説明

動力伝達機構の制御装置

【課題】駆動力源の発生する動力を変速して伝達する動力伝達機構に供給する潤滑油量あるいは潤滑油の油温を制御することによって車両の減速度を制御する動力伝達機構の制御装置を提供する。
【解決手段】車両Veが走行慣性力などによって減速走行をおこなう場合に、エンジン1の発生する動力を変速して伝達する自動変速機構2に供給する潤滑油量あるいは潤滑油の油温を制御することによって、自動変速機構2の動力伝達効率η’を制御して車両Veの減速度を制御するように構成されている。したがって、自動変速機構2に供給する潤滑油量あるいは潤滑油の油温を制御することによって、自動変速機構2の動力伝達効率η’が制御できるから、これによって任意の減速度を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両の動力を伝達する動力伝達機構の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エンジンによって駆動されるオイルポンプに対する負荷を増減させることにより、車両の制駆動力を制御する技術が知られている。その例を挙げると、特許文献1には、車両が減速をおこなう場合に、エンジンによって駆動される油圧ポンプの吐出口をブレーキ用油圧モータの吸入口に連通し、そのブレーキ用油圧モータが発電機を駆動することによって油圧ポンプの吐出口の油圧を増大させるように構成された発明が記載されている。すなわち、クランク軸にかかる負荷を増大させて、車両の制動力を増大させるように構成された発明が記載されている。
【0003】
また特許文献2には、車両に対する減速要求が増大した場合に、制御弁を制御してオイルポンプの油室から吐出されるオイル流量を増大させることにより、オイルの吐出抵抗を低下させて、オイルポンプにおけるトルクの伝達を低下させるように構成された発明が記載されている。換言すれば、オイルポンプの吐出量を制御することにより、クランクシャフトとインプットシャフトとの間で伝達されるトルクを制御するように構成された発明が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−86884号公報
【特許文献2】特開2007−56934号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した特許文献1および2に記載された各発明によれば、車両が減速をおこなう場合に、オイルポンプの吐出量が増大するように制御することによって、車両の制駆動力を制御するように構成されている。しかしながら、オイルポンプの吐出量が増大(変化)すると、オイルが供給される被潤滑部では、その吐出量の増大(変化)にともなって、オイルの撹拌損失が変化して被潤滑部のトルク伝達効率や燃費などの効率が変化する。換言すれば、上述した特許文献1および2に記載された各発明では、オイルポンプの吐出量の増大にともなう撹拌損失の変化が考慮されていないので、適切な制駆動力を得ることができない。
【0006】
この発明は上記の技術的課題に着目してなされたものであり、車両の減速走行時などにおいて、被潤滑部に供給する潤滑油を制御することにより、適切な制駆動力を確保することのできる駆動力制御装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、車両に搭載された駆動力源の発生する動力を変速して伝達し、かつ供給される潤滑油に応じて動力伝達効率が変化する動力伝達機構の制御装置において、前記車両が目標とする目標減速度を算出する目標減速度算出手段と、前記目標減速度算出手段によって算出された前記目標減速度に基づいて、その目標減速度を満たす前記動力伝達機構の動力伝達効率を算出する目標効率算出手段と、前記目標効率算出手段によって算出された前記動力伝達機構の目標効率を満たす前記動力伝達機構に供給される潤滑油による抵抗を算出する潤滑油抵抗算出手段と、前記潤滑油抵抗算出手段によって算出された前記潤滑油による抵抗に基づいて、前記動力伝達機構に供給する前記潤滑油を調整する潤滑油調整手段とを備えていることを特徴とするものである。
【0008】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記潤滑油調整手段は、前記動力伝達機構に供給する潤滑油量と油温との少なくともいずれか一方を調整する手段を含むことを特徴とする動力伝達機構の制御装置である。
【0009】
請求項3の発明は、請求項1の発明において、前記動力伝達機構は、油圧によって係合要素同士が選択的に係合させられて変速比が制御される自動変速機構、あるいは締結することによって動力を伝達する締結機構のいずれか一方を含むことを特徴とする動力伝達機構の制御装置である。
【発明の効果】
【0010】
請求項1の発明によれば、車両が減速をおこなう場合に、先ず目標減速度が算出され、その目標減速度を満たす動力伝達機構の動力伝達効率が算出され、その動力伝達効率を満たすように潤滑油が調整されて動力伝達機構に供給される。このように請求項1の発明によれば、目標減速度から算出された動力伝達効率を満たすように、動力伝達機構に供給される潤滑油による抵抗が調整されるので、車両の減速に要求される減速度を適切に得ることができる。また、潤滑油による抵抗を制御することにより、動力伝達機構の動力伝達効率を制御して、任意の減速度を得ることができるので、過大な車速の落ち込みを抑制もしくは低減できる。そしてまた、過大な車速の落ち込みを抑制もしくは低減できるので、車両の再加速が容易になり、再加速時の燃費を向上させることができる。
【0011】
請求項2の発明によれば、請求項1の発明による効果と同様の効果に加えて、潤滑油量あるいは潤滑油の油温のいずれか一方を調整することによって動力伝達機構の動力伝達効率が制御される。すなわち、潤滑油量を増減することによって、いわゆる撹拌損失あるいは引き摺り損失(抵抗)を調整し、また油温を調整することによって、潤滑油の粘度を調整して動力伝達機構の動力伝達効率が制御される。したがって、動力伝達機構に供給される潤滑油量あるいは潤滑油の油温を調整することによって、動力伝達機構の動力伝達効率を制御することができ、車両の減速に要求される減速度を適切に得ることができる。
【0012】
請求項3の発明によれば、請求項1の発明による効果と同様の効果に加えて、動力伝達機構が油圧によって係合要素同士が選択的に係合させられて変速比が制御される自動変速機構である場合には、潤滑油の撹拌損失によって減速度が制御される。また動力伝達機構が締結することによって動力を伝達する締結機構である場合には、締結機構に供給される潤滑油のいわゆる引き摺り損失によって車両の減速度が制御される。したがって、撹拌損失あるいは引き摺り損失によって車両の減速度を制御することができる。また、潤滑油量あるいは潤滑油の油温を制御することによって、任意の減速度を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】この発明に係る制御装置の制御例を説明するためのフローチャートである。
【図2】自動変速機構の締結要素に供給する潤滑油量を増大させ、いわゆる潤滑油の引きずりを増大させて車両の減速度を発生させることを説明するための模式図である。
【図3】この発明に係る制御装置の他の制御例を説明するためのフローチャートである。
【図4】この発明で制御の対象とする車両の一例を模式的に示す図である。
【図5】油圧制御装置によって流量調整された圧油を自動変速機構の係合要素に供給する潤滑回路を模式的に示す図である。
【図6】油量調整部の構成を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
つぎにこの発明を具体例を参照して説明する。図4は、この発明で制御の対象とする車両Veの一例を模式的に示す図である。図4において、この発明で対象とする車両Veは、内燃機関(以下、エンジンと記す)を備えており、エンジン1の出力側に、例えばトルクコンバータなどの流体伝動装置を介して自動変速機構2が連結されている。そして、自動変速機構2の出力側に、例えばプロペラシャフト3およびデファレンシャル4ならびにドライブシャフト5などを介して、駆動輪6が連結されている。なお、エンジン1の出力側には、エンジン1の出力トルクにより駆動されて作動するオイルポンプ7が連結されている。
【0015】
エンジン1の出力トルクは、流体伝動装置を介して自動変速機構2に入力され、その自動変速機構2において設定される変速比に応じて変速されて、駆動トルクとして駆動輪6へ伝達されるようになっている。
【0016】
エンジン1は、例えばガソリンエンジンやディーゼルエンジンあるいはLPGエンジンなどの燃料を燃焼させて動力を出力する内燃機関1であって、所定の条件下において、燃料の供給停止(以下、フューエルカットと記す)を制御できるように構成されている。
【0017】
自動変速機構2は、例えば、油圧を電気的に制御して変速比を変更する変速制御をおこなういわゆる電子制御式の変速機であり、その自動変速機構2に一体化して設けられた油圧制御装置8を制御することにより、変速段もしくは変速比の切り換え・変更を行うように構成されている。
【0018】
油圧制御装置8は、電子制御装置(ECU)9からの制御信号によってリニアソレノイドバルブあるいはプライマリレギュレータバルブなどを作動させてオイルポンプ7が発生させた油圧を調圧(制御)し、自動変速機構2の係合要素10および締結要素11を係合(締結)あるいは解放するように構成されている。また、オイルポンプ7が吐出した圧油は潤滑回路12に供給され、流量調整用リニアソレノイドバルブ13あるいはオリフィス14によって流量調整されて自動変速機構2の係合要素10および締結要素11に供給されるように構成されている。
【0019】
電子制御装置(ECU)9は、エンジン1の運転状態、および自動変速機構2の変速比(もしくは変速段)を変更する変速制御を実行させるための油圧制御装置8の動作状態を制御するように構成されている。この電子制御装置9は、一例として中央演算処理装置(CPU)および記憶装置(RAM,ROM)ならびに入出力インターフェースを主体とするマイクロコンピュータにより構成されていて、電子制御装置9には、例えば、エンジン1の回転数を検出するエンジン回転数センサ15あるいは車速Vを検出する車輪速センサ16や車両Veの走行状態を推定するための加速度を検出する加速度センサなどの出力信号、あるいは、アクセルペダル(図示せず)の踏み込み量を検出するアクセル開度センサ17からのアクセル開度信号、あるいは自車両Veと前方の他車両との車間距離を検出するレーダクルーズシステム18からの信号やナビゲーションシステム19から取得される交通情報や道路情報などの信号などが制御データとして入力されるようになっている。
【0020】
また、電子制御装置(ECU)9からは、燃料の供給を一時的に停止するフューエルカット制御信号20、自動変速機構2の変速比を変更する変速制御信号21、自動変速機構2の係合要素10もしくは締結要素11に供給する潤滑油量(オイルレベル)を調整する油量調整信号22などを出力するように構成されている。
【0021】
上述したフューエルカット制御を開始するための所定の条件の一例を挙げると、車速Vが所定の復帰車速V以上であること、もしくはエンジン1の回転数が所定の復帰回転数以上であること、また要求駆動量すなわちアクセル開度が所定値以下であることであり、これらの条件が成立した場合に、フューエルカット制御が実行される。フューエルカット制御を実行するためのフューエルカット制御信号20は、電子制御装置9あるいは図示しないフューエルカットを制御するフューエルカット制御コンピュータから出力するように構成されている。
【0022】
図5は、上述した油圧制御装置8によって流量調整された圧油を自動変速機構2の係合要素10もしくは締結要素11に供給する潤滑回路12を模式的に示す図であって、自動変速機構2のオイル溜まり部2aに貯留された潤滑油は、オイルポンプ7によって油圧制御装置8の油量調整部23に供給されて、さらに油量が調整されて自動変速機構2の係合要素10もしくは締結要素11に供給されるように構成されている。
【0023】
また、図6は、油量調整部23の構成を模式的に示す図であって、図6(a)は、潤滑回路12を切替えることによって油量を調整するように構成された油量調整部23を模式的に示す図である。図6(a)において、流通する油量が相対的に多い油路12aと流通する油量が相対的に少ない油路12bとは、切替弁24によって切替えられるように構成されている。この切替弁24は、リターンスプリング24aの弾性力に抗するようにスプール24bの移動が電気的に制御されて油路を切替えるように構成されている。これらの潤滑回路12には、流量調整用のオリフィス14が介在させられており、係合要素10もしくは締結要素11に供給する潤滑油量(オイルレベル)が調整できるように構成されている。流通する油量が相対的に多い油路12aには大口径のオリフィス14aが設けられ、相対的に多い油量が供給されるように構成されている。一方、流通する油量が相対的に少ない油路12bには小口径のオリフィス14bが設けられ、相対的に少ない油量が供給されるように構成されている。すなわち、オリフィス14によって流通する油量が相対的に多い油路12aの管径Dが流通する油量が相対的に少ない油路12bの菅径dより大きくなるように構成されている。なお、小口径のオリフィス14bを二つ以上設けることにより、管径dを小さくして油量を更に少量にすることもできる。
【0024】
図6(b)は、流量調整用リニアソレノイドバルブ13を制御することによって流通する潤滑油量(オイルレベル)を調整するように構成された油量調整部23を模式的に示す図である。すなわち、流量調整用リニアソレノイドバルブ13のスプール13aの移動を電気的に制御することによって、流量調整用リニアソレノイドバルブ13の吐出ポート13bの開度を調整して潤滑油量(オイルレベル)を調整するように構成されている。
【0025】
この発明に係る動力伝達機構の制御装置は、車両Veが減速をおこなう場合であって、かつフューエルカット制御が実行される場合に、自動変速機構2の係合要素10に供給される潤滑油量(オイルレベル)を制御することによって、車両Veの制駆動力を制御するように構成されている。ここで、車両Veの駆動力は下記の式で表わされる。
【0026】
F=(Te−Tf−Th)×e×iAT×idiff×η/Rtire−R/L
【0027】
上記の式において、Fは車両Veの駆動力を示し、Teはエンジントルク、Tfはエンジン1およびオイルポンプ7などの補機のフリクショントルク、Thは補機トルク、eはトルク比をそれぞれ示している。iATは自動変速機構2のギア比を示し、idiffはディファレンシャルの変速比(最終減速比)をそれぞれ示している。また、ηは自動変速機構2の駆動効率(動力伝達効率)を示している。さらに、Rtireは車輪半径を示し、R/Lはロードロード(走行抵抗)をそれぞれ示している。
【0028】
上述した車両Veが減速走行をおこなう場合であって、かつフューエルカット制御が実行されている場合は、エンジントルクが発生しないので、Te=0が上述の式に与えられる。したがって、TfおよびThならびにe(トルク比)さらにiATおよびidiffが一定とみなされる場合に、自動変速機構2の駆動効率(動力伝達機構)ηの変化に応じて、車両Veの駆動力Fが変化する。言い換えれば、駆動効率(動力伝達機構)ηは、例えば自動変速機構2に供給される潤滑油量(オイルレベル)の増減にともなって変化する。すなわち、潤滑油量(オイルレベル)を制御することにより、自動変速機構2の駆動効率(動力伝達機構)ηを制御することができるので、潤滑油量(オイルレベル)を制御することにより、車両Veの駆動力Fを制御することができる。
【0029】
そのため、この発明に係る制御装置は以下の制御を実行するように構成されている。図1は、その制御例を説明するためのフローチャートであって、このフローチャートで示されるルーチンは、所定の短時間毎に繰り返し実行される。
【0030】
図1において、先ず、アクセルペダル(図示せず)の踏み込み量を検出するアクセル開度センサ17からのアクセル開度信号が検出され、アクセルペダルが踏み込まれていない、いわゆるアクセルOFF状態であるか否かが判断される(ステップS1)。
【0031】
アクセルペダルが踏み込まれていないアクセルOFF状態であることにより、ステップS1で肯定的に判断された場合に、そのステップS1での制御に続けて、フューエルカット制御を開始するか否かが判断される(ステップS2)。すなわち、要求駆動力がないアクセルOFFであり、かつエンジン1の回転数が所定の復帰回転数以上であることにより、フューエルカット制御の開始条件を満たしているか否かが判断される。フューエルカット制御の開始条件を満たしている場合は、ステップS2で肯定的に判断され、これとは反対にフューエルカット制御の開始条件を満たしていない場合には否定的に判断される。
【0032】
フューエルカット制御の開始条件を満たしていることにより、ステップS2で肯定的に判断されると、ステップS2の制御に続けて、車両Veの目標減速度が算出される(ステップS3)。この目標減速度は、例えばレーダークルーズシステム18から得られる自車両Veと前方の他車両との車間距離、また例えばナビゲーションシステム19などから得られる道路の混雑情報を含む交通情報および道路勾配ならびに車両Veの現在の位置情報、さらにまた車速Vなどから算出される。
【0033】
ステップS3の制御に続けて、ステップS2で算出された目標減速度を満たす自動変速機構2の目標効率(目標動力伝達効率)η’が算出される(ステップS4)。
【0034】
ステップS4の制御に続けて、ステップS4で算出された目標効率η’が下限効率η以上であるか否かが判断される(ステップS5)。例えば自動変速機構2の係合(回転)要素に供給される潤滑油量(オイルレベル)が増加すると、係合(回転)要素の撹拌損失(抵抗)が変化して、動力伝達効率が変化する。しかしながら、自動変速機構2がそのケーシングの内部に貯留できる潤滑油量(オイルレベル)あるいは自動変速機構2の係合(回転)要素に供給できる潤滑油量(オイルレベル)には限りがあるから、このステップS5では、自動変速機構2のケーシングの内部に最大潤滑油量(オイルレベル)を貯留した場合の効率あるいは自動変速機構2の係合(回転)要素に最大潤滑油量を供給した場合の効率のいずれか一方を下限効率ηとして設定する。目標効率η’が下限効率η以上である場合には、ステップS5で肯定的に判断される。これとは反対に、目標効率η’が下限効率ηよりも小さい場合には、自動変速機構2の動力伝達効率を下限効率ηよりも小さくすることができないとして否定的に判断されてステップS6に進み、目標効率η’が下限効率ηに設定される。なお、下限効率ηは、上述したように自動変速機構2に最大潤滑油量(オイルレベル)を供給した場合の最低動力伝達効率であって、実験やシミュレーションなどによって予め求めることができる。
【0035】
ステップS5の制御に続けて、目標効率η’が上限効率η以下であるか否かが判断される(ステップS7)。例えば自動変速機構2の係合(回転)要素に供給される潤滑油量が減少すると、係合(回転)要素の撹拌損失(抵抗)が変化して、動力伝達効率が変化する。係合(回転)要素が十分に潤滑されており、また潤滑油による冷却に問題がないとした場合に、係合(回転)要素に供給する潤滑油量を調整して、撹拌損失を生じさせなければ、一般的に動力伝達効率は向上する。しかしながら、潤滑油には、係合(回転)要素を潤滑したり冷却したりするので、係合(回転)要素に供給する潤滑油量が予め定められた所定値以下である場合には、係合(回転)要素が十分に潤滑されず、また冷却が十分にされないのでいわゆる焼き付けなどの不具合を生じる虞がある。このステップS7では、自動変速機構2に不具合を生じさせない最低潤滑油量(オイルレベル)を供給した場合の効率を上限効率ηとして設定する。目標効率η’が上限効率η以下である場合には、ステップS7で肯定的に判断される。これとは反対に、目標効率η’が上限効率ηよりも大きい場合には、自動変速機構2の動力伝達効率を上限効率ηよりも大きくできないとして否定的に判断されて、ステップS8に進み、目標効率η’が上限効率ηに設定される。なお、上限効率ηは、上述したように自動変速機構2に最小潤滑油量(オイルレベル)を供給した場合の最高動力伝達効率であって、実験やシミュレーションなどによって予め求めることができる。
【0036】
ステップS6あるいはステップS7あるいはステップS8の制御に続けて、算出された目標効率η’に基づいて、自動変速機構2の潤滑油量(オイルレベル)が算出される(ステップS9)。すなわち、自動変速機構2は供給される潤滑油量(オイルレベル)によって撹拌損失が変化して、動力伝達効率が変化するから、自動変速機構2の動力伝達効率が供給される潤滑油の撹拌損失によって低下して、目標効率η’となるような潤滑油量(オイルレベル)が算出される。
【0037】
ステップS9の制御に続けて、自動変速機構2の潤滑油量(オイルレベル)がステップS9で算出された潤滑油量(オイルレベル)になるように油圧制御装置8が制御されて、自動変速機構2に供給される潤滑油量(オイルレベル)が調整される(ステップS10)。すなわち、目標減速度が得られるように、潤滑油量(オイルレベル)が調整される。
【0038】
ステップS10の制御に続けて、フューエルカット制御から復帰するか否かが判断される(ステップS11)。フューエルカット制御から復帰する場合の条件は、例えばアクセルペダルが踏み込まれて要求駆動力が発生したこと、あるいはエンジン1の回転数が予め定めた復帰回転数以下であること、あるいは車速Vが復帰車速以下になったことであり、これらの条件のいずれか一つが満たされた場合には、肯定的に判断されてフューエルカット制御から従前の駆動状態に復帰する。これとは反対に、フューエルカット制御からの復帰条件が満たされない場合は否定的に判断され、ステップS3に戻り、従前の制御が繰り返される。すなわち、フューエルカット制御からの復帰条件が満たされるまで、上記のステップS3ないしステップS10の制御が繰り返し実行される。
【0039】
ステップS11の制御に続けて、自動変速機構2の撹拌損失を変化させる潤滑油量(オイルレベル)の調整が解除される(ステップS12)。
【0040】
したがって、図1に示す制御によれば、自動変速機構2の潤滑油量(オイルレベル)を調整することにより、係合(回転)要素の撹拌損失(抵抗)が制御されるので、車両Veの減速度を任意に設定することができ、また減速度を制御することができる。
【0041】
前述したステップS1で否定的に判断された場合は、アクセルペダルが踏み込まれて要求駆動力が生じているアクセルON状態であるから、減速度を制御する必要がないとしてこのルーチンを一旦終了する。また、前述したステップS2で否定的に判断された場合は、フューエルカット制御の実行条件を満たしておらず、エンジン1が自立して駆動されている状態であるとして、このルーチンを一旦終了する。
【0042】
ところで、上述した制御例では自動変速機構2の係合(回転)要素による撹拌損失によって車両Veの減速度を制御するように構成されているが、現在の変速比の形成に関わっていない締結要素であるクラッチのいわゆる引き摺り損失(すなわち抵抗)によっても減速度を制御することができる。すなわち、遊星歯車機構を2列ないし3列組み合わせて構成される一般的な自動変速機構2の締結要素11の摩擦損失(引き摺り損失)によって減速度を制御することができる。
【0043】
図2は、自動変速機構2の締結要素11に供給する潤滑油量を増大させることによって、いわゆる締結要素11による潤滑油の引き摺り損失(抵抗)を増大させて車両Veの減速度を発生させることを説明するための模式図であって、図2(a)は、自動変速機構2の係合(回転)要素の固定あるいは連結に関わっていない締結要素11の通常状態を示し、図2(b)は、締結要素11に供給する潤滑油量を増加させることによって、いわゆる潤滑油の引き摺り損失(抵抗)を増大させた場合を模式的に示す図である。図2(a)において、自動変速機構2の係合(回転)要素の固定あるいは連結に関わっていない摩擦板25と摩擦相手板26とは空転しており、また、その対向する摩擦面27には自動変速機構2の動力伝達効率を向上させるために、適量の潤滑油が供給されている。したがって、摩擦板25および摩擦相手板26による潤滑油の引き摺り損失(抵抗)は最小限に抑えられている。
【0044】
これとは反対に、図2(b)に示すように、対向して配置された摩擦板25と摩擦相手板26との間に供給する潤滑油量を増加させた場合には、摩擦板25と摩擦相手板26とによる潤滑油の引き摺り損失(抵抗)が増大させられる。したがって、その引き摺り損失(抵抗)によって車両Veの減速度を得ることができ、また供給する潤滑油量を制御することによって車両Veの減速度を制御することができる。
【0045】
図3はその制御例を説明するためのフローチャートであり、上述した図1に示す制御で締結要素11の潤滑油の引き摺り損失(抵抗)によって車両Veの減速度を制御するように構成した例である。したがって、図3に示す制御例は、図1に示す制御例を一部変更したものであるから、図3において図1と同じ制御ステップには、図1と同じ符号を付してその説明を省略する。
【0046】
図3において、ステップS6あるいはステップS7あるいはステップS8の制御に続けて、算出された目標効率η’に基づいて、締結要素11に供給される潤滑油量が算出される(ステップS13)。すなわち、自動変速機構2に供給される潤滑油量によって、締結要素11における潤滑油のいわゆる引き摺り損失(抵抗)が変化して、動力伝達効率が変化する。したがって、自動変速機構2の動力伝達効率が供給される潤滑油の引き摺り損失(抵抗)によって低下して、目標効率η’になるような潤滑油量が算出される。
【0047】
ステップS13の制御に続けて、自動変速機構2の潤滑油量がステップS13で算出された潤滑油量(になるように油圧制御装置8が制御されて、自動変速機構2に供給される潤滑油量が調整される(ステップS14)。すなわち、目標減速度が得られるように、潤滑油量が調整される。
【0048】
ステップS14の制御に続けて、フューエルカット制御から復帰するか否かが判断される(ステップS15)。このステップS14は、図1に示すステップS11に相当する。すなわち、フューエルカット制御の復帰条件が満たされた場合には、肯定的に判断される。これとは反対に、フューエルカット制御からの復帰条件が満たされない場合は否定的に判断され、ステップS3に戻り、従前の制御が繰り返される。すなわち、フューエルカット制御からの復帰条件が満たされるまで、上記のステップS3ないしステップS10の制御が繰り返し実行される。
【0049】
ステップS15の制御に続けて、自動変速機構2の引き摺り損失(抵抗)を変化させる潤滑油量の調整が解除される(ステップS16)。
【0050】
したがって、図3に示す制御によれば、自動変速機構2の潤滑油量を調整することにより、締結要素11の引き摺り損失(抵抗)が制御されるので、車両Veの減速度を任意に設定することができ、また減速度を制御することができる。
【0051】
前述したステップS1で否定的に判断された場合は、アクセルペダルが踏み込まれて要求駆動力が生じているアクセルON状態であるから、減速度を制御する必要がないとしてこのルーチンを一旦終了する。また、前述したステップS2で否定的に判断された場合は、フューエルカット制御の実行条件を満たしておらず、エンジン1が自立して駆動されている状態であるとして、このルーチンを一旦終了する。
【0052】
なお、上述したように、潤滑油量の調整は、潤滑油による引き摺り損失(すなわち抵抗)を調整するものであるが、潤滑油による抵抗はその撹拌もしくは剪断によって生じるから、潤滑油による抵抗を調整するためには、潤滑油の粘度すなわち油温を調整することとしてもよい。したがって、この発明における潤滑油調整手段は、潤滑油量および油温の少なくともいずれか一方を調整する手段を含む。なお、油温の調整は、オイルクーラ、オイルヒータによっておこなってもよく、あるいは温度の異なる潤滑油を用意して、これを混ぜることによりおこなってもよい。
【0053】
ここで、上述した具体例とこの発明との関係を簡単に説明すると、図に示すステップS3を実行する機能的手段が、この発明における目標減速度算出手段に相当し、またステップS4を実行する機能的手段が、この発明における目標効率算出手段に相当し、さらにステップS9およびステップS13を実行する機能的手段が、この発明における潤滑油抵抗算出手段に相当し、ステップS10およびステップS14を実行する機能的手段が、この発明における潤滑油調整手段に相当する。
【符号の説明】
【0054】
1…エンジン、 2…自動変速機構、 7…オイルポンプ、 8…油圧制御装置、 9…電子制御装置、 10…係合要素、 11…締結要素、 12…潤滑回路、 13…流量調整用リニアソレノイドバルブ、 14…オリフィス。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載された駆動力源の発生する動力を変速して伝達し、かつ供給される潤滑油に応じて動力伝達効率が変化する動力伝達機構の制御装置において、
前記車両が目標とする目標減速度を算出する目標減速度算出手段と、
前記目標減速度算出手段によって算出された前記目標減速度に基づいて、その目標減速度を満たす前記動力伝達機構の動力伝達効率を算出する目標効率算出手段と、
前記目標効率算出手段によって算出された前記動力伝達機構の目標効率を満たす前記動力伝達機構に供給される潤滑油による抵抗を算出する潤滑油抵抗算出手段と、
前記潤滑油抵抗算出手段によって算出された前記潤滑油による抵抗に基づいて、前記動力伝達機構に供給する前記潤滑油を調整する潤滑油調整手段と
を備えていることを特徴とする動力伝達機構の制御装置。
【請求項2】
前記潤滑油調整手段は、前記動力伝達機構に供給する潤滑油量と油温との少なくともいずれか一方を調整する手段を含むことを特徴とする請求項1に記載の動力伝達機構の制御装置。
【請求項3】
前記動力伝達機構は、油圧によって係合要素同士が選択的に係合させられて変速比が制御される自動変速機構、あるいは締結することによって動力を伝達する締結機構のいずれか一方を含むことを特徴とする請求項1に記載の動力伝達機構の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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