
【出願日】平成21年11月2日(2009.11.2)
【出願人】(802000031)財団法人北九州産業学術推進機構 (187)
【Fターム(参考)】