説明

動力伝達構造

【課題】他部材とのスペースの取り合いを抑制し、設計的な自由度を拡げることを可能とする。
【解決手段】リング・ギヤ25及びピニオン・ギヤ29を有するギヤ組31と、ギヤ組31を収容すると共に端部にリング・ギヤ25を回転軸方向から組み付け可能とする開口61を有する第1のケース部分55と、開口61に取り付けられて分配ケース5を構成する第2のケース部分57とを有し、開口61の内周側に、第2のケース部分57を螺合により結合したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、4輪駆動車等の動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、4輪駆動車等の動力伝達装置として、例えば動力分配機構周辺の構造が特許文献1に記載されている。
【0003】
この構造では、ケース本体に対してケース端部が前輪車軸の軸方向に突き合わされ、ケース外周側において前輪車軸の軸方向に向けて挿入されたボルトにより締結される構造となっていた。
【0004】
このため、ケースの外周側半径方向に、ボルトを取り付けるためのスペースを確保する必要があり、他部材、例えばエンジンとのスペースの取り合いを招き、設計的な自由度が阻害されるという問題があった。
【0005】
【特許文献1】特開昭62−59130号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
解決しょうとする問題点は、他部材とのスペースの取り合いを招き、設計的な自由度が阻害される点である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、他部材とのスペースの取り合いを抑制し、設計的な自由度を拡げるため、大径ギヤ及び小径ギヤを有するギヤ組と、前記ギヤ組を収容すると共に端部に大径ギヤを回転軸方向から組み付け可能とする開口を有する第1のケース部分と、前記開口に取り付けられてケースを構成する第2のケース部分とを有し、 前記開口の内周側又は外周側に、前記第2のケース部分を嵌合又は螺合により結合したことを最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の動力伝達構造では、大径ギヤ及び小径ギヤを有するギヤ組と、前記ギヤ組を収容すると共に端部に大径ギヤを回転軸方向から組み付け可能とする開口を有する第1のケース部分と、前記開口に取り付けられてケースを構成する第2のケース部分とを有し、 前記開口の内周側又は外周側に、前記第2のケース部分を嵌合又は螺合により結合したため、ボルトを取り付けるためのスペースの確保が不要となり、他部材とのスペースの取り合いを抑制し、設計的な自由度を拡げることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
他部材とのスペースの取り合いを抑制し、設計的な自由度を拡げるという目的を、第1,第2のケース部分の嵌合又は螺合により実現した。
【実施例1】
【0010】
[動力分配機構の構造]
図1は、動力分配機構の断面図、図2は、同側面図である。
【0011】
図1,図2の動力分配機構1は、本実施例の動力伝達装置を構成し、フロント・デファレンシャル装置への駆動入力を後輪側へ分配するものである。動力分配機構1のケースである分配ケース5を貫通して前輪側の中間軸3が貫通支持されている。
分配ケース5は、ボルト挿通部7,9,11,13,15,17等を備え、ボルト挿通部7,9,11,13,15,17等に挿通したボルトによりトランスミッション側のベル・ハウジングに取り付けられている。
分配ケース5内には、フロント・デファレンシャル装置のデフ・ケースから回転部材である連結中空軸19が延設されている。連結中空軸19は、中間軸3の外周に嵌合している。
連結中空軸19には、一端側外周に結合用のスプライン部20が設けられ、他端側内周にセンタリング部21が設けられている。センタリング部21は、中間軸3をセンタリングしている。センタリング部21には、軸方向にオイルを導く螺旋溝23が形成されている。
【0012】
連結中空軸19の中間部には、フランジ部24が設けられている。フランジ部24に、大径ギヤとしてのリング・ギヤ25がボルト26により締結固定され、リング・ギヤ25は、後輪側出力軸27のピニオン・ギヤ29に噛み合っている。リング・ギヤ25及びピニオン・ギヤ29は、ベベル・ギヤで形成され、ギヤ組31を構成している。
【0013】
連結中空軸19は、テーパー・ローラ・ベアリング33,35により分配ケース5に支持されている。
【0014】
テーパー・ローラ・ベアリング33,35の軸方向に隣接して連結中空軸19と分配ケース5との間にシール37,39が介設されている。一方のシール39の軸方向外側に隣接して中間軸3と分配ケース5との間に、シール41が介設されている。シール41の軸方向外側には、中間軸3に取り付けられたダスト・カバー42が設けられている。
【0015】
シール41が摺接する中間軸3の一部である大径部43は、連結中空軸19のセンタリング部21内周側に位置する中間部45より大径に形成され連結中空軸19の端部47に対して軸方向に対向するように配置されている。連結中空軸19の端面には、溝49が形成され、シール39,41間の空間部51に連通している。
【0016】
後輪側出力軸27は、テーパー・ローラ・ベアリング53等により分配ケース5に支持されている。
【0017】
分配ケース5は、第1,第2,第3のケース部分55,57,59からなっている。
【0018】
第1のケース部分55は、開口61を有している。開口61は、リング・ギヤ25を回転軸方向から組み付け可能とする。開口61の端部内周に雌ねじ部63が形成されている。
【0019】
第2のケース部分57は、前記開口61に取り付けられて分配ケース5を構成する。第2のケース部分57は、開口61の内周側に嵌合する環状壁部65を備えている。環状壁部65には、雄ねじ部67が形成されている。第2のケース部分57は、雄ねじ部67が開口61の雌ねじ部63に螺合して開口61の内周側に結合されている。従って、第1のケース部分55に対する第2のケース部分57の雌ねじ部63及び雄ねじ部67による螺合で、前記第2のケース部分57を前記リング・ギヤ25の回転軸方向で位置調整可能としている。この位置調整は、第2のケース部分57に形成された六角形のチャック部分58を工具でチャックして正逆回転させることにより行うことができる。
雄ねじ部63には、固定部としてナット64が締結され、第2のケース部分57の緩み止めが行われている。従って、第1のケース部分55に対する第2のケース部分57の螺合の緩みを規制する固定部を設けた構成となっている。
環状壁部65の先端には、環状のシール壁部69が設けられている。シール壁部69は、前記リング・ギヤ25の軸方向に突設され前記開口61の内周側に嵌合する。シール壁部69は、回転軸方向でベアリングであるテーパー・ローラ・ベアリング35よりもリング・ギヤ25側に突出した構成となっている。シール壁部69は、回転部材である連結中空軸19のフランジ部24の半径方向に対向している。この対向により、配置スペースの軸方向のコンパクト化に寄与している。シール壁部69を、リング・ギヤ25の半径方向に対向する構成にすることで、配置スペースをさらに有効活用することができる。
【0020】
シール壁部69には、凹部71が周回状に形成され、オイル・シールとしてオー・リング73が収容されている。オー・リング73は、開口61の内周側に接し、開口61とシール壁部69との間に、オイルの流通を阻止するオイル・シールを設けた構成となっている。
【0021】
第2のケース部分57の内周側には、軸受け収容部75とシール受け部77,79が軸方向に連接されている。軸受け収容部75に、前記テーパー・ローラ・ベアリング35が支持されている。従って、リング・ギヤ25は、第2のケース部分57にベアリングであるテーパー・ローラ・ベアリング35を介して回転自在に支持された構成となっている。シール受け部77,79には、シール39,41が密接している。
第3のケース部分59は、第1のケース部分55に結合されている。第3のケース部分59には、軸受け収容部83が設けられ、前記テーパー・ローラ・ベアリング53が支持されている。従って、分配ケース5は、ピニオン・ギヤ29を支持する第3のケース部分59を備えた構成となっている。
分配ケース5の内部には、オイルが収容されている。
[動力伝達]
フロント・デファレンシャル装置のデフ・ケースへ入力された駆動力は、左右
サイド・ギヤへ伝達されると共に、連結中空軸19、リング・ギヤ25、ピニオン・ギヤ29、後輪側出力軸27へと分配される。
フロント・デファレンシャル装置のサイド・ギヤからは、中間軸3を介して一方の前輪車軸へ出力される。
【0022】
[実施例1の効果]
本発明実施例1では、リング・ギヤ25及びピニオン・ギヤ29を有するギヤ組31と、前記ギヤ組31を収容すると共に端部にリング・ギヤ25を回転軸方向から組み付け可能とする開口61を有する第1のケース部分55と、前記開口61に取り付けられて分配ケース5を構成する第2のケース部分57とを有し、前記開口61の内周側に、前記第2のケース部分57を螺合により結合したため、図2のように開口61の外周側にボルトを取り付けるためのスペースの確保が不要となり、他部材、例えばエンジンとのスペースの取り合いを抑制し、設計的な自由度を拡げることができる。
【0023】
第2のケース部分57に、前記開口61の内周側に螺合する環状壁部65を備え、前記環状壁部65の先端に、前記リング・ギヤ25の軸方向に突設され前記開口61の内周側に嵌合する環状のシール壁部69を設け、前記開口61の内周側と前記シール壁部69との間に、オイルの流通を阻止するオーリング73を設け、前記分配ケース55の内部に、オイルを収容したため、開口61の外周側の張り出しを、より確実に抑制することができる。
【0024】
リング・ギヤ25は、前記第2のケース部分57にテーパー・ローラー・ベアリング35を介して回転自在に支持され、前記シール壁部69は、回転軸方向で前記テーパー・ローラー・ベアリング35よりもリング・ギヤ25側に位置するため、オーリング73の配置スペースを有効に確保することができる。
【0025】
リング・ギヤ25は、連結中空軸19のフランジ部24に一体回転可能に固定され、前記シール壁部69は、前記フランジ部24の半径方向に対向しているため、オイルの動的跳ね上げからオーリング73を保護することができ、シール機能の耐久性を向上させることができる。
第1のケース部分55に対する第2のケース部分57の螺合の緩みを規制するナット64を設けたため、第1のケース部分55に対する第2のケース部分57の確実な固定を行わせることができる。
第1のケース部分55に対する第2のケース部分57の螺合は、前記第2のケース部分57を前記リング・ギヤ25の回転軸方向で位置調整可能とするため、テーパー・ローラー・ベアリング33,35のプリロード調整が容易であり、組み付け性、分解性の向上を図ることができる。
【0026】
[固定部の変形例]
図3,図4は、固定部の変形例を示す要部拡大断面図である。
【0027】
図3の変形例では、固定部としてピン85を用いた。図4の変形例では、固定部としてスナップ・リング87を用いた。
【0028】
その他の構成は、上記同様である。
【0029】
その他の固定部構造として、熔接を用いることもできる。
【実施例2】
【0030】
図5,図6は、本発明の実施例2に係り、図5は、終減速装置周辺の平断面図、図6は、同側面図である。なお、実施例1と対応する構成部分には、同符号にAを付して説明する。
【0031】
本実施例は、動力伝達装置として終減速装置周辺の構造を適用したものである。終減速装置1Aは、ケースとしてキャリヤ・ケース5Aを備え、キャリヤ・ケース5Aは、第1のケース部分55Aと第2のケース部分57Aとからなっている。
【0032】
第1のケース部分55Aには、ドライブ・ピニオン・シャフト89がテーパー・ローラー・ベアリング91,93により回転自在に支持され、ドライブ・ピニオン・シャフト89に、小径ギヤであるドライブ・ピニオン・ギヤ29Aが設けられている。
【0033】
第2のケース部分57A内には、リヤ・デファレンシャル装置97が配置されている。リヤ・デファレンシャル装置97の回転部材であるデフ・ケース19Aは、ベアリングであるテーパー・ローラー・ベアリング33A,35Aにより第1のケース部分55Aと第2のケース部分57Aとに回転自在に支持されている。
【0034】
デフ・ケース19Aのフランジ部24Aには、ボルト26Aにより大径ギヤであるリング・ギヤ25Aが締結固定されている。リング・ギヤ25Aは、ドライブ・ピニオン・ギヤ29Aに噛み合い、終減速装置1Aのギヤ組31Aを構成する。
第2のケース部分57Aのシール壁部69Aは、フランジ部24Aに対し半径方向に対向している。
本実施例の凹部71A及びオーリング73Aは、第1のケース部分55A側に設けられている。
【0035】
従って、本実施例においても、リング・ギヤ25A及びドライブ・ピニオン・ギヤ29Aを有するギヤ組31Aと、前記ギヤ組31Aを収容すると共に端部にリング・ギヤ25Aを回転軸方向から組み付け可能とする開口61Aを有する第1のケース部分55Aと、前記開口61Aに取り付けられてキャリヤ・ケース5Aを構成する第2のケース部分57Aとを有し、前記開口61Aの内周側に、前記第2のケース部分57Aを螺合により結合したため、図2のように開口61Aの外周側にボルトを取り付けるためのスペースの確保が不要となり、他部材、例えば燃料タンクや荷室とのスペースの取り合いを抑制し、設計的な自由度を拡げることができる。
【0036】
その他、実施例1と同様な効果を奏することができる。
【0037】
なお、本実施例においても、図3,図4のピン85,スナップ・リング87の固定部を用いることができる。
[その他]
上記実施例では、第2のケース部分を、第1のケース部分の開口内周側に螺合する構成としたが、開口外周側に螺合する構成であっても、ボルトによる結合に比較して外周への張り出しを抑制することができる。
【0038】
第1のケース部分に対し第2のケース部分を嵌合により結合することもできる。
【0039】
第1,第2のケース部分の材料は、共にアルミ材を用いて軽量化することもできるし、何れか一方を鉄材にしても良い。また、共に鉄材を選定することもできる。ケースの材料の選定は、強度、質量、剛性、形状の自由度、熱膨張による影響や付加部材との取り付け特性上の安定性など種々の技術課題を考慮して行われる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】動力分配機構の断面図である(実施例1)。
【図2】動力分配機構の側面図である(実施例1)。
【図3】固定部の変形例を示す要部拡大断面図である(実施例1)。
【図4】固定部の変形例を示す要部拡大断面図である(実施例1)。
【図5】終減速装置周辺の平断面図である(実施例2)。
【図6】終減速装置周辺の側面図である(実施例2)。
【符号の説明】
【0041】
1 動力分配機構(動力伝達装置)
1A 終減速装置(動力伝達装置)
5 分配ケース(ケース)
5A キャリヤ・ケース(ケース)
25,25A リング・ギヤ(大径ギヤ)
29 ピニオン・ギヤ(小径ギヤ)
29A ドライブ・ピニオン・ギヤ(小径ギヤ)
31,31A ギヤ組
35,35A テーパー・ローラー・ベアリング(ベアリング)
59 第3のケース部分
61,61A 開口
64 ナット(固定部)
65,65A 環状壁部
69,69A シール壁部
73,73A オーリング(オイル・シール)
85 ピン(固定部)
87 スナップ・リング(固定部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
大径ギヤ及び小径ギヤを有するギヤ組と、
前記ギヤ組を収容すると共に端部に大径ギヤを回転軸方向から組み付け可能とする開口を有する第1のケース部分と、
前記開口に取り付けられてケースを構成する第2のケース部分とを有し、
前記開口の内周側又は外周側に、前記第2のケース部分を嵌合又は螺合により結合した、
ことを特徴とする動力伝達装置。
【請求項2】
請求項1記載の動力伝達装置であって、
前記第2のケース部分に、前記開口の内周側に嵌合又は螺合する環状壁部を備え、
前記環状壁部の先端に、前記大径ギヤの軸方向に突設され前記開口の内周側に嵌合する環状のシール壁部を設け、
前記開口の内周側と前記シール壁部との間に、オイルの流通を阻止するオイルシールを設け、
前記ケースの内部に、オイルを収容した、
ことを特徴とする動力伝達装置。
【請求項3】
請求項2記載の動力伝達構造であって、
前記大径ギヤは、前記第2のケース部分にベアリングを介して回転自在に支持され、
前記シール壁部は、回転軸方向で前記ベアリングよりも大径ギヤ側に位置する、
ことを特徴とする動力伝達装置。
【請求項4】
請求項2記載の動力伝達構造であって、
前記大径ギヤは、回転部材に一体回転可能に固定され、
前記シール壁部は、前記大径ギヤ又は回転部材の半径方向に対向している、
ことを特徴とする動力伝達装置。
【請求項5】
請求項1〜4の何れかに記載の動力伝達構造であって、
前記第1のケース部分に対する第2のケース部分の嵌合又は螺合の抜け又は緩みを規制する固定部を設けた、
ことを特徴とする動力伝達装置。
【請求項6】
請求項1〜5の何れかに記載の動力伝達構造であって、
前記第1のケース部分に対する第2のケース部分の螺合は、前記第2のケース部分を前記大径ギヤの回転軸方向で第1のケース部分に対して位置調整可能とする、
ことを特徴とする動力伝達装置。
【請求項7】
請求項1記載の動力伝達構造であって、
前記ギヤ組は、ベベル・ギヤ組であり、
前記大径ギヤは、リング・ギヤであり、
前記小径ギヤは、ピニオンである、
ことを特徴とする動力伝達装置。
【請求項8】
請求項7記載の動力伝達構造であって、
前記ケースは、前記ピニオンを支持する第3のケース部分を備えた、
ことを特徴とする動力伝達装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−111487(P2008−111487A)
【公開日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−294851(P2006−294851)
【出願日】平成18年10月30日(2006.10.30)
【出願人】(000225050)GKN ドライブライン トルクテクノロジー株式会社 (409)
【Fターム(参考)】